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RAD51D遺伝子とは?相同組換え修復と遺伝性乳がん・卵巣がんリスクを臨床遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

RAD51D(RAD51パラログD)は、DNAの最も危険な傷である「二本鎖切断」を、設計図どおりに正確に直す相同組換え修復(HR)の中核を担う遺伝子です。生まれつきこの遺伝子に病的バリアント(働きを損なう変化)を受け継ぐと、卵巣がん(卵管・腹膜がんを含む)や乳がん(トリプルネガティブ乳がんを含む)のリスクが中等度から高度に上昇します。一方でその「修復できない弱点」は、PARP阻害薬という治療の格好の標的にもなります。本記事では、RAD51Dの分子の働きから、年齢で変わるがんリスク、NCCNガイドラインに基づく予防、最新の薬物療法まで、臨床遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 DNA修復・遺伝性乳がん卵巣がん・PARP阻害薬
臨床遺伝専門医監修

Q. RAD51D遺伝子に病的バリアントがあると、どんなリスクがありますか?まず結論だけ知りたいです

A. RAD51DはDNA修復(相同組換え修復)に欠かせない遺伝子で、生まれつき病的バリアントを持つと、生涯で卵巣がんが約10〜20%、乳がんが約20%まで上がります。特に50代で卵巣がんリスクが一気に上昇するため、NCCNは45〜50歳でのリスク低減手術を検討するよう推奨しています。同時に、この弱点はPARP阻害薬という治療の標的にもなります。

  • 遺伝子の正体 → 17q12にあるRAD51パラログ。BCDX2複合体としてRAD51を傷に装着する「分子シャペロン」
  • 卵巣がんリスク → 生涯で約10〜20%。50代で相対リスクが約12倍まで急上昇
  • 乳がんリスク → 生涯で約20%。トリプルネガティブ乳がん(TNBC)と関連
  • 予防の指針 → NCCNはRRSO(卵管卵巣摘出)を45〜50歳で検討、40歳前後から乳房サーベイランス
  • 治療への接続 → 合成致死を突くPARP阻害薬の標的(HRD)になり得る

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1. RAD51D遺伝子とは:ゲノムを守る「修復チームの一員」

私たちの細胞では、毎日大量のDNA損傷が起きています。なかでも最も危険なのが、DNAの二本のひもがそろって切れる「二本鎖切断」です。これを正確に直せないと、染色体の欠失や組み換えが起こり、細胞の死やがん化につながります。この致命的な傷を、無傷のコピーをお手本にして「設計図どおりに」直す高精度なしくみが相同組換え修復(HR)です。RAD51Dは、このHRを正しく進めるために働く「修復チームの一員」です。

RAD51Dは染色体17q12に位置し、RAD51L3という旧称でも呼ばれてきました[14]。HRの主役であるRAD51を補佐する「RAD51パラログ(相同遺伝子群)」の一つで、RAD51B・RAD51C・XRCC2とともに四量体複合体BCDX2をつくります。RAD51Dが正しく働かないと、傷の現場にRAD51をうまく集められず、HR全体が止まってしまうのです[1]

💡 用語解説:病的バリアント(びょうてきバリアント)とは

遺伝子の文字(DNA配列)の変化のうち、タンパク質の働きを損なって病気の原因になり得るものを「病的バリアント」と呼びます。以前は「変異」と呼ばれていた言葉に近いものです。文字が変わってもタンパク質の働きに影響しないものは「良性」、病気を起こすかどうかまだ判断できないものは「VUS(意義不明のバリアント)」と分類されます。判定には国際的な基準(病的バリアントの判定基準)が使われます。

項目 内容
正式名称 RAD51 paralog D(RAD51パラログD)
遺伝子記号・別名 RAD51D(旧称 RAD51L3/別名 R51H3・TRAD)
染色体座位 17q12
データベースID HGNC:9823/NCBI Gene 5892/OMIM 602954
遺伝形式 常染色体顕性遺伝(優性遺伝)
主な関連腫瘍 卵巣がん(卵管・腹膜がんを含む)、乳がん(TNBCを含む)

💡 用語解説:常染色体顕性遺伝(じょうせんしょくたいけんせいいでん)

かつて「常染色体優性遺伝」と呼ばれていた遺伝の仕方で、用語の改訂により「顕性」と表記するようになりました。2つあるコピーのうち片方に病的バリアントがあるだけで体質が現れ得るタイプです。RAD51Dのがん体質はこのタイプで、親が病的バリアントを持つ場合、お子さんへ受け継がれる確率は理論上50%(2分の1)です。ただし「体質を受け継ぐ」ことと「必ずがんになる」ことは別であり、後で述べるように発症は確率の問題です。

2. BCDX2複合体と相同組換え修復:RAD51Dが担う「分子の段取り役」

相同組換え修復は、複数のタンパク質がバトンをつなぐように進みます。まず傷ついた末端が削り込まれて一本鎖DNAの「しっぽ」ができ、すぐにRPAというタンパク質で保護されます。次にBRCA2が登場してRPAを外し、修復の主役であるRAD51を装着します。RAD51がつながった繊維(フィラメント)が無傷のお手本を探し当て、そこに入り込んで傷が直されていきます。下の図は、この流れを5つのステップで示したものです。

相同組換え修復の流れとBCDX2の位置

①二本鎖切断DNAが切れる
②RPAが保護一本鎖を覆う
③BRCA2動員RAD51を準備
④BCDX2が橋渡しRAD51Dが活躍
⑤RAD51繊維形成正確に修復

BCDX2複合体(RAD51B・RAD51C・RAD51D・XRCC2)は、RPAで覆われた一本鎖DNA上でRAD51の装着を助ける「段取り役(分子シャペロン)」として働き、安定した修復の足場づくりを後押しします。

💡 用語解説:BCDX2複合体(ビーシーディーエックスツー)

RAD51B・RAD51C・RAD51D・XRCC2という4つのタンパク質が組み合わさってできるチームのことです。2023年に発表された高分解能の構造解析により、この複合体がRPAで覆われた一本鎖DNAの上でRAD51と入れ替わる「橋渡し役」として働き、RAD51の繊維形成を強力に後押しすることが直接示されました[1][2]。RAD51Dはこのチームに欠かせない一員で、欠けると修復の段取りそのものが崩れてしまいます。

RAD51Dが失われた細胞では、この高精度な修復が破綻します。実験的にRAD51Dを欠損させた細胞では、修復経路が正確なHRから、エラーを起こしやすい「非相同末端結合(NHEJ)」へとシフトし、その結果として大規模なゲノムの欠失が高頻度で生じることが確認されています[3]。つまりRAD51Dは、傷の修復を「正確なHR」へと導き、ゲノムの大きな崩壊を防ぐ門番のような役割を担っているのです。

3. 卵巣がん(卵管・腹膜がんを含む)リスク:50代で急上昇する

RAD51Dの病的バリアントは、卵巣がん・卵管がん・腹膜がん(これらをまとめて卵管卵巣がんと呼びます)の確かなリスク因子です。一般の方の生涯卵巣がんリスクが約1.1%であるのに対し、RAD51D病的バリアント保持者の80歳までの累積リスクは平均で約10〜20%、大規模研究の推定では約13%(95%信頼区間7〜23%)と算出されています[5][7]

このリスクは家族歴で大きく変わります。第一度・第二度近親者に卵管卵巣がんの家族歴がない場合は平均値に近い約13%にとどまりますが、近親者2名が発症しているような強い家族歴を持つ家系では、累積リスクは最大36%(95%信頼区間23〜53%)まで上昇します[5]。家族歴の聞き取りが、リスクを正しく見積もるうえで非常に重要になります。

注目すべきは発症年齢です。RAD51Dによる卵巣がんの診断年齢の中央値は57歳と報告されており、BRCA1(53歳)より遅く、ある研究では保持者の約77.5%が50歳以降に診断されています[6]。年代別の相対リスク(一般集団との比)を見ると、30〜40代では一般集団の約3倍にとどまるのに対し、50代に入ると一気に12倍以上へと跳ね上がります[5]

RAD51D保持者の卵巣がん:年代別の相対リスク(対 一般集団)

数値が大きいほど、一般集団よりリスクが高いことを示します(一般集団=1.0)

3.60
3.19
12.54
10.60
4.94
30代
40代
50代
60代
70代

50代(相対リスク12.54)・60代(10.60)でリスクが劇的に上がります。この「50代での急増」が、後で述べる45〜50歳での予防的手術を支える最も強い根拠になっています[5]

💡 用語解説:浸透率(しんとうりつ)と生涯リスク

「浸透率」とは、ある病的バリアントを持つ人のうち、実際にその病気を発症する人の割合のことです。「生涯リスク」は、一生のうちにその病気になる確率を指します。RAD51Dは中等度浸透率の遺伝子で、「バリアントを持つ=必ず発症する」ではなく、あくまで確率が高まるという意味です。この確率は年齢や家族歴によって変動するため、一人ひとりに合わせたリスク評価が大切になります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「数字の意味」を一緒に読み解く時間を大切に】

私は臨床遺伝専門医として、遺伝性のがんに関するカウンセリングを長く担当してきました。「生涯リスク13%」という数字を聞くと、多くの方が「もうがんになるのですね」と受け止めてしまいます。けれど13%とは、裏を返せば「87%の方は卵巣がんにならない」という数字でもあります。さらに、家族歴があるかどうか、いま何歳かによって、その意味は大きく変わります。

RAD51Dは50代でリスクが急に立ち上がるという特徴があるからこそ、30代・40代のうちに焦って結論を急ぐ必要はありません。ご自身のライフプランと数字を、落ち着いて並べて考える時間こそが大切だと、私は考えています。

4. 乳がん・トリプルネガティブ乳がん(TNBC)リスク

RAD51Dは当初、主に卵巣がんの感受性遺伝子として知られていましたが、その後の大規模な研究や多遺伝子パネル検査の普及により、乳がんに対する中等度のリスク上昇も明確になりました。一般の方の乳がん生涯リスクが約12.5%であるのに対し、RAD51D保持者の80歳までの累積リスクは約20%(95%信頼区間14〜28%)、相対リスクは1.83(95%信頼区間1.24〜2.72)と算出されています[5]。この乳がんリスクも家族歴に強く影響され、近親者2名が発症している家系では最大44%に達する可能性があります[5]

サブタイプで特筆すべきは、エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体・HER2のすべてが陰性であるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)との関連です。BRCA1・BRCA2・PALB2・BARD1などの高浸透率遺伝子に次いで、RAD51DやRAD51C・BRIP1の病的バリアントがTNBCの中等度リスクを高めることが示されています[10]。この傾向は特定の集団に限らず複数の人種で観察されており、TNBCの発生にHR不全が広く関わっていることを示しています。

💡 用語解説:ミスセンス変異とスプライス異常

ミスセンス変異は、1文字の変化でアミノ酸が別の種類に置き換わる変化です。RAD51Dでは、一見「アミノ酸が1つ変わるだけ」に見える変化が、実は遺伝子の読み取り(スプライシング)を壊して機能を失わせることがあります。たとえばc.82G>A(p.Val28Met)というバリアントは、正常なスプライシングを完全に破壊し、エクソン1を丸ごと失わせて機能喪失型バリアントとして働くことが報告されています[4]。変化の見た目だけでは病的かどうか判断できない、という良い例です。

なお、すでに一度乳がんを経験した方が、予防的な両側乳房切除を行っていない場合でも、10年以内に2回目の乳がんを発症するリスクは2%未満と推定されており、これはバリアントを持たない一般の乳がん患者さんと同程度の水準とされています[7]。二次的な手術の要否を考えるうえで、重要なカウンセリング材料になります。

5. 検査・サーベイランスと予防:NCCNガイドラインに基づいて

RAD51Dの病的バリアントを調べるには、血液を用いた遺伝学的検査を行います。実際の臨床では、RAD51D単独ではなく、BRCA1・BRCA2・RAD51CATM・PALB2・BRIP1など、複数の関連遺伝子を一度に調べる多遺伝子パネル検査で評価するのが一般的です。当院ではこれらを含む遺伝性腫瘍の遺伝学的検査と、検査前後の遺伝カウンセリングを臨床遺伝専門医が担当しています。なおRAD51Dは成人のがん体質に関わる遺伝子であり、検査は主に成人の方の血液を対象に行われます。

NCCNガイドラインに基づくサーベイランスと予防

病的バリアントが確認された場合、米国の代表的な指針であるNCCNガイドライン(Version 2.2026)に沿った管理が国際的な標準となっています[9]。卵管卵巣がんに対しては、RRSO(リスク低減卵管卵巣摘出術)を45〜50歳の間に検討することが推奨されています[8]。これは前章で述べた「50代でのリスク急増」を、その手前で先回りして抑えるという考え方に基づいています。

乳房については、40歳前後からの年1回のマンモグラフィに加え、必要に応じて乳房MRIを検討するとされています。一方で、リスク低減乳房切除(予防的乳房切除)は、RAD51Dでは一律には推奨されていません。BRCA1/2のような高浸透率遺伝子とは異なり、中等度リスクであるRAD51Dでは、家族歴や本人の希望を踏まえた個別の話し合い(共有意思決定)が重視されます。サーベイランスの間隔や開始年齢は、家族歴や年齢によって調整されます。

💡 用語解説:RRSO(リスク低減卵管卵巣摘出術)

発症する前に、予防の目的で卵管と卵巣を手術で取り除く方法です。卵巣がんは早期発見が難しく、有効な検診法が確立していないため、RAD51Dのように卵巣がんリスクの高い遺伝子では、予防として最も確実性が高い選択肢とされています。ただし手術により早期に閉経状態となり、ホルモン環境や骨・心血管の健康に影響するため、年齢・妊娠出産の希望・更年期症状への対応などを含めて、受けるかどうか・いつ受けるかをご本人とじっくり話し合って決める必要があります。

病的バリアントが見つかった場合、それはご本人の管理だけでなく、血縁者の発症前検査(カスケード検査)の入り口にもなります。RAD51Dは常染色体顕性遺伝のため、第一度近親者(親・きょうだい・子)が同じバリアントを受け継いでいる確率は理論上50%です。誰に・いつ・どのように伝えるかという繊細な過程を支えるのも遺伝カウンセリングの役割です。検査結果の意味の捉え方については検査結果の見かたも参考にしてください。治療に直結する変化を重視する場合は、アクショナブル遺伝子パネルも選択肢になります。

6. PARP阻害薬・合成致死・HRD:弱点を治療に変える

RAD51Dの病的バリアントは「がんになりやすい弱点」であると同時に、治療の標的にもなるという二面性を持ちます。その鍵が「合成致死性」という考え方と、PARP阻害薬という薬です。RAD51Dが壊れた腫瘍細胞は相同組換え修復が機能しない状態、すなわちHRD(相同組換え修復欠損)の状態に陥っています。ここにPARP阻害薬で別の修復経路をふさぐと、がん細胞だけがDNAを直せなくなって死に至るのです。

💡 用語解説:合成致死性(ごうせいちしせい)

2つの「壊れても単独なら大丈夫な弱点」が重なったときだけ細胞が死ぬ、という関係です。RAD51Dが壊れた腫瘍は、すでに相同組換え修復という1つの経路を失っています。ここにPARP阻害薬でもう1つの修復をふさぐと、がん細胞だけがDNAを直せなくなって死にます。正常な細胞は相同組換え修復が生きているため大きな影響を受けません。「がん細胞だけを選んで攻撃する」という、がん治療が長年求めてきた選択性を理屈で実現した成功例です。

卵巣がんの分野では、PARP阻害薬(オラパリブ・ニラパリブなど)が初回化学療法のあとの維持療法として広く使われ、治療成績を大きく改善してきました。その恩恵が最も大きいのはBRCA変異やHRD陽性の腫瘍で、RAD51Dを含むHR関連遺伝子の異常を持つ腫瘍も、こうした治療の対象となり得ます。実際にどの薬剤がどの状況で使えるかは、がん種・病期・検査結果によって異なるため、必ず主治医(腫瘍内科・婦人科腫瘍など)と相談のうえで判断されます。PARP阻害薬の詳しい作用機序は解説ページをご覧ください。

7. 耐性メカニズム:腫瘍はどう逃れるのか

PARP阻害薬は当初よく効きますが、多くの場合、時間とともに薬剤耐性が現れます。腫瘍は進化の過程で、失っていた相同組換え修復機能を取り戻そうとするのです。最も代表的なメカニズムが「復帰突然変異(reversion mutation)」で、RAD51Dでもこの現象が確認されています[11][12]

💡 用語解説:復帰突然変異(ふっきとつぜんへんい)

もともとRAD51Dが壊れて機能を失っていた細胞で、近くに二次的な変化が新たに生じ、結果として遺伝子の「読み枠」が回復してしまう現象です。完全に元どおりではなくても、部分的に働くRAD51Dタンパク質が再び作られ、相同組換え修復が復活します。すると合成致死性が成り立たなくなり、PARP阻害薬やプラチナ系抗がん剤が効かなくなるのです。一人の患者さんの体内で、複数の異なる復帰変異が同時に生じることも観察されています[13]

このような耐性の進化を、血液から非侵襲的に追う方法として期待されているのがリキッドバイオプシー(循環腫瘍DNA:ctDNA解析)です。採血だけで、復帰変異の出現など耐性の兆候を経時的にモニタリングできる可能性があり、治療方針の見直しに役立つ手段として研究が進んでいます。RAD51Dを含むHR関連遺伝子の耐性メカニズムを理解することは、次の治療戦略を考えるうえで重要なテーマとなっています。

8. よくある誤解

誤解①「バリアントがあれば必ずがんになる」

RAD51Dは中等度浸透率の遺伝子です。卵巣がんの生涯リスクは平均で約13%、つまり大多数の方は発症しません。リスクは家族歴や年齢で変わるため、一人ひとりに合わせた評価が大切です。

誤解②「卵巣がんだけのリスクだ」

RAD51Dは卵巣がんのイメージが強いですが、乳がん(とくにトリプルネガティブ乳がん)のリスクも中等度に上がることが分かっています。サーベイランスは卵巣と乳房の両面で考える必要があります。

誤解③「予防手術はすぐ受けないと危険」

RAD51Dの卵巣がんリスクが急に上がるのは50代です。NCCNはRRSOを45〜50歳で検討するとしており、30代で焦って結論を急ぐ必要はありません。ライフプランと合わせて落ち着いて検討できます。

誤解④「VUSと言われたら陽性と同じ」

VUS(意義不明のバリアント)は「病的かどうかまだ判断できない」状態で、陽性とは異なり、それだけで手術や治療の判断材料にはしません。研究が進むと分類が変わることもあるため、遺伝カウンセリングで継続的に確認します。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「知ること」は、ご自身とご家族を守る選択肢になる】

私はがん薬物療法専門医・臨床遺伝専門医として、遺伝性のがんに向き合うご本人とご家族のカウンセリングを重ねてきました。RAD51Dのような遺伝子の話は、最初は「怖い知らせ」に聞こえるかもしれません。けれど私は、これは「先回りして備えられる情報」だと考えています。リスクが上がる年代が分かっていれば、検診や予防のタイミングを一緒に設計できますし、PARP阻害薬のように体質を逆手に取る治療の選択肢にもつながります。

そしてこの情報は、ご本人だけのものではありません。血縁者の方が同じ体質を持つかどうかを知り、それぞれが備えるための入り口にもなります。検査を受けるかどうかも含めて、ご自身とご家族の価値観に沿って、臨床遺伝専門医とゆっくり話し合っていただきたいと願っています。この記事が、その第一歩の手がかりになれば幸いです。

よくある質問(FAQ)

Q1. RAD51Dに病的バリアントがあると、必ずがんになりますか?

いいえ。RAD51Dは中等度浸透率の遺伝子で、卵巣がんの生涯リスクは平均で約13%、乳がんは約20%とされています。これはリスクが「高まる」という意味であり、「必ず発症する」わけではありません。大多数の方は発症しないと推定されています。実際のリスクは家族歴や年齢によって大きく変わるため、個別のリスク評価が大切です。

Q2. RAD51Dの検査はどこで、どんな検体で受けるのですか?

血液を用いた遺伝学的検査で調べます。多くの場合、RAD51D単独ではなく、BRCA1/2やRAD51C・ATM・PALB2などを含む多遺伝子パネル検査で評価します。当院では臨床遺伝専門医が、検査の意義の説明やご家族の検査についての相談を含めて遺伝カウンセリングを担当しています。RAD51Dは成人のがん体質に関わる遺伝子で、主に成人の方が対象です。

Q3. 卵巣がんの予防手術(RRSO)はいつ受ければよいですか?

NCCNガイドライン(Version 2.2026)では、RAD51D保持者に対し、RRSO(リスク低減卵管卵巣摘出術)を45〜50歳の間に検討するよう推奨しています。これはRAD51Dの卵巣がんリスクが50代で急に高まることを踏まえた目安です。手術により早期閉経となる影響もあるため、年齢・妊娠出産の希望・更年期症状への対応などを含め、ご本人と十分に話し合って決めることが大切です。

Q4. 乳房も予防的に切除したほうがよいですか?

RAD51Dでは、リスク低減乳房切除(予防的乳房切除)は一律には推奨されていません。BRCA1/2のような高浸透率遺伝子とは異なり、中等度リスクであるRAD51Dでは、まず40歳前後からのマンモグラフィと必要に応じた乳房MRIによるサーベイランスが基本となります。家族歴や本人の希望を踏まえた個別の話し合い(共有意思決定)で方針を決めていきます。

Q5. 男性がRAD51Dの病的バリアントを持つ意味はありますか?

男性保持者自身のがんリスクについては、前立腺がんや膵臓がんとの関連を示唆する研究はあるものの、まだデータが限られており確立していません。一方で重要なのは、男性も病的バリアントをお子さんへ50%の確率で受け継がせ得るという点です。娘・息子やきょうだいへのカスケード検査の観点から、男性の保持者であることを知っておく意義は大きいといえます。

Q6. 家族にも遺伝しますか?

RAD51Dは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)のため、親が病的バリアントを持つ場合、お子さんへ受け継がれる確率は理論上50%です。第一度近親者(親・きょうだい・子)が同じバリアントを持つ可能性があるため、ご家族の発症前検査(カスケード検査)が選択肢になります。誰に・いつ・どう伝えるかという繊細なプロセスを、遺伝カウンセリングで一緒に整理していきます。

Q7. RAD51Dの病的バリアントがあると、PARP阻害薬は効きますか?

RAD51Dが壊れた腫瘍は相同組換え修復が機能しない(HRD)状態にあり、合成致死性を突くPARP阻害薬の恩恵を受け得ると考えられています。卵巣がんではPARP阻害薬の維持療法が広く使われ、HR関連遺伝子の異常を持つ腫瘍も対象となり得ます。ただし、どの薬剤がどの状況で使えるかはがん種・病期・検査結果によって異なるため、必ず主治医とご相談のうえで決定されます。

Q8. 「VUS(意義不明のバリアント)」と言われました。どうすればよいですか?

VUSは「病的かどうかをまだ判断できない」状態のバリアントです。陽性(病的バリアント)とは異なり、それだけを根拠に予防手術や治療の判断を行うことはしません。今後の研究で分類が「病的」または「良性」に変わることがあるため、定期的に最新の判定を確認することが大切です。判断は家族歴や臨床経過も合わせて、遺伝カウンセリングのなかで行います。

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臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

参考文献

  • [1] Structural insights into BCDX2 complex function in homologous recombination. PMC. [PMC10712684]
  • [2] Structural insights into BCDX2 complex function in homologous recombination. PubMed. [PubMed 37344589]
  • [3] The homologous recombination protein RAD51D protects the genome from large deletions. PMC. [PMC5389663]
  • [4] A RAD51D c.82G>A (p.Val28Met) variant disrupts normal splicing in hereditary ovarian cancer. PMC. [PMC8414856]
  • [5] Ovarian and Breast Cancer Risks Associated With Pathogenic Variants in RAD51C and RAD51D. PMC. [PMC7735771]
  • [6] Age of ovarian cancer diagnosis among BRIP1, RAD51C, and RAD51D pathogenic variant carriers. PMC. [PMC8086272]
  • [7] Cancer Risk in People With a RAD51D Mutation. FORCE (Facing Our Risk of Cancer Empowered). [FORCE]
  • [8] RAD51D: Risk Management Guidelines. FORCE (Facing Our Risk of Cancer Empowered). [FORCE]
  • [9] NCCN Guidelines Insights: Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast, Ovarian, Pancreatic, and Prostate, Version 2.2026. JNCCN. [JNCCN]
  • [10] Study: Genes Linked With Triple-Negative Breast Cancer Risk. American Cancer Society. [ACS]
  • [11] Secondary Somatic Mutations Restoring RAD51C and RAD51D Associated with Acquired Resistance to the PARP Inhibitor Rucaparib. Cancer Discovery (AACR). [AACR]
  • [12] RAD51D Secondary Mutation-Mediated Resistance to PARP Inhibitors. PMC. [PMC10572335]
  • [13] Reversion Mutations With Clinical Use of PARP Inhibitors: Many Genes, Many Versions. Cancer Discovery (AACR). [AACR]
  • [14] Entry *602954 RAD51 Paralog D; RAD51D. OMIM (Johns Hopkins University). [OMIM 602954]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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