目次
つわり(悪阻)は、妊娠の初期に起こる吐き気・嘔吐・食欲の低下・においへの過敏などの症状をまとめた呼び名です。「悪阻」は「つわり」とも「おそ」とも読みます。妊娠した人の半数以上が経験し、多くは妊娠9週より前に始まり、20週ごろまでにおさまります。ただし、食べることも飲むこともできず日常生活が大きく制限される重いものは「妊娠悪阻(にんしんおそ)」と呼ばれ、治療の対象になります。この記事では、つわりの意味と読み方、症状と5つの種類、原因の仕組みを整理したうえで、近年わかってきた「重いつわりと遺伝の関係」を臨床遺伝専門医の立場から解説します。
Q. つわり(悪阻)とは何ですか?
A. 妊娠初期に起こる吐き気・嘔吐などの消化器症状の総称で、医学用語では「悪阻(おそ)」と書きます。妊娠した人の50〜80%が経験し、ほとんどは妊娠9週より前に始まります。つわりそのものは病気ではありませんが、体重が減る・水分がとれないほど重いものは「妊娠悪阻」として治療されます。重いつわりには、胎児と胎盤がつくるホルモンGDF15と、それに対する母体側の敏感さ(体質)が深く関わることがわかってきました。
- ➤読み方 → 「悪阻」は「つわり」「おそ」の両方。「妊娠悪阻」は「にんしんおそ」と読み、重症のものを指す
- ➤種類 → 吐きづわり・食べづわり・においづわり・よだれづわり・眠りづわり(重なることが多い)
- ➤原因 → 胎盤由来のホルモンが中心。「気の持ちよう」やストレスが原因ではない
- ➤遺伝 → 重いつわりは母から娘へ繰り返されやすく、GDF15遺伝子との関係が報告されている
- ➤受診の目安 → 水分がとれない・尿が減る・体重が5%以上減ったときは、かかりつけの産婦人科へ
1. つわり(悪阻)とは?読み方と意味
つわりとは、妊娠の初期に起こる吐き気、嘔吐、食欲の低下、においや食べ物の好みの変化などの症状をまとめた呼び名です。英語では nausea and vomiting of pregnancy(NVP)と呼ばれ、朝に強いことが多いため morning sickness という言い方も広く使われています。ただし実際には、朝に限らず一日中続いたり、夕方や夜に強くなったりする人も少なくありません。
つわりは、妊娠という体の変化に伴って起こるもので、それ自体は病気ではありません。一方で、症状の重さには大きな個人差があり、ほとんど気にならない人もいれば、仕事や家事ができなくなる人、入院して点滴が必要になる人もいます。「みんな経験することだから我慢するもの」と片づけられがちですが、重い場合は治療の対象になるという点を、最初に押さえておいてください。
「悪阻」は「つわり」とも「おそ」とも読む
「悪阻」は、「つわり」とも「おそ」とも読みます。「つわり」はもともと日本語の言葉で、「悪阻」という漢字はそれに当てた書き方です。一方、「おそ」は漢字の音読みで、医学用語として使われてきました。辞書でも、どちらの読みも「つわり」の意味として載っています。
使い分けとしては、日常会話や一般向けの説明では「つわり」とひらがなで書くことが多く、「悪阻」と漢字で書くのは主に医療の文書です。とくに「妊娠悪阻」と書いた場合は「にんしんおそ」と読み、つわりの中でも重症のものを指す医学用語になります。インターネットで「悪祖」と書かれているのを見かけることがありますが、正しくは「阻(はばむ)」の字を使った「悪阻」です。
つわりと妊娠悪阻(にんしんおそ)の違い
つわりと妊娠悪阻の違いは、「食べる・飲むことができ、日常生活がなんとか送れているか」です。米国産婦人科学会(ACOG)の2018年の診療指針では、妊娠悪阻をほかの原因で説明できない持続的な嘔吐があり、妊娠前の体重から5%以上の体重減少を伴い、通常は尿中に多量のケトン体(後述)が出ている状態としていました[1]。
2021年には、研究者・医療者・当事者が参加した国際的な合意として「ウィンザー定義」が発表されました。そこでは、妊娠16週より前に始まり、強い吐き気や嘔吐があり、普段どおりに食べたり飲んだりできず、日常生活が強く制限されることを必須の条件とし、脱水の徴候を補助的な所見としています[2]。体重の数字だけで線を引くのではなく、生活への影響を重視しているのが特徴です。治療や入院の目安は妊娠悪阻の解説で詳しく扱っています。
💡 用語解説:ケトン体
ケトン体は、体がブドウ糖(糖分)を十分に使えないときに、脂肪を分解してエネルギーにする過程でできる物質です。食事がとれない状態が続くと血液や尿の中で増えるため、尿検査でケトン体が強く出ていることは、栄養と水分が足りていないサインとして妊娠悪阻の評価に使われます。
つわりはどのくらいの人に起こる?
つわりは、妊娠した人の50〜80%が経験すると報告されています[1]。世界の研究をまとめたメタ解析(複数の研究を統合して分析する方法)では、79件の研究を合わせた平均の頻度は69.4%で、研究ごとに35%から91%まで幅がありました[3]。数字に幅があるのは、どこまでを「つわり」と数えるかの定義や、調べた国・時代が研究ごとに違うためです。
一方、重症の妊娠悪阻は、ACOGでは妊娠の0.3〜3%とされ[1]、同じメタ解析では平均1.1%(地域により0.3〜3.6%)でした[3]。裏を返すと、つわりをほとんど感じない人も一定の割合でいます。つわりがないことは異常ではなく、詳しくはつわりがない人についての解説で取り上げています。
2. つわりの症状一覧
つわりの症状は、吐き気や嘔吐だけではありません。胃のむかつき、食欲の低下、においへの過敏、唾液の増加、強い眠気やだるさ、胸やけ、頭痛など、さまざまな形で現れます。「つわりってどんな感じ?」と聞かれると、二日酔いや乗り物酔いが一日中続くような感覚と表現する人が多いのですが、感じ方は人によって大きく違います。
🤰 つわりでよくみられる症状
| 症状 | よくある現れ方 | メモ |
|---|---|---|
| 吐き気・むかつき | 空腹時や朝起きたとき、夕方に強くなりやすい | もっとも多い症状 |
| 嘔吐 | 食後や歯みがきのとき、においをきっかけに吐く | 水分も吐く日が続くときは受診を検討 |
| 食欲の低下・好みの変化 | 好きだったものが食べられない、特定のものだけ食べたい | 体重が少し減ることもある |
| においへの過敏 | 炊飯、油、香水、たばこなどのにおいで気分が悪くなる | においづわりと呼ばれる |
| 唾液が増える | 唾液を飲み込むと気持ち悪く、吐き出したくなる | よだれづわり(流涎) |
| 眠気・だるさ | 寝ても眠い、体が重い | 眠りづわりと呼ばれる |
| 胸やけ・頭痛・めまい | 食後の胸やけ、空腹時のふらつき | 脱水や低血糖が関わることも |
※症状の出方には大きな個人差があります。ここに挙げた症状が妊娠以外の原因で起きていることもあります。
つわりの症状の中で注意しておきたいのは、「妊娠9週を過ぎてから初めて吐き気が出てきた場合」です。ACOGの診療指針は、つわりはほぼすべての人で妊娠9週より前に始まるとし、9週以降に初めて吐き気や嘔吐が出てきたときは、胃腸炎や胆のう・肝臓の病気、甲状腺の病気など、ほかの原因も考えるべきだとしています[1]。発熱や強い腹痛、下痢を伴う場合も同様です。
また、つわりの症状は妊娠に気づく前から出ることがあり、「生理前の不調と区別がつかない」という人もいます。妊娠のごく初期の体の変化については、妊娠超初期の症状でまとめています。
3. つわりの種類(5タイプ)
つわりは、症状の出方によって「吐きづわり」「食べづわり」「においづわり」「よだれづわり」「眠りづわり」の5つに分けて呼ばれることが多いです。これは医学的な診断名ではなく、症状の特徴をわかりやすく表すための呼び方です。実際には1つだけということは少なく、いくつかが重なったり、時期によって入れ替わったりします。
吐きづわり
吐きづわりは、吐き気が強く、実際に嘔吐してしまうタイプのつわりです。「嘔吐つわり」と呼ばれることもあります。食べたものを吐いてしまうだけでなく、空腹時に胃液を吐く、歯みがきやにおいをきっかけに吐く、といった形もあります。
吐きづわりで気をつけたいのは、水分まで吐いてしまう日が続く場合です。体の水分と電解質(ナトリウムやカリウムなど)が失われると、尿が減る、口が渇く、立ちくらみがするといった脱水の症状が出てきます。この段階になると、つわりの範囲を超えて妊娠悪阻に近づいている可能性があります。少量の水分でも口にできているか、尿がいつもどおり出ているかが、ひとつの目安になります。
食べづわり:空腹で気持ち悪くなるのはなぜ
食べづわりは、おなかが空くと気持ち悪くなり、何か食べていると落ち着くタイプのつわりです。吐きづわりとは逆に見えますが、胃が空っぽの状態で吐き気が強まるという点では共通しています。
空腹で気持ち悪くなる仕組みは完全にはわかっていませんが、妊娠初期には胃の動きがゆっくりになり、胃酸の刺激や血糖値の低下を吐き気として感じやすくなると考えられています。そのため、少量をこまめに食べる方法が楽になることが多いのです。一方で、食べ続けることで体重が増えすぎることを心配する人もいます。食べやすいものの選び方や工夫は、つわり中に食べやすいもので詳しく紹介しています。
においづわり
においづわりは、特定のにおいで気分が悪くなるタイプのつわりです。ご飯が炊けるにおい、揚げ物の油、香水や柔軟剤、たばこ、冷蔵庫のにおいなどがきっかけとしてよく挙がります。妊娠前は好きだったにおいが急に苦手になることもあります。
妊娠中ににおいに敏感になる理由ははっきりしていませんが、においの感じ方と吐き気は脳の中で近い場所で処理されているため、においが吐き気の引き金になりやすいと考えられています。苦手なにおいを避ける工夫や、マスク・換気などの対策は、つわりの対策(ツボ・バンド・においの対策)で扱っています。
よだれづわり
よだれづわりは、唾液が増えたように感じ、飲み込むと気持ち悪くなるタイプのつわりです。医学用語では流涎(りゅうぜん)または唾液過多と呼ばれ、妊娠悪阻に伴う症状のひとつとしても知られています[4]。
唾液の量そのものが増える場合と、吐き気のために唾液を飲み込めず、口の中にたまっているように感じる場合があると考えられています。ティッシュやタオルを手元に置いて吐き出してしまうのも、ひとつの対処法です。なお、「よだれづわりがあると赤ちゃんがダウン症」という噂がありますが、根拠はありません。この噂についてはつわりやよだれつわりとダウン症の噂で検証しています。
眠りづわり
眠りづわりは、強い眠気やだるさが続くタイプのつわりです。夜に十分眠っても日中に眠くてたまらない、体が重くて起き上がれない、といった形で現れます。吐き気がそれほど強くなくても、仕事や家事に支障が出ることがあります。
妊娠初期に増えるプロゲステロン(黄体ホルモン)には眠気を起こす作用があるとされ、これが関わっていると考えられています。眠りづわりは周りから「怠けている」と見られやすいのですが、妊娠に伴う体の変化です。職場での伝え方や働き方の工夫は、つわりと仕事でまとめています。
種類は重なり、日や時間帯で変わる
つわりの種類はきっちり分かれるものではなく、重なったり、日によって変わったりするのが普通です。「朝は吐きづわりで、夕方は食べづわり」「先週はにおいがつらかったのに、今週は眠気がひどい」ということもよくあります。
つわりに波があるのは、ホルモンの量が日々変動していること、空腹の度合いや睡眠、疲れ具合が症状に影響することなどが理由と考えられています。夕方や夜に悪化しやすいのは、一日の疲れがたまり、食事の間隔が空きやすい時間帯だからだと説明されることが多いです。昨日より楽になったからといって何か異常が起きたわけではなく、逆にひどくなったからといって悪いことの前触れでもありません。始まり方や波、ピークの時期についてはつわりの時期(いつから・ピーク・いつまで)で詳しく解説しています。
4. つわりはなぜ起こる?原因と仕組み
つわりの原因は、妊娠によって胎盤から分泌されるホルモンが中心だと考えられています。長いあいだ、はっきりした原因がわからないとされてきましたが、ここ数年の研究で大きく理解が進みました。この章では、昔から考えられてきたホルモンの関わりを整理し、次の章で最新の研究を紹介します。
hCGとの関係:ピークは重なるが、それだけでは説明できない
つわりの原因として最も長く注目されてきたのが、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)です。hCGは受精卵が着床した後、のちに胎盤になる絨毛という組織から分泌されるホルモンで、妊娠検査薬が反応するのもこのホルモンです。hCGは妊娠初期に急速に増え、つわりが強くなる時期と増え方が重なることから、つわりの原因と考えられてきました。
英国の前向き研究(妊娠を目指している段階から追いかけた研究)では、ほとんどの人で排卵から8〜10日以内にhCGの上昇が確認され、つわりはその後、排卵から11〜20日目の狭い期間に始まっていました[5]。hCGが増えたあとにつわりが始まるという順番は、hCGの関与を支持する所見です。また、双子の妊娠や胞状奇胎(胎盤のもとになる組織が異常に増える病気)のようにhCGが高くなる状態で、つわりが重くなりやすいことも知られています[1]。
ただし、hCGの値とつわりの重さは、個人ごとに見ると一致しないことが多く、hCGが高いのにつわりが軽い人もいれば、その逆の人もいます。hCGはつわりの「舞台」をつくっているものの、重さの個人差を決めている主役は別にある、というのが現在の理解です。なお、hCGは甲状腺を刺激する作用も持つため、重いつわりでは一時的に甲状腺ホルモンが高くなる「妊娠一過性甲状腺機能亢進症」がみられることがあり、多くは治療しなくても妊娠中期までに落ち着きます[1]。妊娠と甲状腺の関係は妊娠と甲状腺疾患の関係で解説しています。
エストロゲン・プロゲステロンと胃腸の動き
妊娠中に増えるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)も、つわりの症状に関わると考えられています。プロゲステロンには、子宮の筋肉をゆるめて妊娠を保つ働きがありますが、同時に胃や腸の筋肉もゆるめるため、食べたものが胃にとどまる時間が長くなります。胃もたれ、胸やけ、便秘が妊娠初期に起こりやすいのはこのためです。
こうしたホルモンの変化は、つわりの「感じ方」を強める要素ではありますが、すべての妊婦さんで起こる変化なので、これだけでは「なぜ人によって重さがこれほど違うのか」を説明できません。その答えに近づいたのが、次の章で紹介するGDF15の研究です。
「ストレスや気の持ちよう」が原因ではない
つわりや妊娠悪阻は、ストレスや「気の持ちよう」で起こるものではありません。かつては、妊娠を受け入れられない気持ちや精神的な問題が重いつわりの原因だという説が語られ、患者さんが「気持ちの問題」と扱われることもありました。しかしACOGの診療指針は、つわりと精神疾患を結びつける根拠は「せいぜい疑わしい」と述べています[1]。つわりと妊娠悪阻を総説した論文も、心理的な原因を支持する科学的根拠はないとし、遺伝や胎盤の要因を挙げています[4]。
もちろん、つわりが続くことで気分が落ち込んだり不安が強くなったりするのは自然なことで、その結果として心のケアが必要になることはあります。けれども、それは「心が原因でつわりが起きている」こととは違います。つらさを本人の我慢や性格のせいにしないことが大切です。
5. 遺伝の視点:重いつわりを決めるGDF15と母体の体質
重いつわりは、胎児と胎盤がつくるホルモン「GDF15」の量と、それに対する母体の敏感さの組み合わせで決まる、ということが近年の研究でわかってきました。そして母体の敏感さには、生まれつきの遺伝的な体質が関わっています。ここは「遺伝」を専門にする立場から、少し丁寧に説明します。
GDF15とは:脳幹に働いて吐き気と食欲低下を起こすホルモン
GDF15(増殖分化因子15)は、脳幹に働きかけて吐き気と食欲の低下を引き起こすホルモンです。体重や食欲の調節に関わり、がんの患者さんで食欲がなくなり痩せていく「悪液質(あくえきしつ)」に関与する物質のひとつであることもわかっています。そして、体の中でGDF15が最も多くつくられている場所のひとつが、胎盤の栄養膜細胞(トロホブラスト)です[6]。
GDF15が最初に妊娠悪阻と結びついたのは、2018年に発表されたゲノムワイド関連解析(GWAS)です。遺伝子検査サービスの利用者で研究参加に同意した女性のデータを使い、妊娠悪阻やつわりの重さと関係するゲノム上の場所を探したところ、GDF15遺伝子のある19番染色体の領域と、IGFBP7遺伝子のある4番染色体の領域が強く関連していました。この結果は別の集団でも再現されています[6]。同じ論文は、双子の研究などから、つわりの有無に遺伝が関わる割合(遺伝率)は最大で73%と見積もられていることも紹介しています[6]。
💡 用語解説:GDF15とGFRAL
GDF15(growth differentiation factor 15、増殖分化因子15)は、TGF-βスーパーファミリーという仲間に属するたんぱく質で、ホルモンのように血液に乗って全身に運ばれます。脳幹にある受容体GFRAL(ジーエフラル)に結合すると、吐き気や食欲の低下が起こります。妊娠中は胎盤で大量につくられるため、母体の血液中の濃度が大きく上がります。
母体の血液中のGDF15は、ほとんどが胎児・胎盤由来
2024年に英科学誌Natureに発表された研究は、妊娠中の母体の血液に含まれるGDF15の大部分が、母親自身ではなく胎児・胎盤でつくられたものであることを示しました[7]。研究グループは、母親と胎児で配列がわずかに異なるGDF15を質量分析という方法で見分け、どちらがつくったものかを調べました。そのうえで、母体血中のGDF15が高いほど嘔吐や妊娠悪阻が多いことも確認しています[7]。
胎児や胎盤に由来する物質が母体の血液に流れ込んでいるという事実は、実は出生前検査の分野ではおなじみのものです。NIPT(新型出生前診断)は、胎盤から母体の血液に流れ込んだ胎児由来のセルフリーDNAを調べることで、赤ちゃんの染色体の状態を推定します。つわりの主役であるGDF15も、同じように胎盤から母体へ届けられている、ということになります。
妊娠前に低い人ほど敏感になる:「慣れ」の仕組みとβサラセミア
同じ研究のもうひとつの重要な発見は、妊娠前からGDF15にさらされている量が少ない人ほど、妊娠して急に増えたGDF15に敏感に反応してしまうということです[7]。マウスの実験では、あらかじめGDF15が高い状態にしておくと、その後にGDF15を投与しても食欲がそれほど落ちず、反応が鈍くなる(脱感作される)ことが示されました。
この「慣れ」の仕組みを人で裏づけたのが、βサラセミアの女性のデータです。βサラセミアは、赤血球のヘモグロビンをうまくつくれない遺伝性の貧血で、この病気の人は普段からGDF15が慢性的に高い状態にあります。研究では、βサラセミアの女性は妊娠中の吐き気や嘔吐が非常に少ないと報告されていました[7]。妊娠前から高いGDF15に慣れているため、妊娠で増えても反応しにくいと考えられています。
反対に、妊娠悪阻のなりやすさと関係する、まれなGDF15遺伝子のバリアント(C211G)を持つ人では、妊娠していないときのGDF15の分泌が低いことがわかりました[7]。普段のGDF15が少ないために慣れが生じておらず、妊娠で一気に増えたGDF15に強く反応してしまう、という説明が成り立ちます。研究グループは、母体の敏感さは妊娠前にどれだけGDF15にさらされていたかで一部決まり、それがつわりの重さを大きく左右すると結論づけています[7]。
💡 用語解説:脱感作(だつかんさ)
脱感作とは、ある物質に長くさらされているうちに、受け取る側の反応が鈍くなる現象です。受容体の数が減ったり、受容体から先の信号が弱まったりすることで起こります。GDF15の場合、普段から濃度が高いとGDF15への反応が鈍くなる可能性があり、妊娠で増えても吐き気が起こりにくくなると考えられています。
母と胎児の遺伝子型の組み合わせで重さが変わる
GDF15の研究から見えてきたのは、つわりの重さが母親の遺伝子だけでなく、胎児の遺伝子との組み合わせで変わりうるということです。人は両親から1つずつ、計2つのGDF15遺伝子を受け継いでいます。この2つの対立遺伝子(アレル)のうち、GDF15を少なくするバリアントを母親が持っていると、妊娠前のGDF15が低いため、妊娠中のGDF15の上昇に敏感になります。
ところが、同じバリアントを胎児が受け継いだ場合は、胎児・胎盤がつくるGDF15も少なくなるため、つわりはかえって軽くなる方向に働くと説明されています[8]。つまり、「母親はGDF15を少なくするバリアントを持ち、胎児は持っていない」という組み合わせが、最もつわりが重くなりやすいことになります。同じ母親でも、妊娠ごとにつわりの重さが違うことがあるのは、胎児が母親のどちらのアレルを受け継いだか、父親からどんなアレルを受け継いだかが妊娠ごとに異なることで、一部説明できるかもしれません。
なお、GDF15の近くにある、集団の中でよくみられるタイプのバリアント(SNP(一塩基多型))も、妊娠悪阻のなりやすさと関連しています[7]。1つのバリアントで決まるというより、まれなバリアントとありふれたバリアント、胎児側の要因、hCGなどほかのホルモンが重なり合って、一人ひとりのつわりの重さが決まると考えるのが自然です。
重いつわりは家族内で起こりやすい(母娘・姉妹)
重いつわりは、母から娘へと繰り返されやすいことが、大規模な調査で確かめられています。ノルウェーの出生登録を使った研究では、母親が妊娠悪阻だった妊娠で生まれた娘は、自分が妊娠したときに妊娠悪阻になる割合が3%で、そうでない娘の1.1%と比べて約2.9倍でした[9]。
興味深いのは、同じ条件で生まれた息子のパートナー(その息子の子どもを妊娠した女性)では、妊娠悪阻は増えていなかったことです[9]。息子が受け継いだ体質は、パートナーの妊娠では「胎児側」にしか関わりません。娘でだけリスクが上がったことから、研究者たちは、妊娠悪阻のなりやすさには胎児側の遺伝子より母親側の遺伝子のほうが強く関わると結論づけています。これは、前の項目で紹介した「母体の敏感さ」という考え方とよく一致します。
また、同じ人の次の妊娠でも繰り返しやすく、ACOGは、ある妊娠で重いつわりがあった人のおよそ3分の2が、次の妊娠でも同じくらいの重さになると述べています[1]。母親や姉妹が重いつわりを経験している人、前回の妊娠で妊娠悪阻だった人は、早めにかかりつけの産婦人科にそのことを伝えておくと、対応の準備がしやすくなります。
🩺 院長コラム【「気持ちの問題」と言われてきたつわり】
重いつわりは長いあいだ、「妊娠を受け入れられない気持ちの表れ」などと説明されてきました。母から娘へ繰り返されることも、かつては「育ち方」や「親の態度」で語られがちでした。けれども、家系内で集まりやすいことと、GDF15という具体的な分子が見つかったことを重ねると、これは遺伝的な体質の問題として理解するほうが筋が通ります。
臨床遺伝専門医として、遺伝が関わると分かることには大きな意味があると考えています。原因が本人の我慢や性格ではなく、体質と胎盤のホルモンにあると分かれば、つらさを責められる理由はなくなります。そして家族歴があるなら、次の妊娠や娘さんの妊娠で早めに備えることもできます。
遺伝子検査でつわりの重さは予測できる?
現時点では、つわりの重さを予測する目的の遺伝子検査は、診療として確立していません。GDF15の研究は大きな前進ですが、ここまで紹介した関係は集団を比べた結果であり、一人ひとりの妊娠でつわりがどのくらい重くなるかを、遺伝子の結果から言い当てられる段階にはありません。母親と胎児の組み合わせ、ほかの遺伝的な要因、hCGの量など、関わる要素が多いためです。
一方で、治療への応用に向けた研究は始まっています。妊娠前にGDF15に慣らしておくことで妊娠中の敏感さを下げる、あるいはGDF15やその受容体の働きを抑える、といった考え方が提案されています[8]。ただし、いずれも研究の段階で、妊娠中の安全性や効果はまだ確かめられていません。現在のつわりや妊娠悪阻の治療は、水分と栄養の補給、ビタミンB1の補充、吐き気止めの薬などが中心です。薬について詳しくはつわりで使われる薬をご覧ください。
6. つわりはいつからいつまで?時期の要点
つわりは多くの場合、妊娠4〜5週ごろに始まり、妊娠初期のうちにピークを迎え、20週ごろまでにおさまります。先ほど紹介した英国の前向き研究では、最終月経の開始日から数えて26〜40日目(妊娠3週5日〜5週5日)にかけて、約3分の2の人のつわりが始まっていました[5]。総説でも、症状は妊娠初期にピークを迎え、一般に妊娠20週までにはおさまるとされています[4]。
ここで、週数の区切りを確認しておきます。日本産科婦人科学会の用語集では、妊娠初期を13週6日まで、妊娠中期を14週0日から27週6日まで、妊娠後期(末期)を28週0日以降としています[10]。母子手帳や一般向けの説明では、15週までを「初期」とする区分が使われていることもあるため、同じ「初期」でも資料によって指す範囲が少し違うことがあります。
📅 つわりの時期の目安
| 時期 | よくみられる経過 | 詳しく読む |
|---|---|---|
| 妊娠4〜6週 | むかつき、においへの過敏、眠気などで始まる | 始まり方とピーク |
| 妊娠初期のなかごろ | 症状が最も強くなりやすい | 始まり方とピーク |
| 初期の終わり〜中期 | 少しずつ軽くなる人が増える | 終わる兆候と長引くとき |
| 妊娠20週以降 | 多くはおさまる。中期以降に吐き気がぶり返すこともある | 妊娠中期のぶり返し |
※あくまで目安で、始まる時期・ピーク・おさまる時期には大きな個人差があります。週数は最終月経の開始日を0週0日として数えます。
つわりは「安定期に入れば終わる」と言われますが、20週を過ぎても続く人や、いったん落ち着いてから妊娠中期以降に吐き気が戻ってくる人もいます。妊娠中期以降の吐き気には、子宮が大きくなって胃が押し上げられることなど、初期のつわりとは別の理由が関わることもあります。双子の妊娠ではつわりが重くなりやすく、双子妊娠の初期の体の変化で詳しく触れています。
7. つわりが重くなりやすい要因
つわりが重くなりやすい要因として、前回の妊娠で重いつわりや妊娠悪阻があったこと、家族に妊娠悪阻の人がいること、双子などの多胎妊娠、胞状奇胎、女の子を妊娠していること、乗り物酔いや片頭痛を起こしやすい体質などが知られています[1][4]。
これらの多くは、ここまで説明した仕組みで理解できます。多胎妊娠や胞状奇胎では胎盤の組織が多く、hCGやGDF15がたくさんつくられます。家族歴や前回の妊娠悪阻は、母体側の遺伝的な敏感さを反映していると考えられます。乗り物酔いや片頭痛を起こしやすい人は、吐き気を起こす脳の仕組みがもともと反応しやすい可能性があります。
ただし、これらはあくまで集団で見たときに「なりやすい傾向がある」という要因で、当てはまるから必ず重くなる、当てはまらないから軽く済む、というものではありません。チェックリスト形式でまとめたつわりになりやすい人の特徴もあわせてご覧ください。
8. つわりの対策の要点
つわりの対策は、「空腹をつくらず、食べられるものを少しずつ」「苦手なにおいを避ける」「無理をせず休む」が基本です。つわりを完全に止める方法はありませんが、つらさを軽くする工夫はいくつもあります。ここでは要点だけをまとめ、詳しい内容はそれぞれの記事に譲ります。
🛠 つわりの対策の要点
| 対策 | ポイント | 詳しく読む |
|---|---|---|
| 食べ方の工夫 | 少量をこまめに。冷たいもの、さっぱりしたもの、においの少ないものが食べやすい | 食べやすいもの |
| ツボ・バンド・においの対策 | 手首のツボ(内関)を押すバンド、マスクや換気など | ツボ・バンド・グッズ |
| 薬 | ビタミンB6、吐き気止め、漢方、点滴など。自己判断せず処方を受ける | つわりの薬 |
| 仕事・生活 | 休憩や時差出勤など、働き方を調整する | つわりと仕事 |
※市販薬やサプリメントを自己判断で使う前に、かかりつけの産婦人科で確認してください。
つわりは「病気ではない」と言われることがあるため、家族から理解されにくいことがあります。ここまで見てきたように、つわりは胎盤のホルモンと体質によって起こる体の反応で、本人の努力で抑えられるものではありません。家事を減らす、においの出る調理を家族に任せる、といった周りの協力も、立派な対策のひとつです。
9. 受診の目安:妊娠悪阻のサイン
水分がとれない、尿が減った、体重が妊娠前から5%以上減った、立ちくらみがする、という状態は、つわりの範囲を超えている可能性があります。このようなときは、次の健診を待たずに、かかりつけの産婦人科に連絡してください。
⚠ かかりつけの産婦人科に早めに相談したいサイン
・水分も吐いてしまい、半日以上ほとんど飲めない
・尿の回数や量が明らかに減った、尿の色が濃い
・体重が妊娠前から5%以上減った(50kgの人なら2.5kg)
・立ちくらみやふらつきで、起き上がるのがつらい
・食べることも飲むこともできず、横になって過ごす日が続いている
・吐いたものに血が混じる、強い腹痛や発熱がある
・妊娠9週を過ぎてから、初めて強い吐き気や嘔吐が出てきた
妊娠悪阻を治療せずにおくと、脱水や電解質の異常に加え、ビタミンB1(チアミン)が不足して脳に障害が出るウェルニッケ脳症という重い合併症を起こすことがあります。ACOGの診療指針は、ウェルニッケ脳症を防ぐため、点滴でブドウ糖を入れる前にビタミンB1を補充するよう求めています[1]。妊娠悪阻は適切な治療でよくなることが多く、我慢を続けるより早めに受診するほうが、結果として回復も早くなります。
ミネルバクリニックは分娩を扱っていないため、つわりや妊娠悪阻の診療は、妊婦健診を受けているかかりつけの産婦人科で受けてください。入院や点滴の目安、治療の内容は妊娠悪阻の解説で詳しくまとめています。
10. つわりの噂と事実
つわりには、赤ちゃんの性別や流産、染色体の病気と結びつけた噂がたくさんあります。集団の研究で関連が見つかっているものもありますが、関連があることと、一人ひとりの妊娠で何かを言い当てられることは別の話です。よく聞かれる4つの噂を整理します。
つわりが急に楽になった=流産?
つわりには日による波があり、楽になっただけで流産とは判断できません。妊娠の経過は超音波検査で確認します。
つわりがない=赤ちゃんに異常?
つわりをほとんど感じない人は一定の割合でいて、それだけで赤ちゃんの異常を意味するわけではありません。
つわりが重い=ダウン症?
つわりの重さや種類から、赤ちゃんの染色体の状態を知ることはできません。
つわりで性別がわかる?
妊娠悪阻は女の子の妊娠でやや多いと報告されていますが、つわりで性別を当てることはできません。
つわりが急に楽になったのは流産のサイン?
つわりが急に楽になったことだけで、流産かどうかを判断することはできません。前に説明したように、つわりには日による波があり、7週や9週で一時的に楽になる日があるのは珍しいことではありません。
米国の研究では、妊娠を目指す段階から女性を追いかけたところ、妊娠初期に吐き気や嘔吐があった人のほうが、流産が少ないという関連がみられました[11]。胎盤が順調に育っているほど、つわりを起こすホルモンも多くつくられるためと考えられています。ただし、これは集団で比べた傾向です。つわりが軽い人やない人の多くも問題なく妊娠を続けていますし、つわりが楽になった日に何かが起きているとは限りません。出血や強い腹痛があるときは産婦人科に連絡し、そうでなければ次の健診で超音波検査を受けて確認するのが確実です。
つわりがない=赤ちゃんに異常?
つわりがないことは、赤ちゃんに異常があるサインではありません。ここまでの研究から考えても、つわりの重さは母体の敏感さによって大きく左右されます。もともとGDF15に反応しにくい体質の人は、胎盤が順調にGDF15をつくっていても、つわりを強く感じない可能性があります。
つわりがないことで不安になる人は多いのですが、つわりの有無で赤ちゃんの状態はわかりません。この噂についてはつわりがない人はダウン症などの障害児が生まれる?という噂の検証で詳しく取り上げています。
つわりが重い=ダウン症?
つわりが重いこと、あるいはよだれづわりなど特定の種類のつわりがあることで、赤ちゃんがダウン症かどうかを知ることはできません。ダウン症候群(21トリソミー)は、21番染色体が通常より1本多いことで起こる染色体の変化で、つわりの重さで見分けられるものではありません。
赤ちゃんの染色体の状態を知る方法は、NIPT(新型出生前診断)などの出生前検査です。NIPTは、母体の血液に含まれる胎児由来のDNAを調べて、21トリソミーなどの可能性を推定する検査です。つわりやよだれづわりとダウン症の噂についてはダウン症の予兆についての噂の検証で解説しています。
つわりで赤ちゃんの性別がわかる?
つわりの重さで赤ちゃんの性別を当てることはできません。集団で見ると、入院が必要になるほどの妊娠悪阻は女の子を妊娠しているときにやや多いと報告されており、ACOGや総説でもリスク因子のひとつに挙げられています[1][4]。
しかし、その差はわずかで、男の子を妊娠して重いつわりになる人も、女の子を妊娠してつわりが軽い人もたくさんいます。「つわりが重いから女の子」という予想は、当たることもあれば外れることもある、という程度のものだと考えてください。
つわりがあると流産しにくい?
集団で比べると、つわりがある人のほうが流産が少ないという関連は報告されています[11]。ただし、これは「つわりがあるから流産しない」という因果関係を示したものではなく、胎盤が順調に発育していることが、つわりと妊娠の継続の両方に関わっていると考えられています。
妊娠初期の流産の多くは、受精卵の染色体の変化によって起こり、つわりの有無や母親の行動で防げるものではありません。つわりが重いことを「流産しにくい証拠」として我慢の理由にしたり、つわりが軽いことで自分を責めたりする必要はありません。
11. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
つわりは身近な症状である一方で、その重さに大きな差がある理由は長く謎のままでした。GDF15の研究によって、重いつわりは胎盤のホルモンと母体の遺伝的な敏感さの組み合わせで起こる、という具体的な仕組みが見えてきました。母から娘へ繰り返されやすいこと、妊娠ごとに重さが違うことにも、遺伝学から説明がつき始めています。
つわりの重さや有無は、赤ちゃんの健康状態や性別を知る手がかりにはなりません。赤ちゃんの染色体について知りたいときは、つわりの様子から推測するのではなく、検査で確かめることになります。そして、つわりのつらさそのものは、かかりつけの産婦人科で治療を受けられる体の症状です。
🩺 院長コラム【つわりを「体質」として理解する】
つわりの重さは、本人の努力や心がけで変えられるものではありません。「気持ちの問題」とされてきたものに、遺伝子のレベルで説明がつくようになってきたことは、遺伝医療に携わる者として大きな意味があると考えています。
体質が関わると分かることは、決して「どうにもならない」という意味ではありません。家族歴や前回の経過をかかりつけ医に伝えておくこと、重くなったら我慢せずに治療を受けること。遺伝を知ることは、そうした備えにつながると考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 悪阻の読み方は?
「悪阻」は「つわり」とも「おそ」とも読みます。一般には「つわり」とひらがなで書くことが多く、医療の文書では「悪阻」と書きます。「妊娠悪阻」は「にんしんおそ」と読み、つわりの中でも重症で治療が必要な状態を指します。
Q2. つわりかどうか確かめる方法は?
吐き気やむかつきがあり、生理が遅れている場合は、まず妊娠検査薬で妊娠しているかを確認し、産婦人科で正常な妊娠かどうかを診てもらいます。妊娠9週を過ぎてから初めて吐き気が出た場合や、発熱・腹痛・下痢を伴う場合は、つわり以外の原因も考える必要があります。
Q3. つわりが一番つらいのは何週?
多くの人は妊娠初期のうちに症状が最も強くなり、初期の終わりから中期にかけて少しずつ軽くなります。一般には妊娠20週ごろまでにおさまりますが、時期には大きな個人差があります。
Q4. 7週でつわりが急に楽になったのは流産のサインですか?
つわりには日による波があり、楽になったことだけで流産とは判断できません。集団の研究では、つわりがある人のほうが流産が少ない傾向が報告されていますが、つわりが軽い人の多くも妊娠を続けています。出血や強い腹痛があるときは産婦人科に連絡し、そうでなければ次の健診の超音波検査で確認してください。
Q5. つわりは遺伝しますか?
重いつわり(妊娠悪阻)は、母から娘へ繰り返されやすいことがわかっています。ノルウェーの研究では、母親が妊娠悪阻だった妊娠で生まれた娘は、自分の妊娠で妊娠悪阻になる割合が約2.9倍でした。胎盤がつくるホルモンGDF15に対する敏感さに、GDF15遺伝子などの遺伝的な体質が関わると考えられています。ただし、遺伝子検査でつわりの重さを予測する方法は確立していません。
Q6. つわりがないと赤ちゃんに異常がありますか?
つわりがないことは、赤ちゃんの異常を意味しません。つわりの重さは母体の体質によって大きく左右され、つわりをほとんど感じない人も一定の割合でいます。赤ちゃんの状態は、つわりの有無ではなく妊婦健診や検査で確認します。
Q7. つわりがひどいときは何科を受診すればよいですか?
妊婦健診を受けているかかりつけの産婦人科を受診してください。水分がとれない、尿が減った、体重が5%以上減った、ふらつきがある、といった場合は、次の健診を待たずに連絡することをおすすめします。ミネルバクリニックは分娩を扱っていないため、つわりの治療は行っていません。
🧬 NIPT(新型出生前診断)をお考えの方へ
つわりの重さや有無から、赤ちゃんの染色体の状態を知ることはできません。ミネルバクリニックでは、常駐する臨床遺伝専門医のもとで、NIPTと検査前後の遺伝カウンセリングを行っています。検査の内容や受けられる時期は、NIPTのページでご確認いただけます。
参考文献
- [1] Committee on Practice Bulletins-Obstetrics. ACOG Practice Bulletin No. 189: Nausea And Vomiting Of Pregnancy. Obstet Gynecol. 2018;131(1):e15-e30. doi:10.1097/AOG.0000000000002456. PMID: 29266076. [PubMed 29266076]
- [2] Jansen LAW, Koot MH, van’t Hooft J, et al. The windsor definition for hyperemesis gravidarum: A multistakeholder international consensus definition. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2021;266:15-22. [DOI]
- [3] Einarson TR, Piwko C, Koren G. Quantifying the global rates of nausea and vomiting of pregnancy: a meta-analysis. J Popul Ther Clin Pharmacol. 2013;20(2):e171-e183. PMID: 23863575. [PubMed 23863575]
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- [6] Fejzo MS, Sazonova OV, Sathirapongsasuti JF, et al. Placenta and appetite genes GDF15 and IGFBP7 are associated with hyperemesis gravidarum. Nat Commun. 2018;9(1):1178. doi:10.1038/s41467-018-03258-0. PMID: 29563502. [PubMed 29563502]
- [7] Fejzo M, Rocha N, Cimino I, et al. GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy. Nature. 2024;625:760-767. doi:10.1038/s41586-023-06921-9. [DOI]
- [8] Fejzo MS. Hyperemesis gravidarum theories dispelled by recent research: a paradigm change for better care and outcomes. Trends Mol Med. 2024;30(6):530-540. doi:10.1016/j.molmed.2024.04.006. PMID: 38782680. [PubMed 38782680]
- [9] Vikanes Å, Skjærven R, Grjibovski AM, et al. Recurrence of hyperemesis gravidarum across generations: population based cohort study. BMJ. 2010;340:c2050. doi:10.1136/bmj.c2050. [DOI]
- [10] 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書 対象特性 妊婦・授乳婦(産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版の妊娠期区分). [厚生労働省]
- [11] Hinkle SN, Mumford SL, Grantz KL, et al. Association of Nausea and Vomiting During Pregnancy With Pregnancy Loss: A Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2016;176(11):1621-1627. doi:10.1001/jamainternmed.2016.5641. PMID: 27669539. [PubMed 27669539]





