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NETosis(ネトーシス)とは?好中球が放出する「DNAの網(NETs)」の仕組みと、妊娠・自己免疫疾患・NIPTへの影響

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

NETosis(ネトーシス)とは、好中球という白血球が、自分の中にあるDNAを網(あみ)のように体の外へ放出して、細菌やウイルスを絡め取る免疫の仕組みです。放出される網は「好中球細胞外トラップ(NETs:ネッツ)」と呼ばれ、感染から体を守る大切な防御の仕組みです。ところがこの反応が行きすぎると、血栓・自己免疫疾患・妊娠合併症、さらには出生前診断(NIPT)の「判定保留」にまで関わってくる、まさに“両刃の剣”でもあります。

この記事でわかること
📖 読了時間:約20分
🧬 免疫・好中球・出生前診断・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. NETosis(ネトーシス)とは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 好中球が自分のDNAを網のように細胞の外へ放出し、その網(NETs)で病原体を捕まえて殺菌する免疫の仕組みであり、細胞死の一種です。1996年に発見され、感染防御に欠かせない一方、放出されすぎると自分の体を傷つけ、血栓・自己免疫・妊娠合併症などの引き金になります。出生前診断(NIPT)では、母体由来のDNAが増えることで検査結果が出にくくなる原因にもなります。

  • 基本の定義 → 好中球がDNAの網(NETs)を放出する細胞死。1996年に観察、2004年にNETsと命名
  • 仕組み → 活性酸素(ROS)→PAD4→ヒストンのシトルリン化→クロマチンがほどけてDNAが飛び出す
  • 二面性 → 感染防御に必須/過剰だと血栓・自己免疫・がん転移・妊娠合併症に関与
  • NIPTへの影響 → 母体由来cfDNAが増えて胎児フラクションが薄まり「判定保留」に
  • 遺伝性疾患モデル → DADA2(ADA2欠損症)はNETosisの暴走が病気を起こす象徴的な例

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1. NETosisとは:好中球が放出する「DNAの網」

私たちの血液の中で最も数が多い白血球が「好中球(こうちゅうきゅう)」です。体に細菌やウイルスが入り込むと真っ先に駆けつけ、最前線で戦う“免疫の歩兵”のような存在です。長いあいだ、好中球が病原体を退治する方法は「丸ごと飲み込む(貪食)」か「殺菌物質を撒く(脱顆粒)」の2つだけだと考えられてきました。

💡 用語解説:好中球(こうちゅうきゅう)

白血球の一種で、血液中の白血球のおよそ50〜70%を占める、数のうえで最大の免疫細胞です。骨髄でつくられ、血液中を巡りながら異物の侵入を見張ります。寿命はとても短く、感染がなければ数時間〜数日で役目を終えます。感染が起きると血管の壁を通り抜けて感染部位に集まり、病原体を退治する“最前線の防衛部隊”として働きます。

ところが1996年、好中球がまったく新しい方法でも病原体と戦っていることが初めて観察されました。そして2004年、Brinkmann(ブリンクマン)らの研究によって、活性化した好中球が自分のDNAを糸状に放出し、網のような構造をつくって細菌を捕まえ殺すことが明らかにされ、この網は「好中球細胞外トラップ(Neutrophil Extracellular Traps:NETs/ネッツ)」と名づけられました[4]。その後、この現象は「NET」に細胞死を表す接尾語「-osis」をつけてNETosis(ネトーシス)と呼ばれるようになったのです[1]

ひとことで言えば、NETosisとは「好中球が自分のDNAを網のように外へ放り出し、その粘りつく網で病原体を絡め取って殺菌する」という捨て身の防御反応です。放出された網には、DNAだけでなくヒストンや殺菌酵素(ミエロペルオキシダーゼ、好中球エラスターゼなど)がびっしりと貼りついており、細菌・真菌・ウイルス・寄生虫まで幅広く捕らえます[3]

2. 仕組み:DNAの網ができるまでの分子メカニズム

NETosisは、ただ細胞が壊れるのではなく、いくつもの段階を順番にたどる精密にプログラムされた過程です。きっかけ(トリガー)は細菌・真菌・ウイルスだけでなく、抗体や免疫複合体、コレステロールや尿酸の結晶、妊娠に伴うホルモン変化など実にさまざまです。ここでは古典的な経路を、できるだけやさしく追ってみましょう。

💡 用語解説:クロマチンとヒストン

細胞の核の中では、約2メートルもの長いDNAが「ヒストン」というタンパク質に巻きついて、コンパクトに折りたたまれています。このDNAとヒストンの複合体を「クロマチン」と呼びます。プラスの電気をもつヒストンと、マイナスの電気をもつDNAが引き合うことで、ぎゅっと凝集して安定しています。NETosisでは、この“糸巻き”がほどけてDNAが飛び出していきます。

💡 用語解説:活性酸素種(ROS)・PAD4・シトルリン化

活性酸素種(ROS)は、酸化させる力の強い分子の総称で、ここでは殺菌や合図のために使われます。PAD4は、ヒストンの「アルギニン」というアミノ酸を「シトルリン」に変える酵素です。この変換をシトルリン化といいます。シトルリン化が起きるとヒストンのプラスの電気が弱まり、DNAとの結びつきがゆるんで、ぎゅっと巻かれていたクロマチンがほどけていきます。

🧪 NETs(DNAの網)ができるまでの6ステップ

1病原体などの刺激を受け、好中球の中のカルシウム(Ca2+)が急上昇する
2NADPHオキシダーゼという酵素が動き出し、大量の活性酸素(ROS)をつくる
3ROSがPAD4を活性化し、ヒストンがシトルリン化される
4クロマチンがほどけて広がり、殺菌酵素(MPO・エラスターゼなど)と混ざり合う
5核の膜、続いて細胞の膜が壊れる
6DNAと殺菌タンパク質でできた巨大な網(NETs)が細胞の外へ放出される

このように、NETosisは好中球がみずからの体(細胞膜)を壊してまでDNAの網を放つ、いわば“身を捨てて敵を絡め取る”反応です。網は粘着性が高く、捕まえた病原体がまわりに散らばるのを防ぎながら、その場で無力化していきます。

3. 他の細胞死との違い:アポトーシスとはどこが違う?

細胞の死に方には、いくつものタイプがあります。NETosisは、よく知られた「アポトーシス(静かな細胞死)」とは性質が大きく異なります。

💡 用語解説:アポトーシスとの違い

アポトーシスは、細胞が膜を保ったまま静かにたたまれ、まわりに炎症を起こさずにマクロファージにそっと片づけられる“行儀のよい細胞死”です(免疫学的に「沈黙した死」とも呼ばれます)。一方NETosisは、アポトーシスの実行役である酵素「カスパーゼ」を必要とせず、最後に細胞膜が破れて中身を撒き散らすため、まわりに強い炎症を引き起こす“にぎやかな死”です。

比較項目 アポトーシス NETosis
細胞膜 保たれる 最後に破れる
カスパーゼ 必要 不要
炎症 起こさない(静か) 強く起こす(炎症性)
放出されるもの ほぼなし DNAの網+殺菌タンパク質

膜が壊れて中身が漏れ出る点では、「パイロトーシス」や「ネクロプトーシス」といった炎症性の細胞死と似ています。NETosisは、こうした多様な細胞死のなかの一つとして理解すると位置づけが見えてきます。

🔍 関連記事:アポトーシスネクロプトーシスパイロトーシス との違いもあわせてどうぞ。

4. 体を守る役割:感染防御の最前線

NETosisが本来もっている役目は、病原体を物理的に閉じ込め、その場で殺菌することです。網には殺菌物質が高濃度で並んでいるため、捕まえた菌を直接退治しながら、体の奥へ散らばるのを防ぎます。

細菌・真菌に対して

NETsはグラム陽性菌・グラム陰性菌のどちらに対しても効果を発揮し、ブドウ球菌・大腸菌・サルモネラ・肺炎桿菌など多くの細菌の増殖を抑え、あるいは殺菌します[3]。とくに真菌(カビ)は細菌よりも体が大きく、好中球が丸ごと飲み込むのが難しいため、網で絡め取るNETsの“物理的に捕まえる力”が大きな意味をもちます。カンジダやアスペルギルスなどがその例です。

ウイルス・寄生虫に対して

インフルエンザやRSウイルスなどの感染でも好中球は動員され、NETsがウイルス粒子を捕らえて増殖を抑えます。網に含まれるヒストンには、ウイルスをまとめて中和する働きがあると報告されています[3]。一方、寄生虫に対するNETsの働きは“二面性”があり、退治できる場合もあれば、動きを止めるだけにとどまる場合もあります。慢性的な寄生虫感染では、退治しきれないままNETosisが続くことで、かえって慢性炎症や組織の傷みを招くこともあると考えられています。

5. 過剰になると起こる病気:両刃の剣としてのNETosis

NETosisは、つくられる量と片づけられる量のバランスが厳密に保たれてこそ役に立ちます。このバランスが崩れて過剰につくられたり、うまく分解・回収されなかったりすると、大量のDNAや自己の成分、強い酵素が健康な組織を傷つけ、さまざまな病気の引き金になります[1]

🩸 血栓・心血管系

脳梗塞・心筋梗塞・動脈硬化・新型コロナ重症例の血栓など。DNAの網が血小板やフィブリンを捕まえ、血のかたまり(血栓)の足場になります。

🛡️ 自己免疫・自己炎症

全身性エリテマトーデス(SLE)・関節リウマチ・乾癬・痛風など。網に含まれるDNAやシトルリン化ヒストンが“自己抗原”として免疫を刺激します。

🦠 がんの転移

血液中のがん細胞が網に捕らえられると、免疫の攻撃から守られたり、遠くの臓器への“住み着き(転移)”が促されたりすることがあります。

🩹 代謝(糖尿病など)

糖尿病では創傷治癒の遅れに関わり、好中球エラスターゼの過剰な放出がインスリンの働きを妨げると報告されています。

💡 用語解説:免疫血栓症(めんえきけっせんしょう)

本来は、病原体を血のかたまりの中に閉じ込めて全身に広がるのを防ぐ“守りの反応”です。ところがこれが行きすぎると、血管の中で不必要な血栓ができてしまいます。動物実験では、PAD4をなくしてNETosisを止めると血栓ができにくくなることが示されており[1]、NETosisが血栓づくりの主役の一つであることがわかっています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【“守る仕組み”が“攻める刃”に変わるとき】

NETosisを学ぶと、免疫というものが「敵か味方か」の単純な話ではないことがよくわかります。同じ反応が、感染症のときには命を救い、別の場面では血栓や自己免疫の引き金になる。自然はとても合理的にできていますが、その合理性が病気では裏目に出るのです。

私が遺伝や免疫の情報発信を続けるのは、こうした“仕組みの理解”が、患者さんご自身の納得につながると考えているからです。なぜ自分の体でこれが起きるのかがわかると、検査結果や治療への向き合い方が変わります。難しい言葉の奥にある「体の理屈」を、できるだけやさしくお伝えしたいと思っています。

6. 妊娠との関係:母児を守る免疫バランスとNETosis

妊娠は、お母さんの体にとってある意味で“不思議な状態”です。赤ちゃんは半分はお父さん由来の遺伝情報をもつ「半分は他人」のような存在なのに、お母さんの免疫はそれを攻撃せずに受け入れます。この受け入れ(免疫寛容)を保つために、妊娠中は免疫のバランスが大きく切り替わります。

妊娠中の好中球は“ほどよく活性化した状態”に保たれ、ホルモンによって細かく調整されています。たとえば妊娠初期にはhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が適度にNETosisを促し、後期にはエストロゲンが促す一方で、プロゲステロンが強くブレーキをかけて、網が過剰に放出されないように守っています[5]。この絶妙な調整が崩れると、産科の合併症につながると考えられています。

妊娠高血圧腎症(PE)

胎盤の虚血・低酸素ストレスが好中球を過剰に活性化し、NETsが増えます。PEの方の血液ではDNA・MPO・ヒストンといったNETs由来成分が高く、過凝固(血が固まりやすい状態)に関わると報告されています[5]

原因不明の反復流産(uRPL)

流産をくり返すケースの一部では、子宮の脱落膜に好中球が異常に集まり、NETsの指標(MPO-DNA複合体・シトルリン化ヒストンH3など)が高いことが確認されています[6]

流産や死産に関わる自己免疫疾患である産科抗リン脂質抗体症候群(OAPS)でも、異常なNETsの形成が胎盤の機能不全や微小な血栓を引き起こす中心的な仕組みの一つとして指摘されています[7]。つまり、NETosisの「ほどよい調整」は、妊娠の継続にとってとても大切なのです。

🔍 関連記事:妊娠・出生前の相談については遺伝カウンセリングとはもご覧ください。

7. NIPT(出生前診断)との関係:なぜ「判定保留」が起こるのか

ここからは、出生前診断を専門とする当院ならではの視点です。NETosisは、NIPT(新型出生前診断)の検査がうまくいかない「判定保留(No call)」の隠れた原因として注目されています。

💡 用語解説:セルフリーDNA(cfDNA)と胎児フラクション(FF)

妊婦さんの血液中には、細胞が壊れたときに出る短いDNAの断片(セルフリーDNA:cfDNA)が流れています。その大部分(約80〜90%)はお母さん由来で、残りが胎盤由来=胎児由来です。この胎児由来cfDNAの割合を「胎児フラクション(FF)」と呼び、NIPTの信頼性を左右する最も重要な指標です。平均はおよそ10%(個人差で4〜20%程度)で、一般に4%を下回ると結果が出せず「判定保留」になります。

胎児フラクションは「胎児由来cfDNA ÷ 全cfDNA」で決まります。つまり、分母である全cfDNAが増えれば、胎児フラクションは相対的に薄まって(希釈されて)下がるのです。ここでNETosisが効いてきます。全身の炎症や免疫の過剰反応が起きると、好中球がNETosisを起こして大量の母体由来DNAを血中に放出し、cfDNAのプールがふくらんで胎児フラクションが急に下がってしまうのです[12]

過剰なNETosisが胎児フラクションに与える影響(イメージ図)

※仕組みを示す概念図です。実際の数値は個人差が大きく、研究や検査会社によって異なります。

正常な妊娠

FF 約15%

肥満・慢性炎症

FF 約8%

自己免疫疾患・G-CSF治療下

FF 約3% → 判定保留

赤い点線が「判定保留ライン(FF 4%)」です。母体由来cfDNAが増えると胎児フラクションが薄まり、ラインを下回ると結果が出せなくなります。

自己免疫疾患があると判定保留が起こりやすい

全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチなどの自己免疫疾患では、日常的にNETosisが亢進し、cfDNAが多めに放出されています。実際の査読研究でも、自己免疫疾患のある妊婦さんは判定保留が起こりやすいことが示されています。ある研究では判定保留(判定不能)の割合が16.3%(自己免疫疾患なしは3.5%)で、補正後のオッズ比は5.3(95%信頼区間2.0〜14.2)と報告されました[9]。別の研究では、自己免疫疾患があると判定保留のオッズが約10倍(オッズ比10.38)になると示されています[8]

なお、自己免疫疾患の有無で「全cfDNA量」そのものには大きな差がなかったとする研究もあり[9]、母体由来cfDNAの増加だけでなく、胎児由来cfDNAの減少や断片の性質の変化など、複数の要因が重なって胎児フラクションが下がると考えられています。仕組みはまだ完全には解明されていません。

不育症治療(G-CSF)と判定保留

反復着床不全や一部の不育症の治療として、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)が使われることがあります。G-CSFは好中球を増やして活性化させるため、NETosisを通じて母体由来cfDNAが一時的に大きく増えることがあり、胎児フラクションを薄めて判定保留につながりやすくなります[12]。一方、同じく不育症で使われる抗凝固薬(ヘパリン)については、用量にかかわらず胎児フラクションへの明らかな影響は認められなかったとする査読研究があり[8]、判定保留の主な引き金は母体側のcfDNA増加にあると考えられています。

大切なのは、判定保留は「赤ちゃんに異常がある」という意味ではないということです。多くは検査の技術的な品質基準を満たさなかっただけで、胎児の健康状態とは関係ありません。低い胎児フラクションに対しては、少し週数を進めてから再採血する、COATE法のような低FFに対応しやすい解析法を選ぶ、といった対応が可能です。

なお当院では、NIPTで陽性となった場合の確定検査(羊水検査・絨毛検査)の費用は、互助会(8,000円)により全額補助されます。自己免疫疾患や不育症治療のある妊婦さんには、検査の限界と判定保留のリスクについて、検査の前にていねいに遺伝カウンセリングでお伝えすることが欠かせないと考えています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【判定保留は“失敗”ではありません】

自己免疫疾患をお持ちの方や、不育症の治療を受けている方がNIPTで判定保留になると、「自分のせいでは」「赤ちゃんに何かあるのでは」と不安になられます。けれども、その背景には今日お話ししたようなNETosisという免疫の仕組みがあり、けっして妊婦さんの落ち度ではありません。

だからこそ私は、検査を受ける前のカウンセリングで「あなたの体質ではこういうことが起こりうる」とあらかじめお伝えするようにしています。理由がわかっていれば、判定保留になっても落ち着いて次の一手を選べます。検査は速さよりも、正確さと納得を大切にしたい——これは当院がNIPTを始めたときからの考えです。

8. 遺伝性疾患モデル:DADA2(ADA2欠損症)

「たった1つの遺伝子の異常が、どうやって全身の炎症を引き起こすのか」——その謎を、NETosisが鮮やかに説明してみせた病気があります。それが2014年に独立した病気として確立されたDADA2(アデノシンデアミナーゼ2欠損症)です。

💡 用語解説:DADA2とADA2遺伝子

DADA2は、22番染色体にあるADA2遺伝子(以前はCECR1と呼ばれていました)の両方のコピーが働かなくなることで起こる、常染色体潜性(劣性)の自己炎症性疾患です。若い時期からの脳梗塞、結節性多発動脈炎に似た血管炎、網状の皮膚斑、免疫の低下、血液の異常など、とても幅広い症状が出ます。ADA2は本来、細胞の外にある「アデノシン」という物質を分解する酵素です。

DADA2ではADA2の働きが失われるため、細胞の外にアデノシンがたまります。この高濃度のアデノシンが好中球を刺激し続け、制御できないNETosisが暴走します[10]。たまったNETsは免疫への強い刺激となり、マクロファージを活性化してTNF-αなどの炎症性物質を大量に放出させます。すると血管が傷つき、血管炎や脳梗塞が起こり、さらに好中球が呼び寄せられて新たなNETosisが起きる——という「炎症の悪循環(フィードバックループ)」がつくられるのです[11]

この理解が治療に直結しました。DADA2の血管炎に対しては、悪循環の下流を断つ抗TNF製剤(エタネルセプトなど)が第一選択となり、致命的な脳梗塞をほぼ防げるようになっています[10]。重い骨髄不全に対しては造血幹細胞移植が根本的な治療として行われます。DADA2は、NETosisが病気の“結節点”になりうることを示す象徴的な実例です。

9. 検査(バイオマーカー)と治療の展望

NETosisの仕組みが解明されたことで、その“度合い”を測る検査や、NETosis自体を抑える治療の研究が進んでいます。

体の中のNETosisを測る指標

血液中のセルフリーDNA(cfDNA)・シトルリン化ヒストンH3・MPO-DNA複合体は、NETosisがどのくらい起きているかを反映する信頼性の高い指標として確立されつつあります[6]。妊娠の分野では、妊娠初期〜中期にこれらを測ることで、妊娠高血圧腎症や早産・胎児発育不全のリスクを早めに見つける“血液による検査(リキッドバイオプシー)”としての活用が期待されています[12]

NETosisを標的とした治療アプローチ

アプローチ ねらい
網を分解する DNAの網を酵素で切る DNase I(嚢胞性線維症で吸入薬として臨床使用)
入口で止める NETosisの上流を遮断 PAD4阻害薬(開発・最適化が進行中)
毒性をやわらげる 傷つける酵素を抑える 好中球エラスターゼ阻害薬(シベレスタット など)
下流の炎症を抑える サイトカインを直接ブロック 抗TNF製剤(DADA2の血管炎に使用)

これらは、これまで対症療法に頼らざるを得なかった自己免疫疾患・血栓症・重い産科合併症に対して、病気の根っこに直接働きかける次世代の治療として期待されています[2]。なお、ここで挙げた薬の多くは特定の病気に承認されたものや研究段階のものであり、すべての人に使えるわけではありません。実際の治療は主治医とよく相談してください。

よくある質問(FAQ)

Q1. NETosis(ネトーシス)とは何ですか?

好中球という白血球が、自分のDNAを網のように細胞の外へ放出し、その網(NETs)で細菌やウイルスを絡め取って殺菌する免疫の仕組みで、細胞死の一種です。1996年に観察され、2004年にこの網がNETsと名づけられました。感染防御に欠かせない反応ですが、過剰になると体を傷つける一面もあります。

Q2. NETosisは体に良いものですか、悪いものですか?

どちらの面もある“両刃の剣”です。適度に起これば感染から体を守る大切な仕組みですが、つくられすぎたり、うまく片づけられなかったりすると、血栓・自己免疫疾患・がんの転移・妊娠合併症などの引き金になります。つくる量と片づける量のバランスが重要です。

Q3. NETosisはどんな病気に関係していますか?

脳梗塞・心筋梗塞・動脈硬化・新型コロナ重症例などの血栓、全身性エリテマトーデス(SLE)・関節リウマチ・痛風などの自己免疫/自己炎症、がんの転移、糖尿病などの代謝の病気に関わります。妊娠の分野では、妊娠高血圧腎症や原因不明の反復流産、産科抗リン脂質抗体症候群との関連が報告されています。

Q4. なぜ自己免疫疾患があるとNIPTが「判定保留」になりやすいのですか?

自己免疫疾患ではNETosisが亢進し、母体由来のDNAが血中に多く放出されます。するとセルフリーDNA全体が増え、胎児由来の割合(胎児フラクション)が相対的に薄まって4%を下回り、判定保留が起こりやすくなります。ある研究では判定保留率が16.3%(自己免疫疾患なしは3.5%)、別の研究ではオッズ比約10倍と報告されています。判定保留は赤ちゃんの異常を意味するものではありません。

Q5. 不育症の治療(G-CSF)を受けているとNIPTに影響しますか?

影響することがあります。G-CSFは好中球を増やして活性化させるため、NETosisを通じて母体由来cfDNAが一時的に増え、胎児フラクションが薄まって判定保留につながりやすくなります。一方、抗凝固薬(ヘパリン)については胎児フラクションへの明らかな影響は認められなかったとする査読研究があります。治療中の方は、検査前に遺伝カウンセリングで見通しを確認しておくと安心です。

Q6. NETosisを抑える薬はありますか?

研究・開発が進んでいます。DNAの網を分解するDNase I(嚢胞性線維症で吸入薬として臨床使用)、入口で止めるPAD4阻害薬(開発段階)、組織を傷つける酵素を抑える好中球エラスターゼ阻害薬(シベレスタットなど)、下流の炎症を抑える抗TNF製剤(DADA2の血管炎に使用)などがあります。いずれも対象となる病気が限られるため、使用は主治医とよく相談してください。

Q7. DADA2とは何ですか?NETosisとどう関係しますか?

DADA2(アデノシンデアミナーゼ2欠損症)は、ADA2遺伝子(旧CECR1)の両方のコピーが働かなくなることで起こる常染色体潜性(劣性)の自己炎症性疾患です。細胞の外にアデノシンがたまり、それが好中球を刺激してNETosisを暴走させ、マクロファージからのTNF-α産生と血管炎の悪循環を生みます。たった1つの遺伝子の異常が、NETosisを介して全身の炎症を起こす象徴的な例です。

Q8. NETosisは検査で測れますか?

セルフリーDNA(cfDNA)、シトルリン化ヒストンH3、MPO-DNA複合体などが、NETosisの程度を反映するバイオマーカーとして研究・確立されつつあります。これらを血液で測る“リキッドバイオプシー”として、妊娠高血圧腎症や反復流産のリスク評価などへの応用が期待されています。ただし日常診療での標準的な検査として確立しているわけではなく、研究段階の項目も多くあります。

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参考文献

  • [1] Vorobjeva NV, Chernyak BV. NETosis: Molecular Mechanisms, Role in Physiology and Pathology. Biochemistry (Mosc). 2020. [PMC7590568]
  • [2] Mutua V, Gershwin LJ. A Review of Neutrophil Extracellular Traps (NETs) in Disease. Clin Rev Allergy Immunol. 2021. [PMC7395212]
  • [3] Mechanisms and immune crosstalk of neutrophil extracellular traps in response to infection. (Review). 2025. [PMC12077121]
  • [4] Brinkmann V, et al. Neutrophil extracellular traps kill bacteria. Science. 2004;303(5663):1532-1535. [PubMed]
  • [5] Gupta AK, et al. Increased Neutrophil Activation and Plasma DNA Levels in Patients with Pre-Eclampsia. Thromb Haemost. [PMC6567982]
  • [6] Decoding neutrophil extracellular traps and key gene drivers in unexplained pregnancy loss. 2024. [PMC12457963]
  • [7] Immune-mediated mechanisms and maternal-fetal interface dysfunction in obstetric antiphospholipid syndrome. [PMC12689542]
  • [8] Autoimmune disorders but not heparin are associated with cell-free fetal DNA test failure. (Multivariable analysis; autoimmune disease OR 10.38, 95%CI 1.62-66.53). [PMC6276207]
  • [9] The impact of maternal autoimmune disease on cell-free DNA test characteristics. Am J Obstet Gynecol MFM. 2021. (FF 9.7% vs 11.9%; indeterminate 16.3% vs 3.5%; aOR 5.3, 95%CI 2.0-14.2). [PubMed]
  • [10] Carmona-Rivera C, et al. NETing the mechanism of inflammation in DADA2. Blood. 2019;134(4):338. [ASH Blood]
  • [11] Adenosine Deaminase 2 Deficiency (DADA2): A Crosstalk Between Innate and Adaptive Immunity. Front Immunol. 2022. [PMC9309328]
  • [12] Advances in cfDNA research for pregnancy-related diseases. Front Cell Dev Biol. 2025. [PMC12361174]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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