この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

胆汁うっ滞(cholestasis)は、肝臓でつくられた胆汁がうまく流れず、体にたまってしまう状態です。赤ちゃんの黄疸が長引く、肝臓の数値(胆汁の流れを示す値)が悪いと言われた――その原因には、アラジール症候群や進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)、日本人に多いシトリン欠損症など、生まれつきの遺伝子の変化による病気が含まれます。原因の候補が多い病気なので、1つずつ検査していくと時間がかかります。この検査では、関係する72の遺伝子を一度に調べ、診断までの回り道を短くすることを目指します。このページでは、まず確かめるべきこと、遺伝子で原因がわかる病気、検査でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 胆汁うっ滞の遺伝子検査で何がわかりますか?
胆汁うっ滞の原因になる72の遺伝子をまとめて調べ、アラジール症候群・進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)・シトリン欠損症・胆汁酸をつくるしくみの病気・代謝の病気などのうち、どれが原因かを探します。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
赤ちゃんの黄疸が長引き、胆道閉鎖症などが否定されても原因がわからない方、肝臓の数値やかゆみが続く方、ご家族に同じ病気の方がいる方です。白っぽい便のときは、遺伝子検査を待たずにまず小児科を受診してください。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜で、唾液・粘膜ならオンライン診療でも受けられます。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、治療の選び方、ご家族の検査、次のお子さんの確率と妊娠したときの備えまで考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 胆汁うっ滞(cholestasis)とは?赤ちゃんの黄疸が長引くとき、まず確かめること
胆汁うっ滞(cholestasis)は、肝臓でつくられた胆汁が十二指腸へうまく流れ出ず、胆汁の成分が肝臓や血液にたまる状態です。胆汁は脂肪の消化・吸収を助ける消化液で、胆汁の流れが滞ると、黄疸やかゆみが出たり、脂肪と一緒に吸収される脂溶性ビタミン(A・D・E・K)が不足しやすくなったりします。
胆汁うっ滞は「病名」ではなく「状態」の名前です。肝臓の中で胆汁を運び出すしくみの不調(肝内胆汁うっ滞)でも、肝臓の外の胆汁の通り道がふさがること(肝外胆汁うっ滞)でも起こり、原因はたくさんあります。北米と欧州の小児消化器の学会がまとめた指針によると、乳児期の胆汁うっ滞による黄疸は、正期産の赤ちゃんのおよそ2,500人に1人にみられます[1]。
胆汁うっ滞の症状と検査値:黄疸・かゆみ・白っぽい便・直接ビリルビン
胆汁うっ滞の主な症状は、皮膚や白目が黄色くなる黄疸、強いかゆみ、白っぽい便、濃い色の尿です。赤ちゃんでは、体重が増えにくい、出血しやすい(ビタミンKの不足)といった形で気づかれることもあります。
血液検査では、ビリルビンのうち「直接(抱合型)ビリルビン」が上がるのが特徴です。前述の指針は、直接ビリルビンが1.0mg/dLを超える場合を異常とし、原因を調べることを勧めています[1]。生まれてすぐの赤ちゃんによくある黄疸(生理的黄疸や母乳性黄疸)は、直接ではなく間接ビリルビンが上がるタイプで、胆汁うっ滞とは区別して考えます。
γ-GTP(ガンマGT)は、胆汁うっ滞の原因を見分ける手がかりになる検査値です。遺伝で起こる胆汁うっ滞の中には、胆汁がたまっているのにγ-GTPが正常〜低めのもの(ATP8B1やABCB11の変化による型)と、γ-GTPが高くなるもの(ABCB4の変化による型など)があります[3]。
白っぽい便・生後2週を過ぎても続く黄疸は、遺伝子検査を待たずに受診を(胆道閉鎖症と便色カード)
⚠️ 白っぽい便は、すぐに小児科へ
赤ちゃんの便が白っぽい・クリーム色・薄い黄色のとき、黄疸が長引くときは、遺伝子検査の結果を待たずに、すぐ小児科を受診してください。胆道閉鎖症は手術の時期が予後に関わり、早く葛西手術(肝臓と腸をつなぐ手術)を受けることが大切です。北米と欧州の小児消化器の学会の指針は、乳児期の胆汁うっ滞の原因として胆道閉鎖症が最も多い(25〜40%)とし、葛西手術を生後60日以内に受けると約70%で胆汁の流れが戻る一方、生後90日を過ぎると25%未満になると記載しています[1]。
日本では、胆道閉鎖症などを早く見つけるために、母子健康手帳に「便色カード」がついています(平成24年度から全国の母子健康手帳に掲載。厚生労働省・国立成育医療研究センターの資料で確認)。カードの色と赤ちゃんの便を見比べてみてください。
同じ指針は、生後2週を過ぎても黄疸がある赤ちゃんでは、総ビリルビンと直接ビリルビンを測って胆汁うっ滞かどうかを確かめるよう勧めています。母乳で育っていて元気な赤ちゃんは、生後3週まで様子をみてよいともしています[1]。「黄疸が長引くのは母乳のせいだろう」と決めつけず、一度は直接ビリルビンを確かめてもらうことが大切です。
胆汁うっ滞の原因:遺伝で起こるものと、そうでないもの
乳児期の胆汁うっ滞では、胆道閉鎖症に次いで、1つの遺伝子の変化で起こる病気(単一遺伝子疾患)が約25%を占めます[1]。そのほか、感染症、薬、点滴による栄養(静脈栄養)、内分泌の病気なども原因になります。大人の胆汁うっ滞では、胆石や腫瘍による胆管の閉塞、薬による肝障害、原発性胆汁性胆管炎などが多く、遺伝子検査が役立つのはその一部です。
遺伝で起こる胆汁うっ滞の原因遺伝子は、胆汁を運び出す「運び屋」のたんぱく質、胆管のつくり、胆汁酸をつくる酵素、肝臓の代謝、細胞の中の小さな器官(ペルオキシソーム・ミトコンドリア)など、さまざまな働きにまたがっています。症状や検査値だけでは原因をしぼり切れないことが多く、ここが遺伝子をまとめて調べるパネル検査の出番になります。
2. 遺伝子で原因がわかる胆汁うっ滞の病気
遺伝で起こる胆汁うっ滞の代表は、アラジール症候群、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)、シトリン欠損症です。このほか、体質性黄疸や、全身の病気の一部として胆汁うっ滞が出る病気があります。病気によって遺伝のしかたが違い、「常染色体潜性(劣性)遺伝」の病気が多い一方、アラジール症候群は「常染色体顕性(優性)遺伝」です。
アラジール症候群(JAG1・NOTCH2):顕性遺伝で、症状の重さは人によって大きく違う
アラジール症候群は、肝臓の中の胆管が少なくなって胆汁うっ滞が起こり、心臓・背骨・目・腎臓・顔つきなどにも特徴が出ることがある病気です。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsによると、原因の94.3%はJAG1遺伝子、2.5%はNOTCH2遺伝子の変化で、3.2%は原因が見つかっていません[2]。
アラジール症候群は常染色体顕性(優性)遺伝で、原因の変化をもつ人のお子さんは、1人ごとに2分の1の確率でその変化を受け継ぎます。約60%は本人の代で新しく起きた変化(新生突然変異)によるもので、約40%は親から受け継いだものです[2]。
💡 同じ家族の中でも、症状の重さが違います
GeneReviewsは、アラジール症候群では同じ家族の中でも症状に大きな差があり、ほとんど気づかれない程度から命にかかわる程度まで幅があるとしています。受け継いだお子さんの症状の重さは、前もって予測できません[2]。親御さんが軽い症状で気づいていなくても、お子さんが重い症状で見つかることがあるため、「自分は軽いから子どもも軽い」とは言えません。
進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)と良性反復性肝内胆汁うっ滞症(BRIC):γ-GTPで型の見当がつく
進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)は、肝臓の細胞から胆汁を運び出すしくみの遺伝子の変化で、乳児期から胆汁うっ滞が続き、進行していく病気です。難病情報センターは、原因遺伝子をPFIC1(ATP8B1)からPFIC13まで13の型に分けて示し、日本の患者さんは約100人と推定しています(2026年10月時点で確認)。難病情報センターは、遺伝のしかたを常染色体潜性(劣性)遺伝としています。ただし、同じ遺伝子の変化でも、妊娠性肝内胆汁うっ滞症など別の病気では遺伝のしかたが違うことがあり、原因遺伝子や病型ごとに確かめる必要があります(第4章の表)。
型によって特徴が違います。ATP8B1の変化による型(PFIC1)では、胆汁がたまっていてもγ-GTPが正常〜低めで、難聴・膵臓の病気・下痢・くる病・成長の遅れなど肝臓以外の症状が出やすいとされています[3]。ABCB11の変化による型(PFIC2)もγ-GTPが正常〜低めで、幼い子どもで肝細胞がんなどが起こりうることが報告されています[3][4]。ABCB4の変化による型(PFIC3)は、γ-GTPが高くなる点で見分けられます[3]。
良性反復性肝内胆汁うっ滞症(BRIC)は、同じATP8B1やABCB11の変化で起こり、黄疸とかゆみの発作をくり返しては治まるタイプです(ABCB11の型はBRIC2)。PFICとBRICの間には中間の経過をとる方もいます。こうした型の違いは、治療や見張りの方針に直結します。
シトリン欠損症(SLC25A13):日本人に多い、新生児の肝内胆汁うっ滞(NICCD)
シトリン欠損症は、SLC25A13遺伝子の変化による常染色体潜性(劣性)遺伝の病気で、日本人に比較的多いことが知られています。GeneReviewsによると、日本で新生児肝内胆汁うっ滞(NICCD)は約19,000人に1人、SLC25A13の病的な変化をもつ保因者は33〜51人に1人とされています[5]。
NICCDの赤ちゃんでは、胆汁うっ滞、肝臓の腫れ、脂肪肝、低血糖などがみられ、多くは1歳までに良くなります。ただし、思春期から大人になって、高アンモニア血症や精神神経症状で発症する型(成人発症II型シトルリン血症、CTLN2)もあり、生涯にわたって食事の注意が大切です[5]。
💡 シトリン欠損症の食事:一般的な「体にいい食事」と逆のことがあります
GeneReviewsは、NICCDの赤ちゃんには乳糖を除きMCT(中鎖脂肪酸)を強化したミルクに脂溶性ビタミンを加えること、子どもや大人ではたんぱく質と脂質を多めにして炭水化物を控えることを勧め、低たんぱく・高炭水化物の食事はどの型でも害になりうるとしています[5]。「シトリン欠損症で食べてはいけないもの」は一人ひとり違うので、診断がついたら主治医・管理栄養士と相談してください。シトリン欠損症を含む尿素サイクルの病気をまとめて調べる高アンモニア血症・尿素サイクル異常症の遺伝子検査もあります。
体質性黄疸(ジルベール症候群・デュビン・ジョンソン症候群)
胆汁うっ滞とは別に、ビリルビンを処理するしくみの体質で黄疸が出ることがあります。UGT1A1遺伝子はジルベール症候群やクリグラー・ナジャー症候群に、ABCC2遺伝子はデュビン・ジョンソン症候群に関わります。ジルベール症候群の多くは治療を必要としない体質です。体質性黄疸を中心に調べたいときは、肝内胆汁うっ滞症の遺伝子検査(5遺伝子)のほうが向くことがあります。
胆汁酸をつくる病気・代謝の病気・ペルオキシソームやミトコンドリアの病気・繊毛の病気
胆汁うっ滞が、全身の病気の一部として出ることもあります。この検査の72遺伝子には、次のような病気の原因遺伝子が含まれています(くわしくは第4章の表)。
3. 胆汁うっ滞の遺伝子検査を受けるとよい人
赤ちゃんや子どもの胆汁うっ滞で原因がわからないとき、ご家族に同じ病気の方がいるとき、大人でも原因のはっきりしない胆汁うっ滞が続くときに向く検査です。病名がわかると、使える薬、気をつけたい合併症、肝移植を考える時期、利用できる制度(指定難病・小児慢性特定疾病)を検討しやすくなり、「次の一手」を考える手がかりになります。
こんなときに検査を考えます
- ●赤ちゃんの黄疸が長引き、直接ビリルビンが高く、胆道閉鎖症などが否定されたのに原因がわからない
- ●γ-GTPが正常〜低めなのに、強いかゆみや黄疸が続く
- ●黄疸とかゆみの発作をくり返す
- ●体重が増えにくい、脂溶性ビタミンが不足している、肝臓や脾臓が腫れている
- ●心臓の病気・背骨の形・目の所見など、肝臓以外の特徴もある
- ●ご家族(きょうだい・親)に胆汁うっ滞の病気の方がいる、上のお子さんが原因不明の胆汁うっ滞だった
- ●アラジール症候群・PFIC・シトリン欠損症などが疑われ、型をはっきりさせたい
見た目や症状、ご家族の話だけでは、どの遺伝子が原因かは判断できません。原因を確かめるには、検査を受けていただくことが出発点になります。
この検査より別の検査が向く場合
白っぽい便がある赤ちゃんは、遺伝子検査より先に、胆道閉鎖症を確かめる検査(超音波検査など)を小児科・小児外科で受けてください。また、感染症や薬など遺伝以外の原因がはっきりしているときは、遺伝子検査が要らないこともあります。反対に、症状が肝臓以外にも広く、発達の遅れなどもあって病気の見当がつかないときは、全エクソーム検査(WES)のほうが向くことがあります。
症状・検査結果から、どのパネルを選ぶか
🔍 胆汁うっ滞の遺伝子検査の選び方
※肝内胆汁うっ滞症パネルの5遺伝子、アラジール症候群パネルの2遺伝子は、すべてこの72遺伝子に含まれています。どの検査が合うかは、症状・検査値・ご家族の情報で変わるので、遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
4. 調べる72遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、胆汁うっ滞に関係する72の遺伝子をまとめて調べます。下の表は、働きごとに8つのグループに分けたものです。病名と遺伝のしかたは、OMIM(遺伝性疾患のデータベース)にもとづくヒト表現型オントロジー(HPO)の2026年9月版の対応表で確かめています。
🧬 ① 胆汁を運び出すしくみ・胆管の細胞のつなぎ目
🧬 ⑥ ペルオキシソーム(脂肪などを分解する小さな器官)
※病名と遺伝のしかたは、OMIMの遺伝子と病気の対応にもとづくHPO(2026年9月版)の対応表とNCBI Geneで確認しました。OMIMの病名のうち、胆汁うっ滞と関係の薄いものは一部を省いています。表の遺伝子・病気のうち、当院に解説ページがあるものにはリンクを付けています。
肺や腎臓の病気でも名前の出てくる遺伝子があります。たとえばCFTRは、気管支の病気の原因にもなる遺伝子で、気管支拡張症の遺伝子検査でも調べます。ネフロン癆が中心ならネフロン癆の遺伝子検査、ジュベール症候群・メッケル症候群が中心ならジュベール・メッケル症候群の遺伝子検査、低血糖やフルクトース・ガラクトースの代謝が気になるなら低血糖症・ガラクトース/フルクトース代謝異常の遺伝子検査も選べます。
保因者検査・NIPTで調べられる遺伝子
この72遺伝子の多くは常染色体潜性(劣性)遺伝の病気の遺伝子で、その多くは当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の対象にも入っています。たとえば、ATP8B1・ABCB11・ABCB4(PFIC)、SLC25A13(シトリン欠損症)、AKR1D1・HSD3B7・CYP7B1(胆汁酸合成障害)、PEX群(ペルオキシソーム形成異常症)、NPC1・NPC2(ニーマン・ピック病C型)、SERPINA1、PKHD1などです。一方、TJP2・NR1H4・MYO5B・ABCC2・VPS33B・VIPAS39などは、787遺伝子の一覧に入っていません(2026年10月時点の一覧で確認)。男性版は拡大版保因者スクリーニング(男性版714遺伝子)をご覧ください。
妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」(女性787遺伝子・男性714遺伝子)もあります。単独では受けられない検査で、NIPTとは別の検査です。
また、アラジール症候群の原因遺伝子のうち、JAG1とNOTCH2は、当院のNIPTのインペリアルプランでも調べられます(ダイヤモンドプランには入っていません)。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。そのほかの70遺伝子は、当院のNIPTでは調べられません。
5. 検査でわかること・わからないこと(検査の限界)
この検査でわかるのは、72遺伝子のたんぱく質をつくる部分(エクソン)とその境目にある、小さな変化と、一定以上の大きさの欠失・重複です。遺伝子検査には、どの方法にも見つけにくい変化があります。
わかること
- ●遺伝子の文字(塩基)が1つ変わる変化、小さな挿入・欠失。次世代シーケンサー(NGS)で読み、品質の基準に届かない部分はサンガー法という別の方法で確かめます
- ●遺伝子1つまるごと、または2つ以上のエクソンにまたがる欠失・重複(2つ以上のエクソンの欠失・重複は血液の検体の場合)。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します
- ●検査の対象範囲の99%以上を、20回以上重ねて読む精度で調べます(カバレッジ ≥99% at 20x)
わからないこと
- ●エクソン1つだけの欠失・重複:見つかることもありますが、いつも見つけられるわけではありません
- ●見つけられない種類の変化:染色体の転座・逆位、繰り返し配列の伸長、遺伝子の働きを調節する部分(プロモーター)や、エクソンから20塩基以上離れた部分(深いイントロン)の変化
- ●よく似た配列:偽遺伝子など、よく似た配列がある場所では、判定がむずかしいことがあります
- ●モザイク:体の一部の細胞だけにある変化(モザイク)や、がんなどの体細胞の変化を見つけるための検査ではありません
- ●72遺伝子以外の原因:胆汁うっ滞の原因遺伝子はほかにもあり(PFICだけでも13の型が知られています)、すべてを調べているわけではありません
陰性でも否定できない理由と、VUS
原因の変化が見つからなくても、遺伝で起こる胆汁うっ滞が否定されたわけではありません。上の「わからないこと」に当たる変化や、まだ知られていない遺伝子が原因のこともあります。また、感染症や薬など遺伝以外の原因で起こる胆汁うっ滞もあります。
病気の原因かどうか、今の知識ではまだ判断できない変化(VUS:意義がまだわからない変化)が見つかることもあります。VUSは、それだけで診断やご家族の発症リスクの判定には使いません。ただし、病原性を評価するために、ご家族の検査が参考になる場合があります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。
6. 結果の受け取り方(陽性・陰性・VUS)
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。
- ●陽性(原因の変化が見つかった):遺伝形式や症状との整合性を確認して病名・型を判断し、治療や見張りの方針、ご家族への影響を考えます(第7章)
- ●陰性(見つからなかった):考えられる理由と、全エクソーム検査など次の検査の選択肢をご説明します
- ●VUS:どう扱うか、ご家族の検査で手がかりが得られるかをご説明します
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合(二次的所見)の扱いは、二次的所見の開示方針をご覧ください。
7. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかると、ご本人の治療の選び方、ご家族の検査、次のお子さんを考えるときの備えまで、具体的に考えられるようになります。わかるだけで終わりではなく、次の行動につなげられることが、この検査を受ける意味です。
ご本人:薬・栄養・肝移植の判断と、見張ること
病名が決まると、治療と見張りの方針がはっきりします。治療は、小児科・消化器内科・肝移植を行う専門の医療機関で受けていただきます。
- ●進行性家族性肝内胆汁うっ滞症:難病情報センターは、ウルソデオキシコール酸、フェノバルビタール、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の内服と、必須脂肪酸を強化したMCTミルクを挙げ、かゆみの軽減や進行を遅らせるために胆汁の再吸収を減らす手術(部分胆汁瘻)を行う場合があるとしています(2026年10月時点で確認)。重い場合は肝移植が必要になります
- ●新しいかゆみの薬:日本では、胆汁酸が腸から再び吸収されるのを抑える薬(IBAT阻害薬)として、マラリキシバット(リブマーリ)が2025年3月に「アラジール症候群、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症における胆汁うっ滞に伴うそう痒」で、オデビキシバット(ビルベイ)が2025年9月に「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に伴うそう痒」で承認されました(2026年10月時点、各社の発表と添付文書で確認)。対象になるかは型と症状で決まるため、主治医にご相談ください
- ●型ごとの注意:ABCB11の変化による型(PFIC2)では、幼い子どもで肝細胞がんが起こりうることが報告されています[4]。ATP8B1の変化による型では、肝移植のあとも下痢が続いたり悪化したりすること、移植した肝臓に脂肪肝炎が起こりうることが知られています[3]。型がわかっていると、こうした点に前もって備えられます
- ●シトリン欠損症:乳糖を除きMCTを強化したミルク、炭水化物を控えた食事など、病気に合わせた栄養の工夫が勧められています[5]
- ●アラジール症候群:肝臓だけでなく、心臓・腎臓・目などの見張りを、専門の医療機関と相談しながら進めます[2]
ご家族:きょうだい・親が同じ変化をもつかを調べる
ご本人で原因の変化がわかると、ご家族はその変化だけをピンポイントで調べることで、同じ変化をもっているかを確かめられます。常染色体潜性(劣性)遺伝の病気では、ご両親がそれぞれ1つずつ変化をもつ保因者かどうか、きょうだいが保因者かどうかがわかり、きょうだいが将来、結婚や妊娠を考えるときの手がかりにもなります。症状のないご家族の検査は、ご本人の同意のうえで、遺伝カウンセリングを経て行います。
次のお子さんを考えるとき:確率と、妊娠したときの備え
次のお子さんで同じ病気が起こる確率は、原因の遺伝子と遺伝のしかたで大きく変わります。常染色体潜性(劣性)遺伝の病気で、ご両親がともに保因者なら、お子さん1人ごとに4分の1です。アラジール症候群のような常染色体顕性(優性)遺伝の病気で、親が変化をもっていれば2分の1です[2]。お子さんで新しく起きた変化(新生突然変異)なら確率は低くなりますが、ご両親の卵子や精子のもとになる細胞にだけ変化がある場合もあり、ゼロとは言えません。
ご家族の原因の変化がわかっていれば、次の妊娠で、赤ちゃんに同じ変化があるかを調べることができます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。出生前診断を行うかどうかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えるため、妊娠を考えている段階からご相談ください。原因がわからないままでは、出生前に何を調べるかを決められません。
アラジール症候群の原因遺伝子JAG1・NOTCH2は、当院のNIPTのインペリアルプランでも調べられます(妊娠9週から。妊娠6〜8週は臨床研究として)。日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。もちろん、何もしないでそのまま妊娠・出産を迎えることも、尊重される選択です。
「黄疸は母親のせい?」:遺伝子の変化は誰のせいでもありません
赤ちゃんの黄疸が長引くと、「母乳のせいでは」「妊娠中の過ごし方が悪かったのでは」と、ご自分を責めてしまうお母さんがいます。遺伝で起こる胆汁うっ滞は、生まれ持った遺伝子の変化によるもので、妊娠中の過ごし方や授乳のしかたで起こるものではありません。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。原因を知ることは、責任を探すためではなく、これからの治療とご家族の計画のためにあります。
当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、次にどうするかを一緒に考えます。ご家族の検査、保因者検査、妊娠したときの出生前診断(羊水検査・絨毛検査)まで、当院で続けてご相談いただけます。
8. 日本の制度:指定難病・小児慢性特定疾病(2026年10月時点)
胆汁うっ滞を起こす病気の多くは、指定難病や小児慢性特定疾病の対象です。難病情報センターと小児慢性特定疾病情報センターで、次のように確認しました(2026年10月時点)。
📋 主な病気と制度
※「—」は今回の確認で該当を確かめていないもの、または一覧に見当たらなかったものです。良性反復性肝内胆汁うっ滞症は、独立した指定難病・小児慢性特定疾病としては見当たりませんでした。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の基準を満たし、申請する必要があります。遺伝子検査で原因が確定していることは、診断の手がかりになります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜で受けられ、唾液・粘膜ならオンライン診療でも検査ができます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取血液・唾液・頬の粘膜
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、ご自身の判断で先に検体を採取しないでください。ご来院の方は診療時間・アクセスをご確認ください。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【親が軽くても、子どもが軽いとは限らない】
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
胆汁うっ滞の病気のうち、アラジール症候群は常染色体顕性(優性)遺伝で、同じ家族の中でも症状の重さに大きな差があります。親御さんが軽い症状で気づいていなかったのに、お子さんが重い胆汁うっ滞で見つかり、そこで初めてご家族の変化がわかる――そうしたことが起こりうる病気です。だからこそ、「自分は元気だから」「家族に肝臓の病気の人はいないから」という印象だけで、これからのことを決めてしまわないでほしいと考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、家族歴が濃いものの、ご本人は大学を卒業して会社に勤めていた方が、念のため検査を受けたところ、染色体の微小欠失が見つかったことがあります。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。原因がわかれば、お子さんの治療の選び方も、次のお子さんを考えるときの備えも、具体的になります。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 胆汁うっ滞は血液検査でわかりますか?
血液検査で、直接(抱合型)ビリルビンが上がっていることから胆汁うっ滞を見つけます。北米と欧州の小児消化器の学会の指針では、直接ビリルビンが1.0mg/dLを超えると異常とし、原因を調べることを勧めています。γ-GTPの値は、遺伝で起こる胆汁うっ滞の型を見分ける手がかりになります。原因の病名までは血液の数値だけでは決まらないことが多く、画像検査や遺伝子検査を組み合わせて調べます。
Q2. 赤ちゃんの黄疸が1か月を過ぎても消えません。遺伝子検査を受けるべきですか?
まず、遺伝子検査を待たずに、かかりつけの小児科で直接ビリルビンを測ってもらってください。とくに便の色が白っぽい・クリーム色のときは、手術の時期が大切な胆道閉鎖症をまず確かめる必要があります。胆道閉鎖症などが否定され、原因がわからないときに、この遺伝子検査が役に立ちます。
Q3. 胆汁うっ滞は遺伝しますか?きょうだいや次の子に起こる確率は?
原因によります。遺伝で起こる胆汁うっ滞の多くは常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに保因者の場合、次のお子さんが同じ病気になる確率は4分の1です。アラジール症候群は常染色体顕性(優性)遺伝で、親が原因の変化をもっていれば、お子さんに受け継がれる確率は2分の1です。原因の遺伝子がわかると、ご家族ごとの確率を具体的にお伝えできます。
Q4. 胆汁うっ滞に効く薬はありますか?
原因によって治療は違います。進行性家族性肝内胆汁うっ滞症では、ウルソデオキシコール酸、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)、MCTミルクなどが使われます。日本では2025年に、胆汁酸が腸から再び吸収されるのを抑える薬(IBAT阻害薬)が承認され、マラリキシバットはアラジール症候群と進行性家族性肝内胆汁うっ滞症の、オデビキシバットは進行性家族性肝内胆汁うっ滞症の、胆汁うっ滞に伴うかゆみに使えるようになりました(2026年10月時点)。治療は小児科・消化器内科・専門の医療機関で受けてください。
Q5. 胆汁うっ滞を放置するとどうなりますか?
原因によって経過は大きく違います。胆道閉鎖症は手術が遅れると胆汁の流れが戻りにくくなり、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症では重い場合に肝移植が必要になります。脂肪の吸収に胆汁が必要なため、脂溶性ビタミンが不足することもあります。早く原因を見つけ、原因に合った治療や見張りにつなげることが大切です。
Q6. シトリン欠損症も調べられますか?
はい。シトリン欠損症の原因遺伝子SLC25A13は、この検査の72遺伝子に入っています。シトリン欠損症は日本人に比較的多い病気で、赤ちゃんでは新生児肝内胆汁うっ滞(NICCD)として見つかることがあります。乳糖を除きMCTを強化したミルクなどの栄養の工夫が勧められており、食事の注意は一般的な考え方と違う点があるため、主治医と相談してください。
Q7. 肝内胆汁うっ滞症パネル(5遺伝子)とどちらを受ければよいですか?
γ-GTPが正常〜低めなのにかゆみや黄疸がある、胆汁うっ滞をくり返す、妊娠中にかゆみと肝臓の数値の異常があった、など肝臓の中の胆汁の運び出しの病気が疑われるときは、5遺伝子の肝内胆汁うっ滞症パネルが向いています。赤ちゃんの黄疸が長引き、代謝の病気や腎臓・心臓など全身の病気も考えられて型を絞れないときは、72遺伝子のこの検査が向いています。5遺伝子はすべて、この72遺伝子に含まれています。
Q8. 検査で何も見つからなかったらどうなりますか?
原因の変化が見つからなくても、胆汁うっ滞の病気が否定されたわけではありません。この検査で調べていない遺伝子や、この方法では見つけにくい変化が原因のこともあり、感染症や薬など遺伝以外の原因もあります。結果をもとに、全エクソーム検査など次の検査を考えるか、経過を見るかを、臨床遺伝専門医がご説明します。
🧬 一度の検査で、お子さんとご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。胆汁うっ滞の原因がわかれば、治療の選び方や合併症への備えだけでなく、ご家族の検査や、次のお子さんを考えるときの計画にも使える情報になります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
- [1] Fawaz R, Baumann U, Ekong U, et al. Guideline for the Evaluation of Cholestatic Jaundice in Infants: Joint Recommendations of the North American Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition and the European Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2017;64(1):154-168. [DOI: 10.1097/MPG.0000000000001334](PMID: 27429428)
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