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つわりの対策|吐き気を抑えるツボ・つわりバンドの効果とタイプ別に楽になる方法

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

つわりを止める方法はありませんが、つらさを軽くする工夫はあります。基本は「空腹をつくらない」「においなどの引き金を避ける」の2つで、そのうえで吐き気を抑えるツボ(内関)やつわりバンドを試す、という順番です。ただし、ツボやバンドの効果を裏づける研究は限られています。この記事では、対策ごとに研究でどこまでわかっているかを示しながら、タイプ別・場面別の工夫、家族ができること、受診の目安までを解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🤢 ツボ・つわりバンド・タイプ別の対策
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. つわりに一番効く対策は何ですか?

A. 基本は「少しずつ何回にも分けて食べ、空腹の時間をつくらない」ことと、「つらくなるにおいや場面を避ける」ことです。内関のツボ押しやつわりバンドは副作用がほとんどないので試す価値はありますが、効果の根拠は限られています。水分もとれないほどつらいときは、薬や点滴で治療する対象です。我慢せず、かかりつけの産婦人科に相談してください。

  • ➤対策の基本 → 少量を1〜2時間おきに、水分は少しずつ、引き金を避ける
  • ➤ツボ → 内関(ないかん)は手首のしわから指3本ぶん肘側、2本の腱のあいだ
  • ➤つわりバンド → 内関を押し続ける道具。効く人もいるが、研究結果は一定しない
  • ➤タイプ別 → 吐きづわり・食べづわり・においつわり・よだれつわり・眠りつわり
  • ➤受診の目安 → 水分がとれない、尿が減る、体重が5%以上減るなら早めに相談

1. つわり対策の基本|まず押さえたい4つのこと

つわり対策の土台は、食べ方・水分・休み方・引き金を避けることの4つです。つわりは妊娠初期の多くの人が経験する症状で、米国産科婦人科学会(ACOG)の診療指針は、吐き気が出る人を妊婦の50〜80%、嘔吐やえずきがある人を約50%としています[1]。米国の研究をまとめた解析では、何らかのつわりを経験した人は68.6%でした[2]。多くの人に起こる症状だからこそ、まず生活の中でできる工夫から始めます。仕組みや原因についてはつわり(悪阻)とはで、いつまで続くかはつわりはいつからいつまでで詳しく解説しています。

空腹をつくらず、少量を何回にも分けて食べる

つわりは、胃が空っぽのときにも、満腹のときにも強くなりやすい症状です。そのためACOGは、1〜2時間おきに少量ずつ食べて満腹を避けることを勧めています。あわせて、脂っこいものや香辛料の強いものを避けること、炭水化物だけの食事よりたんぱく質を含む軽食のほうが吐き気をやわらげやすいことも挙げています[1]。英国の王立産婦人科医協会(RCOG)の指針も、「少しずつ、たびたび食べて胃を空にしない」ことを家庭でできる対策の筆頭に置いています[3]。

「3食きちんと」と考える必要はありません。食べられるときに、食べられるものを、食べられる量だけ口にする、という考え方で十分です。妊娠初期は赤ちゃんがまだ小さく、多少食事がかたよっても、すぐに赤ちゃんの栄養が足りなくなるわけではありません。具体的にどんなものが食べやすいかは、つわりのときの食べ物でタイプ別にまとめています。

水分は少しずつ、冷たいものを(脱水を防ぐ)

食事より優先したいのが水分です。食べられない日が続いても数日で赤ちゃんに影響が出ることはまずありませんが、水分がとれずに脱水になると、体がだるく、さらに吐き気が強くなるという悪循環に入ります。一度にコップ1杯を飲もうとせず、ひと口ずつ、時間をあけて飲むほうが吐きにくくなります。

温かい飲み物はにおいが立ちやすいため、冷やした水や麦茶、氷をなめる、凍らせたゼリー飲料を少しずつ口にするなど、冷たい形のほうが受けつけやすい人が多いようです。吐いた直後は胃が落ち着くまで少し待ってから、少量から再開します。

においや刺激を避けて、休めるときに休む

ACOGは、吐き気の引き金として、におい、暑さ、湿気、騒音、ちらつく光などの感覚的な刺激を挙げ、休息とともにそれらを避けることを勧めています[1]。RCOGの指針も、休息や仕事を休むことが役に立つ場合があるとしています[3]。疲れや寝不足は吐き気を強めます。家事や仕事を減らし、横になれるときは横になってください。

対策の効果の強さ一覧

意外に思われるかもしれませんが、「少量ずつ食べる」「においを避ける」といった生活の工夫そのものを比べた臨床試験は、ほとんどありません。妊娠初期の吐き気への対策を調べたコクラン・レビュー(41件の試験、5,449人)は、食事や生活習慣を調べた試験を1件も見つけられませんでした[4]。それでも、副作用がなく、どのガイドラインも勧めているため、基本の対策として位置づけられています。主な対策を、研究での評価とあわせて表にまとめます。

📊 つわり対策と研究での評価

対策 研究での評価 副作用・注意 向いている人
少量ずつ・空腹を避ける 比べた試験はほぼないが、各国の指針が勧める基本 ほぼなし すべての人
においなどの引き金を避ける 同上 なし においつわりの人
内関のツボ押し 吐き気が軽くなったという試験はあるが、根拠は限られる ほぼなし(押しすぎに注意) 吐き気が中心の人
つわりバンド 同上。結果は試験によって一定しない 締めつけ・むくみ 手がふさがる場面が多い人
生姜 吐き気をやや改善、嘔吐の回数は差が出ていない。英国の指針は勧めていない 胸やけなど 軽いつわりの人
ビタミンB6・制吐薬 米国の指針で薬物療法の第一選択(B6) 医師と相談して使う 生活の工夫で足りない人
点滴 脱水や栄養不足を補う治療 医療機関で行う 水分もとれない人

※評価はACOG[1]、RCOG[3]、コクラン・レビュー[4]、生姜のメタ解析[5]による。

表のとおり、「これをすれば必ず楽になる」という対策はありません。副作用の少ないものから順に試し、生活の工夫だけで足りなければ薬による治療へ進む、という段階の考え方が現実的です。薬についてはつわりの薬で詳しく扱っています。

2. 吐き気を抑えるツボ|内関(P6)の位置と押し方

つわりの吐き気に使われる代表的なツボは、手首の内側にある「内関(ないかん)」です。国際的な表記では心包経の6番目のツボとしてP6(PC6)と呼ばれ、妊娠中の吐き気についての研究も、ほとんどがこのツボを対象にしています[4]。道具がいらず、電車の中でも仕事中でもすぐに試せるのが利点です。

内関の場所

内関は、手のひら側の手首のしわから、肘のほうへ指3本ぶん(人差し指・中指・薬指を横に並べた幅)進んだところで、腕の中央を走る2本の腱のあいだにあります。軽くこぶしを握って手首を手のひら側に曲げると、手首の中央に2本の筋が浮き出ます。その2本のあいだのくぼみが目安です。

以前のこの記事では「中央よりやや親指寄り」と書いていましたが、正しくは2本の腱のちょうどあいだ、腕の幅の中央です。位置がずれると内関を正確に刺激できません。左右どちらの手首にもあります。

手のひらを上に向ける反対の手を使う
▶
手首のしわに指3本を当てる人差し指〜薬指の幅
▶
2本の腱のあいだを探す腕の幅の中央
▶
親指の腹で押す5〜10秒を数回

押し方・回数・タイミング

反対の手の親指の腹を内関に当て、少し痛いけれど気持ちがよい程度の強さで、5〜10秒押してはゆるめる、を数回くり返します。左右とも行います。吐き気の波が来たとき、乗り物に乗る前、食事の前など、つらくなりやすい場面の少し前に押しておくのも一つの方法です。

回数や時間に決まりはありません。研究では、手で一定時間押す方法と、バンドで押し続ける方法の両方が試されています[4]。手で押す場合は、効いていると感じられるかどうかを目安に、自分に合うやり方を探してください。爪を立てたり、あざができるほど強く押したりする必要はありません。

そのほかによく紹介されるツボ

内関のほかに、膝のお皿の下にある足三里(あしさんり)、みぞおちとおへその中間にある中脘(ちゅうかん)、足の内側にある公孫(こうそん)などが、つわりに効くツボとして紹介されることがあります。これらは東洋医学の考え方にもとづくもので、妊婦を対象に効果を比べた試験はほとんどありません。妊娠中の吐き気の研究で調べられてきたのは、主に内関と耳のツボです[4]。

ツボは本当に効く?研究でわかっていること

内関のツボ押しは、吐き気が軽くなったという試験がある一方で、全体としての根拠は限られています。コクラン・レビューは、P6の指圧、耳のツボの指圧、P6への電気刺激のいずれについても、有効性を示す根拠は限られていると結論しています[4]。ACOGも、P6を押すリストバンドの効果は限定的としています[1]。

試験によって結果がそろわない理由の一つは、「本物のツボ」と「ツボではない場所」を押し比べる試験の設計が難しく、押されていることを本人が感じるため、気分の変化(プラセボ効果)を切り分けにくいことです。また、吐き気の感じ方は日によって大きく変わるため、効果の差が見えにくい面もあります。

それでも、ツボ押しは副作用がほとんどなく、費用もかかりません。吐き気が中心の人が試してみるのは理にかなった選択です。ただし、効かないからといって「押し方が悪い」「我慢が足りない」わけではありません。効果がなければ、ほかの対策や治療に切り替えてください。

ツボ押しで気をつけたいこと

ツボ押しで注意したいのは、強く押しすぎて皮膚を傷めることと、ツボに頼って受診が遅れることの2つです。「妊娠中は押してはいけないツボがある」と紹介されることもありますが、ツボ押しで流産が起こるという医学的な根拠は、今回調べた範囲では確認できませんでした。気になる場合は、つわりで研究されてきた内関だけにとどめれば十分です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【根拠が弱い対策を、どう使うか】

ツボやつわりバンドについて「研究では根拠が限られている」と書くと、効かないと言っているように受け取られるかもしれません。私が伝えたいのはそうではなく、「効く人もいれば効かない人もいて、どちらが多いかは研究でもはっきりしない」ということです。副作用がほとんどない方法なら、試してみて楽になる人がいれば十分に意味があると考えています。

注意したいのは、根拠の弱い方法を長く続けて、本当に必要な治療が遅れることです。吐き気止めや点滴は、妊娠中に使うことを前提に安全性が検討されてきた治療です。生活の工夫やツボで足りないときは、遠慮せず次の段階に進んでよいと考えています。

3. つわりバンドの効果と使い方

つわりバンドは、内関を押し続けるための手首用のバンドです。ツボ押しを手の代わりにしてくれる道具で、手がふさがる場面や、寝る前、通勤中にも使える点が利点です。

つわりバンドとは

つわりバンドは、伸縮するリストバンドの内側に小さな突起(ボタン)がついたもので、手首に巻くと突起が内関に当たり、ツボを押した状態が続く仕組みです。もともとは乗り物酔いを和らげる目的で使われてきたもので、妊娠中の吐き気にも同じ原理で用いられています。薬ではないため、妊娠中でも使いやすい方法です。

正しい付け方

付け方で大切なのは、突起の位置を内関に合わせることです。手首のしわから指3本ぶん肘側の、2本の腱のあいだに突起が来るように巻きます。研究では両方の手首に付ける方法がとられています[4]。突起がずれて骨の上や手首の端に当たっていると、ツボを押したことになりません。

つわりバンドは効果ない?研究の結果

つわりバンドの効果は、試験によって結果がそろっていません。コクラン・レビューが調べた試験には、ツボの位置に突起を当てたバンドと、ずれた位置に当てたバンドを比べたものが含まれていますが、全体としての根拠は限られていると結論しています[4]。2023年に報告された妊娠6〜14週の74人を対象とした試験では、1週間バンドを付けた人たちで吐き気と嘔吐の点数が下がりましたが、何もしなかった人たちとの差は統計的に意味のある大きさではありませんでした[6]。

口コミで「効いた」「効かなかった」が分かれるのは、こうした研究結果とも合っています。効果の出方には個人差があり、付けているという安心感が気分を楽にしている面もあるかもしれません。数日試して変化を感じなければ、無理に続ける必要はありません。

付けっぱなし・寝るとき・どこで買えるか

試験の中には、入浴時以外は数日〜2週間付けたままにする方法をとったものもあります[4]。付けっぱなしでもかまいませんが、手がしびれる、指がむくむ、皮膚が赤くなるといった場合は外してください。寝るときも付けてよいものの、締めつけが気になって眠れないなら外したほうが休めます。

つわりバンドは、ドラッグストアやベビー用品店、通信販売などで手に入ります。乗り物酔い用として売られている同じ仕組みのバンドもあります。サイズが合わないと突起の位置がずれるので、手首の太さに合うものを選んでください。

4. タイプ別のつわり対策

つわりの現れ方は人によって違い、吐きづわり、食べづわり、においつわり、よだれつわり、眠りつわりなどと呼び分けられます。医学的な分類ではありませんが、どこに困っているかで効く工夫が変わるため、タイプ別に考えると対策を選びやすくなります。

吐きづわり:吐いたほうが楽?

吐きづわりは、食べたり飲んだりしたあとに吐いてしまうタイプです。吐くと一時的に楽になる人もいますが、のどに指を入れるなどして無理に吐くのは勧められません。吐くたびに胃酸でのどや食道が刺激され、水分や塩分も失われるため、かえって脱水やだるさが進みます。吐き気があっても吐かずにおさまるなら、それに越したことはありません。

吐いた直後の歯みがきは避けてください。米国歯科医師会は、吐いた直後は歯が胃酸にさらされているため歯みがきを避け、水カップ1杯に重曹小さじ1杯を溶かした液でうがいして酸を中和するよう勧めています[7]。重曹がなければ水でのうがいだけでもかまいません。歯みがきは少し時間をおいてからにします。

食べづわり:空腹をつくらない工夫

食べづわりは、空腹になると気持ちが悪くなり、何か食べていると落ち着くタイプです。対策の中心は、空腹の時間をつくらないことです。クラッカーやおにぎり、チーズ、ナッツなど、手軽につまめるものをバッグや枕元に置いておき、気持ち悪くなる前に少し口にします。炭水化物だけでなく、たんぱく質を含む軽食を選ぶと吐き気がやわらぎやすいとされています[1]。

食べる回数が増えるので体重が気になる人もいますが、つわりの時期の体重の増減は一時的なことが多く、まずは吐き気をしのぐことを優先してかまいません。体重の増え方が気になる場合は、健診で相談してください。食べやすいものの具体例はつわりのときの食べ物で紹介しています。

においつわり:マスク・換気・冷ました料理

においつわりは、炊きたてのご飯、料理のにおい、香水、柔軟剤、たばこなど、特定のにおいで吐き気が出るタイプです。妊娠と嗅覚についての総説によると、妊婦のおよそ3分の2が「においに敏感になった」と感じており、料理やたばこの煙、コーヒー、香水などのにおいが苦手になったという報告が多くみられます。一方で、嗅覚が実際に鋭くなっているのか、吐き気と直接結びついているのかは、まだ確かめられていません[8]。

対策は、苦手なにおいから距離をとることが基本です。家の中でもマスクをする、マスクやハンカチにミントや柑橘など自分が平気な香りを少しつける、こまめに換気する、といった方法があります。温かい料理は湯気と一緒ににおいが立つので、冷ました料理や冷たいものにすると食べやすくなります。料理や生ごみの処理は、できる範囲で家族に任せてください。

よだれつわり:唾液を無理に飲み込まなくてよい

よだれつわりは、唾液が増えて口の中にたまり、飲み込むと気持ちが悪くなるタイプです。以前のこの記事では「妊娠中は唾液が減る」と書いていましたが、よだれつわりは唾液が増えて困る症状です。訂正します。

唾液は無理に飲み込まず、ティッシュやハンカチに出してかまいません。小さなタオルや蓋つきのカップを持ち歩く人もいます。ガムやタブレットをなめる、こまめに口をゆすぐと気分が変わることがあります。唾液を出し続けると水分を失いやすいので、飲み物は意識してとってください。

眠りつわり・だるさ

眠りつわりは、日中に強い眠気やだるさが続くタイプです。妊娠初期に増える黄体ホルモン(プロゲステロン)には眠気を起こす作用があり、吐き気がなくても体がだるくなります。できるだけ昼寝や早寝で睡眠時間を確保し、眠いときに車の運転をするのは避けてください。

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5. 時間帯・場面別の対策

つわりは一日の中でも強弱があり、朝や夕方、食後などに強くなる人が多くみられます。つらくなる時間帯がわかっていれば、その少し前に手を打てます。

朝起きたとき

朝は、夜のあいだに胃が空になっているため、吐き気が強く出やすい時間帯です。ACOGは、起き上がる前にクラッカーのような乾いた淡泊な食べ物を口にすることを勧めています[1]。枕元にクラッカーや飲み物を置いておき、横になったまま少し食べてから、ゆっくり起き上がってください。急に起き上がると、ふらつきや吐き気が強くなることがあります。

夕方〜夜にひどくなるとき

夕方から夜にかけてつわりがひどくなる人も多くいます。一日の疲れがたまること、昼食から時間がたって空腹になること、夕食の準備でにおいに触れることが重なるためと考えられます。夕方に軽い食べ物を少し口にしておく、夕食の準備は家族に任せるか、作り置きや市販品を使う、といった工夫で負担を減らせます。仕事の日は、帰宅後にすぐ横になれるよう段取りを決めておくと楽になります。

食後に気持ち悪いとき(楽な姿勢・寝方)

食後に気持ちが悪くなる場合は、一度に食べる量を減らし、食後すぐに横にならないようにします。妊娠中は胃の入口をしめる筋肉がゆるみやすく、横になると胃の内容物が上がってきやすいためです。横になるときは、クッションなどで上半身を少し高くすると楽になる人がいます。おなかを締めつけない服を選ぶことも大切です。どの姿勢が楽かには個人差があるので、自分が落ち着く姿勢を探してください。

歯みがきがつらいとき

歯ブラシを口に入れるだけでえずいてしまう人は少なくありません。ヘッドの小さい歯ブラシに替える、においや味の弱い歯みがき粉を使うか水だけで磨く、前かがみになって顔を下に向けて磨く、体調のよい時間帯に磨く、といった工夫があります。

どうしても歯ブラシが使えない日は、ウエットシートタイプの口腔ケア用品で歯をふく、洗口液や水でうがいをするだけでもかまいません。においつわりがある人は、香りの弱い製品を選んでください。ただしシートだけでは汚れを落としきれないため、体調のよいときに歯ブラシで磨く日をつくるのが理想です。

仕事中・通勤中

通勤中は、エチケット袋、ハンカチ、水、軽くつまめる食べ物を持ち歩いておくと、急に気持ち悪くなっても対応しやすくなります。混雑する時間帯を避けて時差通勤にする、座れる車両を選ぶ、途中で降りて休む、といった方法もあります。

仕事を続けるのがつらい場合は、医師に「母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)」を書いてもらう方法があります。これは医師の指導内容を勤務先に伝えるためのカードで、事業主は記載内容に応じた措置をとる必要があります。症状の例として、つわりと妊娠悪阻も挙げられています[9]。休み方や職場への伝え方はつわりがつらいときの仕事で詳しく解説しています。

6. つわり軽減グッズ|持っておくと助かるもの

つわり軽減グッズは、特別なものより「すぐ手が届くところに置いておけるもの」が役に立ちます。症状を治すものではありませんが、つらい場面をしのぐ助けになります。よく使われるものを、役立つ場面と注意点とともにまとめます。

🎒 つわり軽減グッズの例

グッズ 役立つ場面 注意点
クラッカーなどの軽食 起きる前、空腹時、外出時 脂っこいものより淡泊なもの
小さなペットボトル・水筒 少しずつ水分をとる 冷やしておくと飲みやすい
マスク においつわり、外出時 香りつきは自分が平気なものに
好きな香りのハンカチ 苦手なにおいに出会ったとき 周りの人への配慮も
つわりバンド 通勤中、仕事中、寝る前 位置がずれていないか確認
エチケット袋 通勤・外出時の急な嘔吐 口を閉じられるものを
口腔ケアシート・洗口液 歯みがきがつらい日 香りの弱いものを選ぶ
締めつけない服・下着 食後の気持ち悪さ おなかまわりがゆったりしたもの

※グッズは症状をやわらげる工夫の一つです。水分がとれないなどの症状がある場合は、受診してください。

7. 生姜・ビタミンB6・サプリは効く?

生姜とビタミンB6は、つわり対策として研究されてきた代表的なものですが、位置づけは国や指針によって異なります。ここでは研究の評価を要点だけ示します。

生姜については、プラセボ(有効成分を含まない偽薬)と比べた試験をまとめたメタ解析で、吐き気は改善したものの、嘔吐の回数には統計的に意味のある差が出ていませんでした。流産や胸やけ、眠気のリスクが増えることは示されていません[5]。ACOGは、生姜を薬以外の選択肢として検討してよいとしています[1]。一方、2024年に改訂されたRCOGの指針は、生姜で症状が悪化した人が少なくないこと、効果のある治療の開始が遅れるおそれがあることから、医療者が生姜を勧めるべきではないとしました[3]。食事として生姜を使ってみて楽になるならかまいませんが、効かないのに続けたり、高用量のサプリメントに頼ったりするのは避けたほうがよいでしょう。

ビタミンB6(ピリドキシン)は、ACOGが単独または抗ヒスタミン薬との組み合わせで薬物療法の第一選択としています[1]。量や使い方は医師と相談して決めるもので、日本で使える薬の種類も含めてつわりの薬で解説しています。

サプリメントについては、ACOGが、妊娠の1か月前からマルチビタミンを飲んでいた人ではつわりが起こりにくく軽くなる可能性があるとしています。また、鉄剤は吐き気を強めることがあるため、つわりの時期には鉄を含むサプリメントを控え、葉酸だけのものに切り替えることも挙げています[1]。鉄剤を処方されている場合は、自己判断でやめず、医師に相談してください。

8. 家族・パートナーができること

つわりの時期に家族ができる一番の対策は、においと家事の負担を減らすことです。RCOGの指針も、休息や仕事を休むことが役に立つ場合があるとしています[3]。本人が休める環境をつくることは、それ自体がつわり対策になります。

具体的には、本人が苦手なにおいのリストをつくってもらい、家族で共有する方法が役立ちます。料理、生ごみの処理、洗濯(柔軟剤の香り)、たばこ、整髪料や香水など、家庭の中のにおいの元は家族の協力で減らせます。料理は家族が担当するか、においの少ない市販品や冷たいメニューに切り替えます。

つわりは「病気ではない」と言われがちですが、本人にとっては仕事や家事が手につかなくなるほどの症状になることがあります。「気の持ちよう」「食べれば治る」といった言葉は避け、つらさをそのまま受け止めてください。水分がとれない、ぐったりしているといった様子があれば、受診の判断や付き添いを家族が担うことも大切です。

9. 対策しても楽にならないとき|受診の目安

生活の工夫で乗り切れないつわりは、治療の対象です。つわりが重症化し、食事や水分の摂取が困難になって全身状態に影響するものを妊娠悪阻(にんしんおそ)といいます。2024年のRCOGガイドラインでは、妊娠悪阻は妊婦の0.3〜3.6%にみられるとされています[3]。米国の研究をまとめた解析では、妊娠悪阻の頻度は1.2%でした[2]。

すぐ相談したいサイン

⚠️ かかりつけの産婦人科に早めに相談したいサイン

・水分をとっても吐いてしまい、半日以上ほとんど飲めない
・尿の回数や量が減った、尿の色が濃い
・体重が妊娠前から5%以上減った
・立ちくらみ、ふらつき、動悸がある
・吐いたものに血が混じる
・腹痛、発熱、下痢など、つわり以外の症状がある
・ぼんやりする、ものが二重に見える、ふらついて歩けない

RCOGの指針は、飲み薬の吐き気止めを使っても吐き気と嘔吐が続いて薬を飲み込めない場合や、脱水や5%を超える体重減少がある場合に、入院での治療を検討するとしています[3]。日本では尿中のケトン体が妊娠悪阻の目安として使われてきましたが[10]、RCOGの指針はケトン体だけで脱水や重症度を判断すべきではないとしています[3]。いずれにしても、数値ひとつではなく、飲めているか、尿が出ているか、体重がどれくらい減っているかを総合して判断されます。

食事がとれない状態が続くとビタミンB1が不足し、意識障害や目の動きの異常、ふらつきを起こすウェルニッケ脳症という合併症が起こることがあります。日本の資料でも、その予防のためにビタミンB1を補うことが示されています[10]。RCOGも、嘔吐や食事量の大きな減少で入院するすべての妊婦にビタミンB1の補充を行うよう勧めています[3]。点滴や入院について詳しくは妊娠悪阻とはで、処方される薬についてはつわりの薬で解説しています。

💡 用語解説:ウェルニッケ脳症

ウェルニッケ脳症は、ビタミンB1(チアミン)が不足して起こる脳の障害です。ぼんやりする、目がうまく動かない、ふらついて歩けない、といった症状が出ます。体はビタミンB1をあまりためておけないため、食事がとれない状態が続くと不足しやすくなります。妊娠悪阻で長く嘔吐が続く場合は、ウェルニッケ脳症を防ぐためビタミンB1を補充します。

「急に楽になった」は流産のサイン?

つわりが急に楽になったことだけで、流産かどうかを判断することはできません。つわりは日によって波があり、楽な日とつらい日をくり返しながら少しずつ落ち着いていくのが一般的です。楽になったこと自体を心配しすぎる必要はありません。

ただし、出血や下腹部の痛みをともなう場合は、つわりとは別に診察が必要です。かかりつけの産婦人科に連絡してください。つわりが終わる時期や終わりかけの変化については、つわりが終わる兆候・終わらない原因で詳しく解説しています。

\ NIPTは、臨床遺伝専門医による説明とあわせて受けられます /

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10. 遺伝の視点|対策が効きにくい人がいるのはなぜ

同じように対策しても、つわりが軽く済む人と重くなる人がいるのは、体質の違いが関わっているためです。近年、その鍵となるホルモンとしてGDF15(ジーディーエフ・フィフティーン)が注目されています。

💡 用語解説:GDF15

GDF15(増殖分化因子15)は、体がストレスを受けたときなどにつくられるホルモンの一種で、脳の吐き気や食欲にかかわる部分に働きかけます。妊娠中は胎盤で大量につくられ、母体の血液中の濃度が大きく上がります。

2024年に科学誌Natureに発表された研究では、妊婦の血液中のGDF15の大部分が胎児と胎盤に由来すること、そしてGDF15の量と、母体がGDF15にどれくらい敏感かの両方が、重いつわりである妊娠悪阻のリスクに大きく関わることが示されました[11]。さらに、妊娠前からGDF15の濃度が慢性的に高いβサラセミア(遺伝性の貧血の一つ)の女性ではつわりがきわめて少なく、反対に妊娠前のGDF15が低い人では妊娠悪阻のリスクが高いことも報告されています[11]。妊娠前にGDF15に慣れているかどうかが、妊娠中の感じ方を左右している可能性があるということです。

この研究は、つわりの重症度に胎盤由来のGDF15と母体のGDF15に対する感受性が関与することを示しています。GDF15を標的にした予防や治療はまだ研究段階で、現時点で使える治療ではありません。仕組みの詳しい解説はつわり(悪阻)とはで、つわりが重くなりやすい人の特徴はつわりになりやすい人の特徴で扱っています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【つわりの重さは、がんばりで決まるものではない】

つわりがつらいとき、「ほかの人は仕事を続けているのに」と自分を責めてしまう方がいます。けれどもGDF15の研究からわかってきたのは、つわりの重さには胎盤がつくるホルモンの量と、それを受け取る母体の感受性という、本人の意思ではどうにもならない要素が大きく関わっているということです。

臨床遺伝専門医としては、体質に個人差があることを前提に対策を考えるのが自然だと考えています。同じ対策で楽になる人もいれば、薬や点滴が必要な人もいて、それは対策の上手下手ではありません。必要な治療を受けることは、遠慮することではないと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. つわりに一番効く対策は何ですか?

基本は、少量を何回にも分けて食べて空腹をつくらないことと、においなどの引き金を避けることです。内関のツボ押しやつわりバンドは副作用がほとんどないので試す価値はありますが、効果の根拠は限られています。水分もとれないほどつらい場合は、薬や点滴による治療の対象なので、かかりつけの産婦人科に相談してください。

Q2. つわりバンドは寝るときも付けていいですか?

付けたまま寝てもかまいません。試験の中には、入浴時以外は付けたままにする方法をとったものもあります。ただし、手がしびれる、指がむくむ、皮膚が赤くなる、締めつけが気になって眠れないといった場合は外してください。

Q3. ツボはどのくらい押せばいいですか?

決まった回数はありません。内関(手首のしわから指3本ぶん肘側、2本の腱のあいだ)を親指の腹で、少し痛いけれど気持ちがよい程度の強さで5〜10秒押してはゆるめる、を左右で数回くり返すのが一つの目安です。あざができるほど強く押す必要はありません。

Q4. つわりで吐いたほうが楽になりますか?

吐くと一時的に楽になる人もいますが、無理に吐くのは勧められません。吐くたびに胃酸でのどや食道が刺激され、水分や塩分も失われるためです。吐いた直後は歯みがきを避け、水や薄い重曹水でうがいをしてください。

Q5. 炭酸水やスポーツドリンクを飲んでもいいですか?

飲めるものを少しずつ飲むことが大切なので、炭酸水やスポーツドリンクでもかまいません。炭酸ですっきりする人もいます。スポーツドリンクは糖分が多いので、水やお茶と組み合わせるとよいでしょう。どの飲み物も吐いてしまい半日以上ほとんど飲めない場合は、受診してください。

Q6. 夫のにおいがだめになりました。どうしたらいいですか?

妊娠中は体臭や香水、柔軟剤などのにおいが苦手になったという報告が多くあり、身近な人のにおいがつらくなることは珍しくありません。柔軟剤や整髪料、ボディソープを無香料のものに変えてもらう、寝室を分けるなどの方法があります。多くは時期とともに落ち着きます。

Q7. つわりが軽い・ないのは問題ですか?

つわりの重さには大きな個人差があり、軽い、あるいはほとんどないことは、それだけで赤ちゃんの異常のサインではありません。詳しくは「つわりがない人」の解説ページで、よくある噂とあわせて説明しています。

まとめ

つわりを止める方法はありませんが、少量ずつ食べて空腹をつくらないこと、水分を少しずつとること、においなどの引き金を避けて休むことで、つらさを軽くできる場合があります。生活の工夫を比べた試験はほとんどないものの、各国の指針が基本として勧めています[1][3]。

内関のツボ押しやつわりバンドは副作用がほとんどなく試しやすい方法ですが、効果の根拠は限られています[4]。水分がとれない、尿が減る、体重が5%以上減るといった場合は、我慢を続けず、かかりつけの産婦人科で治療を受けてください。つわりの重さには、胎盤がつくるGDF15と母体の体質が関わっていることもわかってきています[11]。

🏥 NIPT(新型出生前診断)をお考えの方へ

つわりの時期は、赤ちゃんの染色体を調べるNIPTを検討する時期とも重なります。ミネルバクリニックでは、常駐する臨床遺伝専門医が、検査でわかること・わからないことを説明したうえでNIPTを行っています。陽性の結果が出た場合の確定検査まで院内で対応しています。

参考文献

  • [1] ACOG Practice Bulletin No. 189: Nausea And Vomiting Of Pregnancy. Obstet Gynecol. 2018;131(1):e15-e30. [PubMed 29266076]
  • [2] Prevalence of nausea and vomiting of pregnancy in the USA: a meta analysis. J Popul Ther Clin Pharmacol. 2013;20(2). [PubMed 23863545]
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  • [6] Effect of Acupressure at PC6 on Nausea and Vomiting During Pregnancy: a Randomized Controlled Trial. J Acupunct Meridian Stud. 2023;16(3):89-94. [PubMed 37381030]
  • [7] Pregnancy. Oral Health Topics. American Dental Association. [ADA]
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  • [11] Fejzo M, Rocha N, Cimino I, et al. GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy. Nature. 2024;625:760-767. doi:10.1038/s41586-023-06921-9. [Nature]

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プロフィール
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。

2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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