この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

遺伝性がん遺伝子検査は、血液や唾液から生まれ持った遺伝子を調べ、がんのなりやすさにつながる変化があるかを確かめる検査です。当院では、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)やリンチ症候群などに関係する154の遺伝子を一度に調べます。生まれ持った遺伝子は一生変わらないので、一度わかったことは、ご自身のがん検診の計画にも、ご家族が自分のことを考える手がかりにも、ずっと使えます。このページでは、「がん家系かもしれない」と気になっている方に向けて、この検査でわかること・わからないこと、費用、結果が出たあとにできることを、臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この遺伝子検査で、がんの何がわかりますか?
生まれ持った遺伝子のうち、遺伝性がん症候群に関係する154遺伝子に、がんのなりやすさを高める変化(病的バリアント)があるかがわかります。がんがあるかどうかを調べる検査ではありません。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
50歳より前にがんになった方、1人で2回以上別のがんになった方、血縁者に何人もがんの方がいる方など、「がん家系かもしれない」と感じている大人の方が目安です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です(至急オプション+55,000円で約7日短縮)。検体は血液・唾液・口腔粘膜ぬぐい液です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。変化が見つかれば、がん検診の始め方・予防の手段・治療薬の選び方・ご家族の検査まで、次にできることが具体的になります。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 遺伝性がん遺伝子検査とは:生まれ持った「がんのなりやすさ」を調べる検査
遺伝性がん遺伝子検査は、生まれたときから体のすべての細胞にある遺伝子(生殖細胞系列の遺伝子)を調べて、がんのなりやすさを大きく高める変化があるかを確かめる検査です。今がんがあるかどうかを調べる検査ではなく、「これから何に気をつければよいか」を知るための検査です。
遺伝子の変化によってがんになりやすい体質のことを、医学では「がんの易罹患性(いりかんせい)」といいます。こうした変化をもっていても、全員ががんになるわけではありません。変化があるのは「がんになりやすい素因」であり、がんそのものではないことが、この検査を考えるときのいちばん大切な前提です。
がん家系とは:遺伝性のがんはどれくらいあるか
「がん家系」に医学的に決まった定義はありませんが、ご家族に同じ種類のがんが多い・若くしてがんになった方がいる場合、生まれ持った遺伝子の変化が関わっていることがあります。33種類のがんの患者さん10,389人の遺伝子を調べた研究では、約8%の方に、がんのなりやすさに関わる生まれ持った変化(病的・病的な可能性の高いバリアント)が見つかりました[1]。
裏を返せば、がんの多くは、生まれ持った変化だけで起こるわけではありません。年齢や生活習慣など、ほかの要因も大きく関わります。ご家族にがんの方が多くても、それが遺伝によるものか、たまたま重なったものかは、見た目の家族歴だけでは決められません。だからこそ、検査で確かめる意味があります。
「がんの遺伝子検査」には2種類ある
「がん 遺伝子検査」と呼ばれる検査には、生まれ持った遺伝子を調べる検査(このページの検査)と、がん細胞にある遺伝子の変化を調べて治療薬を探す検査の2つがあり、目的も受ける場所も違います。
🔍 「がん 遺伝子検査」の種類と違い
※がん遺伝子パネル検査(組織などを使う検査)は、保険診療では、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院で行われています(国立がん研究センター がんゲノム情報管理センターの患者さん向けページ、2026年10月に確認)。
当院のがんと遺伝の相談の入口は、がん診療専門外来(腫瘍内科)・セカンドオピニオンのページにまとめています。このページでは、生まれ持った遺伝子を調べる検査の中身を、受けるかどうかを決めるために必要なところまで詳しくお伝えします。
2. 遺伝性がん症候群とは:この検査で調べる主な病気
遺伝性がん症候群(家族性腫瘍)とは、特定の遺伝子の変化を生まれ持っていることで、特定の種類のがんになりやすくなる病気の総称です。多くは親から子へ2分の1の確率で受け継がれる常染色体顕性(優性)遺伝で、家族の中で決まったパターンでがんが出やすくなります。
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC):BRCA1・BRCA2
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)は、BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子の変化で起こる、乳がん・卵巣がんになりやすい体質です。BRCA1またはBRCA2の病的バリアントをもつ女性9,856人を追った研究では、80歳までに乳がんになる確率はBRCA1で72%、BRCA2で69%、卵巣がんはBRCA1で44%、BRCA2で17%と推定されました[2]。
この研究の参加者の多くは、欧米の家族性腫瘍の外来から登録された方です。数字はその集団での推定であり、目の前の一人ひとりの確率をそのまま表すものではありません。それでも、一般の方よりはっきり高いことは確かで、見張りや予防の計画を立てる大切な手がかりになります。
リンチ症候群:大腸がん・子宮体がん
リンチ症候群は、DNAの複製の間違いを直すしくみ(ミスマッチ修復)に関わる遺伝子、MLH1・MSH2・MSH6・PMS2やEPCAMの変化で起こり、大腸がんや子宮体がんなどになりやすくなる体質です。この検査では5つすべてを調べます。
そのほかの遺伝性がん症候群
154遺伝子の中には、大人のがんだけでなく、子どものうちに起こりやすい腫瘍や、血液・骨髄の病気に関わる遺伝子も含まれています。主なものを表にまとめます(すべての遺伝子は第4章の表をご覧ください)。
🧬 この検査に含まれる主な遺伝性がん症候群
※病気と遺伝子の関係は、検査のおおもとの遺伝子説明による。がんの種類は代表的なものだけを挙げています。
3. どんな人がこの検査を受けるとよいか:がん家系の不安
ご自身やご家族のがんの経歴から、遺伝性がん症候群が考えられる大人の方に向く検査です。見た目の家族歴だけでは判断できないことも多いので、迷ったら、まず遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。
受ける目安:がん家系かどうかのサイン
当院では、次のような方を、この検査を考える目安にしています。
- ●50歳より前にがんになった方、またはそうした血縁者がいる方
- ●1人で2回以上、別のがん(原発がん)になった方、またはそうした血縁者がいる方
- ●血縁者に何人もがんの方がいる方(同じ種類のがんが多いとき、とくに)
- ●ご家族がすでに遺伝子検査を受けたが、どの遺伝子に変化があるかわかっていない方
ご家族がすでに遺伝子検査を受けていて原因がわかっている場合は、その報告書がいちばんの手がかりになります。同じ変化だけを調べる既知の変異検査で、ご自身が同じ変化を持っているかを確かめられます。わかっていなければ、症状のないあなたご自身を、この154遺伝子の検査で調べます。危険因子が多い場合には、一部のお子さんでもこの検査が役立つことがあるため、お子さんの検査も遺伝カウンセリングでご相談ください。
「自分もなるかもしれない」という不安を抱えている方へ
親やきょうだいが若くしてがんになったことで、「次は自分かもしれない」という不安を抱えながら暮らしている方もいます。当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しており、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。
ご家族の原因となった変化を受け継いでいないとわかれば、そのがんについて、ご家族と同じ高さのリスクを前提に考える必要はなくなります。受け継いでいるとわかった場合は、どのがんを、いつから、どんな検査で見張るかを具体的に決めて、計画を立てられます(第6章)。結果を知ったあとの気持ちの変化は、陽性でも陰性でも起こりえます。当院では、結果をお伝えしたあとも遺伝カウンセリングで相談を続けていただけます。
結婚・妊娠を考えている方:がん家系と結婚
ご自身やパートナーの家族にがんの方が多いことを、結婚を考えるときに気にする方もいます。がんのなりやすさは、ご家族の誰かががんになったことだけでは決まりません。生まれ持った変化があるかどうかは検査でわかり、変化があってもなくても、知ったうえで見張りや予防の計画を立てられます。お子さんへの受け継がれ方も、遺伝子と遺伝のしかたで具体的にお伝えできます。結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。知ってから選べるように、検査・遺伝カウンセリング・出生前診断の相談まで、当院で続けてお手伝いします。
BRCA1・BRCA2だけの検査との違い
遺伝性のがんの原因は、BRCA1・BRCA2だけではありません。米国のがん患者2,984人に、多くの遺伝子をまとめて調べる検査を行った研究では、13.3%の方に病的バリアントが見つかりました。そのうち6.4%(全体に対する割合)は、がんの種類や家族歴にもとづく従来の基準だけで検査を選んでいたら見逃されていた可能性がある、と報告されています[3]。この検査は、BRCA1・BRCA2を含む154の遺伝子を一度に調べるので、1つずつ検査を重ねる必要がありません。
一方で、調べる遺伝子が多いほど、意義がまだわからない変化(VUS)が見つかることもあります。また、154遺伝子の中には、がんとの関係がはっきりしている遺伝子だけでなく、関係を研究中の「候補遺伝子」も含まれています(第4章の表で「研究中」としたもの)。こうした結果の受け止め方も、遺伝カウンセリングでご説明します。
この検査より別の検査が向いている場合
知りたいことによって、向いている検査は変わります。比べる相手は検査の種類です。
🔍 どの検査を選ぶか
※どの検査が合うかは、ご本人とご家族の状況で変わります。
4. 調べる154遺伝子と、それぞれの遺伝子でわかる病気
この検査では、遺伝性がん症候群に関係する154の遺伝子を調べます。がんのリスクを高めることが確かめられている遺伝子に加え、最近がんとの関係がわかってきた候補遺伝子も含まれています。分野ごとに分けた表を、タップすると開けるようにしています。遺伝子名から、それぞれの遺伝子の解説ページへ進めます。
💡 表の見方:遺伝のしかた
「常染色体顕性」は、2本ある遺伝子のうち1本に変化があればなりやすくなる遺伝のしかたで、お子さんへは2分の1の確率で受け継がれます。「常染色体潜性」は2本とも変化があると起こる病気で、1本だけ変化がある方は保因者です。「X連鎖」はX染色体にある遺伝子です。「研究中」は、がんとの関係をまだ研究している遺伝子です。
🧬 乳がん・卵巣がん・前立腺がん・膵がんに関係する遺伝子(28遺伝子)
🧬 乳がん・卵巣がん・前立腺がん・膵がんに関係する遺伝子
🧬 大腸がん・消化管のがんに関係する遺伝子(25遺伝子)
🧬 内分泌・腎臓・皮膚のがんに関係する遺伝子(40遺伝子)
🧬 脳・神経・骨・血管と、子どものがんに関係する遺伝子(28遺伝子)
🧬 脳・神経・骨・血管と、子どものがんに関係する遺伝子
🧬 血液・骨髄のがんと、骨髄不全・DNA修復の病気に関係する遺伝子(33遺伝子)
🧬 血液・骨髄のがんと、骨髄不全・DNA修復の病気に関係する遺伝子
※病名と遺伝のしかたは、検査のおおもとの遺伝子説明にもとづいて当院でまとめたものです(2026年10月確認)。
お調べになりたい遺伝子がこの154遺伝子に入っていないときは、カスタマイズ遺伝子パネル検査で追加して調べられることがあります。遺伝カウンセリングのときにご相談ください。
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、154遺伝子の塩基配列の変化(一塩基の変化・小さな挿入や欠失)と、エクソン単位の欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この検査で検出できない変化や、まだ見つかっていない原因が残る可能性があります。
- ●調べていない場所:遺伝子の働きを調節する領域や、エクソンから離れたイントロンの深い場所(エクソンから20塩基より遠い場所)の変化は検出されません。
- ●モザイク:体の一部の細胞だけに変化がある状態(モザイク)は、20%以下の割合では検出できるか確かめられていません。
- ●がんの組織では調べません:この検査は生まれ持った遺伝子を調べる検査です。がんの組織を使う検査ではありません。
- ●骨髄移植を受けた方・血液のがんの方:血液・唾液・口腔粘膜では正しく調べられないため、皮膚の細胞を育てたもの(培養線維芽細胞)から取り出したDNAで調べる必要があります。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうかまだ判断できない変化が見つかることがあります。VUSは、それだけで診断や見張りの方針、ご家族の検査に使いません。
💡 遺伝子ごとの注意点
MSH2遺伝子のエクソン1〜7の逆位(Boland逆位)も評価します。GALNT12遺伝子のエクソン1のコピー数の変化は、確実には検出できないため報告されません。PIK3CA遺伝子の変化は多くが体の一部の細胞だけに起こるため、見つからなくても、PIK3CA関連の過成長の病気は否定できません。
6. 病的変異が見つかったら、次にできること
病的バリアント(病的変異)が見つかると、遺伝子と病的バリアントの種類によっては、どのがんを、いつから、どんな方法で見張るか、予防の手段や治療薬の選び方、ご家族の検査など、次にできることが具体的になります。わかるだけで終わらせないことが、この検査のいちばんの価値です。
結果の受け取り方
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
ご本人:がんの見張り・予防・治療薬の選び方
米国のがん患者を対象にした先ほどの研究では、がんのなりやすさを大きく高める変化が見つかった方の28.2%で、その結果をもとに治療の内容が変わりました[3]。具体的にできることの例を挙げます。
- ●見張り(サーベイランス):遺伝子ごとに、気をつけたいがんの種類と、検査を始める年齢・間隔の考え方があります。一般のがん検診より早く・こまめに受けることで、がんを早い段階で見つける計画を立てます。
- ●予防の手段:BRCA1またはBRCA2の病的バリアントをもつ女性2,482人の研究では、卵巣・卵管を予防のために切除した方は、しなかった方より死亡の割合が低いことが報告されており、乳房を予防のために切除した247人では、観察期間中に乳がんは見つかりませんでした[4]。受けるかどうかは、年齢や出産の希望もふまえて、専門の医療機関でよく話し合って決めます。
- ●治療薬の選び方:BRCA1・BRCA2の生まれ持った変化があり、再発のリスクが高いHER2陰性の早期乳がんの方1,836人の試験では、手術や抗がん剤治療のあとにPARP阻害薬(オラパリブ)を1年間飲んだ群で、3年後に再発などがなかった方は85.9%と、偽薬の群の77.1%より多くなりました[5]。PARP阻害薬のように、生まれ持った変化が治療薬の選び方に関わることがあります。
治療や手術は、がんの専門の医療機関で行います。当院の院長はがん薬物療法専門医でもあり、がん診療専門外来・セカンドオピニオンで、結果をもとにした治療の考え方もご相談いただけます。また、指定された遺伝子の結果とは別に、調べた目的と違う病気に関わる変化(二次的所見)の扱いは、当院の二次的所見の開示方針に沿ってご説明します。
ご家族:同じ変化を持っているかを調べられる
あなたに病的バリアントが見つかった場合、ご両親・きょうだい・お子さんも同じ変化を持っている可能性があります。常染色体顕性遺伝の遺伝子なら、あなたのお子さんへは1人あたり2分の1の確率で受け継がれます。ご家族は、あなたの報告書をもとに、同じ1か所だけを調べる既知の変異検査で、受け継いでいるかを確かめられます。
ただ、実際にはご家族の検査はあまり進んでいません。先ほどの米国の研究では、ご家族の検査が無料で受けられる条件でも、病的バリアントが見つかった方のうち、ご家族が検査を受けたのは17.6%にとどまりました[3]。あなたの1回の検査結果は、ご家族ががんの見張りを始めるきっかけになります。ご家族に伝えるときの言葉選びも、遺伝カウンセリングでご相談ください。症状のないご家族の検査は、本人が知りたいと決めたうえで行います。
子どもを持つときの選択肢
ご家族でわかっている遺伝子の変化があれば、妊娠したときに赤ちゃんが同じ変化を持っているかを調べることも考えられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。ただし、大人になってから発症するがんの体質について出生前診断を行うかどうかは、病気の重さや国内の指針をふまえて個別に考える必要があり、どの遺伝子でも必ずできるわけではありません。妊娠を考えている段階からご相談ください。
また、154遺伝子のうちTSC1・TSC2・HRASは当院のNIPTのダイヤモンドプランとインペリアルプランの両方で、NF1・NF2・PIK3CA・PRKAR1A・SMAD4・SMARCA4・SMARCB1・SMARCE1・LZTR1・TGFBR1はインペリアルプランで、赤ちゃんに新しく起きた変化を調べる対象に入っています。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。何もせずにそのまま妊娠・出産を迎えることも、もちろん選べる選択肢です。
海外でPGT-M(着床前遺伝学的検査)を考えている方へ:英語の検査結果をお渡しできます
PGT-Mは、体外受精でできた受精卵(胚)の一部の細胞を調べ、ご家族でわかっている遺伝子の変化を受け継いでいない胚を選んで子宮に戻す検査です。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。当院でできるのは、原因の遺伝子の確定、英語の検査結果の用意、遺伝カウンセリング、ご家族の遺伝子検査、妊娠後の絨毛検査・羊水検査です。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。
欧州ヒト生殖胚学会(ESHRE)の指針は、PGT-Mの準備として、病気の原因と確かめられた変化があること、変化の内容が書かれた元の報告書を取り寄せることを勧めています[6]。受精卵から取れるDNAはごくわずかで、変化を直接読むだけでは判定を誤るおそれがあるため、変化のある場所の両側にある目印で「変化をもつ染色体」を家系の中でたどる方法(ハプロタイプ解析)を組み合わせます。そのため、ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。常染色体顕性遺伝の場合、指針の目安は、ご夫婦に加えて、同じ変化をもつ患者さん少なくとも1人(できれば2人)、および/または発症していない方1人のDNAです[6]。血縁者の協力が難しい場合の方法も指針に挙げられていますが、できるかどうかは施設や家系の状況で大きく変わり、受けられないこともあります。
臨床遺伝専門医としての判断では、意義がまだわからない変化(VUS)は病気の原因と確かめられていないため、そのままPGT-Mの対象にするのは難しいと考えます。海外の施設によって求められる書類や検体は違うので、受ける予定の施設にも前もって確認してください。海外でPGT-Mを考えている方は、ご本人の検査の段階から、検査に協力していただけるご家族(とくに同じ変化をもつ方)がいるかを考えておくことが大切です。当院では、ご家族の遺伝子検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。くわしくは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
⚠️ PGT-Mは診断ではなく、スクリーニング検査です
受精卵のごく一部の細胞を調べる検査なので、結果が赤ちゃんの状態と食い違うことがあります。ESHREの指針は、多くの施設で誤った結果になる割合は全体で1〜3%まで下げられているとしたうえで、PGTのあとに妊娠したすべての方に出生前診断を提案すべきとしています[7]。当院では、PGT-Mで選んだ胚で妊娠した場合も、妊娠中に赤ちゃんそのものを調べる確定検査(絨毛検査・羊水検査)で確かめることが望ましいと考えており、院内で行っています。
PGT-Mの対象になる病気は、国によって違います。日本では、日本産科婦人科学会の「重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)に関する指針」(2026年9月改定)にもとづき、症例ごとに学会の審査を受け、実施施設の倫理委員会の承認を経て行われます。学会の発表では、2025年7月〜2026年6月の1年間に審査した73件のうち37件が審査継続中でした(2026年9月発表)。英国では公的機関(HFEA)がPGT-Mを行ってよい病気の一覧を公表しており、2026年9月17日更新の一覧には2,067の病気が載っています。BRCA1・BRCA2などの遺伝性乳がん卵巣がん、リンチ症候群、家族性大腸腺腫症、リ・フラウメニ症候群もこの一覧に載っています(2026年9月時点)。米国では、PGTを直接規制する連邦や州の法律はなく、主に医師・施設の判断で行われています[8]。米国生殖医学会の倫理委員会は2024年、大人になってから発症する病気のうち、ほぼ確実に発症する病気や、病気のなりやすさにつながる病気に対するPGT-Mは倫理的に正当化されうるという意見を出しています[9]。どの病気がPGT-Mの対象になるかは、国や制度、施設によって違います。同じ病気でも、ある国では対象になり、別の国では個別の審査が必要になることがあります。受ける国の制度と、施設の条件を前もって確かめてください。
陰性・VUSだったとき
病的バリアントが見つからなかった場合も、がんにならないということではありません(第5章)。年齢に合ったがん検診は続けてください。ご家族の誰かに原因がわかっている場合に、ご自身がその変化を受け継いでいないとわかったときは、意味が変わります。結果の受け止め方を、遺伝カウンセリングでご説明します。VUSが見つかった場合、それだけで見張りの方針やご家族の検査を決めることはしません。研究が進んで、あとから意味がはっきりすることもあります。
7. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。唾液や口腔粘膜ぬぐい液の場合は、遠方の方でもクリニックにお越しにならずに、オンライン診療で検査を受けられます。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取血液・唾液・口腔粘膜
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。検体はご自身で勝手に採取せず、当院の案内に沿って採取してください(検体の取り違えや品質の低下を防ぐためです)。
8. 院長コラム
🩺 院長コラム【「がん家系だから」で終わらせない】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。「うちはがん家系だから」と、不安なまま何となく過ごすことも、「家族は家族、自分は大丈夫」と考えないようにすることも、どちらも気持ちとしてはよくわかります。けれども、がんのなりやすさは、生まれ持った遺伝子を調べればわかることがあり、わかれば、見張りや予防、治療薬の選び方まで、打てる手が具体的になります。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 遺伝子検査でがんのリスクはわかりますか?
生まれ持った遺伝子に、がんのなりやすさを大きく高める変化(病的バリアント)があるかどうかはわかります。見つかれば、どのがんに気をつけ、いつからどんな検査で見張ればよいかを決める手がかりになります。ただし、がんの多くは生まれ持った変化だけで起こるわけではないため、変化が見つからなくても、がんにならないとは言えません。
Q2. がん家系とは、どこまでのことを言いますか?
医学的に決まった定義はありません。当院では、50歳より前にがんになった方がいる、1人が2回以上別のがんになった、血縁者に何人もがんの方がいる、といったことを、遺伝性のがんを考える目安にしています。どこまでの血縁を見るかやがんの種類によって考え方が変わるので、ご家族の情報をもとに遺伝カウンセリングで伺い、必要なら検査で確かめます。
Q3. 費用はいくらですか?保険はききますか?
遺伝性がん遺伝子検査(154遺伝子)は税込330,000円です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
Q4. 結果が出るまでの期間はどれくらいですか?
2〜3週間です。至急オプション(追加料金55,000円・税込)を使うと、結果までの期間が約7日短くなります。結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明してから、マイページにアップします。
Q5. BRCA1・BRCA2だけの検査とは何が違いますか?
この検査はBRCA1・BRCA2を含む154の遺伝子を一度に調べます。米国のがん患者2,984人に多くの遺伝子をまとめて調べた研究では、13.3%に病的バリアントが見つかり、6.4%は、家族歴などにもとづく従来の基準だけでは見逃されていた可能性があると報告されています。一方で、調べる遺伝子が多いほど、意義がまだわからない変化(VUS)が見つかることもあります。
Q6. 陰性なら、がんにならないということですか?
いいえ。この検査で調べていない場所の変化や、まだ見つかっていない原因があるかもしれません。また、がんの多くは生まれ持った変化がなくても起こります。陰性の場合も、年齢に合ったがん検診は続けてください。
Q7. がん家系だと結婚に差し支えますか?
がんのなりやすさは、ご家族の誰かががんになったことだけでは決まりません。生まれ持った変化があるかどうかは検査でわかり、変化があってもなくても、知ったうえで見張りや予防の計画を立てられます。お子さんへの受け継がれ方も、遺伝子と遺伝のしかたで具体的にお伝えできます。結婚を考えるうえで不安があれば、パートナーの方と一緒に遺伝カウンセリングを受けることもできます。
Q8. がんの治療薬を選ぶための遺伝子検査(がんゲノム検査)とは違いますか?
違います。この検査は、血液や唾液から生まれ持った遺伝子を調べる検査です。がんの組織などを使い、がん細胞にある遺伝子の変化を調べて治療薬を探す検査(がん遺伝子パネル検査)は、国が指定した医療機関で行われており、当院では行っていません。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからのがん対策を
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。がんのなりやすさにつながる変化がわかれば、ご自身のがん検診の計画だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、ご家族の検査、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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