この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

子どものころから一年中続く鼻水や痰のからむ咳、くり返す中耳炎や副鼻腔炎。原因がはっきりしないまま、小児科・耳鼻咽喉科・呼吸器内科を行き来してきた方の中には、線毛機能不全症候群(原発性線毛機能不全症候群、PCD)の方がいます。内臓逆位・慢性副鼻腔炎・気管支拡張症の3つがそろう型は、カルタゲナー症候群と呼ばれます。この検査は、PCDの原因として知られる49の遺伝子を一度に調べます。原因の遺伝子がわかれば、病名と治療の方針、使える制度、そしてご家族やこれからの妊娠のことまで、次に考えることがはっきりします。生まれ持った遺伝子は一生変わらないので、一度の検査でわかったことは、この先ずっと使える情報になります。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群)の遺伝子検査で何がわかりますか?
気道の表面で痰を運ぶ「線毛(繊毛)」の部品や組み立てに関わる49遺伝子を一度に調べ、PCDの原因となる遺伝子の変化があるかを確かめます。日本人で多いと報告されているDRC1遺伝子の欠失も調べる対象です(血液の検体の場合)。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
一年中の鼻水・湿った咳・くり返す中耳炎がある方、気管支拡張症と言われた方、内臓逆位がある方、原因のわからない男性不妊の方、ご家族にPCD・カルタゲナー症候群の方がいる方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の粘膜から選べますが、大きな欠失まで調べるため血液をおすすめしています。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。PCDの多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、きょうだいが同じ病気である確率は4分の1です。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群・PCD)とは
線毛機能不全症候群は、気道などの表面にある「線毛」がうまく動かないために、痰や細菌を外へ運び出せなくなる生まれつきの病気です。英語の primary ciliary dyskinesia の頭文字をとってPCD、日本語では原発性線毛機能不全症候群とも呼ばれます。日本では「線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群を含む。)」の名前で指定難病340に指定されています。
難病情報センターの解説では、原因の遺伝子は50以上が知られている一方で、原因がわからない方も多いとされています。遺伝のしかたは多くが常染色体潜性(劣性)遺伝で、一部に常染色体顕性(優性)遺伝やX連鎖の型があります(2026年10月時点で確認)。
線毛(繊毛)とは:気道の表面で痰を運ぶ「ベルトコンベア」
線毛は、鼻・のど・気管支・耳の奥(耳管)などの表面の細胞に生えている、顕微鏡でしか見えない細い毛です。医学の本では「線毛」と「繊毛」の両方の字が使われますが、同じものを指しています。1本1本の線毛の中には、微小管という細い管が「9本の輪+中心の2本」の形に並んでいて、そのあいだにあるダイニンというモーターのたんぱく質が力を出すことで、線毛が波のようにそろって動きます。
吸いこんだほこりや細菌は、気道の表面の粘液にくっつき、線毛の動きでのどの方へ運ばれて、痰として出されるか飲みこまれます。PCDでは、この「運ぶ力」が弱いため、粘液がたまって感染をくり返します。
ほこり・細菌が
粘液にくっつく
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線毛がそろって動くふつうの気道
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のどへ運ばれ
外へ出る
ほこり・細菌が
粘液にくっつく
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線毛がうまく動かないPCDの気道
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粘液がたまり
感染をくり返す
線毛には、このように「動いて運ぶ線毛」のほかに、細胞の外の様子を感じとるアンテナの役をする一次繊毛があります。線毛がうまく働かない病気をまとめてシリオパチー(線毛病)と呼び、PCDは主に「動く線毛」の病気です。
何人に1人?日本の患者数
遺伝子のデータベースから計算した2022年の研究では、PCDは世界全体で少なくとも7,554人に1人と推定されました[2]。この研究は、実際にはもっと多い可能性があるとしています。東アジアの人では、意義がまだわからない変化を除いた計算で約14,606人に1人でした[2]。
日本では、難病情報センターが患者数を約5,000人と推計し、診断されていない方も多いと考えられるとしています。小児慢性特定疾病情報センターの解説では、出生1万人〜4万人に1人と推定されています(いずれも2026年10月時点で確認)。数字は調べ方によって変わるため、目安として受け取ってください。
カルタゲナー症候群との違い:三徴候
PCDのうち、内臓逆位・慢性副鼻腔炎・気管支拡張症の3つ(三徴候)がそろう型を、カルタゲナー症候群と呼びます。完全内臓逆位はPCDの方の40〜50%にみられるとされているため[1]、PCDの方のすべてがカルタゲナー症候群になるわけではありません。内臓の位置がふつうでも、PCDであることは多くあります。
2. 症状:生まれてすぐの呼吸から、副鼻腔炎・中耳炎・不妊まで
PCDの症状は、生まれてすぐの呼吸の苦しさから始まり、子どものころの一年中の鼻水・湿った咳・中耳炎、大人になってからの気管支拡張症や不妊へと、年齢によって形を変えて続くのが特徴です。
🫁 年齢ごとのカルタゲナー症候群(PCD)の主な症状
※難病情報センターの解説(2026年10月時点で確認)とGeneReviews[1]による。症状の出方と重さには個人差があります。
生まれてすぐ:呼吸が苦しく、酸素が必要になることがある
遺伝性疾患の解説書GeneReviewsによると、正期産で生まれたPCDの赤ちゃんの75%以上が、生まれてすぐに呼吸が苦しくなり、数日から数週間の酸素が必要になります。ただし、この時期に診断がつく方は少ないとされています[1]。「生まれたとき、しばらく酸素をもらっていた」というのは、あとから振り返ると大事な手がかりになります。
子どものころ:一年中続く鼻水・湿った咳・副鼻腔炎・くり返す中耳炎
副鼻腔炎や中耳炎は子どもに多い病気で、そのほとんどは遺伝の病気ではありません。一方で、季節に関係なく一年中続く鼻水、毎日の痰のからむ咳、何度もくり返す中耳炎が、赤ちゃんのころから続いている場合は、PCDを考える手がかりになります。耳の奥と鼻をつなぐ耳管の線毛も働きにくいため、滲出性中耳炎はどの年齢でも起こりえます。GeneReviewsは、子どものうちは毎年の聴力検査を勧めています[1]。
大人になってから:気管支拡張症と肺の機能
感染をくり返すうちに、気管支が広がって元に戻らなくなる気管支拡張症が進むことがあります。日本の12施設で、日本人に多いDRC1遺伝子の欠失によるPCDの方43人を調べた研究では、年齢が上がるほど肺の機能が下がり、気管支拡張症の程度を表す点数が上がる関係がみられました。診断がついた年齢の中央値は27歳でした[4]。難病情報センターは、感染をくり返して呼吸不全になった場合には、在宅酸素療法や肺移植が必要になることもあるとしています。
カルタゲナー症候群でなぜ内臓逆位が起こるのか
内臓の左右は、おなかの中の赤ちゃんの体ができはじめるころ、「動く線毛」が起こす液の流れで決まると考えられています。マウスの研究では、この時期に体の中心にできる小さなくぼみ(ノード)の線毛が、液を左向きに流すことが示され、その流れがなくなると左右が偶然で決まるようになりました[9]。線毛が動かないPCDで、完全内臓逆位がおよそ半数近くにみられるのは、このためと考えられています。
GeneReviewsでは、PCDの方のうち、すべての内臓が左右逆になる完全内臓逆位が40〜50%、内臓の位置がばらばらになる内臓錯位症(ヘテロタキシー)が約9〜12%にみられ、内臓錯位症の方は成長や肺の機能がよくない傾向があるとされています[1]。一方で、RSPH1・RSPH4A・RSPH9などの遺伝子が原因の型では、内臓の位置の異常は報告されていません[1]。
反対に、内臓逆位がある方のすべてがPCDというわけではありません。呼吸の症状がはっきりせず、内臓の位置や心臓の病気が中心の場合は、左右の決まり方に関わる遺伝子まで調べる内臓錯位症・完全内臓逆位の遺伝子検査が向いています(第5章)。
男性不妊・女性の妊娠しにくさ:カルタゲナー症候群でも妊娠できる?
精子のしっぽ(鞭毛)は線毛とよく似たつくりなので、PCDでは精子が動きにくくなることがあります。女性では、卵管の線毛が働きにくいことが妊娠しにくさに関わると考えられています。
欧州などのPCDの大人を対象にした2024年の調査では、子どもを望んだ男性の78%(50人中39人)、女性の61%(118人中72人)が不妊を経験していました。一方で、生殖補助医療を受けた男性の61%が父親になり、女性の69%が妊娠していました。また、女性では子宮外妊娠が100妊娠あたり7.6回と多く、妊娠がわかったら早めに子宮の中の妊娠であることを確かめることが勧められています[7]。これは自己申告の調査で、遺伝子の型によっても違いがあるとされています。
つまり、「PCD=子どもを持てない」ではありません。精子の運動の問題には顕微授精(ICSI)などの不妊治療が選択肢になります(不妊治療は専門の医療機関で受けていただきます。当院は体外受精などの不妊治療を行っていません)。PCDのほかの原因による不妊を調べる検査として、男性不妊症の遺伝子検査や女性不妊症の遺伝子検査もあります(女性不妊症の検査には、PCDの遺伝子は入っていません)。
3. 原因と遺伝のしかた:子どもやきょうだいに遺伝する確率
カルタゲナー症候群(PCD)の原因は、線毛の部品や、部品を組み立てるたんぱく質の設計図となる遺伝子の変化です。多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに保因者のとき、お子さんがPCDになる確率は1人ごとに4分の1です。
線毛を動かす部品と遺伝子
線毛の中では、外側ダイニン腕・内側ダイニン腕というモーター、そのモーターを調節する部品、中心の2本の微小管とそれを支える放射スポークなどが、決まった形に並んでいます。どの部品の遺伝子に変化があるかで、電子顕微鏡で見える線毛の形の変化が違います[1]。
- ●外側ダイニン腕の遺伝子:DNAH5・DNAI1など。GeneReviewsで引用された1,236人の研究では、DNAH5が原因の約22%と最も多い遺伝子でした[1]。
- ●部品を組み立てる遺伝子:DNAAF1〜DNAAF5、SPAG1、ZMYND10など。外側と内側の両方のダイニン腕がなくなります。
- ●中心の微小管・放射スポークの遺伝子:RSPH1・RSPH4A・RSPH9など。
- ●電子顕微鏡では正常に見える型:DNAH11(約11%)・DRC1・HYDINなど。PCDの方の約30%は、線毛の形が電子顕微鏡では正常に見えるとされています[1]。
電子顕微鏡で正常に見える型は、線毛の形の検査だけでは見つけにくく、遺伝子検査が診断の決め手になることがあるのが、このページの検査の大きな意味です。
常染色体潜性(劣性)遺伝:きょうだい・お子さんへの確率
PCDのほとんどは常染色体潜性(劣性)遺伝です[1]。対になった2本の遺伝子の両方に変化があるときに発症し、片方だけに変化をもつ方は、症状のない「保因者」です。2本の変化が同じ場合も、違う場合(複合ヘテロ接合)もあります。
父:保因者症状なし
+
母:保因者症状なし
▶
PCD4分の1
保因者2分の1
変化なし4分の1
ご両親がともに保因者のとき、お子さん1人ごとに、PCDになる確率が4分の1、保因者になる確率が2分の1です。上のお子さんの結果で、下のお子さんの確率が変わることはありません。常染色体潜性(劣性)遺伝のPCDでは、ご本人のお子さんは、パートナーが同じ遺伝子の病的な変化を持っていなければ、みな保因者になり、PCDにはなりません。
このパネルの中には、遺伝のしかたが違う遺伝子もあります。PIH1D3(DNAAF6)・OFD1・RPGRはX連鎖、FOXJ1は常染色体顕性(優性)遺伝とされています[1]。どの遺伝子が原因かで、ご家族への確率の考え方が変わるので、結果に合わせて遺伝カウンセリングでご説明します。
日本人に多い原因:DRC1遺伝子の欠失
日本では、DRC1という遺伝子の大きな欠失が、PCDのいちばん多い原因と報告されています。PCDが疑われた日本人93人(84家系)を調べた2020年の研究では、原因の遺伝子がわかった方のうち49%にあたる21人で、DRC1の両方の遺伝子にエクソン1〜4を含む27,748塩基の欠失が見つかり、21人とも欠失の切れ目が同じでした[3]。欧米で多いDNAH5などとは、原因の内訳が違うということです。
DRC1の型は、電子顕微鏡で線毛の形が正常に見えやすい型のひとつです[1]。さらに日本の多施設の研究では、DRC1の型の方は、PCDらしさを点数で表すPICADARという目安の点数が、外側ダイニン腕の型の方より低い(中央値4点と8点)ことが示され、この点数だけでは見逃されやすいとされました[4]。
💡 臨床遺伝専門医の判断:DRC1を調べるなら血液の検体を
遺伝子の文字を読む検査は、小さな変化を見つけるのは得意ですが、エクソンをまとめて失うような大きな欠失(コピー数の変化)は、別の解析が必要です。この検査の欠失・重複の解析は、血液の検体なら「2つ以上続くエクソン」の欠失まで、頬の粘膜の検体では「遺伝子まるごと」の欠失までを調べる仕様です。日本人に多いDRC1の欠失はエクソン1〜4にわたるため、当院では血液の検体で受けていただくことをおすすめしています。DRC1は、当院の気管支拡張症や内臓錯位症の遺伝子検査には含まれていない遺伝子でもあります。
4. 診断基準と診断の流れ:遺伝子検査はどこで役立つか
PCDには「これ1つで必ず決まる」検査がなく、症状に加えて、鼻の一酸化窒素の測定、線毛の動きの観察、電子顕微鏡、遺伝子検査などを組み合わせて診断します。欧州呼吸器学会(2017年)と米国胸部学会(2018年)の診断の指針も、この組み合わせで診断する流れを示しています[5][6]。
🔍 PCDの診断に使われる主な検査
※検査の性能は文献の対象・条件によるものです。どの検査を受けられるかは、呼吸器内科・耳鼻咽喉科・小児科の主治医にご相談ください。
遺伝子検査でわかることの意味
鼻の一酸化窒素や線毛の観察には、専門の設備と経験が必要で、受けられる施設は限られます。電子顕微鏡で正常に見える型や、PICADARの点数が低く出やすいDRC1の型[4]では、ほかの検査だけでは決めきれないこともあります。遺伝子検査は、血液や唾液で受けられ、原因の遺伝子と遺伝のしかたまでわかるのが強みです。原因がわかれば、ご家族の検査や、次の妊娠の計画にもつながります(第8章)。
日本の制度:指定難病340・小児慢性特定疾病(2026年10月時点)
線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群を含む。)は、指定難病340です。日本呼吸器学会の発表では、厚生労働省が新たに指定し、2024年4月1日から難病の申請の受付が始まりました。また、小児慢性特定疾病情報センターでは、「慢性呼吸器疾患」の疾病として線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群を含む。)が掲載されています(いずれも2026年10月時点で確認)。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の診断基準と認定の条件を満たし、申請する必要があります。くわしい基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。遺伝子検査で原因が確かめられていることは、診断を固める手がかりのひとつになります。
5. 線毛機能不全症候群の遺伝子検査を受けるとよい人
この検査が向いているのは、PCDらしい症状があり、原因を確かめたい方です。病名がつくと、受けるべき検査・治療や感染予防の方針、使える制度が決まります。
こんなときに受ける検査です
- ●赤ちゃんのころから、一年中の鼻水・鼻づまりや痰のからむ咳が続いている
- ●中耳炎・滲出性中耳炎や副鼻腔炎を何度もくり返している
- ●生まれてすぐ、原因のはっきりしない呼吸の苦しさで酸素が必要だった
- ●気管支拡張症と言われたが、原因がわかっていない
- ●内臓逆位があり、呼吸の症状もある(カルタゲナー症候群が疑われる)
- ●精子の運動率が低い男性不妊で、鼻や気道の症状もある
- ●鼻の一酸化窒素の値が低い、または電子顕微鏡では決めきれなかった
- ●きょうだいなどご家族に、PCD・カルタゲナー症候群の方がいる
原因がわからないまま病院を回る時間を、1回の検査で短くできる可能性があります。ただし、全員に原因が見つかるわけではありません。PCDらしい特徴がはっきりしている方でも、知られている遺伝子に原因が見つからない方が20〜30%いるとされています[1]。見つからなかったときの次の選択肢は第8章でご説明します。
どのパネルを選ぶか:気管支拡張症・内臓錯位症・繊毛病・男性不妊の検査との選び分け
PCDを疑うなら、PCDの原因遺伝子を49まとめて調べるこの検査が第一の選択です。当院のほかの遺伝子検査にもPCDの遺伝子の一部が入っていますが、調べる範囲が違います。比べたのは検査の種類どうしです。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※遺伝子数は各検査ページの記載による(2026年10月時点)。気管支拡張症・内臓錯位症・肺疾患の検査に入っているPCDの遺伝子は12〜13で、DRC1は含まれていません。
この検査より別の検査が向いている場合
感染をくり返していても、症状が気道だけでなく多くの臓器にわたり病気をしぼれないときは、全エクソーム検査(WES)が向いていることがあります。肺炎や中耳炎だけでなく皮膚や腸などさまざまな感染をくり返す場合は、線毛より免疫の病気を考え、包括的原発性免疫不全症の遺伝子パネル検査を検討します。症状がなく、将来の妊娠のために保因者かどうかを知りたい方には、保因者検査という別の検査があります(第8章)。
6. 線毛機能不全症候群の遺伝子検査で調べる49遺伝子と、わかる病気
この検査では、PCDの原因として知られる遺伝子に加えて、PCDと症状が似ている嚢胞性線維症の原因遺伝子(CFTR)などもあわせて、49遺伝子を一度に調べます。遺伝子の並びは、線毛のどの部品の異常かでまとめています。
🧬 原発性線毛機能不全症候群(PCD)遺伝子パネル検査の対象49遺伝子
※対象遺伝子は当院の検査内容による(2026年10月確認)。PCDの遺伝子の遺伝のしかた・線毛の変化・割合はGeneReviews[1]、DRC1は文献[3]、CENPFは文献[10]による。CFTR・INVS・DNAH8はPCDとは別の病気として報告されている遺伝子です。
7. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、49遺伝子の中の小さな変化と、欠失・重複の一部です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
わかること
- ●小さな変化:たんぱく質の設計図になる部分(エクソン)と、そのすぐ外側の10塩基ほどにある、1文字の変化や小さな挿入・欠失。
- ●欠失・重複:血液の検体では2つ以上続くエクソンの欠失・重複まで、頬の粘膜の検体では遺伝子まるごとの欠失・重複を調べます。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
- ●読み取りの精度:対象の領域の99%以上を、同じ場所を20回以上読み取って確かめます。読み取りの質が低い変化は、サンガー法という別の方法で確認します。
わからないこと:陰性でも否定はできません
- ●1つのエクソンだけの欠失・重複:見つかることはありますが、決まって検出できるわけではありません。
- ●調べていない種類の変化:染色体の入れかわり(転座・逆位)、繰り返し配列の伸び、遺伝子のスイッチの部分(プロモーター)やエクソンから20塩基より奥の変化、体の一部の細胞だけの変化(モザイク)は対象外です。
- ●RPGR遺伝子の一部:ORF15という複雑な領域の大部分は調べられますが、ごく一部の変化を完全には否定できません。
- ●まだ知られていない原因:PCDの特徴がはっきりしている方でも、20〜30%は知られている遺伝子に原因が見つからないとされています[1]。また、この検査に入っていない遺伝子が原因のこともあります。
意義がまだわからない変化(VUS)
病気の原因かどうかまだ判断できない変化(VUS)が見つかることがあります。VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。調べた目的と別の病気の原因が見つかった場合(二次的所見)の扱いは、当院の二次的所見の開示方針のとおりです。
8. 病的変異が見つかったら、次にできること
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。原因がわかったあとにできることを、立場ごとにまとめます。
ご本人:病名が決まり、治療と感染予防の方針が立つ
PCDと確定すると、認定条件を満たす場合には指定難病の医療費助成を申請する手がかりになり、治療の方針が立てやすくなります。PCDの原因そのものを治す治療は今のところありませんが、GeneReviewsは次のような管理を勧めています[1]。
- ●痰を出しやすくするための排痰(胸をたたく・姿勢を変える・呼吸法・振動するベストなど)
- ●百日せき・インフルエンザ菌b型(ヒブ)・肺炎球菌・インフルエンザのワクチンと、感染を防ぐ工夫
- ●気道の感染には早めの抗菌薬。悪化が年3回以上の方にはマクロライド系の抗菌薬を続けることも
- ●咳止めを避ける、たばこの煙や大気汚染を避ける
- ●耳鼻咽喉科での診察、子どものうちは毎年の聴力検査(必要なら鼓膜のチューブ・補聴器など)
マクロライド系の抗菌薬(アジスロマイシン)については、7〜50歳のPCDの方90人を対象にした臨床試験で、6か月間の服用で呼吸器の悪化の回数が約半分に減ったと報告されています[8]。これらの治療は、呼吸器内科・耳鼻咽喉科・小児科などの主治医のもとで受けていただきます(当院はPCDの治療は行っていません)。子どもを望む方は、不妊治療を行う専門の医療機関で、原因がPCDだとわかっていることを伝えて相談できます。
ご家族:症状が軽くて気づいていないきょうだいを見つける
GeneReviewsは、PCDの方のきょうだいは、年上・年下ともに評価を受けることを勧めています。ご家族の原因の変化がわかっていれば、きょうだいは同じ変化をピンポイントで調べることで、PCDかどうか、保因者かどうかを確かめられます[1]。「ずっと鼻炎体質だと思っていた」きょうだいが、実は同じ病気だったとわかれば、早くから感染予防や聴力・肺の機能の確認を始められます。
パートナー・次のお子さん:知ってから選べること
お子さんでPCDとわかり、ご両親がともに保因者だった場合、次のお子さんでPCDになる確率は4分の1です。原因の変化がわかっていれば、次の妊娠でどう備えるかを具体的に考えられます。原因がわからないままでは、出生前に何を調べるかを決められません。
- ●パートナーの検査:PCDのご本人や保因者の方が子どもを考えるときは、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかがわかると、お子さんへの確率を見積もれます。当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)には、この検査の49遺伝子のうちCCDC103・CCDC151・CCDC39・CFTR・DNAH5・DNAI1・DNAI2・DNAL1・INVS・RPGR・RSPH9の11遺伝子が、男性版714遺伝子にはRPGRを除く10遺伝子が入っています。それ以外の遺伝子(DRC1など)が原因のときは、どの検査が合うかを遺伝カウンセリングでご相談ください。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(単独では受けられません)。
- ●妊娠したときの出生前診断:ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針をふまえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
- ●着床前の検査(PGT-M):日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
- ●特別な検査をしないで出産する:これも、そのまま選べる選択肢です。どの選択も尊重します。
お子さんがPCDだとわかったとき、ご両親が「自分のせいで」と思われることがあります。けれども、保因者であることは誰にでもありうることで、誰のせいでもありません。ご両親がそれぞれ同じ遺伝子の保因者だったことが重なって起きたことです。
当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、ご本人・ご家族それぞれにとって次にどうするかを一緒に考えます。ご家族の検査や、妊娠に向けた相談も、当院で続けてお受けしています(遺伝カウンセリング料は第9章のとおりです)。
陰性・VUSだったとき
原因の変化が見つからなかった場合でも、PCDが否定されたわけではありません(第7章)。主治医のもとで、鼻の一酸化窒素や線毛の観察・電子顕微鏡などを組み合わせて診断を進めます。症状が気道以外にも広い場合は、全エクソーム検査などを考えます。VUSだった場合は、それだけで診断やご家族の検査には使わず、研究が進んで意味がはっきりするのを待ちます。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検査の前に、臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングで、この検査で何がわかり何がわからないかをご説明し、納得していただいてから検査を受けるかを決めていただきます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取血液をおすすめ
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。検体を採るキットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、キットが届く前にご自身で検体を採らないでください。ご来院の方は診療時間・アクセスをご覧ください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【「体質だから」で終わらせず、原因を知って次を考える】
一年中の鼻水や、くり返す中耳炎は、子どもによくあることとして見過ごされやすい症状です。けれども、それが線毛の病気によるものなら、早くわかるほど、感染を防ぐ工夫や聴力・肺の機能の見守りを早く始められます。日本では、欧米と違ってDRC1の欠失が多く、電子顕微鏡では線毛の形が正常に見えやすい型だと報告されています。だからこそ、日本では遺伝子検査の意味が大きいと考えています。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
PCDの多くは、症状のないご両親がそれぞれ保因者で、それが重なって起こります。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。原因がわかれば、次のお子さんで同じことが起こる可能性がどれくらいあるか、そして次の妊娠でどう備えられるかを、具体的に考えられるようになります。PCDのご本人にとっても、不妊の原因がわかることは、子どもを持つための準備の第一歩になります。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. カルタゲナー症候群(線毛機能不全症候群)は何人に1人ですか?
遺伝子のデータベースから計算した2022年の研究では、線毛機能不全症候群(PCD)は世界全体で少なくとも7,554人に1人と推定されています。日本では、難病情報センターが患者数を約5,000人と推計し、診断されていない方も多いと考えられています。カルタゲナー症候群は、PCDのうち内臓逆位を伴う型で、完全内臓逆位はPCDの方の40〜50%にみられるとされています。
Q2. カルタゲナー症候群は治る病気ですか?治療法は?
原因そのものを治す治療は今のところありません。痰を出しやすくする排痰、ワクチン、気道の感染への早めの抗菌薬、たばこの煙を避けることなどで、肺や耳の状態を保つことを目指します。悪化をくり返す方では、アジスロマイシンを続けると悪化の回数が約半分に減ったという臨床試験があります。治療は呼吸器内科・耳鼻咽喉科・小児科などの主治医のもとで受けていただきます。
Q3. カルタゲナー症候群の寿命は短くなりますか?
難病情報センターの解説では、欧米の報告で多くの方が活動的な生活を送り、寿命への影響は限られるとされています。一方で、GeneReviewsは一部の方では寿命が短くなるとしており、感染をくり返して呼吸不全になると、在宅酸素療法や肺移植が必要になることもあります。早くから感染を防ぎ、肺の機能を見守ることが大切です。
Q4. カルタゲナー症候群でも妊娠できますか?
妊娠・出産している方はいます。PCDの大人を対象にした2024年の調査では、子どもを望んだ男性の78%、女性の61%が不妊を経験していましたが、生殖補助医療を受けた男性の61%が父親になり、女性の69%が妊娠していました。女性では子宮外妊娠が多いため、妊娠がわかったら早めに子宮の中の妊娠であることを確かめることが勧められています。
Q5. 子どもに遺伝する確率は?
PCDの多くは常染色体潜性(劣性)遺伝です。ご両親がともに保因者のとき、お子さん1人ごとにPCDになる確率は4分の1です。常染色体潜性(劣性)遺伝のPCDでは、ご本人のお子さんは、パートナーが同じ遺伝子の病的な変化を持っていなければ保因者になり、PCDにはなりません。一部にX連鎖や常染色体顕性(優性)遺伝の遺伝子もあるため、原因の遺伝子がわかってから確率を考えます。
Q6. 線毛機能不全症候群は指定難病ですか?
はい。「線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群を含む。)」として指定難病340に指定され、2024年4月1日から申請の受付が始まりました。小児慢性特定疾病情報センターにも慢性呼吸器疾患の疾病として掲載されています(2026年10月時点)。医療費の助成を受けるには、診断基準と認定の条件を満たして申請する必要があります。
Q7. 内臓逆位だけでも、この検査を受けたほうがいいですか?
内臓逆位がある方のすべてがPCDではありません。一年中の鼻水や湿った咳、くり返す中耳炎など呼吸の症状もあれば、この検査が向いています。呼吸の症状がはっきりせず、内臓の位置や心臓の病気が中心の場合は、左右の決まり方に関わる遺伝子まで調べる内臓錯位症・完全内臓逆位の遺伝子検査が向いています。
Q8. 副鼻腔炎や中耳炎をくり返すのは遺伝ですか?
副鼻腔炎や中耳炎の多くは遺伝の病気ではありません。ただし、赤ちゃんのころから一年中続く鼻水や痰のからむ咳、何度もくり返す中耳炎がある場合は、線毛機能不全症候群(PCD)という遺伝性の病気が原因のことがあります。気になる場合は、主治医や当院の遺伝カウンセリングでご相談ください。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群)の原因がわかれば、ご自身の治療や感染予防の方針、指定難病の申請だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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