妊娠中の誰しもが切迫早産について一度は考えるのではないでしょうか?
妊娠継続ができない、もしくは継続できたとしても早産で子どもに障害が残ったらと考えると、とても不安になります。
そこでこの記事では、切迫早産に関する以下の内容についてお伝えします。
- ・切迫早産の特徴や原因、治療
- ・切迫早産の予防方法
現在、切迫早産ではない人も「私だけは大丈夫」と思わず、自分事として捉えて妊娠継続をするための参考にしていただけると嬉しいです。
切迫早産とは?
切迫早産とは早産になる一歩手前の状態のことです。生まれてくる赤ちゃんは、低出生体重児や先天性障害を合併していることが多く、出産後も長期的な治療や通院が必要になる可能性があります。
そこでこの章では、以下の内容について詳しく解説します。
- ・切迫早産と早産の違い
- ・切迫早産になりやすい人の特徴と原因
- ・切迫早産の代表的な兆候や症状
妊娠する以上、切迫早産になる可能性は誰にでもあります。だからこそ、この記事を読んでくださったあなたのように、事前学習と備えが必要になります。
では、1つずつ解説します。
切迫早産と早産の違い
切迫早産とは早産になる一歩手前であり、非常に危険な状態のことです。
子宮収縮による規則的な痛みや子宮口が開くなど、正期産ではない時期に出産直前の反応が現れます。破水した場合は感染症予防、もしくは分娩に移行することもあります。
一方の早産とは妊娠22週0日〜36週6日まで(正期産)に出産をすることです。妊娠22週未満で分娩した場合は、お腹での発育が不十分であり、生きる見込みがないため流産になります。
妊娠22週で生まれる赤ちゃんの体重は、およそ「500g」です。呼吸器官をはじめ消化器官などが成熟していないまま生まれるため、新生児集中治療室などの救命医療の設備がある病院で長期的な治療を余儀なくされます。
まとめると、正期産よりも前に出産することを「早産」、出産はしていないものの早産の一歩手前で非常に危険な状態を「切迫早産」と言います。
※参考資料:公益社団法人 日本産科婦人科学会/早産・切迫早産
切迫早産になりやすい人の特徴と原因
妊娠する以上、切迫早産になる可能性は誰にでもあります。そして、切迫早産になりやすい人の特徴があることも分かっています。
切迫早産になりやすい人の特徴は、以下の通りです。
- ・子宮関連の病気がある
- ・感染症にかかっている
- ・早産の経験がある
- ・多胎妊娠
- ・ストレスを感じやすい
- ・腹部へ強い刺激が加わった時
- ・喫煙者
子宮頸癌や異形成疾患など症状が乏しいものの、切迫早産の原因になる病気が隠れている可能性があります。また、感染症や腹部へ強い刺激・過度なストレスなどの外的因子も原因です。
原因によっては予防が難しいものもあります。そのため、妊娠中は定期健診を欠かすことなく、小まめに経過を追うことが大切になります。また、持病など心配なことがあれば、都度相談しながら不安を解消していきましょう。
※参考資料:公益社団法人 日本産科婦人科学会/早産・切迫早産
切迫早産の代表的な兆候や症状
切迫早産の兆候や症状には、軽いものから重篤になる危険性の高いものまであります。気がついた時にはすでに手遅れだったということにならないためにも、以下の兆候と症状について知っておきましょう。
切迫早産の代表的な兆候は、以下の通りです。
- ・急激な腹痛
- ・不正出血
- ・おりものの変化
次に切迫早産の代表的な症状は、以下の通りです。
- ・規則的かつ頻回な子宮収縮
- ・不正出血
- ・破水
- ・腹部の張り
- ・生理痛に似た下腹部・腰部痛
- ・発熱(細菌感染が原因)
正期産なら不正出血は出産前のおしるしとして喜ばしいですが、それ以前の出血は危険サインです。危険サインなら少量の出血が混じったおりものから、時に大量出血することもあります。
また、子宮収縮が始まると下腹部を締め付けられる痛みや破水を伴うことがあります。出血とは別に、無意識にサラッとした水っぽい液体が出てきたら破水の可能性が高いため、すぐに産婦人科を受診しましょう。
切迫早産の治療法
胎児はお腹の中にいる期間が短いほど未成熟で生まれ、障害や予後不良になる可能性が高いことが分かっています。そのため切迫早産になった場合、少しでも長くお腹の中にいられるように適切な治療を早急に受ける必要があります。
また、切迫早産の治療は、症状の程度により治療方法が異なります。治療の必要性や詳しい内容を理解して、胎児を守るための正しい行動が取れるようになりましょう。
ぜひ、最後までご覧ください。
軽症の場合:自宅安静
大前提として切迫早産の治療のメインは「安静」です。軽症・重症に関わらずお母さんや胎児に負担となる激しい行動は、切迫早産の症状を悪化させる原因になるからです。
子宮収縮の程度が弱く、子宮口が開いていない軽傷に切迫早産の方は、自宅安静となります。
自宅安静中は、以下の行動は避けましょう。
- ・重たい荷物を持つ
- ・激しい運動
- ・その他、お母さんや胎児に負担になる行動
買い物や上の子の抱っこなど止むを得ず重たい物を持つ際は、無理をせずにパートナーや知人に助けてもらいましょう。
また、趣味がスポーツやパートナーとの性生活などの激しい運動は子宮収縮を促すため、切迫早産のリスクを高めます。通院した際、どの程度の運動ならしても良いか産婦人科医に確認するようにしましょう。
重症の場合:入院加療
子宮収縮が規則的かつ頻回で子宮口が開いている重症な切迫早産の方は、入院加療が必要です。
入院加療では、以下の治療が行われます。
- ・絶対安静
- ・子宮収縮抑制薬(お腹の張り止め)の点滴
- ・抗生剤の内服・点滴
軽症と同じく絶対安静であることに変わりありません。入院中、トイレ以外はベッド上で過ごすように指示されることもあります。その上で、お腹の張りを和らげて症状を改善する子宮収縮抑制剤の点滴を投与します。
また切迫早産の原因が感染症の方は、抗生剤の内服または点滴が行われます。破水が確認されると、逆行性感染(膣を伝って細菌が胎児に感染すること)のリスクも考慮して、緊急出産になることも稀ではありません。
胎児が自発呼吸できるようになるのは、在胎34週以降です。それ以前に生まれた赤ちゃんは自発呼吸が難しく、人工呼吸管理のため新生児集中治療室に入院しなければいけません。
つまり早産で緊急出産になったとしても、在胎34週は超えておきたいのです。出生時の赤ちゃんの状態や予後を考えると切迫早産に対する治療の必要性を理解できたのではないでしょうか。
※参考資料:公益社団法人 日本産科婦人科学会/早産・切迫早産
切迫早産にならないための3つの予防策
切迫早産は事前に予防することで防げます。
具体的には、以下の3つの予防策があります。
- ・無理な動きはしない
- ・感染症対策
- ・無闇に出生前検査(確定的検査)をしない
これらの方法を念頭に置いた行動ができれば、切迫早産になるリスクを軽減できるでしょう。
では、1つずつ解説します。
予防策①:無理な動きはしない
体に負担となる無理な動きは避けましょう。
具体的には、以下の動きは非常に危険です。
- ・体を捻る動作
- ・重たい物を運ぶ
- ・激しい運動
- ・長い時間動き続ける
体を捻る動作や重たい物を運ぶと、お腹(子宮)に強い刺激や負担になります。子宮が刺激されると子宮収縮を誘発する原因になります。また、スポーツや性行為などの激しい運動も同様のことが言えます。
長時間動き続けると負担が蓄積されます。お腹の張りや痛みが出た際は小まめに休憩を挟んだり、安静にする日を作ったりしましょう。
予防策②:感染症対策
切迫早産になる最も多い原因は、細菌性膣症や性行為感染症感染症です。そして、妊婦になる以上、誰でも感染するリスクがあるため感染症対策を怠ってはいけません。
原因は膣内(胎児に繋がる産道)の常在菌や酸塩基平衡のバランスが崩れて、膣から子宮にかけて細菌が侵入することです。細菌に感染すると膣から子宮頸管にかけて炎症が起こり、子宮収縮や破水を誘発します。
トリコモナスやカンジタ、淋菌などの細菌、無症候性細菌性精液などによる感染が有名であり、特に妊娠30週未満の切迫早産のほとんどは感染症が原因と言われています。
感染症対策として、以下のことを意識すると良いでしょう。
- ・陰部を清潔に保つ
- ・性行為を避ける(特に避妊なしの行為は厳禁)
- ・免疫が低下するような生活習慣の改善
韻部が不潔になると細菌が繁殖しやすく、逆行性感染のリスクが高まります。ナプキンを換える回数を増やしたり、吸収量の多いものに変えたりしましょう。
また、免疫力が低下すると感染症にかかる可能性が高まります。栄養バランスの良い食事や十分な睡眠時間の確保で休息を取れることが大切です。胎児を育てるために栄養や体力を使うために、生活習慣を改善して免疫力の低下を防ぎましょう。
予防策③:無闇に出生前検査(確定的検査)をしない
出生前検査は、事前に赤ちゃんの状態を知れる非常に意義のある検査です。ただし、早産や流産のリスクを伴うことから無闇やたらに受けることは避けましょう。
例えば、ダウン症やその他染色体異常の有無を確認する羊水・絨毛検査は、お母さんのお腹に針を刺して羊水や胎盤の絨毛を採取します。羊膜を刺した刺激で子宮収縮が誘発されることもあります。
また清潔操作を徹底して行う検査ですが、針を刺して一瞬でも外部とつながる以上、感染菌が侵入する危険性はゼロではありません。胎児が感染症にかかると切迫早産が誘発されて、最悪の場合、流産や死産になります。
出生前検査を受けるなら必要性やリスク(合併症)を十分理解した上で臨むようにしましょう。
※参考資料:厚生労働省/NIPT 等の出生前検査に関する専門委員会報告書
切迫早産に関するよくある3つの質問
これまでの章では、切迫早産に関する基本的なことに触れてきました。
そこでこの章では、切迫早産について一歩踏み込んで以下の内容を解説します。
- ・切迫早産は保険適応できますか?
- ・分娩方法に制限がありますか?
- ・便秘になった時にいきんでも良いですか?
では、1つずつ解説します。
質問①:切迫早産は保険適応できますか?
切迫早産で入院する場合、以下の費用が保険適用となります。
- ・入院基本料
- ・検査・手術代
- ・食事代(一部)
また高額療養費制度を活用することでさらに自己負担を軽減できます。高額療養費制度とは個人または世帯の所得に応じて払いすぎた医療費が戻ってくる制度のことです。切迫早産により長期入院を繰り返したり、月ごとの医療費が高額になったりしたら、その都度申請できます 。
ただし、個室や特診室などの差額ベッド代は自己負担になるため注意しましょう。やむを得ず治療に必要な事に対して保険が適用されるとイメージしやすいでしょう。
※参考資料:全国健康保険協会 協会けんぽ/ 高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)
質問②:分娩方法に制限がありますか?
分娩方法に制限はなく、自然分娩でも出産可能です。ただし、お母さんや胎児の状況によっては、帝王切開が適応されることもあります。
例えば、以下の状況だと帝王切開になる可能性が高いでしょう。
- ・産道感染のリスクが高い
- ・胎児の心拍が低下している
- ・緊急で分娩が必要
治療の甲斐もあり切迫早産の急性期を脱すれば、特別な事情がない限りは自然分娩の適用となります。ただし、状況によっては医師の判断で帝王切開が選択されることも十分ありえます。
質問③:便秘になった時にいきんでも良いですか?
切迫早産中の排便は、できる限りいきまないようにしましょう。いきんだ際に下腹部に過度な負荷がかかると子宮収縮を誘発する刺激になります。
切迫早産中は症状の重さに関係なく絶対安静が求められます。体を動かす機会が減るため腸の動きが悪くなり、便秘傾向になる方も少なくありません。
切迫早産を悪化させることを恐れて日常生活動作まで制限する必要はないため、腹部に負担にならない程度で活動しましょう。
また、小まめな水分摂取や食物繊維の多い食材を摂取したり、産婦人科で緩下剤(便を軟らかくする薬)を処方してもらったりするなどの対処方法もあります。
まとめ: 責任を感じないで!すべての妊婦に切迫早産のリスクがある
以上、切迫早産の基礎知識から治療法・予防策まで詳しく解説しました。
切迫早産に関して、重要なことを以下にまとめます。
- ・切迫早産とは早産になる一歩手前の危険な状態のこと
- ・感染症や子宮関連の病気が誘発の原因
- ・不正出血や下腹部の規則的な痛みは兆候の可能性がある
- ・治療法のメインは自宅もしくは病院での「絶対安静」
- ・腹部を刺激するような無理な動きは禁物
- ・切迫早産は保険適応内
早産になると胎児の発育が不十分である可能性が高く、障害を抱えて生まれるケースも稀ではありません。特に在胎33週未満だと自発呼吸が難しく、新生児集中治療室で人工呼吸器管理など専門の治療や長期的な通院が余儀なくされるでしょう。
そのため、1日でも長く胎児として過ごせることが重要です。症状の程度にもよりますが、絶対安静であることに変わりがありません。重たい荷物を持つなどお腹に負担となる行動はできる限り避けつつ、医師の指示を守りながら妊娠継続ができるようにしましょう。
またパートナーや家族は、妊婦の辛い気持ちを理解するとともに、家事や上の子の育児など代われることを積極的に見つけて、一緒に妊娠生活を乗り越えられるように関わってあげてくださいね。
切迫早産を理解する上でこの記事が役に立てば幸いです。