この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

潰瘍性大腸炎・クローン病は「遺伝するの?」とよく心配されますが、大人で発症する多くの場合は、遺伝子1つで決まる病気ではありません。一方で、6歳になる前に始まる重い腸炎(超早期発症型炎症性腸疾患・VEO-IBD)では、免疫や腸の粘膜に関わる遺伝子1つの変化が見つかることがあり、原因がわかると造血幹細胞移植など、治療の選び方が変わることがあります。このページでは、炎症性腸疾患と遺伝の関係、子どもやきょうだいに遺伝する確率、そして122遺伝子を一度に調べる遺伝子検査でわかることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 潰瘍性大腸炎・クローン病は遺伝しますか?この検査で何がわかりますか?
大人で発症する多くの潰瘍性大腸炎・クローン病は、たくさんの遺伝子と環境が重なって起こり、遺伝子検査で原因を1つに決める病気ではありません。この検査が役立つのは、6歳未満で始まる重い腸炎などで、IL-10の働きや免疫・腸の粘膜に関わる遺伝子1つの変化を122遺伝子の中から探すときです。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
乳幼児期に始まった治りにくい腸炎、肛門のまわりの病変をくり返す、ふつうの治療が効きにくい、くり返す感染症など免疫の病気を思わせる症状がある、ご家族に同じような重い腸炎の方がいる、といった場合です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因が見つかれば、治療の選び方、きょうだい・次のお子さんに遺伝する確率、ご家族の検査を具体的に考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 炎症性腸疾患とは:潰瘍性大腸炎・クローン病は遺伝する?
炎症性腸疾患(IBD)は、腸に慢性の炎症が続く病気の総称で、代表は潰瘍性大腸炎とクローン病です。どちらも「親から子へ必ず受け継がれる遺伝病」ではありませんが、家族の中で発症することもあり、生まれ持ったなりやすさが関わっていると考えられています。
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に炎症やただれ(びらん・潰瘍)ができる病気、クローン病は口から肛門までの消化管のどこにでも炎症が起こりうる病気です。どちらも、下痢・腹痛・血便・体重が減るなどの症状が、よくなったり悪くなったりをくり返します。病気そのもののくわしい症状や治療は、消化器内科の主治医が専門です。このページでは、「遺伝」と「遺伝子検査」に関わることを中心にお伝えします。
大人の潰瘍性大腸炎・クローン病は、遺伝子1つで決まる病気ではない
難病情報センターは、潰瘍性大腸炎について「家族内での発症も認められており、何らかの遺伝的因子が関与している」とし、クローン病については「遺伝病ではありません」としています(2026年10月時点で確認)。たくさんの人の遺伝情報を比べる研究(ゲノムワイド関連解析(GWAS))では、炎症性腸疾患のなりやすさに関わる領域がこれまでに215か所報告され、2017年の研究でさらに25か所が見つかりました[7]。
つまり、大人で発症する多くの潰瘍性大腸炎・クローン病は、1つひとつは小さな影響の遺伝子の違いがたくさん重なり、そこに環境が加わって起こる病気です。このタイプでは、遺伝子パネル検査で「原因の遺伝子」を1つに決めることはふつうできず、検査を受けても、ご自身やご家族の発症を予測できるわけではありません。
家族に患者さんがいると、なりやすさはどれくらい変わる?
デンマークの全国の住民を1977〜2011年まで追った研究では、親・きょうだい・子どもに患者さんがいる人は、いない人と比べて、クローン病に約7.8倍(7.77倍)、潰瘍性大腸炎に約4.1倍(4.08倍)なりやすいと報告されています。患者さんであるご家族が2人以上いると、なりやすさはさらに高くなっていました[6]。
ただし、これは集団どうしを比べた倍率です。ご家族の誰かが必ず発症するという意味ではなく、一人ひとりがなる確率をそのまま示す数字でもありません。
日本の患者数と、なりやすい年齢
難病情報センターによると、令和5年度の指定難病の医療受給者証を持っている方は、潰瘍性大腸炎で146,702人、クローン病で52,108人です(受給者証を持っている方の数で、患者さん全員の数ではありません)。発症のピークは、潰瘍性大腸炎で男性20〜24歳・女性25〜29歳、クローン病で男性20〜24歳・女性15〜19歳です(2026年10月時点で確認)。
このように、炎症性腸疾患の多くは10代から30代ごろに始まります。これに対して、乳幼児期に始まる腸炎は、原因の考え方が大きく違います。次の章で説明します。
2. 6歳未満で始まる腸炎(超早期発症型炎症性腸疾患・VEO-IBD)と遺伝子
6歳になる前に始まる炎症性腸疾患を、超早期発症型炎症性腸疾患(very early onset IBD:VEO-IBD)と呼びます[2][4]。この年齢で始まる重い腸炎の一部は、遺伝子1つの変化で起こる病気です。
遺伝子1つで起こる「炎症性腸疾患によく似た腸炎」
2014年の総説では、炎症性腸疾患によく似た腸の炎症を起こす遺伝子の変化が50ほど報告されているとまとめています。こうした病気の多くは乳児期や幼児期に症状が出て、ふつうの治療が効きにくく、症状の重さや命への影響が大きいことがあります。また、内視鏡や病理の所見だけでは、クローン病・潰瘍性大腸炎のどちらとも言い切れないことが多いとされています[1]。
原因となる遺伝子の多くは、免疫の細胞(制御性T細胞・T細胞・B細胞・好中球など)や、腸の表面の細胞(上皮)の働きに関わるものです。炎症を抑えるサイトカインであるIL-10の働きが失われる病気や、生まれつきの免疫の病気(原発性免疫不全症)の一部として腸炎が起こる病気が含まれます。
IL-10の病気:生後まもなく始まる、治りにくい腸炎
5歳未満で炎症性腸疾患を発症した66人の子どもを調べた研究では、16人にIL-10またはIL-10受容体の働きが失われる病気が見つかりました。16人全員が生後3か月以内に治りにくい大腸炎を起こし、全員に肛門のまわりの病変がありました。このうち同種造血幹細胞移植を受けた5人では、腸炎が落ち着いた状態(寛解)が続いたと報告されています(観察期間の中央値2年)[3]。
IL-10受容体の遺伝子(IL10RA・IL10RB)の病気は、両親から1つずつ変化を受け継いだときに起こる常染色体潜性(劣性)遺伝の病気として報告されています。ふつうの炎症性腸疾患の治療を続けても落ち着かない腸炎で、原因がIL-10受容体の機能異常による病気とわかれば、造血幹細胞移植という別の選択肢を、専門の医療機関で検討する手がかりになります。当院は治療を行っていないため、治療は小児の消化器・免疫・移植を専門とする医療機関で受けていただきます。
どのくらいの子どもで原因の遺伝子が見つかるか
フランスなど45の小児医療施設が参加した研究では、重い超早期発症型炎症性腸疾患の子ども185人と、病歴から遺伝子1つの病気が疑われた子ども22人、あわせて207人のうち、66人(32%)で原因の遺伝子が確定しました[4]。英国の研究では、遺伝子パネル検査でIL10RA・EPCAM・TTC37・SKIV2Lの変化が見つかり、その結果が造血幹細胞移植を行う判断にも、行わない判断にもつながったと報告されています[5]。
この数字は、重い・典型的でない経過の子どもを集めた研究のものです。腸炎のある子ども全員の3人に1人で原因が見つかるという意味ではありません。
遺伝子1つの原因を疑う手がかり
- ●とても早い年齢(とくに乳児期)に始まった腸炎
- ●肛門のまわりの膿や瘻孔(ろうこう)をくり返す[3]
- ●ふつうの炎症性腸疾患の治療が効きにくい[1]
- ●くり返す感染症・皮膚や髪の異常・血小板が少ないなど、腸以外にも症状がある
- ●ご家族に同じような重い腸炎の方がいる
こうした場合は、「ふつうの潰瘍性大腸炎・クローン病」とひとまとめにせず、遺伝子の原因を一度確かめておく意味があります。
3. 遺伝のしかた:子ども・きょうだいに遺伝する確率
遺伝子1つで起こる腸炎では、子どもやきょうだいに遺伝する確率は、原因の遺伝子と遺伝のしかたで決まります。大人で発症する多くの潰瘍性大腸炎・クローン病とは違い、原因がわかれば、確率を具体的にお伝えできるようになります。遺伝のしかたの基本は遺伝形式の解説をご覧ください。
👨👩👧 遺伝のしかたと、次のお子さん・きょうだいへの確率
※遺伝のしかたは、米国国立医学図書館(MedlinePlus Genetics)の各疾患の解説と、文献で確かめました。同じ遺伝子でも、変化の種類で遺伝のしかたが違うことがあります。実際の確率は、見つかった変化とご家族の検査で決まります。
お子さんで新しく起きた変化(de novo)の場合、次のお子さんへの確率は低くなりますが、ゼロではありません。親御さんの卵子や精子のもとになる細胞にだけ変化がある「性腺モザイク」があるためです。変化をもつ生殖細胞からできる卵子・精子は2分の1の確率で変化を受け継ぎます。生殖細胞のうちどれくらいが変化をもつかは実際の診療では調べられないため、お子さん1人あたりの確率は『最大で2分の1』とお伝えしています。
「結婚できない」「結婚に反対された」と悩んでいる方へ
潰瘍性大腸炎やクローン病があること、ご家族に患者さんがいることは、結婚できない理由にはなりません。大人で発症する多くの潰瘍性大腸炎・クローン病は、お子さんが必ず発症する病気ではありません。
ご家族に乳幼児期から重い腸炎の方がいて、遺伝子の原因がわかっている場合は、ご自身が同じ変化をもっているか、パートナーが同じ遺伝子の保因者か(潜性遺伝のとき)を調べることで、お子さんへの確率を「わからない不安」から「数字のわかる計画」に変えられます。知ったうえで、出生前診断などの選択肢を考えることもできます(第7章)。誰が悪いという話ではありません。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるものです。
4. どんな人がこの検査を受けるとよいか
この検査が最も役立つのは、6歳未満で始まった重い腸炎や、ふつうの治療で落ち着かない腸炎で、遺伝子1つの原因を探したいときです。原因がわからないまま治療を変えていく回り道を、1回の検査で短くできる可能性があります。
- ●乳幼児期に始まり、ふつうの治療で落ち着かない腸炎がある方
- ●肛門のまわりの膿や瘻孔をくり返す方
- ●くり返す感染症、皮膚・髪・血小板の異常など、腸以外の症状もある方
- ●ご家族に同じような重い腸炎や、免疫の病気の方がいる方
- ●お子さんが重い腸炎で、次のお子さんへの確率を知っておきたいご両親
この検査を受けなくてよい場合
大人になってから発症した、典型的な潰瘍性大腸炎・クローン病で、ご家族にも重い腸炎の方がいない場合は、この検査で原因が見つかることは多くありません。「自分も子どもも将来なるのか」を占う検査ではないことを、正直にお伝えします。迷う方は、遺伝カウンセリングで状況をうかがってから、受けるかどうかを一緒に決めます。
この検査より別の検査が向いている場合
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※どの検査が合うかは、症状・これまでの検査・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
5. この検査で調べる122遺伝子と、わかる病気
この検査では、炎症性腸疾患によく似た腸炎の原因として知られる122遺伝子を一度に調べます。腸の表面の細胞(上皮)の守りの働き、細菌を食べて壊す好中球などの働き、T細胞・B細胞の働き、免疫のブレーキ役(制御性T細胞など)、炎症を起こしすぎる・自然に起こる炎症(自己炎症)に関わる遺伝子などが含まれます。
🧬 主な病気と遺伝子・遺伝のしかた
※病気と遺伝のしかたは、文献[3]と米国国立医学図書館(MedlinePlus Genetics)の各疾患の解説で確かめました。ここにない遺伝子も含めて、見つかった変化の意味は遺伝カウンセリングでご説明します。
このほか、重症複合免疫不全症(SCID)(ADA欠損症・オーメン症候群など)、X連鎖高IgM症候群、露出リンパ球症候群2型、自己免疫性多内分泌腺症候群1型、高IgE症候群1型・STAT3機能獲得型症候群、CHARGE症候群、ロイス・ディーツ症候群1型・2型、多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)など、腸以外の症状が中心の病気の原因遺伝子も含まれています。自然に起こる炎症のしくみ(インフラマソーム)に関わる遺伝子もあります。
💡 対象遺伝子(122遺伝子)の一覧
ADA, ADAM17, AICDA, AIRE, ANKZF1, ARPC1B, BACH2, BTK, CARD8, CARMIL2, CASP8, CD19, CD3G, CD40, CD40LG, CD55, CD81, CHD7, CIITA, COL7A1, CR2, CTLA4, CYBA, CYBB, CYBC1, DCLRE1C, DKC1, DOCK8, DUOX2, FCHO1, FERMT1, FOXP3, FUT2, G6PC3, GUCY2C, HPS1, HPS4, HPS6, ICOS, IKBKB, IKZF1, IL10, IL10RA, IL10RB, IL21, IL23R, IL2RA, IL2RB, IL2RG, IL7R, ITCH, ITGB2, JAK1, LCK, LIG4, LRBA, LYST, MALT1, MEFV, MVK, MYO5A, NCF2, NCF4, NFAT5, NFKB1, NFKB2, NLRC4, NLRP12, NOD2, NOP10, NPC1, PIK3CD, PIK3R1, PLCG2, POLA1, PRF1, PTEN, RAB27A, RAC1, RAC2, RAG1, RAG2, RET, RFX5, RFXANK, RFXAP, RIPK1, RTEL1, SH2D1A, SI, SKIV2L, SLC37A4, SLC9A3, SLCO2A1, STAT1, STAT3, STAT5B, STIM1, STX3, STXBP2, STXBP3, TAP1, TAP2, TERC, TERT, TGFB1, TGFBR1, TGFBR2, TINF2, TNFAIP3, TNFRSF13B, TRAF3, TRIM22, TTC37, TTC7A, UNC13D, UNG, WAS, XIAP, ZAP70, ZBTB24, ZNF341(122遺伝子)
対象遺伝子のうち、CHD7とSTAT3は当院のNIPT(ダイヤモンドプラン・インペリアルプラン)でも、TGFBR1とTGFBR2はインペリアルプランでも調べられます。いずれも、お子さんで新しく起きた変化(de novo)による病気を調べる項目です。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。くわしくはダイヤモンドプラン・インペリアルプランのページをご覧ください。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、122遺伝子のうち、遺伝子のたんぱく質を作る部分(コード領域)とその境目にある小さな変化です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●大人の典型的な潰瘍性大腸炎・クローン病の「なりやすさ」:たくさんの遺伝子の小さな違いが重なって起こるため、この検査で原因を決めることはできません。
- ●見つけにくい変化:染色体の位置が入れかわる変化(転座・逆位)、同じ配列の繰り返しが長くなる変化(リピート伸長)、遺伝子の働きを調節する部分や遺伝子の内側の深い部分(イントロン)の変化は、この検査では見つかりません。1つのエクソンだけの小さな欠失・重複も、ふだんは検出の対象外です。
- ●よく似た配列のある遺伝子:DUOX2の一部(エクソン6〜8)は、よく似たDUOX1遺伝子があるため、確実には読めません。CD40LGの繰り返し配列の伸長は調べていません。
- ●体の一部の細胞だけにある変化(モザイク):この検査はモザイクを見つけるようには作られていません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、調べていない遺伝子や、この方法で見つからない変化が原因のことがあります。
見つかった変化のうち確かめが必要なものは、別の原理の方法(サンガー法)でもう一度確かめます。欠失・重複が見つかったときも、別の方法(qPCR法やMLPA法)で確かめてから報告します。
このパネルに入っていない遺伝子は、追加して調べられます
超早期発症型炎症性腸疾患の研究では、このパネルに入っていない遺伝子が原因として見つかった例もあります。たとえば、慢性肉芽腫症の原因のNCF1遺伝子の大きな欠失[4]や、EPCAM遺伝子の変化[5]です。このパネルに入っていないNCF1・EPCAMなどの遺伝子も、追加して調べることができます。遺伝カウンセリングのときにご相談ください(カスタマイズ遺伝子パネル検査)。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。結果の報告書の読み方は検査結果の見かたもご覧ください。
病的変異が見つかったら、次にできること
① ご本人(症状がある方):病名が明らかになり、治療の目標や方針を具体的に検討できることがあります。IL-10の病気のように造血幹細胞移植が選択肢になる病気、慢性肉芽腫症や重症複合免疫不全症のように感染症への備えが大切な病気、糖原病Ib型のように別の病気の管理が必要になる病気など、原因ごとに見張る合併症と治療の選び方が違います。[1][3]治療は、小児の消化器・免疫・移植を専門とする医療機関で受けていただきます。
② 症状のないご本人(家族歴で受けた方・保因者だった方):潜性遺伝の病気の保因者は、ふつうご自身は発症しません。X連鎖の病気では、お母さんが保因者かどうかで男の子への確率が変わります(第3章)。潜性遺伝の病気では、パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかを調べると、お子さんへの確率がわかります。
③ 子どもを持つときの選択肢:ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください(羊水検査・絨毛検査)。日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へのコラムで解説しています。何もしないで出産することも、そのまま選べる選択肢です。
④ ご家族:ご家族の中で原因の変化がわかっていれば、きょうだいや親御さんは、その変化だけをピンポイントで調べられます。症状のない方の検査は、ご本人の同意のうえで行います。
⑤ 当院でのその後:結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、次にどの医療機関で何をするか、ご家族にどう伝えるかを、具体的に考えていただけるようにお伝えします。
妊娠の前に、ご夫婦で保因者かどうかを知る
潜性遺伝・X連鎖の遺伝子の多くは、当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)の対象です。たとえば、CYBB・CYBA・NCF2・NCF4・FOXP3・WAS・TTC37・SKIV2L・HPS1・SLC37A4・MEFVなどが入っています。IL10RAは女性版1009遺伝子に含まれていますが、IL10RB・IL10・XIAP・SH2D1Aはどちらの一覧にも見当たりませんでした(2026年10月時点で確認)。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(単独では受けられません)。
陰性だったとき・VUSが見つかったとき
原因が見つからなかった場合は、大人の典型的な炎症性腸疾患と同じように、たくさんの要因が重なって起こっている可能性や、調べていない遺伝子が原因の可能性を考えます。症状に合わせて、追加の遺伝子や全エクソーム検査を検討します。VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。調べた目的と別の病気の原因が見つかったときの扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
8. 日本の制度(2026年10月時点)
潰瘍性大腸炎は指定難病97、クローン病は指定難病96です。医療費の助成を受けるには、病気の重さなどの認定の条件を満たし、申請する必要があります(難病情報センターの情報、2026年10月時点で確認)。
遺伝子1つで起こる腸炎の原因の病気(原発性免疫不全症など)にも、別の指定難病や小児慢性特定疾病の対象になっているものがあります。原因の病名が確定すると、どの制度を使えるかを確かめる手がかりになります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでも、オンライン診療で受けられます。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取お支払いのあとキット送付
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、キットが届く前にご自身で検体を採らないでください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【「遺伝するの?」には、2つの答えがある】
潰瘍性大腸炎やクローン病の方とご家族が「遺伝するのか」と心配されるのは、自然なことだと思います。ただ、この問いには2つの答えがあると考えています。大人になってから始まる多くの炎症性腸疾患は、遺伝子1つで決まる病気ではなく、遺伝子検査でお子さんの将来を占うことはできません。この点は、不安を大きくしないためにも、はっきりお伝えしたいことです。
一方で、乳幼児期から始まる重い腸炎の中には、遺伝子1つの変化が原因で、原因がわかれば治療の選び方そのものが変わる病気があります。名前がつけば、次の一手が決まります。わからないまま治療を変え続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
私自身も、遺伝性の病気の当事者です(遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由)。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。原因がわかったあと、次のお子さんのことやご家族のことをどう考えるかも含めて、どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 潰瘍性大腸炎は遺伝しますか?
潰瘍性大腸炎は、親から子へ必ず受け継がれる遺伝病ではありません。ただし、家族の中で発症することもあり、何らかの遺伝の要因が関わっていると考えられています。大人で発症する多くの潰瘍性大腸炎は、たくさんの遺伝子の小さな違いと環境が重なって起こるため、遺伝子検査で原因を1つに決めることはふつうできません。一方、6歳未満で始まる重い腸炎では、遺伝子1つの変化が原因として見つかることがあります。
Q2. クローン病は子どもに遺伝しますか?
難病情報センターは、クローン病は遺伝病ではないとしています。ただし、家族の中で複数の方が発症することがあり、生まれ持ったなりやすさと環境が重なって起こると考えられています。親がクローン病でも、お子さんが必ず発症するわけではありません。
Q3. 親やきょうだいが潰瘍性大腸炎・クローン病だと、なる確率はどれくらいですか?
デンマークの全国の住民を1977〜2011年まで追った研究では、親・きょうだい・子どもに患者さんがいる人は、いない人と比べて、クローン病に約7.8倍、潰瘍性大腸炎に約4.1倍なりやすいと報告されています。これは集団どうしを比べた倍率で、ご家族の誰かが必ず発症するという意味ではなく、一人ひとりの確率をそのまま示す数字でもありません。
Q4. 潰瘍性大腸炎になりやすい人は?
難病情報センターによると、潰瘍性大腸炎の発症のピークは男性で20〜24歳、女性で25〜29歳ですが、若い方から高齢の方まで発症し、男女差はありません。ご家族に患者さんがいる方は、いない方よりなりやすいことが報告されています。性格だけで病気になるわけではありません。
Q5. 超早期発症型炎症性腸疾患(VEO-IBD)とは何ですか?
6歳になる前に始まる炎症性腸疾患を、超早期発症型炎症性腸疾患(VEO-IBD)と呼びます。この年齢で始まる重い腸炎では、免疫や腸の粘膜に関わる遺伝子1つの変化が原因として見つかることがあり、原因によっては造血幹細胞移植など、治療の選び方が変わります。
Q6. 潰瘍性大腸炎やクローン病があると結婚できないのですか?
いいえ。潰瘍性大腸炎やクローン病があることは、結婚できない理由にはなりません。大人で発症する多くの潰瘍性大腸炎・クローン病は、遺伝子1つで決まる病気ではなく、お子さんが必ず発症するわけでもありません。ご家族に重い腸炎で遺伝子の原因がわかっている方がいる場合は、遺伝のしかたと、お子さんへの確率を検査で確かめてから考えることができます。
Q7. 費用はいくらですか?保険は使えますか?
検査費用は税込330,000円で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。潰瘍性大腸炎・クローン病そのものの医療費については、指定難病の医療費助成の制度があります。
Q8. このパネルに入っていない遺伝子も調べられますか?
はい。たとえば慢性肉芽腫症の原因のNCF1遺伝子や、乳児の重い下痢の原因として報告されているEPCAM遺伝子は、このパネルには入っていません。こうしたパネルに入っていない遺伝子も、追加して調べることができます。遺伝カウンセリングのときにご相談ください。
🧬 名前がつくと、次の一手が決まる
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。乳幼児期からの重い腸炎の原因がわかれば、治療の選び方だけでなく、ご家族の検査や、次のお子さんの計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
- [1] Uhlig HH, Schwerd T, Koletzko S, et al. The diagnostic approach to monogenic very early onset inflammatory bowel disease. Gastroenterology. 2014;147(5):990-1007. [DOI: 10.1053/j.gastro.2014.07.023](PMID: 25058236)
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