この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

シニア・ローケン症候群は、腎臓の病気であるネフロン癆(ねふろんろう)と、レーバー先天性黒内障や網膜色素変性症などの網膜の病気が、1人の方に重なって起こる遺伝性の病気です。腎臓と目は別々の診療科で診てもらうことが多いため、「腎臓は腎臓、目は目」と、つながりに気づかれないまま時間がたつことがあります。原因の遺伝子がわかると、腎臓の病気と目の病気が1つの病気としてつながり、腎臓と目の両方を、いつ、何で見張るかの予定が立てられます。このページでは、症状・寿命の見通し・遺伝する確率と、原因となる5つの遺伝子を調べる遺伝子検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
シニア・ローケン症候群の原因となるCEP290・NPHP1・NPHP3・NPHP4・SDCCAG8の5遺伝子に、病気の原因となる変化があるかを一度に調べます。主な原因遺伝子のひとつIQCB1(NPHP5)はこのパネルに入っていませんが、追加して調べることができます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
ネフロン癆と網膜の病気の両方がある方、腎臓だけ・目だけを指摘されていて、もう一方が心配な方、きょうだいにシニア・ローケン症候群の方がいる方、結婚や妊娠を考えていて家族歴が気になる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、腎臓と目の見張りの予定、きょうだいが同じ病気である確率(4分の1)、ご家族の検査、次のお子さんへの備えまで具体的に考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. シニア・ローケン症候群とは:ネフロン癆と網膜の病気が重なる病気
シニア・ローケン症候群(Senior-Loken症候群、SLSN)は、腎臓のネフロン癆と、レーバー先天性黒内障または網膜色素変性症という網膜の病気を、おもな特徴とする遺伝性の病気です[1]。「シニアローケン症候群」と、中黒(・)を入れずに書かれることもあります。
2025年の総説では、シニア・ローケン症候群はおよそ100万人に1人の、まれな病気とされています[2]。両親から1つずつ原因の変化を受け継いだときに起こる常染色体潜性(劣性)遺伝の病気で、これまでに8つの原因遺伝子が知られています[2]。
なぜ腎臓と目が一緒に悪くなるのか:一次繊毛の病気
シニア・ローケン症候群の原因遺伝子は、どれも細胞の表面から1本だけ突き出た「一次繊毛」という、細胞のアンテナのような構造の形や働きに関わっています[2]。この繊毛がうまく働かないと、主に腎臓と目(網膜)に問題が起こるとされています[2]。このように繊毛の異常で起こる病気をまとめて「繊毛病(シリオパチー)」と呼び、シニア・ローケン症候群はそのひとつです。
💡 用語解説:ネフロン癆(ねふろんろう)
ネフロン癆は、尿を濃くする腎臓の力が子どものころから落ちていき、やがて腎不全に進む遺伝性の腎臓の病気です[1]。読み方は「ねふろんろう」です。ネフロン癆だけが起こる方が多く、診断の時点で腎臓以外の症状がある方は10〜20%とされています[1]。その腎臓以外の症状のひとつが網膜の病気で、ネフロン癆と網膜の病気が重なったものがシニア・ローケン症候群です。
ネフロン癆そのものの症状や型についてはネフロン癆の遺伝子検査のページで、網膜色素変性症については網膜色素変性症 総論で詳しく解説しています。このページでは、腎臓と目の両方を1つの病気として考え、検査を受けるかどうかを決めるために必要なことを中心にお伝えします。
2. 症状と寿命の見通し:腎臓(ネフロン癆)と目(網膜)
腎臓では、尿の量が多く、のどがよく渇く(多尿・多飲)ことから始まり、やがて腎不全に進みます。目では、乳幼児期から見えにくい重い型(レーバー先天性黒内障)から、夜に見えにくいことから始まり少しずつ進む型(網膜色素変性症)まで、幅があります[1][2]。
腎臓の症状:多尿・多飲から始まる
遺伝性疾患の解説書GeneReviewsによると、ネフロン癆では尿を濃くする力が落ちるため、尿の量が多くなり(多尿)、水分をたくさん飲みたくなります(多飲)。治療で改善しにくい貧血や、背が伸びにくいこと(成長の遅れ)もよくみられます[1]。水をよく飲む、トイレが近い、といったありふれた様子に見えるため、腎臓の病気だと気づかれるまでに時間がかかることがあります。
ネフロン癆の寿命・予後:腎不全になる年齢と腎移植
ネフロン癆は、ふつう30歳より前に末期腎不全になり、子どものころに発症する若年型では、末期腎不全になる年齢の中央値は13歳とされています[1]。末期腎不全になると、透析か腎移植が必要になります。GeneReviewsは、末期腎不全の治療として腎移植が望ましく、ネフロン癆は移植した腎臓には再発しないとしています[1]。
つまり、ネフロン癆の「寿命」は、腎不全になる時期と、その後の透析・腎移植の経過で大きく変わります。腎臓の働きを早くから見張り、腎不全に備えて準備しておくことが、見通しを左右します。
目の症状:レーバー先天性黒内障と網膜色素変性症
2025年の総説によると、早く発症する型はレーバー先天性黒内障として現れ、2歳より前から目が揺れる(眼振)、光への瞳の反応が弱い、見えない、といった症状がみられます。遅れて発症する型では、暗いところで見えにくい(夜盲)ことから始まり、網膜色素変性症と同じように少しずつ進みます[2]。どちらになるかは、原因の遺伝子と、遺伝子のどこにどんな変化があるかによって違うとされています[2]。
腎臓と目の重さは連動しない
腎臓が軽いから目も軽い、目が軽いから腎臓も大丈夫、とは言えません。韓国でシニア・ローケン症候群と遺伝子で確かめられた17人を調べた研究では、腎臓の悪さと視力の落ち方の重さは相関していませんでした。研究チームは、診断した時点で腎臓と目の両方を一緒にくわしく調べるべきだとしています[3]。人数の少ない研究で、統計的な結論には限りがあると研究チーム自身が書いていますが、腎臓と目を別々に見張る必要があることを示す結果です。
3. 原因遺伝子と遺伝のしかた
シニア・ローケン症候群の原因遺伝子には、NPHP1・NPHP3・NPHP4・IQCB1(NPHP5)・CEP290・SDCCAG8・WDR19・TRAF3IP1の8つが知られています[2]。どの遺伝子が原因かによって、目の病気が起こる確率や重さが違います。
原因遺伝子で、目の病気の起こりやすさが違う
2025年の総説では、NPHP1〜NPHP4の変化によるネフロン癆で網膜の病気が起こる確率は10〜33%とされる一方、IQCB1の変化ではほぼ全員(100%)がシニア・ローケン症候群になると考えられています。CEP290の変化も、つねに網膜の病気を伴うとされています[2]。GeneReviewsも、IQCB1では全員に網膜色素変性症がみられるとしています[1]。
前の章の韓国の17人の研究では、原因遺伝子の内訳はNPHP1が35.3%で最も多く、NPHP4とIQCB1がそれぞれ29.4%、SDCCAG8が5.9%でした。遺伝子ごとの特徴は次のとおりです[3]。
🧬 韓国の17人の研究でみられた、原因遺伝子ごとの特徴
※Song JR, et al. 2025[3]による。韓国の17人という少ない人数の研究で、同じ遺伝子でも一人ひとりの経過は違います。
常染色体潜性(劣性)遺伝:きょうだいが同じ病気である確率は4分の1
常染色体潜性遺伝では、ご両親がそれぞれ1つずつ原因の変化をもつ「保因者」で、ご両親自身には症状がないのがふつうです。ご両親がともに保因者のとき、お子さん1人ごとに、病気になる確率は4分の1(25%)、症状のない保因者になる確率は2分の1(50%)、どちらでもない確率は4分の1(25%)です[1]。上のお子さんがどうだったかで、下のお子さんの確率が変わることはありません。
ご本人がシニア・ローケン症候群の場合、パートナーが同じ遺伝子の病的変化をもたない(同じ病気でも保因者でもない)とき、お子さんは全員が原則として症状のない保因者になります[1]。保因者には症状がなく、この病気になる心配もないとされています[1]。2つの変化がそれぞれ違う場所にある場合(複合ヘテロ接合)も、同じ考え方です。遺伝のしくみは劣性遺伝(潜性遺伝)とは?で図を使って解説しています。
4. どんな人がこの検査を受けるとよいか
腎臓(ネフロン癆)と目(網膜の病気)の両方がある方はもちろん、どちらか一方だけを指摘されている方にも意味のある検査です。腎臓の病気だけで見つかった方が、あとから腎臓以外の症状を示すことがあるとされているためです[1]。
腎臓が悪いと言われたお子さん・ご本人:目の見張りにつながる
ネフロン癆と言われた方の多くは、腎臓だけの病気として見つかりますが、はじめは腎臓だけだった方が、あとから腎臓以外の症状を示すことがあるとされています[1]。原因の遺伝子がわかり、それが網膜の病気を起こしやすい遺伝子(IQCB1やCEP290など)だった場合は、目の症状がまだなくても、眼科で網膜を調べる予定を立てられます[2]。
目が悪いと言われたお子さん・ご本人:腎臓の見張りにつながる
レーバー先天性黒内障や網膜色素変性症と言われた方のなかに、まだ腎臓の病気に気づかれていない方がいることがあります。ネフロン癆は多尿・多飲から始まるため[1]、腎臓の病気だと気づかれにくいことがあります。目の病気の原因がシニア・ローケン症候群の遺伝子だとわかれば、血圧・尿・血液の検査で腎臓の働きを定期的に確かめる理由がはっきりします。
きょうだい・ご家族にシニア・ローケン症候群の方がいる
GeneReviewsは、ネフロン癆と診断された方の年上・年下のきょうだいを調べ、早く見つけることが適切だとしています[1]。ご家族の原因の変化がすでにわかっていれば、その結果がいちばんの手がかりになります(報告書をお持ちください)。わかっていなければ、まず原因を確かめるところから一緒に考えます。
結婚・妊娠を考えている方
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。網膜色素変性症やネフロン癆の当事者の方にとっても、きょうだいにこの病気の方がいる方にとっても、妊娠の前にご自身とパートナーのことを知っておくと、選べることが増えます。ご家族で2つの原因の変化がわかっていれば、妊娠中の赤ちゃんの検査(出生前検査)や、着床前の検査も可能とされています[1]。詳しくは第7章でご説明します。
この検査より別の検査が向いている場合
シニア・ローケン症候群の原因遺伝子は、ネフロン癆・網膜の病気・ほかの繊毛病の検査と重なっています。症状に合わせて、次のように選びます。比べているのは検査の種類で、どれが優れているという意味ではありません。
🔍 症状・検査の結果から、どの検査を選ぶか
※どの検査が合うかは、症状・画像・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
5. この検査で調べる5遺伝子と、関係する病気
この検査では、シニア・ローケン症候群に関わるCEP290・NPHP1・NPHP3・NPHP4・SDCCAG8の5遺伝子を、まとめて調べます。5つとも常染色体潜性(劣性)遺伝の病気の原因になる遺伝子で、シニア・ローケン症候群のほかに、ネフロン癆だけの型や、ほかの繊毛病の原因にもなります。
🧬 シニア・ローケン症候群パネル検査で調べる5遺伝子
※対象遺伝子は当院の検査内容(2026年10月20日に検査の内容を確認)。関係する病気と遺伝のしかたはOMIMと文献[1][2]による。
IQCB1(NPHP5)はこのパネルに入っていません:2つの選び方
シニア・ローケン症候群の主な原因遺伝子のひとつであるIQCB1(NPHP5)は、このパネルの5遺伝子に入っていません。IQCB1はシニア・ローケン症候群5型の原因で、変化があるとほぼ全員に網膜の病気が起こるとされ[1][2]、韓国の研究では17人のうち29.4%がIQCB1によるものでした[3]。
このパネルに入っていないIQCB1(NPHP5)遺伝子も、追加して調べることができます。遺伝カウンセリングのときにご相談ください。パネルに遺伝子を足して調べる方法は、カスタマイズ遺伝子パネル検査のページでご案内しています。
🧭 IQCB1も調べたいときの2つの選び方
※②はネフロン癆の遺伝子検査のページをご覧ください。どちらが合うかは、遺伝カウンセリングで症状を伺って一緒に決めます。
NPHP1の大きな欠失も調べる対象
NPHP1では、遺伝子の文字(塩基)が1つ変わる変化よりも、約290kbの大きな欠失が多く、この欠失はネフロン癆の原因として最も多い(約25%)とされています。GeneReviewsは、この欠失を見つけるには、欠失・重複を調べる解析(MLPA法など)や、ゲノム全体を調べる方法が必要としています[1]。この検査は、遺伝子の配列を読む解析に加えて、欠失・重複の解析も行います(料金に含まれます)。くわしい範囲は次の章でご説明します。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、5遺伝子の小さな変化(1つの塩基の変化や、小さな挿入・欠失)と、遺伝子がまるごと、あるいは続いた複数のエクソンが欠ける・重なる変化です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●読む範囲:タンパク質の設計図になる部分(エクソン)と、そのすぐ隣にあるイントロンの10塩基程度(スプライス部位)を読みます。それより奥のイントロンや、遺伝子の働きを調節する部分の変化は、基本的に対象外です。
- ●欠失・重複の範囲:遺伝子が1つまるごと欠ける・重なる変化(血液と口の内側の粘膜の検体)と、2つ以上続いたエクソンの変化(血液の検体のみ)を見つける対象にしています。エクソン1つだけの欠失・重複は、見つかることもありますが、ふだんは検出できません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●似た配列の影響:よく似た配列がほかの場所にある部分では、解析が難しくなることがあります。NPHP1のまわりにも似た配列(低コピー反復配列)があり、大きな欠失はこれが原因で起こるとされています[1]。
- ●調べていない原因:IQCB1・WDR19・TRAF3IP1など、この5遺伝子以外のシニア・ローケン症候群の原因遺伝子は含まれていません(IQCB1は追加できます)。染色体の入れ替わり(転座・逆位)や、繰り返し配列が長くなる変化も検出できません。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態を見つけるようには作られていません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今の研究ではまだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、この検査で調べていない遺伝子や、検出できない種類の変化が原因である可能性が残ります。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。結果の見方はNIPT/遺伝子検査結果の見かたでも解説しています。
病的変異が見つかったら、次にできること
「わかっても何もできないのでは」と思われるかもしれません。でも、シニア・ローケン症候群は、原因がわかったあとにできることがはっきりしている病気です。読む方の立場ごとにまとめます。
①ご本人(症状がある方):病名が決まり、腎臓と目の見張りの予定が立つ
シニア・ローケン症候群と確定すれば、腎臓の病気と目の病気を別々の病気としてではなく、1つの病気として考えられます。GeneReviewsは、ネフロン癆の方全員に、少なくとも年に1回、血圧・尿検査・腎臓の働き(クレアチニン・eGFR・電解質)・血球数・腎臓病に伴う骨やミネラルの変化・肝臓の働きを確かめることを勧めています[1]。目については、原因の遺伝子から網膜の病気の起こりやすさの見当がつくので、眼科で網膜を調べる時期を相談できます[2]。末期腎不全に近づいたときに、透析か腎移植かを早めに準備できるのも、原因がわかっていることの意味です。2025年の総説では、シニア・ローケン症候群を根本から治す治療はまだないとされ、遺伝子を直す方法などの研究が進められている段階です[2]。治療は腎臓内科・眼科などの専門の医療機関で受けていただきます。
②症状のないご家族(保因者だった方など):ご自身の健康と、パートナーの検査
保因者には症状がなく、この病気になる心配もないとされています[1]。気をつけたいのは、お子さんを考えるときです。パートナーも同じ遺伝子の保因者かどうかを調べると、お子さんが病気になる確率がわかります。CEP290・NPHP1・NPHP3・SDCCAG8は、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・男性版714遺伝子)の対象に入っています。NPHP4とIQCB1は、この遺伝子一覧には入っていません。妊娠中の方は、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(単独では受けられません)。
③子どもを持つときの選択肢:知ってから選べる
ご家族で2つの原因の変化がわかっていれば、妊娠中の出生前検査と着床前の検査が可能とされています[1]。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。この病気の原因遺伝子は、当院のNIPTの単一遺伝子の対象には入っていません。日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。どの検査も受けずに、そのまま妊娠・出産を迎えることも、尊重される選択です。
④ご家族:きょうだいの早めの見張りと、腎移植のドナーの検査
ご本人の原因がわかれば、きょうだいは同じ変化をもっているかを、ピンポイントで調べられます。GeneReviewsは、遺伝カウンセリングを行ったうえでなら、未成年のきょうだいにも発症を予測する検査を提案できるとしています[1]。検査を受けないきょうだいには、年1回の血圧と尿たんぱくの確認、年1回または2年に1回の腎臓と肝臓の働きの確認が勧められています[1]。また、腎移植のドナーになることを考えているご家族は、同じ変化をもっていないかを調べておくことが勧められています。保因者であることだけでは、ふつうドナーになれない理由にはならないとされています[1]。
⑤当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、次に何をするかを一緒に考えます。ご家族の検査や、パートナーの保因者検査、妊娠したときの出生前診断まで、当院で続けてご相談いただけます(遺伝カウンセリング料は第9章のとおりです)。
陰性だったとき
5遺伝子に原因が見つからなかった場合も、シニア・ローケン症候群が否定されたわけではありません(第6章)。とくに、IQCB1・WDR19・TRAF3IP1など、このパネルにない遺伝子が原因のことがあります。次の選択肢として、IQCB1の追加、ネフロン癆の遺伝子検査(31遺伝子)、繊毛病の遺伝子パネル検査、全エクソーム検査などを考えます。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査や出生前診断に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
8. 日本の制度(2026年10月時点)
ネフロン癆は指定難病335で、小児慢性特定疾病(慢性腎疾患)の対象にもなっています。網膜色素変性症は指定難病90です(2026年10月時点で確認)。シニア・ローケン症候群という病名そのものではなく、腎臓の病気(ネフロン癆)や目の病気(網膜色素変性症)として、それぞれの制度の対象になりうる、という考え方になります。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の基準を満たし、申請する必要があります。遺伝子検査で原因が確定していることは、病名をはっきりさせる手がかりになります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・口の内側の粘膜・血液のいずれでも、オンライン診療で受けられます。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
お支払い・検体キットをお送りします
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える状態の検体をいただくため、キットが届く前にご自身で勝手に検体を採らないでください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【腎臓と目を、1つの病気として見る】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
シニア・ローケン症候群は潜性遺伝の病気で、ご両親は症状のない保因者であることがほとんどです。保因者であることは、誰にでもありうることです。遺伝子の変化は誰のせいでもありません。
この病気で私がいちばん大切だと考えているのは、腎臓と目を、別々の病気ではなく1つの病気として見ることです。腎臓が悪いと言われたお子さんの目のこと、目が悪いと言われたお子さんの腎臓のことは、原因がわからないままだと、見張る理由がはっきりしません。原因の遺伝子がわかってはじめて、いつ、何を調べればよいかが決まります。きょうだいの見張りや、腎移植を考えるときのご家族の検査も、そこから始まります。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、パートナーの保因者検査から出生前診断まで、当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. シニア・ローケン症候群とはどんな病気ですか?
腎臓の病気であるネフロン癆と、レーバー先天性黒内障や網膜色素変性症などの網膜の病気が重なって起こる、常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です。細胞のアンテナのような一次繊毛の働きに関わる遺伝子の変化で起こり、およそ100万人に1人のまれな病気とされています。
Q2. ネフロン癆の寿命・予後はどうですか?
ネフロン癆は、ふつう30歳より前に末期腎不全になり、若年型では末期腎不全になる年齢の中央値は13歳とされています。末期腎不全には透析か腎移植で対応し、ネフロン癆は移植した腎臓には再発しないとされています。見通しは、腎臓の働きを早くから見張り、腎不全に備えることで大きく変わります。
Q3. ネフロン癆やシニア・ローケン症候群は指定難病ですか?
ネフロン癆は指定難病335で、小児慢性特定疾病(慢性腎疾患)の対象にもなっています。網膜色素変性症は指定難病90です(2026年10月時点)。シニア・ローケン症候群の方は、腎臓や目の病気として、それぞれの制度の対象になりうると考えられます。助成を受けるには、認定の基準を満たし、申請する必要があります。
Q4. 遺伝する確率は?きょうだいや子どもへの影響は?
ご両親がともに保因者の場合、お子さん1人ごとに病気になる確率は4分の1、症状のない保因者になる確率は2分の1です。ご本人がシニア・ローケン症候群でも、パートナーが同じ遺伝子の病的変化をもたない場合、お子さんは全員が原則として症状のない保因者になります。パートナーの保因者検査で、お子さんへの確率を具体的に考えられます。
Q5. 腎臓だけ、または目だけの症状でも検査できますか?
できます。腎臓の病気だけで見つかった方が、あとから目などの症状を示すことがあるとされています。原因の遺伝子がわかれば、まだ症状のない側(目または腎臓)を、いつ、何で見張ればよいかの予定が立てられます。腎臓の病気が中心で型がしぼれない場合は、ネフロン癆の遺伝子検査(31遺伝子)が向くこともあります。
Q6. 網膜色素変性症やネフロン癆があると、結婚できないのですか?
そのようなことはありません。結婚するかどうかは、ご本人とパートナーが決めることです。潜性遺伝の病気では、パートナーが同じ遺伝子の病的変化をもたない場合、お子さんが同じ病気になることは原則としてありません。ご自身の原因の遺伝子と、パートナーが保因者かどうかを知っておくと、お子さんへの確率や、出生前診断などの選択肢を具体的に考えられます。
Q7. IQCB1(NPHP5)も調べたいときはどうすればよいですか?
このパネルに入っていないIQCB1(NPHP5)遺伝子も、追加して調べることができます。遺伝カウンセリングのときにご相談ください。腎臓の病気が中心で型がしぼれない場合は、IQCB1を含む31遺伝子を調べるネフロン癆の遺伝子検査を選ぶ方法もあります。
Q8. 腎移植のドナーになりたい家族も検査したほうがよいですか?
腎移植のドナーになることを考えているご家族は、同じ遺伝子の変化をもっていないかを調べておくことが勧められています。保因者であることだけでは、ふつうドナーになれない理由にはならないとされています。ご本人の原因の変化がわかっていれば、ご家族はその場所をピンポイントで調べられます。
🧬 一度の検査で、腎臓と目、ご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。シニア・ローケン症候群の原因がわかれば、腎臓と目の見張りの予定、きょうだいの検査、腎移植を考えるときのご家族の検査、結婚・妊娠の計画まで、具体的に考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
- [1] Stokman M, Lilien M, Knoers N. Nephronophthisis-Related Ciliopathies. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 2016 (Updated 2023 Mar 2). [NCBI Bookshelf NBK368475]
- [2] Zhou D, Zeng Y, Luo W, Leng C, Li C. Senior–Loken Syndrome: Ocular Perspectives on Genetics, Pathogenesis, and Management. Biomolecules. 2025;15(5):667. [DOI: 10.3390/biom15050667]
- [3] Song JR, Jung S, Joo K, Choi HI, Kim YJ, Woo SJ. Clinical and Genetic Characteristics of Senior-Loken Syndrome Patients in Korea. Genes. 2025;16(7):835. [DOI: 10.3390/genes16070835]
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