目次
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サイトカインストームとは、免疫が過剰に働いて炎症性サイトカイン(免疫細胞どうしが情報をやりとりするたんぱく質)が血液中で急に増え、全身の炎症と臓器の障害を起こす状態です。重い感染症、CAR-T細胞療法などの免疫療法、膠原病、がんなど、さまざまな病気の経過で起こります。免疫療法のあとに起こるものはサイトカイン放出症候群(CRS)と呼ばれ、発熱・低血圧・低酸素の程度でグレード1〜4に分けられます。生まれつきの遺伝子の変化で起こる型(家族性血球貪食性リンパ組織球症:家族性HLH)もあります。この記事では、仕組み・原因・症状・治療と、遺伝との関わりまでを解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. サイトカインストームとは何ですか?
免疫が過剰に反応して炎症性サイトカインが急に増え、全身の炎症と臓器の障害が起こる状態です。ほぼ全員に発熱があり、重くなると低血圧、呼吸不全、腎臓や肝臓の障害が起こります。
🧬 Q. 原因は何ですか?
COVID-19などの重い感染症、CAR-T細胞療法などの免疫療法、膠原病(成人スチル病など)、がん、そして生まれつきの遺伝子の変化(家族性HLH)が知られています。
🧬 Q. サイトカイン放出症候群(CRS)との違いは?
CRSは、免疫療法のあとに起こるサイトカインストームを指す名前です。米国移植細胞治療学会(ASTCT)の基準では、38℃以上の発熱を前提に、低血圧と低酸素の重さでグレード1〜4に分けます。
🧬 Q. 遺伝することはありますか?
ほとんどは遺伝とは関係なく起こりますが、家族性HLHは常染色体潜性(劣性)遺伝の病気で、両親がともに保因者のとき、子どもは妊娠ごとに4分の1の確率で発症します。
- ➤定義 → 血中サイトカインの増加・急性の全身炎症・臓器の障害の3つがそろう状態
- ➤原因 → 感染症/免疫療法(CRS)/膠原病/がん/遺伝(家族性HLH)
- ➤CRSのグレード → 発熱だけならグレード1、低血圧・低酸素への処置の強さで2〜4
- ➤治療 → ステロイド、IL-6受容体を抑える抗体(トシリズマブ)など、原因に応じて選ぶ
- ➤遺伝 → 家族性HLHはPRF1・UNC13D・STX11・STXBP2の両方のアレルの変化で起こる

1. サイトカインストームとは?定義と仕組み
サイトカインストームは、1つの病名ではなく、さまざまな病気の経過で起こる「免疫の過剰反応の状態」を指す言葉です。2020年に米国の研究者がまとめた総説では、①血液中のサイトカインが増えていること、②急性の全身の炎症症状があること、③それによる臓器の障害があること、の3つがそろう状態と定義することが提案されています[1]。
感染症のときに熱が出たり、だるくなったりするのは、体が病原体と戦うための正常な反応です。サイトカインストームが問題になるのは、この反応が必要な範囲を超えたときです。同じ総説は、病原体がいる場合には「病原体に対するふつうの反応を超える」臓器障害があること、病原体がいない場合には「サイトカインによって起こっている」臓器障害であることを、判断の目安としています[1]。つまり、熱が高いことそのものではなく、免疫の反応が体を傷つける側に回っているかどうかがポイントです。
サイトカインとは?免疫の「伝令役」
サイトカインは、免疫細胞などが分泌する小さなたんぱく質で、ほかの細胞に「集まれ」「攻撃せよ」「もう止めてよい」といった情報を伝えます。インターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、腫瘍壊死因子(TNF)などがその仲間です。ふだんは、炎症を強めるサイトカインと弱めるサイトカインのバランスが保たれていて、感染が片づけば炎症も自然におさまります。
サイトカインストームでは、このブレーキがうまく効かず、炎症を強めるサイトカインが次々に作られ続けます。「ストーム(嵐)」という呼び名は、サイトカインが一気に吹き荒れて全身に広がる様子をたとえたものです。

サイトカインストームと通常の免疫応答の違いを示した模式図。通常の免疫応答(左)では、病原体などの刺激に応じて免疫細胞が活性化し、サイトカインを放出して感染防御や炎症反応を調節します。一方、サイトカインストーム(右)では、マクロファージやT細胞などの免疫細胞が過剰に活性化し、IL-6、IL-1β、TNF-αなどの炎症性サイトカインが大量に産生されます。その結果、炎症反応が増幅・拡大し、正常な組織にも障害が及び、重症例では血管透過性亢進、循環不全、呼吸不全、多臓器障害などを引き起こすことがあります。© ミネルバクリニック
なぜ「嵐」になるのか?サイトカインの連鎖
サイトカインストームでは、活性化したT細胞やNK細胞がインターフェロンγ(IFN-γ)を出し、それがマクロファージを活性化して、さらにIL-6などを大量に作らせる、という連鎖が起こります。総説によると、IFN-γは主に活性化したT細胞とNK細胞から分泌され、マクロファージを活性化するとともに、発熱・悪寒・だるさの原因になります[1]。
中でも中心的な役割を担うのがIL-6です。IL-6は多くのサイトカインストームで大きく上昇し、CAR-T細胞療法のあとに起こるサイトカインストームでは特に中心的とされています[1]。IL-6は、細胞の表面にある受容体を介する経路のほかに、血液中に溶けて存在する受容体と結合して、本来はIL-6の受容体を持たない細胞にも信号を送る「トランスシグナル」という経路を持っています。この経路を通じて血管の内側の細胞(血管内皮)が刺激されると、血管から水分が漏れやすくなり、低血圧につながります[1]。
🧪 サイトカインストームにかかわる主なサイトカイン
| サイトカイン | 主に出す細胞・働き | 関係する症状・治療薬 |
|---|---|---|
| IL-6 | 多くのサイトカインストームで大きく上昇。トランスシグナルで血管内皮を刺激 | 血管からの水分の漏れ・低血圧/トシリズマブ(IL-6受容体に対する抗体) |
| IFN-γ | 活性化したT細胞・NK細胞。マクロファージを活性化 | 発熱・悪寒・だるさ、血球の減少への関与/エマパルマブ(IFN-γに対する抗体) |
| IL-1 | マクロファージ・Th17細胞を活性化 | 発熱/アナキンラ(IL-1受容体を遮る薬) |
| TNF | 血管の透過性を高め、NF-κBを活性化 | 発熱など。サイトカインストームでの役割は定まりきっていない |
※Fajgenbaum DC, June CH. N Engl J Med 2020[1]の記述をもとに作成。
IL-1を作る仕組みには、細胞の中で危険を感知して炎症を始めるインフラマソームがかかわります。また、IL-6やIFN-γの信号は細胞の中でJAK-STAT経路を通って伝わるため、この経路を抑える薬(JAK阻害薬)も治療の候補として研究されています[1]。
「サイトカインストーム」という言葉の由来
「サイトカインストーム」という言葉が医学文献に初めて登場したのは1993年で、急性移植片対宿主病(GVHD)の生着症候群を説明するために使われました。一方、「サイトカイン放出症候群」という名前は、移植の拒絶反応を抑える抗体薬ムロモナブ-CD3(OKT3)の投与後の反応を表すために作られました[1]。その後、CAR-T細胞療法で同じような反応が報告されるようになり、2020年には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化との関係で一般にも広く知られるようになりました。
2. サイトカインストームの原因は?
サイトカインストームの原因は、大きく「治療によるもの」「感染症によるもの」「遺伝子の変化や膠原病によるもの」「がんによるもの」に分けられます。きっかけは違っても、免疫の反応が止まらなくなるという点は共通しています[1]。
📋 サイトカインストームの主な原因
| 分類 | 主な例 |
|---|---|
| 治療によるもの | CAR-T細胞療法、ブリナツモマブなどT細胞を呼び寄せる抗体薬(=サイトカイン放出症候群) |
| 感染症によるもの | 細菌による敗血症、EBウイルスに関連したHLH、COVID-19、H5N1などのインフルエンザウイルス |
| 遺伝子の変化・膠原病によるもの | 原発性(家族性)HLH、成人スチル病などに伴うマクロファージ活性化症候群(MAS)、自己炎症性疾患 |
| がんによるもの | がんに伴うHLH |
※Fajgenbaum DC, June CH. N Engl J Med 2020[1]の分類をもとに作成。
治療で起こるもの:CAR-T細胞療法と抗体薬
がんの免疫療法のうち、T細胞を強く働かせる治療では、免疫細胞の活性化に伴ってサイトカインが大量に放出されることがあります。ただし、サイトカイン放出症候群(CRS)の発症や重症度だけで、がんに対する治療効果を判断することはできません。CAR-T細胞療法は、患者さん自身のT細胞にがん細胞の目印を見分ける受容体(CAR)を組み込んで体に戻す治療で、体内で増えたT細胞ががん細胞を攻撃する際にサイトカインが放出されます。ブリナツモマブのように、T細胞とがん細胞を橋渡しする抗体薬でも同じような反応が起こります[1]。治療に伴うこの反応が、次の章で説明する「サイトカイン放出症候群(CRS)」です。
COVID-19とサイトカインストームの関係は?
COVID-19の重症例では、肺だけでなく全身の炎症が強くなり、サイトカインストームの一つとして扱われてきました。ただし、総説では、サイトカインを抑えることでウイルスの排除が妨げられるおそれもあるため、治療のタイミングと対象を選ぶことが大切だと指摘されています。実際、ステロイドのデキサメタゾンは、CRP(炎症の血液検査値)が高く酸素が必要な最も重い患者さんで死亡を減らした一方、軽い患者さんでは逆に結果を悪くするおそれが示されています[1]。
日本では、IL-6受容体に対する抗体薬トシリズマブが、2022年1月21日に「SARS-CoV-2による肺炎(ただし、酸素投与を要する患者に限る)」の効能で承認されています[4]。COVID-19の治療の考え方は時期によって変わってきたため、最新の情報は各学会や国の診療の手引きで確認してください。
膠原病・がん・遺伝で起こるもの
成人スチル病や小児の全身型関節炎などの膠原病では、マクロファージが過剰に活性化する「マクロファージ活性化症候群(MAS)」が起こることがあり、これもサイトカインストームの一つとされています[1]。生まれつき炎症のスイッチが入りやすい自己炎症性疾患も原因になります。
また、遺伝子の変化によって免疫の「後片づけ」ができない病気として、原発性(家族性)HLHがあります。これはサイトカインストームの遺伝性の型ともいえる病気で、第6章で詳しく取り上げます。
3. サイトカインストームの症状と検査
サイトカインストームでは、ほぼすべての患者さんに発熱があり、だるさや食欲の低下を伴います。重くなると、呼吸不全・腎臓や肝臓の障害・心臓の働きの低下など、複数の臓器が同時に障害されます。総説では、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性腎障害、肝障害、心筋症が挙げられ、血管から水分が漏れる「毛細血管漏出」や血液の固まり方の異常(凝固障害)によって出血が起こることもあると説明されています[1]。
🩺 サイトカインストームでみられる症状と検査の変化
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 全身の症状 | 発熱(ほぼ全員)、だるさ、食欲の低下 |
| 循環・呼吸 | 毛細血管漏出による低血圧・むくみ、ARDSなどの呼吸不全 |
| 臓器の障害 | 急性腎障害、肝障害、心筋症、凝固障害による出血 |
| 血液検査 | CRPの上昇(原因や治療状況によって重症度との関係は異なる)、血球の減少、フェリチンの上昇、Dダイマーの上昇 |
※Fajgenbaum DC, June CH. N Engl J Med 2020[1]による。
血液検査では、CRPが上昇し、その高さが重症度と関連する場合があります。ただし、原因疾患や治療状況によって異なり、CRPだけで重症度を判断することはできません。血球の減少、フェリチン(体内の鉄を蓄えるたんぱく質で、強い炎症でも上がる)の上昇、Dダイマー(血の固まりが溶けたときにできる物質)の上昇もよくみられます[1]。サイトカインそのもの(IL-6など)を測る検査もありますが、サイトカインストームには原因を問わず使える統一された定義がまだなく、総説はそのために先の3つの条件を提案しています[1]。そのため、実際には原因となった病気ごとの基準(CAR-T療法後ならCRSのグレード、HLHならHLH-2004の基準)で評価します。
💡 用語解説:フェリチン
フェリチンは、細胞の中で鉄を蓄えておくたんぱく質です。血液中の値は体の鉄の量の目安になりますが、強い炎症でも大きく上昇します。HLHの診断基準にも「血清フェリチン500μg/L以上」という項目があり[3]、マクロファージの過剰な活性化を示す手がかりとして使われます。
サイトカインストームは何日目に起こる?
サイトカインストームが「何日目に起こる」という決まった日数はなく、原因によって起こる時期は大きく違います。CAR-T細胞療法のあとのCRSは、体内でCAR-T細胞が増えてがん細胞を攻撃する時期に重なって起こり、治療を行う医療機関では、投与後しばらくの間、発熱や血圧・酸素の状態を注意深く観察します。感染症では、病原体そのものによる症状が出たあと、経過の途中で炎症が強まって状態が悪化することがあります。
家族性HLHのように遺伝子の変化が背景にある場合は、ヘルペスウイルスなどの感染をきっかけに発症することが多いとされています[3]。いずれの場合も、高い熱が続く、血圧が下がる、息苦しさが強まるといった変化は、すぐに主治医に伝える必要があるサインです。
敗血症との違いは?
敗血症とサイトカインストームは対立する概念ではなく、総説では細菌による敗血症も、感染症が引き金のサイトカインストームの一つに含められています[1]。ただし、感染症のときの発熱や炎症の多くは、病原体と戦うための正常な反応です。同じ総説は、病原体がいる場合には「病原体に対するふつうの反応を超える」臓器障害があることを、サイトカインストームと呼ぶ目安としています[1]。つまり、感染症にかかった人がすべてサイトカインストームになるわけではなく、免疫の反応が行き過ぎて臓器を傷つけている状態を指して、この言葉が使われます。
4. サイトカイン放出症候群(CRS)とは?グレードとサイトカインストームとの違い
サイトカイン放出症候群(Cytokine Release Syndrome:CRS)とは、免疫療法のあとに、体内のT細胞や投与した免疫細胞が活性化することで起こる、生理的な範囲を超えた反応です。2018年に米国移植細胞治療学会(ASTCT、当時ASBMT)の主催で専門家が集まり、2019年に公表した合意基準では、CRSは「発症時に発熱を必ず伴い、低血圧、毛細血管漏出(低酸素)、臓器の障害を伴うことがある」と定義されています[2]。
サイトカインストームとの関係を整理すると、サイトカインストームは原因を問わない広い言葉、CRSはそのうち免疫療法のあとに起こるものを指す言葉です。CRSはサイトカインストームの一つの型と考えてかまいません[1]。
🔁 サイトカインストームとサイトカイン放出症候群(CRS)の違い
| 項目 | サイトカインストーム | サイトカイン放出症候群(CRS) |
|---|---|---|
| 範囲 | 原因を問わない広い言葉 | 免疫療法のあとに起こるもの |
| 主な原因 | 感染症・免疫療法・膠原病・がん・遺伝(家族性HLH) | CAR-T細胞療法、T細胞を呼び寄せる抗体薬など |
| 重さの評価 | 共通の基準はなく、原因の病気ごとの基準で評価 | ASTCTの合意基準でグレード1〜4 |
※Fajgenbaum DC, June CH. 2020[1]、Lee DW, et al. 2019[2]をもとに作成。
CRSのグレード(ASTCTの合意基準)
CRSのグレードは、38℃以上の発熱があることを前提に、低血圧と低酸素に対してどこまでの処置が必要かで決めます。低血圧と低酸素のうち、より重いほうでグレードが決まります。腎臓や肝臓などの臓器の障害は、別の基準(CTCAE v5.0)で評価してよいものの、CRSのグレードには影響させない決まりです[2]。
📊 CRSのグレード(ASTCT合意基準 2019)
| グレード | 発熱 | 低血圧 | 低酸素 |
|---|---|---|---|
| グレード1 | 38℃以上 | なし | なし |
| グレード2 | 38℃以上 | 昇圧薬を必要としない | 低流量の鼻カニューレ(毎分6L以下)またはブローバイで酸素が必要 |
| グレード3 | 38℃以上 | 昇圧薬1種類が必要(バソプレシンの併用は問わない) | 高流量の鼻カニューレ(毎分6L超)、フェイスマスク、リザーバーマスク、ベンチュリーマスクが必要 |
| グレード4 | 38℃以上 | 昇圧薬が複数必要(バソプレシンを除く) | 陽圧換気(CPAP、BiPAP、気管挿管と人工呼吸)が必要 |
※Lee DW, et al. Biol Blood Marrow Transplant 2019[2]のTable 2を日本語にしたもの。発熱は「ほかの原因で説明できない38℃以上」。解熱薬・トシリズマブ・ステロイドを使ったあとは発熱がなくてもグレードを判定し、その場合は低血圧と低酸素で決めます。
この基準が作られた背景には、それまで臨床試験や施設ごとにグレードの付け方がばらばらで、治療法どうしを比べにくかったという事情があります。合意基準は、臨床試験でも承認後の診療でも使える、客観的で使いやすい基準として作られました[2]。古い資料には別の基準(CTCAEなど)でのグレードが書かれていることがあり、同じ「グレード2」でも基準によって意味が違う場合があるため、どの基準によるグレードかを確かめることが大切です。
脳や神経に起こる副作用:ICANS
免疫療法のあとには、CRSとは別に、脳や神経に症状が出る「免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)」が起こることがあります。ASTCTの合意基準では、ICANSは免疫療法のあとに中枢神経が障害される状態と定義され、言葉が出にくくなる(失語)、意識が低下する、考える力が落ちる、手足の力が弱まる、けいれん、脳のむくみなどが含まれます[2]。ICANSはCRSと同時に起こることも、別々に起こることもあり、CRSとは別にグレードを付けます。
🩺 院長コラム【「嵐」を適切に評価することの大切さ】
CAR-T細胞療法のCRSは、投与したT細胞などの免疫細胞が活性化することに伴って起こる副作用です。CRSが起こらなくても治療効果が得られる場合があり、CRSの重症度が治療効果を直接示すわけではありません。だからこそ、グレードという共通の物差しで重症度を評価し、患者さんの状態に応じて適切な治療介入を行う仕組みが作られてきました。
がん薬物療法専門医の資格を持つ立場から文献を読むと、CRSの管理は「強すぎる免疫を抑えること」と「治療の効果を保つこと」のバランスの上に成り立っていると考えています。共通の基準ができたことで、施設が違っても同じ言葉で重さを伝えられるようになった意義は大きいと考えています。
5. サイトカインストームの治療:どうやって抑える?
サイトカインストームの治療は、原因となった病気によって違いますが、基本は「全身の状態を支える治療」と「過剰な免疫を抑える治療」の組み合わせです。点滴や酸素投与、昇圧薬、必要に応じた集中治療で臓器を守りながら、原因に合わせて免疫を抑える薬を選びます[1]。
💊 サイトカインストームの治療に使われる主な薬
| 薬 | しくみ | 主な使われ方 |
|---|---|---|
| ステロイド(副腎皮質ホルモン) | 免疫・炎症を幅広く抑える | 多くのサイトカインストームで使われる |
| トシリズマブ | IL-6受容体に結合してIL-6の信号を遮る抗体 | 悪性腫瘍治療に伴うCRS、特発性多中心性キャッスルマン病など。HLH全般の標準治療ではない |
| アナキンラ | IL-1受容体を遮る | 単独または併用で使われる |
| エマパルマブ | IFN-γに結合する抗体 | 米国で原発性HLHに承認 |
| エトポシド | 活性化したCD8陽性T細胞やマクロファージを減らす抗がん薬 | 原発性・二次性HLH |
※Fajgenbaum DC, June CH. 2020[1]、GeneReviews[3]をもとに作成。日本での承認状況は薬ごとに異なります(2026年10月時点)。
サイトカインストームを抑える薬:トシリズマブ(日本での承認)
日本では、トシリズマブが2019年3月26日に「腫瘍特異的T細胞輸注療法に伴うサイトカイン放出症候群」の効能で承認されました。この効能は2023年9月25日に「悪性腫瘍治療に伴うサイトカイン放出症候群」に改められ、CAR-T細胞療法に限らず、がんの治療に伴うCRSが対象になっています。COVID-19では、2022年1月21日に酸素投与を要する肺炎の効能が承認されています[4]。
IL-6はCRSの中心的なサイトカインであるため、その信号を断つトシリズマブはCRSの治療の柱の一つです。ただし、どのグレードでどの薬をどれだけ使うかは、治療の種類や施設の方針、患者さんの状態によって決められます。CRSの具体的な治療方針については、治療を受けている医療機関で説明を受けてください。
HLHの治療と造血幹細胞移植
家族性HLHのように遺伝子の変化が原因の場合は、炎症を一時的に抑えても、きっかけがあれば再び起こります。GeneReviewsによると、活動期の治療にはエトポシドを含む化学免疫療法(HLH-94やHLH-2004の治療計画)が使われ、根本的に治す唯一の治療は同種造血幹細胞移植です。エマパルマブは、再発したり治療が効かなかったりするHLHなどに対して米国で承認されています[3]。
6. 遺伝・医療とのつながり:遺伝するサイトカインストーム「家族性HLH」
サイトカインストームのほとんどは遺伝とは関係なく起こりますが、生まれつきの遺伝子の変化によって起こる型があります。その代表が家族性血球貪食性リンパ組織球症(家族性HLH:familial hemophagocytic lymphohistiocytosis)です。家族性HLHは、過剰に活性化したT細胞とマクロファージが骨髄・肝臓・脾臓・脳などに入り込んで臓器を障害する免疫の病気で、長く続く高熱、血球の減少、肝臓と脾臓の腫れで急に始まることが多い病気です[3]。
HLH(血球貪食性リンパ組織球症)とは?診断基準
HLHでは、活性化したマクロファージが自分の血球を食べてしまう「血球貪食」がみられることから、この名前が付いています。HLHは、遺伝子の変化による原発性(家族性)と、感染症・膠原病・がん・代謝の病気などに伴う二次性に分けられます[3]。診断には、国際的に使われているHLH-2004の基準が用いられます。
📋 HLH-2004の診断基準
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| A. 遺伝子による診断 | HLHに一致する分子遺伝学的診断が確立している(常染色体潜性遺伝の原因遺伝子では、原則として両アレルの病的バリアントを確認する) |
| B. 臨床の基準(8項目中5項目以上) | ①38.5℃を超える発熱 ②脾臓の腫れ ③3系統の血球のうち2系統以上の減少 ④中性脂肪の上昇かフィブリノゲンの低下 ⑤組織での血球貪食 ⑥NK細胞の働きの低下・欠如 ⑦血清フェリチン500μg/L以上 ⑧可溶性CD25(可溶性IL-2受容体)2,400U/mL以上 |
※AまたはBのどちらかを満たせばHLHと診断します。GeneReviews[3]による。
家族性HLHの原因遺伝子:PRF1・UNC13D・STX11・STXBP2
家族性HLHは、PRF1・UNC13D・STX11・STXBP2の4つの遺伝子のいずれかで、2つのアレル(対になった遺伝子)の両方に病的バリアントがあることで起こります。PRF1は標的細胞を傷害するパーフォリンをコードし、UNC13D・STX11・STXBP2は細胞傷害性顆粒の放出に関わります。いずれも、細胞傷害性リンパ球が標的細胞を排除する仕組みに必要です[3]。
🧬 家族性HLHの4つの原因遺伝子
| 遺伝子 | たんぱく質 | 家族性HLHに占める割合 |
|---|---|---|
| PRF1 | パーフォリン | 30〜40% |
| UNC13D | Munc13-4 | 20〜40% |
| STX11 | シンタキシン11 | 5〜25% |
| STXBP2 | Munc18-2 | 5〜25% |
※GeneReviews(2024年改訂)[3]による。割合は報告された集団によって幅があります。
パーフォリンは、NK細胞やCD8陽性T細胞が持つ「穴をあけるたんぱく質」です。これらの細胞は、標的の細胞のすぐそばでパーフォリンを含む顆粒を放出して相手を壊します[3]。顆粒を細胞の外へ放出するこの過程はエクソサイトーシスの一種で、Munc13-4・シンタキシン11・Munc18-2は顆粒の放出を支えるたんぱく質です。パーフォリンの働きはパーフォリン/グランザイムBで詳しく解説しています。
なぜ「壊せない」と「嵐」になるのでしょうか。総説によると、パーフォリンが働かないと、CD8陽性T細胞は感染した細胞や抗原を示す細胞を片づけられず、相手と接したまま活性化し続けて、IFN-γやTNFを出し続けます。その結果、免疫の反応が終わらず、サイトカインストームに至ります[1]。ふつうは「敵を倒す」ことで免疫は自然に静まりますが、その最後の一手が欠けているために、ブレーキが効かなくなるのです。
家族性HLHの症状は、多くは生後数か月から数年のうちに現れ、胎児期に始まることもあります。治療をしないと、発症した乳児の生存期間の中央値は症状が出てから2か月未満とされています[3]。発症の頻度は、スウェーデンの報告で出生10万人あたり約1.8人です[3]。
家族性HLHと似た遺伝性の病気
4つの遺伝子のほかにも、顆粒による細胞傷害がうまく働かずにHLHを起こす遺伝性の病気があります。GeneReviewsでは、区別が必要な病気として、グリセリ症候群2型(RAB27A)、チェディアック・東症候群(LYST)、X連鎖リンパ増殖症候群(SH2D1A・XIAP)、ヘルマンスキー・パドラック症候群2型(AP3B1)が挙げられています[3]。グリセリ症候群やチェディアック・東症候群では髪や皮膚の色素の異常を伴うことが多く、SH2D1Aによる型ではHLHのほぼすべてがEBウイルスの感染をきっかけに起こるとされています[3]。SH2D1AについてはSH2D1A遺伝子で解説しています。
家族性HLHの遺伝の仕方と、きょうだいの検査
家族性HLHは常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です。両親がともに保因者の場合、子どもは妊娠ごとに25%(4分の1)の確率で発症し、50%の確率で症状のない保因者になり、25%の確率でどちらの変化も受け継ぎません。片方のアレルだけに病的バリアントを持つ保因者は、症状がありません[3]。
家族の中で病的バリアントがわかっている場合、GeneReviewsは、症状が出る前に同じバリアントを持つきょうだいを見つけ、注意深く経過をみたり、発症前に造血幹細胞移植を検討したりすることが適切だとしています。また、血縁者の保因者検査や、出生前検査・着床前検査も可能とされています[3]。
家族性HLHの遺伝子検査
ミネルバクリニックでは、家族性HLHと関連する病気の遺伝子を調べる家族性血球貪食性リンパ組織球症(fHLH)遺伝子検査を行っています。調べる遺伝子は、PRF1・RAB27A・RHOG・SH2D1A・STX11・STXBP2・UNC13D・XIAPの8つです。検体は血液のほか、唾液や頬の内側の粘膜でもよく、オンライン診療で受けることができます。検査の前後には臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、結果を直接説明します。対象となる方や結果までの期間は、検査ページをご覧ください。
この検査は、HLHを起こした方やその血縁者が、原因となる遺伝子の変化を確かめるためのものです。CAR-T細胞療法のあとのCRSや、COVID-19などの感染症に伴うサイトカインストームの多くは、遺伝子の変化とは関係なく起こるため、遺伝子検査の対象にはなりません。
生まれる前に分かる:両親の保因者検査
家族性HLHのような常染色体潜性(劣性)遺伝の病気は、両親がともに保因者のとき、子どもが妊娠ごとに4分の1の確率で発症します。家族に患者さんがいなくても起こります。保因者であることは、ふつう本人には症状がないため、検査をしなければわかりません[3]。
当院の拡大版保因者検査は4種類あり、女性787遺伝子・男性714遺伝子、女性1009遺伝子・男性911遺伝子がそれぞれ対になっています。女性1009遺伝子は女性787遺伝子をすべて含み、男性版は女性版からX連鎖の遺伝子を除いたものです。家族性HLHの4つの原因遺伝子(PRF1・UNC13D・STX11・STXBP2)は、4種類すべてに含まれています。4つとも、オンライン診療で受けることができ、唾液や頬の粘膜の検体でも検査できます。
妊娠中で、NIPT(新型出生前診断)と同じ日に採血して保因者検査も受けたい場合は、ファミリーセーフティ プラスがあります。ファミリーセーフティ プラスはNIPTを受ける日に同時に採血する保因者検査で、単独では受けられません。
🩺 院長コラム【「嵐」の背景に遺伝子があるとき】
サイトカインストームという言葉は、COVID-19の流行で一気に広まりました。多くは感染症や治療のきっかけで起こり、遺伝とは関係しません。けれども、乳幼児期にくり返す原因のわからない高熱と血球の減少の背景に、家族性HLHのような遺伝子の変化が隠れていることがあります。
臨床遺伝専門医として大切だと考えているのは、診断がついたご本人の治療だけでなく、きょうだいや次の妊娠への影響まで見通すことです。家族性HLHは常染色体潜性遺伝なので、ご両親は保因者で症状がないのがふつうです。原因の遺伝子がわかれば、きょうだいの検査や次の妊娠での選択肢を、確かな情報にもとづいて考えられるようになります。
よくある質問(FAQ)
Q1. サイトカインストームとは、簡単に言うと何ですか?
免疫が必要以上に強く働き、炎症を起こすサイトカインが血液中で急に増えて、全身の炎症と臓器の障害が起こる状態です。病原体と戦うための正常な反応が行き過ぎて、自分の体を傷つける側に回っている状態といえます。
Q2. サイトカインストームとサイトカイン放出症候群(CRS)の違いは何ですか?
サイトカインストームは原因を問わない広い言葉で、サイトカイン放出症候群(CRS)は、CAR-T細胞療法などの免疫療法のあとに起こるものを指す言葉です。CRSはサイトカインストームの一つの型で、ASTCTの合意基準により、発熱・低血圧・低酸素の程度でグレード1〜4に分けられます。
Q3. サイトカインストームは症状が出て何日目に起こりますか?
決まった日数はなく、原因によって起こる時期は大きく違います。CAR-T細胞療法では投与したT細胞が体内で働き始める時期に、感染症では経過の途中で炎症が強まったときに起こることがあります。高い熱が続く、血圧が下がる、息苦しさが強まるといった変化は、すぐに主治医に伝えてください。
Q4. サイトカインストームを抑える薬はありますか?
原因に応じて、ステロイド、IL-6受容体を遮るトシリズマブ、IL-1受容体を遮るアナキンラ、IFN-γに結合するエマパルマブ、エトポシドなどが使われます。日本ではトシリズマブが、悪性腫瘍治療に伴うサイトカイン放出症候群と、酸素投与を要するCOVID-19の肺炎に承認されています(2026年10月時点)。
Q5. サイトカインストームは遺伝しますか?
多くは感染症や治療をきっかけに起こり、遺伝とは関係しません。ただし、家族性HLHのように、PRF1・UNC13D・STX11・STXBP2の遺伝子の変化で起こる遺伝性の型があります。家族性HLHは常染色体潜性(劣性)遺伝で、両親がともに保因者の場合、子どもは妊娠ごとに4分の1の確率で発症します。
Q6. 敗血症とサイトカインストームは違うものですか?
対立する概念ではありません。細菌による敗血症は、感染症が引き金のサイトカインストームの一つに含められています。ただし感染症の炎症の多くは正常な反応で、病原体に対するふつうの反応を超えて臓器が障害されている状態を、サイトカインストームと呼びます。
Q7. ミネルバクリニックでサイトカインストームの検査や治療はできますか?
当院では、サイトカインストームやサイトカイン放出症候群の診断・治療は行っていません。治療を受けている医療機関の主治医にご相談ください。家族性HLHの原因遺伝子を調べる遺伝子検査と、家族性HLHの遺伝子を含む拡大版保因者検査は行っています。
まとめ
サイトカインストームとは、免疫が過剰に働いて炎症性サイトカインが血中で急に増え、全身の炎症と臓器の障害を起こす状態です[1]。感染症、免疫療法、膠原病、がんなどさまざまな原因で起こり、免疫療法のあとに起こるものはサイトカイン放出症候群(CRS)と呼ばれます。CRSはASTCTの合意基準で、38℃以上の発熱を前提に、低血圧と低酸素の重さでグレード1〜4に分けられます[2]。
治療は原因によって異なり、ステロイドやトシリズマブなどで過剰な免疫を抑えます。日本ではトシリズマブが悪性腫瘍治療に伴うCRSなどに承認されています[4]。多くのサイトカインストームは遺伝と関係しませんが、家族性HLHは常染色体潜性(劣性)遺伝の病気で、きょうだいや次の妊娠への影響を考える必要があります[3]。
🏥 サイトカインストーム・CRSの治療をお考えの方へ
当院では、サイトカインストームやサイトカイン放出症候群(CRS)の診断・治療は行っておりません。この件についてのご予約・お問い合わせはお受けしておりません。症状や治療については、治療を受けている医療機関の主治医にご相談ください。
なお、家族性HLHの原因となる遺伝子を調べたい方は家族性HLH遺伝子検査を、検査で何がわかり結果をどう受け止めればよいかを先に知りたい方は遺伝カウンセリングとはをご覧ください。
参考文献
- [1] Fajgenbaum DC, June CH. Cytokine Storm. N Engl J Med. 2020;383:2255-2273. [DOI 10.1056/NEJMra2026131]
- [2] Lee DW, Santomasso BD, Locke FL, et al. ASTCT Consensus Grading for Cytokine Release Syndrome and Neurologic Toxicity Associated with Immune Effector Cells. Biol Blood Marrow Transplant. 2019;25:625-638. [PMC12180426]
- [3] Zhang K, Astigarraga I, Bryceson Y, et al. Familial Hemophagocytic Lymphohistiocytosis. GeneReviews®. Initial posting 2006; last revision 2024 Jun 6. [NBK1444]
- [4] 医薬品医療機器総合機構(PMDA). アクテムラ(トシリズマブ)再審査報告書. 令和6年6月11日. [PMDA]



