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サイトカインストームとCytokine release syndrome (CRS)

サイトカインストームとCytokine release syndrome (CRS)

サイトカインストームまたはサイトカイン血症。 COVID-19合併症。 先天的な免疫系が、制御されず、過剰に炎症を起こすシグナル伝達分子を放出する生理学的反応

サイトカイン放出症候群(Cytokine release syndrome;CRS)は、発熱と多臓器不全を特徴とする急性全身性炎症症候群で、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法、治療用抗体などと関連しています。

似たような状況に免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(Immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome:ICANS)があるのですが、こちらは免疫に影響のある療法を受けた一部の患者に発症する可能性のある神経精神疾患で、サイトカイン放出症候群CRSを伴う場合と伴わない場合があります。

また、非蛋白質系薬剤による治療に伴うCRS様症候群をサイトカインストームと言います。

サイトカイン放出症候群CRSの臨床症状

サイトカイン放出症候群(CRS)とは、発熱と多臓器不全を特徴とする急性の全身性炎症症候群であり、免疫療法が原因であることが多くなっています。

免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群Immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome (ICANS)は、サイトカイン放出脳症症候群(CRES)とも呼ばれ、免疫療法を受けた患者に発症する精神神経系の症候群です。

サイトカイン放出症候群(CRS)は、様々な種類の免疫療法や同種造血細胞移植(HCT)を受けた患者に発生します。CRS の発症率は、原因となる疾患や治療法や基礎となる悪性腫瘍によって異なります。

CRS/サイトカインストームの発症と期間は様々ですが、非常に急速に進行します。

臨床症状は、軽度のインフルエンザ様の症状から、生命を脅かす重度の全身性炎症反応症候群(SIRS)まで様々です。

CRSの発症時には発熱(38.0℃以上)が必須です。

軽度のCRSでは、発熱に加えて、疲労感、頭痛、発疹、下痢、関節痛、筋肉痛などが見られ、40.5℃以上の発熱とともに進行することがあります 。重症のCRSでは、低血圧と制御不能なSIRS(全身性炎症症候群)が発生し、循環虚脱、血管外漏出による末梢浮腫や肺水腫、腎不全、心機能障害、多臓器不全を伴う場合があります。

CAR-T以外によるCRSの重症度評価はNCI CTCAE v5.0 に従って以下のようになされます。

  • グレード1.症状を伴う発熱。
  • グレード2. 輸液に反応する低血圧。低酸素症(40%以下のFiO2に反応)。
  • グレード3. 1種類の昇圧薬で対処可能な低血圧。40%以上のFiO2を必要とする低酸素症。
  • グレード4. 生命を脅かす結果となり、挿管などの緊急の介入が必要。

サイトカイン放出症候群(CRS)を引き起こす可能性のある治療法、処置、疾患

キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法

再発・難治性の急性リンパ性白血病/リンパ腫(ALL/LBL)に対するCAR-T療法を受けた患者の1/4から1/2に重篤なCRSが発生しますが、ほぼ全ての患者に重篤ではないCRSの症状が認められます。CAR-T療法を行った原因疾患別にみると、非ホジキンリンパ腫(NHL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、多発性骨髄腫(MM)では、発症率は低くなっています。

ビスペシフィック抗体療法(例:ブリナツモマブ)

ブリナツモマブによる治療後にCRSが発生することは少なく、一般的には初回の治療時にのみ発生します。CRSは、ビスペシフィック抗体を用いた免疫療法や固形の治療においては、あまり一般的ではありません。ブリナツモマブによる治療を受けた再発・難治性のALL/LBL患者189名を対象とした研究では、2%に有意なCRSが報告されています。

HLA半合致移植

T 細胞を含まない末梢血グラフトを用いたHLA半合致移植を受けた患者では、12%に有意なCRSが報告されていますが、75%に軽度のCRSが報告されています。

その他の免疫に関係する療法

CRSは、B細胞性ALL/LBL、非ホジキンリンパ腫、CLL、およびMMに対する標的細胞免疫療法後に最も頻繁に発生します。

以下のような従来のモノクローナル抗体による治療後にCRSが報告されています。

  • 抗胸腺細胞グロブリン(ATG)
  • リツキシマブ
  • オビヌツズマブ
  • アレムツズマブ
  • ブレンツキシマブ
  • ニボルマブ

サイトカインストームを引き起こす可能性のある治療法、処置、疾患

非蛋白質系薬剤による治療に伴うCRS様症候群は、CRSではなくサイトカインストームといいます。

重度のウイルス性感染症

COVID-19やインフルエンザなどの重度のウイルス感染症に関連してCRS様症候群(サイトカインストーム)が発症することがあります。

オキサリプラチン

大腸がんや胃がんで投与されるプラチナ製剤であるオキサリプラチンでもサイトカインストームが見られます。

レナリドミド

サリドマイド誘導体で多発性骨髄腫の治療に使用されるレナリドミドもサイトカインストームがみられます。

CRS/サイトカインストームの病態

CRS/サイトカインストームは、T 細胞や他の免疫エフェクター細胞を活性化または関与させる免疫療法に対して生体の免疫が過剰に反応している状態です。全身性の反応は、炎症性サイトカインの増加やTリンパ球、マクロファージ、内皮細胞の活性化を伴う。個々の細胞成分やサイトカインがCRSの原因や重症度にどのように寄与しているのかは実はまだよくわかっていません。

サイトカイン暴風雨またはサイトカイン血症の図。

サイトカインは、CRS/サイトカインストームの病態生理と臨床症状に重要な役割を果たしています。

サイトカインカスケード

一つのサイトカインが産生されると、次々に他のサイトカインが誘導されることサイトカインカスケードと呼びます。サイトカインカスケードは免疫応答等に関与しています。

まずは活性化されたT細胞や腫瘍細胞からインターフェロンガンマ(IFN-γ)が放出されます。

IFN-γはマクロファージを活性化し、マクロファージはインターロイキン(IL)-6、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、IL-10を過剰に産生します。

IL-6は、メタロプロテアーゼによって細胞表面から切断された可溶型(soluble)のIL-6受容体(sIL-6R)と結合し、IL-6/IL-6R複合体はgp130と結合して、通常は膜結合型のIL-6Rを発現していない種類の細胞を活性化します。

また、IL-1、IL-5、IL-8、IL-10、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)もCRS/サイトカインストームでは常に上昇しており、その病態生理に寄与していると考えられています。

サイトカインとCRS/サイトカインストームの臨床症状

サイトカインは、CRSの臨床症状の多くに関与していると考えられています。

IL-6の関与する症状

  • 血管透過性の亢進による血管外漏出
  • 補体および凝固カスケードの活性化
  • 播種性血管内凝固(DIC
  • 心筋症

IL-6R阻害薬であるトシリズマブを用いてIL-6のシグナル伝達を遮断すると、CRS/サイトカインストームが速やかに消失することからIL-6がCRS/サイトカインストームの病態の中心であると言ってよいでしょう。

IFN-γの関与する症状

  • 発熱
  • 悪寒
  • 頭痛
  • めまい
  • 疲労感

TNFαの関与する症状

  • 発熱
  • 倦怠感
  • 水様性下痢
  • 血管漏出
  • 心筋症
  • 肺損傷
  • 急性期タンパク質CRPの産生
  • インフルエンザ様症状

サイトカイン放出症候群CRSの療管理(CAR-T以外)

軽度のCRS

軽度のCRSの定義は、一般的に軽度の関連症状を伴う発熱、または伴わない発熱を指します。軽度のCRSの原因が何であるかにかかわらず、抗ヒスタミン剤、解熱剤、点滴による水分補給などの対症療法を行います。軽度のCRS患者に対しては、対症療法のほうが高用量のグルココルチコイド投与などよりも毒性とのバランスなどを考慮すると良好です。

重度のCRS

CRSの初期治療後に臨床症状が持続または悪化した患者には、他の原因となる疾患がないか再評価します。特に、感染症、心臓病、血栓塞栓症、その他の合併症が共存していないかどうかを再評価することが重要となります。

CRSの改善が見られるまで、ヒドロコルチゾン100mgを8時間ごとに、デキサメタゾン10mgを1日4回まで、またはメチルプレドニゾロン1mg/kg/日を投与することを検討します。

原因を問わず持続性のある重症CRSで、ステロイドのみで治療していた患者さんには、トシリズマブ追加を考慮します。トシリズマブは単剤ではなく必ずステロイドと併用します。

トシリズマブとステロイドを繰り返し投与しても改善しない重度のCRS(一般的にグレード3~4)に対しては、高用量のコルチコステロイド(例えば、ソルメドロール2mg/kgを1日1gまで3日間投与)の追加を検討します。

この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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