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ACADVL遺伝子と関連疾患:VLCAD欠損症の原因と検査の重要性

ACADVL遺伝子は、脂肪酸代謝に重要な酵素である超長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)をコードしています。この遺伝子の変異はVLCAD欠損症を引き起こし、乳児期から成人期まで様々な重症度で現れる可能性があります。本記事では、ACADVL遺伝子の機能、関連疾患、遺伝子検査の重要性について詳しく解説します。

ACADVL遺伝子とは

ACADVL遺伝子(Acyl-CoA Dehydrogenase, Very Long-Chain)は、17番染色体短腕(17p13.1)に位置する遺伝子で、ミトコンドリアで脂肪酸代謝に関わる重要な酵素である超長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)をコードしています。この酵素は、長鎖脂肪酸のβ酸化の最初のステップを触媒する役割を担っており、体内のエネルギー産生において極めて重要な機能を果たしています。

VLCADは、特にパルミトイルCoAやオレオイルCoAなどの炭素数14〜20個の長鎖脂肪酸に対して高い活性を示します。これらの脂肪酸は、食事から摂取されるだけでなく、体内で合成・貯蔵されるエネルギー源としても重要です。絶食時や運動時など、糖質の供給が限られる状況では、脂肪酸がエネルギー源として優先的に利用されるため、VLCADの役割は特に重要となります。

ACADVL遺伝子は20のエクソンから構成され、655アミノ酸からなるタンパク質をコードしています。このタンパク質は40アミノ酸のリーダーペプチドを含み、成熟した機能的なVLCAD酵素は615アミノ酸の長さを持ちます。他のアシルCoA脱水素酵素が43〜45kDのサブユニットからなるホモ四量体であるのに対し、VLCADは70kDのサブユニットからなるホモ二量体という特徴的な構造を持っています。

特に、心臓や骨格筋などエネルギー需要の高い組織では、VLCADの活性が正常に保たれることが健康維持に不可欠です。これらの組織では脂肪酸がエネルギー源として積極的に利用されるため、ACADVL遺伝子の変異によりVLCADの機能が低下すると、エネルギー代謝に障害が生じ、心筋症や横紋筋融解症などの様々な健康問題を引き起こす可能性があります。

また、VLCADはミトコンドリア内膜に緩く結合しているという点でも、他のアシルCoA脱水素酵素とは異なります。他の酵素がミトコンドリアマトリックスに存在するのに対し、VLCADはミトコンドリア内膜との関連性を持つことで、長鎖脂肪酸のミトコンドリア内への輸送と代謝の連携に関わっている可能性があります。

ACADVL遺伝子の基本情報

ACADVL遺伝子は17番染色体の短腕(17p13.1)に位置しており、約5.4キロベースの大きさを持っています。この遺伝子は20のエクソンから構成され、655アミノ酸からなるタンパク質をコードしています。成熟したVLCAD酵素は615アミノ酸からなり、他のアシルCoA脱水素酵素とは異なる特徴を持っています。ACADVL遺伝子は、ヒトゲノムリファレンス(GRCh38)では17番染色体の7,217,125-7,225,266の位置に存在しています。

遺伝子構造の特徴

興味深いことに、ACADVL遺伝子はDLG4遺伝子(シナプス後密度タンパク質95をコードする遺伝子)と頭部同士が向かい合う方向(head-to-head)に配置されており、両遺伝子の転写領域は約220-245塩基対重複しています。このユニークな配置は遺伝子発現の調節において重要な意味を持つと考えられています。

研究によれば、ACADVL遺伝子とDLG4遺伝子は共通のプロモーター領域を共有しているものの、それぞれ異なる組織特異的な発現パターンを示します。ACADVL遺伝子の最小プロモーターは約270塩基対の領域に存在し、DLG4遺伝子の必須プロモーター活性を担う約400塩基対の領域内に完全に含まれています。

特に注目すべき点として、AP2転写因子結合部位の変異実験により、ACADVL遺伝子とDLG4遺伝子両方の転写活性が著しく減少することが示されています。この事実は、両遺伝子の発現調節における共通機構の存在を示唆しています。さらに、いくつかの化学物質(DEHP:フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)に対する応答性も、このプロモーター領域によって制御されていることが分かっています。

興味深いことに、マウスでは相同遺伝子(Dlg4とVlcad)が同様にhead-to-head配置を持っていますが、重複はなく約3.5キロベースの間隔があります。この種間の違いは、遺伝子調節機構の進化における興味深い側面を示しています。

ACADVL遺伝子の発現パターン

リアルタイムRT-PCR解析によると、ACADVL遺伝子は調査されたすべての組織で発現が確認されています。特に発現量が多いのは心臓と骨格筋であり、次いで胎盤と膵臓で高い発現が見られます。この発現パターンは、これらの組織におけるエネルギー代謝の特性と関連しています。心臓や骨格筋などの組織では、長時間のエネルギー供給のために脂肪酸を主要なエネルギー源として利用するため、VLCADの発現量が高くなっています。

ノーザンブロット解析では、様々なヒト組織で約2.4キロベースのmRNA転写産物が検出されています。この転写産物のサイズは、推定されるコード領域と非翻訳領域の長さと一致しています。

ACADVL遺伝子の機能

ACADVL遺伝子がコードするVLCADは、主にパルミトイルCoA(C16)やオレオイルCoA(C18:1)などの長鎖脂肪酸の脱水素反応を触媒します。この反応は脂肪酸のβ酸化の第一段階であり、エネルギー産生に不可欠なプロセスです。具体的には、脂肪酸アシルCoAのα位とβ位の間に二重結合を導入する反応を触媒し、この過程で電子がフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)に受け渡されます。

研究によれば、VLCADはパルミトイルCoAに対して長鎖アシルCoA脱水素酵素(LCAD)の約10倍高い特異的活性を持っています。これは、長鎖脂肪酸代謝においてVLCADが優先的に機能していることを示しています。特に肝臓、心臓、骨格筋、皮膚線維芽細胞などの組織では、ミトコンドリアでのパルミトイルCoA脱水素反応の主要部分をVLCADが担っています。

このような基質特異性の差は、VLCADが炭素鎖の長い脂肪酸(炭素数14〜20)に対して高い親和性を持つように進化したことを示しています。一方、LCAD、MCAD(中鎖アシルCoA脱水素酵素)、SCAD(短鎖アシルCoA脱水素酵素)は、それぞれ異なる長さの脂肪酸に対して最適化されています。この基質特異性の分業により、体内では幅広い種類の脂肪酸を効率的に代謝することが可能になっています。

VLCAD酵素の構造的特徴

VLCAD酵素は他のアシルCoA脱水素酵素と比較して、サイズ、構造、ミトコンドリア内分布が大きく異なります。他のアシルCoA脱水素酵素(SCAD、MCAD、LCAD)が43〜45kDのサブユニットからなるホモ四量体として機能するのに対し、ヒト肝臓から精製されたVLCAD酵素は70kDのサブユニットからなるホモ二量体(総分子量約154kD)として存在しています。

また、VLCAD酵素はミトコンドリア内膜に緩く結合しており、安定化のために界面活性剤(デタージェント)を必要とします。これに対し、他のアシルCoA脱水素酵素は界面活性剤なしで可溶性画分に容易に抽出されることから、ミトコンドリアマトリックスに存在していることが示唆されています。

このような局在の違いは、VLCADの基質である長鎖脂肪酸の特性と関連していると考えられます。長鎖脂肪酸は疎水性が高く、ミトコンドリア内への輸送に特殊な機構(カルニチンシャトル)を必要とします。VLCADがミトコンドリア内膜に位置することで、長鎖脂肪酸のミトコンドリア内への輸送と代謝の連携が効率化されている可能性があります。

アミノ酸配列の比較解析では、VLCADと他のヒトアシルCoA脱水素酵素との間に26〜33%の相同性が認められています。この程度の相同性は、これらの酵素が共通の祖先から分岐し、異なる基質特異性を獲得する方向に進化してきたことを示唆しています。

ACADVL遺伝子と関連疾患

VLCAD欠損症について

ACADVL遺伝子の変異により、VLCAD欠損症(OMIM #201475)が引き起こされます。この疾患は常染色体劣性遺伝形式で遺伝し、両親から変異した遺伝子をそれぞれ受け継いだ場合に発症します。VLCAD欠損症は脂肪酸酸化障害の一種で、体がエネルギー源として脂肪を適切に利用できなくなる代謝疾患です。

臨床的特徴と表現型

VLCAD欠損症は症状の現れ方や重症度によって、主に以下の3つの臨床型に分類されます:

  1. 乳児期早期発症型(重症型):生後数ヶ月以内に発症し、心筋症、肝機能障害、低血糖などが見られます。突然死のリスクが高く、適切な治療がなければ致命的となる可能性があります。
  2. 乳児期/小児期発症型(中等度):主に低血糖発作や肝障害などが見られますが、心筋症は稀です。
  3. 遅発型(軽症型):主に青年期以降に発症し、運動誘発性の横紋筋融解症(筋肉の破壊)や筋痙攣などが特徴です。

研究によれば、乳幼児期の心筋症はVLCAD欠損症の最も一般的な臨床表現型であることが報告されています。また、遺伝子型(具体的な遺伝子変異のパターン)によって症状の重症度が異なることも知られています。

ACADVL遺伝子検査

ACADVL遺伝子検査は、VLCAD欠損症の診断や保因者の同定に重要な役割を果たします。遺伝子検査では、ACADVL遺伝子の変異を直接検出することができます。

検査の重要性

ACADVL遺伝子検査は以下のような場合に考慮されます:

  • VLCAD欠損症を示唆する代謝異常が見られる場合
  • 家族にVLCAD欠損症の患者がいる場合
  • 原因不明の心筋症、低血糖、横紋筋融解症などがある場合
  • 新生児スクリーニングでVLCAD欠損症が疑われる場合

保因者検査の意義

VLCAD欠損症は常染色体劣性遺伝形式で遺伝するため、両親は通常、症状を示さない保因者です。保因者検査は、家族計画を立てる際や、家族内に患者がいる場合の遺伝リスク評価に役立ちます。

ミネルバクリニックでは、拡張型保因者スクリーニング検査を提供しており、ACADVL遺伝子を含む様々な疾患の保因者状態を調べることができます。結婚前や妊娠前の方々にとって、将来のお子さまの健康リスクを知るための貴重な情報となります。

VLCAD欠損症の治療と管理

VLCAD欠損症に対する治療は、症状の管理と予防が中心となります。主な治療アプローチには以下のようなものがあります:

食事療法

長時間の絶食を避け、規則正しい食事摂取が重要です。また、長鎖脂肪酸(LCT)の摂取制限と中鎖脂肪酸(MCT)の補充が行われることがあります。特に幼少期は低脂肪・高炭水化物の食事が推奨されることが多いです。

急性期の対応

感染症や長時間の運動などによる代謝ストレス時には、ブドウ糖の補給など適切な対応が必要です。特に小児では、軽度の発熱や嘔吐でも代謝クライシスを引き起こす可能性があるため注意が必要です。

薬物療法

研究によれば、ベザフィブラートなどの薬剤がVLCAD欠損症の一部の患者さんで効果を示す可能性が報告されています。特に筋症状が主体の患者さんでは、脂肪酸酸化能力の改善が見られる場合があります。ただし、遺伝子型によって薬剤の効果は異なる可能性があります。

治療方針は患者さん個々の症状や遺伝子型によって異なるため、専門医による適切な診断と管理が重要です。

遺伝カウンセリングの重要性

VLCAD欠損症のような遺伝性疾患では、遺伝カウンセリングが非常に重要な役割を果たします。遺伝カウンセリングでは、以下のような情報提供やサポートが行われます:

  • 疾患に関する正確な医学的情報の提供
  • 遺伝形式や再発リスクの説明
  • 遺伝子検査に関する情報提供と意思決定の支援
  • 心理社会的サポート
  • 適切な医療機関や支援団体の紹介

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が常駐しており、遺伝性疾患に関する相談に対応しています。ACADVL遺伝子に関連する疾患について不安や疑問がある方は、遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。

まとめ

ACADVL遺伝子は、脂肪酸代謝に重要な役割を果たすVLCAD酵素をコードしています。この遺伝子の変異によるVLCAD欠損症は、心筋症、低血糖、横紋筋融解症など様々な症状を引き起こす可能性があります。症状の重症度は遺伝子変異のタイプによって異なり、乳児期から成人期まで様々な年齢で発症する可能性があります。

VLCAD欠損症の早期診断と適切な治療は、症状の管理や合併症の予防に重要です。また、家族内に患者がいる場合や、結婚・妊娠を考えている方にとって、遺伝カウンセリングや保因者検査は将来の計画を立てる上で貴重な情報となります。

ACADVL遺伝子を含む遺伝性疾患について詳しく知りたい方、保因者検査をご検討の方は、ミネルバクリニックの拡張型保因者スクリーニング検査遺伝カウンセリングをぜひご利用ください。臨床遺伝専門医による適切なアドバイスと支援を受けることができます。

参考文献

  1. Aoyama T, et al. (1995). Molecular characterization of the human very long-chain acyl-CoA dehydrogenase gene.
  2. Mathur A, et al. (1999). Molecular heterogeneity in very-long-chain acyl-CoA dehydrogenase deficiency causing pediatric cardiomyopathy and sudden death.
  3. Gobin-Limballe S, et al. (2007). Genetic basis for correction of very-long-chain acyl-coenzyme A dehydrogenase deficiency by bezafibrate in patient fibroblasts.
  4. Pena LD, et al. (2016). Outcomes and genotype-phenotype correlations in 52 individuals with VLCAD deficiency diagnosed by NBS and enrolled in the IBEM-IS database.

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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