目次
📍 クイックナビゲーション
妊娠高血圧症候群は、妊娠中に血圧が140/90mmHg以上になる病気で、以前は「妊娠中毒症」と呼ばれていました。妊婦さんの10〜20人に1人に起こるとされ、重症になると母体のけいれん発作(子癇)や脳出血、赤ちゃんの発育不全や常位胎盤早期剥離につながることがあります[1]。自覚症状がないまま進むことが多いため、妊婦健診での血圧・尿検査が早期発見のいちばんの手がかりです。この記事では、妊娠高血圧症候群の定義と4つの種類、なりやすい人、母体と赤ちゃんへのリスク、治療と予防の考え方を、学会の最新の基準に沿って解説します。
Q. 妊娠高血圧症候群とはどんな病気ですか?
A. 妊娠中に収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上になった状態をまとめた呼び名です。妊娠高血圧・妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症・高血圧合併妊娠の4つに分けられます。胎盤がうまくつくられないことが関わると考えられており、根本的な治療は妊娠を終えること(出産)です。それまでは安静、降圧薬、けいれん予防の薬などで母体と赤ちゃんを守ります。
- ➤頻度 → 妊婦さんの10〜20人に1人
- ➤重症の目安 → 160/110mmHg以上は厳重な管理が必要
- ➤なりやすい人 → 初産、40歳以上、肥満、多胎妊娠、高血圧・糖尿病・腎臓病、前回の妊娠で発症、家族に高血圧の人がいる など
- ➤予防 → 妊婦健診を欠かさないことが最も大切。前回の妊娠で妊娠高血圧腎症になった方には低用量アスピリンが検討される
妊娠高血圧症候群とは

妊娠高血圧症候群(Hypertensive Disorders of Pregnancy:HDP)は、妊娠中に高血圧がみられる病気の総称です。以前は「妊娠中毒症」と呼ばれ、日本で妊産婦が亡くなる原因の第1位だった時期もあります。管理が進んだ現在は亡くなる方は少なくなりましたが、いまも脳出血の原因になる、注意の必要な産科合併症です[1]。
日本妊娠高血圧学会は2018年に定義・分類を改め、「妊娠時に高血圧を認めた場合、妊娠高血圧症候群とする」としました[2]。高血圧とは、収縮期血圧(上の血圧)140mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)90mmHg以上のことです。とくに160mmHg以上、または110mmHg以上は重症で、厳重な管理が必要になります[1]。
頻度は、妊婦さんの10〜20人に1人(5〜10%)とされています[1][2][3]。病院で測ると高く出る「白衣高血圧」の妊婦さんも多いため、家庭血圧の測定が勧められることもあります[1]。
4つの種類と、発症時期による分類
妊娠高血圧症候群は、高血圧がいつから始まったか、蛋白尿や臓器の障害を伴うかによって、次の4つに分けられます[1][2]。
📋 妊娠高血圧症候群の4つの病型
| 病型 | 高血圧が始まった時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| 妊娠高血圧 | 妊娠20週以降に初めて | 蛋白尿はなく、出産後12週までに軽快する |
| 妊娠高血圧腎症 | 妊娠20週以降に初めて | 蛋白尿を伴う。蛋白尿がなくても、肝臓・腎臓の機能障害、子癇などの神経障害、血液凝固の異常、胎盤の機能低下による胎児の発育不全があれば、この型と診断される |
| 加重型妊娠高血圧腎症 | 妊娠前または妊娠20週より前から | もともとの高血圧に、20週以降に妊娠高血圧腎症の症状が加わったもの。もともと腎臓の病気がある方が20週以降に高血圧になった場合も含む |
| 高血圧合併妊娠 | 妊娠前または妊娠20週より前から | 出産まで加重型の症状が出なかったもの |
発症時期によって、妊娠34週より前に発症する「早発型」と、34週以降に発症する「遅発型」にも分けられます。早発型は重症化しやすいとされています[1]。以前の資料には「32週」で区切るものがありますが、これは改定前の基準です。
原因:カギを握るのは胎盤
妊娠高血圧症候群がなぜ起こるのかは、まだ完全にはわかっていません。ただ、赤ちゃんに栄養と酸素を届ける胎盤が、妊娠初期にうまくつくられないことが関わっていると考えられています。胎盤が十分に働かないと、母体はそれを補おうとして子宮や胎盤への血流を増やそうとし、その結果、血圧が上がるのではないかとされています[1]。胎盤の働きについては胎盤のしくみで詳しく解説しています。
妊娠高血圧症候群になりやすい人
日本産科婦人科学会は、次のような方を発症のリスクが高い人として挙げています[1]。
- もともと糖尿病・高血圧・腎臓の病気がある
- 肥満がある
- 年齢が高い(40歳以上)
- 家族に高血圧の人がいる
- 双子などの多胎妊娠
- 初めてのお産(初産)
- 以前の妊娠で妊娠高血圧症候群になったことがある
米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、このほかに母親や姉妹が妊娠高血圧腎症になったことがある場合や、体外受精による妊娠なども、リスクを高める要因に挙げています[6]。妊娠糖尿病とも関係が深く、両方に注意が必要な方もいます。ただし、リスク要因がまったくない方でも発症することがあります。
🧬 遺伝の視点:家族歴は大切な情報です
母親や姉妹が妊娠中に妊娠高血圧腎症になったことがある場合、発症のリスクが高くなることが知られています[6]。これは「1つの遺伝子で決まる病気」という意味ではなく、血圧や血管の体質、生活習慣などが家族の中で重なりやすいことを反映していると考えられます。家族歴は、妊娠初期に低用量アスピリンを検討するかどうかの判断材料にもなるため、思い当たる方は妊婦健診の早い時期に主治医へ伝えておきましょう。
妊娠高血圧症候群の母体へのリスク
妊娠高血圧症候群が重症になると、血圧上昇や蛋白尿に加えて、次のような重い合併症を起こすことがあります[1]。
- けいれん発作(子癇)
- 脳出血
- 肝臓や腎臓の機能障害
- HELLP症候群(溶血・肝酵素の上昇・血小板の減少が同時に起こる状態)
- 肺水腫(肺に水がたまり、呼吸が苦しくなる状態)
妊娠高血圧症候群の胎児へのリスク
胎盤の働きが落ちるため、赤ちゃんにも次のような影響が出ることがあります[1]。
- 胎児発育不全(赤ちゃんの発育が遅れる)
- 胎児機能不全(赤ちゃんの状態が悪くなる)
- 常位胎盤早期剥離(出産前に胎盤が子宮からはがれる)
- 胎児死亡
また、母体や赤ちゃんを守るために予定より早く出産する必要が生じ、早産になることもあります。常位胎盤早期剥離は、強いおなかの痛みや出血を伴う緊急性の高い状態です。
🚨 すぐにかかりつけの産婦人科へ連絡する症状
妊娠高血圧症候群に特徴的な症状はありませんが、次のような症状は要注意です[1]。
- 家庭で測った血圧が160/110mmHgを超える
- これまでに経験したことのない頭痛
- 目が見えにくい、目の前がチカチカする
- ろれつが回りにくい、手足が動きにくい
- いつもと違う胃(みぞおち)の痛みや吐き気
- 急に強くなったむくみ
入院の基準
血圧が140/90mmHgを超えたら安静が必要になり、家庭血圧が160/110mmHgを超える場合や、蛋白尿を伴う場合(妊娠高血圧腎症)は入院での管理が必要とされています[1]。入院中は、母体の血圧や血液検査に加え、赤ちゃんの発育や心拍も継続して確認し、異常があればすぐに対応できる体制をとります。入院期間は、母体と赤ちゃんの状態によって大きく異なります。
妊娠高血圧症候群の治療方法

妊娠高血圧症候群の根本的な治療は、妊娠を終えること(出産)です。安静や薬は、出産までの間に母体と赤ちゃんの安全を保つための対症療法です[1]。治療の進め方は、母体の状態と赤ちゃんの週数・発育をあわせて、主治医が判断します。
安静にする
血圧が140/90mmHgを超えたら、安静が必要とされています[1]。どの程度の安静が必要か、仕事や家事をどこまで続けてよいかは、血圧の値や病型によって変わります。自己判断で決めずに、主治医の指示に従いましょう。食事では、主治医から塩分やエネルギーについて指示が出ることがあります。
薬剤治療
血圧が高い場合は、妊娠中にも使える降圧薬で血圧を下げます。日本の『産婦人科診療ガイドライン 産科編2023』では、160/110mmHg以上はすべて緊急に血圧を下げる対象とされました[4]。ただし、血圧を下げすぎると胎盤への血流が減るおそれがあるため、目標とする値は主治医が慎重に決めます。また、けいれん発作(子癇)を防ぐために、硫酸マグネシウムが点滴で使われることもあります[1]。
これらの薬は病気そのものを治すものではなく、出産までの時間を安全に確保するための治療です。自己判断で服薬を中断したり、量を変えたりしないでください。
早めの出産
妊娠を続けると母体や赤ちゃんが危険な状態になると判断された場合は、赤ちゃんがまだ未熟な時期であっても、陣痛促進剤による分娩誘発や帝王切開で妊娠を終えることがあります[1]。分娩の方法は、母体の状態、赤ちゃんの週数や状態によって選ばれます。週数が早い場合は、母体の安全を最優先にしながら、できるだけ赤ちゃんの成熟を待つ方針がとられることもあります。
高血圧の多くは出産後に改善しますが、なかなか下がらない方もいるため、産後も血圧のフォローが必要です[1]。
🩺 院長コラム【「血圧の数字」は母と子の両方の情報】
妊娠中の血圧は、お母さん自身の体の状態を映すと同時に、胎盤がきちんと働いているかどうかを知るための大切な手がかりでもあると考えています。妊娠高血圧症候群は自覚症状が乏しく、健診で初めて気づかれることが多い病気です。
だからこそ、健診を予定どおり受けること、家庭で血圧を測るよう言われたら記録を続けること、そして頭痛や目の見えにくさなど「いつもと違う」と感じたら遠慮せずに連絡することが、母体と赤ちゃんを守るいちばん確実な方法だと考えています。
妊娠高血圧症候群の予防方法

妊娠高血圧症候群の早期発見と早期治療のために最も大切なのは、定期的に妊婦健診を受けて、適切な産科管理を受けることです[1]。そのうえで、ふだんの生活では次のような点が基本になります。生活習慣を整えることは大切ですが、それだけで確実に発症を防げるわけではありません。
体重管理を行う
肥満は妊娠高血圧症候群のリスク要因です[1]。妊娠中の体重の増え方の目安は、妊娠前の体格によって異なります。毎日決まった時間に体重を測ると、増え方の変化に気づきやすくなります。急に体重が増えた場合は、むくみが隠れていることもあるため、健診で相談しましょう。一方で、極端に食事を減らすことは赤ちゃんの発育に影響するおそれがあるため、自己流の制限は避け、主治医や助産師の指導を受けてください。
塩分を控える
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人女性の食塩摂取量の目標量は1日6.5g未満とされています。令和5年の国民健康・栄養調査では、日本人の1日の食塩摂取量の平均は9.8gで、多くの人が目標を上回っています[7]。ふだんの食事で取りすぎないように気をつけることは大切です。ただし、妊娠中の極端な減塩は食欲や栄養にも影響するため、塩分を厳しく制限するかどうかは主治医の指示に従いましょう。
休息を取る
十分な睡眠と休息をとり、疲れをためないことも大切です。家事や仕事は、こまめに休憩をはさみながら無理のない範囲で行いましょう。高血圧を指摘された場合の活動の制限については、主治医の指示に従ってください。
前回の妊娠で発症した方:低用量アスピリン
予防のための薬として研究が進んでいるのが、低用量アスピリンです。日本の『産婦人科診療ガイドライン 産科編2023』では、妊娠高血圧腎症を発症した女性に対して、再発予防のために次の妊娠で低用量アスピリンの服用を考慮するとしています[4]。
海外では、妊娠初期のリスク評価で早期の妊娠高血圧腎症のリスクが高いと判定された妊婦さんを対象に、妊娠11〜14週から36週まで1日150mgのアスピリンを服用した試験で、37週未満の妊娠高血圧腎症が4.3%から1.6%に減ったと報告されています[5]。米国では、リスクの高い妊婦さんに妊娠12週以降の低用量アスピリン(1日81mg)が勧められています[6]。
アスピリンは出血しやすくなるなどの副作用もあり、自己判断で飲むものではありません。対象になるかどうか、いつからいつまで飲むかは、かかりつけの産婦人科で相談してください。
出産後の健康と、次の妊娠
妊娠高血圧症候群になった方は、将来、高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を発症するリスクが高いことがわかっています[1]。出産後も、塩分やエネルギーのとりすぎに気をつけ、定期的に運動して体重を適正に保つことが大切です。産後の健診や自治体・職場の健康診断で、血圧を測り続けましょう。
次の妊娠を考えるときは、前回の妊娠で妊娠高血圧症候群になったことを、妊娠の早い時期に主治医へ伝えてください。前述の低用量アスピリンを検討するかどうかにも関わります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 妊娠高血圧症候群と妊娠中毒症は同じですか?
はい、妊娠中毒症は妊娠高血圧症候群の以前の呼び名です。現在は、妊娠中に高血圧がみられる状態を妊娠高血圧症候群と呼び、妊娠高血圧・妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症・高血圧合併妊娠の4つに分けています。
Q2. 血圧がいくつから妊娠高血圧症候群ですか?
収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)が90mmHg以上で診断されます。160mmHg以上、または110mmHg以上は重症で、厳重な管理が必要です。家庭血圧が160/110mmHgを超えたら、すぐにかかりつけの産婦人科へ連絡してください。
Q3. 自覚症状はありますか?
特徴的な症状はなく、妊婦健診の血圧測定や尿検査で見つかることが多い病気です。ただし、経験したことのない頭痛、目の見えにくさ、ろれつが回りにくい、手足が動きにくい、いつもと違う胃の痛みや吐き気がある場合は、すぐに産婦人科へ連絡してください。
Q4. 妊娠高血圧症候群は治りますか?
根本的な治療は妊娠を終えること(出産)で、高血圧は出産後に改善することがほとんどです。ただし、なかなか下がらない方もいるほか、将来、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病になるリスクが高いため、産後も血圧の確認を続けることが大切です。
Q5. 予防のためにアスピリンを飲んだほうがよいですか?
日本のガイドラインでは、妊娠高血圧腎症を発症したことのある女性に対して、次の妊娠で再発予防のために低用量アスピリンの服用を考慮するとしています。出血しやすくなるなどの副作用もあるため、自己判断では飲まず、対象になるかどうかをかかりつけの産婦人科で相談してください。
Q6. 家族に妊娠高血圧症候群になった人がいると、なりやすいですか?
母親や姉妹が妊娠高血圧腎症になったことがある場合、発症のリスクが高くなることが知られています。また、家族に高血圧の人がいることもリスク要因の1つです。家族歴は予防策を考えるうえでの大切な情報なので、妊娠初期のうちに主治医へ伝えておきましょう。
まとめ
妊娠高血圧症候群は、妊娠中に血圧が140/90mmHg以上になる病気で、妊婦さんの10〜20人に1人に起こります。胎盤がうまくつくられないことが関わると考えられており、重症になると母体のけいれん発作や脳出血、赤ちゃんの発育不全や常位胎盤早期剥離につながることがあります[1]。根本的な治療は出産で、それまでは安静や降圧薬、けいれん予防の薬で母体と赤ちゃんを守ります。
自覚症状が乏しいため、妊婦健診を欠かさず受けることが何よりの予防策です。前回の妊娠で妊娠高血圧腎症になった方には低用量アスピリンが検討されます[4]。また、出産後も将来の生活習慣病に備えて、血圧の確認を続けましょう。
🧬 妊娠中の検査のご相談はミネルバクリニックへ
ミネルバクリニックには臨床遺伝専門医が常駐し、NIPT(新型出生前診断)をはじめとする妊娠中の検査について、検査前から結果のご説明まで専門医が対応しています。妊娠高血圧症候群の診断や治療など妊娠経過の管理は、かかりつけの産婦人科で受けてください。
参考文献
- [1] 日本産科婦人科学会. 妊娠高血圧症候群(産科・婦人科の病気). 2025年1月30日更新. [日本産科婦人科学会]
- [2] 国立成育医療研究センター. 妊娠高血圧症候群(Hypertensive Disorders of Pregnancy: HDP). [国立成育医療研究センター]
- [3] Umesawa M, Kobashi G. Epidemiology of hypertensive disorders in pregnancy: prevalence, risk factors, predictors and prognosis. Hypertens Res. 2017;40(3):213-220. [doi:10.1038/hr.2016.126]
- [4] 日本産婦人科医会. 研修ノート No.115「(3)妊娠高血圧症候群(HDP)」(産婦人科診療ガイドライン産科編2023 CQ309-2 を引用). [日本産婦人科医会]
- [5] Rolnik DL, Wright D, Poon LC, et al. Aspirin versus Placebo in Pregnancies at High Risk for Preterm Preeclampsia. N Engl J Med. 2017;377(7):613-622. [PubMed 28657417]
- [6] US Preventive Services Task Force. Aspirin Use to Prevent Preeclampsia and Related Morbidity and Mortality: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA. 2021;326(12):1186-1191. [PubMed 34581729]
- [7] 農林水産省. 食塩の取りすぎに注意(「日本人の食事摂取基準(2025年版)」・令和5年国民健康・栄養調査の数値を掲載). [農林水産省]





