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つわりがない人は大丈夫?割合・特徴と流産・ダウン症との関係を臨床遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

妊娠してもつわりがない人は珍しくありません。日本の大規模な調査では、妊娠中に吐き気などの症状がまったくなかった人が1〜2割ほどいました[1][2]。つわりの有無や重さから、お腹の赤ちゃんにダウン症などの病気があるかどうかを見分けることはできません。また、つわりが急になくなったことだけで流産と判断することもできません。この記事では、つわりがない人の割合と特徴、流産やダウン症との関係、つわりは遺伝するのかを、研究データをもとに臨床遺伝専門医が解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🤰 つわり・流産・ダウン症・遺伝
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. つわりがないのは異常ですか?

A. 異常ではありません。つわりの有無や重さには大きな個人差があり、症状がまったくないまま出産する人もいます。つわりの有無で赤ちゃんの状態を判断することはできず、妊娠が順調かどうかは妊婦健診の超音波検査で確認します。出血や強い腹痛がある場合は、つわりの有無にかかわらず早めに受診してください。

  • ➤割合 → 日本の調査では、症状がまったくない人は1〜2割程度
  • ➤ダウン症 → つわりの有無・重さで予測できるという根拠はない
  • ➤流産 → 吐き気のある人のほうが流産が少ない傾向はあるが、「ない=流産」ではない
  • ➤急になくなった → つわりには波があり、診断は超音波で行う
  • ➤遺伝 → つわりの起こりやすさには遺伝が関わり、GDF15というホルモンが注目されている

1. つわりがない人はどれくらいいる?

つわりがない人は、妊婦さんの中で決して少数派とはいえません。吐き気がある人は妊婦の50〜80%、嘔吐がある人は約50%とされており、裏を返せば一定の割合の人は吐き気をほとんど感じないまま妊娠初期を過ごします[3]。つわりは妊娠中によく知られた症状ですが、全員に起こるものではありません。

日本人を対象にした調査も見てみましょう。環境省が進める「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」では、約9万2千人の妊婦さんのうち、何らかのつわり症状があったのは82.7%で、重いつわりがあったのは11.1%でした[1]。東北メディカル・メガバンク計画の三世代コホート調査(約2万3千人)でも、症状がまったくなかった人は約15%でした[2]。つまり、日本では6〜7人に1人ほどが、つわりをほとんど経験していないことになります。

📊 つわり(吐き気・嘔吐)の頻度を調べた主な研究

調査 対象 結果
米国産科婦人科学会(ACOG)の指針 複数の研究のまとめ 吐き気50〜80%、嘔吐約50%
エコチル調査(日本) 約9万2千人 何らかの症状あり82.7%、重症11.1%
三世代コホート調査(日本) 約2万3千人 症状なし約15%、重症約10%
英国の前向き研究 256人(毎日記録) 症状あり94.1%、症状なし5.9%

※ACOG[3]、エコチル調査[1]、三世代コホート調査[2]、英国の前向き研究[4]による。数値は聞き方(毎日の記録か、あとから思い出して答えるか)で変わります。

表を見ると、研究によって数字に幅があることがわかります。毎日の体調を記録してもらった英国の研究では、症状がなかった人は5.9%にとどまりました[4]。軽いむかつきも1日単位で拾うと「症状あり」に入るため、「ない」と答える人が少なくなります。逆に、あとから振り返って答える調査では、軽い症状は「なかった」と答えられやすくなります。「つわりがない」には、まったく何も感じない人と、ごく軽いので気にならない人の両方が含まれていると考えると、数字の幅を理解しやすくなります。

「全くない」「軽い」「まだ始まっていない」の違い

妊娠5〜6週ごろに「つわりがない」と感じている場合、まだ始まっていないだけのこともあります。英国の前向き研究では、つわりが始まったのは最終月経の開始日から数えて中央値で32日目(妊娠4週後半)で、67%の人が26〜40日目(妊娠4週〜6週前半)の間に始まっていました[4]。また、米国産科婦人科学会は、つわりのある人のほぼ全員で症状は妊娠9週までに現れるとしています[3]。

妊娠週数は最終月経の開始日から数えるため、排卵が遅れた周期では、実際の妊娠の進み具合が週数の計算より数日から1週間ほど遅れていることがあります。この場合、「7週なのにまだつわりがない」と感じても、体の中の時計ではまだ始まる前の時期にあたることがあります。妊婦健診で胎児の大きさ(頭殿長)を測り、それに合わせて出産予定日と週数が修正されることもあります。

一方、9週を過ぎても吐き気がほとんどない場合は、その妊娠ではつわりが軽い、またはないタイプだと考えられます。これは後で説明するように体質の違いによるもので、それだけで妊娠の経過に問題があることを意味しません。

2人目はつわりがない?

1人目と2人目でつわりの重さが違うことは、よくあることです。米国産科婦人科学会の指針によると、ある妊娠でつわりがあった人が次の妊娠でもつわりを経験する割合は、研究によって15〜81%と大きな幅があります[3]。同じ指針では、嘔吐が重かった人の約3分の2が次の妊娠でも同じような症状を経験したとされています。

つまり、前回の妊娠でつわりが重かった人は次も重くなりやすい傾向がある一方、妊娠ごとに症状が変わる人も少なくありません。胎盤から出るホルモンの量や、赤ちゃんの性別、双子かどうかといった妊娠ごとの条件が違うため、「1人目はひどかったのに2人目はほとんどない」ということも起こります。2人目でつわりがないことも、それだけで心配する理由にはなりません。

2. つわりがない人の特徴・共通点

つわりがない人に共通する特徴は、「つわりが重くなりやすい条件」に当てはまらないことです。研究で確かめられているのは、多胎妊娠、前回の妊娠でのつわり、家族歴、乗り物酔いや片頭痛の既往、女の子の妊娠といった条件で、これらに当てはまらない人ほどつわりが軽い傾向があります[3]。性格や気の持ちようといった特徴は、研究ではほとんど裏づけられていません。

研究でわかっている「つわりが重くなりやすい条件」

米国産科婦人科学会の指針は、つわりや妊娠悪阻(にんしんおそ)が起こりやすい要因として、次のような条件を挙げています[3]。元の記事ではこれらを「つわりによって起こるリスク」と紹介していましたが、正しくは「つわりが重くなりやすい要因」です。

🔍 つわりが重くなりやすい条件と、つわりがない人との関係

重くなりやすい条件 理由として考えられていること
双子など多胎妊娠 胎盤が大きく、胎盤から出るホルモンが多くなる
前回の妊娠でつわり・妊娠悪阻があった 体質として症状が出やすい
母親や姉妹に重いつわりの人がいる 遺伝的な要因が関わる
乗り物酔い・片頭痛になりやすい 吐き気を感じる仕組みが敏感
女の子を妊娠している 女の子の妊娠に多い何らかの因子が関わると推測されている

※条件はACOG[3]による。多胎と女の子の妊娠については日本のエコチル調査でも確認されています[1]。これらに当てはまらなくても、つわりが重くなる人はいます。

これらの条件に当てはまらない人は、つわりが軽い、または起こらない傾向があります。ただし、あくまで集団として見たときの傾向です。すべての条件に当てはまらなくても重いつわりになる人がいますし、反対に双子を妊娠していてもつわりが軽い人もいます。条件の有無から個人のつわりを正確に予測することはできません。

つわりが重い人の側からの詳しい説明は、つわりになりやすい人の特徴の記事にまとめています。

よく言われるが根拠が弱い特徴

「ストレスに強い人はつわりがない」「順応力が高い人はつわりが軽い」といった説明がよく見られますが、これを裏づける確かなデータは見当たりません。元の記事でも、つわりがない人の特徴として「ストレスに強い」「順応力が高い」を挙げていましたが、今回の見直しでは根拠の弱い説明として扱いを改めました。

昔は、つわりの原因を心理的なもの、たとえば妊娠への葛藤や夫婦関係の問題に求める考え方もありました。しかし、つわりがある人に「気持ちの問題」というレッテルを貼ることは、つらい症状を我慢させることにつながりかねません。現在は、後で説明するように、胎盤から出るホルモンと、それに対する母体の感じやすさという身体的な仕組みで説明されるようになっています[5]。

もちろん、疲れや睡眠不足、空腹で吐き気が強まるといった日々の変化はあります。けれども、「つわりがない=心が強い」「つわりが重い=気持ちが弱い」という見方は、医学的には支持されていません。つわりがないことも、つわりが重いことも、本人の性格や努力とは別のところで決まっていると考えてください。

個人差のカギはGDF15というホルモン

なぜつわりがある人とない人がいるのかについて、近年もっとも有力な説明は、GDF15(ジーディーエフフィフティーン)というホルモンと、それに対する母体の感じやすさの違いです。2024年に英科学誌ネイチャーに発表された研究は、妊婦さんの血液中のGDF15の大部分が赤ちゃんと胎盤から来ていること、そして妊娠前からGDF15に慣れている人ほど症状が出にくいことを示しました[5]。

ここで押さえておきたいのは、つわりの重さを決めるのが「赤ちゃんの状態」だけではないという点です。同じようにGDF15が作られていても、それをどれだけ強く感じるかは母体によって違います。つわりがない人は、GDF15を受け止める側の感じやすさが低い体質である可能性が考えられます。この仕組みについては、第6章でもう少し詳しく説明します。

💡 用語解説:GDF15(増殖分化因子15)

GDF15は、体がストレスを受けたときなどに作られるタンパク質で、脳の一番下にある脳幹(のうかん)に働いて、吐き気や食欲の低下を起こすホルモンとして知られています。妊娠中は胎盤で大量に作られるため、つわりとの関係が研究されてきました。英語の Growth Differentiation Factor 15 の略です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【つわりの有無は、赤ちゃんの通知表ではありません】

つわりが重い人は「赤ちゃんが元気な証拠」と言われ、つわりがない人は「何か問題があるのでは」と不安になりがちです。けれども、ここまで見てきたように、つわりの重さを大きく左右しているのは母体側の感じやすさです。つわりの有無は、赤ちゃんの出来を知らせる通知表のようなものではないと考えています。

赤ちゃんの様子を知るための方法は、妊婦健診の超音波検査などに用意されています。体の感覚だけで結論を出さず、決められた健診で確かめていくことが大切だと考えています。

3. つわりがないとダウン症?

つわりがないことと、赤ちゃんのダウン症には関係がありません。つわりの有無や重さから、ダウン症かどうかを予測できることを示した研究は見当たりません。重いつわりである妊娠悪阻と、赤ちゃんの生まれつきの病気(先天異常)との間にも、有意な関連は示されていません[3]。

それでは、なぜ「つわりとダウン症は関係がある」という噂が広まったのでしょうか。出どころの一つと考えられるのが、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンです。hCGは胎盤の絨毛(じゅうもう)で作られるホルモンで、妊娠検査薬が反応する物質でもあります。つわりの症状が強くなる時期は、hCGが高くなる時期と重なるため、hCGはつわりに関わるホルモンの一つと考えられてきました[3]。

一方、ダウン症候群(21トリソミー)の赤ちゃんを妊娠している場合、母体の血液中のhCGは平均で約2倍(2MoM)に上がることが知られています。これは胎盤の細胞の働き方が変わるためと考えられており、この性質は妊娠中期の母体血清マーカー検査の指標として使われています[6]。この2つの事実が結びつき、「hCGが高い→つわりが重い→ダウン症」あるいは逆に「つわりがない→何かおかしい」という連想が生まれたと考えられます。

しかし、hCGの値は妊婦さんごとにもともと大きく違い、つわりの重さはhCGの量だけでは決まりません。前章で見たように、GDF15に対する母体の感じやすさが大きく関わっているためです。血液検査で測ってはじめて意味を持つhCGの値を、体の感覚から読み取ることはできません。つわりの有無でダウン症かどうかがわからない理由は、ここにあります。

「つわりが重いとダウン症」も根拠はない

つわりがないことと同じく、つわりが重いこともダウン症のサインではありません。米国産科婦人科学会の指針は、重いつわり(妊娠悪阻)と先天異常の間に有意な関連は示されていないとしています[3]。つわりの重さも、主に母体側の体質によって決まります。

「よだれつわり」や「においつわり」など、つわりの種類とダウン症を結びつける噂もありますが、同じように医学的な根拠はありません。エコー所見やつわりの種類とダウン症の噂については、ダウン症の予兆はある?つわり・エコー所見の噂を検証の記事で一つずつ解説しています。

ダウン症候群は、21番染色体が1本多くなることで起こり、その多くは卵子や精子ができる過程で偶然に生じます。母親の年齢とともに頻度が上がることが知られていますが、どの年齢の妊娠でも起こりえます。つわりの有無や重さ、妊娠中の過ごし方で起こるものではありません。

妊娠性痒疹とダウン症の噂

妊娠中に強いかゆみを伴うぶつぶつが出る「妊娠性痒疹(にんしんせいようしん)」とダウン症の関係を示した医学的な報告はありません。妊娠中の皮膚の病気をまとめた総説でも、妊娠性痒疹を含むこのグループの皮膚炎では、赤ちゃんの予後に影響はないとされています[7]。かゆみがつらいときは皮膚科や産婦人科で治療を受けられますが、赤ちゃんの染色体について心配する理由にはなりません。

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4. つわりがないと流産しやすい?

つわりがないから流産する、ということはありません。研究では、吐き気のある人のほうが流産が少ない傾向が示されていますが、これは集団として見たときの関連であり、つわりがない人一人ひとりの流産の確率を表すものではありません。つわりがない人の大多数は、そのまま妊娠を継続して出産しています。

研究でわかっていること

つわりと流産の関係を調べた研究として知られているのが、米国国立衛生研究所(NIH)のグループが2016年に発表した研究です。過去に1〜2回の流産を経験し、妊娠を希望していた女性を妊娠前から追跡し、妊娠してから毎日の症状を記録してもらいました[8]。

その結果、妊娠8週の時点で吐き気のみがあった人は57.3%、吐き気と嘔吐の両方があった人は26.6%でした。12週までには86.0%が吐き気を、35.0%が週1回以上の嘔吐を経験していました。症状のない期間と比べて、吐き気のみがある期間の流産のリスクは約半分(ハザード比0.50)、吐き気と嘔吐がある期間では約4分の1(ハザード比0.25)でした[8]。米国産科婦人科学会の指針も、つわりのある人は流産が少ないことを複数の研究が示しているとしています[3]。

💡 用語解説:ハザード比

ハザード比は、ある条件がある人とない人で、一定期間の中で出来事(この場合は流産)が起こる速さを比べた数字です。1より小さいほど、その条件がある人で出来事が起こりにくいことを示します。0.50であれば、同じ期間に起こる割合がおよそ半分という意味ですが、個人が流産する確率そのものではありません。

この結果を読むときに気をつけたいのは、研究の対象が流産の経験がある女性に限られていたことです。すべての妊婦さんにそのまま当てはまるとは限りません。また、つわりが流産を防いでいるわけではない、という点も大切です。

それでも「つわりがない=流産」ではない理由

吐き気がある人に流産が少ないという結果は、「つわりがあるから流産しない」ことを示すものではありません。研究が示しているのは、つわりと流産の少なさが一緒に見られるという関連であり、どちらが原因かまでは明らかにしていません。胎盤が順調に育っている妊娠ではつわりも起こりやすい、という関係を反映している可能性も考えられます。

妊娠初期の流産の多くは、赤ちゃん側の染色体の偶然の変化によって起こります。日本産科婦人科学会によると、妊娠の約15%は自然流産に終わり、妊娠12週未満の流産の組織を調べると約80%に染色体の異常が見つかります[9]。これは受精の時点で決まっていたもので、つわりの有無や母体の過ごし方で変えられるものではありません。流産の原因については妊娠初期の流産の原因の記事で詳しく説明しています。

また、先ほどの研究でも、吐き気のなかった人の多くは流産せずに妊娠を続けています。GDF15に対する感じやすさが低い体質の人は、赤ちゃんが順調に育っていてもつわりが出にくいため、「つわりがない」ことだけで妊娠の経過を判断することはできません。

なお、妊娠検査薬で陽性になったあと、超音波で胎嚢(たいのう)が確認される前に終わる化学流産は、つわりが始まる時期(最終月経から中央値で32日目ごろ[4])と重なるか、それより早い時期に起こります。そのため、つわりの有無で化学流産に気づくことは多くありません。

5. つわりが急になくなったとき

つわりが急に軽くなったり、なくなったりしても、それだけで流産とは判断できません。つわりには日によって波があり、時期が来れば自然に軽くなるものだからです。流産かどうかは症状ではなく、超音波検査で赤ちゃんの心拍や大きさを確認して診断します。

つわりには波があり、多くは14〜22週までに軽くなる

つわりは朝だけの症状と思われがちですが、実際にはそうではありません。160人の妊婦さんに毎日記録してもらった研究では、吐き気があった人は74%で、吐き気は平均34.6日続きました。朝だけに症状があった人は1.8%にすぎず、80%は一日中吐き気を感じていました[10]。同じ研究で、妊娠14週までに症状が軽くなったのは50%、22週までには90%でした[10]。

始まる多くは妊娠4〜6週
▶
強くなりやすいhCGが高くなる時期
▶
約半数が軽くなる妊娠14週まで
▶
約9割が軽くなる妊娠22週まで

※始まる時期は英国の前向き研究[4]、hCGとの時期の重なりはACOG[3]、軽くなる時期はLacroixらの研究[10]による。個人差があります。

この流れの中で、症状が強い日と軽い日が入れ替わることは珍しくありません。睡眠や食事のとり方、体調によっても変わります。ある日すっと楽になったとしても、つわりが自然に終わっていく途中であることが多いのです。つわりの時期の目安についてはつわりのピークはいつ?の記事もあわせてご覧ください。

稽留流産は症状ではわからない

「つわりが急になくなったら稽留流産(けいりゅうりゅうざん)のサイン」という話を心配する人は多いのですが、稽留流産はもともと症状で気づくことが難しい流産です。日本産科婦人科学会は、稽留流産を「出血や腹痛がないまま、子宮内で赤ちゃんが亡くなっている状態」と説明し、超音波検査で初めて流産に気づくとしています[9]。

流産の診断は、超音波で決められた基準を満たすかどうかで行われます。たとえば、胎児の頭からお尻までの長さ(頭殿長)が7mm以上あるのに心拍が見えない場合や、胎嚢の平均の直径が25mm以上あるのに胎児が見えない場合などです[11]。これらの基準に、つわりの有無は含まれていません。元の記事でも「稽留流産の診断基準に、つわりの有無は記載されていない」と説明していましたが、これは現在も変わりません。

実際、稽留流産でもつわりが続く人がいる一方で、つわりが急になくなっても赤ちゃんは元気に育っている人が大多数です。つわりの変化だけで流産かどうかを判断することはできず、心配な場合は予定されている健診を待たずに受診して、超音波で確認してもらうのが確実です。流産の種類については流産の種類についての記事で説明しています。

受診の目安

つわりの有無ではなく、出血や腹痛などの症状を目安に受診を考えてください。超音波の診断基準をまとめた論文も、妊娠初期に出血や痛みがあって受診した場合には、正常に続いている妊娠、流産、子宮外妊娠の可能性を見分ける必要があるとしています[11]。

⚠️ つわりの有無にかかわらず、早めに受診したい症状

・生理のような、またはそれ以上の量の出血がある
・下腹部の痛みが強い、または続いている
・片側の下腹部が強く痛む(子宮外妊娠などの可能性)
・まだ子宮の中に胎嚢や心拍が確認できていない時期に、強い不安がある
・反対に、水分もとれないほど吐き続ける(妊娠悪阻の可能性)

これらの症状がなく、つわりが軽い・ないというだけであれば、予定どおり妊婦健診を受けて経過を確認していけば問題ありません。不安が強い場合は、次の健診で超音波を見てもらうときに、つわりが軽いことも伝えておくとよいでしょう。

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6. つわりは遺伝する?性別で違う?

つわりの起こりやすさには、遺伝が大きく関わっています。双子を対象にした研究では、つわりがあるかどうかの個人差の73%が遺伝で説明できると推定されました[12]。一方、「つわりがないと男の子」といった性別の言い伝えは、個人の予測には使えません。

母や姉妹が重いと、重くなりやすい

遺伝の影響を調べる方法の一つに、双子の研究があります。遺伝情報がほぼ同じ一卵性の双子と、半分ほど同じ二卵性の双子で、つわりの似かたを比べる方法です。一卵性の双子どうしのほうがよく似ていれば、遺伝の影響が大きいと考えられます。約1,700人の女性(一卵性の双子159組、二卵性の双子140組などを含む)を調べた研究では、つわりがあるかどうかの遺伝率は73%、続いた期間は51%、重さは53%と推定されました[12]。

💡 用語解説:遺伝率

遺伝率とは、ある性質の個人差のうち、遺伝の違いで説明できる部分の割合を、集団について推定した値です。遺伝率73%は「つわりの7割は親から受け継ぐ」「73%の確率で母親と同じになる」という意味ではありません。集団の中で、つわりの有無の違いに遺伝がどれだけ関わっているかを示す目安です。

家族の間で重いつわりが集まりやすいことも報告されています。妊娠悪阻になった女性とそうでない女性を比べた米国の研究では、姉妹が妊娠悪阻だった場合のオッズ比は17.3で、母親が妊娠悪阻だった割合は、妊娠悪阻の女性で33%、対照の女性で7.7%でした[13]。米国産科婦人科学会も、家族歴をつわりの起こりやすさに関わる要因に挙げています[3]。

反対に言えば、母親や姉妹がつわりの軽い体質であれば、自分も軽い傾向があるかもしれません。ただし、遺伝で決まるのは起こりやすさの傾向で、実際のつわりはその妊娠ごとの条件でも変わります。「母親がつわりなしだったから自分もない」と決まるわけではありません。

GDF15とつわり:GWASから2024年のネイチャー論文まで

つわりに関わる遺伝子として最も注目されているのが、GDF15です。2018年、妊娠悪阻になった女性とそうでない女性の遺伝情報を比べたゲノムワイド関連解析(GWAS)で、胎盤と食欲に関わるGDF15とIGFBP7という2つの遺伝子の領域が、妊娠悪阻と関連していることが報告されました[14]。論文自身は、これらが原因であると証明するにはさらに研究が必要だと述べています。

この結果は日本人でも確かめられています。東北メディカル・メガバンク計画の三世代コホート調査(約2万3千人)のGWASでも、GDF15に関わる19番染色体の領域(19p13.11)がつわりと関連していました[2]。

そして2024年、仕組みに踏み込んだ研究がネイチャーに発表されました[5]。この研究は、妊婦さんの血液中のGDF15の大部分が、赤ちゃんと胎盤から来ていることを確かめました。さらに、妊娠していないときのGDF15がもともと低い体質の人ほど妊娠悪阻になりやすいこと、反対に、GDF15が慢性的に高い「βサラセミア」という血液の病気がある女性では、つわりがとても少ないことを示しました。マウスの実験からも、前もってGDF15にさらされていると、その後のGDF15への反応が鈍くなることがわかりました。

つまり、つわりの重さは「赤ちゃん側がどれだけGDF15を作るか」と「母体がGDF15にどれだけ慣れているか」の組み合わせで決まる、というのが現在の有力な考え方です[5]。つわりがない人は、妊娠前からGDF15に慣れている体質である可能性があります。ただし、研究者自身もこれを「因果関係の可能性が高い」という表現にとどめており、GDF15だけですべてが説明できるわけではありません。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【つわりは「体質」の遺伝学です】

つわりの研究は、長いあいだ「原因不明」とされてきました。それが、遺伝情報を広く調べる研究によってGDF15という手がかりが見つかり、その後の研究で仕組みまで説明されるようになりました。ありふれた症状の背景に、母と子それぞれの遺伝的な体質が関わっているという点に、遺伝学の面白さがあると感じています。

同時に、これは「つわりの有無で赤ちゃんの病気がわかる」という話とはまったく別のものです。つわりの遺伝学が教えてくれるのは母体の感じやすさの違いであり、赤ちゃんの染色体の状態を知るには、それを調べるための検査が必要だと考えています。

つわりと赤ちゃんの性別

女の子を妊娠しているとつわりが起こりやすく、重くなりやすいことは、日本の大規模調査でも示されています。ただし、つわりの有無や重さから赤ちゃんの性別を当てることはできません。エコチル調査の約9万2千人の分析では、女の子を妊娠していた人は男の子の場合と比べて、つわりがある、また重いつわりになる割合が高く、双子の妊娠でも同じ傾向が見られました[1]。研究者は、女の子の妊娠で多い何らかの因子がつわりの重さに関わっているのではないかと推測しています。

しかし、これは多くの妊婦さんを集めて見たときの、わずかな傾向にすぎません。つわりが重くても男の子のことはよくありますし、つわりがなくても女の子のことはよくあります。「つわりがないから男の子」という言い伝えは、個人の予測としては当てになりません。赤ちゃんの性別は、妊婦健診の超音波検査などで確認します。

7. 遺伝の視点:お腹の赤ちゃんの染色体が気になるなら

つわりの有無や重さで、赤ちゃんの染色体の状態を知ることはできません。お腹の赤ちゃんにダウン症などの染色体の病気があるかどうかを知りたい場合は、そのための検査を受ける必要があります。ここでは、妊娠中に受けられる主な検査と、その役割の違いを整理します。

妊婦さんの血液を採るだけで調べられるのが、NIPT(新型出生前診断)です。妊婦さんの血液中には、胎盤から出た赤ちゃん由来の細かいDNAのかけらが流れており、それを分析して染色体の数の変化を調べます。米国産科婦人科学会(ACOG)の現在の案内では、cell-free DNA検査は妊娠10週から実施できます[15]。

ただし、NIPTは「非確定的検査」です。結果が陽性の場合、赤ちゃんに染色体の病気がある可能性は高くなりますが、偽陽性もありうるため、NIPTの結果だけで診断は確定しません[16]。診断を確定させるには、絨毛検査または羊水検査といった「確定的検査」で、赤ちゃん側の細胞の染色体を直接調べる必要があります[15][16]。絨毛検査はおおむね妊娠10〜13週ごろに行われ[15]、羊水検査はそれより後の時期に行われます。それぞれの特徴は羊水検査・絨毛検査のページで説明しています。

🧪 お腹の赤ちゃんの染色体を調べる主な検査

検査 方法 位置づけ
NIPT 妊婦さんの採血 非確定的検査。陽性なら確定的検査で確認
絨毛検査 胎盤の一部(絨毛)を採取 確定的検査。妊娠初期に行う
羊水検査 おなかに針を刺して羊水を採取 確定的検査。絨毛検査より後の時期に行う

※ACOG[15]、日本医学会の指針[16]による。検査を受けるかどうかは、それぞれのご家族が情報を得たうえで決めるものです。

出生前検査は、受けるかどうかも含めて、ご夫婦の考え方によって選ぶものです。検査で何がわかり、何がわからないのか、結果が出たあとにどのような選択肢があるのかを知ったうえで決めていただくものです。ダウン症がいつわかるのか、出生前と出生後の診断の違いについては、ダウン症はいつわかる?の記事で説明しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. つわりがなくても、赤ちゃんは順調に育っていますか?

つわりがないことは、赤ちゃんの育ち方に問題があるという意味ではありません。つわりの重さは主に母体側の体質で決まり、症状がないまま出産する人も1〜2割ほどいます。赤ちゃんが順調に育っているかどうかは、妊婦健診の超音波検査で心拍や大きさを見て確認します。

Q2. 1人目はつわりがあったのに、2人目はありません。大丈夫ですか?

妊娠ごとにつわりの重さが違うことはよくあります。前の妊娠でつわりがあった人が次の妊娠でもつわりを経験する割合は、研究によって15〜81%と幅があります。赤ちゃんの性別や双子かどうかなど、妊娠ごとの条件でも変わるため、2人目でつわりがないことだけで心配する必要はありません。

Q3. つわりがないと安産、または難産になりますか?

つわりの有無で安産か難産かが決まるという医学的な根拠はありません。お産の経過は、赤ちゃんの大きさや向き、子宮口のやわらかさ、出産回数などさまざまな条件で変わります。ただ、つわりがなく食欲がある場合は、体重の増えすぎには気をつけてください。妊娠前の体格が普通の人では、妊娠中の体重増加は10〜13kgが目安とされています[17]。

Q4. つわりがないと男の子ですか?

つわりの有無から赤ちゃんの性別を当てることはできません。日本の大規模調査では、女の子を妊娠している人のほうがつわりが起こりやすい傾向が見られましたが、集団として見たときのわずかな傾向です。つわりがなくても女の子のことはよくあります。

Q5. 妊娠7週でまだつわりが始まりません。遅いのでしょうか?

つわりは多くの人で妊娠4〜6週ごろに始まりますが、つわりのある人のほぼ全員で症状が出るのは9週までとされており、7週ではまだ始まる途中の人もいます。排卵が遅れた周期では、実際の妊娠の進み具合が週数の計算より遅れていることもあります。9週を過ぎてもつわりがない場合は、その妊娠ではつわりがない、または軽いタイプと考えられます。

Q6. つわりの有無で、赤ちゃんがダウン症かどうかわかりますか?

わかりません。つわりの有無や重さからダウン症を予測できることを示した研究はなく、重いつわりと先天異常の間にも有意な関連は示されていません。赤ちゃんの染色体の状態を知りたい場合は、NIPTや、絨毛検査・羊水検査といった確定的検査で調べる必要があります。

まとめ

つわりがない妊婦さんは珍しくなく、日本の調査では症状がまったくない人が1〜2割ほどいます[1][2]。つわりの起こりやすさには、多胎や家族歴、女の子の妊娠といった条件が関わり[3]、近年は胎盤から出るGDF15というホルモンと、それに対する母体の感じやすさの違いが、個人差の大きな要因と考えられています[5]。

つわりの有無や重さで、赤ちゃんのダウン症を予測することはできません。吐き気のある人に流産が少ない傾向は報告されていますが[8]、つわりがないことが流産の原因になるわけではなく、急につわりがなくなったことだけで流産と判断することもできません。妊娠が順調かどうかは妊婦健診の超音波で確認し、出血や強い腹痛があるときは早めに受診してください。赤ちゃんの染色体について知りたい場合は、NIPTや確定的検査という方法があります。

🏥 お腹の赤ちゃんの染色体について正確に知りたい方へ

つわりの有無からは、赤ちゃんの染色体の状態はわかりません。ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医がNIPTの前後の説明を行い、陽性の場合の確定検査(絨毛検査・羊水検査)まで院内で対応しています。正確な診断に基づいて、次の選択を考えていただくための体制です。

参考文献

  • [1] Severity of Nausea and Vomiting in Singleton and Twin Pregnancies in Relation to Fetal Sex: The Japan Environment and Children’s Study (JECS). J Epidemiol. 2019;29(9):340-346. [J-STAGE]
  • [2] Genome-wide association study of nausea and vomiting during pregnancy in Japan: the TMM BirThree Cohort Study. BMC Pregnancy Childbirth. 2024;24:209. [BMC]
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  • [7] Dermatoses of Pregnancy – Clues to Diagnosis, Fetal Risk and Therapy. Ann Dermatol. 2011;23(3):265-275. [PubMed 21909194]
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  • [9] 公益社団法人日本産科婦人科学会. 流産・切迫流産. [日本産科婦人科学会]
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  • [14] Placenta and appetite genes GDF15 and IGFBP7 are associated with hyperemesis gravidarum. Nat Commun. 2018;9:1178. [Nature Communications]
  • [15] American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG). Prenatal Genetic Screening Tests. [ACOG]
  • [16] 日本医学会 出生前検査認証制度等運営委員会. NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針(2022年2月). [厚生労働省]
  • [17] 国立健康・栄養研究所. 適正な体重増加量について(妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針). [国立健康・栄養研究所]

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プロフィール
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。

2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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