目次
妊娠初期に気をつけることの中心は、お酒とたばこをやめること、自己判断で薬を飲まないこと、加熱が不十分な食品を避けること、そして葉酸をとることです。妊娠4〜7週は赤ちゃんの心臓や脳などの重要な臓器がつくられる時期で、薬や放射線の影響を最も受けやすいとされています。一方で、妊娠初期の流産の多くは赤ちゃん側の染色体の変化によるもので、日常の過ごし方が原因になることはほとんどありません。この記事では、時期別の注意点から出生前検査の時期まで、臨床遺伝専門医が解説します。
Q. 妊娠初期に絶対にやってはいけないことは何ですか?
A. 飲酒と喫煙は、妊娠がわかった時点でやめてください。妊娠中の飲酒には安全とわかっている量がありません。そのほか、市販薬やサプリメントを自己判断で飲むこと、生ハムや加熱殺菌されていないナチュラルチーズ、加熱が不十分な肉を食べること、転倒やお腹を打つ恐れのある運動は避けるようにします。カフェインや運動、仕事は「やめる」ではなく「量や内容を調整する」ものです。
- ➤時期別の考え方 → 3週までは「全か無かの法則」、4〜7週は薬と放射線に最も注意する時期
- ➤カフェイン → 1日200mg(マグカップ2杯程度)までが目安
- ➤葉酸 → 妊娠前4週〜12週、サプリメントで1日400μg
- ➤流産と行動 → 初期流産の多くは染色体の変化によるもので、行動が原因になることはほとんどない
- ➤出生前検査 → 妊娠初期は、NIPTなどの検査について知っておきたい時期
1. 妊娠初期に気をつけることは?まず押さえたい7つのポイント
妊娠初期に気をつけることは、大きく「やめること」「量を守ること」「とること」に分けて考えると整理しやすくなります。やめることは飲酒と喫煙、量を守ることはカフェイン、とることは葉酸です。そこに、薬の使い方、食品の衛生、感染症の予防が加わります。
調べるほど禁止事項が増えていくように感じるかもしれませんが、医学的な根拠がはっきりしているものは多くありません。下の表の7項目を押さえておけば、日常生活の大部分は妊娠前と大きく変える必要はありません。
📋 妊娠初期に気をつけること 7つのポイント
| 項目 | 目安・考え方 | 区分 |
|---|---|---|
| ① 飲酒 | 妊娠中に安全とわかっている量はない。妊娠がわかったらやめる | やめる |
| ② 喫煙・受動喫煙 | 本人の喫煙に加え、周囲のたばこの煙も避ける | やめる |
| ③ 薬・サプリメント | 市販薬は自己判断で飲まない。持病の薬は自己判断でやめない | 相談する |
| ④ 加熱が不十分な食品 | 生ハム、加熱殺菌されていないナチュラルチーズ、スモークサーモン、生焼けの肉など | 避ける |
| ⑤ カフェイン | 1日200mg(マグカップ2杯程度)まで | 量を守る |
| ⑥ 葉酸 | 妊娠前4週〜妊娠12週、サプリメントで1日400μg | とる |
| ⑦ 感染症予防 | 手洗い、肉の十分な加熱、土や猫のフンを扱うときの手袋 | 予防する |
※各項目の根拠は、本文の該当箇所で出典とともに説明しています。
運動や仕事、通勤は「やめる」ものではなく、体調に合わせて「調整する」ものです。「動いたから」流産するわけではないことは第9章で説明します。
いまの体調の変化が妊娠によるものかどうかを知りたい方は、妊娠超初期の症状とチェックリストをご覧ください。症状だけで妊娠は判断できないため、検査薬と受診で確認してください。
2. 妊娠初期とはいつからいつまで?時期別の注意点
産科診療では、妊娠13週6日までを「妊娠初期(妊娠第1三分期)」とするのが目安です。妊娠週数は、最後の生理が始まった日を「妊娠0週0日」として数えます。そのため、妊娠0〜2週はまだ妊娠が成立していない時期にあたり、排卵はおよそ妊娠2週、受精卵が子宮内膜に着床するのは妊娠3週ごろです。妊娠0〜3週ごろを「妊娠超初期」と呼ぶこともありますが、これは正式な医学用語ではありません。
薬や放射線が胎児に与える影響は、赤ちゃんの体がつくられる段階によって違うため、妊娠週数と結びつけて考えるのが基本です[1]。
妊娠超初期(0〜3週):「全か無かの法則」
受精後約2週間(最終月経開始日から数える妊娠2〜3週ごろ)は、「全か無か(all or none)」の時期と呼ばれます[1]。この時期の受精卵は役割の決まっていない細胞の集まりで、影響が大きければ妊娠が続かず、小さければ残った細胞が補って影響を残さずに育つと考えられています。
ただし、この法則は薬や放射線の影響を考えるための概念で、飲酒には当てはめません(第3章参照)。受精日には個人差があるため、どの時期にあたるかは医師に確認してください。
💡 用語解説:全か無かの法則(all or none)
受精後約2週間(最終月経開始日から数える妊娠2〜3週ごろ)に、薬や放射線などの影響を受けた場合の考え方です。影響が大きければ妊娠がそれ以上続かず、影響が小さければ残った細胞が補って、形態異常(奇形)を残さずに育つとされます。「影響が残るか、まったく残らないか」の二択になることから、この名前で呼ばれます。
妊娠4〜7週:器官形成期は薬と放射線に最も注意
妊娠4〜7週は、心臓や脳、手足などの重要な臓器がつくられる時期で、形態異常が起こりやすい「絶対過敏期」とされています[1]。「妊娠5週目に気をつけること」を調べる方が多いのは、ちょうどこの時期に生理の遅れから妊娠に気づくことが多いからです。
器官形成期に特に注意したいのは、薬とレントゲンなどの放射線です。市販薬を自己判断で飲まないこと、病院や歯科を受診するときには妊娠していることを伝えることが基本になります。持病の薬は自己判断でやめず、処方している医師に早めに相談してください。
妊娠8〜15週:つわりと体調の変化
妊娠8〜15週は、主な臓器の形はできあがりつつあるものの、口蓋(口の中の上あご)や外性器がつくられる時期で、引き続き慎重な対応が必要とされます[1]。妊娠4〜7週の絶対過敏期に対して、「相対過敏期」と呼ばれることもあります。
体調の面では、つわりが強くなりやすい時期です。食べられるものを少しずつとり、水分もとれない、尿が極端に減ったといった場合は、妊娠悪阻(にんしんおそ)の可能性があるため受診してください。
自然流産のほとんどは妊娠12週までに起こるため、12週を過ぎるころから流産の頻度は下がっていきます[2]。妊娠16週以降は、形態異常よりも、胎児の臓器の働きへの影響が問題になる時期に移ります[1]。
3. 妊娠初期にしてはいけないこと
妊娠初期にしてはいけないこととして根拠がはっきりしているのは、飲酒、喫煙、自己判断での服薬、そして転倒やお腹を打つ恐れのある行動です。
飲酒
妊娠中の飲酒には、安全とわかっている量がありません。妊娠がわかったら、その時点でお酒をやめてください。米国疾病予防管理センター(CDC)は、妊娠の最初の数週間、つまり妊娠に気づく前の飲酒であっても、生涯にわたる身体・行動・知的な障害を引き起こし得るとしています。これらは胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)と呼ばれます。ビールやワインを含め、妊娠のどの時期にも安全といえる飲酒量は知られていません[3]。
アルコールは胎盤を通って赤ちゃんに届き、脳や体の発達に影響することがあります。胎児性アルコール・スペクトラム障害は、妊娠中にお酒を飲まなければ防ぐことができる障害です[3]。妊娠を考えている時期から、お酒を控えておくことが勧められています[3]。
ノンアルコール飲料は「0.00%」表示のものを選んでください。胎児性アルコール症候群の詳しい内容は、胎児性アルコール症候群と喫煙・カフェインの影響で解説しています。
喫煙・受動喫煙
たばこは、妊娠がわかった時点ですぐにやめてください。周囲の人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙も、できるだけ避けます。たばこの煙に含まれるニコチンや一酸化炭素は、血管を細くしたり、血液が運ぶ酸素の量を減らしたりします。その結果、胎盤を通して赤ちゃんに届く酸素や栄養が少なくなり、赤ちゃんの発育に影響することがあります。
妊娠中の喫煙は、流産や早産、赤ちゃんの低体重などとの関連が指摘されています。加熱式たばこも安全とは考えないでください。家族が吸う場合は、家の中や近くで吸わないよう協力してもらいます。妊娠中のたばこの影響については、妊娠中のタバコ・受動喫煙の影響で詳しく解説しています。
自己判断での薬・サプリメント
市販薬やサプリメントは、自己判断で飲まないでください。一方で、持病の薬を自己判断でやめることも避けてください。妊娠初期の症状は、微熱やだるさ、頭痛など風邪と似ているため、気づかずに風邪薬を飲んでしまうことがあります。妊娠の可能性があるときは、市販薬を使う前に医師や薬剤師に相談するのが基本です。
薬について考えるときに知っておきたいのは、赤ちゃんの先天的な形態異常は、薬を使っていなくても一定の割合で起こるということです。一般的な先天奇形の発生率は、3〜5%程度とされています[4]。薬の影響を評価するときは、このもともとの頻度より高くなるかどうかで判断します。
サプリメントも注意が必要です。成分や量によっては妊娠中に適さないものがあり、たとえばビタミンAのとりすぎには注意が必要です。
妊娠中に使える薬や、妊娠週数ごとの薬の影響については、妊娠中の薬との付き合い方で詳しく解説しています。
転倒や腹部を打つ恐れのある運動・動作
避けたいのは運動そのものではなく、転倒したりお腹を強く打ったりする恐れのある運動や動作です。米国産科婦人科学会(ACOG)は、産科的・内科的な合併症や運動を控えるべき理由がなければ、妊娠中の運動は安全で望ましいものであり、続けたり始めたりすることを勧めています。妊娠前から運動習慣があった方は、妊娠中もその運動を続けてよいとされています[5]。
目安とされているのは、早歩き程度の中くらいの強さの有酸素運動を、1週間に合計150分です。1日あたり20〜30分を、週の多くの日に分けて行うイメージです[5]。
一方、スキューバダイビングや、ボールが当たる・人とぶつかるなどお腹に外傷を受ける恐れのあるスポーツは避けるよう示されています。また、妊娠初期は特に、暑い場所や湿度の高い環境での運動を避け、水分をこまめにとって、体に熱がこもらないようにすることが勧められています[5]。
踏み台に乗る、かかとの高い靴で急ぐといった転びやすい動作は控えめにし、お腹の張りや出血があるときは運動を中止してください。妊娠初期の運動はどこまで大丈夫かもあわせてご覧ください。
4. 注意すればよいこと・相談が必要なこと
カフェイン、レントゲン、仕事、性行為や旅行などは、量や状況に注意すれば続けられることが多いものです。
カフェインの量の目安
妊娠中のカフェインは、1日200mgまでが目安です。コーヒーならマグカップで2杯程度にあたります。厚生労働省によると、英国食品基準庁(FSA)は、妊婦がカフェインをとりすぎると赤ちゃんが低体重で生まれ、将来の健康リスクが高くなる可能性があるとして、1日のカフェインを200mg(コーヒーをマグカップで2杯程度)までに制限するよう求めています。世界保健機関(WHO)は、妊婦にコーヒーを1日3〜4杯までにするよう呼びかけています[6]。
米国産科婦人科学会は、1日200mg未満の中程度のカフェイン摂取は、流産や早産の主な原因にはならないようだとしています。一方で、赤ちゃんの発育への影響や、多量のカフェインと流産の関係については、まだ結論が出ていないとしています[7]。
カフェインはコーヒーだけでなく、緑茶や紅茶、ウーロン茶、コーラ、チョコレートにも含まれます。特に注意したいのはエナジードリンクで、1本にコーヒー2〜3杯分に相当するカフェインを含むものもあります[8]。妊娠に気づく前にコーヒーを毎日飲んでいた場合でも、気づいた時点から量を調整すれば十分です。
レントゲン・歯科治療
レントゲン検査を受けるときは、妊娠の可能性があることを必ず伝えてください。ただし、通常の画像検査で赤ちゃんが受ける放射線の量は、影響が出るとされる量よりずっと少ないとされています。米国産科婦人科学会は、ごく一部の例外を除き、レントゲン、CT、核医学検査による被ばくは、胎児に害が出るとされる線量よりはるかに低いとしています。必要な検査であれば、妊婦だからといって控えるべきではないという立場です[9]。
具体的な数字で見ると、胸部レントゲンで胎児が受ける線量は0.01mGy未満で、目安とされる50mGyを超えるには、5,000回以上撮影する必要があると示されています[10]。
ただし、お腹や骨盤のCTは胎児の線量が高くなるため、検査の必要性は医師が判断します。歯科治療も、妊娠を伝えたうえで歯科医師と相談してください。
仕事・通勤
仕事は、体調に合わせて負担を調整しながら続けることができます。立ち仕事や長時間の通勤がつらいときは早めに職場に相談し、医師の指導内容を職場に伝える「母性健康管理指導事項連絡カード」も活用できます。つわりがつらいときの働き方や、妊婦を守るための制度については、妊娠初期に仕事がしんどいときの対処と制度で解説しています。
性行為・旅行・自転車
性行為や旅行、自転車は、妊娠初期に一律で禁止されているものではありません。出血やお腹の痛み、張りがあるときは控えるのが基本です。医師から安静を指示されている場合は、その指示に従ってください。
性行為の際は、感染症の予防のためにコンドームを使うことが勧められます。旅行は体調の悪い時期を避けて移動の負担を少なくし、自転車は転倒の恐れがある雨の日や混雑した道を避けてください。
妊娠初期の性行為については、妊娠初期の性行為はいつからOKかで詳しく解説しています。
5. 妊娠初期の食べ物で気をつけること
妊娠初期の食事で押さえたいのは、「葉酸をとること」と「加熱が不十分な食品を避けること」の二つです。食事全体を完璧にしようとするより、この二つを確実に守ることを優先してください。
とりたい栄養(葉酸・鉄)
葉酸は、妊娠前4週から妊娠12週まで、サプリメントで毎日400μg(0.4mg)とることが勧められています。日本先天異常学会は、妊娠を計画している女性、または妊娠中と考えられる女性がこの期間に葉酸サプリメントをとると、赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクが下がるとしています[11]。
神経管閉鎖障害は、脳や脊髄のもとになる「神経管」がうまく閉じないことで起こる生まれつきの病気で、二分脊椎や無脳症などが含まれます。神経管は妊娠6週ごろ(受精後4週ごろ)に閉じるため、妊娠に気づいてから飲み始めるのでは間に合わないことがあります[12]。そのため、妊娠を考えている時期から飲み始めることが勧められています。
葉酸の効果は、無作為化比較試験で確かめられています。過去に神経管閉鎖障害のある赤ちゃんを妊娠したことがある女性を対象とした英国などの研究では、葉酸をとったグループで72%の予防効果が示されました[13]。米国予防医学専門委員会(USPSTF)も、妊娠を計画している、または妊娠の可能性があるすべての人に、1日0.4〜0.8mgの葉酸サプリメントを最も強い推奨度(グレードA)で勧めています[14]。
なお、過去に神経管閉鎖障害のある子を妊娠したことがある方や、家族に神経管閉鎖障害の方がいる場合は、通常より多い量を医師の管理のもとでとる必要があるため、医療機関で相談してください[11]。鉄も妊娠中に必要量が増えるため、赤身の肉や魚、大豆製品から意識してとってください。葉酸のとり方や食べ物は、葉酸サプリメントの効果で解説しています。
💡 用語解説:神経管閉鎖障害(しんけいかんへいさしょうがい)
赤ちゃんの脳や脊髄は、妊娠のごく初期に「神経管」という管の形からつくられます。この管がうまく閉じないと、背骨の一部が開いた状態になる二分脊椎(にぶんせきつい)や、脳が十分につくられない無脳症などが起こります。これらをまとめて神経管閉鎖障害と呼びます。葉酸のサプリメントでリスクを下げられることが知られている先天異常です。
避けたい食べ物
妊娠初期に避けたいのは、リステリア菌やトキソプラズマに汚染されている可能性がある、加熱されていない食品です。リステリア菌は、河川の水や動物の腸などに広く存在する細菌で、熱には弱い一方、4℃以下の低温や塩分の多い食品の中でも増えることができます。健康な大人が感染しても、軽い胃腸炎や無症状で済むことが多い菌です[15]。
妊娠中は、母体が重い症状になることはまれでも、胎児や新生児に感染の影響が出ることがあります。厚生労働省は、欧米でのリステリア食中毒の主な原因食品として、加熱殺菌されていないナチュラルチーズ、生ハム、肉や魚のパテ、スモークサーモンを挙げています[15]。これらは食べる前に加熱するか、妊娠中は控えるようにしてください。
トキソプラズマは、加熱が不十分な肉や、猫のフン、フンで汚れた土を介して感染する原虫です。妊娠中に初めて感染して赤ちゃんに感染すると、流産や死産の原因になったり、脳や目に障害が生じたりすることがあります。肉は中心まで十分に加熱し、ユッケや馬刺し、鶏刺し、生ハム、サラミ、生乳などは避けてください。ガーデニングや猫のトイレの掃除をするときは手袋をつけ、終わったら手を流水でよく洗います[16]。
このほか、一部の魚は種類と量に、レバーなどビタミンAの多い食品はとりすぎに注意し、生卵は食中毒予防のため加熱してください。食べてよいもの・控えたいものの具体例は、妊娠初期におすすめの食べ物・控えたい食べ物で解説しています。
6. 妊娠初期に気をつけたい感染症
妊娠中に初めて感染すると、赤ちゃんに影響が出ることがある感染症がいくつかあります。予防の基本は、手洗い、食品の十分な加熱、感染している可能性のある人との接触を避けることです。お母さんから赤ちゃんへの感染を「母子感染」と呼びます。
🦠 妊娠中に特に気をつけたい感染症
| 感染症 | 赤ちゃんへの主な影響 | 予防・対策のポイント |
|---|---|---|
| 風しん | 妊娠初期の感染で、白内障、心臓の病気、難聴などが生じることがある | 抗体がなければ流行時の人混みを避ける。家族の予防接種 |
| 水ぼうそう(水痘) | 皮膚や目などに異常が生じることがある | 感染者との接触を避ける |
| ヒトパルボウイルスB19(りんご病) | 胎児に感染すると、流産の原因になることがある | 子どもの流行時に手洗い・マスク |
| サイトメガロウイルス | 難聴などの障害が生じることがある | 小さな子どもの唾液や尿に触れた後の手洗い |
| トキソプラズマ | 流産・死産や、脳・目の障害の原因になることがある | 肉の十分な加熱、土や猫のフンを扱うときの手袋 |
| 性器クラミジア | 気づかずに出産すると、新生児の肺炎や結膜炎の原因になる | 妊婦健診の検査で確認し、陽性なら治療 |
| B群溶血性連鎖球菌(GBS) | 産道で感染すると、新生児の敗血症や髄膜炎の原因になることがある | 妊娠後期の妊婦健診で検査 |
※東京都「母子感染について」[16]をもとに作成。
この中でも、サイトメガロウイルスは、上の子がいる家庭で特に気をつけたい感染症です。子どもと食器を共有しない、おむつ替えの後に手を洗うといった対策が勧められます。先天性サイトメガロウイルス感染症の詳しい内容は、先天性サイトメガロウイルス感染症とはで解説しています。
これらの感染症の中には、頭文字をとってTORCH(トーチ)症候群とまとめて呼ばれるものがあります。風しんの抗体は妊娠初期の血液検査で確認され、抗体がない場合は同居する家族の予防接種が勧められます。
妊娠初期に高い熱が出たときも、原因を確かめるために受診してください。発熱が赤ちゃんに与える影響については、妊娠初期に高熱が出たときの赤ちゃんへの影響で解説しています。
7. 妊娠初期の体の変化と受診の目安(下痢・腹痛・頭痛・冷え・出血)
妊娠初期は、ホルモンの変化によって、下痢や便秘、下腹部の違和感、頭痛、寒気など、さまざまな体の変化が起こりやすい時期です。多くは自然な変化ですが、受診が必要な症状もあります。
妊娠すると、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)や、黄体ホルモン(プロゲステロン)などのホルモンが増えます。プロゲステロンは腸の動きにも影響するため、便秘や下痢、お腹の張りを感じやすくなります。
軽い下腹部痛は子宮が大きくなる過程で、頭痛はホルモンの変化や睡眠不足で起こることがあります。鎮痛薬を使いたい場合は医師や薬剤師に相談してください。寒気や手足の冷えを感じる方もいますが、冷えそのものが流産の原因になるという根拠はありません。体調を整えるために、温かい飲み物や入浴、靴下などで体を温めるのはよい方法です。
⚠️ すぐに受診したい症状
生理の多い日のような量の出血や、塊が出る出血、我慢できないほどの強い腹痛、片側の下腹部の強い痛み、38℃以上の発熱、水分もとれないほどの吐き気や嘔吐、めまいや意識が遠のく感じがある場合は、夜間や休日でも産婦人科に連絡してください。妊娠初期の強い腹痛や出血は、流産や子宮外妊娠などの可能性もあるため、自己判断で様子を見続けないようにします。
症状ごとの詳細は、妊娠初期の腹痛、妊娠初期の頭痛、妊娠超初期の寒気、妊娠初期の出血の各記事をご覧ください。
8. 「知らずにしてしまった」ときの考え方
妊娠に気づく前にお酒を飲んだ、風邪薬を飲んだ、レントゲンを撮った、という場合は、まず「いつ(妊娠何週ごろ)」「何を」「どのくらい」したのかを整理し、妊婦健診のときなどに医師に伝えてください。
薬の場合、受精後約2週間(最終月経開始日から数える妊娠2〜3週ごろ)は「全か無か」の時期にあたり、影響が残るか、まったく残らないかのどちらかになると考えられています[1]。妊娠4〜7週は影響を受けやすい時期ですが、そもそも赤ちゃんの先天的な形態異常は、薬と関係なく3〜5%程度の頻度で起こります[4]。薬の影響は、このもともとの頻度と比べて高くなるかどうかで評価されるため、飲んだ薬の名前と量、飲んだ時期を控えておくことが大切です。
レントゲンについては、胸部の撮影で胎児が受ける線量は0.01mGy未満とごくわずかです[10]。通常の検査を1回受けたことで、赤ちゃんに影響が出る線量に届くことは考えにくいとされています[9]。
お酒については、薬のように「全か無か」の時期として考えることはしません。妊娠に気づく前の飲酒でも影響があり得るとされているためです[3]。ただ、すでに飲んでしまったことは変えられません。気づいた時点でやめることが、いまできる対応です。不安が強い場合は、飲んだ量や時期を含めて妊婦健診で医師に相談してください。
🩺 院長コラム【「知らずにしてしまった」を整理するために】
妊娠に気づく前の薬や飲酒について影響を評価するときは、妊娠何週ごろに、何をどのくらい使用・摂取したのかという事実を整理することが基本です。
赤ちゃんの先天的な形態異常は、薬剤曝露がなくても3〜5%程度の背景頻度で起こります。すでに起きた曝露については、時期・種類・量を確認してリスクを評価し、妊娠がわかった時点から必要な対応を行うことが重要です。
9. 流産は自分の行動のせい?
妊娠初期の流産の多くは、受精卵の染色体の変化によるもので、お母さんの仕事や運動、日常生活が原因になることはほとんどありません。国立成育医療研究センターは、自然流産は全妊娠の8〜15%くらいの割合で起こる比較的多いもので、そのほとんどが妊娠12週までの早期流産であると説明しています。この時期の流産の50〜60%は受精卵の染色体の病気によるもので、赤ちゃん側に原因があり、お母さんの日常生活などに起因するものではないとしています[2]。
染色体の変化の多くは、卵子や精子がつくられる過程で偶然起こるもので、妊娠後の過ごし方で防いだり起こしたりできるものではありません。
流産のリスクは年齢によって変わります。ノルウェーで42万件を超える妊娠を調べた研究では、流産のリスクは25〜29歳で最も低い10%で、30歳を過ぎると急に上がり、45歳以上では53%でした[17]。背景には卵子の染色体の数の変化がありますが、これは集団での割合で、一人ひとりの確率ではありません。
卵子で染色体の数の変化が起こる仕組みは、なぜ卵子で染色体異常が起こるのかで臨床遺伝専門医の立場から解説しています。流産の兆候や、流産と関連するといわれる行動については、妊娠初期に流産しやすい行動とはをご覧ください。
10. 遺伝の視点:妊娠初期は出生前検査を考え始める時期
妊娠初期は、生活の注意点に加えて、赤ちゃんの染色体などを調べる出生前検査について知り、受けるかどうかを考え始める時期でもあります。染色体の変化は、妊娠中の過ごし方では防げません。
葉酸で防げるものと、NIPTでわかるものは違う
第5章で説明した神経管閉鎖障害は、葉酸をとることでリスクを下げられる先天異常です[11]。一方、ダウン症候群(21トリソミー)などの染色体の数の変化は、葉酸をとっても防ぐことはできません。反対に、神経管閉鎖障害は染色体の変化ではないため、NIPTの対象ではなく、主に超音波検査で評価されます。
葉酸は「予防」、出生前検査は「赤ちゃんの状態を知ること」で、目的が違うため一方がもう一方の代わりにはなりません。葉酸と神経管閉鎖障害、ダウン症候群との関係は、葉酸でダウン症・二分脊椎は防げるかで詳しく解説しています。
出生前検査の種類と受けられる時期
出生前検査には、お母さんの血液を使うNIPT(新型出生前診断)のような非確定的検査と、羊水検査や絨毛検査のような確定的検査があります。NIPTは流産の心配のない採血だけの検査ですが、陽性の結果が出た場合は、羊水検査などで確定する必要があります。日本では、2022年から日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会の指針に基づいて、NIPTを行う医療機関の認証制度が始まっています[18]。
受けられる時期は検査の種類や施設によって異なるため、妊娠がわかった早い段階で情報を集めておくと、時期を逃さずに検討できます。検査の時期についてはNIPTはいつからいつまで受けられるか、検査の種類と違いについては出生前診断の種類一覧で解説しています。
検査でわかること・わからないことを理解したうえで判断できるよう、検査の前後には遺伝カウンセリングで説明を受けることが大切です。
🩺 院長コラム【生活で変えられることと、変えられないこと】
妊娠初期の流産の多くには、受精卵の染色体の変化が関与しています。こうした染色体の変化の多くは、妊娠後の日常生活によって生じるものではありません。
お酒やたばこ、薬、食品の衛生、葉酸といった「生活で変えられること」には適切に対応し、そのうえで、染色体など「生活では変えられないこと」については、出生前検査で調べられる項目があります。検査を受けるかどうかは、検査でわかること・わからないことを理解したうえで選択します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 妊娠初期に絶対にやってはいけないことは何ですか?
飲酒と喫煙です。妊娠中の飲酒には安全とわかっている量がなく、妊娠に気づく前の飲酒でも赤ちゃんに影響し得るとされています。このほか、市販薬やサプリメントを自己判断で飲むこと、加熱が不十分な肉や生ハム、ナチュラルチーズを食べること、転倒やお腹を打つ恐れのある運動は避けてください。
Q2. 妊娠初期にコーヒーは1日何杯まで飲めますか?
カフェインは1日200mgまでが目安で、コーヒーならマグカップで2杯程度です。緑茶や紅茶、コーラ、チョコレート、エナジードリンクにもカフェインが含まれるため、合計の量で考えてください。1日200mg未満の中程度の摂取は、流産や早産の主な原因にはならないと考えられています。
Q3. 妊娠に気づかずに薬を飲んでしまいました。大丈夫ですか?
影響の考え方は、飲んだ時期と薬の種類によって違います。受精後約2週間(最終月経開始日から数える妊娠2〜3週ごろ)は「全か無か」の時期にあたり、影響が残るかまったく残らないかのどちらかと考えられています。妊娠4〜7週は影響を受けやすい時期ですが、すべての薬が危険なわけではありません。飲んだ薬の名前と量、時期を控えて、医師や薬剤師に相談してください。
Q4. 葉酸はいつからいつまで飲めばよいですか?
妊娠前4週から妊娠12週まで、サプリメントで毎日400μg(0.4mg)とることが勧められています。神経管は妊娠6週ごろに閉じるため、妊娠を考えている時期から飲み始めることが大切です。過去に神経管閉鎖障害のある子を妊娠したことがある方は、医師の管理のもとで多めの量が必要になるため、医療機関で相談してください。
Q5. 妊娠5週目に気をつけることは何ですか?
妊娠5週は、心臓や脳などの重要な臓器がつくられる妊娠4〜7週の「絶対過敏期」にあたります。市販薬を自己判断で飲まないこと、受診のときに妊娠を伝えること、お酒とたばこをやめること、葉酸を続けることが基本です。生理の遅れで妊娠に気づくことが多い時期なので、早めに産婦人科を受診して妊娠を確認してください。
Q6. 妊娠初期に夫(パートナー)が気をつけることは?
家の中や近くでたばこを吸わないことが第一です。風しんの抗体がない場合は、同居する家族が予防接種を受けることが勧められます。つわりやだるさで家事がつらい時期なので、家事の分担を見直し、体調の変化に合わせて負担を減らしてください。
まとめ
妊娠初期に気をつけることの中心は、お酒とたばこをやめること、自己判断で薬を飲まないこと、加熱が不十分な食品を避けること、カフェインを1日200mgまでにすること、そして葉酸をとることです。妊娠4〜7週は重要な臓器がつくられる時期で、薬や放射線の影響を最も受けやすいとされています[1]。一方、運動や仕事は、体調に合わせて調整しながら続けることができます[5]。
初期流産の多くは染色体の変化によるもので、行動が原因になることはほとんどありません[2]。生活で変えられることを守ったうえで、生活では変えられない染色体については、出生前検査という方法があることを知っておいてください。
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参考文献
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- [12] 日本先天異常学会. 葉酸サプリメントの摂取により神経管閉鎖障害の発症リスクを減らしましょう(2016年). [日本先天異常学会]
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- [15] 厚生労働省 健康・生活衛生局 食品監視安全課. 妊娠中・育児中の食中毒予防について. [厚生労働省]
- [16] 東京都福祉局. 母子感染について~妊娠中・これから妊娠を考えている方へ~. [東京都]
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- [18] 日本医学会 出生前検査認証制度等運営委員会. 「NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針」に関するQ&A. [日本医学会]





