目次

感染症でもないのに発熱をくり返す「周期性発熱症候群」の中には、家族性地中海熱(MEFV遺伝子)など、生まれ持った遺伝子の変化が関わる自己炎症性疾患があります。このページの検査は、自己炎症性疾患に関わる58遺伝子をまとめて調べる遺伝子パネル検査です。原因がわかると、治療の選び方が変わることがあります。一方で、遺伝子の結果だけで診断が決まるわけではありません。原因がわからないまま病院を回っている方に向けて、検査でわかること・わからないこと、結果のあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この検査で何がわかりますか?
家族性地中海熱(MEFV)、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、クリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)、高IgD症候群(メバロン酸キナーゼ欠損症)など、自己炎症性疾患に関わる58遺伝子の変化を一度に調べます。結果は症状と合わせて判断します。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
原因不明の発熱・腹痛・胸の痛み・発疹・関節の炎症をくり返す方、家族性地中海熱などが疑われるのに診断がつかない方、ご家族に自己炎症性疾患の方がいる方です。大人になってから始まった周期性発熱の方もご相談いただけます。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは3〜5週間、検体は口腔粘膜スワブまたは血液です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因がわかれば、専門の医療機関での治療の選び方や、ご家族の検査を考えられます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
\ くり返す発熱の原因を、一度の遺伝子検査で /
検査の前に臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、結果も臨床遺伝専門医が直接ご説明します。
1. 周期性発熱症候群・家族性地中海熱の遺伝子検査でわかること
この検査では、家族性地中海熱をはじめとする自己炎症性疾患に関わる58遺伝子に、病気の原因となる変化がないかを一度に調べます。ただし、遺伝子の結果だけで診断が決まるわけではなく、症状や血液検査の経過と合わせて判断します。
自己炎症性疾患は、症状が似ていても原因の遺伝子が違うことがあり、病気によって効く治療も違います。1つずつ遺伝子を調べていくと時間がかかるため、関係する遺伝子をまとめて調べるパネル検査が役に立ちます。国際的な分類の基準(Eurofever/PRINTO、2019年)でも、家族性地中海熱・TRAPS・メバロン酸キナーゼ欠損症・CAPSは、遺伝子の結果と症状を組み合わせて分類する形がとられています[4]。
自己炎症性疾患とは:自己免疫疾患との違い
自己炎症性疾患は、体に生まれつき備わった「自然免疫」のしくみが、きっかけがないのに働きすぎて炎症をくり返す病気です。自分の体を攻撃する抗体(自己抗体)が中心となる自己免疫疾患(関節リウマチなど)とは、炎症が起こるしくみが違います。
炎症のスイッチの役をするインフラマソームという仕組みや、炎症にブレーキをかけるタンパク質の設計図に変化があると、感染症がないのに熱や炎症が起こります。感染症の検査をしても原因が見つからない、抗菌薬が効かない、熱が下がると元気になる、といった経過が手がかりになります。
原因不明の発熱をくり返すとき、遺伝子の病気を疑う目安
発熱をくり返す原因の多くは感染症などで、遺伝子の病気はその一部です。そのうえで、次のような経過がある場合は、自己炎症性疾患を考える手がかりになります。
- ●38℃以上の熱が半日〜数日続き、それが何度もくり返す(熱のないときは元気)
- ●発熱のときにCRPや血清アミロイドA(SAA)がとても高く、熱が下がると正常に戻る
- ●熱と一緒に、強い腹痛・胸の痛み・関節の痛み・発疹などが出る
- ●ご家族に同じような発熱をくり返す方がいる
こうした目安は、日本の家族性地中海熱の診断基準(難病情報センター)や国際的な分類の基準[4]に含まれる項目をもとにしています。子どものころに始まることが多い病気ですが、日本の家族性地中海熱の全国調査では、初めての発作が20歳を過ぎてからだった方が37.3%いました[1]。「大人になってから始まったから遺伝子の病気ではない」とは言えません。
2. 家族性地中海熱(FMF)とMEFV遺伝子検査の読み方
家族性地中海熱は、日本で最も多い自己炎症性疾患のひとつで、MEFV遺伝子が関わります。ただし、MEFVに変化があっても発症しない方がいる一方で、典型的な症状があるのにMEFVの変化が見つからない方もいるため、遺伝子の結果は症状と合わせて読む必要があります。
家族性地中海熱とは:症状・発症年齢・日本の患者さん
家族性地中海熱は、半日から3日ほど続く高い熱が、くり返し起こる病気です。発作のときには、おなかの膜(腹膜)や胸の膜(胸膜)の炎症による強い痛みや、関節の症状、丹毒のような皮膚の赤みが出ることがあります(難病情報センター、2026年10月時点で確認)。名前に「地中海」とつくのは、もともと地中海沿岸の民族に多い病気として知られてきたためです。
2009年に実施された日本の全国調査では、当時の国内の患者さんの数は292人(95%信頼区間187〜398人)と推計されました。くわしく調べた患者さんでは、熱が95.5%、腹痛が62.7%、胸の痛みが36.9%、関節炎が31.3%にみられ、初めての発作は10歳未満が25.4%、10代が37.3%、20歳以降が37.3%でした[1]。難病情報センターでは、国内の患者さんは約300人とされています。この研究は、日本の患者さんは地中海沿岸の患者さんと症状や遺伝子の特徴が違い、診断が遅れやすいことが課題だと指摘しています[1]。
MEFVに変化があっても、それだけでは診断が決まらない理由
MEFV遺伝子には、病気との結びつきが強い変化と、健康な人にもよくみられ、病気との結びつきが弱い変化があります。難病情報センターは、MEFVの変化があっても発症しない人がいる(浸透率が高くない)こと、典型的な症状があってもMEFVの変化が見つからない方がいることから、ほかの要因も関わると考えられているとしています。
日本の全国調査で遺伝子を調べた126人のうち、MEFVに1つ以上の変化があったのは109人(86.5%)で、17人(13.5%)では変化が見つかりませんでした。多かった組み合わせは、E148QとM694Iの組み合わせ(19.8%)、M694Iを片方だけにもつ方(12.7%)でした[1]。
💡 用語解説:エクソン10の変化
遺伝子は、タンパク質の設計図になる部分(エクソン)がいくつかに分かれて並んでいます。MEFV遺伝子のエクソン10にあるM694I・M680I・M694V・V726Aといった変化は、日本の診断基準で、片方だけ(ヘテロ接合)でも家族性地中海熱の診断の確定に使われる変化として挙げられています(難病情報センター)。一方、E84K・E148Q・R202Qなどの変化は、それだけでは診断が決まらず、コルヒチンが効くかどうかなどと合わせて判断します。
欧州リウマチ学会(EULAR)の推奨(2016年)も、症状や炎症の所見がなく遺伝子の結果だけがある場合は、必ずしも治療を始める理由にはならず、経過を見守るべきとしています[2]。遺伝子の結果は「答え」ではなく、診断のための大切な材料のひとつと考えてください。
家族性地中海熱の診断基準と、遺伝子検査が役立つ場面
日本の診断基準(難病情報センターに掲載、2015年7月)では、典型的な家族性地中海熱は、38℃以上で12〜72時間続く発熱を3回以上くり返し、発作のときにCRPや血清アミロイドAがとても高くなり、発作がないときには正常に戻ることを必須とし、腹膜炎・胸膜炎・関節炎などの症状を1つ以上伴うものとされています。
遺伝子検査がとくに役立つのは、症状が典型的ではないときです。基準では、典型的でない場合に、エクソン10の変化があれば家族性地中海熱と確定し、ほかの変化がある場合や変化がない場合でも、診断のためのコルヒチンが効けば非典型的な家族性地中海熱とするとされています(難病情報センター)。熱の続く期間が長い、関節の症状が中心であるなど、典型的でない経過で診断がつかずにいる方にとって、遺伝子の結果は判断の手がかりになります。
治療:コルヒチンと、効かないときの生物学的製剤
家族性地中海熱の治療の中心はコルヒチンという飲み薬で、日本の全国調査では91.8%の方に効果がありました[1]。EULARの推奨は、臨床的に診断がついたらできるだけ早くコルヒチンを始めること、妊娠を考えるときや妊娠中・授乳中もコルヒチンをやめないことを勧めています[2]。
EULARの推奨では、飲める最大量のコルヒチンを使い、飲み忘れがないことを確かめても、6か月以上にわたって月1回以上の発作が続く場合を、コルヒチンが効かない(抵抗性)と考えるとしています[2]。こうした方には、炎症の物質IL-1βを抑える生物学的製剤カナキヌマブが使われることがあります。国際的な臨床試験では、16週の時点で発作が完全におさまった方の割合は、コルヒチン抵抗性の家族性地中海熱で61%(偽薬6%)でした[3]。
日本では、カナキヌマブは2016年12月に「既存治療で効果不十分な家族性地中海熱」の効能が承認されています(医薬品リスク管理計画書〔2026年4月提出版〕で2026年10月時点に確認)。治療は、リウマチ・膠原病内科や小児科など専門の医療機関で受けていただきます。当院は治療を行っていませんが、遺伝子の結果を主治医にお伝えしやすい形でご説明します。
寿命とアミロイドーシス:治療を続ける意味
家族性地中海熱で心配されるのは、炎症が長く続くことで、アミロイドAというタンパク質が腎臓などにたまるAAアミロイドーシスです。難病情報センターは、治療をしないで炎症をくり返すとアミロイドーシスにつながることがあるとしています。日本の全国調査では、AAアミロイドーシスが確認されたのは5人(3.7%)でした[1]。
EULARの推奨は、治療の目標を、きっかけのない発作をなくし、発作のない時期の目に見えない炎症もできるだけ小さくすることとし、血清アミロイドAを10mg/L未満に保つことを目安にしています[2]。発作がおさまっても治療を続ける意味は、この見えない炎症を抑えて、将来の合併症を防ぐことにあります。寿命の見通しは、炎症をどれだけ抑えられるかに左右されるため、主治医と相談しながら治療を続けることが大切です。
3. ほかの自己炎症性疾患と原因遺伝子
このパネルには、家族性地中海熱のほかにも、周期的な発熱・皮膚・関節・骨・脳など、さまざまな場所に炎症が起こる病気の遺伝子が入っています。病気によって遺伝のしかたも治療も違うため、どの遺伝子に変化があるかを知ることに意味があります。
周期的な発熱が中心の病気
🔥 周期的な発熱が中心の病気
| 病気 | 遺伝子 | 遺伝のしかた・特徴 |
|---|---|---|
| 家族性地中海熱(指定難病266) | MEFV | 変化を片方だけもつ方も、両方にもつ方もいる。浸透率は高くない(第2章) |
| TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS、指定難病108) | TNFRSF1A | 常染色体顕性(優性)遺伝。浸透率は70〜80%で、家族歴がなくても否定できない。熱は3日〜数週間続くことがある |
| クリオピリン関連周期熱症候群(CAPS、指定難病106) | NLRP3(インフラマソーム/NLRP3) | お子さんに受け継がれる確率は2分の1。じんましんのような発疹を伴い、重い型では髄膜炎・難聴なども |
| 高IgD症候群(メバロン酸キナーゼ欠損症、指定難病267) | MVK | 常染色体潜性(劣性)遺伝。乳児期早期からの周期性発熱。予防接種などがきっかけになることも |
※遺伝のしかた・特徴・指定難病の番号は、難病情報センターの各疾患のページ(2026年10月時点で確認)と厚生労働省の指定難病の一覧による。
カナキヌマブは、日本ではCAPSに2011年9月、TRAPSと高IgD症候群(メバロン酸キナーゼ欠損症)に2016年12月、効能が承認されています(医薬品リスク管理計画書で2026年10月時点に確認)。国際的な臨床試験では、16週の時点で発作が完全におさまった方の割合は、メバロン酸キナーゼ欠損症で35%(偽薬6%)、TRAPSで45%(偽薬8%)でした[3]。どの病気かによって使える治療が違うことが、原因を確かめる意味のひとつです。
皮膚・関節・骨の炎症が中心の病気
熱よりも、皮膚・関節・目・骨の炎症が目立つ自己炎症性疾患もあります。
- ●ブラウ症候群(指定難病110):NOD2遺伝子。常染色体顕性(優性)遺伝で、多くは4歳までに、皮膚の発疹・痛みの少ない関節の腫れ・ぶどう膜炎(目の炎症)が順に現れます(難病情報センター)。
- ●化膿性無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・アクネ症候群(PAPA症候群、指定難病269):PSTPIP1遺伝子。常染色体顕性(優性)遺伝で、周期的な発熱はなく、関節炎・皮膚の潰瘍・重いにきびが特徴です。国内の患者さんは約5人とされています(難病情報センター)。
- ●膿疱性乾癬などの皮膚の炎症:IL36RN・CARD14・AP1S3などの遺伝子が入っています。病気の解説は膿疱性乾癬のページをご覧ください。
- ●骨の炎症など:IL1RN・LPIN2・SH3BP2などの遺伝子も含まれます。ASAH1はファーバー病に関わる遺伝子です。
I型インターフェロンが関わる病気
ウイルスと戦うときに働く「I型インターフェロン」が出続けることで、皮膚・脳・肺などに炎症が起こる病気もあります。エカルディ・グティエール症候群は、TREX1・RNASEH2A・RNASEH2B・RNASEH2C・SAMHD1・ADAR・IFIH1の遺伝子が原因として挙げられています(難病情報センター、指定難病325)。この病気をとくに疑う場合は、エカルディ・グティエール症候群の遺伝子検査もあります。
ほかに、TMEM173(STING)遺伝子によるSAVI(STING関連乳児発症血管症)や、PSMB8遺伝子を主な原因とする中條・西村症候群(指定難病268)があります。中條・西村症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝で、乳児期からのしもやけのような発疹や、顔や腕のやせなどが特徴です。診断基準にはPSMA3・PSMB4・POMPなどの遺伝子も挙げられています(難病情報センター)。
炎症のブレーキが効かない病気
炎症を止める側のタンパク質がうまく働かない病気もあります。A20ハプロ不全症(TNFAIP3遺伝子)は、指定難病325「遺伝性自己炎症疾患」に含まれ、診断には遺伝子検査が必要とされています(難病情報センター)。口内炎や陰部の潰瘍など、ベーチェット病に似た症状が出ることがあり、見分けるうえで遺伝子の結果が手がかりになります。OTULIN・RBCK1・RIPK1も、炎症の調節に関わる遺伝子としてこのパネルに入っています。
そのほかの病気
指定難病325には、NLRC4異常症(NLRC4遺伝子)とADA2欠損症(ADA2遺伝子)も含まれています。NLRC4異常症も、診断に遺伝子検査が必要とされています(難病情報センター)。また、このパネルには、好中球が周期的に減る病気に関わるELANE・HAX1や、PLCG2・WDR1・TRNT1・ELF4・PDCD1などの遺伝子も入っています。好中球の数が減ることが中心の方には、好中球減少症NGS遺伝子パネル検査のほうが向くことがあります。
VEXAS症候群(UBA1)はこのパネルに入っていない
大人になってから、とくに高齢の男性で始まる重い炎症の病気として、VEXAS症候群が2020年に報告されました。報告された25人は全員が男性で、X染色体にあるUBA1遺伝子の変化が、生まれつきではなく大人になってから血液のもとになる細胞に起きていました(体細胞変異)[5]。
UBA1遺伝子は、このパネルの58遺伝子に入っていません。また、このパネルは生まれ持った遺伝子の変化を調べるための検査で、体細胞の変化を見つけるようには作られていません。VEXAS症候群が疑われる場合は、血液内科やリウマチ内科など専門の医療機関でご相談ください。このパネルに入っていないほかの遺伝子については、追加して調べることができます。遺伝カウンセリングのときにご相談ください(カスタマイズ遺伝子パネル検査)。
🧬 このパネルで調べる58遺伝子
58遺伝子の一覧を開く
ACP5, ADA2, ADAM17, ADAR, AP1S3, ASAH1, CARD14, COPA, DDX58, ELANE, ELF4, HAX1, HTR1A, IFIH1, IL10RA, IL10RB, IL1RN, IL36RN, ISG15, LPIN2, MEFV, MVK, NLRC4, NLRP1, NLRP12, NLRP3, NOD2, OTULIN, PDCD1, PIK3CD, PIK3R1, PLCG2, POLA1, POMP, PRG4, PRKCD, PSENEN, PSMA3, PSMB4, PSMB8, PSMG2, PSTPIP1, RBCK1, RIPK1, RNASEH2A, RNASEH2B, RNASEH2C, SAMHD1, SH3BP2, SLC29A3, TMEM173, TNFAIP3, TNFRSF11A, TNFRSF1A, TREX1, TRNT1, USP18, WDR1(58遺伝子)
※遺伝子名のリンクは、当院の遺伝子解説ページがあるもの。
4. どんな人が受けるとよいか
くり返す発熱や炎症の原因がわからない方、家族性地中海熱などが疑われるのに診断がつかない方、ご家族に自己炎症性疾患の方がいる方に向く検査です。
受けるとよい場面
- ●感染症などの原因が見つからないまま、発熱や炎症を何度もくり返している方(子ども・大人とも)
- ●家族性地中海熱が疑われるが、症状が典型的ではなく診断がつかない方
- ●コルヒチンなどの治療が効きにくく、ほかの自己炎症性疾患がないか確かめたい方
- ●ご家族に自己炎症性疾患と診断された方がいて、ご自身やお子さんのことを知りたい方
症状だけでは、どの病気かをしぼりきれないことがよくあります。原因がわかると、受けるべき検査や使える治療・制度が決まります。原因がわからないまま病院を回る時間を、1回の検査で短くできる可能性があります。ただし、全員に原因が見つかるわけではありません(第5章)。
PFAPA・感染症・成人スチル病など、遺伝子検査より先に考えること
子どもの周期性発熱でいちばんよく知られているのが、PFAPA症候群(周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・頸部リンパ節炎)です。PFAPAは、1つの遺伝子で決まる病気とは考えられていません。231人のPFAPAの方を調べた研究では、IL12A・STAT4・IL10・CCR1〜CCR3の近くなど、よくある遺伝子の違いがいくつも病気のなりやすさに関わっていることが示されました[6]。PFAPAは国際的な分類の基準でも、遺伝子ではなく症状で分類されます[4]。PFAPAが典型的にあてはまる場合は、このパネル検査が必要にならないことも多いので、まず小児科の主治医とご相談ください。
また、くり返す発熱は、感染症・腫瘍・成人スチル病・ほかの膠原病などでも起こります。これらの検査を主治医のもとで進めたうえで、それでも原因がわからない場合や、自己炎症性疾患が疑われる場合に、この検査を考えます。
症状・検査の結果から、どのパネルを選ぶか
🔍 症状に合わせた検査の選び方
| こんなとき | 向いている検査 |
|---|---|
| 感染症がないのに、発熱・腹痛・胸の痛み・発疹・関節炎をくり返す | このページの自己炎症性症候群パネル(58遺伝子) |
| 細菌やウイルスの感染症を何度もくり返す、重くなりやすい | 包括的原発性免疫不全症NGSパネル遺伝子検査 |
| 小さいころから治りにくい重い腸炎がある | 炎症性腸疾患NGS遺伝子パネル検査(このパネルにもIL10RA・IL10RBが入っています) |
| 好中球の数が減ることが中心 | 好中球減少症NGS遺伝子パネル検査 |
| 乳児期からの脳の症状(けいれん・発達の遅れ)と皮膚の症状 | エカルディ・グティエール症候群遺伝子検査 |
| 症状が広く、病気をしぼれない | 全エクソーム検査(WES) |
※どの検査が合うかは、症状・これまでの検査結果・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に考えます。
\ 病名がわかると、選べる治療が変わることがあります /
58遺伝子をまとめて調べ、結果は臨床遺伝専門医が主治医にお伝えしやすい形でご説明します。
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、58遺伝子の、タンパク質の設計図になる部分とその境目にある小さな変化(1つの文字の変化や、短い挿入・欠失)と、遺伝子のまとまった欠失・重複です。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。一方で、遺伝子検査には限界があります。
- ●遺伝子の結果だけで診断は決まりません:MEFVのように、病気との結びつきが弱い変化がある遺伝子では、症状や治療への反応と合わせて判断します(第2章)。
- ●体の一部の細胞にだけある変化(モザイク)・体細胞の変化:この検査は、こうした変化を見つけるようには作られていません。VEXAS症候群のような体細胞の変化による病気は、この検査では調べられません。
- ●見つけにくい変化:染色体の一部の入れかわり(転座・逆位)、繰り返し配列の伸長、遺伝子のスイッチの部分や、設計図から離れた場所の変化は調べられません。1つのエクソンだけの小さな欠失・重複は、見つからないことがあります。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、まだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:日本の家族性地中海熱の全国調査でも、13.5%の方ではMEFVの変化が見つかりませんでした[1]。原因が見つからなくても、自己炎症性疾患ではないとは言い切れません。
6. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。結果の報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
病気の原因となる変化が見つかったとき
病名がはっきりすると、どの治療が選べるか、何に気をつけて見張るかが決まります。指定難病の申請で遺伝子検査の結果が必要になる病気もあります(第8章)。結果は、主治医にお伝えしやすい形でご説明します。くわしくは第7章でお伝えします。
原因が見つからなかったとき
原因が見つからなくても、自己炎症性疾患ではないとは言い切れません(第5章)。家族性地中海熱では、遺伝子の変化がなくても、症状とコルヒチンへの反応で診断されることがあります(難病情報センター)。症状によっては、全エクソーム検査(WES)などの広い検査を考えることもあります。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断を確定したり、ご家族の発症リスクを判断したりする根拠にはしません。ただし、病的意義を評価するために、ご家族の検査を検討する場合があります。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合(二次的所見)の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
7. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因がわかったあとにできることは、ご本人の治療の選び方、ご家族の検査、結婚・妊娠の計画の3つに分けて考えられます。どれを選ぶかは、ご本人とご家族が決めることです。当院は、知ったうえで選べるようにお手伝いします。
ご本人:治療の選び方と、アミロイドーシスの見張り
病気がわかると、コルヒチン、IL-1βを抑える薬など、病気に合った治療を主治医と選べます(第2章・第3章)。家族性地中海熱などでは、発作がないときの見えない炎症を、CRPや血清アミロイドAで定期的に確かめることが、アミロイドーシスを防ぐことにつながります[2]。治療と経過の見張りは、リウマチ・膠原病内科や小児科など専門の医療機関で受けていただきます。
ご家族:きょうだい・お子さんの検査
ご本人で原因の変化がわかると、ご家族は同じ場所をピンポイントで調べて、受け継いでいるかを確かめられます。常染色体顕性(優性)遺伝の病気(TRAPS・CAPS・ブラウ症候群・PAPA症候群など)では、お子さん1人あたり2分の1の確率で変化を受け継ぎます。常染色体潜性(劣性)遺伝の病気(高IgD症候群・中條・西村症候群など)では、ご両親が同じ病気の原因となる遺伝子の病的な変化をそれぞれ1つずつもつ場合、お子さん1人あたり4分の1の確率で発症します。
ただし、TRAPSのように浸透率が70〜80%の病気では、変化を受け継いでも発症しない方がいます(難病情報センター)。家族性地中海熱は、変化を片方だけもつ方にも発症する方がいるなど、遺伝のしかたが単純ではありません。ご家族の確率は、見つかった変化と家系の情報をもとに、遺伝カウンセリングで一緒に考えます。症状のないご家族の検査は、ご本人の同意のうえで行います。
結婚・妊娠を考えるとき
結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。妊娠の前に、ご自身とパートナーが同じ遺伝子の変化をもっているかを知っておくと、選べることが増えます。潜性遺伝の病気では、パートナーの拡大版保因者スクリーニング(女性版787遺伝子)や男性版714遺伝子が手がかりになります。女性版787遺伝子の一覧には、MEFVとMVKが入っています(男性版の対象は一覧でご確認ください)。
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断しますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。もちろん、何もせずに妊娠・出産を迎えることも、そのまま選べる選択肢です。
当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、次に何ができるかを一緒に考えます。ご家族の検査、パートナーの保因者検査、妊娠したときの出生前診断まで、当院で続けてご相談いただけます。遺伝カウンセリング料は、30分22,000円(税込)です(出生前診断に関する遺伝カウンセリングは30分33,000円〔税込〕)。
8. 日本の制度(2026年10月時点)
「周期性発熱症候群」という名前の指定難病はありませんが、その中に含まれる自己炎症性疾患の多くは、指定難病になっています。
🏥 自己炎症性疾患の指定難病
| 番号 | 病名 |
|---|---|
| 106 | クリオピリン関連周期熱症候群 |
| 108 | TNF受容体関連周期性症候群 |
| 110 | ブラウ症候群 |
| 266 | 家族性地中海熱 |
| 267 | 高IgD症候群 |
| 268 | 中條・西村症候群 |
| 269 | 化膿性無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・アクネ症候群 |
| 270 | 慢性再発性多発性骨髄炎 |
| 325 | 遺伝性自己炎症疾患(NLRC4異常症・ADA2欠損症・エカルディ・グティエール症候群・A20ハプロ不全症) |
※難病情報センターの各疾患のページと告示番号順の一覧、厚生労働省の指定難病の一覧による(2026年10月時点で確認)。PFAPA症候群は、この表の指定難病には含まれていません。
家族性地中海熱の医療費の助成の対象は、典型的な家族性地中海熱と、遺伝子の結果で確定した家族性地中海熱で、非典型的な場合は対象外とされています。さらに、コルヒチンが効かないか飲めず年4回以上の発作がある場合、またはアミロイドーシスがある場合が、助成の重症度の基準とされています(難病情報センター)。指定難病325のうち、NLRC4異常症とA20ハプロ不全症は、診断に遺伝子検査が必要とされています。医療費の助成を受けるには、認定の条件を満たして申請する必要があります。くわしくは難病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは3〜5週間、検体は口腔粘膜スワブまたは血液です。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
💴 費用・日数・検体
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 検査内容 | 自己炎症性疾患に関わる58遺伝子(配列の解析と、欠失・重複の解析) |
| 検体 | 口腔粘膜スワブ、血液 |
| 結果までの期間 | 3〜5週間 |
| 検査費用 | 330,000円(税込) |
| 遺伝カウンセリング料 | 30分22,000円(税込)※検査費用とは別 |
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
\ 人生に一度の遺伝子検査を、ご家族とこれからの計画に /
臨床遺伝専門医が常駐し、結果も臨床遺伝専門医が直接ご説明してからマイページにアップします。
10. 院長コラム
🩺 院長コラム【遺伝子の結果は「答え」ではなく、次の一手を決める材料】
くり返す熱は、ご本人の生活を何年にもわたって振り回します。学校や仕事を休みがちになり、検査をしても「異常なし」と言われ続ける。原因がわからないこと自体が、大きな負担になります。自己炎症性疾患は、原因がわかると、コルヒチンやIL-1βを抑える薬など、病気に合った治療を選べる病気が多いのが特徴です。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。
一方で、この分野の遺伝子検査ほど、結果を慎重に読む必要があるものはありません。家族性地中海熱のMEFV遺伝子のように、健康な人にもよくある変化と、病気に強く結びつく変化が混ざっている遺伝子があるからです。遺伝子の結果を「答え」として扱わず、症状・炎症の経過・治療への反応と合わせて読むこと。それが臨床遺伝専門医の役割だと考えています。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、出生前診断まで当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 家族性地中海熱は遺伝しますか?
家族性地中海熱にはMEFV遺伝子が関わりますが、遺伝のしかたは単純ではありません。MEFVの変化をもっていても発症しない方がいる一方で、変化を片方だけもつ方や、変化が見つからない方にも発症する方がいます。ご家族の確率は、見つかった変化と家系の情報をもとに、遺伝カウンセリングで一緒に考えます。
Q2. MEFVに変化があれば家族性地中海熱ですか?
それだけでは決まりません。日本の診断基準では、エクソン10のM694I・M680I・M694V・V726Aなどの変化は診断の確定に使われますが、E148QやR202Qなどの変化は、コルヒチンが効くかどうかなどと合わせて判断します。症状や炎症の所見がなく遺伝子の結果だけがある場合は、必ずしも治療を始める理由にはならないとされています。
Q3. 遺伝子に異常がなくても家族性地中海熱のことはありますか?
あります。日本の全国調査では、遺伝子を調べた家族性地中海熱の方のうち13.5%で、MEFVの変化が見つかりませんでした。日本の診断基準でも、遺伝子の変化がなくても、症状とコルヒチンへの反応で家族性地中海熱と判断される場合があります。
Q4. PFAPA症候群も遺伝子検査でわかりますか?
PFAPA症候群は、1つの遺伝子で決まる病気とは考えられておらず、症状で診断します。研究では、よくある遺伝子の違いがいくつも病気のなりやすさに関わっていることが示されています。PFAPAが典型的にあてはまる場合は、このパネル検査が必要にならないことも多いため、まず主治医とご相談ください。
Q5. 家族性地中海熱の遺伝子検査の費用は?
当院の自己炎症性症候群パネル(58遺伝子)は、MEFVを含めて330,000円(税込)です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。結果までは3〜5週間です。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
Q6. 大人になってからの周期性発熱でも受けられますか?
受けられます。日本の家族性地中海熱の全国調査では、初めての発作が20歳を過ぎてからだった方が37.3%いました。ただし、大人のくり返す発熱には感染症や膠原病などほかの原因も多いため、主治医のもとでの検査とあわせて考えます。
Q7. 周期性発熱症候群は指定難病ですか?
「周期性発熱症候群」という名前の指定難病はありませんが、家族性地中海熱(266)、TNF受容体関連周期性症候群(108)、クリオピリン関連周期熱症候群(106)、高IgD症候群(267)などが指定難病になっています(2026年10月時点)。PFAPA症候群は、これらの指定難病には含まれていません。助成を受けるには、認定の条件を満たして申請する必要があります。
Q8. VEXAS症候群など、パネルにない遺伝子も調べられますか?
パネルに入っていない遺伝子は、追加して調べることができます。遺伝カウンセリングのときにご相談ください。ただし、VEXAS症候群は、大人になってから血液の細胞に起きるUBA1遺伝子の変化(体細胞変異)による病気で、生まれ持った変化を調べるこの検査には向きません。疑われる場合は、専門の医療機関でご相談ください。
🧬 くり返す発熱の原因を知って、次の一手を決める
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。自己炎症性疾患の原因がわかれば、専門の医療機関での治療の選び方だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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