アポトーシス|プログラムされた細胞死

アポトーシスとは?

アポトーシス(apoptosis)はプログラムされた細胞死の一形態で、正常に機能しなくなるとその細胞はがんになっていきます。プログラムされたとは、「こういう条件が揃ったら細胞死するよ」とあらかじめ予定してプログラムされているという意味です。小さな細胞の死は簡単に見えるのですが、実はプロセスは予想以上にはるかに複雑なものです。たとえばがん細胞になりそうなのにそのまま放置されるとどんどんがんになります。人間のからだには一日になんと5000個もできていると言われていますが、それが全部がんになったら生きていける人は一人もいないでしょう。ところが、みなさんちゃんと生きています。それは、そうしたがんの芽たちがアポトーシスに陥っているからです。
細胞死にはいくつかの種類があり、それぞれが独自の特徴とプロセスがありますが、最もよく研究されているのは、このアポトーシスです。

アポトーシスとはつまり、個々の細胞の終焉に関連した物理的でしばしば可視化された現象がセットでおこることと定義されます。がんにおいても重要な役割を果たしているのは述べた通りです。

アポトーシスの機能の一つは、潜在的に危険な変異をもつ細胞を生体から排除することです。細胞のアポトーシス機能が正常に働かないと、細胞は制御不能に増殖・分裂し、最終的には腫瘍を形成します。

アポトーシスと個体発生

カエル胚とアポトーシス
これはカエルの胚の手の写真ですが、一度がさっと丸っと手ができて、水かきを残して指と指の間にある細胞がアポトーシスで死んで指の形になります。ヒトでも発生途中で同じことが起こっています。つまり、ゆびのまたを残して指と指の間の細胞がアポトーシスで死ぬことにより指がちゃんと別れるのです。このアポトーシスに失敗すると指が結合したまま出生することになります。

アポトーシスでおこる目に見える変化とは?

アポトーシス
アポトーシス細胞を顕微鏡で見るとどんなふうに見えるのか?”正常な核が一つの丸い楕円形であるのに対し、核は縮んでいるか、凝縮して断片化していきます。
もう一つの明らかな特徴は、細胞自体が収縮して細胞の膜が変化し、細胞の表面から突起物が膨らみ(blebbing)ます。

アポトーシスはどのように開始されるのか?

1.様々な生理ストレス信号が異なるアポトーシス促進タンパクを介してBcl-2タンパクファミリーを阻害

細胞にはいろいろな生理的ストレスがかかり、それぞれが異なったアボトーシス促進性タンパクを介して作用することによってアポトーシスを阻害するように働くBcl-2タンパクと拮抗しています。Bcl-2様タンパクが多数存在します。その結果、Bcl-2タンパクはミトコンドリアの膜からチトクロームcを放出させるよう働くアポトーシス促進性タンパクの主力であるBaxを無力化できなくなります。

2.ミトコンドリア外膜からチトクロムcが放出

アポトーシスカスケード
チトクロムは酸化還元酵素でヘムに結合した鉄イオンの変化 Fe3+ + e- → Fe2+ で電子を運ぶ役割をしています。ミトコンドリアはグルコースと酸素からATPを作る大事な細胞内小器官で、生物でお勉強していると思います。このチトクロムをミトコンドリアが細胞内に放出してしまうことがアポトーシスのカスケードの引き金を引きます。

ミトコンドリアの外膜は、細胞が生きるか死ぬかを決定する重要な門です。さまざまなアボトーシス阻害シグナルはミトコンドリア外膜のチャンネルを閉じたままにするよう働きます。逆に、アポトーシスによる細胞死を促進するシグナルは、ミトコンドリア外膜のチャンネルを解放します。
ミトコンドリア外膜から細胞質に放出される分子はいろいろあるのですが、特にチトクロ-ムc分子(赤い丸)とSmac|DIABLO分子(褐色の四角形)は重要な役割を果たします。チトクロームcはApaf-1分子と凝集(会合)して7本スポークのアポトソームを形成します。(後述)
また、Smac|DIABLOはプロ・カスパーゼ9を引き寄せて活性化し、活性を持ったカスパーゼ9(緑の丸)が作り出され、それが次にカスパーゼ3前駆体(オレンジの丸)を活性化し、その結果生じた活性を持ったカスパーゼ3が、次々に一連の他のカスパーゼ前駆体(死刑執行人カスパーゼ)を活性化します。いったん活性化されると、さまざまな「死の墓質」が分解され、その分解物が細胞にアポトーシスの表現型(見た目、この場合はblebbing)を作り出します。ふつうは数多くのアボトーシス阻害タンパクがカスパーゼに結合して不活化しています。

3.アポソームの形成

アポソーム 死の車輪
ミトコンドリアから細胞質中に出たチトクロームc分子はApaf-lタンパクと会合してアボトソームapoptosomeを形成します。アポトソームは死の車輪the wheel of deathと呼ばれます。7本スポークの車輪の構造をしています。上の図のようにApaf-1がスポークを形成し、チトクロームc分子がスポークの先端を形成します。組み立て完了するとカスパーゼ9前駆体が車輪の中心(「ドームdome」)ひ引き寄せられ、カスパーゼ9前駆体は,活性型のカスパーゼ9転換されます。
カスパーゼ9は、システイン・アスパラギン酸特異的タンパク分解酵素cysteine aspartyl-specific proteaseのファミリーの一員で、ヒトゲノムにはこの
ファミリーに属するタンパク分解酵素をコードする遺伝子が11個マップされています。

4.p53によるアポトーシスの活性化

P53によるアポトーシスの活性化
p53(タンパクの名前です)は、複数のシグナル伝達経路でアポトーシスプログラムを活性化しています。p53は図にある通り、4量体の形で働き、リン酸化(Pの部分)で活性化されます。
1.Fas受容体をコードする遺伝子の発現を誘導することで転写を促進し、p53は細胞表面にこの細胞死受容体を発現増加させ、それによって細胞は細胞外間隙に存在するどのFasリガンド(FasL)に対しても感受性を持つようになります。
2.IGF結合タンパク3 IGF-binding protein-3(IGFBP-3)の発現を誘導することでp53はこのIGF結合タンパク3を細胞外間隙に放出させます。IGF結合タンパク3は,IGF-1受容体(IGF-1R)に結合する生存促進性・アボトーシス阻害性リガンドであるIGF-1やIGF-2に結合して、IGF-1/2がその受容体に結合するのを阻害します。IGF結合タンパク3がなければこれらが受容体に結合して、アポトーシスを促進して細胞死を阻害してしまいます。
3.p53はアポトーシス促進性のBcl-2関連タンパクであるBaxの発現を促進し、ミトコンドリア外膜からのチトクロムcの放出を促進します。
4.p53はSmac/DIABLOなどの他のいくつかのアポトーシス阻害性タンパクを不活化することでアポトーシスを促進します。

細胞死のアポトーシス以外の形態

壊死 necrosis

細胞死のもう一つの一般的な形態には、細胞が傷ついたり破裂したりしたときに起こる壊死があります。壊死もプログラムされているのですが、アポトーシスとは全く異なる方法でおこります。

オートファジー autophagy

細胞死の3つ目の形態はオートファジーと呼ばれるもので、細胞が分解して自己消化を行うものです。オートファジーは、成長と発達の自然な一部として発生することができますが、感染症などの特定の病気やストレスに対する反応であることもあります。アポトーシスと同様に、オートファジーは、本来あるべき時に発生せず、細胞が制御不能に成長してしまうと、癌の原因となることがあります。

エントーシス entosis

細胞死の4つ目の携帯は、ある細胞が他の細胞を巻き込んで死滅させるエントーシスと呼ばれるものです。エントーシスは全く異なるプロセスの細胞死です。他の種類の細胞死は全て細胞の自殺の一形態ですが、エントーシスは殺細胞なのです。エントーシスは細胞が隣の細胞に取り込まれているもので、最終的にはほとんどの細胞は死んでしまいます。
細胞が細胞を殺すケースは多くの場合、遺伝的にも異なる2つの異なる細胞タイプが互いに競合していることに起因しています。たとえば免疫担当細胞が病原体に感染した細胞に取り込まれて殺される、などがそれにあたります。しかし、エントーシスではたとえばがん細胞が隣のがん細胞になどと言う風に細胞は自分自身と同一の種類の細胞を殺しているところが異なります。