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つわりが終わらない人の特徴は?終わる兆候と後期つわりの正体、受診の目安

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

つわりは多くの人で妊娠14週ごろから軽くなり始め、22週までにおよそ9割の人が楽になります[1]。12週や13週でまだ吐き気が続いていても、それだけで異常とはいえません。一方で、22週を過ぎても続く人が1割ほどいること、そして9週を過ぎてから新しく始まった吐き気や、妊娠後期の吐き気は、つわり以外の原因も考える必要があることも知っておいてください[2]。この記事では、つわりが終わらない人の特徴を「研究で関連が示された要因」と「根拠の弱い俗説」に分けて整理し、終わる兆候、安定期以降も続く原因、後期つわりの正体、受診の目安までを臨床遺伝専門医の立場から解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約13分
🤰 つわりが終わらない・終わる兆候・後期つわり
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. つわりが終わらないのは異常ですか?

A. 多くは異常ではありません。毎日の症状を記録した研究では、14週までに楽になったのは約半数、22週までで約9割でした[1]。ただし、水分がとれない、体重が減り続ける、妊娠後期に頭痛やみぞおちの痛みを伴うといった場合は、つわり以外の病気や妊娠悪阻(にんしんおそ)の可能性があるため、かかりつけの産婦人科を受診してください。

  • ➤終わる時期 → 14週で約半数、22週で約9割が楽になる。22週以降も続く人が約1割
  • ➤終わらない人の特徴 → 双子、女の子の妊娠、乗り物酔いしやすい、片頭痛、家族歴などは研究で関連あり。冷え性などは根拠が弱い
  • ➤遺伝の視点 → 胎児がつくるホルモンGDF15と、それに対する母体の感受性が重さを左右する
  • ➤後期つわり → 医学用語ではない。中身は胃の圧迫や逆流が多いが、妊娠高血圧症候群などを見逃さないことが大切

1. つわりはいつ終わる?終わらない人はどのくらい?

つわりが終わる時期には大きな個人差があり、14週で楽になるのは約半数、22週までに約9割です。裏を返すと、22週を過ぎても続く人が1割ほどいます。「16週になれば終わる」という言い方がよく聞かれますが、データを見ると、それより長く続くことは決して珍しくありません。

データで見るつわりの終わり方

カナダで妊婦さん160人に毎日、吐き気の頻度・時間・強さを記録してもらった前向き研究では、74%に吐き気があり、その期間は平均34.6日でした。楽になった人は14週までで50%、22週までで90%です。また、吐き気が朝だけだった人は1.8%にすぎず、80%は一日中続いていました[1]。「モーニングシックネス(朝の吐き気)」という英語の呼び名とは違い、つわりは時間帯を選ばないことが多いのです。

英国の一般診療所の研究では、80%に何らかの症状があり、症状が消えた人は最終月経から84日目(12週)までで60%、112日目(16週)までで90.8%でした[3]。カナダの研究より早く終わる結果になっているのは、対象者や「楽になった」の定義が違うためです。どちらの研究でも、終わる時期の幅が広いことは共通しています。

日本人のデータとしては、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)で91,666人を分析した報告があり、82.7%が何らかの吐き気・嘔吐を経験し、11.1%が重い症状を経験していました[4]。つわりは日本でも大多数の妊婦さんが経験する、ごく一般的な症状です。

〜9週ほぼ全員がこの頃までに始まる
▶
14週約半数が楽になる
▶
22週約9割が楽になる
▶
22週以降約1割で続く

元の版のこの記事では「出産まで続く人は6〜13%」と書いていましたが、今回の改訂で根拠となる一次研究を確認できなかったため削除しました。出産まで続く人がいるのは確かですが、その割合は研究によって定義や対象が異なり、一つの数字では示せません。始まる時期やピークの時期についてはつわりはいつから?始まり方とピークで詳しく解説しています。

12週・13週・14週・16週でまだ続くのは異常?

12週や13週でつわりが続いているのは、データの上ではむしろ多数派です。14週でも約半数はまだ続いています。週数の区切りを正しく知っておくと、「もう終わるはずなのに」という焦りが少し和らぐと思います。日本産科婦人科学会の用語集では、妊娠初期を13週6日まで、妊娠中期を14週0日から27週6日まで、妊娠後期(末期)を28週0日以降としています[5]。よく使われる「安定期」は医学用語ではなく、一般に16週ごろ以降を指す呼び方です。

📅 週数ごとの「まだ続いている」の受け止め方

週数 時期の区分 データから見た位置づけ
12〜13週 妊娠初期の終わり 半数以上がまだ続いている時期。続いていても普通です
14〜15週 妊娠中期の始まり 約半数が楽になり始める。残りの半数はまだ続いています
16〜21週 いわゆる安定期 続いている人は減っていくが、まだ珍しくありません
22〜27週 妊娠中期の後半 約1割の人で続く。脱水や体重減少がないか確認を
28週〜 妊娠後期 新しく出た吐き気は、つわり以外の原因も考える時期

※割合はLacroixらの研究[1]、時期の区分は日本産科婦人科学会の用語集[5]による。個人の経過を予測するものではありません。

大切なのは、週数そのものより「つわりがずっと続いているのか」「いったん治まってから出てきたのか」「水分や食事がとれているか」です。9週より前から続いている吐き気が少しずつ軽くなっているなら、つわりの経過として説明できます。反対に、米国産科婦人科学会(ACOG)は、9週を過ぎて初めて吐き気が出た場合は、ほかの病気を注意深く考えるべきだとしています[2]。

2. つわりが終わる兆候と「終わりかけ」の症状

つわりは、ある日を境にぴたりと終わるより、吐き気の時間が短くなる、食べられる量が増えるといった変化を重ねながら、波を描いて少しずつ引いていくことが多いものです。「終わる兆候」を医学的に定義した研究はありませんが、症状を毎日記録した研究でも、吐き気の頻度・時間・強さが日によって上下しながら減っていく経過が示されています[1]。

終わりかけによくある変化

終わりかけによく見られるのは、次のような変化です。まず、一日中続いていた吐き気が、空腹時や夕方など特定の時間だけになります。次に、食べられるものの種類が増え、少しずつ「おいしい」と感じられるようになります。苦手だったにおいが平気になる、朝の目覚めが楽になる、減っていた体重が止まる、といった変化も目安になります。

こうした変化は、つわりの原因と考えられているホルモンの量の変化と関係しています。hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は胎盤のもとになる絨毛(じゅうもう)からつくられるホルモンで、妊娠初期の終わりごろに最も多くなり、その後は下がっていきます。つわりの山がこのhCGの山とほぼ重なることから、古くから関係が指摘されてきました。ただし、hCGだけでは「同じ量でも重い人と軽い人がいる」ことを説明しきれず、後で述べるGDF15というホルモンが注目されています。

「終わりかけでもしんどい」「終わりそうで終わらない」理由

楽な日が数日続いたあとに、またつらい日が来ることはよくあります。ホルモンの量は一直線には下がらず、睡眠不足や空腹、疲れが重なると吐き気が出やすくなるためです。「終わったと思ったのに」と落ち込みやすい時期ですが、波を繰り返しながら底が上がっていく形になっていれば、終わりに向かっている途中と考えてよいでしょう。

「胎盤が完成すると、つわりが終わる」ともよく言われます。胎盤の基本的な形は妊娠中期の初めごろに整いますが、胎盤の完成とつわりの終わりが直接結びつくことを示したデータはありません。胎盤の働きについては胎盤の基礎|完成時期と役割で解説しています。

急につわりがなくなったときは

つわりが急に軽くなると、「赤ちゃんに何かあったのでは」と不安になる方もいます。つわりの有無や消え方だけで、おなかの赤ちゃんの状態を判断することはできません。もともとつわりがほとんどない人もいて、それ自体は異常ではないことをつわりがない人の噂を検証した記事で詳しく説明しています。出血や下腹部の痛みを伴う場合は、つわりとは関係なく、かかりつけの産婦人科に連絡してください。

3. つわりが終わらない人の特徴|研究で関連が示された要因と、根拠の弱い俗説

つわりが重くなりやすい・長引きやすい要因として研究で関連が示されているのは、双子などの多胎妊娠、女の子の妊娠、乗り物酔いしやすい体質、片頭痛、前回の妊娠での重いつわり、家族歴です。一方で、ネットでよく見かける「冷え性」「胃腸が弱い」は、つわりを長引かせる原因として裏づけのある要因ではありません。なお、研究の多くは「つわりの重さ」を調べたもので、「長さ」だけを調べたデータは限られています。重さと長さは重なる部分が大きいものの、同じではない点に注意してください。

研究で関連が示されている要因

ACOGの診療指針は、胎盤の量が多い妊娠(双子などの多胎妊娠や胞状奇胎)で妊娠悪阻のリスクが高くなるとしています。そのほかの要因として、乗り物酔いしやすい体質、片頭痛、家族歴を挙げ、妊娠悪阻になった人の娘や姉妹、女の子を妊娠している人も同じ状態になりやすいと記載しています[2]。

日本のエコチル調査でも、女の子を妊娠している人と双子を妊娠している人は、男の子・単胎の人に比べて吐き気・嘔吐の頻度も重い症状の頻度も高いという結果でした。性別と双子の影響はそれぞれ独立していて、互いに強め合う関係は見られていません[4]。双子の妊娠の経過については双子の妊娠の確定時期と体の変化をご覧ください。

🔍 つわりが重い・長引くことと関連する要因の整理

要因 根拠の強さ 考えられている理由
双子・三つ子 関連あり 胎盤が大きく、胎盤由来のホルモンが多い
女の子の妊娠 関連あり 日本のデータでも確認。仕組みは十分に解明されていない
乗り物酔い・片頭痛 関連あり 吐き気を感じる脳の仕組みの感じやすさが関係すると考えられている
家族歴・前回の重いつわり 関連あり 遺伝的な体質(GDF15への感受性など)
冷え性・胃腸が弱い 根拠が弱い つわりを長引かせることを示した研究は確認できない
ストレス 因果は不明 つわりのつらさがストレスを生む面もあり、原因か結果か区別できない

※ACOG Practice Bulletin No.189[2]、エコチル調査[4]をもとに作成。あてはまっても必ず長引くわけではありません。

つわりが重い・長いことと、赤ちゃんの染色体の病気とを結びつける噂もありますが、つわりの様子から赤ちゃんの染色体の状態を推測することはできません。詳しくはダウン症の予兆はある?つわりなどの噂を臨床遺伝専門医が解説で取り上げています。

よく言われるが根拠が弱いもの

元の版のこの記事では、つわりが長引く人の特徴として「冷え性」「腎臓や胃腸が弱い」を挙げていました。今回の改訂で調べ直したところ、これらがつわりを長引かせることを示した研究は確認できなかったため、特徴の一覧からは外しました。体を冷やさない、消化のよいものを食べるといった工夫が、その人にとって楽に感じられるならそれで構いませんが、「冷え性だからつわりが終わらない」と自分を責める必要はありません。

ストレスも同じです。つわりがひどいと眠れず、仕事や家事が思うようにできず、気持ちが沈みます。妊娠悪阻のある女性では、うつや不安の得点が高いことがメタ解析で示されていますが[6]、ストレスがつわりの原因なのか、つらいつわりがストレスを生んでいるのかは区別できません。「気の持ちよう」でつわりが長引いているわけではないことは、次の遺伝の研究からもうかがえます。

ビタミンB6についても整理しておきます。ビタミンB6はつわりの治療の選択肢の一つで、ACOGは単独またはドキシラミンとの組み合わせを薬物治療の第一選択として推奨しています[2]。これは「B6を補うと症状が軽くなる」という治療の話で、「B6が足りないからつわりが長引く」という原因の話ではありません。量や使い方はつわりの薬とビタミンB6で解説しています。

遺伝の視点:体質を決めるGDF15

つわりの重さを左右するのは、胎児(胎盤)がつくるGDF15というホルモンの量と、それに対する母体の感じやすさの組み合わせであることが、2024年にNature誌に報告されました[7]。母体の感じやすさは、妊娠前にどれだけGDF15にさらされていたかで一部決まり、これには遺伝的な体質が関わっています。

💡 用語解説:GDF15(ジーディーエフ・フィフティーン)

GDF15(成長分化因子15)は、体がストレスを受けたときにつくられ、脳幹の一部に働いて吐き気や食欲低下を起こすホルモンです。妊娠中は胎盤から大量につくられ、母体の血液中のGDF15のほとんどは胎児側に由来します。もともと「体に害のあるものを避けさせる」警報のような役割を持つと考えられています。

この研究の出発点は、2018年に発表されたGWAS(ゲノムワイド関連解析)です。ゲノム全体の多数の個人差を一度に調べる方法で、妊娠悪阻とつわりの両方に、GDF15とIGFBP7という胎盤や食欲に関わる遺伝子の領域が関連していることが見つかりました[8]。

2024年の研究ではさらに、次のことが示されました[7]。母体の血液中のGDF15は、その大部分が胎児と胎盤から来ていること。妊娠悪阻の女性では血中のGDF15が高いこと。そして、妊娠悪阻のリスクを高めるまれな遺伝子のバリアントはGDF15の分泌を下げ、妊娠前のGDF15を低くしていたことです。逆に、βサラセミアという血液の病気のように、妊娠前からGDF15が高い状態にある女性では、つわりが少ないこともわかりました。マウスでも、あらかじめGDF15にさらしておくと、その後のGDF15に対する反応が弱まることが確かめられています。

つまり、妊娠前のGDF15濃度が低い人ほど、妊娠して胎児・胎盤由来のGDF15が急に増えたときに強く反応しやすい、という仕組みが示唆されています。「妊娠前のGDF15への曝露が少ないほど、妊娠時の急な上昇に対する感受性が高くなりやすい」と考えると理解しやすいでしょう。

家族内で重いつわりが起こりやすいことも、この体質で説明できます。ノルウェーの出生登録を使った研究では、妊娠悪阻のあった妊娠で生まれた娘が自分の妊娠で妊娠悪阻になる割合は3%で、そうでない妊娠で生まれた女性の1.1%を上回りました。一方、妊娠悪阻のあった妊娠で生まれた息子のパートナーでは1.2%で、差はありませんでした[9]。母体側の遺伝的要因の関与を支持する結果ですが、この研究だけで母系遺伝や遺伝要因のみを証明したものではありません。つわりの基本的な仕組みとGDF15については、つわり(悪阻)とは|原因と仕組みでも解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【つわりの長さは「気合い」では決まらない】

GDF15の研究では、つわりの重さには胎児・胎盤由来のGDF15濃度と、妊娠前の母体のGDF15曝露量に関連する感受性が関与することが示されています。家族内集積も報告されていますが、母から娘へ似た経過をたどることを遺伝要因だけで説明できるわけではなく、母体側の遺伝的要因と環境要因の双方を考慮する必要があります。

現在の医学的知見では、つわりにはGDF15などの生物学的要因が関与しており、本人の意志の強さで決まる症状ではありません。ACOGは、症状が進行すると治療が難しくなることがあり、早期の治療が重症化や入院などの合併を防ぐ可能性があるとしています。長引く場合も、症状の程度に応じて医学的な評価と治療の対象になります。

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4. 安定期を過ぎてもつわりが続く原因

安定期と呼ばれる16週以降も吐き気が続く場合、原因は大きく4つに分けられます。本来のつわりが長引いている場合、大きくなる子宮と胃の逆流による場合、妊娠悪阻に進んでいる場合、そしてつわり以外の病気の場合です。どれに当たるかによって対応が変わるため、「いつから続いているか」と「ほかにどんな症状があるか」を整理しておくと、受診のときに役立ちます。

本来のつわりが長引いている場合

妊娠初期から続いているつわりが、少しずつ軽くなりながら16週を越えて続いているなら、多くはこれに当たります。前述のとおり22週を過ぎても続く人が約1割いるので[1]、16週の時点でまだ続いていても、つわりの経過として十分ありえます。双子の妊娠や家族歴があると長引きやすいことも、第3章で述べたとおりです。水分と最低限の食事がとれていて、体重が減り続けていなければ、経過を見ながら食べ方や薬で症状を和らげていきます。

大きくなる子宮と胃の逆流による場合

妊娠が進むと、大きくなった子宮が胃を下から押し上げます。さらに、妊娠中に増える黄体ホルモン(プロゲステロン)には平滑筋をゆるめる作用があり、胃と食道の境目にある筋肉(下部食道括約筋)もゆるみやすくなります。この2つが重なると、胃の内容物が食道へ逆流し、胸やけやむかつき、吐き気が起こります。胸やけと吐き気は妊娠中によくある消化器の症状として知られています[10]。

元の版では「安定期以降はプロゲステロンが増えて吐き気を起こす」と、黄体ホルモンだけを原因として書いていましたが、実際には子宮による物理的な圧迫と組み合わさって起こるものです。この種類の不快感は妊娠中期の後半から後期にかけて増え、食後や横になったときに強くなるのが特徴です。

妊娠悪阻に進んでいる場合

つわりが重くなり、食事も水分もとれずに体重が減り続ける状態が妊娠悪阻です。ACOGは、ほかの原因によらない持続的な嘔吐、飢餓状態を示す所見(尿中のケトン体が多いことなど)、そして妊娠前の体重から5%以上の減少を、よく使われる基準として挙げています[2]。妊娠悪阻では点滴などの治療が必要になることがあり、ビタミンB1の不足による神経の合併症にも注意が必要です。入院や点滴の目安は妊娠悪阻とは|つわりとの違いと治療で詳しく解説しています。

つわり以外の病気の可能性

ACOGは、つわりはほぼすべての人で9週より前に始まるので、9週を過ぎてから初めて吐き気や嘔吐が出た場合は、ほかの病気を注意深く考えるべきだとしています[2]。妊娠中でも、胃腸炎、腎盂腎炎(じんうじんえん:腎臓の細菌感染)、胆石や膵炎、肝炎などで吐き気が起こります。発熱、強い腹痛、背中や脇腹の痛み、下痢、皮膚や白目が黄色いといった症状を伴う場合は、つわりと決めつけずに受診してください。

甲状腺の働きにも触れておきます。hCGには甲状腺を刺激する作用が少しあるため、つわりの重い時期に一時的に甲状腺ホルモンが高くなることがあります。ACOGによると、妊娠前に甲状腺の病気がなく甲状腺の腫れもない人では、多くは治療をしなくても20週までに落ち着きます[2]。一方、もともとの甲状腺の病気が隠れていることもあるため、動悸や手の震えが目立つときは検査が必要です。妊娠と甲状腺の関係は妊娠と甲状腺疾患の関係で解説しています。

💡 用語解説:妊娠一過性甲状腺機能亢進症

妊娠初期にhCGが甲状腺を刺激して、甲状腺ホルモンが一時的に高くなる状態です。つわりが重い人に見られやすく、多くはhCGが下がるとともに自然に落ち着きます。バセドウ病などもともとの甲状腺の病気とは区別して考えます。

なお、いったん治まったつわりが妊娠中期にぶり返すケースは、原因の考え方が少し異なります。中期のぶり返しの原因と見分け方は妊娠中期につわりがぶり返す原因にまとめています。

5. 後期つわりとは?いつから・いつまで・症状と正体

「後期つわり」は医学用語ではなく、妊娠後期(28週以降)に出てくる吐き気、胸やけ、胃もたれ、すぐにおなかがいっぱいになるといった症状をまとめた呼び方です。多くは大きくなった子宮による胃の圧迫と逆流によるもので、妊娠初期のつわりとは仕組みが違います。初期のつわりがなかった人にも起こり、出産で子宮が小さくなると自然に治まっていきます。

後期つわりの正体

妊娠後期には子宮がみぞおちの近くまで大きくなり、胃は上に押し上げられて容量が小さくなります。少し食べただけで苦しくなる、食後に胸が焼ける、横になると酸っぱいものが上がってくる、という症状はこのためです。前の章で述べた下部食道括約筋のゆるみも重なります[10]。妊娠後期の体の変化全体については妊娠後期(28週〜40週)の症状と気をつけることで解説しています。

「後期つわりはいつまで続くのか」という疑問に対しては、原因となる子宮による胃の圧迫や胃食道逆流が妊娠後期まで続くため、症状が出産近くまで続くことがあります。ただし、症状の強さや経過には個人差があり、妊娠中に軽くなる場合もあります。出産後は子宮による圧迫が解消されるため、妊娠に伴う胃食道逆流症状は一般に改善していきます。

後期の吐き気で見逃してはいけない病気

妊娠後期の吐き気を「後期つわり」と思い込んでしまうと、重い病気のサインを見逃すおそれがあります。代表的なのが妊娠高血圧症候群です。ACOGは、新しく出てきた治まらない頭痛、目のチカチカや見えにくさ、持続する強いみぞおちや右上腹部の痛みを、重症のサインとして挙げています[11]。肝臓の機能が急に悪くなり血小板が減るHELLP(ヘルプ)症候群も、妊娠高血圧症候群に関連して起こり、みぞおちの痛みや吐き気で始まることがあります。

もう一つ、まれですが重い病気に急性妊娠脂肪肝があります。妊娠後期に起こり、妊娠中の急性肝不全の主な原因とされています。腹痛や高血圧を伴わず、吐き気と嘔吐だけで始まった例も報告されています[12]。後期に急に吐き気が出てきた、だるさが強い、尿の色が濃い、白目が黄色いといったときは、早めに受診してください。妊娠高血圧症候群については妊娠高血圧症候群とはで詳しく解説しています。

⚠️ 妊娠後期の吐き気ですぐに連絡したいサイン

治まらない頭痛、目のチカチカ・見えにくさ、みぞおちや右上腹部の強い痛み、急なむくみ、白目や皮膚が黄色い、強いだるさ、尿の色が極端に濃い。これらを伴う吐き気は「後期つわり」とは考えず、時間帯にかかわらず、かかりつけの産婦人科に連絡してください。

後期つわりの和らげ方

胃の圧迫と逆流が原因の不快感には、胃の中を一度にいっぱいにしない工夫が役立ちます。1回の食事量を減らして回数を増やす、脂っこいものや香辛料の強いものを控える、食後すぐに横にならず、寝る前の2〜3時間は食べないようにする、寝るときは上半身を少し高くする、といった方法です。締めつけの強い服を避けることも、おなかの圧を下げるのに役立ちます。それでもつらい胸やけには、妊娠中に使える胃薬がありますので、自己判断で市販薬を選ばず、かかりつけの産婦人科で相談してください。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「後期つわり」という言葉の落とし穴】

「後期つわり」という言葉は、妊娠後期の胃の不快感を説明するには便利です。ただ、名前に「つわり」と付いているために、どんな吐き気も「つわりの一種だから仕方ない」と受け止められてしまう面があります。

妊娠初期のつわりと、妊娠後期に新しく出現する吐き気では、考えるべき原因が異なります。妊娠高血圧症候群や急性妊娠脂肪肝では、吐き気や嘔吐が症状の一部として現れることがあります。妊娠後期に新しく出てきた吐き気では、「後期つわり」と決めつけず、随伴症状を確認してほかの原因を鑑別することが重要です。

6. つわりを早く終わらせる方法はある?根拠で整理

つわりの期間そのものを短くする方法は、現時点では確立していません。一方で、つらさを軽くし、悪化を防ぐ方法には根拠があります。「早く終わらせる」より「終わるまでを楽に過ごす」と考えるほうが、実際に役立つ選択肢を選びやすくなります。

期間を短くする方法は確立していない

「早く終わらせる方法」として、体を温める、特定の飲み物を飲む、よく動く、といった方法が紹介されることがありますが、つわりの終わる時期を早めることを示した研究はありません。つわりの長さは、前述のとおり胎盤からのホルモンと母体の体質に大きく左右されるため、生活の工夫だけで期間を変えるのは難しいと考えられます。根拠のない方法に期待しすぎて「効かなかった」と落ち込むより、次に挙げる根拠のある方法を選んでください。

つらさを軽くできる根拠があるもの

まず大切なのは、早めに対処することです。ACOGは、つわりを早い段階で治療することが、妊娠悪阻への進行を防ぐのに役立つ可能性があるとしています[2]。「まだ我慢できるから」と受診を先延ばしにするより、つらいと感じた段階で相談するほうがよいということです。

ACOGの推奨のうち、根拠のあるものを紹介します[2]。ショウガは吐き気を減らす効果が一部で示されていて、薬以外の選択肢として検討できます。薬では、ビタミンB6の単独使用、またはビタミンB6とドキシラミン(抗ヒスタミン薬)の組み合わせが、安全で効果があるとして第一選択とされています。ただし、この配合剤は日本では承認されていません。国内で使える薬はつわりに処方される薬で解説しています。

手首の内側にある内関(ないかん、P6)というツボの指圧は、2つのシステマティックレビューで効果が限定的と評価されています。鍼や電気刺激では効果は示されていません[2]。ツボやつわりバンドについてはつわりのおすすめ対策|ツボ・グッズで、食べやすいものや食べ方の工夫はつわり中におすすめの食べ物と食べ方で紹介しています。

次の妊娠に向けては、ACOGが、妊娠の1か月前から妊婦用のビタミン剤を飲むと、つわりの頻度と重さを減らせる可能性があるとしています[2]。妊娠悪阻は次の妊娠でも繰り返しやすく、再発率を調べた研究のまとめでは15%から81%と幅がありました[13]。前回つわりが重かった方は、次の妊娠を考えた段階でかかりつけ医に伝えておくと、早めの対応につながります。

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7. 受診の目安チェック表

つわりが終わらないときに受診を考える目安は、「水分がとれているか」「体重が減り続けていないか」「つわり以外の症状がないか」の3点です。次のどれかにあてはまる場合は、健診日を待たずにかかりつけの産婦人科に連絡してください。

✅ かかりつけの産婦人科に連絡したいサイン

状態 考えられること
水分も吐いてしまう、半日以上ほとんど飲めない 脱水
尿の回数が減った、尿の色が濃い 脱水
妊娠前より体重が5%以上減った 妊娠悪阻の目安の一つ[2]
立ちくらみ、ふらつき、強いだるさ 脱水・栄養不足
吐いたものに血が混じる 食道や胃の粘膜の傷
発熱、強い腹痛、脇腹や背中の痛み、下痢 つわり以外の病気(感染症、胆石など)
9週を過ぎてから初めて出た吐き気 つわり以外の原因の確認が必要[2]
妊娠後期の吐き気に、頭痛・目の症状・みぞおちの痛みを伴う 妊娠高血圧症候群・HELLP症候群など[11]
ぼんやりする、ものが二重に見える、ふらついて歩きにくい ビタミンB1不足による神経の合併症

※ミネルバクリニックは分娩を扱っていません。つわりの症状については、妊婦健診を受けているかかりつけの産婦人科にご相談ください。

体重の5%は、たとえば妊娠前50kgの人なら2.5kgです。毎日同じ時間に体重を測っておくと、受診のときに説明しやすくなります。吐いた回数、飲めた量、最後に尿が出た時間をメモしておくのも役立ちます。「この程度で受診していいのか」と迷う方は多いのですが、つわりは早めに対処したほうが悪化を防げるとされているので[2]、迷ったら連絡してよい症状です。

8. 「終わらない」つらさで気持ちが限界のときに

つわりや妊娠悪阻が長く続く場合、身体症状だけでなく心理面への影響にも注意が必要です。妊娠悪阻のある女性では、対照群と比べて抑うつや不安の症状が強いことがメタ解析で報告されています[6]。症状が長期化する場合は、身体状態とあわせて心理状態も評価することが重要です。

症状の程度を具体的に記録しておくと、医療者への説明や生活上の調整に役立ちます。何回吐いたか、どのくらい食べられたか、日常生活や仕事にどの程度支障が出ているかを記録し、必要に応じて家族や職場と共有してください。症状が強い時期には、休養や家事・仕事の負担調整が必要になることがあります。

気分の落ち込みが何週間も続く、何も楽しめない、眠れない、自責感が強いといった状態が続くときは、かかりつけの産婦人科医に伝えてください。母子健康手帳を交付した自治体の窓口では、保健師等が妊娠中の相談に応じています。身体症状の改善だけを待つのではなく、心理症状が持続する場合は妊娠中から評価と支援を受けることが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. つわりが終わらない人の割合はどのくらいですか?

毎日の症状を記録した研究では、14週までに楽になったのは約50%、22週までで約90%でした。つまり、22週を過ぎても続く人が約1割います。出産まで続く人もいますが、その割合は研究によって異なり、一つの数字では示せません。

Q2. 13週でもつわりが終わらないのは大丈夫ですか?

13週は妊娠初期の終わりで、まだ半数以上の人につわりが続いている時期です。水分がとれていて、体重が減り続けていなければ、つわりの経過として心配しすぎる必要はありません。水分も吐いてしまう、体重が妊娠前より5%以上減ったといった場合は、かかりつけの産婦人科に相談してください。

Q3. つわりが終わる兆候はありますか?

医学的に定義された兆候はありませんが、吐き気の時間が短くなる、食べられるものが増える、においが平気になる、体重の減少が止まるといった変化が目安になります。つわりは波を繰り返しながら少しずつ引いていくことが多く、楽な日のあとにつらい日が来ても、全体として軽くなっていれば終わりに向かっていると考えられます。

Q4. 後期つわりは何週からですか?

後期つわりは医学用語ではなく、妊娠後期(28週以降)の吐き気や胸やけ、胃もたれをまとめた呼び方です。多くは子宮が胃を圧迫することと逆流によるものです。ただし、頭痛、目の症状、みぞおちの痛みを伴う吐き気は妊娠高血圧症候群などの可能性があるため、すぐにかかりつけの産婦人科に連絡してください。

Q5. つわりが長引くと赤ちゃんに影響はありますか?

一般的な妊娠中の悪心・嘔吐は、通常それ自体で胎児に害を与えるものではありません。一方、食事や水分が保てず体重減少や脱水を伴う妊娠悪阻では治療が必要で、重症例では出生体重などへの影響も考慮します。また、つわりの重さや長さから、赤ちゃんの染色体の状態を推測することはできません。

Q6. 次の妊娠でもつわりは長引きますか?

つわりの重さには遺伝的な体質が関わっているため、似た経過になることはあります。妊娠悪阻の再発率を調べた研究のまとめでは、15%から81%と幅がありました。次の妊娠を考えるときは、前回のつわりの様子をかかりつけ医に伝えておくと、早めの対応につながります。

まとめ

つわりが終わる時期には大きな個人差があり、14週で約半数、22週で約9割が楽になります[1]。12週や13週、16週でまだ続いていても、それだけで異常とはいえません。終わらない人の特徴として研究で関連が示されているのは、多胎妊娠、女の子の妊娠、乗り物酔いしやすい体質、片頭痛、家族歴などで[2][4]、冷え性や胃腸が弱いことは根拠の弱い俗説です。つわりの重さには、胎児がつくるGDF15と母体の遺伝的な感受性が関わっていることもわかってきました[7]。

安定期を過ぎても続く吐き気には、つわりの長引き、子宮による胃の圧迫と逆流、妊娠悪阻、つわり以外の病気という4つの可能性があります。特に9週を過ぎて初めて出た吐き気や、妊娠後期に頭痛やみぞおちの痛みを伴う吐き気は、「後期つわり」と決めつけず受診してください[2][11]。つわりの期間を短くする方法はありませんが、早めの対処で悪化を防ぐことはできます。つらいと感じたら、我慢せずにかかりつけの産婦人科に相談してください。

🏥 出生前検査(NIPT)をお考えの方へ

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が常駐し、NIPT(新型出生前診断)と遺伝カウンセリングを行っています。つわりの症状そのものは、妊婦健診を受けているかかりつけの産婦人科にご相談ください。赤ちゃんの染色体について正確な情報をもとに考えたい方は、検査の内容と時期をご確認ください。

参考文献

  • [1] Nausea and vomiting during pregnancy: a prospective study of its frequency, intensity, and patterns of change. Am J Obstet Gynecol. 2000;182(4):931-937. [AJOG]
  • [2] ACOG Practice Bulletin No. 189: Nausea And Vomiting Of Pregnancy. Obstet Gynecol. 2018;131(1):e15-e30. [PubMed 29266076]
  • [3] A prospective study of nausea and vomiting during pregnancy. Br J Gen Pract. 1993;43(371):245-248. [BJGP]
  • [4] Severity of Nausea and Vomiting in Singleton and Twin Pregnancies in Relation to Fetal Sex: The Japan Environment and Children’s Study (JECS). J Epidemiol. 2019;29(9):340-346. [J-STAGE]
  • [5] 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020年版)「2 対象特性 2-1 妊婦・授乳婦」(妊娠期の区分は産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版による). [厚生労働省]
  • [6] Psychological morbidity associated with hyperemesis gravidarum: a systematic review and meta-analysis. BJOG. 2017. [DOI 10.1111/1471-0528.14180]
  • [7] GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy. Nature. 2024;625(7996):760-767. [PMC10808057]
  • [8] Placenta and appetite genes GDF15 and IGFBP7 are associated with hyperemesis gravidarum. Nat Commun. 2018. [PubMed 29563502]
  • [9] Recurrence of hyperemesis gravidarum across generations: population based cohort study. BMJ. 2010;340:c2050. [PubMed 21030362]
  • [10] Heartburn, Nausea, and Vomiting During Pregnancy. Am J Gastroenterol. 2022. [AJG]
  • [11] Gestational Hypertension and Preeclampsia: ACOG Practice Bulletin, Number 222. Obstet Gynecol. 2020. [ACOG PB 222]
  • [12] Acute Fatty Liver of Pregnancy Presenting With Isolated Nausea and Vomiting in the Third Trimester: A Case Report. [PMC13525909]
  • [13] The chance of recurrence of hyperemesis gravidarum: A systematic review. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol X. 2020;5:100105. [DOI 10.1016/j.eurox.2019.100105]

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プロフィール
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。

2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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