この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

ネフロン癆(ねふろんろう)や多発性嚢胞腎は、腎臓に嚢胞(液体のたまった袋)ができたり、腎臓の働きが少しずつ落ちたりする遺伝性の腎臓の病気です。原因の遺伝子はとても多く、子どもや若い人の腎嚢胞・多飲・多尿・原因のわからない腎機能の低下は、検査をしないと原因がしぼれないことがよくあります。この検査は、多発性嚢胞腎・ネフロン癆・ジュベール症候群などの繊毛病まで、嚢胞性腎疾患に関係する78遺伝子を一度に調べる遺伝子パネル検査です。欧州の希少疾患の患者さん6,507人の調査では、診断がつくまでに平均4.7年かかっていました[13]。原因がわからないまま病院を回る時間を、1回の検査で短くできる可能性があります。このページでは、症状・寿命の見通し・遺伝する確率と、検査でわかること、わかったあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
腎臓に嚢胞ができる病気や、ネフロン癆の原因になる78遺伝子に、病気の原因となる変化があるかを調べます。多発性嚢胞腎(ADPKD・ARPKD)、ネフロン癆、ジュベール症候群・バルデー・ビードル症候群などの繊毛病、腎嚢胞と糖尿病を伴うHNF1B関連の病気などが対象です。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
子どもや若い人で腎嚢胞・多飲・多尿・原因のわからない腎機能の低下がある方、目・肝臓・小脳・糖尿病などの症状を伴う方、家族歴がないのに多発性嚢胞腎と言われた方、ご家族にこれらの病気の方がいて妊娠を考えている方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜のいずれかで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、見張る合併症・ご家族の検査・次のお子さんへの確率と出生前診断の計画まで考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 多発性嚢胞腎・ネフロン癆の遺伝子パネル検査とは
この検査は、腎臓に嚢胞ができる病気(嚢胞性腎疾患)と、ネフロン癆に関係する78遺伝子を一度に調べる検査です。症状や画像だけでは原因の遺伝子をしぼりきれない子ども・若い人の腎臓の病気や、典型的ではない多発性嚢胞腎の原因を探すために使います。
嚢胞性腎疾患とは:腎臓に袋ができる遺伝の病気のグループ
腎嚢胞は、年をとると誰にでもできることがある、ありふれたものです。一方で、両側の腎臓にたくさんの嚢胞ができて腎臓が大きくなる多発性嚢胞腎や、腎臓の奥(髄質)に小さな嚢胞ができて腎臓の働きが落ちていくネフロン癆のように、遺伝子の変化が原因で起こる病気もあります。これらをまとめて「嚢胞性腎疾患」と呼びます。大人の健診で見つかる腎嚢胞の多くは遺伝とは関係ありませんが、子どものうちに見つかった嚢胞、数がとても多い嚢胞、腎臓の働きの低下を伴う嚢胞は、遺伝の病気を考えるきっかけになります。
原因の多くは「一次繊毛」の働きの異常(繊毛病)
腎臓の尿細管の細胞には、一次繊毛という1本の小さな毛のような構造があり、尿の流れなどを感じとるアンテナの役目をしています。ネフロン癆や多発性嚢胞腎の原因遺伝子の多くは、この一次繊毛や、繊毛の中で物を運ぶしくみ(繊毛内輸送〔IFT〕)に関わっています。一次繊毛は網膜・肝臓・脳などにもあるため、同じ原因で、腎臓だけでなく目・肝臓・小脳・指などにも症状が出ることがあります。こうした病気をまとめて繊毛病(シリオパチー)と呼びます。
この検査が78もの遺伝子を対象にしているのは、腎嚢胞という同じ見え方の裏に、多発性嚢胞腎・ネフロン癆・ジュベール症候群・バルデー・ビードル症候群・HNF1B関連の病気・常染色体顕性尿細管間質性腎疾患(ADTKD)・結節性硬化症など、原因も遺伝のしかたも違う多くの病気があるためです。嚢胞性腎疾患と糸球体の病気の患者さんを対象にしたスペインの研究では、140遺伝子のパネル検査で、嚢胞性腎疾患の患者さんの78%に原因の変化が見つかりました[10]。研究の対象や検査の範囲が違うため、この数字がそのまま当院の検査に当てはまるわけではありませんが、まとめて調べることで原因が見つかりやすくなることを示しています。
2. ネフロン癆とは:子ども・若い人の腎機能低下の遺伝的な原因
ネフロン癆は、尿を濃くする働きが落ちることから始まり、子どもから若い大人のうちに腎臓の働きが少しずつ失われていく、主に常染色体潜性(劣性)遺伝の腎臓の病気です。英語ではnephronophthisis(NPH)といい、「癆」は「ろう」と読みます。日本では指定難病335で、難病情報センターでは患者さんは100〜200人程度と推測されています(2026年10月時点)。
症状:多飲・多尿から始まる
ネフロン癆では、腎臓が尿を濃くできなくなるため、のどが渇いてたくさん水を飲み、尿の量が多くなる「多飲・多尿」や、おねしょ(夜尿)が早いうちから見られることがあります。成長がゆっくりになったり、貧血が出たりすることもあります。ふつうの腎炎と違ってむくみや血尿・たんぱく尿が目立ちにくいため、気づかれにくい病気です。
若年性ネフロン癆と、腎不全になる年齢・寿命の見通し
遺伝性疾患の解説書GeneReviewsによると、最も多い若年型(若年性ネフロン癆)では、腎不全(末期腎不全)になる年齢の中央値は13歳とされています[1]。乳児期に腎不全になる型や、もう少し遅く思春期以降に腎不全になる型もあります。また、大人の末期腎不全の原因の0.5%がネフロン癆とされ、大人になってから見つかる方もいます[1]。
腎不全になったあとは、透析や腎移植で治療を続けることができます。寿命の見通しは、腎臓だけでなく、腎臓以外の症状があるかどうかや、その重さによっても変わります。だからこそ、原因の遺伝子と病気の型を知っておくことが、見通しを立てる手がかりになります。
腎臓以外の症状:目・肝臓・小脳など
ネフロン癆の方の10〜20%に、腎臓以外の症状があるとされています[1]。網膜の病気を伴うものはシニア・ローケン症候群、小脳の形の特徴(MRIのモラー・トゥース・サイン)と発達の遅れを伴うものはジュベール症候群、肝臓の線維化を伴うものもあります。ジュベール症候群では腎臓の病気が23〜38%、網膜の病気が30%にみられると報告されています[4]。日本では、ジュベール症候群関連疾患は指定難病177で、シニア・ローケン症候群やCOACH症候群、口-顔-指症候群などが含まれています(2026年10月時点)。
原因遺伝子:NPHP1が最も多いが、原因は数十の遺伝子に分かれる
ネフロン癆の原因として最も多いのは、NPHP1遺伝子を含む領域がまとまって欠けている変化で、ネフロン癆の約25%を占めます[1]。原因遺伝子は2023年時点でおよそ40個わかっていて(難病情報センター)、GeneReviewsでは、ネフロン癆の方の50〜60%で、2本の遺伝子の両方に原因の変化が見つかるとされています[1]。裏を返すと、今の検査でも原因が見つからない方が4〜5割いるということで、この点は第7章でご説明します。
3. 多発性嚢胞腎(ADPKD・ARPKD)とネフロン癆の違い
多発性嚢胞腎には、大人に多い常染色体顕性(優性)の型(ADPKD)と、胎児期・子どものうちに見つかることの多い常染色体潜性(劣性)の型(ARPKD)があり、どちらも指定難病67「多発性嚢胞腎」に含まれます(2026年10月時点)。難病情報センターでは、日本の患者さんは約31,000人と推定されています。ネフロン癆とは、嚢胞のでき方・腎臓の大きさ・遺伝のしかたが違います。
🫘 ADPKD・ARPKD・ネフロン癆の違い
※数字は文献に示された集団の値で、一人ひとりの見通しは原因の遺伝子・変化の種類・ほかの要因で変わります。
ADPKD:PKD1とPKD2で、腎臓の働きが落ちる時期が違う
GeneReviewsによると、ADPKDの原因はPKD1が約78%、PKD2が約15%で、IFT140が1〜2%、GANAB・DNAJB11・ALG5・ALG9などはそれぞれ0.5%未満とされています[2]。末期腎不全になる平均年齢は、PKD1では58.0歳、PKD2では74.8歳と報告されていて、原因の遺伝子によって見通しが大きく違います[2]。ADPKDでは、頭の血管のこぶ(脳動脈瘤)が全体の約10%にみられ、ご家族に脳動脈瘤やくも膜下出血の方がいる場合は22%、いない場合は6%とされています[2]。
ARPKD:胎児期・新生児期に見つかることが多い
ARPKDは、欧州で出生約2万人に1人とされ、主な原因はPKHD1遺伝子です[3]。妊娠中や生まれてすぐに、大きく白く映る腎臓として見つかることが多く、肺が十分に育たないことによる呼吸の問題が起こることがあります。肝臓の線維化(先天性肝線維症)は、生まれたときから必ずみられるとされています[3]。
家族歴のない大人の多発性嚢胞腎
ご家族に腎臓の病気がないのに多発性嚢胞腎と言われた方は、典型的なPKD1・PKD2以外の原因が隠れていることがあります。ご両親に腎嚢胞のはっきりしない日本人の大人157人を、嚢胞性腎疾患の遺伝子パネル(最大92遺伝子)で調べた研究では、PKD1・PKD2の病的な変化が見つかったのは32.5%でした。IFT140の変化が4.5%、ほかの嚢胞性腎疾患の遺伝子の変化が4.5%に見つかり、IFT140の方は腎臓が比較的小さく、腎臓の働きが保たれている傾向がありました[12]。家族歴がないときこそ、多くの遺伝子をまとめて調べる意味があります。
4. 遺伝のしかたと、お子さん・きょうだいへの確率
この検査の対象の病気は、常染色体潜性(劣性)遺伝・常染色体顕性(優性)遺伝・X連鎖遺伝が混ざっていて、ご家族への確率は、見つかった遺伝子と遺伝のしかたで大きく変わります。原因がわからないままでは、確率を正しくお伝えすることができません。
ネフロン癆・ARPKD・多くの繊毛病:常染色体潜性(劣性)遺伝で4分の1
常染色体潜性(劣性)遺伝の病気は、同じ遺伝子の2本ともに原因の変化があると発症します(同じ変化が2つの場合も、別々の変化が1つずつの複合ヘテロ接合の場合もあります)。ご両親はそれぞれ1本ずつ変化をもつ「保因者」で、ふつうは症状がありません。ご両親がともに同じ遺伝子の保因者の場合、お子さんが発症する確率は妊娠ごとに4分の1、保因者になる確率は2分の1です。
ADPKD・ADTKD・HNF1B関連の病気など:常染色体顕性(優性)遺伝で2分の1
常染色体顕性(優性)遺伝の病気は、2本のうち1本に原因の変化があれば発症しうるため、親から子へ伝わる確率は、お子さん1人ごとに2分の1です。同じ変化をもっていても、症状の重さや腎臓の働きが落ちる時期は人によって違い、ご家族の経過がそのままご本人に当てはまるとは限りません(表現型の多様性)。
X連鎖の病気(OFD1)
OFD1遺伝子はX染色体にあり、口顔指症候群1型はX連鎖顕性、ジュベール症候群10型などはX連鎖潜性の形で伝わります。性別によって症状の出方とお子さんへの伝わり方が変わるため、ご家族ごとに説明します。
家族歴がない場合:新しく起きた変化と、腎嚢胞と糖尿病の病気(HNF1B)
ご家族に同じ病気の方がいなくても、ご本人の代で新しく起きた変化(新生突然変異・de novo)で発症することがあります。たとえば、腎嚢胞と糖尿病を起こす腎嚢胞糖尿病症候群(RCAD)の原因であるHNF1B遺伝子では、約半数が遺伝子全体の欠失によるとされています[6]。こうした欠失のほとんどは17番染色体の一部が欠ける17q12欠失によるもので、その約75%は新しく起きたものと報告されています[7]。
新しく起きた変化とわかれば、ご両親のせいではないことがはっきりします。ただし、ご両親の卵子や精子のもとになる細胞にだけ変化がある性腺モザイクのことがあるため、次のお子さんの確率はゼロにはなりません。変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は『最大で2分の1』とお伝えしています。
5. どんな人がこの検査を受けるとよいか
子どもや若い人の腎嚢胞・腎機能の低下の原因を知りたい方、腎臓以外の症状を伴う方、家族歴のない多発性嚢胞腎の方、ご家族にこれらの病気の方がいて妊娠を考えている方に向く検査です。病名がわかると、受けるべき検査、気をつけたい合併症、使える制度(指定難病・小児慢性特定疾病)が決まります。
子ども・若い人で、腎嚢胞・多飲・多尿・原因のわからない腎機能の低下がある方
- ●子どものうちに腎嚢胞や、大きく白く映る腎臓を指摘された方
- ●多飲・多尿・夜尿が続き、尿を濃くする力が弱いと言われた方
- ●むくみや血尿が目立たないのに、若い年齢で腎臓の働き(クレアチニン・eGFR)が下がってきた方
- ●きょうだいに同じような腎臓の病気がある方
- ●透析や腎移植を考える前に、腎臓の病気の原因を確かめておきたい方
腎臓以外の症状(目・肝臓・小脳・指・肥満・糖尿病など)を伴う方
腎臓の病気に、網膜の病気(視力の低下・夜盲)、肝臓の線維化や肝嚢胞、小脳の形の特徴と発達の遅れ、手足の指の数が多い(多指症)、肥満、若い年齢の糖尿病などを伴うときは、繊毛病やHNF1B関連の病気を考えます。バルデー・ビードル症候群では、腎臓の病気が52%にみられると報告されています[5]。腎臓の症状がまだ目立たない段階でも、原因がわかれば腎臓の見張りを早くから始められます。
家族歴のない多発性嚢胞腎・画像で判断がつかない方・腎臓を提供する家族
画像で多発性嚢胞腎と診断がつく方も多い一方で、家族歴がない、若くて嚢胞の数が判断の基準に満たない、腎臓の大きさや経過が典型的でない、といった場合には、遺伝子検査が役立ちます。GeneReviewsは、家族歴がないことは多発性嚢胞腎を否定する理由にならないとし、腎臓の提供者(ドナー)になる血縁者で病気を除外する場面にも触れています[2]。日本の「エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン2020」は、遺伝子診断を診断基準には含めていませんが、海外の指針が家族歴のない典型的でない例や腎臓のドナー候補で遺伝子診断を提案していることを紹介しています。
ご家族に多発性嚢胞腎・ネフロン癆の方がいて、「自分も」「子どもにも」と不安な方
親やきょうだいが腎不全になるのを見てきた方の中には、健診で腎臓のことを言われるたびに「自分も同じ道をたどるのでは」と不安を抱えながら暮らしている方もいます。ご家族の原因の変化がわかっていれば、ご自身がその変化を受け継いでいるかどうかを、ピンポイントで確かめられます。受け継いでいないとわかれば、その病気について、ご家族と同じ確率を心配し続ける必要はなくなります。受け継いでいるとわかった場合も、血圧の管理や脳動脈瘤の見張り、治療薬の検討など、次にできることがあります(第9章)。
当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しており、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。なお、日本医学会のガイドライン(2022年改定)は、成年期以降に発症する病気の未成年者への発症前の検査は、原則として本人が成人し自律的に判断できるまで延期すべきとしています。
この検査より別の検査が向いている場合(選び分け)
当院には、腎臓の嚢胞や繊毛病を調べる検査がいくつかあります。比べる相手は検査の種類です。症状に合わせて選んでください。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、症状・画像・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
6. この検査で調べる78遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、次の78遺伝子の塩基配列と、欠失・重複(遺伝子の一部や全体が欠けたり増えたりする変化)を調べます。同じ遺伝子が複数の病気に関係することも多いため、主な病気ごとにグループに分けて載せています。遺伝子名をクリックすると、その遺伝子の解説ページに移ります。
🫘 ① 多発性嚢胞腎(常染色体顕性・ADPKD)と、その仲間
👁 ④ ネフロン癆と、目・小脳・肝臓などを伴う繊毛病
🧩 ⑤ バルデー・ビードル症候群(肥満・多指・網膜・腎臓の症状を伴う繊毛病)
🩸 ⑥ 腎嚢胞と糖尿病(HNF1Bなど・若年発症成人型糖尿病〔MODY〕)
🧪 ⑦ 常染色体顕性尿細管間質性腎疾患(ADTKD)
※遺伝子と病名・遺伝のしかたの対応は、OMIMの登録内容(OMIMを元にしたHGNC・Ensembl・HPO・UniProtのデータで2026年10月に確認)による。主な病名だけを載せ、OMIMの病名は日本語に訳しています。ALG9とADPKDの関係は文献[2]、SEC61Bと多発性肝嚢胞の関係は文献[9]による。
保因者検査・NIPTとの関係
常染色体潜性の病気の遺伝子のうち、PKHD1・NPHP1・NPHP3・INVS・CEP290・TMEM67・RPGRIP1L・BBS1・BBS2・BBS10・BBS12・MKKS・MKS1・IFT140・SDCCAG8・PMM2は、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子)の対象に入っています。NPHP4・IQCB1・NEK8は、女性版1009遺伝子・男性版911遺伝子の版にだけ入っています(2026年10月時点の遺伝子一覧で確認)。ほかの遺伝子が対象かどうかは、それぞれの遺伝子一覧でご確認ください。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(NIPTと一緒に受ける検査で、単独では受けられません)。
また、この検査の78遺伝子のうち、TSC1・TSC2は当院のNIPTのダイヤモンドプランとインペリアルプランで、JAG1・NOTCH2・SRCAP・COL4A1はインペリアルプランで、赤ちゃんに新しく起きた変化を調べられます。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。ほかの遺伝子(PKD1・PKD2・PKHD1・NPHP1など)は、当院のNIPTでは調べられません。
7. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、78遺伝子の小さな変化(1文字の変化や、小さな挿入・欠失)と、遺伝子全体や複数のエクソンにわたる欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●MUC1の主な原因の変化:常染色体顕性尿細管間質性腎疾患(ADTKD-MUC1)の主な原因である、繰り返し配列(VNTR)の中に1文字入る変化は、この検査では見つけられません。この変化は検査そのものが難しいとされています[8]。
- ●原因がまだ見つからない方がいる:ネフロン癆では、今の検査でも4〜5割の方で原因が見つかりません[1]。78遺伝子以外に原因がある場合や、まだ知られていない遺伝子が原因の場合は、この検査では見つかりません。
- ●見つけられない種類の変化:染色体の転座・逆位、リピート(繰り返し配列)の伸長、遺伝子の働きを調節する領域(プロモーターなど)や、エクソンから20塩基より離れた深いイントロンの変化は対象外です。
- ●欠失・重複の範囲:遺伝子全体の欠失・重複は唾液(頬粘膜)でも血液でも、2つ以上続くエクソンの欠失・重複は血液検体でのみ調べられます。1つのエクソンだけの欠失・重複は、ふだんは見つけにくい変化です。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。HNF1B全体の欠失が見つかった場合、欠けている範囲の大きさはマイクロアレイ染色体検査で確かめます。
- ●よく似た配列のある遺伝子:PKD1のように、よく似た配列(偽遺伝子)がほかの場所にある遺伝子では、読み取りが難しい部分があります。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけある変化(モザイク)を見つけることは目的としていません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうかまだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この病気ではないとは言い切れません。
8. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。報告書の読み方は遺伝子検査の結果の見方でも解説しています。
陽性だったとき:病名の確定と、見通し
病気の原因となる変化が見つかると、病名がはっきりし、どの合併症に気をつければよいか、腎臓の働きがどのくらいの速さで落ちやすいかの見通しが立ちます。くわしくは次の第9章でご説明します。
次のお子さんで同じことが起こる確率がわかる
原因がわかれば、次のお子さんで同じ病気が起こる可能性がどれくらいあるか、そして次の妊娠でどう備えられるかを、具体的に考えられるようになります。常染色体潜性の病気でご両親がともに保因者なら妊娠ごとに4分の1、新しく起きた変化なら確率は下がりますがゼロではない、というように、原因と遺伝のしかたで数字が変わります(第4章)。原因がわからないままでは、出生前に調べる的を決めることもできません。
陰性だったとき
原因の変化が見つからなかった場合でも、病気を否定できるわけではありません(第7章)。遺伝子検査を受けても、全員に原因が見つかるわけではありません。日本の未診断疾患イニシアチブ(IRUD)の6年間の成果では、全エクソーム解析を終えた5,136家系のうち、診断がついたのは43.8%でした[14]。陰性でも、次の選択肢があります。症状に合わせて、全エクソーム検査(WES)などの別の検査を考えます。腎臓以外にも多くの症状があり病気をしぼれない場合は、全エクソーム検査のほうが向くこともあります。米国の腎臓病の患者さん3,315人に全エクソーム検査を行った研究では、先天性・嚢胞性の腎臓病の方の23.9%で原因が見つかりました[11]。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。ご家族の症状と変化の有無を照らし合わせたり、研究が進んだりして、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
9. 病的変異が見つかったら、次にできること
わかるだけで終わりではありません。原因がわかると、ご本人の見張りと治療の選び方、ご家族の検査、これからの妊娠の計画まで、立場ごとに次の一歩が決まります。当院は治療を行っていないため、治療や定期的な検査は、腎臓内科・小児腎臓科などの専門の医療機関で受けていただきます。
① ご本人(症状がある方):見張る合併症と、治療の選び方
- ●ADPKD(多発性嚢胞腎):血圧の管理が基本です。治療薬のトルバプタン(サムスカ)は、添付文書で「腎容積が既に増大しており、かつ、腎容積の増大速度が速い常染色体優性多発性のう胞腎の進行抑制」に使うとされ、両側の腎臓の合計の容積が750mL以上、腎容積の増える速さがおおむね年5%以上であることが条件です(PMDA、2025年12月改訂の添付文書)。使えるかどうかは腎臓内科で判断します。
- ●脳動脈瘤の見張り:日本の「エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン2020」は、MRA(頭の血管のMRI)は脳動脈瘤のスクリーニングに有用で、わが国では積極的に行われているとしています。ご家族に脳動脈瘤やくも膜下出血の方がいると頻度が高いことも報告されています[2]。
- ●ネフロン癆・ARPKD:腎臓の働き・電解質・貧血・成長を定期的に確かめ、腎不全に備えて、透析や腎移植の準備を早めに考えられます。
- ●繊毛病(ジュベール症候群・シニア・ローケン症候群・バルデー・ビードル症候群など):腎臓とあわせて、目(網膜)や肝臓の定期的な検査を考えます。
- ●HNF1B関連の病気(腎嚢胞糖尿病症候群):腎臓とあわせて、血糖の確認を続けます。17q12欠失ではMODY5型(若い年齢の糖尿病)が約40%にみられるとされています[7]。
- ●制度:原因が確定していることは、指定難病・小児慢性特定疾病の申請の手がかりにもなります(第10章)。
② 症状のない方・保因者だった方:ご自身の健康と、パートナーの検査
常染色体潜性の病気の保因者とわかった方は、ふつうご自身に症状は出ません。お子さんを考えるときは、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを調べることで、お子さんへの確率がわかります。常染色体顕性の病気(ADPKDなど)の変化を受け継いでいるとわかった症状のない方は、血圧や腎臓の働きの定期的な確認、脳動脈瘤の見張りなど、早めに始められることがあります。
③ 子どもを持つときの選択肢(知ってから選べること)
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
体外受精でできた受精卵を調べる方法(PGT-M)について、日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。日本産科婦人科学会の指針は2026年9月に改定されています。
出生前診断やPGT-Mを受けず、そのまま妊娠・出産を迎えることも、もちろん選べる選択肢です。どの選択をされても、生まれてくるお子さんの見張りや治療の準備を早くから整えられることが、原因を知っておく意味のひとつです。
④ ご家族:きょうだい・親・いとこの検査
ご家族の中で原因の変化がわかると、ほかのご家族は、その変化だけをピンポイントで調べて、受け継いでいるかどうかを確かめられます。きょうだいの方は保因者かどうかを知って将来の結婚・出産を考える手がかりに、常染色体顕性の病気では、症状のないご家族が早めに見張りを始める手がかりになります。症状のない方の検査は、ご本人の同意のうえで行います。
⑤ 当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、次にどうするかを一緒に考えます。ご家族の検査、パートナーの保因者検査、妊娠したときの羊水検査・絨毛検査まで、当院で続けてご相談いただけます(遺伝カウンセリング料は第11章のとおりです)。
10. 日本の制度(2026年10月時点)
多発性嚢胞腎(指定難病67、ADPKDとARPKDの両方を含む)、ネフロン癆(指定難病335)、ジュベール症候群関連疾患(指定難病177)は、指定難病に含まれています。この検査で調べる遺伝子に関係する病気では、ほかに結節性硬化症(158)、アラジール症候群(297)も指定難病です。
小児慢性特定疾病では、多発性嚢胞腎(常染色体優性・常染色体劣性)、ネフロン癆、常染色体優性尿細管間質性腎疾患、ジュベール症候群関連疾患、バルデー・ビードル症候群などが対象疾病に掲載されています。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
11. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・口の内側の粘膜・血液のいずれの検体でも、オンライン診療で受けられます。
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検体の採取お支払い後にキット
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えや品質の問題を防ぐため、キットが届く前にご自身で検体を採取しないでください。血液で検査する場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
12. 院長コラム
🩺 院長コラム【「腎嚢胞」の一言の裏にある、たくさんの病気】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
腎臓の嚢胞は、見た目は同じでも、その裏には常染色体潜性の病気もあれば、顕性の病気も、新しく起きた変化による病気もあります。ご両親がともに保因者だった場合の4分の1と、親から子への2分の1と、新しく起きた変化とでは、ご家族がこれから考えることがまったく違います。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。だからこそ、見た目や家族歴の印象だけで将来を決めてしまわないでほしいと考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。知ったうえで考えたい方には、検査から遺伝カウンセリング、出生前診断まで、当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. ネフロン癆は指定難病ですか?
はい。ネフロン癆は指定難病335です。難病情報センターでは、日本の患者さんは100〜200人程度と推測されています。小児慢性特定疾病の対象疾病にも入っています(2026年10月時点)。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。
Q2. ネフロン癆の寿命や、腎不全になる年齢は?
最も多い若年型では、腎不全(末期腎不全)になる年齢の中央値は13歳とされています。透析や腎移植で治療を続けられますが、腎臓以外の症状(目・肝臓・小脳など)をもつ方では、その経過も見通しに関わります。病気の型と原因の遺伝子がわかると、見通しを立てやすくなります。
Q3. ネフロン癆は遺伝しますか?次の子どもの確率は?
ネフロン癆の多くは常染色体潜性(劣性)遺伝です。ご両親がともに同じ遺伝子の保因者の場合、お子さんがネフロン癆になる確率は妊娠ごとに4分の1です。原因の遺伝子と変化がわかっていれば、次の妊娠で出生前診断を計画できます。
Q4. 多発性嚢胞腎は子どもに遺伝しますか?遺伝する確率は?
大人に多い常染色体顕性多発性嚢胞腎(ADPKD)では、親が原因の変化をもっていると、お子さん1人あたり2分の1の確率で受け継ぎます。子どもで見つかることの多い常染色体潜性多発性嚢胞腎(ARPKD)では、ご両親がともに保因者の場合、妊娠ごとに4分の1です。どちらの型かは、遺伝子検査で確かめられます。
Q5. 家族に多発性嚢胞腎の人がいないのに、多発性嚢胞腎と言われました。遺伝子検査で何がわかりますか?
ご両親に腎嚢胞のない日本人の大人157人を調べた研究では、PKD1・PKD2の病的な変化が見つかったのは32.5%で、IFT140など別の遺伝子の変化が見つかった方もいました。家族歴がないときは、典型的な多発性嚢胞腎とは原因が違うことがあるため、多くの遺伝子をまとめて調べるこの検査が役立ちます。
Q6. 多発性嚢胞腎パネルやネフロン癆パネルと、この検査はどう違いますか?
多発性嚢胞腎パネルは6遺伝子、ネフロン癆パネルは31遺伝子、この検査は78遺伝子を調べます。大人の典型的な多発性嚢胞腎なら多発性嚢胞腎パネル、ネフロン癆やジュベール症候群が強く疑われるならネフロン癆パネル、子どもや若い人の腎嚢胞で原因をしぼれないときや、糖尿病・目・肝臓などの症状を伴うときはこの検査が向いています。
Q7. 家族に腎臓の遺伝の病気があると、結婚や妊娠に差し支えますか?
遺伝の病気があることで、結婚や妊娠ができないということはありません。遺伝する確率は病気と家族ごとに違い、検査で、ご自身が変化をもっているか、パートナーが同じ遺伝子の保因者か、お子さんへの確率はどれくらいかがわかります。知ったうえで、出生前診断なども含めて、おふたりで選べます。
Q8. 費用と、結果が出るまでの日数は?
検査費用は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。至急オプション(55,000円)を使うと、結果までの期間が約7日短くなります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
🧬 一度の検査で、腎臓の病気の原因と、ご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。ネフロン癆や多発性嚢胞腎の原因がわかれば、ご自身の合併症への備えだけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
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※日本の制度(指定難病・小児慢性特定疾病)・治療薬の添付文書・国内の診療ガイドライン・日本産科婦人科学会の指針は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センター・PMDA・各学会の公式ページで2026年10月に確認しました。
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