この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

血球貪食症候群(血球貪食性リンパ組織球症:HLH)は、体を守るはずの免疫が止まらなくなり、高い熱・脾臓の腫れ・血球の減少などを起こす病気です。感染症などをきっかけに起こる「二次性」と、生まれつきの遺伝子の変化による「家族性(一次性)」があり、見た目の症状だけでは区別できません。遺伝子検査で家族性とわかると、根本的な治療である造血細胞移植を考えるかどうか、きょうだいをドナーに選べるかどうかの判断が変わります。このページでは、HLH-2004の診断基準、この検査で調べる8遺伝子と、結果のあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
血球貪食症候群(HLH)が、生まれつきの遺伝子の変化による家族性(一次性)かどうかを調べます。家族性HLHの主な4遺伝子(PRF1・UNC13D・STX11・STXBP2)と、HLHを起こす関連の病気の4遺伝子(RAB27A・RHOG・SH2D1A・XIAP)の、あわせて8遺伝子を一度に調べます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
HLHと診断された・疑われている方(とくに乳幼児期の発症、くり返す場合)、きょうだいや血縁者にHLHの方がいる方、きょうだいを移植のドナーに考えている方、次のお子さんの確率を知りたいご両親です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などから選べます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。家族性とわかれば、きょうだいの検査やドナー選び、次のお子さんの確率まで具体的に考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 血球貪食症候群(HLH)とは:家族性と二次性の違い
血球貪食症候群は、活性化した免疫細胞が止まらなくなり、強い炎症で全身の臓器が傷つく病気です。生まれつきの遺伝子の変化で起こる「家族性(一次性)HLH」と、感染症・膠原病・悪性腫瘍などに伴って起こる「二次性HLH」に分けられます[1][4]。英語の hemophagocytic lymphohistiocytosis の頭文字をとってHLHと呼ばれ、日本語では血球貪食性リンパ組織球症ともいいます。
体の中で何が起きているか
ウイルスに感染した細胞などを見つけると、NK細胞や細胞傷害性T細胞は、細胞の中の小さな袋(細胞傷害性顆粒)を相手の細胞に向けて放出し、パーフォリンというタンパク質で穴を開けて壊します。相手を片づけると、免疫の反応はふつう落ち着きます。細胞傷害性T細胞のように、実際に相手の細胞を攻撃して働くT細胞についてはエフェクターT細胞で詳しく説明しています。
家族性HLHでは、この「顆粒をつくる・運ぶ・放出する」しくみに関わる遺伝子のどれかが働かず、相手を壊せません[1]。その結果、免疫細胞が活性化したまま増え続け、炎症を起こす物質が大量に出る状態(サイトカインストーム)になります。活性化したマクロファージが自分の血球を食べてしまう「血球貪食」が見られるのは、このためです。
家族性HLHと二次性HLHの違い
症状や血液検査だけでは、家族性か二次性かを見分けられません。だからこそ遺伝子検査が意味をもちます。膠原病に伴って起こる同じような状態は、マクロファージ活性化症候群(MAS)と呼ばれ、全身型若年性特発性関節炎の合併症として分類基準が作られています[7]。
🧬 家族性(一次性)HLHと二次性HLHの違い
※GeneReviews[1]と、国際組織球学会HLH運営委員会の推奨[4]による。
何人に1人?いつ発症する?
スウェーデンの推計では、家族性HLHは出生10万人あたり1.8人とされ、男女差はありません[1]。多くは生後数か月から数年のうちに症状が出ますが、胎児のうちに起こることもあれば、子どもの時期を過ぎて大人になってから起こることもあります[1]。
治療をしないまま病気が進んだ乳児では、症状が出てから亡くなるまでの期間の中央値は2か月未満と報告されています[1]。早く気づき、早く治療を始めることが、何よりも大切な病気です。
2. HLH-2004診断基準と、遺伝子検査の位置づけ
HLHの診断には、国際的にHLH-2004の診断基準が使われています。「HLHに合う遺伝子の変化が見つかる(分子診断)」か、「8項目のうち5項目以上を満たす」かのどちらかで診断します[2]。つまり遺伝子検査の結果は、それだけで診断の決め手になりうる項目です。
HLH-2004の診断基準
📋 HLH-2004診断基準(AまたはBを満たす)
※Henter JI, et al. HLH-2004[2]とGeneReviewsの表[1]による。Bは8項目のうち5項目以上で満たす。GeneReviewsの表では発熱を38.5℃を超えるものとしている。トリグリセリドのmg/dLは3.0 mmol/Lを換算した値。
GeneReviewsは、すべての項目がそろうまでHLHの治療を遅らせることは一般にしない、としています[1]。診断基準は「全部そろったら治療を始めるための条件」ではなく、病気を見落とさないための目安として使われています。
フェリチン・トリグリセリドはなぜ診断に使われる?
HLH-94の診断基準は、発熱・脾腫・血球減少・高トリグリセリド血症または低フィブリノゲン血症・血球貪食の5項目でした。HLH-2004では、これにNK活性の低下・高フェリチン血症・可溶性IL-2受容体の上昇の3項目が加えられました[2]。フェリチンやトリグリセリド、フィブリノゲンは、一般的な血液検査で測れる項目です。強い炎症が続いているかどうかを、ほかの項目とあわせて判断する手がかりとして使われます。
家族性を疑う手がかり
乳児期の発症、きょうだいに同じ病気の方がいる、治療のあとにくり返す、といった場合は、家族性を考える大事な手がかりです。また、遺伝子検査の結果を待つあいだにも、免疫細胞の働きを調べる検査が役立ちます。GeneReviewsによると、PRF1による家族性HLHの方の90%以上で、フローサイトメトリーという方法でパーフォリンのタンパク質がないか著しく少ないことがわかります。また、NK細胞が顆粒を放出する力を調べる検査(CD107a検査)は、UNC13D・STX11・STXBP2による家族性HLHに対して、感度96%・特異度88%と報告されています[1]。
ただし、こうした検査で異常があっても、どの遺伝子のどの変化が原因かまではわかりません。原因を確定し、ご家族の検査や次の妊娠の準備につなげるには、遺伝子検査が必要です。
3. この検査で調べる8遺伝子と、わかる病気
この検査では、家族性HLHの主な原因の4遺伝子と、HLHを起こすことがある関連の病気の4遺伝子、あわせて8遺伝子を一度に調べます。表の遺伝のしかたは、常染色体潜性遺伝(両親から1つずつ変化を受け継いで発症)と、X連鎖遺伝(主に男の子が発症)の2種類です。
🧬 調べる8遺伝子と関係する病気
※家族性HLHの型ごとの割合と特徴はGeneReviews[1]、XLPはGeneReviews[3]による。RHOGは国際的な遺伝子と病気の関係の評価(ClinGen、2026年10月時点で確認)による。対象遺伝子は当院の検査内容による。
家族性HLH 2〜5型(PRF1・UNC13D・STX11・STXBP2)
家族性HLHの多くは、この4遺伝子のどれかの変化が原因です。どの遺伝子も、免疫細胞が顆粒を相手に届けて壊すまでの、どこかの段階を受け持っています[1]。両親から1つずつ変化を受け継ぎ、2つそろうと発症します。2つの変化が違う種類のことも多く、これを複合ヘテロ接合といいます。
日本の方では、ほかの国と違う変化が見つかることもあります。GeneReviewsは、UNC13Dのc.1596+1G>Cを日本でいちばん多いUNC13Dの変化とし、PRF1のc.1090_1091delCTは日本人の家系でだけ見つかっている変化としています[1]。
色素の薄さを伴う型:グリセリ症候群2型(RAB27A)
グリセリ症候群2型は、免疫の顆粒を運ぶRAB27Aの変化で起こり、HLHを起こすうえに、多くの方で髪や皮膚の色素の異常を伴います[1]。色素の異常がない方もいるため、見た目だけでは判断できません。
よく似た病気に、色素の異常・眼振・神経の症状・白血球の中の大きな顆粒を伴うチェディアック・東症候群があります[1]。原因のLYST遺伝子はこの検査の対象に入っていません。チェディアック・東症候群も含めて調べたい場合は、LYSTを含む包括的原発性免疫不全症パネルが向いています(第5章)。
男の子に多いX連鎖の型:XLP1(SH2D1A)・XLP2(XIAP)
X連鎖リンパ増殖症候群は、X染色体にある遺伝子の変化で起こり、主に男の子が発症します。XLP1(SH2D1A)では、HLHはほぼ必ずEBウイルスの感染をきっかけに起こり、HLHや重い伝染性単核症が45〜58%、低ガンマグロブリン血症などの抗体の異常が約51%、リンパ腫が約24%にみられます[3]。
XLP2(XIAP)では、HLHが37〜90%にみられ、そのうち67〜83%はくり返します。脾腫が56%、腸炎(肝臓の病気を伴うことも)が25〜30%と報告されています[3]。XIAPは、細胞が自ら死ぬしくみ(アポトーシス)を調節するタンパク質の遺伝子です。小さいうちから腸炎がある男の子では、XIAPなどを含む炎症性腸疾患パネルで調べる考え方もあります。
RHOG:新しく報告された原因遺伝子
RHOGは、細胞の中で顆粒を運ぶしくみに関わる遺伝子です。国際的に遺伝子と病気の関係を評価しているClinGenは、RHOGを常染色体潜性遺伝の「RhoG欠損によるHLH」の原因遺伝子として、根拠の強さを「中等度(Moderate)」と評価しています(2026年10月時点で確認)。報告がまだ少ない遺伝子なので、変化が見つかったときの意味は、ほかの遺伝子より慎重に判断します。
4. 遺伝子がわかると何が変わるか
家族性HLHとわかると、根本的な治療として造血細胞移植を計画するかどうか、きょうだいをドナーに選べるかどうか、まだ症状のないきょうだいをどう見守るかが決まります。病名がつくことで、次の一手がはっきりします。
移植を考えるかどうかの判断
家族性HLHを長く治す方法は、今のところ同種造血幹細胞移植だけです[1][4]。国際組織球学会HLH運営委員会の推奨(2018年)は、遺伝的な原因が確かめられたすべての方で、早い段階から移植の専門医と相談することを勧めています。反対に、遺伝的な原因・家族歴・くり返す経過がなければ、HLHというだけで最初から移植の対象になるわけではない、としています[4]。遺伝子検査は、この分かれ道を決める材料になります。
国際共同研究HLH-2004では、18歳未満の369人の5年生存率は61%で、遺伝的に確かめられた家族性HLHの168人では59%でした。家族性HLHで移植を受けた方の移植後の5年生存率は70%と報告されています[5]。治療は専門の医療機関で行われます(当院では移植などの治療は行っていません)。
きょうだいをドナーに選ぶ前に
移植のドナー候補として、白血球の型(HLA)が合うきょうだいが挙がることがあります。ただ、きょうだいは同じ遺伝子の変化を2つ持っていて、まだ発症していないだけかもしれません。
そのため国際組織球学会HLH運営委員会の推奨は、きょうだいやほかの血縁者をドナーとして考える前に、HLHの遺伝子の変化を持っていないかを調べるべきとしています。一方で、変化を1つだけ持つ保因者はドナーになりうるとされています[4]。患者さんの原因の変化がわかっていれば、きょうだいはその場所を調べることで、ドナーになれるかどうかの判断材料が得られます。
GeneReviewsも、同じ変化を持つきょうだいは症状が出る前に見つけて、熱が出たときなどに注意深く見守り、症状が出る前の移植も考えることが望ましいとしています[1]。
大人になってから起こるHLHと遺伝子
「家族性HLHは赤ちゃんの病気」とは言い切れません。米国でHLHの検査を依頼された1,531人を調べた研究では、18歳以上の175人のうち25人(14%)に、PRF1・UNC13D・STXBP2の働きを部分的に弱める変化が見つかりました。発症した年齢は18〜75歳でした[6]。働きを部分的に弱める変化では、発症が遅く、経過が穏やかになることがあると考えられています[1][6]。
大人のHLHは二次性と考えられがちですが、この研究の著者は、大人の家族性HLHも遺伝子と免疫の検査を考えるべきとしています[6]。ただし、この25人の半数ほどは変化が1つだけでした。変化が1つだけの場合の意味は、まだはっきりしていません。結果の解釈は、遺伝カウンセリングで慎重にご説明します。
5. どんな人がこの検査を受けるとよいか
HLHと診断された方や疑われている方、ご家族にHLHの方がいる方、そして次のお子さんを考えているご両親に向く検査です。家族性HLHはご両親が保因者であることが多く、原因がわかれば、次の妊娠でどう備えられるかを具体的に考えられるようになります。
- ●HLH-2004の診断基準を満たす、または疑われているお子さん(とくに乳児期の発症、くり返す場合)
- ●パーフォリンの低下やNK細胞の働きの低下など、免疫の検査で異常を指摘された方
- ●EBウイルス感染のあとに重いHLHを起こした男の子(XLP1を考える)
- ●大人になってからHLHを起こし、二次性のきっかけがはっきりしない、またはくり返す方
- ●きょうだいや血縁者に家族性HLH・XLP・グリセリ症候群の方がいる方
- ●お子さんをHLHで亡くされ、次の妊娠を考えているご両親(原因の確定のため)
この検査より別の検査が向いている場合
HLHが主な症状なら、まずこの検査です。一方で、症状の中心がHLH以外にある場合は、次の検査のほうが向いていることがあります。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※遺伝子の数は各検査ページの記載による(2026年10月時点)。どの検査が合うかは、症状・これまでの検査結果・ご家族の情報で変わります。
6. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、8遺伝子の小さな変化(1文字の置き換わりや、小さな挿入・欠失)と、遺伝子全体やいくつかのエクソンにまたがる大きな欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●二次性HLHはわかりません:感染症や膠原病、悪性腫瘍に伴うHLHは遺伝子の変化が原因ではないため、この検査では見つかりません。
- ●調べていない遺伝子:チェディアック・東症候群のLYSTなど、8遺伝子以外の原因は調べていません。家族性HLHと考えられても、既知の遺伝子に原因が見つからない方もいます。
- ●見つけにくい変化:染色体の一部の入れ替わり(転座・逆位)、遺伝子のスイッチの部分(プロモーター)や、遺伝子の中の読まれない部分の奥深く(エクソンから20塩基より離れた場所)の変化は対象外です。1つのエクソンだけの欠失・重複は、見つかることもありますが、ふだんは検出の対象にしていません。
- ●体の一部だけの変化(モザイク):この検査は、体の一部の細胞にだけある変化を見つけるようには作られていません。腫瘍の組織での検査も対象外です。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。とくにRHOGのように報告の少ない遺伝子では、慎重に判断します。
- ●陰性でも否定はできません:原因が見つからなくても、HLHが疑われる状態であれば、治療と経過の見守りは必要です。
見つかった大きな欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。読み取りの質が十分でない場所は、サンガー法という別の方法で補います。調べる目的と別の病気の原因が見つかった場合(二次的所見)の扱いは、当院の二次的所見の開示方針に沿ってご説明します。
💡 造血細胞移植や輸血を受けた方へ:検体のご相談
同種造血細胞移植を受けた方の血液は、ドナーの細胞でつくられています。そのため、移植後の血液ではご本人の遺伝子を正しく調べられません。移植を受けた方、移植を予定している方、最近輸血を受けた方は、どの検体を使うのがよいか、検査の前に必ずお申し出ください。移植の前に検体を確保できるかどうかも含めてご相談いただけます。
7. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。陽性・陰性・VUSのそれぞれで、次にできることが違います。
陽性・陰性・VUSだったとき
陽性(原因の変化が見つかった):常染色体潜性の型では、同じ遺伝子に変化が2つ(両親から1つずつ)見つかると診断の根拠になります。X連鎖の型では、男性で変化が1つ見つかれば原因と考えます。HLH-2004の診断基準でも、分子診断はそれだけで診断が成り立つ項目です[2]。治療と移植の相談は、専門の医療機関につなぎます。
陰性:二次性HLHの可能性、8遺伝子以外の原因、この検査で見つけにくい変化の可能性を考えます。必要に応じて、免疫不全症パネルや全エクソーム検査を検討します。
VUS・変化が1つだけ:VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。潜性の型で変化が1つだけ見つかった場合も、それだけでは診断にはなりません(第4章の大人の研究のように、意味がまだはっきりしない場合があります)。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。
ご家族の検査:きょうだい・ご両親・お母さんと姉妹
常染色体潜性の型では、ご両親がともに保因者の場合、患者さんのきょうだいはそれぞれ、4分の1の確率で発症する組み合わせ、2分の1の確率で症状のない保因者、4分の1の確率でどちらの変化も持たない組み合わせになります[1]。まだ症状のないきょうだいが発症する組み合わせを持っているかどうかを知ることは、見守りや移植の計画、ドナー選び(第4章)に直結します。
X連鎖の型(XLP1・XLP2)では、お母さんが保因者のことがあります。保因者のお母さんから生まれるお子さんは、妊娠ごとに2分の1の確率で変化を受け継ぎ、受け継いだ男の子は発症し、女の子はふつう症状のない保因者になります[3]。まだ症状のない男の子のきょうだいは早めに評価を受け、症状が出る前の移植を考えることが勧められています。お母さん・姉妹の検査は、患者さんの変化がわかってからのほうが正確に行えます[3]。保因者の女性はふだん症状が出ませんが、まれにHLHや腸炎などの症状が出る方の報告もあります[3]。
次のお子さんの確率と、妊娠の準備
原因がわかっていれば、次のお子さんで同じことが起こる確率がわかり、妊娠したときに赤ちゃんを調べる計画も立てられます。常染色体潜性の型ではご両親がともに保因者なら妊娠ごとに4分の1、X連鎖の型ではお母さんが保因者なら男の子の2分の1が発症する組み合わせになります[1][3]。原因の変化がわかっていれば、出生前の検査は可能とされています[1][3]。反対に、原因がわからないままでは、出生前に調べる的を決められません。
絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。この病気で出生前診断を行うかどうかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考えます。妊娠を考えている段階からご相談ください。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。
これから妊娠を考えるカップルや、ご家族に患者さんのいるきょうだいの方は、保因者検査で自分が変化を持っているかを知ることもできます。当院の拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子・1009遺伝子)では、この検査の8遺伝子のうちPRF1・UNC13D・STX11・STXBP2の4遺伝子が対象に入っています。RAB27A・RHOG・SH2D1A・XIAPは対象に入っていません(2026年10月時点の遺伝子一覧で確認)。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(単独では受けられません)。
日本でも、日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経て、PGT-M(着床前遺伝学的検査)が行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは海外でPGT-Mを考えている方へで解説しています。
8. 日本の制度(2026年10月時点)
血球貪食性リンパ組織球症は、小児慢性特定疾病の対象疾病です(悪性新生物の疾患群・組織球症)。X連鎖リンパ増殖症候群も、免疫疾患の疾患群(免疫調節障害)の対象疾病に掲載されています。いずれも小児慢性特定疾病情報センターの対象疾病一覧で確認しました。
大人の制度では、指定難病65「原発性免疫不全症候群」の関連疾患として、家族性血球貪食症候群、X連鎖リンパ増殖症候群、チェディアック・東症候群、グリセリ症候群2型が挙げられています(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所の難病情報データベースで2026年10月に確認)。医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
8遺伝子を一度に調べ、結果までは2〜3週間です。検査費用は税込330,000円で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでもオンライン診療が可能です。
ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医・オンライン可
▶
お支払い・検体キットをお送りします
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の見方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【原因がわかると、家族の次の一歩が決まる】
家族性HLHは、多くの場合、ご両親とも症状のない保因者です。ご両親のどちらにも病気の気配がないまま、お子さんが突然重い状態になる。だからこそ、「なぜうちの子が」という問いに、遺伝子という形で答えを出すことには大きな意味があると考えています。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。
遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。保因者であることは、ご両親の落ち度ではありません。原因がわかれば、移植をどう考えるか、きょうだいをどう見守るか、ドナーに選べるか、次の妊娠でどう備えるかを、ひとつずつ具体的に決めていけます。
わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。検査を受けるかどうかも、結果を知ったあとの選択も、どれも尊重します。妊娠を考える段階では、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 血球貪食症候群(HLH)の診断基準は?
国際的にはHLH-2004の診断基準が使われます。HLHに合う遺伝子の変化が見つかる(分子診断)か、発熱、脾腫、2系統以上の血球減少、高トリグリセリド血症または低フィブリノゲン血症、血球貪食像、NK活性の低下、フェリチン500 μg/L以上、可溶性IL-2受容体2,400 U/mL以上の8項目のうち5項目以上を満たすと診断されます。
Q2. 血球貪食症候群はなぜ起こるのですか?
家族性(一次性)HLHは、免疫細胞が相手の細胞を壊すしくみに関わる遺伝子の変化で起こります。相手を壊せないために免疫細胞が活性化したまま止まらず、強い炎症が続きます。二次性HLHは、EBウイルスなどの感染症、膠原病、悪性腫瘍などに伴って起こります。
Q3. マクロファージ活性化症候群(MAS)との違いは?
膠原病に伴って起こるHLHと同じような状態は、マクロファージ活性化症候群(MAS)と呼ばれ、全身型若年性特発性関節炎の合併症として分類基準が作られています。生まれつきの遺伝子の変化で起こる家族性HLHとは原因が違うため、見分けには遺伝子検査が役立ちます。
Q4. 家族性HLHは治りますか?
家族性HLHを長く治す方法は、今のところ同種造血細胞移植だけとされています。国際共同研究HLH-2004では、家族性HLHで移植を受けた方の移植後の5年生存率は70%と報告されています。治療は専門の医療機関で行われます。
Q5. 家族性HLHは何人に1人ですか?
スウェーデンの推計では、出生10万人あたり1.8人とされ、男女差はありません。多くは生後数か月から数年のうちに発症しますが、大人になってから発症することもあります。
Q6. 家族性血球貪食症候群の原因遺伝子は?
主な原因はPRF1(30〜40%)、UNC13D(20〜40%)、STX11(5〜25%)、STXBP2(5〜25%)の4遺伝子です。HLHを起こす関連の病気として、グリセリ症候群2型のRAB27A、X連鎖リンパ増殖症候群のSH2D1AとXIAPなどがあります。この検査では、これにRHOGを加えた8遺伝子を調べます。
Q7. 大人でも家族性のことはありますか?
あります。米国の研究では、HLHの検査を依頼された18歳以上の175人のうち14%に、PRF1・UNC13D・STXBP2の働きを部分的に弱める変化が見つかり、発症年齢は18〜75歳でした。ただし変化が1つだけの方も多く、その意味はまだはっきりしていないため、結果は慎重に解釈します。
Q8. きょうだいも検査を受けたほうがよいですか?
原因の変化がわかったら、きょうだいの検査には大きな意味があります。まだ症状のないきょうだいが発症する組み合わせを持っていれば、見守りや移植の計画につながります。また、きょうだいを移植のドナーに考える場合は、ドナーにする前にHLHの遺伝子の変化を持っていないかを調べることが国際的に勧められています。
🧬 原因を知って、ご家族とこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。家族性HLHかどうかがわかれば、移植を考えるかどうかの判断だけでなく、きょうだいの見守りやドナー選び、次の妊娠の計画まで、ご家族の次の一歩を具体的に決められます。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、ご家族の検査、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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