目次
📍 クイックナビゲーション
妊娠中期のお腹の張りは、子宮の筋肉が一時的に縮んでお腹全体が固くなる現象で、多くは横になったり座ったりして休むとおさまる生理的なものです。ただし、休んでもおさまらない、規則的に繰り返す、回数がだんだん増えていく、痛みや出血、水っぽいおりものを伴う、胎動が減ったと感じる、といった場合は、次の妊婦健診を待たずにかかりつけの産院へ連絡してください。「1日何回までなら大丈夫」という、すべての妊婦さんに当てはまる数字はありません。回数そのものより、規則性・増え方・休んだときのおさまり方を見ます。この記事では、張りの感じ方と確かめ方、原因、受診の目安、張りっぱなしや寝ていても張るときの考え方、仕事中の対処までを順に解説します。
Q. 妊娠中期のお腹の張りは何回まで大丈夫?
A. 回数で一律に線を引くことはできません。不規則で、休むとおさまり、痛みや出血のない張りは、多くが生理的なものです。一方で、休んでもおさまらない、規則的に繰り返す、だんだん間隔が短くなる、痛み・出血・水っぽいおりものを伴う、胎動が減った、という場合は回数にかかわらず産院へ連絡してください。産院から目安を指示されている場合は、その指示が優先です。
- ➤張りの正体 → 子宮の筋肉の収縮。妊娠中期から自覚する人が増える
- ➤確かめ方 → 手のひらをお腹全体に当て、全体が固くなるかを見る
- ➤見るポイント → 規則性・増え方・おさまり方と、痛み・出血・破水感の有無
- ➤22週の境目 → 22週より前は切迫流産、22週以降は切迫早産の区分になる
1. 妊娠中期のお腹の張りとは?どんな感じ?
妊娠中期(妊娠16週0日〜27週6日)は、つわりが落ち着いて体調が安定しやすい一方、子宮が急速に大きくなる時期です。お腹の張りを「初めてはっきり感じた」というのも、この時期であることが少なくありません。
張りの正体は子宮の筋肉の収縮
妊娠中に「お腹が張る」と表現されるものの多くは、子宮の筋肉(子宮筋)が一時的に縮んで、お腹全体が固くなる現象です。子宮は平滑筋という筋肉でできた袋状の臓器で、妊娠中も分娩の時期とは関係なく、ときどき不規則に収縮しています。この収縮は報告者の名前からブラクストン・ヒックス収縮と呼ばれ、妊娠中期ごろから自覚されることが多くなります[1]。
ブラクストン・ヒックス収縮は、間隔が不規則で、痛みがないか軽く、子宮の出口(子宮頸管)を開いていかないのが特徴です[1]。陣痛のように規則的に強まっていく収縮とは性質が異なります。子宮の収縮そのものの仕組みや、妊娠していないときに起こる収縮については子宮収縮の解説にまとめています。
💡 用語解説:ブラクストン・ヒックス収縮(偽陣痛)
妊娠中に起こる、不規則で痛みの少ない子宮の収縮のことです。19世紀の英国の医師ブラクストン・ヒックスが記載したことからこう呼ばれます。陣痛の練習のような収縮と説明されることもあり、通常は進行性の子宮頸管開大を起こしません。日本語の「お腹の張り」は、この収縮を指して使われることが多い言葉です。
感じ方の例
お腹の張りの感じ方には個人差があり、同じ人でも妊娠週数や体勢によって変わります。妊婦さんが張りを表現するときには、次のような言い方がよく使われます。
- バレーボールのように固くなる
- 下腹部が痛い
- お腹がパンパンになる感じ
- 中で炭酸が膨らんでいくみたいな感じ
- 引っ張られるような感覚
- キューッと縮まる感じ
- お腹と背中の皮まで引っ張られるような感じ
- おへその下あたりがカチカチになった
共通しているのは、一時的に固くなり、しばらくすると元の柔らかさに戻るという点です。張っている間はお腹の形が少し丸く盛り上がったように見えることもあります。痛みとして感じる人もいれば、触って初めて固さに気づく人もいます。

張りの確かめ方|どこを触る?わからないときは
張りを確かめるときは、仰向けか楽な姿勢で力を抜き、手のひらをお腹全体にそっと当てて、子宮のある部分が全体的に固くなっているかを見ます。指先で一点を押すのではなく、手のひら全体で触れるのがこつです。張っていないときは押すと少しへこむ柔らかさがあり、張っているときはお腹全体が均一に固く、押し返されるような感触になります。
子宮の位置は週数とともに上がり、妊娠中期の後半にはおへそのあたりまで届きます。お腹の一部分だけが固く、ぽこっと出っ張っている場合は、赤ちゃんの背中やおしりなど体の一部に触れていることもあります。張りは子宮全体の収縮なので、「一部分だけ固い」よりも「全体が固い」ほうが張りらしい所見です。
妊娠中期の前半は子宮がまだ小さく、張っていても自分ではわからないことがよくあります。張りがわからないこと自体は異常ではありません。張りに気づかない人でも、妊婦健診では子宮の状態や子宮頸管の長さを確認しているので、気になることはその場で質問できます。
2. 妊娠中期にお腹が張る原因
妊娠中期の張りには、子宮そのものの収縮によるものと、子宮が大きくなることに伴う「つっぱり感」、さらに腸の張りなど子宮以外のものが混ざっています。原因を知っておくと、休めばよい張りなのか、連絡したほうがよい張りなのかを考えやすくなります。
子宮が大きくなる・靭帯や皮膚が引き伸ばされる
妊娠中期は子宮が急速に大きくなるため、子宮を支える靭帯やお腹の皮膚・筋肉が引き伸ばされて、つっぱるような感覚が出ます。子宮の左右からは円靭帯という靭帯が足の付け根の方向へ伸びていて、子宮が大きくなるとこの靭帯が引っ張られます[2]。
この「引き伸ばされる感じ」は、厳密には子宮の収縮とは別のものですが、妊婦さんの感覚では「張る」と表現されることがよくあります。子宮の収縮による張りは全体が固くなるのに対し、靭帯や皮膚のつっぱりは、固さよりも引っ張られる感覚や、動いたときの痛みとして感じられるのが違いです。
動きすぎと疲れ|夕方や仕事のあとに張りやすい
体を多く動かした日や疲れがたまった日は、張りを感じやすくなります。長時間の立ち仕事や歩き回る用事、重い荷物を持つ、階段の上り下りが多い、といった日には、張りの回数が増えたと感じる人が少なくありません。
子宮の収縮の回数は一日の中でも変わります。妊娠中期から後期の妊婦さんの子宮収縮を家庭用モニターで記録した米国の研究では、収縮の回数は妊娠週数が進むにつれて増え、時間帯では夕方から夜にかけて多い傾向がみられました[3]。
仕事を続けている妊婦さんの場合、仕事中は集中していて弱い張りに気づかず、帰宅して一息ついたときに初めて気づく、ということもよくあります。夕方以降に張りが目立つのは、こうした一日の疲れと時間帯の変化が重なるためと考えられます。
便秘・ガス
妊娠中は便秘になりやすく、腸にたまった便やガスでお腹が張ることがあります。妊娠中に増える黄体ホルモン(プロゲステロン)には腸の動きをゆるやかにする働きがあり、さらに大きくなった子宮が腸を圧迫します。妊娠中の便秘は世界各国の研究をまとめた解析でも、よくみられる症状として報告されています[4]。
腸の張りと子宮の張りは、どちらも「お腹が張る」と感じるので区別がつきにくいことがあります。便秘が続くと腸の張りが子宮の張りを感じやすくする面もあるため、便通を整えることは張り対策の基本のひとつです。妊娠中期の便秘の仕組みと対策は妊娠中期の便秘で詳しく解説しています。
冷え・ストレス・性行為・乳頭への刺激
体の冷えや精神的なストレスがあると張りやすいと感じる妊婦さんは多くいます。ただ、冷えやストレスが子宮の収縮を増やすことを直接示した研究は多くありません。体を温めたり、休息をとったりすると楽に過ごせる人が多い、という経験的な対処として考えておくのが妥当です。
性行為のあと、膀胱に尿がたまっているとき、水分が足りないときにも、子宮の収縮が起こりやすくなることが知られています[1]。性行為のあとに張りを感じても、休んでおさまるなら多くは一時的なものです。
乳頭や乳房への刺激は、脳からオキシトシンというホルモンを分泌させ、子宮を収縮させる働きがあります。この性質を利用して、乳房への刺激が分娩誘発の方法として研究されてきたほどです[5]。妊娠中期に乳頭のお手入れをしていて張りを感じたら、いったん中断してください。
張りやすい体の条件|多胎・子宮筋腫・子宮の形
妊娠そのものの条件によって、張りやすさや早産のリスクが変わることがあります。代表的なのは、双子(多胎)の妊娠、子宮筋腫、生まれつきの子宮の形の違いです。
多胎妊娠は子宮が単胎より大きく引き伸ばされるため、日本産科婦人科学会も早産の原因のひとつに挙げています[6]。子宮筋腫は、妊娠中に痛みが出ることがあるほか、複数の研究をまとめた解析で早産などとの関連が報告されています[7]。
子宮は、胎児期に左右一対の管(ミュラー管)がくっついてひとつになることでつくられます。この過程の違いで、子宮の内側に壁がある、ハート形にくぼんでいるといった先天的な形の違いが生じることがあり、こうした子宮の形態異常では早産の割合が高くなることが系統的レビューで示されています[8]。詳しくは子宮の形の違い(子宮奇形)の解説をご覧ください。これらに当てはまる人は、張りが出たときの連絡の目安を、あらかじめ産院で確認しておくと迷わずにすみます。
3. 何回まで大丈夫?様子を見てよい張りと受診すべき張り
妊娠中期の張りについて最も多い疑問が「何回までなら大丈夫か」です。この章では、様子を見てよい張りの特徴、回数の考え方、すぐに連絡すべきサインを順に整理します。
様子を見てよい張り|休むとおさまる・不規則
間隔が不規則で、横になったり座ったりして休むとおさまり、痛みがないか軽く、出血もない張りは、多くが生理的な張りです。これは前述のブラクストン・ヒックス収縮の特徴と重なります。体勢を変えたり、休んだり、水分をとったりすると和らぐことが多いのも、生理的な収縮の特徴です[1]。
「今日は多いな」と感じる日があっても、休めば落ち着き、翌日にはいつもの程度に戻るなら、疲れや活動量の影響と考えられます。大事なのは、その日の張りが「いつもの自分の張り」と比べてどうか、という視点です。
回数の目安は「数」より「規則性・増え方・おさまり方」
「1日に何回まで」「1時間に何回まで」という、すべての人に当てはまる国際的な基準はありません。先ほどの米国の研究では、子宮収縮の回数が多い人ほど早産になる割合はやや高かったものの、回数を測るだけでは早産を予測する方法として臨床的に役に立たない、と結論づけられています[3]。回数だけで安全か危険かを決められないのはこのためです。
一方で、受診を考えるきっかけとして示されている目安はあります。米国国立小児保健発達研究所(NICHD)は、早産の兆候のひとつとして「10分おき、またはそれより頻繁に、お腹がこぶしのように固くなる収縮」を挙げています[9]。日本産科婦人科学会は、お腹の張りや痛みが規則的にあり、子宮頸管が開き始めるなど早産の危険が差し迫った状態を切迫早産と説明しています[6]。
つまり見るべきなのは、張りが規則的に繰り返していないか、日を追うごとに、あるいは数時間のうちに回数が増えていないか、休んでもおさまらないか、という変化です。施設によっては独自の回数の目安を伝えていることもあるので、かかりつけの産院から指示がある場合は、その指示が最優先です。
すぐ連絡すべき危険なサイン
次のような場合は、張りの回数にかかわらず、時間帯を問わずかかりつけの産院へ連絡してください。NICHDは、規則的な収縮のほかに、おりものの変化(水っぽい液体が漏れる、出血)、骨盤が押し下げられるような感じ、腰の鈍い痛み、生理痛のような痛みも早産の兆候として挙げています[9]。
⚠️ 産院へ連絡する目安
・横になって休んでも張りがおさまらない
・張りが規則的に繰り返す、間隔がだんだん短くなる、回数が増えていく
・張りがどんどん強くなる、動けないほど痛い
・お腹が板のように固いままで、痛みが続く
・出血がある
・水っぽいおりものが続く、破水したかもしれない
・発熱している
・胎動が急に減った、感じられなくなった
張りとともに出血がある場合は妊娠中期の出血、水っぽいおりものが続く場合は妊娠中期の前期破水の可能性も考えます。お腹が板のように固く、強い痛みが続く場合は、胎盤が出産前にはがれてしまう常位胎盤早期剥離の可能性があり、出血が外に出ないこともあるため注意が必要です[10]。胎動の減少については後の章で説明します。
22週より前か後かで意味が変わる|切迫流産と切迫早産
妊娠中期の張りは、妊娠22週を境に呼び方と考え方が変わります。日本では、妊娠22週0日から36週6日までの出産を早産、37週0日から41週6日までを正期産と定めており、22週より前に妊娠が終わることは流産にあたります[6]。
そのため、妊娠16〜21週の張りに出血や痛みを伴う場合は切迫流産や妊娠中期の流産、22〜27週の場合は切迫早産が考える対象になります。どちらも張りだけで診断されるわけではなく、内診や経腟超音波で子宮頸管の長さや開き具合を確認して判断されます。
切迫早産と診断された場合には、子宮の収縮を抑える薬が使われることがあり、日本ではリトドリン塩酸塩や硫酸マグネシウムの点滴による治療が行われています[6]。治療や入院の詳しい内容は、切迫早産の解説ページにまとめています。
💡 用語解説:切迫早産
妊娠22週0日から36週6日までの間に、規則的な子宮の収縮があり、子宮頸管が短くなったり開き始めたりして、早産になる危険が差し迫っている状態です。「切迫」は差し迫っているという意味で、早産になったという意味ではありません。22週より前に同じように流産の危険が差し迫った状態は、切迫流産と呼ばれます。
受診の目安チェック表
ここまでの内容を、張りの状態ごとに表にまとめます。迷ったときは、表の右の列よりも一段慎重に考えて連絡して構いません。
🩺 妊娠中期のお腹の張り|受診の目安
| 張りの状態 | 考えられること | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 不規則で、休むとおさまる。痛み・出血なし | 生理的な張り(ブラクストン・ヒックス収縮)、疲れ、便秘 | 休んで様子を見る。次の健診で伝える |
| いつもより明らかに回数が多い日が続く | 活動量の増加、便秘など。変化の始まりのこともある | 休み方を見直し、続くなら産院へ相談 |
| 休んでもおさまらない、規則的、間隔が短くなる | 切迫流産・切迫早産の可能性 | 時間帯を問わず産院へ連絡 |
| 出血、水っぽいおりもの、発熱を伴う | 出血の原因となる異常、前期破水、感染など | 時間帯を問わず産院へ連絡 |
| 板のように固く、強い痛みが続く | 常位胎盤早期剥離など | すぐに産院へ連絡 |
| 胎動が急に減った、感じない | 赤ちゃんの状態の確認が必要 | 翌日まで待たずに産院へ連絡 |
※一般的な目安です。かかりつけの産院から個別の指示がある場合は、その指示に従ってください。
🩺 院長コラム【数字より「いつもと違う」を手がかりに】
「何回までなら大丈夫ですか」という問いに、ひとつの数字で答えられたら楽だと思います。けれども、子宮の収縮の回数は週数や時間帯、その日の活動量で変わり、回数を数えるだけでは早産を見分けられないことが研究で示されています。数字を決めると、その数字より少ないから大丈夫、という誤った安心にもつながりかねません。
規則性、増え方、休んだときのおさまり方、それに痛みや出血が加わっていないか、という変化を手がかりにするのが合理的です。ふだんの張り方との違いは、状態を判断するうえで重要な情報になります。迷う場合に産院へ連絡することも、状況を確認するために重要です。
4. 張りっぱなし・寝ていても張る・パンパンで苦しいとき
「ずっと張っている気がする」「寝ているのに張る」「お腹がパンパンではちきれそう」という悩みも、妊娠中期によく聞かれます。それぞれ、考えられることと連絡の目安が少しずつ違います。
張りっぱなしになる理由と、受診が必要なケース
子宮の収縮による張りは、ふつうは固くなっては緩むことを繰り返します。お腹が固いままでまったく緩まず、痛みが続く場合は、生理的な張りとは考えず、すぐに産院へ連絡してください。この状態は常位胎盤早期剥離の典型的な症状のひとつで、子宮が板のように固く触れ、押すと痛むのが特徴です[10]。常位胎盤早期剥離は妊娠の後半に多いものの、妊娠中期に起こらないわけではありません。
一方、痛みはなく「ずっとつっぱっている感じがする」という場合は、子宮が大きくなることによる皮膚や靭帯の引き伸ばし、便秘やガスによる腸の張りが重なっていることが多くあります。手のひらで触れて、子宮全体が固くなっているのか、お腹の皮膚がつっぱっているだけなのかを確かめてみてください。区別がつかないときや、心配が続くときは、遠慮せず産院へ相談して構いません。
寝ているとき・寝起き・夜に張る
寝ているときや夜間に張りを感じるのは珍しいことではありません。前述の研究でも、子宮収縮は夕方から夜にかけて多い傾向がありました[3]。日中は気づかなかった張りに、静かに横になったときに初めて気づく、ということもあります。
寝起きの張りは、膀胱に尿がたまっていることや、寝返りなど体勢の変化がきっかけになることがあります[1]。トイレに行き、横向きなど楽な姿勢で休み直してみて、おさまるかどうかを見てください。横になって休んでいるのにおさまらない、規則的に繰り返して眠れない、痛みが強くなる、という場合は、夜間でも産院へ連絡します。「寝ているから安静にしているはずなのに張る」こと自体が、休んでもおさまらない張りのサインになりうるためです。
お腹がパンパン・はちきれそうで苦しい
妊娠中期にお腹がパンパンで苦しく感じるのは、大きくなった子宮に、食後の胃腸の膨らみや便秘・ガスが重なることが多い理由です。子宮が上へ大きくなるにつれて胃や腸の入る場所が狭くなるため、食後や便秘が続いているときに特に苦しさが強くなります。
食後に苦しくなる場合は、1回の食事量を減らして回数を分ける、食後すぐに横にならない、ガスの出やすい食品をとりすぎない、といった工夫で楽になることがあります。ただし、パンパンな感覚に加えて規則的な張りがある、痛みが強い、出血があるといった場合は、張りの問題として産院に連絡してください。痛みが主な症状のときは、腹痛の解説も参考になります。
5. お腹の張りと間違えやすいもの
妊娠中期のお腹には、張り以外にもさまざまな感覚が生じます。張りと区別しにくいものを知っておくと、連絡の判断がしやすくなります。
腹痛(痛みが主のとき)
張りは「お腹が固くなる」こと、腹痛は「痛み」が主な症状で、両者は重なることも、別々に起こることもあります。張りに痛みを伴わない場合は生理的な張りであることが多い一方、張りとともに痛みが強くなる、痛みが続く場合は注意が必要です。
お腹が固くなっていないのに痛む場合は、靭帯の痛み、便秘、胃腸の不調、膀胱炎など、子宮の収縮以外の原因も考えます。痛み方による違いや受診の目安は妊娠中期の腹痛で詳しく扱っています。
便秘・ガスによる膨満
子宮の張りはお腹全体が均一に固くなるのに対し、便秘やガスによる膨満は、お腹がゴロゴロ鳴る、ガスが出る・排便すると楽になる、という特徴があります。手のひらで触れたときに、子宮のある部分が固く盛り上がっているか、それとも腹部全体がふくらんで柔らかいままかが、見分けの手がかりになります。
実際には便秘と子宮の張りが同時に起きていることも多く、どちらか一方と決めつける必要はありません。排便やガスで楽になっても張りが残る場合は、子宮の張りとして様子を見ます。
胎動|胎動があれば張っていても大丈夫?
胎動は赤ちゃんが動くことで、お腹の一部がぽこぽこ動く、内側から押されると感じるものです。張りは子宮全体が固くなるもので、感じ方が異なります。胎動のあとに張りを感じることもあり、両方が続けて起こることは珍しくありません。
ただし、「胎動があるから張りは大丈夫」とは言えません。胎動は赤ちゃんの状態を知る手がかりですが、張りが規則的に続く、痛みや出血がある、といったサインがあれば、胎動の有無にかかわらず連絡が必要です。また、胎動がいつもより明らかに減った、感じられなくなったという場合は、翌日まで待たずにすぐ産院へ連絡するよう、英国王立産婦人科医協会(RCOG)も呼びかけています[11]。胎動が少ないと感じたときの目安は胎動が少ないと感じたらで解説しています。
円靭帯の痛み(足の付け根がつれる)
急に立ち上がる、寝返りを打つ、咳やくしゃみをする、といった動作のときに、下腹部の左右や足の付け根に「ピリッ」「つれる」ような痛みが走る場合は、円靭帯の痛みであることが多いです。円靭帯は子宮の左右から鼠径部(足の付け根)へ伸びる靭帯で、子宮が大きくなるにつれて引き伸ばされ、妊娠中の下腹部痛の原因になります[2]。
円靭帯の痛みでは子宮全体が固くなることはなく、動作をやめて楽な姿勢をとると和らぐのがふつうです。動作のときの短い痛みで、張りや出血を伴わなければ、ゆっくり動くことで予防できます。
💡 用語解説:円靭帯(えんじんたい)
子宮の左右の上のほうから、骨盤の前を通って足の付け根(鼠径部)へと伸びる、ひも状の靭帯です。子宮を前方に支える役割があります。妊娠中は子宮が大きくなるにつれて引き伸ばされるため、急な動作のときに足の付け根に鋭い痛みを感じることがあり、これを円靭帯痛と呼びます。
6. お腹が張ったときの対処法
生理的な張りであれば、多くは休むことで落ち着きます。ここでは、張りを感じたときと、張りやすい時期の過ごし方を整理します。
まず横になるか座って休む
張りを感じたら、まず動きを止めて、横になるか座って休みます。横になれる場合は、横向きなど楽な姿勢で全身の力を抜きます。外出先や職場で横になれないときは、座って背もたれに寄りかかるだけでも構いません。水分が足りていないと感じたら、少しずつ水分をとります。
しばらく休んで張りがおさまるかどうかは、その張りが生理的なものかを見分ける大事な手がかりになります。一方で、長期間ベッドの上で過ごす「安静」が早産を防ぐという根拠は、複数の研究をまとめたコクランレビューでも示されていません[12]。張りがあるたびに自分の判断で何日も寝て過ごす必要はなく、安静の程度は産院の指示に従ってください。

体を冷やさない・お腹を締め付けない
冷えと張りの関係を直接示した研究は多くありませんが、体を冷やさないようにすると楽に過ごせる妊婦さんは多くいます。腹帯や羽織るもので腰回りを温める、靴下で足元を冷やさない、温かい飲み物をとる、といった方法は負担なく取り入れられます。
妊娠中期はお腹が急に大きくなるため、それまでの下着や服がきつくなっていることがあります。ウエストを締め付ける服は圧迫感の原因になるので、張りを感じやすい時期はマタニティ用のゆったりした服に替えると過ごしやすくなります。
便秘を防ぐ
便秘は張りを感じやすくする原因のひとつなので、日ごろから便通を整えておくことが張り対策になります。水分を十分にとる、野菜や海藻などで食物繊維をとる、便意を感じたら我慢しない、朝食をとって生活のリズムを整える、といった基本的な方法が中心です。水分不足は子宮の収縮のきっかけにもなります[1]。
食事や生活の工夫で改善しない場合は、妊娠中でも使える便秘薬があるので、市販薬を自己判断で使う前に、妊婦健診で相談してください。
張りやすい時期に控えたいこと
張りやすい時期は、重い物を持つ、長時間立ち続ける、休みなく歩き回る、といった負担を減らします。乳頭のお手入れは、前述のように子宮を収縮させるホルモンの分泌を促すため、張りを感じたら中断し、再開する時期を産院で相談してください[5]。性行為のあとに張りやすい人も、張りが続くようなら産院に相談します。
張っているときにお腹を強く押したり、さすり続けたりする必要もありません。なお、出産のあとに子宮の収縮を促すために行う「子宮のマッサージ」は分娩後の処置で、妊娠中にお腹を軽くなでることとは別のものです。赤ちゃんに話しかけながらお腹にそっと手を当てるのは、張りの確認にもなります。
運動は張りのないときに
医師から運動の制限を受けていなければ、妊娠中期は散歩やストレッチなど、軽い運動を取り入れやすい時期です。運動は気分転換になり、便秘の予防にも役立ちます。
ただし、運動は張りを感じていないときに行い、運動中に張りを感じたらいったん中止して休みます。休んでもおさまらない場合は、ほかの張りと同じように産院へ連絡してください。多胎妊娠や子宮頸管が短いと言われている場合など、運動を控えるよう指示されている人はその指示に従います。
🩺 院長コラム【「安静」は多ければよいわけではない】
お腹が張ると、とにかく動かないほうがよいと考える方は多いと思います。張りを感じたときに休むのは理にかなっていますが、長い期間ベッドで過ごすことが早産を防ぐという根拠は、研究をまとめた検討でも示されていません。かえって筋力の低下や気分の落ち込みにつながることもあります。
休むことは、張りの性質を見極めるための時間でもあります。休んでおさまる張りなら生活を必要以上に制限せず、休んでもおさまらない張りなら早めに連絡する、という区別が妊娠中期の張りを判断する手がかりになります。
7. 仕事中にお腹が張るとき|休む目安と母健連絡カード
仕事中に張りを感じたら、まず手を止めて座るか横になり、休める場所で張りがおさまるかを確かめます。立ち仕事や外回りの多い仕事では、張りが出やすい時間帯や作業を把握しておき、休憩をこまめにとると負担が減ります。休んでもおさまらない、規則的に繰り返すといった場合は、仕事中であっても産院へ連絡します。
妊婦健診で張りや切迫流産・切迫早産の兆候を指摘され、医師から休憩や作業の制限、休業などの指導を受けた場合は、母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)を使って、その内容を職場に伝えることができます。厚生労働省は、医師などが記入したこのカードを妊婦さんが事業主に提出し、事業主はその内容に応じて、通勤の緩和や休憩、作業の制限、休業などの措置を講じる必要があると案内しています[13]。これは男女雇用機会均等法にもとづく仕組みです。
「張るくらいで休むと言い出しにくい」と感じる方もいますが、医師の指導内容を正式に伝える手段として用意されたものなので、必要なときはかかりつけの産院で記入を依頼してください。会社への伝え方や、妊娠中期に仕事を休むことが多いケースは妊娠中期に仕事を休むときにまとめています。
8. 妊娠初期・後期の張りとの違い
お腹の張りは妊娠のどの時期にも起こりますが、時期によって原因と注意すべき点が変わります。妊娠中期の張りを、前後の時期と比べて整理します。
📅 妊娠時期ごとのお腹の張りの違い
| 時期 | 主な原因・特徴 | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 初期(〜15週) | 子宮が大きくなり始め、生理痛のような下腹部の違和感として感じることが多い。収縮としての張りは自覚しにくい | 出血や強い腹痛を伴う場合は、流産などの可能性を考えて連絡する |
| 中期(16〜27週) | 子宮が急速に大きくなり、張りを自覚し始める。不規則で休むとおさまる張りが多い | 22週より前は切迫流産、22週以降は切迫早産のサインに注意する |
| 後期(28週〜) | 張りの回数が増え、出産が近づくと前駆陣痛が起こる | 37週より前の規則的な張りは切迫早産を考える。37週以降は本陣痛との区別を意識する |
※週数の区分は一般的な目安です。どの時期でも、板のように固いまま痛みが続く張りや胎動の減少は、すぐに連絡が必要です。
妊娠中期の張りの特徴は、「初めて張りを自覚する時期」であると同時に、「22週という境目をまたぐ時期」であることです。同じような張りでも、何週の張りかによって考えられることが変わるため、産院へ連絡するときは、妊娠週数、張りが始まった時刻、間隔、痛みや出血の有無を伝えると状況が伝わりやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 妊娠中期のお腹の張りは1日何回まで大丈夫?
すべての人に当てはまる回数の基準はありません。不規則で、休むとおさまり、痛みや出血のない張りは多くが生理的なものです。休んでもおさまらない、規則的に繰り返す、間隔が短くなっていく、痛みや出血を伴う場合は、回数にかかわらず産院へ連絡してください。産院から目安を指示されている場合は、その指示に従います。
Q2. お腹の張りは流産のサインですか?
張りの多くは生理的なもので、張りがあること自体が流産のサインというわけではありません。ただし、妊娠22週より前に出血や痛みを伴う張り、休んでもおさまらない張りがある場合は切迫流産、22週以降は切迫早産の可能性があるため、産院へ連絡してください。
Q3. 胎動があれば張っていても大丈夫ですか?
胎動があることだけで、張りが心配ないとは言えません。張りが規則的に続く、痛みや出血がある、といったサインがあれば胎動の有無にかかわらず連絡が必要です。また、胎動がいつもより明らかに減った場合は、翌日まで待たずに産院へ連絡してください。
Q4. お腹の張りがわからないのは問題ですか?
張りがわからないこと自体は異常ではありません。妊娠中期の前半は子宮がまだ小さく、張っていても気づかないことがよくあります。手のひらをお腹全体に当て、全体が固くなるかどうかで確かめられます。気になる場合は妊婦健診で質問してください。
Q5. 張りと便秘はどう見分けますか?
子宮の張りはお腹全体が均一に固くなり、しばらくすると緩むのが特徴です。便秘やガスによる膨満は、お腹がゴロゴロ鳴る、排便やガスで楽になるといった特徴があります。両方が同時に起きていることも多く、排便後も張りが残る場合は子宮の張りとして様子を見ます。
Q6. お腹が張るときは仕事を休むべきですか?
張りを感じたら、まず作業を止めて休み、おさまるかを確かめます。休んでもおさまらない場合は産院へ連絡してください。医師から休憩や休業などの指導を受けた場合は、母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)で職場に伝えることができ、事業主は内容に応じた措置を講じる必要があります。
まとめ
妊娠中期のお腹の張りは、子宮の筋肉が一時的に縮むことで起こり、多くは不規則で、休むとおさまる生理的なものです[1]。子宮が大きくなることによる靭帯や皮膚のつっぱり、便秘やガス、疲れや時間帯も張りの感じ方に影響します。
張りの回数だけで安全かどうかを決めることはできず[3]、規則的に繰り返す、増えていく、休んでもおさまらない、痛み・出血・水っぽいおりもの・発熱を伴う、胎動が減った、という場合は産院へ連絡してください。妊娠22週より前は切迫流産、22週以降は切迫早産として扱われる点も、妊娠中期ならではの注意点です[6]。仕事中の張りで医師から指導を受けた場合は、母健連絡カードを使って職場に伝えることができます。
🧬 妊娠中の出生前検査(NIPT)について
ミネルバクリニックは、臨床遺伝専門医が常駐する遺伝診療の専門クリニックです。妊娠中に赤ちゃんの染色体について調べるNIPT(新型出生前診断)と、検査の前後の遺伝カウンセリングを行っています。
なお、当院は分娩を扱っていません。お腹の張りや出血などの妊娠中の症状については、かかりつけの産院へご連絡ください。
参考文献
- [1] Braxton Hicks Contractions. StatPearls. NCBI Bookshelf. [PubMed 29262073]
- [2] Anatomy, Abdomen and Pelvis: Uterus Round Ligament. StatPearls. NCBI Bookshelf. [NBK499970]
- [3] Frequency of uterine contractions and the risk of spontaneous preterm delivery. N Engl J Med. 2002. [PubMed 11807149]
- [4] Global prevalence of constipation during pregnancy: a systematic review and meta-analysis. BMC Pregnancy Childbirth. 2024. [PubMed 39707279]
- [5] Breast stimulation for cervical ripening and induction of labour. Cochrane Database Syst Rev. 2005. [PubMed 16034897]
- [6] 公益社団法人 日本産科婦人科学会. 早産・切迫早産. [日本産科婦人科学会]
- [7] The influence of uterine fibroids on adverse outcomes in pregnant women: a meta-analysis. [PMC11071265]
- [8] Reproductive outcomes in women with congenital uterine anomalies: a systematic review. Ultrasound Obstet Gynecol. 2011. [PubMed 21830244]
- [9] What are the symptoms of preterm labor? Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development (NICHD). [NICHD]
- [10] Placental Abruption (Abruptio Placentae). MSD Manual Professional Edition. [MSD Manual]
- [11] Your baby’s movements in pregnancy (Patient information leaflet). Royal College of Obstetricians and Gynaecologists (RCOG). [RCOG]
- [12] Bed rest in singleton pregnancies for preventing preterm birth. Cochrane Database Syst Rev. 2015. [PubMed 25821121]
- [13] 厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト. 母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)を活用しましょう. [厚生労働省]





