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コンパニオン診断(CDx)とは?最適な薬を見つけるための検査を基礎からわかりやすく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

コンパニオン診断(CDx)とは、ある薬がその患者さんに「効きやすいか」「副作用が強く出ないか」を、薬を使う前に遺伝子やタンパク質で調べる検査です。1998年に乳がん治療薬ハーセプチンとHER2検査がセットで承認されて以来、「検査の結果を見てから薬を選ぶ」という考え方は、がん治療の常識を大きく変えてきました。本記事では、CDxの仕組み・調べ方・代表的な薬・日本での位置づけ、そして「生まれ持った体質(遺伝)」との関わりまで、一般の方にも遺伝診療に関わる方にもわかるように、臨床遺伝専門医が解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 CDx・がんゲノム医療・個別化医療
臨床遺伝専門医監修

Q. コンパニオン診断(CDx)とは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. ある薬がその患者さんに効きやすいか・副作用が強く出ないかを、投与前に遺伝子やタンパク質で調べ、最適な薬を選ぶための検査です。特定の薬と「セット」で使われ、多くは法的に必須とされます。1998年のHER2検査(ハーセプチン)が最初で、いまやがん治療を中心に約40種類の薬で導入され、個別化医療(プレシジョン・メディシン)の土台となっています。

  • 3つの目的 → 効く人を選ぶ・副作用リスクの高い人を避ける・治療効果をモニタリングする
  • 調べ方 → 組織のIHC・PCR、数百遺伝子を一度に読むNGS、採血で調べるリキッドバイオプシー(ctDNA)
  • 代表例 → EGFR(肺がん)、BRCA(PARP阻害薬)、PD-L1(免疫療法)、MSI-H・dMMR(臓器を問わない治療)
  • 遺伝との接点 → BRCAなど「生まれ持った体質」が薬選びに関わる場面では遺伝カウンセリングが重要
  • 注意点 → CDxの多くは「腫瘍(体細胞)」を調べる検査で、遺伝性がんを調べる検査とは目的が異なります

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1. コンパニオン診断(CDx)とは?薬を選ぶための「相棒の検査」

コンパニオン診断(Companion Diagnostics)は、直訳すると「相棒(コンパニオン)の診断」です。ある特定の薬を安全かつ効果的に使うために、その薬と一体で開発・利用される検査を指します。多くは血液や組織を体の外で調べる体外診断用医薬品(IVD)として位置づけられます。米国FDAは、CDxの役割を「その薬で最も恩恵を受けやすい患者さんを見つける」「重い副作用のリスクが高い患者さんを事前に見分ける」「治療反応をモニタリングして投与量を調整する」という3つに整理しています[1]

💡 用語解説:バイオマーカーとは

バイオマーカーとは、体の状態や病気の性質を「測れる目印」にしたものです。コンパニオン診断では、特定の遺伝子の変異(例:EGFR変異)タンパク質の量(例:PD-L1)がバイオマーカーになります。同じ「肺がん」でも、このバイオマーカーが陽性か陰性かで効く薬がまったく変わるため、検査で目印を確認してから薬を選ぶ、という流れが生まれました。

CDxの歴史は1998年にさかのぼります。乳がん治療薬トラスツズマブ(ハーセプチン)に対するHER2検査が、世界で初めてのコンパニオン診断として承認されました。これは「薬と検査を同時に開発する(同時並行開発)」という新しい考え方を打ち立てた出来事でもあります。原則として、CDxとその相手となる薬は同時に承認されることが求められ、薬の添付文書に「この検査でこういう結果が出た人に使う」という情報を載せることが法律で裏づけられています[4]

この仕組みはがん治療の進歩とともに急速に広がりました。現在、米国だけでもコンパニオン診断に関連する薬は約40種類にのぼり、製薬業界には140を超えるゲノム異常を標的とした500以上の化合物が控えているといわれます。つまりCDxは、これからも増え続ける「個別化医療の入口」なのです。がんの増殖を直接駆動する遺伝子については、ドライバー遺伝子の解説もあわせてご覧ください。

2. なぜコンパニオン診断が必要なのか

かつて、がんの薬物療法は「臓器ごとに決められた抗がん剤を使う」のが基本でした。しかし研究が進むと、同じ臓器のがんでも、増殖を引き起こしている分子の異常は患者さんごとに違うことがわかってきました。そこで生まれたのが、その異常をピンポイントで狙い撃つ分子標的薬です。標的薬は「狙う相手」がいる人にはよく効きますが、いない人にはほとんど効きません。だからこそ「相手がいるかどうか」を先に調べる検査=コンパニオン診断が不可欠になったのです。

💡 用語解説:分子標的薬と体外診断用医薬品(IVD)

分子標的薬は、がん細胞の特定の分子(受容体や酵素など)に狙いを定めて働く薬です。正常細胞へのダメージを抑えつつ、標的を持つがんを効率よく抑えられます。

体外診断用医薬品(IVD)は、体から採った血液や組織を「体の外で」調べる検査試薬・機器のことです。コンパニオン診断は、このIVDの中でも「特定の薬を使うために必要」と公的に位置づけられた、特別なグループだと考えてください。

CDxには、患者さん側にも大きなメリットがあります。効く可能性が高い人に最初から有効な薬を届けられること、そして効きにくい薬で時間と体力を消耗するのを避けられることです。一方で製薬会社にとっては、薬の承認確率を高めるために、診断薬メーカーと個別にCDxを同時開発する必要があり、結果として「1つの薬につき1つの専用検査」という構図が生まれました。この構図が後述するPD-L1検査の混乱(第6章)を招くことになります[4]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「同じ肺がん」でも、薬がまるで違う時代に】

がん薬物療法を専門としていると、「同じ肺がん」という言葉が、もはや一つの病気を指していないことを日々実感します。EGFR変異があるのか、ALKやROS1の融合があるのか、KRAS G12Cなのか――最初に確認するこの“設計図”の違いひとつで、お出しする薬も、見込める効果も、まったく変わってきます。

かつては「とりあえず標準的な抗がん剤から」という時代がありました。いまは「まず調べてから、その人に合うものを選ぶ」のが当たり前になりつつあります。コンパニオン診断は、その“選ぶ”を支える地味だけれど決定的な存在です。検査を一つ挟むことが、患者さんの貴重な時間を守ることにつながると、現場では強く感じています。

3. コンパニオン診断はどうやって調べるのか

コンパニオン診断の「調べ方」は、年々進化しています。かつては1つの遺伝子変異を見るPCR法や、特定のタンパク質の量を染めて見る免疫組織化学染色(IHC)が中心でした。いまは数百の遺伝子を一度に解析する次世代シークエンサー(NGS)へと大きく舵が切られ、さらに採血だけで調べるリキッドバイオプシーが実用化されています。

コンパニオン診断(CDx)の基本的な流れ 検体を採る 採血・組織 バイオマーカー解析 NGS / IHC / PCR 結果を判定 陽性 / 陰性 最適な薬を選ぶ 治療方針を決定 陽性なら対象薬が効きやすく、陰性なら別の治療法を検討する、という考え方

💡 用語解説:リキッドバイオプシーとctDNA

がんは進行に伴い、壊れたがん細胞のDNAのかけらを血液中に放出します。これを循環腫瘍DNA(ctDNA)と呼び、採血だけでがんの遺伝子情報を読み取る検査がリキッドバイオプシーです。組織を切り取る生検と違い、体への負担が小さいのが特長です。血中のctDNAはごく微量のため、通常の検査よりも桁違いに深く読む(超高デプス)必要があります。詳しくはリキッドバイオプシーの解説もご覧ください。

リキッドバイオプシーは進行がんの薬選びだけでなく、早期発見や術後の再発モニタリング(微小残存病変=MRD)でも有望な結果を示しています。ある研究では、ステージI・IIの段階でも、がんの体細胞変異を採血だけでかなりの割合で検出できたと報告されています[6]。具体的な検出感度は、がん種によって次のように異なります。

ステージI・IIの段階での血漿ctDNAによる体細胞変異の検出感度

がん種ごとに、早期でも一定の割合で変異を検出できる(研究報告の一例)

71%
68%
59%
59%

大腸がん

卵巣がん

乳がん

肺がん

ただし、リキッドバイオプシーを「単独で」コンパニオン診断に使うには、まだ重要な限界があります。血中に出てくるctDNAの量は病期や部位に左右されるため、ctDNAが十分に出ていない患者さんでは偽陰性(本当は変異があるのに検出されない)が起こりやすいのです[5]。さらに、加齢とともに正常な血液細胞に生じる変異(クローン性造血=CHIP)が「生物学的ノイズ」となり、がん由来の変異と紛らわしくなる問題も知られています。

そのため現在の臨床的な考え方は、十分な組織検体があるときは組織ベースのNGSを優先し、組織が足りない・採取が難しいときにリキッドバイオプシーで補うというものです[5]。当院でも、採血で調べるリキッドバイオプシー for モニターや、肺がんで対象となる遺伝子についての情報をご用意しています。なお、NGSで見つかった変異を確認する際には、精度の高いサンガー法が今も世界標準として使われています。

4. 代表的なバイオマーカーと対象となる薬

FDAは多数のコンパニオン診断デバイスを承認しています[2]。ここでは、ディープリサーチで取り上げられた代表的なものを、検査・対象バイオマーカー・関連する薬とあわせて整理します。聞き慣れない略語が多いですが、「この目印が見つかったら、この薬の出番になりやすい」と読むとわかりやすいでしょう。

バイオマーカー 主ながん種 対象薬の例
EGFR変異(エクソン19欠失・L858R・T790M等) 非小細胞肺がん ゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブ
KRAS G12C変異 非小細胞肺がん ソトラシブ、アダグラシブ
BRCA1 / BRCA2 変異 卵巣がん・乳がん 等 オラパリブ(PARP阻害薬)
HER2(ERBB2)過剰発現 乳がん 等 トラスツズマブ(モノクローナル抗体
IDH1 / IDH2 変異 急性骨髄性白血病(AML)等 IDH1/IDH2阻害薬
PD-L1 発現 非小細胞肺がん 等 免疫チェックポイント阻害薬
MSI-High / dMMR 臓器を問わない固形がん ペムブロリズマブ 等

この表でとても大切なのが、最初の数行(EGFR・KRAS・PD-L1など)と、BRCAの違いです。多くのCDxは「腫瘍そのもの(体細胞)」を調べて薬を選びます。一方でBRCAは、「生まれ持った体質(生殖細胞系列)」が薬選びに直結する代表例です。この違いは、検査の目的も、結果を受け止めるご家族への配慮も大きく変えるため、次の用語解説で整理します。

💡 用語解説:生殖細胞系列変異 と 体細胞変異

生殖細胞系列変異は、卵子・精子の段階から持っている変異で、体じゅうのすべての細胞に共有され、子どもにも受け継がれ得ます。BRCA変異による遺伝性乳がん・卵巣がんがこのタイプです。

体細胞変異は、生まれた後に特定の細胞だけに生じる変異で、多くのがんはこちらです。EGFRやKRASなど大半のコンパニオン診断は、この体細胞変異を腫瘍で調べています。同じ遺伝子(例:BRCA)でも、調べる対象が「全身の体質」か「腫瘍の中だけ」かで、意味がまったく変わります。

5. コンパニオン診断・補完的診断・がん遺伝子パネルの違い

「がんの遺伝子を調べる検査」とひとくくりにされがちですが、目的の違う3種類を区別すると理解が深まります。

💡 用語解説:補完的診断(コンプリメンタリー診断)

コンパニオン診断が「その薬を使うのに法的に必須」なのに対し、補完的診断は、薬を使えるかどうかを制限するものではありませんが、患者さんごとのリスクの見立てや、効果・副作用のバランスを整えるための重要な情報を与える検査です。FDAでは、2015年に免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブに対するPD-L1検査が、初めて補完的診断として位置づけられました[3]。詳しくは補完的診断の解説へ。

3つを大まかに分けると、①コンパニオン診断=特定の薬を使うために必須②補完的診断=必須ではないが治療の参考になる③がん遺伝子パネル検査(包括的ゲノムプロファイリング)=多数の遺伝子を一度に調べて、複数の薬の候補をまとめて評価する、という整理になります。遺伝子パネル検査は、いわば①や②を内包しながら全体像を見る検査と言えます。

近年とくに注目されるのが、臓器を問わない(腫瘍非依存的な)治療です。たとえばDNAのミスマッチ修復がうまく働かず、マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を示すがんは、発生した臓器にかかわらず免疫チェックポイント阻害薬が効きやすいことが知られています。FDAは、こうしたミスマッチ修復欠損(dMMR)を見分けるための、臓器横断的なコンパニオン診断も承認しています[13]。どんながん種でMSI-H/dMMRが関係するかは、MSI-H/dMMRが関係するがんのページで具体的に解説しています。

6. PD-L1検査の「1薬1検査」問題とBlueprintプロジェクト

「1つの薬につき1つの専用検査」という仕組みが、臨床現場に混乱を生んだ代表例が、非小細胞肺がんに対するPD-L1検査です。FDAは肺がんの適応で4つの異なるPD-L1検査(22C3、28-8、SP263、SP142)を承認しましたが、これが現場に難題を突きつけました[8]

💡 用語解説:TPS と CPS(PD-L1の判定スコア)

PD-L1がどれくらい出ているかを数値化する基準にも種類があります。TPSは「腫瘍細胞だけ」を対象に染まった割合を見る基準で、1%・50%といった区切りが使われます。一方CPSは腫瘍細胞に加えて「免疫細胞」も組み込んで計算する基準です。薬や適応によって、どの基準・どの区切りを使うかが異なるため、現場では「どの検査をどう判定すればよいか」が複雑になりがちです。

問題は大きく3つありました。第一に判定基準(カットオフ)の乱立。第二に、染色の元になるエピトープが失われやすいなど検体処理によるばらつき。そして第三に、「組織の枯渇」です。1つのバイオマーカーのために4つの検査基盤を維持するのは負担が大きく、ある調査では米国トップ20の検査室で4つすべてを提供できた施設はわずか3施設でした[8]。小さな生検組織から複数の検査をすべて実施するのは物理的に難しく、患者さんの安全を保ちつつ確定診断を行うことが困難になっていきました。

この危機に対し、国際肺癌学会・米国がん学会・米国臨床腫瘍学会・FDA・各製薬/診断薬企業が連携し、複数のPD-L1検査の性能を直接比べる「PD-L1 Blueprintプロジェクト」が立ち上げられました[7]。以下は、フェーズ1(38の腫瘍組織で4アッセイを比較)の結果の要点です。

アッセイ(抗体クローン) 腫瘍細胞の染色の一致度 免疫細胞の染色の一致度
22C3 きわめて高い類似性 ばらつき・不一致が大きい
28-8 きわめて高い類似性 ばらつき・不一致が大きい
SP263 きわめて高い類似性 ばらつき・不一致が大きい
SP142 染色率が有意に低い(外れ値) ばらつき・不一致が大きい

最も重要な発見は、SP142が他の3つに比べて腫瘍細胞を染める割合が著しく低い「外れ値」だったことです[7]。同じカットオフを当てはめても、あるアッセイでは「陽性」、別のアッセイでは「陰性」と判定される例が多く見られました。コンソーシアム全体の結論は明快で、「これらのアッセイは自動的に互換ではない」というものでした。抗体と染色機を無秩序に組み合わせて薬を選ぶことは、最適な治療機会を奪いかねない、という強い警鐘です。

7. 世界と日本の制度:規制とがんゲノム医療

コンパニオン診断は、国ごとの規制や保険のしくみと切り離せません。米国・欧州・日本で、考え方の枠組みが少しずつ異なります。

米国では、CDxと薬を原則同時に承認する枠組みが整っています。一方で臨床検査室は、各施設内で独自に設計・検証する「検査室開発検査(LDT)」を広く活用してきました。2024年に一度はLDTを医療機器として規制する規則が示されましたが、2025年に連邦地裁がこれを無効と判断し、FDAも控訴せず、同年に規則は正式に撤回され、従来どおりの運用へ戻りました[9]。結果として、承認用のCDxと、現場で使うLDTが並び立つ状態が続いています。

欧州(EU)では、2022年に施行された体外診断用医療機器規則(IVDR)により、コンパニオン診断が初めて法的に明確に定義され、リスクの高い「クラスC」に分類されました[11]。さらに、対象薬が中央審査で承認される場合、欧州医薬品庁(EMA)への相談が必須となり、CDxが薬のベネフィット・リスクを損なわないかを科学的に検証する仕組みが組み込まれています[10]。患者保護を強める一方、審査体制の不足などが新技術の導入を遅らせる課題も指摘されています[12]

💡 用語解説:日本の「がんゲノム医療」の枠組み

日本では、コンパニオン診断は体外診断用医薬品として承認されます。加えて、多数の遺伝子を一度に調べるがん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)が保険適用されており、標準治療が終了した(または終了見込みの)患者さんなどが対象となります。

検査結果は、専門家が集まるエキスパートパネルで検討され、結果は国のがんゲノム情報管理センター(C-CAT)に集約されます。海外と同様、日本でもMSI検査などは免疫チェックポイント阻害薬の適応を判断する補助として保険診療で行われています。

なお、コンパニオン診断やがん遺伝子パネル検査は「腫瘍(体細胞)」を解析して治療薬を選ぶもので、主にがん治療を行う医療機関で実施されます。これに対し、当院が専門とする「生まれ持った体質」を調べる検査は目的が異なります。両者の関係は次の章で整理します。

8. コンパニオン診断と「遺伝(生殖細胞系列)」の接点

コンパニオン診断の多くは腫瘍を調べる検査ですが、「生まれ持った体質(生殖細胞系列)」と交わる場面があります。その代表がBRCA1BRCA2です。これらの生殖細胞系列変異がある方では、PARP阻害薬という薬の効果が期待できることがあり、ここで「薬選びのための検査」と「遺伝性がんの体質を知る検査」が重なります。

生まれ持った体質に関わる結果が出ると、それは血のつながったご家族のリスクにも関係します。だからこそ、検査の前後で遺伝カウンセリングを行い、結果の意味や、ご家族への影響、今後の選択肢を、中立な立場でていねいにお伝えすることが大切になります。当院では、生まれ持った体質としての遺伝性がんを調べる包括的がん遺伝子パネル検査(154遺伝子)を、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングとともにご提供しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「薬を選ぶ検査」が「家族の検査」になるとき】

遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)の遺伝カウンセリングをしていると、コンパニオン診断が単なる「薬の選択ツール」では終わらない場面に何度も出会います。BRCAのように生まれ持った体質が薬選びに関わるとき、その結果はご本人だけでなく、お子さんやごきょうだいの人生にも静かに関わってきます。

大切なのは、「検査を勧めること」でも「安心を約束すること」でもなく、結果が持つ意味を正確にお伝えし、どうするかをご家族自身が選べるように伴走することだと考えています。腫瘍を調べる検査と、体質を調べる検査――その境目に立つ場面でこそ、臨床遺伝専門医の役割があると、日々の外来で感じています。

9. よくある誤解

誤解①「コンパニオン診断=遺伝するかどうかの検査」

多くのCDxは腫瘍(体細胞)を調べる検査で、家族に遺伝する体質を調べるものではありません。BRCAのように体質(生殖細胞系列)が関わる例は一部であり、その場合は遺伝カウンセリングが重要になります。

誤解②「採血のリキッドバイオプシーで何でもわかる」

採血は負担が小さく便利ですが、ctDNAが十分に出ていないと偽陰性が起こり得ます。十分な組織があるときは組織のNGSを優先し、足りないときに補う、という使い分けが基本です。

誤解③「PD-L1検査はどれも同じ」

Blueprintプロジェクトで、SP142は他のアッセイより腫瘍細胞の染色が低い「外れ値」であることが示されました。検査と判定基準を無秩序に入れ替えることはできません。

誤解④「結果が陰性なら、もう治療法はない」

あるバイオマーカーが陰性でも、別のバイオマーカーや別の治療の選択肢があることは少なくありません。包括的なパネル検査で全体像を見て、次の一手を検討することができます。

🏥 がん遺伝子検査・遺伝カウンセリングのご相談

遺伝性がん(HBOC・リンチ症候群など)の遺伝子検査や
結果の受け止め方に関するご相談は
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にどうぞ。

よくある質問(FAQ)

Q1. コンパニオン診断は、誰でも受けられる検査ですか?

コンパニオン診断は、特定の薬の使用を検討する患者さんに対して、その薬を扱う医療機関で行われるのが基本です。多くは腫瘍を解析する検査で、がん治療の一環として実施されます。一方、生まれ持った体質(遺伝性がん)を調べたい場合は、目的の違う検査となり、遺伝カウンセリングを伴って受けるのが望ましいです。

Q2. コンパニオン診断とがん遺伝子パネル検査は何が違いますか?

コンパニオン診断は「特定の薬を使うために必須」とされる検査です。一方、がん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)は、多数の遺伝子を一度に調べ、複数の薬の候補をまとめて評価する包括的な検査で、複数のコンパニオン診断的な情報を内包することもあります。目的の広さが異なると考えるとわかりやすいです。

Q3. 採血だけのリキッドバイオプシーで、組織検査は不要になりますか?

必ずしもそうではありません。リキッドバイオプシーは体への負担が小さく、組織が採れない場合に有用ですが、ctDNAが十分に出ていないと検出できないことがあります。十分な組織があるときは組織のNGSを優先し、リキッドバイオプシーで補う、というのが現在の一般的な考え方です。

Q4. PD-L1検査の「数値」は、どの検査でも同じ意味ですか?

同じとは限りません。PD-L1にはTPSやCPSなど判定基準の違いがあり、検査(アッセイ)によって染まり方も異なります。Blueprintプロジェクトでは、SP142が他のアッセイより腫瘍細胞の染色が低い外れ値であることが示されました。検査と判定基準は、薬や適応に合わせて適切に選ぶ必要があります。

Q5. MSI-HやdMMRは、どんながんでも関係しますか?

MSI-H/dMMRは大腸がん・子宮内膜がんなどで比較的多く見られますが、頻度は低いものの幅広い臓器のがんで認められることがあります。MSI-Hのがんは免疫チェックポイント阻害薬が効きやすいとされ、臓器を問わない治療の根拠になります。詳しくはMSI-H/dMMRが関係するがんをご覧ください。

Q6. BRCAの検査は、薬を選ぶ検査ですか、遺伝の検査ですか?

両方の側面があります。生まれ持ったBRCA変異(生殖細胞系列)はPARP阻害薬の選択に関わるため「薬を選ぶ情報」にもなり、同時に「家族に関わる体質」でもあります。後者の意味が大きいため、検査の前後で遺伝カウンセリングを行い、ご本人とご家族にとっての意味をていねいに確認することが大切です。

Q7. 補完的診断とコンパニオン診断は、どちらが大事ですか?

どちらが上ということではなく、役割が違います。コンパニオン診断は薬を使うために必須の情報を、補完的診断は薬の使用を制限はしないものの、リスクの見立てや効果・副作用のバランス判断に役立つ情報を与えます。両者を組み合わせることで、より適切な治療選択につながります。

Q8. ミネルバクリニックでは、どんな相談ができますか?

当院は臨床遺伝専門医が在籍し、とくに生まれ持った体質としての遺伝性がん(154遺伝子の包括的パネル)の検査と遺伝カウンセリングをご提供しています。腫瘍そのものを解析するコンパニオン診断やがん遺伝子パネル検査は治療を行う医療機関で実施されますが、その結果の意味や、ご家族のリスクについてのご相談を承ります。

参考文献

  • [1] Companion Diagnostics. U.S. Food and Drug Administration (FDA). [FDA]
  • [2] List of Cleared or Approved Companion Diagnostic Devices (In Vitro and Imaging Tools). U.S. Food and Drug Administration (FDA). [FDA]
  • [3] Current Status of Companion and Complementary Diagnostics: Strategic Considerations for Development and Launch. PMC. [PMC5355969]
  • [4] Principles for Codevelopment of an In Vitro Companion Diagnostic Device with a Therapeutic Product (Guidance). U.S. Food and Drug Administration (FDA). [FDA Guidance]
  • [5] Clinical utility of liquid biopsy-based companion diagnostics in the non-small-cell lung cancer treatment. PMC. [PMC9630093]
  • [6] Liquid Biopsy, ctDNA Diagnosis through NGS. PMC. [PMC8468354]
  • [7] PD-L1 Blueprint Project. ILCN / IASLC. [ILCN]
  • [8] Challenges to Innovation Arising from Current Companion Diagnostic Frameworks. Clinical Cancer Research (AACR). [AACR]
  • [9] FDA Reverses / Rescinds Laboratory Developed Test Rule. Hogan Lovells. [Hogan Lovells]
  • [10] Companion diagnostics (in vitro diagnostics). European Medicines Agency (EMA). [EMA]
  • [11] Companion diagnostics (CDx) – IVDR classification (Class C, Annex VIII rule 3f). BfArM. [BfArM]
  • [12] European Regulatory & Reimbursement Dynamics for Companion Diagnostic Access (White Paper). FutureBridge. [FutureBridge]
  • [13] Oncology Therapeutic and Diagnostic Devices (tumor-agnostic dMMR IHC companion diagnostic 等). U.S. Food and Drug Administration (FDA). [FDA OCE]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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