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アラジール症候群2型(ALGS2)は、細胞どうしの「連絡係」であるNOTCH2遺伝子の変化によって、肝臓・心臓・腎臓・骨・目など全身の発生に影響が及ぶ、希少な常染色体顕性(優性)遺伝の病気です。同じアラジール症候群でも、9割以上を占めるJAG1遺伝子による「1型」とは異なり、特徴的な顔つき・蝶形椎・後部胎生環といった“目印”が出にくいため、従来の診断基準だけでは見逃されやすいことがわかってきました。この記事では、ALGS2の原因のしくみから1型との違い、特に注意したい腎臓の合併症、そして日本でも承認された新しい飲み薬(IBAT阻害薬)まで、臨床遺伝専門医がやさしく解説します。
Q. アラジール症候群2型(ALGS2)とは、どんな病気ですか?結論だけ先に知りたいです
A. ALGS2は、NOTCH2遺伝子の「機能喪失(はたらきの不足)」によって、肝臓の胆管が少なくなり胆汁の流れが滞る(胆汁うっ滞)ことを中心に、心臓・腎臓・骨・目などに症状が出る希少な遺伝性疾患です。アラジール症候群全体の約1〜数%とごく少数で、JAG1遺伝子による1型と比べて顔つき・蝶形椎・後部胎生環といった古典的な目印が出にくいのが特徴です。日本では指定難病297に指定され、つらいかゆみに対してはIBAT阻害薬という新しい飲み薬が使えるようになりました。
- ➤原因のしくみ → NOTCH2受容体の機能喪失型変異による「ハプロ不全」。シグナルの“不足”が病気をつくる
- ➤1型との違い → 顔貌57.6%・蝶形椎わずか3.3%など、古典的徴候の出現頻度が有意に低い
- ➤見逃しリスク → 「5徴のうち3つ」という従来基準だけでは診断網からこぼれやすい
- ➤腎臓への注意 → ALGS2では腎・尿路の異常が前面に出やすく、生涯にわたる経過観察が重要
- ➤最新治療 → IBAT阻害薬(マラリキシバット=リブマーリ)が国内承認。難治性のかゆみに分子標的治療
1. アラジール症候群2型(ALGS2)とは
アラジール症候群(Alagille syndrome:ALGS)は、肝臓・心臓・骨格・目・顔つきなど、からだの多くの場所に同時に発生の異常が起こる、常染色体顕性(優性)遺伝の希少疾患です。発生頻度はおよそ出生3万〜5万人に1人と推定され、日本では全国調査にもとづいておよそ200〜300人の患者さんがいると見積もられている指定難病です(指定難病297)。病気の本質は、細胞どうしが連絡を取り合う「Notch(ノッチ)シグナル」という伝達のしくみがうまく働かないことにあります。
アラジール症候群は長らく1つの遺伝子の異常で起こると考えられてきました。実際、全体の約94%以上はJAG1遺伝子の変化によるもので、これを「アラジール症候群1型(ALGS1、OMIM 118450)」と呼びます。ところが、典型的な診断基準を満たすのにJAG1の変化が見つからない患者さんがわずかに存在し、その追跡から、Notchの“受信機”であるNOTCH2遺伝子の変化が原因となる一群が見つかりました。これが「アラジール症候群2型(ALGS2、OMIM 610205)」で、全体の約1〜数%を占めるごく少数のタイプです。
💡 用語解説:胆汁うっ滞(たんじゅううったい)
胆汁とは、肝臓でつくられ、脂肪の消化を助ける消化液です。肝臓の中の細い管(胆管)を通って腸へ流れますが、アラジール症候群では生まれつき肝臓内の小さな胆管が少ない(胆管減少)ため、胆汁が肝臓にたまって流れが滞ります。これが「胆汁うっ滞」で、強い黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)や、後で説明する激しいかゆみ、脂溶性ビタミンの吸収障害などの原因になります。
遺伝子診断、とくに次世代シーケンサー(NGS)を使ったパネル検査が普及したことで、これまで見えにくかったALGS2の独自の特徴や、1型との表現型の違いが少しずつ明らかになってきました。ここから、原因となるNOTCH2のしくみ、1型との違い、注意すべき腎臓の合併症、そして最新の治療までを順に見ていきます。NOTCH2遺伝子そのものの詳しい解説はNOTCH2遺伝子のページもあわせてご覧ください。
2. NOTCH2遺伝子の働きと「機能喪失」のしくみ
🔍 関連記事:NOTCH2遺伝子の全容/ハプロ不全とは/ミスセンス変異とは
NOTCH2遺伝子は1番染色体の短腕にあり、細胞膜を1回貫通する「受容体(受信機)」であるNOTCH2タンパク質をつくります。このタンパク質は、細胞の運命を決めたり、分化・増殖・細胞死を調整したりすることで、心臓・肝臓・腎臓・歯・骨格など多くの臓器が正しく形づくられるのに欠かせない役割を担っています。
NOTCH2タンパク質は大きく3つの部分でできています。第一に、細胞の外に突き出して相手のシグナル(JAG1などのリガンド=“手紙”)を受け取る細胞外ドメイン。ここには36個のEGF様リピートと呼ばれる繰り返し構造があり、とくに11番目と12番目がリガンドとの結合に重要です。第二に、膜を貫く膜貫通ドメイン。第三に、核へ直接シグナルを届ける細胞内ドメイン(NICD)で、ここには標的遺伝子を働かせるためのアンキリンリピート(ANK)や、役目を終えたNICDを分解へ導く目印であるPESTドメインが含まれます。
隣の細胞のリガンドがNOTCH2に結合すると、受容体は2段階の切断を受け、細胞内ドメイン(NICD)が切り離されて核へ移動します。核ではCSLという因子と結びつき、HESやHEYといった下流の遺伝子のスイッチを入れます。胎児の発生では、肝臓の胆管がきちんと枝分かれして管をつくる過程や、腎臓のろ過装置がつくられる過程に、一定量以上のNotchシグナルが必要です。
💡 用語解説:ハプロ不全(はぷろふぜん)
遺伝子は通常、父由来・母由来の2本がペアで働いています。片方の遺伝子が壊れて働かなくなり、残り1本(約50%)のはたらきだけでは足りなくなることで病気が起こるしくみを「ハプロ不全」と呼びます。ALGS2はこの「はたらきの不足(機能喪失)」によるタイプと考えられています。詳しくはハプロ不全の解説ページもご覧ください。
ALGS2で見つかるNOTCH2の変化は、細胞外のミスセンス変異(アミノ酸が1つ置き換わる)やフレームシフト変異、細胞内のナンセンス変異など、遺伝子の広い範囲に散らばっているのが特徴です。これらに共通するのは、受容体のシグナルを伝える力を大きく下げる「機能喪失型変異」であるという点です。1本分のはたらきが失われ、全体としてシグナルが必要な量(しきい値)を下回ると、胆管や腎臓などの微細な構造づくりがうまくいかなくなります。なお最新の国際研究は、JAG1がハプロ不全であるのに対し、NOTCH2側の正確なしくみはまだ完全には解明されていないと指摘しており、これがNOTCH2変異の病的意義の判定を難しくしているとされています。
💡 用語解説:ミスセンス変異・ナンセンス変異
ミスセンス変異は、設計図の1文字が変わって、本来とは別のアミノ酸に置き換わる変化です。ナンセンス変異は、文章の途中に“終止符”が入ってタンパク質が途中で途切れてしまう変化です。同じ遺伝子でも変化の種類によって影響が異なります。詳しくはミスセンス変異・ナンセンス変異の解説をどうぞ。
同じNOTCH2でも、全域に散らばる機能喪失型変異はシグナル“不足”のALGS2を、PESTドメイン(エクソン34)に集中する機能獲得型変異はシグナル“過剰”のハイドゥ・チェニー症候群を引き起こす。
3. 同じ遺伝子なのに正反対:ハイドゥ・チェニー症候群
🔍 関連記事:ハイドゥ・チェニー症候群/機能獲得型変異とは
NOTCH2の異常を深く理解するうえで欠かせないのが、まったく違う見た目の病気「ハイドゥ・チェニー症候群(HCS、OMIM 102500)」との比較です。HCSは、重い骨粗鬆症、手足の指先の骨が溶ける先端骨溶解、頭蓋顔面の異常、多発性嚢胞腎などを特徴とする、骨を中心とした重篤な疾患です。
💡 用語解説:機能喪失と機能獲得
機能喪失(はたらきが減る)は、シグナルが“足りなくなる”タイプの病気のしくみで、ALGS2がこれにあたります。一方機能獲得(はたらきが行き過ぎる)は、シグナルが“過剰になる”しくみで、HCSがこれにあたります。詳しくは機能獲得型変異の解説へ。
注目すべきは、ALGS2がNOTCH2の機能喪失で起こる多系統の病気であるのに対し、HCSはエクソン34(PESTドメイン)に集中する切断型変異による「機能獲得」で起こるという点です。PESTドメインはNICDを分解へ導く“目印”の役割を持つため、ここが失われるとNICDが分解されずに核内に蓄積し、Notchシグナルが過剰に働き続けます。この過剰なシグナルが破骨細胞の形成を促し、骨吸収が進んで重い骨粗鬆症や骨溶解を起こすと考えられています。同じ受容体の異常でも、シグナルが「不足」か「過剰」かで、正反対の臓器異常へと分かれる——これはNotchシグナルの繊細さを物語る、医学的にとても興味深い事実です。
4. 1型(JAG1)との違い:古典的徴候が出にくい
🔍 関連記事:アラジール症候群(全般)/浸透率とは
アラジール症候群の診断は、伝統的に次の「古典的5徴」のうち3つ以上を満たすことで行われてきました。①肝臓:肝生検でみられる小葉間胆管の減少と胆汁うっ滞、②心血管:末梢性肺動脈狭窄を中心とする先天性心疾患、③顔つき:前額部の突出・深い眼窩・とがった顎・球状の鼻尖など、④骨格:エックス線でみられる蝶形椎、⑤目:後部胎生環などの前眼部の異常です。
💡 用語解説:蝶形椎・後部胎生環
蝶形椎(ちょうけいつい)は、背骨の一部がチョウの羽のように左右に割れて見える形の異常で、レントゲンで見つかります(多くは無症状)。後部胎生環(こうぶたいせいかん)は、目の角膜のふちの内側に見える線状の所見で、視力には通常影響しませんが、診断の手がかりになります。どちらも「目印」であり、これ自体が大きな症状を起こすものではありません。
長い間、原因遺伝子にかかわらず1型と2型は臨床的に区別が難しい同じ症候群とみなされてきました。しかし、国際的な大規模コホート研究「GALA研究」をもとにVandriel SMらが報告した解析(Liver International 2025年)により、原因遺伝子による表現型の違いが統計的に示されました。NOTCH2変異群(ALGS2)では、JAG1変異群(ALGS1)と比べて、いくつかの古典的徴候の出現頻度が有意に低かったのです。
1型(JAG1)と2型(NOTCH2)で異なる古典的徴候の出現頻度
国際コホートGALA研究(Vandriel SM, et al. Liver International 2025)より
2型(NOTCH2)
特徴的な顔つき(顔貌)
90.1%
57.6%
心血管の異常
92.2%
64.3%
蝶形椎
44.5%
3.3%
後部胎生環(目の所見)
52.8%
18.5%
2型では、とくに蝶形椎(3.3%)と後部胎生環(18.5%)の頻度が大きく下がります。なお2型の人数は研究全体でも少数(GALA研究でNOTCH2は34名)のため、数値には幅がある点に留意が必要です。
この差は単なる統計上の話ではありません。もし医師が「5症状中3つ以上」という従来基準だけに頼ると、古典的な目印が少ないALGS2の患者さんは「原因不明の新生児肝炎」や「非典型的な胆道閉鎖症」と誤って診断されるリスクがあります。研究者らは、徴候がすべて揃っていなくても、乳児期に原因不明の肝内胆汁うっ滞を示すすべての子に対して、早い段階で幅広い遺伝学的検査を考慮すべきだと強く勧めています。
5. ALGS2で特に注意したい腎臓・尿路・血管の合併症
腎臓の発生でも、NOTCH2とJAG1はともに重要な役割を果たしています。これらはネフロン(腎臓の最小単位)の近位尿細管の発達や、糸球体の血管網づくりに欠かせません。マウスの研究では、Notch2シグナルが失われると近位尿細管を中心に多発性の先天性腎嚢胞ができることが示されており、Notch経路が糸球体のろ過バリアの維持にも関わることがわかっています。
アラジール症候群全体では、約38〜70%の患者さんに何らかの先天的な腎・尿路の異常が報告されています。複数の臨床報告で、NOTCH2変異の家系(ALGS2)では、重い腎機能障害が前面に出やすい、あるいはより複雑な形で合併しやすいことが繰り返し指摘されています。具体的には次のような病態が含まれます。
- ➤腎異形成 → 腎臓の構造的な発達異常。超音波で「小さな高エコー腎」として写ることが多い、最も一般的な所見
- ➤腎嚢胞・CAKUT → 嚢胞や、馬蹄腎・単腎・重複腎盂尿管などの先天性腎尿路異常
- ➤腎尿細管性アシドーシス(RTA) → 近位尿細管の機能障害で血液の酸塩基バランスが乱れる。全体の約9%に
- ➤腎動脈狭窄 → 血管の形成異常で腎動脈が狭くなり、重い腎血管性高血圧を起こすことがある
- ➤脂質沈着・胆汁円柱腎症 → 高度の高コレステロール血症や、強い胆汁うっ滞による胆汁酸の毒性が腎臓に二次的な障害をもたらす
これらの知見から、ALGS2と診断された場合は、1型以上に厳重で生涯にわたる腎機能のモニタリングが重要になります。具体的には、推算糸球体ろ過量(eGFR)の定期評価、超音波での嚢胞や異形成の経過確認、そして血圧の厳格な管理です。小児期や、肝移植を経た成人期に慢性腎臓病(CKD)へ進むリスクがあるため、診断後早期から腎臓専門医とも連携していくことが望まれます。また、頭蓋内出血のリスクを伴う血管の異常(動脈瘤やもやもや様の変化など)も報告されており、血管の評価も含めた全身的な管理が大切です。
6. 診断:病理の落とし穴と遺伝子検査
古くから、肝生検でみられる「小葉間胆管の減少」がアラジール症候群の重要な手がかりとされてきました。正常の肝臓では門脈域に対する胆管の比率はおよそ0.9〜1.0ですが、本症では0.4未満まで減ります。最終的には患者さんの約95%で確認される所見です。ただし、ここには「時期による落とし穴」があります。
生後3か月以内の早い時期に行った肝生検では、胆管の減少という特徴がまだはっきり現れておらず、確認できるのは全体の約65%にとどまります。この時期には、正常な胆管比率を示したり、逆に新生児肝炎に似た非特異的な像を呈したりすることがあります。つまり、早期に胆管減少が見られないからといってアラジール症候群を否定することはできません。だからこそ、組織所見だけに頼らず、早い段階での遺伝学的検査が重要になります。
出生後の検査と出生前の検査を分けて理解する
遺伝学的検査は「出生後」と「出生前」で目的も方法も異なります。混同しないよう、分けて整理します。
👶 出生後の確定診断
血液による遺伝子検査:JAG1とNOTCH2を同時に高精度で調べるアラジール症候群遺伝子検査(JAG1/NOTCH2)。鑑別が必要な進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)の遺伝子も含むパネルが有用です。
欠失・重複の補完:配列解析で点変異が見つからない場合、MLPA法などで大きな欠失・重複(コピー数の変化)を確認します。
NIPTで陽性となった場合の確定検査について、ミネルバクリニックでは互助会(8,000円)により、羊水検査の費用が全額補助されます。互助会はNIPTを受けるすべての方に適用される制度です。詳しくは互助会のご案内をご覧ください。
新しく見つかったNOTCH2の変化が意義不明変異(VUS)の場合は、解釈に慎重さが必要です。一般集団のデータベース(gnomADなど)でのアレル頻度の確認、コンピュータによる病原性予測、必要に応じた機能解析などを組み合わせ、専門医が総合的に判断します。前述のとおりNOTCH2のしくみには未解明な点が残るため、判定には専門的な評価が欠かせません。
7. 最新治療:つらいかゆみに効くIBAT阻害薬
アラジール症候群の治療は長らく、対症療法・栄養管理と、重症例での肝移植という選択肢に限られていました。しかし近年、患者さんの生活の質(QOL)を大きく左右する症状に、根本のしくみを狙う分子標的薬が登場しました。
アラジール症候群でとくにつらいのが、血液中の胆汁酸が増えることで起こる難治性の強いかゆみ(瘙痒)です。ふつうの抗ヒスタミン薬ではコントロールが難しく、激しく掻くことによる皮膚の傷や睡眠障害、ひいては成長や集中力にも影響します。このかゆみを根本から和らげるために開発されたのが、回腸胆汁酸トランスポーター(IBAT)阻害薬です。
💡 用語解説:IBAT阻害薬と胆汁酸の腸肝循環
肝臓でつくられ腸へ出た胆汁酸は、ふだん小腸(回腸)の末端で約95%が再吸収され、肝臓へ戻ります(腸肝循環)。IBAT阻害薬は、この再吸収の入り口を選択的にブロックし、余分な胆汁酸を便として体の外へ出します。その結果、血液や肝臓にたまった有害な胆汁酸が減り、かゆみがやわらぎます。病気のしくみを直接ねらった「標的治療」です。
国内承認薬:リブマーリとビルベイ
マラリキシバット(製品名:リブマーリ内用液)は、アラジール症候群および進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)の胆汁うっ滞に伴うかゆみを対象に、2025年3月27日に国内で製造販売承認を取得し、同年6月12日に発売された、日本で初めての特異的治療薬です。米国・欧州を含む40か国以上でアラジール症候群の治療薬として使われています。用法は通常、有効成分として200µg/kgを1日1回食前に開始し、消化器症状などの忍容性を確認したうえで1週間後に400µg/kg(1日1回)へ増量します。液剤であるため乳幼児でも体重に応じた細かな調節がしやすい点も、小児医療では大きな意義があります。
もう1つのIBAT阻害薬オデビキシバット(製品名:ビルベイ顆粒)は、国内では2025年9月19日にPFICに伴うかゆみを対象として製造販売承認を取得しました。アラジール症候群については国内で第3相試験が進行中で、今後の適応拡大が期待される段階です。なお米国では、生後12か月以上のアラジール症候群患者さんの胆汁うっ滞性のかゆみに対して、2023年6月にすでに承認されています。
支持療法と外科的治療:葛西手術は要注意
IBAT阻害薬という強力な選択肢を得た後も、従来の支持療法は重要な土台です。胆汁の流れを助けるウルソデオキシコール酸や、腸の胆汁酸を吸着するコレスチラミンに加え、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の補充が欠かせません。とくにビタミンK不足は致命的な頭蓋内出血、ビタミンD不足は骨折のリスクに直結します。胆汁酸を必要としない中鎖脂肪酸(MCT)を多く含むミルクなどの栄養療法も大切です。
内科的治療に抵抗する重い胆汁うっ滞や進行した肝硬変では、最終手段として肝移植が選択肢になります。アラジール症候群全体の約20〜50%で最終的に移植が必要になると報告されています。ここで極めて重要なのが、胆道閉鎖症と誤って「葛西手術(肝門部腸吻合術)」を行うと、改善が得られないばかりか予後を悪化させる恐れがあるという点です。事前の正確な遺伝子診断が、ここでも運命を分けます。
8. 遺伝のしくみと家族計画
🔍 関連記事:遺伝カウンセリングとは/臨床遺伝専門医とは
ALGS2は常染色体顕性(優性)遺伝の形をとります。患者さんの一部は罹患した親から変異を受け継ぎますが、相当数は新生突然変異(de novo変異)によって、家族歴がないところで初めて生じます。患者さん本人が将来お子さんをもつ場合、その変異が伝わる確率は男女に関係なく理論上50%です。
💡 用語解説:新生突然変異(de novo変異)と生殖細胞モザイク
新生突然変異とは、両親には同じ変化がないのに、子どもで初めて新しく生じる遺伝子の変化のことです。家族歴がなくても起こり得ます。
また、見かけ上は新生突然変異でも、親の精子や卵子をつくる細胞の一部だけに同じ変化が潜んでいる生殖細胞モザイクの可能性があります。この場合、次のお子さんへの再発率はゼロではありません。再発リスクの説明には、この点を含めた専門的な評価が大切です。
遺伝カウンセリングで最も難しいのは、「表現型の多様性(変動性表現度)」と「不完全浸透」です。同じ家系・同じ変異であっても、ほとんど無症状に近い人から、生後まもなく重い肝不全や心不全に至る人まで、症状の幅がとても大きいのです。
💡 用語解説:不完全浸透と変動性表現度
不完全浸透は、変異をもっていても必ずしも症状が出るとは限らないこと。変動性表現度は、症状が出る場合でもその種類や重さが人によって大きく異なることを指します。アラジール症候群はこの両方が強く、予測の難しい病気です。浸透率の考え方は浸透率の解説ページもご覧ください。
原因変異が分かっている家系では、胎児が変異を受け継いでいるかを調べる出生前診断や、体外受精で変異をもたない受精卵を選ぶ着床前遺伝学的検査(PGT-M)が技術的には可能です。ただし、検査で「変異の有無」は分かっても、そこから生まれた後の症状の種類や重さを予測することは現在の医学ではできません。この予測不可能性を、専門医や遺伝カウンセラーがていねいに説明し、特定の選択を勧めることも、安心を約束することもなく、ご家族自身の意思決定を支えることが何より大切です。詳しくは遺伝カウンセリングのページをご覧ください。
9. よくある誤解
誤解①「目印が少ないから軽い病気」
ALGS2は顔つき・蝶形椎・後部胎生環といった古典的な目印が出にくいだけで、肝臓の病変は1型と同じくほぼ必発です。重症度や肝移植への到達率に有意差は認められていません。目印の少なさは「軽さ」を意味しません。
誤解②「NOTCH2の異常=1種類の病気」
同じNOTCH2でも、変異の場所と性質によって、機能喪失のALGS2と機能獲得のハイドゥ・チェニー症候群という正反対の病気に分かれます。遺伝子名だけで病気は決まりません。
誤解③「肝臓だけの病気」
ALGS2では腎臓・尿路の異常や血管の異常が前面に出やすいことが指摘されています。肝臓だけでなく、腎機能や血圧、血管も含めた生涯にわたる管理が必要です。
誤解④「家族にいないから遺伝ではない」
アラジール症候群の多くは新生突然変異で、家族歴がなくても起こります。家系に患者さんがいないことは、遺伝性疾患を否定する理由にはなりません。
よくある質問(FAQ)
🏥 アラジール症候群・遺伝子診断のご相談
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参考文献
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- [2] Alagille Syndrome. StatPearls, NCBI Bookshelf. [NBK507827]
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- [11] リブマーリ®内用液10mg/mLの製造販売承認取得について(2025年3月27日). 武田薬品工業. [Takeda]
- [12] 進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)に伴うそう痒、治療薬「ビルベイ」が日本で発売. 遺伝性疾患プラス. [遺伝性疾患プラス]
- [13] イプセン ビルベイ®(オデビキシバット)日本における製造販売承認取得. Ipsen Japan. [Ipsen]



