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pathogenic・benignの意味とは?遺伝子検査での使い方・Likelyの90%・読み方を臨床遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

pathogenic(パソジェニック)は「病原性の・病気を引き起こす」、benign(ビナイン)は医学では「良性の(がんではない)」という意味の英語です。遺伝子検査(遺伝学的検査)の報告書では、見つかったバリアント(遺伝子の配列の違い)が病気の原因と判定されたか(pathogenic)、原因ではないと判定されたか(benign)を表す言葉として使われます。Likely pathogenic の「90%」は、発症する確率ではありません。この記事では、これらの英語の意味と読み方、5段階分類、腫瘍の「良性」との違いを解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約13分
🧬 pathogenic・benign・Likely・VUS
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. pathogenic と benign はどういう意味ですか?

A. pathogenic は「病原性の・病気を引き起こす」、benign は医学で「良性の」という意味です。遺伝子検査の報告書では、pathogenic は「見つかったバリアントが病気の原因と判定された」、benign は「病気の原因ではないと判定された」ことを表します。その間に Likely pathogenic、VUS、Likely benign があり、全体で5段階です。Likely の「90%」は、原因であることの確からしさを表す取り決めで、そのバリアントを持つ人が発症する確率ではありません。

  • ➤pathogenic → 病原性の。遺伝子検査では「病気の原因と判定されたバリアント」
  • ➤benign → 良性の。遺伝子検査では「病気の原因ではないと判定されたバリアント」
  • ➤読み方 → パソジェニック/ビナイン(benign の g は発音しない)
  • ➤腫瘍との違い → 腫瘍は benign と malignant、バリアントは benign と pathogenic が対になる

遺伝子検査の報告書に出てくるpathogenicとbenignの意味と5段階分類を解説するインフォグラフィック

1. pathogenic・benign とは?遺伝子検査での意味

pathogenic と benign は、遺伝子検査の報告書で「見つかった変化が病気の原因かどうか」を示す、対になる言葉です。辞書では「病原菌の」「優しい」といった訳が先に出てくるため、報告書の文脈と結びつきにくい言葉でもあります。

あらかじめ押さえておきたいのは、遺伝子検査で判定されるのは「遺伝子そのもの」ではなく、遺伝子の中に見つかった個々のバリアントだという点です。バリアントとは、ある人の塩基配列が、比較の基準となる配列(参照配列)と異なっている箇所のことを指します。pathogenic や benign は、そのひとつひとつに付けられる評価の言葉です。

pathogenic(パソジェニック)の意味

pathogenic は「病気を生じさせる」「病原性の」という意味の形容詞です。英語では19世紀前半から「病気を生じさせる」の意味で使われており、もとはフランス語の pathogénique を経た語で、ギリシャ語の pathos(病・苦しみ)に「生じさせる」を表す要素が付いてできています[1]。一般には pathogenic bacteria(病原菌)や highly pathogenic avian influenza(高病原性鳥インフルエンザ)のように、細菌やウイルスを形容する言葉として定着しています。

一方、遺伝子検査の報告書で使われる pathogenic は、病原体ではなく遺伝子のバリアントの性質を表します。報告書に「Pathogenic」と書かれていれば、それは「このバリアントは、ある病気の原因であると判断するのに十分な根拠がある」という判定を意味します。米国国立医学図書館の解説でも、Pathogenic は疾患の原因であり、その関連を裏づける十分な研究があるもの、Likely pathogenic はおそらく原因だが確定するには研究が十分でないもの、と説明されています[2]。

ここで混同しやすいのが「病原性」という訳語です。遺伝子検査の pathogenic は重症度を表す言葉ではありません。判定しているのは「原因かどうか」であって、「どのくらい重いか」「必ず発症するか」ではないという点は、この記事全体を通じて大切になります。

benign(ビナイン)の意味

benign は、医学では「良性の」、つまり「がんではない」という意味で使われます。米国国立がん研究所(NCI)の用語辞典は、benign を「がんではないこと」と定義し、良性腫瘍は大きくなることはあっても体のほかの部位へ広がることはない、と説明しています。nonmalignant(非悪性)という言い換えも示されています[3]。病理検査や画像検査の報告書で「benign」と書かれている場合、多くはこの腫瘍・病変の意味です。

もとをたどると、benign は「親切な」「温和な」という人柄を表す言葉でした。ラテン語の benignus(親切な、気前のよい)に由来し、字義は「生まれのよい」で、bene(よく)と「生む」を意味する語から成り立っています[4]。一般英語ではいまも「優しい」「害のない」の意味で使われ、医学の「良性」はこの「害のない」から広がった用法です。

遺伝子検査の報告書での benign は、腫瘍の良性とは対象が違い、「このバリアントは、調べた病気の原因ではないと判断するのに十分な根拠がある」という判定を意味します[2]。「良性」という訳語は同じでも、腫瘍の場合とは何を判定しているかが異なる点については、第4章で詳しく整理します。

読み方・発音・品詞・語源

読み方は、pathogenic が「パソジェニック」、benign が「ビナイン」です。日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)の患者向け資料でも、Pathogenic に「パソジェニック」とカタカナが添えられています[5]。benign は、NCIの用語辞典では「beh-NINE」と発音が示されており[3]、つづりにある g は発音しません。資料によっては「ベナイン」と書かれることもあります。

品詞はどちらも形容詞です。名詞にすると、pathogenic は pathogenicity(病原性)、benign は benignity(良性であること・温和さ)になります。報告書やデータベースで目にする「pathogenicity」は、バリアント分類の文脈では「病気の原因としての確からしさ」を指す名詞として使われています。また、pathogen(病原体)は、pathogenic から後になってつくられた名詞で、こちらは細菌やウイルスそのものを指します[1]。

📘 pathogenic と benign の読み方・品詞・語源

項目 pathogenic benign
読み方 パソジェニック(/ˌpæθəˈdʒɛnɪk/) ビナイン(/bɪˈnaɪn/、g は発音しない)
品詞 形容詞 形容詞
名詞形 pathogenicity(病原性) benignity(良性・温和さ)
仲間の語 pathogen(病原体)、pathogenesis(病因・発症の仕組み) malign/malignant(悪性の)
語源 ギリシャ語 pathos(病・苦しみ)+「生じさせる」 ラテン語 benignus(bene=よく+「生まれ」)

※語源は Online Etymology Dictionary[1][4]による。カタカナ表記は近似です。

benign の反対語 malignant(悪性の)は、ラテン語の male(悪く)に由来し、「よい生まれ」「悪い生まれ」の対をなしています[4]。ただし、遺伝子検査のバリアント分類では malignant という言葉は使われず、benign の対になるのは pathogenic です。この違いは第4章で表にまとめます。

2. 遺伝子検査結果の5段階分類(英語と日本語訳)

遺伝子検査で見つかったバリアントは、Pathogenic/Likely pathogenic/Uncertain significance(VUS)/Likely benign/Benign の5段階で表すのが国際的な標準です。この5つの用語は、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)と分子病理学会(AMP)が2015年に公表したACMG/AMPガイドラインで推奨されたもので、メンデル遺伝病(1つの遺伝子の変化で起こる病気)の原因遺伝子に見つかったバリアントに用いられます[6]。ガイドラインの採用状況を調べた調査では、回答した検査室の95%(65施設中62施設)が、メンデル遺伝病の遺伝子のバリアント分類にこの5段階を使っていると答えています[7]。

判定には、集団での頻度、タンパク質の働きへの影響、家系内で病気と一緒に受け継がれているか、コンピューター予測といった性質の違う根拠を集め、病原性を支持する根拠と良性を支持する根拠を強さごとに重み付けして、決められたルールで5段階に振り分けます[6]。

検査でバリアントを検出
▶
頻度・機能・家系などの根拠を集める強さごとに重み付け
▶
5段階に分類P/LP/VUS/LB/B
▶
報告書に英語で記載疾患名・遺伝形式と併記

🧬 5段階分類の英語と日本語訳

英語(略号) 主な日本語訳 ほかの訳・旧来の表現 意味
Pathogenic(P) 病的 病的意義あり、病的バリアント、Deleterious 病気の原因と判断するのに十分な根拠がある
Likely pathogenic(LP) 病的の可能性が高い 病的意義がある可能性が高い、病的バリアント疑い、Suspected deleterious 病気の原因である確からしさが90%を超える
Uncertain significance(VUS) 臨床的意義不明 病的意義不明、VOUS 現時点では原因とも、原因でないとも判断できない
Likely benign(LB) 良性の可能性が高い おそらく良性 良性である確からしさが90%を超える
Benign(B) 良性 病的意義なし、Polymorphism、Neutral 病気の原因ではないと判断するのに十分な根拠がある

※5段階の用語と90%の定義はACMG/AMP 2015[6]による。日本語訳は資料によって異なり、JOHBOCの患者向け資料では Pathogenic を「病的バリアント」、Likely Pathogenic を「病的バリアント疑い」と示しています[5]。

日本語訳は資料ごとに異なりますが、対応する英語が同じなら意味は同じです。報告書を読むときは、日本語訳よりも英語の表記(Pathogenic、Likely pathogenic など)で確認するほうが確実です。真ん中の段階にあたるVUSの詳しい意味や、その後の見直しについては、VUS(臨床的意義不明のバリアント)の解説で扱っています。

「変異」「多型」ではなく「バリアント」と呼ぶ理由

現在は、遺伝子の変化を「変異」「多型」と呼び分けず、中立的な「バリアント(variant)」に統一するのが国際標準です。ACMG/AMP 2015は、変異(mutation)を「塩基配列の恒久的な変化」、多型(polymorphism)を「集団の中の頻度が1%を超えるバリアント」と定義しました。そのうえで、この2語は長く使われるうちに、変異は「病気の原因」、多型は「無害」という思い込みと結びついてしまったと指摘し、どちらも「variant」に置き換えて、病的か良性かは5つの修飾語で表すよう推奨しています[6]。

この整理によって、頻度の高さと病気への関わりは別の軸として扱われるようになりました。まれなバリアントでも健康に影響しないものは数多くあります。1つの塩基が異なる頻度の高いバリアントについてはSNP(一塩基多型)で解説しています。

日本語ではいまも「病的変異」という言い方が使われますが、「病的バリアント」と同じ対象を指します。バリアントという言葉そのものの意味や種類は、遺伝子のバリアントとはで詳しく解説しています。

病原性は「どの病気について・どの遺伝形式で」判定される

pathogenic や benign の判定は、「どの病気の原因か」という対象とセットで意味を持ちます。ACMG/AMP 2015は、病原性を報告するときには、関係する疾患名と遺伝形式を併せて記載するよう推奨しています[6]。

遺伝形式が一緒に書かれるのは、同じ「Pathogenic」でも、それが本人にとって何を意味するかが遺伝形式によって変わるためです。常染色体顕性(優性)遺伝の病気では、片方のアレル(対になった遺伝子の一方)に病的バリアントがあるだけで病気に関わる可能性があります。一方、常染色体潜性(劣性)遺伝の病気では、片方のアレルだけに病的バリアントを持つ人は通常は発症せず、保因者と呼ばれます。つまり、「Pathogenic」という1語だけで、その人が病気になるかどうかまでは決まらないのです。

また、同じバリアントでも、病気が違えば判定が変わることがあり、判定はバリアントと病気の組み合わせごとに行われます[6]。

3. Likely pathogenic・Likely benign の意味(90%超の確からしさ)

5段階のうち、Likely pathogenic と Likely benign に付く「likely(可能性が高い)」は、90%を超える確からしさを表す取り決めです。ACMG/AMP 2015は、検査室ごとに受け取り方がばらつかないよう、この2つの用語に共通の意味を与えました[6]。

Likely pathogenic とは

Likely pathogenic(病的の可能性が高い)とは、見つかったバリアントが病気の原因である確からしさが90%を超えると判定された状態を指す用語です。90%は、そのバリアントを持つ人が発症する確率ではありません。ACMG/AMP委員会は、「likely pathogenic」と「likely benign」を、バリアントが病気の原因である、または良性であることについて90%を超える確かさがある、という意味で用いるよう提案しました[6]。

Likely pathogenic は、Pathogenic に分類するための根拠の多くを満たしているものの、確定するにはあと一歩届いていない段階です。追加の根拠が集まれば、Pathogenic に格上げされることがあります。

医学的な管理の上では Pathogenic とほぼ同じように扱われます(詳しくは病的バリアントとはで解説しています)。ただし、分類が見直される余地は Pathogenic より大きい段階です。

Likely benign とは

Likely benign(良性の可能性が高い)とは、見つかったバリアントが良性である、つまり調べた病気の原因ではない確からしさが90%を超えると判定された状態を指す用語です。Likely pathogenic の裏返しで、Benign と確定するには根拠がわずかに足りない段階です[6]。

米国国立医学図書館の解説も、Likely benign を「おそらく病気の原因ではないが、確定するには研究が十分でない」ものとしています[2]。

注意したいのは、「良性の可能性が高い」が意味する範囲です。これは「調べたその病気(遺伝子)の原因ではない可能性が高い」という判定であり、健康状態全体について何かを保証するものではありません。詳しくは第4章で説明します。

「90%」は発症する確率ではない

Likely pathogenic の90%は、「そのバリアントが病気の原因であることの確からしさ」であり、「そのバリアントを持つ人が発症する確率」ではありません。欧州人類遺伝学会(ESHG)の資料も、この分類体系はメンデル遺伝病を対象としたもので、浸透率は分類に含まれず、報告書に別途記載すべきものだとしています[8]。

病的バリアントを持つ人のうち、実際に発症する人の割合を浸透率といいます。浸透率は遺伝子や病気によって大きく異なるため、「原因であることは確か(Pathogenic)」でも、「発症するかどうかは人による」ということが起こりえます。90%という数字と、発症の見込みは、まったく別の物差しです。

💡 用語解説:浸透率(penetrance)

浸透率とは、ある病的バリアントを持つ人のうち、実際にその病気を発症する人の割合のことです。100%に満たない場合を「不完全浸透」といいます。浸透率は遺伝子や病気ごとに異なるうえ、同じ遺伝子でも年齢や家族歴などの条件によって変わるため、報告書の分類(Pathogenic など)とは別に考える必要があります。

浸透率が低いことがわかっているバリアントについては、5段階とは別の表現が使われることもあります。ClinVar(遺伝子のバリアントの判定を集めた公的データベース)では、ACMG/AMPの5段階に加えて、リスクアレルや低浸透率のメンデル性バリアントを分類するための5つの用語が、ClinGenによって導入されています[9]。「low penetrance(低浸透率)」のような語は、発症の見込みを別に示す表現です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「90%」を読み違えないために】

報告書の「Likely pathogenic」の90%は、発症する確率と混同しやすい数字です。この90%は検査室の判断の確からしさの目安で、ご本人の発症率ではありません。

発症の見込みを考えるときには、浸透率、年齢、家族歴といった別の情報を重ねる必要があります。報告書の1語から結論を出さずに、「原因としての確からしさ」と「発症の見込み」を分けて整理することが、結果を正しく読む第一歩だと考えています。

90%は「恣意的だが共通の取り決め」

90%という数字は、個々のバリアントについて直接測定した値ではなく、分類用語に与えられた合意上の目安です。ACMG/AMP委員会自身が、この定義を「恣意的ではあるが共通の定義」として提案しています。委員会は、90%の確かさがあれば臨床的な対応の判断に利用でき、後から格下げされる再分類もそれほど頻繁には起こらない水準だと考えました[6]。

それ以前に国際がん研究機関(IARC)の作業部会が提案した5クラスの体系では、Class 5(明らかに病原性)が0.99超、Class 4(Likely pathogenic)が0.95〜0.99、Class 3(不明)が0.05〜0.949、Class 2 が0.001〜0.049、Class 1 が0.001未満でした[10]。ACMG/AMPの90%は、この95%よりやや低い値に設定されています。その後、ACMG/AMPの基準をベイズ統計で数式化する研究も発表され、基準の組み合わせと確率の関係が検討されています[11]。

実際の運用で Likely pathogenic がどのくらい確からしかったかを調べた研究もあります。ClinVarの分類を2016年から2019年まで追跡したところ、再分類されたものについて、VUSへ移った症例のその後をどう仮定するかなどにより、病原性を支持する割合は83.8〜99.1%と推計されました[7]。Likely pathogenic 36,808件のうち期間中に再分類されたのは2.16%(796件)で、625件が Pathogenic へ、165件が VUS へ、残る6件が Likely benign または Benign へ移っていました。

ただし、これは後から見直された一部のバリアントに基づく推定で、真の確率を直接測ったものではありません。「Likely pathogenic の99%は病的」と一般化することはできない点に注意が必要です。IARCとの違いの経緯や、臨床での扱いの詳細は、親記事の病的バリアントの解説にまとめています。

4. 腫瘍の「benign(良性)」とバリアントの「benign」の違い

腫瘍の benign は「がんではない」ことを、バリアントの benign は「調べた病気の原因ではない」ことを表します。同じ「良性」でも、何を判定しているかが違います。NCIの用語辞典によると、腫瘍には良性(がんではない)と悪性(がん)があり、良性腫瘍は大きくなっても周囲の組織に入り込んだり、体のほかの部位へ広がったりはしません。悪性腫瘍は周囲の組織に入り込み、血液やリンパの流れに乗って体のほかの部位へ広がることがあります[12]。

腫瘍の benign は病変そのものの性質についての判定、遺伝子検査の benign は生まれつきの配列の違いが特定の病気の原因かどうかの判定であり、対になる言葉も違います。腫瘍では benign の反対は malignant(悪性)ですが、バリアント分類では benign の反対は pathogenic(病的)で、malignant は使われません[6]。

🔬 腫瘍の benign とバリアントの benign

項目 腫瘍・病変の benign バリアントの benign
使われる報告書 病理検査・画像検査など 遺伝子検査(遺伝学的検査)
判定の対象 体にできた病変そのもの 塩基配列の違い(バリアント)と特定の病気の組み合わせ
意味 がんではない(浸潤・転移しない) 調べた病気の原因ではない
対になる語 malignant(悪性) pathogenic(病的)
段階 良性・悪性(境界病変などを含む) 5段階(B/LB/VUS/LP/P)

※腫瘍の定義はNCI[12]、バリアント分類はACMG/AMP 2015[6]による。

benign は陽性?陰性? Likely benign なら安心してよい?

医学的な管理の上では、Benign と Likely benign はどちらも「陰性」として扱われます。JOHBOCの遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン2024年版は、検査機関はACMG/AMPに従って5つに分類するものの、医学的管理の選択では Pathogenic と Likely pathogenic、Benign と Likely benign がそれぞれ臨床上同等に扱われ、陽性・陰性・VUSの3グループに分けられると説明しています[13]。IARCの体系でも、Class 1・2(良性側)には「その病気についての変異は検出されなかった」として対応するよう、臨床的な推奨が結び付けられています[10]。

ただし、「陰性」が意味する範囲には限りがあります。Benign や Likely benign は、「見つかったそのバリアントが、調べた病気の原因ではない」という判定です。検査で調べていない遺伝子や、その検査法では見つけにくい種類の変化については、何も述べていません。家族歴からリスクが高いと考えられる場合は、結果が陰性でも病歴に応じた健康管理が検討されることがあります。

そのため、Benign や Likely benign を「健康上の問題が何もない」と言い換えることはできません。どの遺伝子を、どの方法で調べた結果なのかもあわせて確認します。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【同じ「良性」でも、見ているものが違う】

病理の報告書の「benign」と遺伝子検査の「benign」は、訳せばどちらも「良性」です。けれども前者は病変の性質を、後者は配列の違いが病気の原因かどうかを判定しています。同じ言葉が別の問いへの答えになっているのです。

英語の報告書を読むときは、単語の訳だけで判断せず、「何について」「どの病気について」の判定なのかを確かめることが欠かせません。

5. 遺伝子検査の報告書でよく見る英語表現

遺伝子検査の報告書には、5段階の分類のほかにも、検出の有無、分類の番号、遺伝子の持ち方などを表す英語が並びます。表記は検査会社によって異なりますが、代表的な表現を対訳でまとめます。

📄 報告書でよく見る英語表現と意味

英語表現 意味 読むときの注意
Pathogenic variant detected/identified 病的バリアントが検出された どの遺伝子・どの病気についての結果かを確認する
Likely pathogenic variant detected 病的の可能性が高いバリアントが検出された 「related to the clinical phenotype」は「症状と関連する」の意味
Class 5/Class 4 病原性の段階を番号で表したもの 番号の付け方はIARCの体系に由来し、定義は検査会社によって異なる
Deleterious/Suspected deleterious 有害な(病的)/病的の疑い 旧来の表現。Pathogenic/Likely pathogenic に相当
VUS/VOUS/Variant of Unknown Significance 臨床的意義不明のバリアント いずれも同じ段階を指す
Heterozygous/Homozygous/Hemizygous ヘテロ接合/ホモ接合/ヘミ接合 分類とは別に、バリアントの持ち方を表す
Carrier 保因者 潜性(劣性)遺伝の病気で、片方のアレルに病的バリアントを持つ人
Conflicting classifications of pathogenicity 病原性の判定が提出者の間で食い違っている ClinVarの表示。以前は interpretations という語が使われていた
Tier I〜IV がん組織の体細胞バリアントの臨床的意義の段階 5段階とは別の体系で、互いに対応しない

※表記は検査会社により異なります。個々の結果の解釈は、検査を依頼した医療機関で確認してください。

Class 5/Class 4という番号表記は、IARCの5クラス体系に由来します[10]。IARCの Class 4 は0.95〜0.99、ACMG/AMPの Likely pathogenic は90%超と、閾値が異なります。正確な定義は報告書の説明欄で確認します。旧来の表現 Deleterious(デリティアリアス)も、JOHBOCの資料で Pathogenic と並べて示されています[5]。VUSについては、VUS と VOUS の両方の表記が使われています[2]。

Heterozygous/Homozygous/Hemizygousは、分類とは別に、バリアントをどのように持っているかを表します。ヘテロ接合は対になった2つのアレルのうち片方だけにバリアントがある状態、ホモ接合は両方に同じバリアントがある状態です。ヘミ接合は、男性のX染色体上の遺伝子のように1コピーしかない遺伝子にバリアントがある状態です。詳しくはヘテロ接合の解説を参照してください。潜性(劣性)遺伝の病気で片方のアレルに病的バリアントを持つ人は保因者(carrier)と呼ばれ、報告書に「Carrier」と書かれることがあります。

Conflicting classifications of pathogenicityは、ClinVarで、同じバリアントに対する提出者どうしの分類が食い違っている状態を示す表示です[9]。ClinVarでは2024年1月のリリースで、それまで1つだった分類の欄が、生殖細胞系列の分類、体細胞の臨床的影響、腫瘍原性の3つに分けられました[9]。以前の資料では「conflicting interpretations of pathogenicity」と書かれています。

Tier I〜IVは、がん組織で見つかった体細胞バリアントを、治療や診断にとっての臨床的な意義の強さで分ける体系で、米国の分子病理学会・臨床腫瘍学会・病理学会が2017年に示したものです[14]。5段階とは目的が異なり、互いに対応しません。両者の違いは体細胞変異と生殖細胞系列変異のちがいで詳しく解説しています。染色体の一部の増減(CNV)の報告書については、染色体マイクロアレイ(CMA)検査結果の見方をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 医学で benign の意味は?

医学では「良性の」、つまり「がんではない」という意味で使われます。遺伝子検査の報告書では、benign は「見つかったバリアントが、調べた病気の原因ではないと判定された」ことを表します。

Q2. pathogenicity とは? pathogen との違いは?

pathogenicity は形容詞 pathogenic(病原性の)の名詞形で、「病原性」を意味します。pathogen は細菌やウイルスなど「病原体」そのものを指す名詞です。

Q3. Likely pathogenic は陽性と同じ?

医学的な管理の上では、Likely pathogenic は Pathogenic と同等に「陽性」として扱うのが一般的です。Likely pathogenic は、病気の原因である確からしさが90%を超えると判定された段階で、追加の根拠が集まれば Pathogenic に格上げされることがあります。

Q4. Likely pathogenic の90%は発症する確率?

いいえ、発症する確率ではありません。90%は、そのバリアントが病気の原因であることの確からしさを表す、専門家の合意で決められた基準です。病的バリアントを持つ人のうち実際に発症する人の割合は浸透率という別の数字で表され、遺伝子や病気によって大きく異なります。

Q5. Likely benign・Benign と言われたら安心してよい?

医学的な管理の上では、Likely benign と Benign は「陰性」として扱われます。ただしこれは「見つかったそのバリアントが、調べた病気の原因ではない」という判定で、調べていない遺伝子や、検査法で見つけにくい変化については何も述べていません。

Q6. 報告書に Pathogenic とあったらどうすればよい?

まず、どの遺伝子の、どの病気についての判定なのか、遺伝形式は何かを確認します。Pathogenic は「病気の原因と判断された」という意味であって、必ず発症することや病気の重さを示すものではありません。結果の意味は、検査を依頼した医療機関で、臨床遺伝専門医などから説明を受けて確認することが基本です。

まとめ

pathogenic(パソジェニック)は「病原性の・病気を引き起こす」、benign(ビナイン)は医学で「良性の」という意味の英語です。遺伝子検査の報告書では、見つかったバリアントが病気の原因と判定されたか(pathogenic)、原因ではないと判定されたか(benign)を表し、その間に Likely pathogenic、VUS、Likely benign を加えた5段階で結果が示されます[6]。判定は疾患名・遺伝形式とセットで行われます。

Likely の「90%」は、原因である(または良性である)ことの確からしさを表す合意上の基準で、発症する確率ではありません[7][8]。また、遺伝子検査の benign は、腫瘍の benign(がんではない)とは判定の対象が違い、対になる言葉も malignant ではなく pathogenic です。概念や臨床での扱いについては病的バリアントとはをご覧ください。

📘 この記事について

この記事は、遺伝子検査の報告書に出てくる英語の意味を解説する用語ページです。個別の検査結果の解釈を行うものではありません。結果の意味については、検査を依頼した医療機関で説明を受けて確認してください。なお、遺伝学的検査の結果が本人や血縁者にとってどういう意味を持つかを専門医と整理する場として、遺伝カウンセリングがあります。

参考文献

  • [1] Pathogenic (adj.) – Etymology, Origin & Meaning. Online Etymology Dictionary. [Etymonline]
  • [2] Do all gene variants affect health and development? MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus]
  • [3] benign. NCI Dictionary of Cancer Terms. National Cancer Institute. [NCI]
  • [4] Benign (adj.) – Etymology, Origin & Meaning. Online Etymology Dictionary. [Etymonline]
  • [5] 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC). Q17 検査結果はどのように表されるのでしょうか? [JOHBOC]
  • [6] Standards and guidelines for the interpretation of sequence variants: a joint consensus recommendation of the American College of Medical Genetics and Genomics and the Association for Molecular Pathology. Genet Med. 2015;17(5):405-424. [PubMed 25741868]
  • [7] Is ‘likely pathogenic’ really 90% likely? Reclassification data in ClinVar. Genome Med. 2019;11:72. [PMC6873511]
  • [8] Variant classification and reporting. European Society of Human Genetics (ESHG). [ESHG]
  • [9] Representation of classifications in ClinVar. National Center for Biotechnology Information. [NCBI ClinVar]
  • [10] Sequence variant classification and reporting: recommendations for improving the interpretation of cancer susceptibility genetic test results. Hum Mutat. 2008;29(11):1282-1291. [PMC3075918]
  • [11] Modeling the ACMG/AMP variant classification guidelines as a Bayesian classification framework. Genet Med. 2018;20(9):1054-1060. [PMC6336098]
  • [12] tumor. NCI Dictionary of Cancer Terms. National Cancer Institute. [NCI]
  • [13] 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)編. 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン2024年版. 遺伝BQ6「遺伝学的検査の結果が病的意義不明のバリアント(VUS)であった場合にどのように対応するべきか?」 [JOHBOC]
  • [14] Standards and Guidelines for the Interpretation and Reporting of Sequence Variants in Cancer: A Joint Consensus Recommendation of the Association for Molecular Pathology, American Society of Clinical Oncology, and College of American Pathologists. J Mol Diagn. 2017;19(1):4-23. [PubMed 27993330]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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