この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

先天性肝線維症は、生まれつき肝臓の中の胆管と門脈の形づくりがうまくいかず、肝臓に線維が増えていく病気です。肝臓の働きそのものは保たれやすい一方で、脾臓が大きくなる・血小板が減る・食道静脈瘤ができる・胆管炎をくり返す、といった形で見つかります。多くは腎臓の病気(常染色体潜性〔劣性〕多発性嚢胞腎など)と一緒に起こる、細胞の「アンテナ」(一次繊毛)の病気です。原因の遺伝子がわかると、肝臓と腎臓の何を・いつ見張ればよいかが決まり、ご家族や次のお子さんのことも具体的に考えられるようになります。このページでは、先天性肝線維症の原因・遺伝する確率と、34遺伝子を一度に調べる遺伝子検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 先天性肝線維症の遺伝子検査で何がわかりますか?
先天性肝線維症と、それを伴いやすい繊毛病(常染色体潜性多発性嚢胞腎・ジュベール症候群・バルデー・ビードル症候群・ネフロン癆など)の原因となる34遺伝子をまとめて調べ、どの病気・どの遺伝のしかたかを確かめます。いちばん多い原因はPKHD1遺伝子です。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
肝臓や脾臓が大きい・血小板が少ない・食道静脈瘤や胆管炎がある方、多発性嚢胞腎と言われた方、妊娠中に胎児の腎臓が大きいと言われた方や、ご家族に同じ病気の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・口の内側の粘膜などで、唾液・口の粘膜ならオンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。ご両親がともに同じ常染色体潜性遺伝性疾患の保因者なら、次のお子さんが同じ病気になる確率は4分の1です。ご家族の検査や、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 先天性肝線維症とは:肝臓の線維化と門脈圧亢進症の病気
先天性肝線維症(Congenital Hepatic Fibrosis:CHF)は、胎児のときに肝臓の中の胆管と門脈がつくられる過程の異常から起こる、生まれつきの病気です。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsは、胆管のもとになる「胆管板」がうまく作り変えられないこと(胆管板形成異常)、肝臓の中の門脈の枝分かれの異常、門脈のまわりで少しずつ進む線維化、の3つを特徴としています[1]。
門脈は、腸や脾臓から集めた血液を肝臓へ運ぶ太い血管です。門脈のまわりに線維が増えて血液が流れにくくなると、門脈の圧が上がる「門脈圧亢進症」が起こります。先天性肝線維症で困ることの多くは、この門脈圧亢進症と、胆管の形の異常から起こる胆管炎です。
肝硬変・肝線維症との違い:肝臓の働きは保たれやすい
先天性肝線維症は、見た目は肝硬変に似ていても、肝細胞の働きは比較的保たれるのが特徴です[1]。大人の「肝線維症」や「肝硬変」の多くは、ウイルス・アルコール・脂肪肝などで肝細胞が傷ついた結果として起こります。これに対して先天性肝線維症は、生まれつきの形づくりの違いが出発点です。そのため、肝臓の血液検査(ASTやALTなど)がほとんど正常のまま、脾臓が大きい・血小板が少ないことで見つかることがあります。
カロリ病・カロリ症候群との関係
先天性肝線維症に、胆管とつながった袋状の拡張(肝内胆管の嚢状拡張)を伴うものを「カロリ症候群」、先天性肝線維症を伴わずに胆管の袋状の拡張だけがあるものを「カロリ病」と呼ぶことがあります[1]。どちらも胆汁がたまりやすく、胆管炎を起こしやすくなります。常染色体潜性多発性嚢胞腎の方73人を調べた米国の研究では、40%にカロリ症候群がみられました[4]。
常染色体潜性(劣性)多発性嚢胞腎(ARPKD)と腎臓の病気
先天性肝線維症は、腎臓の病気を伴う繊毛病と一緒に起こることが最も多く、なかでも代表的なのが常染色体潜性(劣性)多発性嚢胞腎(ARPKD)です[1]。155本の論文から1,230人の先天性肝線維症の報告を集めた研究では、64%がARPKDに伴う先天性肝線維症、9.5%が腎臓の病気を伴わない先天性肝線維症に分類されていました[1][5]。
ARPKDは、欧州では出生約2万人に1人と推定され、保因者は約70人に1人とされています[2]。日本の小児慢性特定疾病情報センターは、ARPKDの頻度を出生1万〜4万人に1人としています(2026年10月時点で確認)。大人に多い常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎(ADPKD)とは、原因の遺伝子も遺伝のしかたも違う病気です。多発性嚢胞腎の全体像は多発性嚢胞腎 総論で解説しています。
2. 症状:脾臓が大きい・血小板が少ない・食道静脈瘤・胆管炎
先天性肝線維症の症状は、門脈圧亢進症によるもの(脾臓が大きくなる・血小板や白血球が減る・食道や胃の静脈瘤)と、胆管炎の2つが中心です[1]。症状が出る年齢や重さは、人によって大きく違います。
門脈圧亢進症で気づくきっかけ
GeneReviewsによると、線維化と門脈圧亢進症が進むと脾臓が大きくなり、血小板と白血球が減ります(脾機能亢進)。さらに、食道や胃に静脈瘤などの回り道の血管ができ、静脈瘤が大きくなるほど出血のリスクが高まります[1]。
ARPKDの方73人(1〜56歳)を調べた研究では、最初の症状が肝臓に関係していた方は26%で、65%に脾腫がありました。5歳未満のお子さんでも60%で脾臓が大きくなっており、内視鏡検査を受けた31人のうち22人に静脈瘤が見つかっています。研究者は、門脈圧亢進症は早くから始まるのに見逃されやすい、と指摘しています[4]。脾臓の大きさのいちばんよい手がかりは、血小板の数でした[4]。原因のわからない血小板減少や脾腫(脾腫 血小板減少)で検査を受けている方の中に、この病気が隠れていることがあります。
胆管炎と、大人になってからの胆管がん
胆管の形の異常があると、胆管炎を起こしやすくなり、頻度は低いものの胆石や胆管がんのリスクも高まります[1]。先述の1,230人の報告では、門脈圧亢進症による合併症が409人、胆管炎が152人、悪性腫瘍が21人に記録されていました[5]。このうち胆道系のがん21人の19人が胆管がんで、診断時の平均年齢は60.1歳でした[1]。
カロリ病・カロリ症候群の方198人を調べたドイツの多施設研究では、7.1%(カロリ病6.3%、カロリ症候群7.6%)に胆管がんが見つかっています[8]。小児慢性特定疾病情報センターも、成人では胆管がんのリスクが高くなるとしています(2026年10月時点で確認)。子どものころの病気と思われがちですが、大人になっても見張りを続けることが大切な病気です。
予後・寿命の見通し
先天性肝線維症の見通しは、門脈圧亢進症・胆管炎の程度と、一緒にある腎臓の病気の重さで大きく変わります。静脈瘤には内視鏡での結紮術(小さいお子さんでは硬化療法)、出血をくり返す場合には門脈の血液を逃がすシャント手術、胆管炎をくり返す場合には肝移植が検討されます[1]。
ARPKDでは、20〜30%のお子さんが新生児期から1歳までに亡くなりますが、1歳を超えたお子さんの10年生存率は82%と報告されています[2]。また、ARPKDでは腎臓の重さと肝臓の重さは別々に決まることが示されており[4]、腎臓が軽くても肝臓の見張りは欠かせません。
3. 原因遺伝子と遺伝のしかた・遺伝する確率
先天性肝線維症の多くは、細胞のアンテナにあたる「一次繊毛」の働きに関わる遺伝子の変化で起こり、多くは常染色体潜性(劣性)遺伝です。いちばん多い原因はPKHD1遺伝子ですが、ほかにも多くの遺伝子が知られています。
一次繊毛(細胞のアンテナ)の病気
GeneReviewsは、先天性肝線維症は腎臓の病気を伴う繊毛病(一次繊毛の病気)と一緒に起こることが最も多いとしています[1]。一次繊毛は、ほとんどの細胞の表面から1本だけ突き出た小さな毛のような構造で、周りの情報を受け取るアンテナの役目をしています。中の物を運ぶしくみは繊毛内輸送(IFT)と呼ばれます。
このアンテナは胆管・腎臓の尿細管・網膜・脳など多くの臓器にあるため、働きがうまくいかないと、肝臓・腎臓・目・脳・指などの症状が組み合わさって起こります。こうした病気をまとめてシリオパチー(繊毛病)と呼びます。気管や卵管で「動く線毛」が働かない原発性線毛機能不全症候群とは、別の種類の病気です。
いちばん多い原因はPKHD1
ARPKDの大部分は、PKHD1遺伝子の2本ともに病的な変化があることで起こります[2]。まれに、DZIP1L遺伝子の変化でもARPKDが起こることが報告されています[2][7]。
PKHD1の変化の組み合わせと重さの関係について、2004年の報告では、タンパク質が途中で切れてしまう型の変化を2つもつ方は全員が周産期・新生児期の重い経過で、新生児期を越えた方は少なくとも1つ、アミノ酸が1つ置き換わる型(ミスセンス)の変化をもっていました[6]。ただし、その後の報告では、切れる型を2つもっていても新生児期を越えた方も記載されています[2]。変化の組み合わせは見通しの手がかりにはなりますが、一人ひとりの経過を決めつけるものではありません。
肝線維症を伴うほかの繊毛病
GeneReviewsは、先天性肝線維症を伴うことがある病気として、ARPKDのほかに、メッケル症候群、ネフロン癆、ジュベール症候群とその関連疾患、バルデー・ビードル症候群、エリス・ファンクレフェルト症候群、ジュヌ症候群(窒息性胸郭異形成症)、腎・肝・膵異形成、口顔指症候群Ⅰ型、常染色体顕性多発性嚢胞腎などを挙げています[1]。このパネルは、これらの病気の原因になる遺伝子をまとめて調べます。
🧬 先天性肝線維症を伴うことがある主な病気
※病気の一覧はGeneReviews[1]、遺伝子と病気の対応はOMIMの病型番号(UniProtで確認)による。遺伝子ごとの詳しい対応は第5章の表をご覧ください。
遺伝する確率:潜性・顕性・X連鎖
このパネルで見つかる病気の多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに保因者の場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で同じ病気になります[2]。遺伝のしかたは原因の遺伝子で決まるので、まず原因を確かめることが、確率を正しく知る出発点です(遺伝形式とは)。
- ●常染色体潜性(劣性)遺伝(PKHD1・ジュベール・バルデー・ビードル・ネフロン癆の遺伝子など):ご両親は通常症状のない保因者です。お子さんが病気になる確率は4分の1、保因者になる確率は2分の1です。2つの変化が別々の種類のこともあり、これを複合ヘテロ接合といいます。
- ●常染色体顕性(優性)遺伝(PKD1・PKD2):病気の方のお子さんは、1人ごとに2分の1の確率で同じ変化を受け継ぎます(常染色体顕性遺伝)。
- ●X連鎖遺伝(OFD1):お母さんが変化をもっているかどうかで、お子さんへの確率が変わります。
ARPKDの保因者は約70人に1人と推定されており[2]、保因者であることは珍しいことではありません。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
4. どんな人がこの検査を受けるとよいか
肝臓・脾臓・血小板・胆管・腎臓のどれかに先天性肝線維症を思わせる所見がある方、妊娠中に胎児の腎臓の異常を言われた方、ご家族に同じ病気の方がいる方に向く検査です。見た目や家族歴だけでは判断できないことが多いので、迷ったら遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。
症状があり、原因を確かめたい方
- ●肝臓や脾臓が大きいと言われた方、原因のわからない血小板減少・白血球減少がある方
- ●食道・胃の静脈瘤や、吐血・消化管出血の経験がある方
- ●原因のわからない胆管炎をくり返す方、画像で胆管の拡張(カロリ病・カロリ症候群)を指摘された方
- ●肝臓の血液検査はほぼ正常なのに、門脈圧亢進症があると言われた方
- ●多発性嚢胞腎・ネフロン癆と言われ、肝臓にも所見がある方
- ●ジュベール症候群・バルデー・ビードル症候群などの繊毛病を疑われ、原因の遺伝子を確かめたい方
希少な病気の方6,507人を対象にした欧州などの調査では、最初に医療機関にかかってから診断がつくまで平均4.7年かかっていました[9]。先天性肝線維症のように、肝臓・脾臓・血液・腎臓と症状がばらばらの科で見つかる病気では、原因の遺伝子がわかることで、ばらばらだった症状が1つの病気としてつながります。
妊娠中に胎児の腎臓が大きいと言われた方
ARPKDでは、胎児の超音波で腎臓が大きく白っぽく見える所見が、妊娠の後半に見つかることが多いとされています[2]。腎臓の働きが悪いと羊水が少なくなり、肺の育ちが不十分になる(肺低形成)ことがあります[2]。
国際的な専門家の合意(2014年)は、出生前に早く確実に診断できるのは遺伝子の解析だけだとしています[3]。ただし、超音波の所見だけでは、ARPKDか、メッケル症候群などのほかの繊毛病か、繊毛病以外の腎臓の病気かは決められません。胎児そのものを調べる場合は、絨毛・羊水からの検査になります。今の妊娠でどこまで調べられるか、時間的に間に合うかは、週数と所見によって違うため、できるだけ早く遺伝カウンセリングでご相談ください。超音波で腎臓の異常を言われた方には、出生前全エクソーム(WES)検査が向くこともあります。
ご家族に同じ病気の方がいる・結婚を考えている方
上のお子さんがARPKDや先天性肝線維症と診断された方、きょうだいや親戚に同じ病気の方がいる方は、ご家族の原因を確かめておくと、ご自身が保因者かどうか、次のお子さんへの確率はどれくらいかを具体的に考えられるようになります。結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。知ったうえで選べるように、検査から出生前診断まで当院で続けてお支えします。
症状のないご本人やパートナーが保因者かどうかを調べたい場合は、拡大版保因者スクリーニング(ブライダルチェック)も選べます。このパネルの34遺伝子のうち、PKHD1を含む25遺伝子が、女性版787遺伝子の対象に入っています(GLIS2・IFT80・IQCB1・NEK8・NPHP4・OFD1・PKD1・PKD2・TTC21Bは対象外。2026年10月時点で一覧を確認)。
症状・検査の結果から、どのパネルを選ぶか
肝臓の線維化・門脈圧亢進症が中心ならこの検査、腎臓の嚢胞が中心なら多発性嚢胞腎・ネフロン癆パネル、目や脳など多くの臓器に症状があって病気をしぼれないなら繊毛病パネルが目安です。このパネルの34遺伝子は、繊毛病パネル(102遺伝子)にすべて含まれています。一方で、ARPKDの2つ目の原因であるDZIP1Lや、多発性肝嚢胞の遺伝子はこのパネルに入っていません。
🔍 症状・検査の結果に合わせたパネルの選び方
※遺伝子数は2026年10月20日時点の各ページによる。どの検査が合うかは、症状・画像・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
5. 調べる34遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、先天性肝線維症とそれを伴う繊毛病に関係する34遺伝子を、次世代シークエンサーでまとめて調べます。遺伝子ごとに起こる病気と遺伝のしかたは次のとおりです。
🧬 先天性肝線維症遺伝子パネルの対象34遺伝子
※対象遺伝子は当院の検査内容(2026年10月20日に検査の内容を照合)による。病名と遺伝のしかたはOMIMの病型番号をUniProtで確認したもの、ジュベール症候群の遺伝のしかたはGeneReviews・MedlinePlusによる。AR=常染色体潜性(劣性)、AD=常染色体顕性(優性)、XL=X連鎖。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、34遺伝子の小さな変化(1文字の置き換わり、小さな挿入・欠失)と、遺伝子全体や2つ以上続くエクソンにわたる欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●調べていない遺伝子:DZIP1L(ARPKDの2つ目の原因)や、多発性肝嚢胞・ほかのネフロン癆の遺伝子(DCDC2・WDR19・TMEM216など)は、このパネルに入っていません。必要なら別のパネルを選びます(第4章の表)。
- ●大きさの変化の一部:欠失・重複(CNV)は、遺伝子全体(血液・頬の粘膜)と、2つ以上続くエクソン(血液のみ)が対象です。エクソン1つだけの欠失・重複は、見つかることもありますが、ふだんは検出の対象外です。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●見つけられない種類の変化:染色体の入れ替わり(転座・逆位)、繰り返し配列の伸び、遺伝子のスイッチ部分(プロモーター)や、エクソンから20塩基より奥のイントロンの変化は対象外です。
- ●似た配列・読みにくい場所:よく似た配列(偽遺伝子など)がある場所では、まれに判定がむずかしくなることがあります。読み取りの質が低い場所は、サンガー法で確かめます。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけある変化(体細胞モザイク)を見つけるようには作られていません。がんの組織の検査にも使えません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうかまだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、先天性肝線維症ではないとは言えません。診断は、画像や肝臓の組織の所見にもとづいて行われます。
日本の未診断疾患イニシアチブ(IRUD)では、エクソーム解析を終えた5,136家系のうち2,247家系(43.8%)で診断が確定しました[10]。広く調べても診断がつくのは半分に届かないのが現状で、遺伝子検査ですべてがわかるわけではありません。それでも、原因がわかった方には、次に打てる手がはっきりします(次の章)。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。報告書の読み方はNIPT/遺伝子検査結果の見かたでも解説しています。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかると、「何の病気か」だけでなく、「これから何を見張り、家族のために何ができるか」が決まります。小児のエクソーム・ゲノム解析の研究を集めたACMGの系統的レビューでは、167研究のうち95%が、患者さんやご家族の診療方針に何らかの変化があったと報告していました(研究の数の割合で、患者さんの割合ではありません)[11]。読む方の立場ごとに整理します。
① ご本人(症状がある方)
病名と遺伝のしかたがはっきりします。ARPKDの国際的な専門家の合意(2014年)は、血液検査(血小板を含む)を年1回行い、診察と超音波で脾臓の大きさを確かめ、5歳で肝臓の中と外の胆管を超音波で調べたあと、少なくとも2〜3年ごとに確かめることを勧めています。門脈圧亢進症や胆管の異常が疑われたら、小児の消化器・肝臓の専門医に紹介するとしています[3]。GeneReviewsも、血小板の数が門脈圧亢進症と脾腫のいちばんよい手がかりだとしています[2]。原因がジュベール症候群・バルデー・ビードル症候群・シニア・ローケン症候群などの遺伝子なら、肝臓と腎臓に加えて、目や脳の見張りも加わります。腎臓と肝臓の両方が悪くなった場合は、肝腎同時移植が検討されることがあります。成績はとてもよいと報告されている一方で、腎移植だけの場合と比べて手術前後の死亡リスクが6.7倍高いことも示されています[2]。治療は、専門の医療機関で受けていただくことになります。
② 症状のないご本人(家族歴で受けた方・保因者だった方)
常染色体潜性遺伝の病気の保因者の方は、通常ご自身に症状は出ません。パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを調べると、お子さんへの確率がわかります。PKD1・PKD2の変化をもっていた方は、ご自身の腎臓の見張りも必要になります。
③ 子どもを持つときの選択肢
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。ARPKDでは、ご家族の変化がわかっていれば出生前の遺伝子検査が可能とされています[2]。ただし、出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。何もしないで産むことも、そのまま選べる選択肢です。
④ ご家族
ご家族の原因がわかると、きょうだい・親・いとこが同じ変化をもっているかを、その場所だけピンポイントで調べられます。症状のない方の検査は、ご本人の同意のもとで行います。
⑤ 当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、次にどうするかを一緒に考えます(遺伝カウンセリング料は第9章のとおりです)。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、二次的所見の開示方針のとおりです。
陰性・VUSだったとき
原因が見つからなかった場合は、このパネルに入っていない遺伝子(DZIP1Lなど)や、見つけにくい種類の変化が原因の可能性があります。症状に合わせて、多発性嚢胞腎・ネフロン癆パネルや全エクソーム検査を考えます。陰性でも、門脈圧亢進症や胆管炎の見張りは続ける必要があります。
VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。扱い方はVUS(意義不明変異)の臨床的取り扱いで解説しています。
8. 日本の制度(2026年10月時点)
先天性肝線維症は、小児慢性特定疾病(慢性消化器疾患)の対象疾病に掲載されています。小児慢性特定疾病情報センターの解説では、少なくとも年に1回、門脈圧亢進症に対する全身評価(食道静脈瘤・肝肺症候群・腎臓の病気・神経の評価など)を行うこと、成人では胆管がんのリスクが高くなることが書かれています(2026年10月20日に確認)。
また、指定難病67「多発性嚢胞腎」には、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)と常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)の両方が含まれ、ARPKDの診断基準も示されています(難病情報センター、2024年4月版の診断基準で確認)。小児慢性特定疾病にも「多発性嚢胞腎」が掲載されています。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。くわしくは、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。唾液・口の内側の粘膜・血液いずれも、オンライン診療で受けられます。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
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💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金のお支払いのあとにお送りします。検体の取り違えや品質の問題を防ぐため、キットが届く前にご自身で検体を採らないでください。
遺伝カウンセリングでは、この検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【肝臓の病気を、家族の計画につなげる】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
先天性肝線維症は、肝臓の血液検査がほぼ正常のまま、脾臓や血小板の異常として見つかることのある病気です。そして多くは常染色体潜性遺伝で、ご両親は症状のない保因者です。保因者であることは誰にでもありうることで、誰のせいでもありません。だからこそ、原因の遺伝子を確かめることには、ご本人の見張りの計画だけでなく、ご家族や次のお子さんのことを考える意味があると考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、きょうだいのお子さんの病気をきっかけに念のため検査を受けた方に、まったく別の遺伝子の病的な変化が、体の一部の細胞だけにある状態(モザイク)で見つかったことがあります。ご本人は発症していませんでしたが、卵子や精子のもとになる細胞にもその変化があれば、お子さんが発症することがある病気でした。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 先天性肝線維症とはどんな病気ですか?
胎児のときに肝臓の中の胆管と門脈がつくられる過程の異常から起こる、生まれつきの病気です。門脈のまわりに線維が増え、門脈圧亢進症(脾臓が大きくなる・血小板が減る・食道静脈瘤)や胆管炎を起こします。肝細胞の働きは比較的保たれるのが特徴で、多くは常染色体潜性多発性嚢胞腎(ARPKD)などの腎臓の病気と一緒に起こります。
Q2. 先天性肝線維症は遺伝しますか?遺伝する確率は?
多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに保因者の場合、お子さん1人ごとに4分の1の確率で同じ病気になります。PKD1・PKD2が原因の場合は常染色体顕性遺伝で2分の1、OFD1が原因の場合はX連鎖遺伝です。遺伝のしかたは原因の遺伝子で決まるため、まず原因を確かめることが大切です。
Q3. 先天性肝線維症の予後・寿命はどうですか?
門脈圧亢進症・胆管炎の程度と、一緒にある腎臓の病気の重さで大きく変わります。静脈瘤には内視鏡での治療、出血をくり返す場合にはシャント手術、胆管炎をくり返す場合には肝移植が検討されます。大人になると胆管がんのリスクも高まるため、生涯にわたって見張りを続けることが大切です。
Q4. 肝硬変とは違うのですか?
見た目は肝硬変に似ていますが、先天性肝線維症では肝細胞の働きが比較的保たれるのが特徴です。そのため、肝臓の血液検査がほぼ正常のまま、脾臓が大きい・血小板が少ないことで見つかることがあります。原因も、生まれつきの胆管と門脈の形づくりの違いです。
Q5. 妊娠中に胎児の腎臓が大きいと言われました。この検査で何がわかりますか?
このパネルはご本人やご家族の血液・唾液などで調べる検査で、ARPKDなどの原因の遺伝子を確かめられます。胎児そのものを調べる場合は、絨毛・羊水からの検査になります。超音波の所見だけでは病気を決められず、今の妊娠でどこまで調べられるかは週数と所見によって違うため、できるだけ早く遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q6. 家族に多発性嚢胞腎や先天性肝線維症の人がいると、結婚に差し支えますか?
遺伝の確率は、病気の種類とご家族の状況によって違います。常染色体潜性遺伝の病気なら、ご自身が保因者でも、パートナーが同じ遺伝子の保因者でなければ、お子さんが同じ病気になる可能性は低くなります。ご自身が変化をもっているか、パートナーが保因者かを検査で確かめると、お子さんへの確率を具体的に考えられ、出生前診断などの選択肢も知ったうえで選べます。
Q7. 検査で異常が見つからなかったら、先天性肝線維症ではないのですか?
いいえ。このパネルに入っていない遺伝子(DZIP1Lなど)や、見つけにくい種類の変化が原因の可能性があります。診断は画像や肝臓の組織の所見にもとづいて行われるため、陰性でも門脈圧亢進症や胆管炎の見張りは続ける必要があります。
Q8. 費用と結果までの期間を教えてください。
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。唾液・口の粘膜・血液いずれもオンライン診療で受けられ、オンラインの場合は遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いいただきます。
🧬 一度の検査で、肝臓と腎臓の見張りと、ご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。先天性肝線維症の原因がわかれば、静脈瘤・胆管炎・腎臓の見張りの計画だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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