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RAD51C遺伝子とは?DNA修復のしくみと、遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)・PARP阻害薬との関係をわかりやすく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

RAD51C遺伝子は、DNAの中でも最も危険な傷である「二本鎖切断」を、お手本どおりに正確に直す相同組換え修復(HR)に欠かせない、いわばゲノムを守る「精密誘導装置」です。この遺伝子に生まれつきの変化(病的バリアント)があると、片方のアレルだけでも遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)のリスクが高まり、両親の双方から受け継ぐ(両アレル性)とファンコニ貧血という重い病気を引き起こします。一方でその弱点は、PARP阻害薬という治療の標的にもなります。臨床遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 DNA修復・遺伝性腫瘍・がんゲノム医療
臨床遺伝専門医監修

Q. RAD51C遺伝子とはどんな遺伝子ですか?まず結論だけ知りたいです

A. RAD51Cは、DNAの二本鎖切断を「お手本どおり」に正確に直す相同組換え修復の中心ではたらく、がん抑制遺伝子です。片方のアレルだけに病的バリアントがあると遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)のリスクが高まり、両親の双方から受け継ぐ(両アレル性)とファンコニ貧血を発症します。同じ「修復できない弱点」は、PARP阻害薬という分子標的治療の標的にもなります。

  • 染色体上の位置 → 17番染色体長腕(17q22)、約43kb・9個のエクソン、376アミノ酸のタンパク質をつくる
  • 分子のしごと → BCDX2・CX3という2つの複合体の中心で、修復の主役RAD51を装着・繊維を安定化させる
  • 2つの顔 → 片アレル変異=HBOC(乳がん・卵巣がん)、両アレル変異=ファンコニ貧血O群(FANCO)
  • 治療への意味 → 合成致死性によりPARP阻害薬(オラパリブなど)が効きやすい「治療資源」になる
  • 最新トピック → 9,188変異を一気に機能評価したサチュレーション・ゲノム編集で、VUS(意義不明変異)の解釈が前進

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1. RAD51C遺伝子とは:ゲノムを守る「精密誘導装置」

私たちの細胞のDNAは、毎日くり返される代謝や、放射線・化学物質などによって絶えず傷つけられています。その中でも最も危険なのが、二本のDNA鎖がそろって切れてしまう二本鎖切断(DSB)です。これが正しく直されないと、染色体の欠失や組み換えが起こり、細胞死や発がんに直結します。この致命的な傷を、無傷のコピー(姉妹染色分体)をお手本にして「設計図どおりに」正確に修復するのが相同組換え修復(HR)という高精度なしくみです。RAD51Cは、このHRの中ではたらく中心メンバーのひとつです[1]

RAD51Cは17番染色体の長腕、17q22という細胞遺伝学的バンドに位置します。ゲノム上では約43kbの領域を占め、9個のエクソンから構成され、376個のアミノ酸からなるタンパク質をつくります[1]。バクテリアのRecAや酵母のRad51と進化的に近い「RAD51ファミリー」に属し、ヒトではRAD51B・RAD51C・RAD51D・XRCC2・XRCC3という5つの「パラログ(よく似た役割の兄弟分子)」が知られています。RAD51Cはこのうちの一員として、単独ではなく仲間と複合体を組んではたらく点が大きな特徴です。

項目 内容
承認遺伝子シンボル RAD51C(RAD51 paralog C)
別名 FANCO、BROVCA3、RAD51L2、R51H3
染色体上の位置 17q22(17番染色体 長腕)
遺伝子の構造 約43kb・9エクソン/376アミノ酸のタンパク質
OMIM(遺伝子) 602774
関連する疾患 遺伝性乳がん卵巣がん症候群3型(BROVCA3)/ファンコニ貧血O群(FANCO・MIM 613390)

RAD51Cは全身の細胞でつくられますが、染色体を正しく分け合う必要のある精巣(減数分裂の場)や、ゲノムの保護が強く求められる脳組織でとくに多くつくられます[1]。この「ありふれているが要所で増える」発現パターンこそ、RAD51Cがゲノムの守り手であることを物語っています。

2. 分子のしくみ:BCDX2とCX3、2つの複合体の主役

RAD51Cは単独でDNAを切ったりつないだりする酵素ではありません。仲間のパラログと2種類の複合体を組み、修復の異なる場面でそれぞれ別の役割を果たします。1つはBCDX2複合体(RAD51B–RAD51C–RAD51D–XRCC2)、もう1つはCX3複合体(RAD51C–XRCC3)です。RAD51Cはこの両方に参加する、いわば「2つのチームをまたぐキャプテン」です。

💡 用語解説:RAD51フィラメントとは

DNAが二本鎖切断を起こすと、切れた端が少し削られて一本鎖DNAが露出します。ここにRAD51というタンパク質が数珠つなぎに連なって「繊維(フィラメント)」をつくり、この繊維が無傷のお手本DNAを探し出して入り込み、正確な修復が始まります。このRAD51フィラメントをうまく組み立て・安定化させることが、修復成功のカギです。RAD51Cを含むBCDX2複合体は、まさにこの組み立てを強力に後押しします。

BCDX2複合体は、修復のごく初期に登場します。主役のRAD51がDNAに結合するのは本来とても効率の悪いプロセスで、とくに修復すべき一本鎖領域が短いと、なかなかうまく繊維が組み立てられません。BCDX2が介在すると、この組み立てが熱力学的に大きく後押しされ、短い一本鎖領域や停止した複製の現場でも、効率よくRAD51フィラメントが形成・安定化されることが、生化学的な実験で示されています[3]。BCDX2は、修復の中心メディエーターであるBRCA2の下流かつRAD51の装着の上流という、絶妙なポジションで働きます。

一方、CX3複合体は修復の最終段階の主役です。修復の途中で生じる「ホリデイジャンクション」という十字型のDNA構造を正確にほどき、染色体どうしが絡まったまま分裂してしまうのを防ぎます。近年のクライオ電子顕微鏡を使った構造解析では、RAD51パラログの複合体がBRCA2と直接結合し、巨大な修復装置を傷の現場へ正確に誘導する分子のしくみが原子レベルで明らかにされました[4]。RAD51Cは、修復の入口(BCDX2)と出口(CX3)の両方を取り仕切る、文字どおりの「司令塔」なのです。

3. 複製フォークの保護と「見張り役」としての機能

RAD51Cのしごとは、起きてしまった切断を直すことだけではありません。DNAをコピーしている最中(S期)に、複製の進行が障害物にぶつかって止まってしまうことがあります。これを放置すると、複製装置(フォーク)が物理的に崩壊し、修復困難な染色体異常につながります。RAD51Cを含むBCDX2複合体は、止まったフォークを安全な形に折りたたむ「フォークの逆転」を助け、新しくつくられた弱いDNA鎖が分解酵素に削られすぎないよう守ります。

さらにRAD51Cは、DNAが傷ついたことを細胞全体に知らせる「見張り役(センサー)」としても機能します。マイトマイシンCなどによって生じるDNA鎖間架橋(二重らせんを物理的に固定してしまう極めて毒性の高い傷)が生じた際、RAD51CはチェックポイントキナーゼCHK2の活性化を制御し、「S期内チェックポイント」を働かせます。これによって、傷が完全に直るまで細胞の分裂進行を強く止めるのです[5]

💡 用語解説:がん抑制遺伝子とは

細胞ががん化しないように「ブレーキ」をかける遺伝子の総称です。DNAの傷を直したり、傷ついた細胞の分裂を止めたりして、ゲノムの安定を保ちます。RAD51Cは「傷を物理的に直す(修復)」働きと「傷があるあいだ分裂を止める(シグナル伝達)」働きの二役をこなすため、強力ながん抑制遺伝子と位置づけられます。この働きが失われると、傷が蓄積してがんが発生しやすくなります。

「修復する」と「分裂を止める」という二重の役割こそ、RAD51Cが強力ながん抑制遺伝子である最大の理由です。この見張り機能が失われると、傷が直らないまま細胞が分裂を続け、ゲノムが不安定になってがんが発生しやすくなります。

4. RAD51Cの「2つの顔」:受け継ぎ方で病気が変わる

RAD51Cの病的バリアントは、それを「片親からだけ受け継いだ(片アレル性)」「両親の双方から受け継いだ(両アレル性)」かによって、まったく異なる2つの病気を引き起こします。これがRAD51Cの大きな特徴です。

💡 用語解説:片アレル性と両アレル性

私たちは1つの遺伝子を父・母から1本ずつ、計2本(アレル)持っています。片アレル性(モノアレル性)は、その片方だけに変化がある状態。両アレル性(バイアレル性)は、両方に変化がある状態です。RAD51Cでは、片アレル性なら「がんになりやすい体質(HBOC)」、両アレル性なら「ファンコニ貧血」という、重さも種類もまったく違う結果になります。

両アレル性 → ファンコニ貧血O群(FANCO)

両親の双方から機能を失う変異を受け継ぐ(両アレル性)と、ファンコニ貧血のO群(FANCO・MIM 613390)を発症します。これは常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)の形をとり、両親がともに保因者の場合、子どもが発症する確率はメンデルの法則どおり25%です。ファンコニ貧血は、DNA鎖間架橋の修復障害を背景に、小児期からの進行性の骨髄不全(汎血球減少)、低身長などの発達障害、皮膚の色素異常、親指や橈骨の骨格異常、そして白血病・固形がんへの非常に高い発がんリスクを特徴とします[6]。RAD51Cはファンコニ貧血の責任遺伝子の一つとしてFA相補群のO群に分類されています。

片アレル性 → 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)

一方、片アレル性(片方だけの変異)でも、RAD51Cの強力ながん抑制機能が「ハプロ不全」に陥り、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)のリスクが高まります。RAD51Cがヒトのがん感受性遺伝子であることは、2010年に乳がん・卵巣がん家系の研究によって初めて明確に確立されました[2]。腫瘍では、もう片方の正常なアレルが失われる「ヘテロ接合性の消失(LOH)」がしばしば観察され、両アレルが機能を失うことでがん化が進む「ツーヒット仮説」を裏づけています。

💡 用語解説:ハプロ不全(ハプロふぜん)

2本あるアレルのうち1本が壊れただけで、残った1本では役割を十分に果たせず、不調があらわれる状態です。RAD51Cはこのタイプで、片方の変異だけでもがん抑制の力が落ち、がんになりやすい体質につながります。「片方が無事なら大丈夫」とは限らない、という点が大切です。

5. がんリスクの実際:卵巣がん・乳がんと「家族歴」

RAD51Cの病的バリアントは、当初は卵巣がんの感受性遺伝子として注目されましたが、その後の大規模研究で乳がんの強力なリスク因子でもあることが示されました。リスクの大きさを、一般集団・キャリア平均・強い家族歴ありの3つで比べてみましょう。

RAD51C変異キャリアの生涯がん発症リスク(一般集団・家族歴との比較)

80歳までに乳がん・卵巣がんを発症する推定累積リスク

一般集団
RAD51Cキャリア(平均)
キャリア(強い家族歴あり)
12.5%

21%

46%

1.1%

11%

36%

乳がん

卵巣がん

RAD51Cの病的バリアントは乳がん・卵巣がんのリスクを大きく高め、とくに第一度近親者に複数の患者がいる場合、生涯リスクはさらに上昇します[7]

卵巣がんについて、一般女性の生涯リスクが約1.1%であるのに対し、RAD51Cキャリアの推定累積リスクは約11%(10〜15%)に達します[7]。多数例をまとめた解析では、卵巣がんのオッズ比は約5前後と報告され、RAD51CはBRCA1/2に次ぐ卵巣がんの高リスク遺伝子の一つに位置づけられています[8]。とくに最も予後の悪い「高異型度漿液性」サブタイプとの関連が強い点が臨床上重要です。

乳がんについても、一般集団の生涯リスク約12.5%に対し、キャリアの80歳までの推定累積リスクは約21%(15〜29%)へ上昇します[7]。診断年齢に関する大規模コホートでは、RAD51Cキャリアの乳がん診断年齢の中央値は49歳で、その17.5%が40歳未満という若さで診断されていました[10]。「中等度リスク=遅めに調べればよい」とは言い切れないことを示す重要なデータです。

さらに重要なのは、リスクが家族歴によって大きく変わる点です。第一度近親者(親・きょうだい・子)に乳がん患者が2名いる場合、キャリアの乳がん生涯リスクは44〜46%に、卵巣がん患者が2名いる場合は卵巣がんリスクが32〜36%にまで上がります[7]。同じ「RAD51C陽性」でも、一律の数字を当てはめるのではなく、ご家族の病歴を丁寧に聞き取ったうえで、その方に合わせたリスク評価を行うことが欠かせません。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「リスク」から「治療資源」へ変わった日】

私はがん薬物療法専門医として、長くがんの薬物治療に携わってきました。かつてRAD51CやBRCAの病的バリアントが見つかると、それは「将来がんになりやすい」というリスク情報が中心で、お伝えする場面はどうしても重たいものでした。予防的な手術かサーベイランスか、という選択肢しかなかった時代があったのです。

それがPARP阻害薬の登場で大きく変わりました。「陽性だから不利」ではなく、「陽性だからこそ効く薬がある」とお話しできるようになったのです。遺伝情報が、ご本人の治療の武器にもなる——HBOCの遺伝カウンセリングをしていて、この変化を現場で実感する日々です。だからこそ、結果の意味を正確に、そして温度のある言葉でお伝えすることを大切にしています。

6. 合成致死性とPARP阻害薬:弱点を逆手に取る

RAD51Cの変異は、個人にとっては発がんリスクを高める厄介な存在ですが、がん細胞の立場で見ると「修復できない弱点(アキレス腱)」でもあります。この弱点を狙い撃つのが、合成致死性を利用したPARP阻害薬です。

💡 用語解説:合成致死性とPARP阻害薬

2つの修復経路のうち片方が壊れても細胞は生きられますが、両方が同時にふさがれると細胞は死にます。これが合成致死性です。RAD51C変異がんは相同組換え修復という1つの経路がすでに壊れています。そこへPARP阻害薬でもう1つの修復をふさぐと、がん細胞だけが修復不能になって死に、正常細胞は無傷の相同組換えで生き残ります。

RAD51C変異やプロモーターのメチル化などで相同組換え修復が働かない状態を、まとめてHRD(相同組換え修復欠損)と呼びます。HRDのがん細胞は、PARP阻害薬への感受性が高いことが知られています。進行卵巣がんでは、プラチナ系化学療法後の維持療法としてオラパリブニラパリブが用いられ、HRD陽性腫瘍でとくに大きな効果が示されています。どの患者でPARP阻害薬が有効かを見きわめるためのHRD検査は、薬剤を選ぶコンパニオン診断として位置づけられています。

前立腺がんでも変化が起きています。米国FDAは、RAD51Cを含む相同組換え修復(HRR)関連遺伝子に変異を持つ転移性去勢抵抗性前立腺がんに対し、タラゾパリブ(エンザルタミドとの併用)やオラパリブを承認しました。第III相TALAPRO-2試験では、HRR遺伝子変異群でタラゾパリブ併用が病勢進行・死亡リスクを大きく減らす成績を示しています[11]。RAD51Cの状態は、もはや「リスク評価」だけでなく「治療選択」の決め手になっているのです。

7. 獲得耐性:がんはどうやって薬から逃れるのか

PARP阻害薬は革新的ですが、最初はよく効いても、多くの場合、時間とともに腫瘍が再び増え始めます。これが獲得耐性です。RAD51C変異がんでは、耐性の主なしくみが2つ解明されています。

第一は二次的な復帰突然変異です。もともとのRAD51Cの変異が、ナンセンス変異フレームシフト変異でタンパク質を途中で打ち切っていた場合、PARP阻害薬の強い圧力のもとで、ごく一部の細胞が「読み枠を回復させる二次変異」を偶然に獲得します。すると、わずかに形を変えたRAD51Cが再びつくられ、仲間のRAD51B・XRCC3との結合能力を取り戻して相同組換えが復活し、薬が効かなくなります[12]。恐ろしいことに、たった1か所の生検から複数の異なる復帰変異が同時に見つかることもあり、がん細胞がいかに必死に修復機能を取り戻そうとしているかがわかります。

第二は、DNA配列を変えないエピジェネティックな変化です。RAD51Cは遺伝子配列が正常でも、スイッチ部分(プロモーター)が高度にメチル化されると遺伝子が読み取られなくなり、変異がある場合と同じHRD状態になります。このメチル化は、PARP阻害薬がよく効くことを予測する「良いしるし」になります。ところがメチル化は可逆的で、治療の圧力のもとでがん細胞がメチル化を外して(脱メチル化)RAD51Cを再び作り始めることがあります。驚くべきことに、複数あるコピーのうちたった1コピーの脱メチル化だけで、臨床的な耐性が成立しうることが示されています[13]

耐性のしくみ 分子的な基盤 特徴
二次的復帰突然変異 読み枠(ORF)の回復とRAD51B/XRCC3結合能の復活 1つの腫瘍に複数の異なる変異が並存。基本的に不可逆。
プロモーターの脱メチル化 サイレンシング解除によるRAD51C転写の再開 わずか1コピーの脱メチル化で耐性が成立。可逆的・動的。

これらの事実は、治療前の1回の生検だけに頼らず、治療中・再発時にも耐性のしくみをモニタリングする必要があることを示します。採血だけで腫瘍由来のDNAを追えるリキッドバイオプシー(ctDNA解析)は、こうした耐性の進化をリアルタイムに捉える有力な手段として期待されています。

8. VUS問題とサチュレーション・ゲノム編集(最新研究)

遺伝子検査でRAD51Cを調べると、しばしば「VUS(意義不明の変異)」という結果が出ます。これは「病気の原因か無害かを判断するだけの情報がまだない」変化のことです。実際、ClinVarに登録されたRAD51Cのバリアントの半数以上がVUSとされ、検査を受けた方やご家族、そして医療者を悩ませてきました[14]

💡 用語解説:ミスセンス変異とVUS

ミスセンス変異は、DNAの1文字が変わってタンパク質のアミノ酸が1個だけ別のものに置き換わる変異です。1か所の部品が変わるだけなので、重い病気の原因になることもあれば、まったく無害なこともあります。「病的か良性か」をすぐに判断できないものがVUSです。VUSは原則として治療や手術の判断には使わず、知見が積み重なって分類が変わるのを待つのが標準的な対応です。

この「判断保留」の山を一気に切り崩したのが、2024年に報告されたサチュレーション・ゲノム編集(SGE)という最新研究です。研究チームは、培養細胞の遺伝子を人工的に書き換える手法で、RAD51Cに起こりうる9,188種類もの変異をまとめて機能評価し、そのうち3,094種類を「機能を損なう(病的になりうる)」と分類しました。臨床データとの一致率は99.9%を超え、これまで意味のわからなかった多くのVUSに、機能の観点から「手がかり」を与えることに成功しています[14]

なお、RAD51Cが機能を失う原因は、配列の変異だけではありません。プロモーターのメチル化、エクソンの飛ばし読み(スプライシング異常)、そしてポリコーム因子EZH2の過剰発現によるサイレンシングなど、複数の入口があることも知られています。配列を読むだけの検査では見逃される経路もあるため、機能の評価や「ゲノムの傷あと」を見る検査が補完的に役立ちます。

9. 遺伝学的診断・遺伝カウンセリングとの接続

RAD51Cの検査は、おもに成人を対象に行われます。生まれつき全身が持つ変異(生殖細胞系列)は血液で、がん細胞だけに生じた変異(体細胞)は腫瘍組織で調べます。HBOCが疑われる場合は、BRCA1/2に加えてRAD51Cなど複数の遺伝子を一度に調べる多重遺伝子パネル検査が用いられます。一方、両アレル性によるファンコニ貧血が問題になる場面では、ファンコニ貧血遺伝子検査パネルが関連します。

💡 用語解説:生殖細胞系列変異と体細胞変異

生殖細胞系列変異は、生まれつき全身の細胞が持つ変異で、親から受け継ぎ、子へ伝わる可能性があります(HBOCの原因)。血液検査で調べます。体細胞変異は、がん細胞でのみ後天的に生じた変異で、ご家族には遺伝しません。PARP阻害薬への効果はどちらでも期待できますが、ご家族への意味合いが大きく違うため、検査前後の遺伝カウンセリングが重要です。

RAD51CのHBOCは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の形で伝わるため、ご本人で病的バリアントが見つかると、第一度近親者が同じ変異を持つ確率は50%です。誰に、いつ、どう伝え、希望する血縁者の検査(カスケード検査)をどう進めるか——この繊細なプロセスを支えるのが遺伝カウンセリングです。なお、成人になってから問題となる疾患の予測的検査を小児期に行うことには慎重な配慮が必要で、原則として自己決定が可能な年齢まで延期します(未成年者の遺伝学的検査を参照)。また、片方のパートナーがRAD51Cの保因者とわかった場合、子のファンコニ貧血リスクを評価するため、もう一方のパートナーの保因者検査が話題になることもあります。

医師は情報の提供者であり、特定の検査や治療を一方的に勧める立場にはありません。リスクの数字、治療の選択肢、ご家族への影響、そして「どこまで知りたいか」という価値観まで含めて、臨床遺伝専門医とともに、ご自身とご家族で納得のいく選択をしていただくことを大切にしています。

よくある誤解

誤解①「RAD51C=必ずがんになる」

RAD51Cは中等度のリスク遺伝子で、変異があっても全員ががんになるわけではありません。ただし家族歴が強いとリスクは相乗的に上がります。一律の数字ではなく、ご家族の病歴を踏まえた個別評価が大切です。

誤解②「片方の変異なら問題ない」

RAD51Cはハプロ不全を示すため、片アレルの変異だけでもがんになりやすさが高まります。「片方が無事だから安心」とは言い切れません。

誤解③「VUSが出たら手術を急ぐべき」

VUS(意義不明の変異)は臨床判断に使いません。病的か良性か未確定の段階で予防手術などを行うのは不適切で、分類が確定するのを待つのが標準です。

誤解④「PARP阻害薬は誰にでも効く」

最も恩恵が大きいのはHRD陽性のがんです。相同組換えが保たれた腫瘍では上乗せ効果は限定的で、コンパニオン診断による患者選択が重要になります。

臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「わからない」を、ご家族とともに引き受ける】

RAD51Cの検査をしていて難しいのは、「VUS(意義不明の変異)」という結果をどうお伝えするか、という場面です。白でも黒でもない「保留」の結果は、ご本人にとってかえって落ち着かないものです。けれども、サチュレーション・ゲノム編集のような研究の進歩で、こうした保留の多くに少しずつ手がかりがつき始めています。「いまはわからなくても、いつか分類が変わるかもしれない」——その可能性を一緒に持ち続けることも、遺伝カウンセリングの大切な役割だと感じています。

そしてRAD51Cの結果は、ご本人だけの問題では終わりません。お子さんやごきょうだいの将来にも静かに関わってきます。だからこそ、検査を受けるかどうかも含めて、ご自身とご家族の価値観に沿って、ゆっくり話し合っていただきたいと願っています。この記事が、その第一歩の手がかりになれば幸いです。

よくある質問(FAQ)

Q1. RAD51C遺伝子はどこにありますか?

17番染色体の長腕、17q22という場所にあります。約43kbの領域を占め、9個のエクソンから構成され、376アミノ酸のタンパク質をつくります。BRCA1/2と同じく、DNAの二本鎖切断を相同組換えで修復するがん抑制遺伝子です。

Q2. RAD51C変異があると必ずがんになりますか?

いいえ。RAD51Cは中等度のリスク遺伝子で、変異があっても全員が発症するわけではありません。ただし、卵巣がんは生涯で約11%、乳がんは約21%とリスクが高まり、第一度近親者に複数の患者がいる場合はさらに上昇します。リスクの大きさはご家族の病歴で変わるため、個別の評価が大切です。

Q3. RAD51Cの変異はファンコニ貧血とも関係するのですか?

はい。受け継ぎ方で病気が変わります。片方のアレルだけの変異(片アレル性)は遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)に、両親の双方から受け継いだ変異(両アレル性)はファンコニ貧血O群(FANCO)に関係します。後者は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)で、両親がともに保因者の場合、子の発症確率は25%です。

Q4. RAD51C陽性だとPARP阻害薬が効きますか?

RAD51Cの機能が失われた腫瘍は相同組換え修復欠損(HRD)の状態にあり、合成致死性によってPARP阻害薬(オラパリブ・ニラパリブなど)が効きやすいと考えられます。卵巣がんでは維持療法として、前立腺がんではタラゾパリブやオラパリブが用いられます。実際の適応はがん種・病期・遺伝子の種類により異なり、主治医とご相談のうえ決定されます。

Q5. 検査でVUS(意義不明の変異)と言われました。どうすればよいですか?

VUSは「病的か無害か、まだ判断できない」変化です。原則として治療や手術の判断には使わず、知見が積み重なって分類が確定するのを待ちます。RAD51Cはバリアントの半数以上がVUSとされてきましたが、近年のサチュレーション・ゲノム編集などの研究で多くに機能の手がかりがつき始めています。再分類された場合は、検査機関から担当医へ修正報告が届くしくみになっています。

Q6. RAD51CとBRCA1/2はどう違うのですか?

どちらも相同組換え修復ではたらくがん抑制遺伝子で、機能が失われるとHRD(相同組換え修復欠損)になります。BRCA1/2は高リスク遺伝子で乳がんリスクが特に高いのに対し、RAD51Cは中等度リスクで、卵巣がん(とくに高異型度漿液性)との関連が強いのが特徴です。いずれもPARP阻害薬の標的になり得ます。

Q7. 家族にRAD51C変異が見つかったら、私も検査を受けるべきですか?

RAD51CのHBOCは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)で、第一度近親者が同じ変異を持つ確率は50%です。血縁者の検査(カスケード検査)は選択肢になりますが、受けるかどうかはご自身の価値観や心の準備にもよります。成人発症の疾患の予測的検査は、原則として自己決定できる年齢まで延期します。受ける前後の遺伝カウンセリングをおすすめします。

Q8. ミネルバクリニックではRAD51Cの検査を受けられますか?

当院は臨床遺伝専門医が遺伝性腫瘍の遺伝学的検査と遺伝カウンセリングを担当しています。BRCA1/2に加えてRAD51Cなど複数のHR関連遺伝子を一度に調べる多重遺伝子パネル検査が選択肢になります。検査の意義の説明、結果の解釈、ご家族の検査までご相談に応じます。治療(PARP阻害薬など)はがんゲノム医療を行う医療機関と連携して進めます。

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遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)を含む遺伝性腫瘍、
RAD51C・BRCA1/2など関連遺伝子の検査・遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

参考文献

  • [1] RAD51C RAD51 paralog C [Homo sapiens]. NCBI Gene (ID: 5889). [NCBI Gene]
  • [2] Meindl A, et al. Germline mutations in breast and ovarian cancer pedigrees establish RAD51C as a human cancer susceptibility gene. Nat Genet. 2010. [DOI:10.1038/ng.569]
  • [3] Mechanism of BCDX2-mediated RAD51 nucleation on short single-stranded DNA. Nucleic Acids Research. 2024. [NAR]
  • [4] RAD51 Paralogs and RAD51 Paralog Complexes BCDX2 and CX3 Interact with BRCA2. PubMed. [PubMed 39416194]
  • [5] Distinct Roles of FANCO/RAD51C Protein in DNA Damage Signaling and Repair. PMC. [PMC3270991]
  • [6] Fanconi anemia. MedlinePlus Genetics (NIH). [MedlinePlus]
  • [7] Ovarian and Breast Cancer Risks Associated With Pathogenic Variants in RAD51C and RAD51D Genes. J Natl Cancer Inst. 2020. [PMC7735771]
  • [8] BRIP1, RAD51C, and RAD51D mutations are associated with high susceptibility to ovarian cancer: pooled analysis of ~30,000 cases. PMC. [PMC7196220]
  • [9] Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast, Ovarian, Pancreatic, and Prostate. NCCN Guidelines. [NCCN]
  • [10] Women with Mutations in Low-Moderate Breast Cancer Genes May Benefit from Earlier Breast Cancer Screening. NSGC. [NSGC]
  • [11] FDA approves talazoparib with enzalutamide for HRR gene-mutated metastatic castration-resistant prostate cancer. U.S. FDA. [FDA]
  • [12] Secondary Somatic Mutations Restoring RAD51C and RAD51D Associated with Acquired Resistance. Cancer Discovery (AACR). 2017. [AACR]
  • [13] Acquired RAD51C Promoter Methylation Loss Causes PARP Inhibitor Resistance in High-Grade Serous Ovarian Carcinoma. PMC. [PMC12593227]
  • [14] Olvera-León R, et al. High-resolution functional mapping of RAD51C by saturation genome editing. Cell. 2024;187(20):5719-5734. [PubMed 39299233]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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