目次
「NIPTは陰性だったのに、その後の健診で心拍が止まっていると言われた」。結果を見て一度は安心したぶん、なぜ流産したのか分からないまま、次の妊娠をどう考えればよいのか迷う方は少なくありません。最初にお伝えしたいのは、NIPTが陰性であることと、その後に流産することは矛盾しないということです。NIPTは、調べる範囲をあらかじめ決めて行うスクリーニング検査です。一方、妊娠初期の流産の多くは、NIPTが調べていない種類の染色体異常で起こります。「陰性だった=流産の原因がすべて否定された」ではないのです。この記事では、原因の整理から次の妊娠での考え方までを、臨床遺伝専門医の立場から順に解説します。
- ➤NIPTが調べている範囲と、調べていない範囲
- ➤NIPT陰性後に流産する原因(まれなトリソミー・三倍体・胎盤限局性モザイク・母体側の要因)
- ➤心拍確認後・NIPTを受ける時期の流産率の目安と、その数字の出どころ
- ➤流産した組織(絨毛)の染色体検査が次の妊娠の判断材料になる理由
- ➤2回以上なら考えたい不育症の検査と、夫婦の染色体検査(転座保因者)の意味
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. NIPTが陰性なのに流産するのはなぜ?
妊娠初期の流産の約半数〜3分の2は赤ちゃん側の染色体異常で起こりますが、その中で最も多いのは16トリソミーなど、13・18・21番以外の染色体の異常です。三倍体や胎盤だけの染色体の違い、母体側の要因もあり、これらは一般的なNIPTの対象外です。
📊 Q. NIPTの時期(10週前後)以降の流産率は?
症状のない妊婦さんで、健診時に赤ちゃんの心拍が確認できていた場合、その後の流産は妊娠8週で約1.5%、10週で約0.7%と報告されています。低いですが、ゼロではありません。
🌸 Q. 次の妊娠のために何をすればいい?
流産した組織の染色体検査が受けられるなら、原因が赤ちゃん側の偶然の異常かどうかを知る手がかりになります。流産が2回以上なら、不育症の検査(夫婦の染色体検査を含む)を検討してください。
NIPT陰性だったのに流産——まず知ってほしい結論
NIPT(新型出生前診断)は、お母さんの血液に含まれる赤ちゃん由来のDNAの断片を調べ、決められた染色体の変化があるかどうかを推定する検査です。「陰性」とは、その検査が対象にしている異常については、可能性が低いという意味です。調べていない異常や、染色体以外の原因について何かを保証するものではありません。
大規模な解析では、確認された妊娠のおよそ15%が流産に終わると見積もられています[1]。その大半は妊娠初期に起こり、原因として最も多いのは赤ちゃん(胚)の側に偶然生じた染色体の数の異常です。ところが、その内訳をみると、NIPTで一般的に調べる13番・18番・21番のトリソミーは一部にすぎません。つまり、NIPTで陰性だったという事実と、その後の流産の原因が染色体異常だったという事実は、同時に成り立つのです。
また、流産の大部分は、仕事や運動、軽いストレスといった日常の行動で起こるものではありません。受精の段階で決まっていた染色体の変化が原因であれば、お母さんの行動で防げたものではありません。原因を知ることは、自分を責めるためではなく、次の妊娠で何を確認すればよいかを決めるために役立ちます。
この記事は「陰性だったのに流産した」場合を扱います。「陰性だったのに、生まれた赤ちゃんがダウン症だった」という偽陰性の確率と原因はNIPT陰性だったのにダウン症…偽陰性の確率と原因で、実際の出産例はNIPT陰性でもダウン症出産となった20代女性の事例で、体験談として書かれたブログの読み方はNIPT陰性だったのにダウン症?ブログで知る後悔しない備えで解説しています。
💡 用語解説:スクリーニング検査と確定検査
スクリーニング検査は、多くの人の中から「可能性が高い人」を見つけ出すための検査で、NIPTはこれにあたります。確定検査(かくていけんさ)は、羊水や絨毛(じゅうもう:胎盤のもとになる組織)を採って赤ちゃんの染色体を直接調べ、診断を確定させる検査です。NIPTは採血だけで流産のリスクがない代わりに、調べる範囲と精度に限りがあるという性質をもっています。
NIPTが調べている範囲と、調べていない範囲
「NIPTで陰性だった」と一口にいっても、どのNIPTを受けたかによって、否定できた範囲は大きく変わります。まずは、ご自身が受けた検査の対象を結果報告書で確認してください。対象に入っていない異常は、陰性という結果から何も言えないからです。
13・18・21番だけのNIPTと、全染色体や微細欠失まで見るNIPT
最も基本的なNIPTは、ダウン症候群(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)、パトウ症候群(13トリソミー)の3つを対象にしています。検査によっては、性染色体の数の変化(ターナー症候群など)や、染色体のごく一部が欠ける微細欠失、さらに13・18・21番以外の常染色体のトリソミーまで対象にしているものもあります。
ここで流産との関係で重要なのが、13・18・21番以外の常染色体のトリソミーです。妊娠初期の流産組織で最も多く見つかるのは16トリソミーで、ほかにも22番、15番などのトリソミーがみられます。これらは多くの場合、妊娠を継続できずに流産となるため、生まれてくる赤ちゃんの病気を見つけることを目的とした一般的なNIPTでは、対象に含まれていないことがほとんどです。16トリソミーについては16トリソミーは流産原因No.1|9〜16番染色体の異常【全染色体検査ガイドVol.2】で詳しく解説しています。
三倍体・単一遺伝子・構造異常はどうか
染色体がひと組まるごと多い「三倍体」は、流産組織でよく見つかる異常の一つです。三倍体では、どの染色体も同じ割合で多いため、特定の染色体の量を比べる方式のNIPTでは見つけにくいという特徴があります。一方、SNP法は母体と胎児のDNAを見分けやすく、三倍体の判定が可能です。
また、一つの遺伝子の変化による病気(単一遺伝子疾患)や、心臓の形の異常のような体のつくりの異常(構造異常)は、染色体の数を数える検査では基本的に分かりません。単一遺伝子は対象遺伝子を絞ったNIPTで、構造異常は超音波検査で確認するものです。ただし、これらは主に「生まれたあとの病気」に関わるもので、妊娠初期の流産の原因として占める割合は、染色体の数の異常に比べて小さいと考えられています。
🧬 NIPTの検査範囲と流産との関係
| 異常の種類 | 13・18・21番のNIPT | 流産との関係 |
|---|---|---|
| 13・18・21トリソミー | 対象 | 流産の原因にもなるが、全体の一部 |
| 16・22・15番などのトリソミー | 対象外(全染色体を見る検査なら対象) | 流産組織で最も多い。16トリソミーが最多 |
| 三倍体 | 多くは対象外(SNP法なら判定可能) | 流産組織でよくみられる |
| X染色体が1本(45,X) | 性染色体を調べる検査なら対象 | 流産組織でよくみられる |
| 微細欠失・不均衡型転座 | 対象外(対象にしたプランもある) | 親が転座保因者のときに問題になる |
| 単一遺伝子疾患・構造異常 | 対象外 | 初期流産の原因としては少ない |
💡 用語解説:トリソミーと三倍体(さんばいたい)
ヒトの染色体は通常、2本ずつ23組(46本)あります。トリソミーは、そのうち特定の1組だけが3本ある状態です。三倍体は、23組すべてが3本ずつ(69本)ある状態で、多くは2つの精子が1つの卵子に入ったり、卵子や精子の染色体が半分に減らなかったりして起こります。どちらも受精の段階で偶然生じることがほとんどです。
NIPT陰性後に流産する原因
NIPTで陰性だったあとの流産の原因は、大きく「赤ちゃん(胚)の側」「胎盤の側」「お母さんの側」に分けて考えると整理しやすくなります。実際には原因が特定できないことも多いのですが、どの側の原因が考えられるかで、次の妊娠で確認すべきことが変わります。
原因の多くは赤ちゃん(胚)側の染色体異常
妊娠初期に流産した組織を調べた研究では、染色体異常が見つかる割合は報告によって幅があり、340例を調べた研究では約49%[2]、7,118例を調べた研究では約67%でした[3]。調べ方や年齢で数字は変わりますが、初期流産の約半数から3分の2は染色体異常によると考えてよいでしょう。
その内訳では、特定の染色体が1本多いトリソミーが約8割を占め、なかでも16トリソミーが最も多く、異常全体の約19%でした。三倍体などの倍数体が約7%、X染色体が1本のモノソミーX(45,X)が約10%と報告されています[2]。また、母体年齢が上がるほど染色体異常の割合は増え、7,118例の研究では38歳を境に増え方が急になっていました[3]。年齢と流産の関係は流産しやすいのはどんな人?でも整理しています。
トリソミーの多くは、卵子ができるときの細胞分裂で染色体がうまく分かれないこと(染色体不分離)で起こります。これは受精の時点ですでに決まっていることで、妊娠中の生活で起こるものではありません。
NIPTで見ていない染色体異常(まれなトリソミー・三倍体)
上の数字から分かるとおり、流産の原因になる染色体異常のうち、13・18・21番のトリソミーが占める割合は大きくありません。全染色体を対象にしたNIPTのデータをまとめた総説では、13・18・21番以外の「まれな常染色体トリソミー」は、一般的なトリソミーのおよそ半分の頻度で見つかり、16番・7番・22番などが多く、その後の流産や胎児死亡と関係することが示されています[4]。
つまり、13・18・21番だけを調べるNIPTで陰性だった方が16トリソミーや三倍体で流産しても、それは検査の誤りではなく、検査がもともと対象にしていなかった異常が起きていたということです。
胎盤限局性モザイク(CPM)
NIPTで調べているDNAの多くは、実は赤ちゃん本人ではなく、胎盤の細胞から血液中に流れ出たものです。通常、胎盤と赤ちゃんの染色体は同じですが、受精卵が分裂していく途中で、胎盤と赤ちゃんの染色体が食い違うことがあります。これが胎盤限局性モザイク(CPM)で、NIPTの結果と赤ちゃんの実際の染色体が一致しない原因の一つです[4]。
5,512件の絨毛検査を調べた研究では、CPMは約0.65%に見つかりました。このうち胎盤の広い範囲に異常細胞があるタイプでは、早産や赤ちゃんが小さく育つこと、胎内での死亡など、妊娠経過が悪くなる割合が高いと報告されています[5]。胎盤の働きと赤ちゃんの発育の関係は限局性胎盤モザイク(CPM)と胎児発育不良(FGR)の関係で解説しています。
💡 用語解説:胎盤限局性モザイク(たいばんげんきょくせいモザイク)
モザイクとは、同じ体の中に染色体の数が違う細胞が混ざっている状態です。胎盤限局性モザイクは、その「違う細胞」が胎盤だけにあり、赤ちゃん本人にはない状態をいいます。NIPTは胎盤由来のDNAを多く見ているため、胎盤と赤ちゃんの染色体が違うと、結果が赤ちゃんの実際と一致しないことがあります。
お母さん側の要因(抗リン脂質抗体症候群・甲状腺・子宮の形)
赤ちゃんの染色体に異常がない流産では、お母さん側の要因を考えます。代表的なのは、血液が固まりやすくなる自己免疫の病気である抗リン脂質抗体症候群、甲状腺の働きの異常、そして子宮の形の異常です。抗リン脂質抗体症候群は、妊娠10週以降に原因の分からない胎児死亡が1回でもあれば、流産の回数にかかわらず検査と治療の対象になります[11]。
甲状腺については、欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)のガイドラインが、不育症の女性に甲状腺刺激ホルモン(TSH)と甲状腺の自己抗体を調べることを勧める一方、甲状腺の働きが正常で自己抗体だけが陽性の場合には、甲状腺ホルモン薬で治療しないよう求めています[7]。詳しくは妊娠と甲状腺疾患の関係を、子宮の形の異常は子宮奇形についての解説をご覧ください。
一方、「免疫が赤ちゃんを異物として攻撃する」という考え方にもとづくNK細胞活性の検査などは、現在の主要なガイドラインでは勧められていません[7]。根拠が確立していない検査や治療に、時間と費用をかけすぎないことも大切です。
🩺 院長コラム【「陰性だったのに」の「のに」をほどく】
「NIPTが陰性だったのに流産した」という言葉には、「検査が見逃したのではないか」という疑いと、「では自分の体に原因があるのではないか」という不安の両方が含まれているように感じます。けれども、多くの場合、そのどちらでもありません。NIPTが見ていなかった16トリソミーや三倍体が、受精の段階で偶然起きていた。それだけのことが、実はいちばん多いのです。
臨床遺伝専門医として大切にしているのは、「どの検査で、何を調べ、何を調べていないか」を正確に知っていただくことです。検査の限界を知ることは、検査を疑うためではなく、結果を正しく使うためにあります。流産の原因がどこにあったのかを確かめる方法はあります。その結果をもとに、あなたにとって納得できる次の一歩を選んでいただきたいと考えています。
NIPT陰性後の流産率の目安と、その数字の出どころ
「NIPTで陰性だったのに流産する確率はどのくらいか」という疑問に、NIPTの結果別に答えた大規模なデータは限られています。そこで参考になるのが、健診で赤ちゃんの心拍が確認できた後の流産率です。NIPTは多くの場合、心拍が確認できた後、妊娠10週前後以降に受けるため、この数字が現実に近い目安になります。
オーストラリアで、出血や腹痛などの症状がなく、妊娠初期の健診で赤ちゃんの心拍と正常な発育が確認された妊婦さんを追跡した研究では、その後の流産率は全体で1.6%でした[6]。健診を受けた週数ごとにみると、次のように週数が進むほど急速に下がっています。
📊 心拍を確認した週数ごとのその後の流産率
| 心拍を確認した健診の週数 | その後の流産率 |
|---|---|
| 妊娠6週 | 9.4% |
| 妊娠7週 | 4.2% |
| 妊娠8週 | 1.5% |
| 妊娠9週 | 0.5% |
| 妊娠10週 | 0.7% |
出典:Tongら(Obstetrics and Gynecology, 2008)[6]。症状のない妊婦さんで、健診時に心拍と正常な発育が確認できた場合の数字です。
注意点として、対象は症状がなく、健診で異常のなかった妊婦さんで、出血がある方や高齢の方、流産をくり返している方では、これより高くなります。また、この研究は2008年の一つの地域のデータで、人数も多くはありません。集団の平均であり、個々の方の確率をそのまま表すものではない点もご理解ください。
この数字からは、NIPTを受ける時期まで順調に育っていた妊娠が流産になるのは、多くはない出来事だったと言えます。だからこそ原因を確かめる意味があります。流産の時期による呼び方の違い(稽留流産など)は流産の種類についてで、妊娠後期の死産についてはNIPT陰性でも臨月で死産する原因とはで解説しています。
💡 用語解説:稽留流産(けいりゅうりゅうざん)
赤ちゃんの心拍が止まっているのに、出血や腹痛などの症状がなく、子宮の中に妊娠組織がとどまっている状態です。症状がないため、健診の超音波検査で初めて分かることが多く、NIPTの結果を受け取った後の健診で判明することもあります。
流産した組織(絨毛)の染色体検査を受ける意味
NIPT陰性後の流産で原因を確かめる最も直接的な方法は、流産した組織(絨毛)そのものの染色体を調べることです。NIPTは血液中の断片から推定する検査でしたが、こちらは妊娠組織の細胞を直接調べるため、16トリソミーや三倍体のように、NIPTの対象外だった異常も確認できます。
日本では、流産検体の染色体検査が2022年4月から保険適用になりました[10]。保険で受けられるのは2回目以降の流産で、方法はGバンド法(染色体を染め分けて顕微鏡で見る方法)に限られます[11]。1回目の流産では自費となるほか、検体の採取方法や受けられる条件は施設によって異なるため、流産の手術を受ける前に主治医に確認しておくことをお勧めします。
結果は、次の妊娠を考えるうえで次のように役立ちます。
16トリソミーや三倍体のような偶然生じる数の異常が見つかれば、その流産は赤ちゃん側の原因で説明できることになり、お母さんの体の検査を急ぐ必要性は下がります。反対に、染色体が正常だった場合は、お母さん側の要因を調べる意味が大きくなります。そして、染色体の一部が過不足している「不均衡型転座」が見つかった場合は、ご両親のどちらかが転座保因者である可能性を考え、夫婦の染色体検査につなげます。
ただし、この検査にも限界があります。お母さんの細胞が混ざると、実際は異常があっても「正常(女性)」と出てしまうことがあり、培養がうまくいかずに結果が出ないこともあります。ESHREのガイドラインは、流産組織の遺伝学的検査を全員に日常的に行うことまでは勧めていませんが、流産の原因を説明する目的で行うことは認めています[7]。
2回以上なら不育症の検査を考える
1回の流産であれば、その多くは赤ちゃん側の偶然の染色体異常で説明され、次の妊娠が順調に進む可能性は十分にあります。一方で、流産が2回以上続いた場合は、偶然だけでは説明しにくくなるため、不育症として原因を調べる段階に入ります。
不育症の定義と頻度
ESHREのガイドラインは、不育症を「2回以上の妊娠の喪失」と定義しています(子宮外妊娠や胞状奇胎は含みません)[7]。日本の岡崎市で行われた調査では、2回以上の流産を経験した女性は4.2%、3回以上は0.88%でした[8]。世界規模の解析でも、2回の流産を経験した女性は1.9%、3回以上は0.7%と見積もられています[1]。
不育症の検査では、抗リン脂質抗体、甲状腺の働き、子宮の形、夫婦の染色体などを調べます。抗リン脂質抗体症候群の検査や、治療に使うヘパリンの自己注射は保険適用になっています[10]。不育症の全体像と検査の流れは不育症とは?知っておきたい基礎知識や検査方法で詳しく解説しています。また、アスピリンやヘパリンを使っている方のNIPTについては、バイアスピリン服用中のNIPTとヘパリン注射とNIPTをご覧ください。
夫婦の染色体検査と転座保因者
ご夫婦のどちらかが、染色体の一部が入れ替わった「均衡型転座」をもっていることがあります。遺伝子の量に過不足がないため本人は健康ですが、卵子や精子ができるときに染色体の過不足が生じやすく、流産をくり返す原因になります。日本の2,382組の不育症夫婦を調べた研究では、5.4%にどちらかの染色体の構造異常があり、転座は3.6%でした[9]。
同じ研究では、相互転座をもつ夫婦が次に妊娠したときに出産に至った割合は63.0%で、染色体が正常な夫婦の78.7%より低かったものの、転座があっても半数以上が自然妊娠で出産に至っていました[9]。転座が見つかっても、子どもを持つことをあきらめる理由にはなりません。転座の種類については均衡型構造異常の解説とロバートソン転座で、不育症と染色体の関係は不育症の原因になる染色体異常とはで解説しています。
なお、ESHREのガイドラインは、夫婦の染色体検査を不育症の全員に一律に行うのではなく、流産組織の結果や家族歴などから個別に判断することを勧めています[7]。流産組織で不均衡型転座が見つかった場合は、特に検査の意味が大きくなります。
💡 用語解説:均衡型転座(きんこうがたてんざ)と保因者
2本の染色体の一部が切れて、互いに入れ替わった状態を転座といいます。入れ替わっただけで遺伝情報の量に過不足がないものを「均衡型」と呼び、その人を転座保因者(ほいんしゃ)といいます。保因者本人は健康ですが、子どもに染色体を渡すときに一部が多すぎたり足りなかったりする「不均衡型」になることがあり、これが流産の原因になります。
遺伝の視点:「陰性」という結果が意味するもの
ここまでの内容を、臨床遺伝の視点からまとめておきます。まず、流産の原因の多くは、受精のときに偶然生じた胚の染色体異常です。これは親から受け継いだものではなく、次の妊娠で同じことが起こるとは限りません。若い方では16トリソミーや三倍体、モノソミーXが、年齢が上がると13・18・21・22番などのトリソミーが多くなる傾向があり[3]、その多くは卵子ができる過程での偶然の誤りです。
次に、NIPTの陰性は「調べた範囲では可能性が低い」という意味であって、すべてを否定するものではありません。NIPTはスクリーニング検査であり、調べる染色体を決めて行います。対象外の異常が起きていても、それは検査の誤りではなく、検査の守備範囲の外だったということです。ここは「偽陰性(対象の異常を見逃すこと)」とは区別して考えてください。
例外は、ご夫婦のどちらかが転座保因者である場合です。この場合の流産は偶然ではなく、同じ仕組みで次の妊娠でも起こる可能性があるため、再発のリスクを個別に見積もる必要があります。リスクは転座の種類やどちらの親がもっているかで異なり、不均衡型転座をもつ赤ちゃんが生まれる可能性も考えます。不均衡型転座をNIPTで見つけた例はカリオセブン症例集・不均衡型転座例でご覧いただけます。
症例:1回目は陰性で流産、2回目の妊娠でNIPTが陽性だったAさん
ミネルバクリニックでNIPTを受けた40代前半のAさんの経過を、以前の症例記事から要約してご紹介します。
Aさんは他院での体外受精で妊娠し、高齢妊娠であることから、早い時期にNIPTを受けました。選んだのは当時提供していたコンプリートデノボプラス(現在のダイヤモンドプラン相当)でで、56遺伝子まで含む範囲の広い検査です。結果はすべて陰性でした。ところが数週間後、赤ちゃんの心拍が止まり、流産と診断されました。その後、Aさんは不育症の検査を受けました。その結果、軽い異常値が一つ見つかり、胎盤の血流を保つ目的で、ヘパリンとアスピリンを併用する治療を受けることになりました。
その後Aさんは再び妊娠し、妊娠8週でNIPTを受けました。超音波では順調でしたが、結果はトリソミー陽性でした。遺伝カウンセリングの日に超音波検査を行ったところ、赤ちゃんの心拍はすでに確認できず、確定検査を行う前に流産となりました。
Aさんの経過は、この記事で説明してきたことをよく表しています。1回目の流産では、範囲の広いNIPTで陰性でも流産は起こりうること、その後の不育症の検査でお母さん側の要因が見つかることもあることが分かります。2回目の流産では、40代では赤ちゃん側の染色体のトリソミーが流産の原因になりやすいことが表れています。お母さん側の治療をしていても、受精の段階で起きた染色体異常は防げず、2回の流産は別々の原因で起きた可能性があります。
流産をくり返す方では、「赤ちゃん側」と「お母さん側」の可能性を一回ごとに分けて確かめる視点が欠かせず、流産組織の染色体検査がその切り分けに役立ちます。NIPTの検査日に流産が分かった方の経過はNIPT検査来院時に稽留流産が判明した方へのケアでも紹介しています。
次の妊娠でのNIPTと確定検査の考え方
NIPTは流産を防ぐ検査でも予測する検査でもありませんが、赤ちゃんの染色体の状態を早い時期に知り、その後の妊娠をどう過ごすかを考える材料になるという役割は変わりません。
心拍を確認してから受ける
流産の経験がある方ほど、まず超音波検査で赤ちゃんの心拍と発育を確認してから検査に進むことが大切です。心拍が止まった後に採血すると、結果の解釈が難しくなるためです。理由はNIPTにおいて胎児の心拍を確認してから検査をすることの重要性で解説しています。ミネルバクリニックでは、高性能の産婦人科用超音波で赤ちゃんの状態を確認してから採血に進みます。
何を調べるかを、前回の結果から選ぶ
前回の流産組織の染色体検査や、不育症の検査の結果があれば、それをもとに調べる範囲を選びます。例えば年齢が高く、トリソミーが心配な方は、13・18・21番以外の常染色体トリソミーも対象に含むプランを検討できます。ミネルバクリニックのプレミアムプランは、常染色体トリソミー6種・性染色体の数の変化4種・微細欠失12領域を、ダイヤモンドプランはその全範囲に加えて56遺伝子を対象にしています。どちらもSNP法とターゲット法を組み合わせたCOATE法で検査します(精度のデータはCOATE法のエビデンス)。
一方、ご夫婦のどちらかが転座保因者と分かっている場合は、NIPTだけで判断せず、絨毛検査や羊水検査による確定検査を計画に入れることを考えてください。転座の種類によっては、NIPTで見つけにくい不均衡型があるからです。確定検査については羊水検査・絨毛検査のページで説明しています。
陽性だったとき、流産したときの備え
流産の経験がある方にとって気がかりなのは、NIPTで陽性が出た後、確定検査の前に流産してしまう可能性です。ミネルバクリニックでは、2025年6月から羊水検査・絨毛検査を院内で行い、多くは3日以内に結果をお返ししています。転院の手間がなく、待つ時間も短くできます。また、強制加入の互助会(8,000円)で羊水検査の費用が全額補助され、安心結果保証制度(6,000円)は、再検査が必要と分かったのに流産して検体を提出できなかった場合の保証です。
施設を選ぶときは、陽性や流産のときに誰が説明し、確定検査をどこで受けられるのかまで確認してください。施設選びのポイントはNIPTクリニックの選び方にまとめています。遠方の方はオンラインNIPTもご利用いただけます。
🩺 院長コラム【一度の流産を、次の妊娠の情報に変える】
流産の後は、そのことに触れずにいたいという気持ちも自然なものです。そのうえで、臨床遺伝専門医としてお伝えしたいのは、流産した組織の染色体を調べられる機会は、そのとき一度しかないということです。結果が分かれば、「偶然の染色体異常だった」と納得できることもあれば、ご夫婦の検査が必要だと分かることもあります。どちらであっても、次の妊娠の計画を立てるうえで確かな手がかりになります。
NIPTも同じで、「陰性なら安心、陽性なら終わり」という検査ではなく、何を調べ、何を調べていないのかを知ったうえで使う検査だと考えています。生涯に関わる検査だからこそ、早さより正確さを優先し、陽性のときも流産のときも、結果の説明から確定検査まで責任をもって対応する。それが、臨床遺伝専門医が運営するクリニックとしての役割だと考えています。
🏥 次の妊娠のNIPTを、正確な情報にもとづいて選ぶために
ミネルバクリニックは臨床遺伝専門医が運営し、NIPTのカウンセリングから結果の説明、確定検査まで、終始責任をもって支援します。
よくある質問(FAQ)
Q1. NIPTが陰性だったのに流産したのはなぜですか?
妊娠初期の流産の約半数〜3分の2は赤ちゃん側の染色体異常で起こりますが、最も多いのは16トリソミーなど、一般的なNIPTが対象にしていない染色体の異常です。三倍体や、胎盤だけの染色体の違い(胎盤限局性モザイク)、抗リン脂質抗体症候群などお母さん側の要因もあります。NIPTの陰性は「調べた範囲では可能性が低い」という意味で、流産の原因すべてを否定するものではありません。
Q2. NIPTが陰性でも流産する確率はどのくらいですか?
NIPTの結果別の大規模なデータは限られていますが、症状のない妊婦さんで健診時に心拍が確認できていた場合、その後の流産は妊娠8週で約1.5%、10週で約0.7%と報告されています。年齢が高い方や出血がある方、流産をくり返している方ではこれより高くなります。集団の平均であり、個々の方の確率をそのまま示すものではありません。
Q3. NIPT陰性後の稽留流産は、私の体に原因があるのでしょうか?
1回の流産であれば、多くは受精の段階で偶然生じた赤ちゃん側の染色体異常で、お母さんの体や生活に原因があるわけではありません。原因を確かめたい場合は、流産した組織の染色体検査が役立ちます。流産が2回以上続いた場合や、妊娠10週以降に原因の分からない胎児死亡があった場合は、不育症の検査でお母さん側の要因を調べます。
Q4. 流産した組織の染色体検査は受けたほうがいいですか?
次の妊娠の判断材料になるため、受けられるなら意味のある検査です。偶然の数の異常が見つかれば流産は赤ちゃん側の原因で説明でき、正常ならお母さん側の要因を、不均衡型転座が見つかればご夫婦の染色体検査を考えます。日本では2022年4月から、2回目以降の流産で保険適用(Gバンド法)になっています。組織の採取が必要なため、流産の手術の前に主治医に相談してください。
Q5. 1回の流産でも不育症の検査は必要ですか?
不育症は2回以上の流産・死産と定義されており、1回の初期流産では通常、不育症の検査は行いません。ただし、妊娠10週以降に原因の分からない胎児死亡があった場合は、抗リン脂質抗体症候群の検査の対象になります。持病や家族歴など気になることがあれば、主治医と相談して個別に判断してください。
Q6. 夫婦の染色体検査で転座が見つかったら、子どもはあきらめるべきですか?
いいえ。日本の研究では、相互転座をもつ不育症の夫婦でも、次の妊娠で63.0%が出産に至っていました。転座の種類やどちらの親がもっているかで再発リスクは異なるため、遺伝カウンセリングで個別のリスクを確認し、次の妊娠では確定検査も含めた計画を立てることをお勧めします。
Q7. 流産の後の妊娠でも、NIPTを受ける意味はありますか?
NIPTは流産を防ぐ検査ではありませんが、赤ちゃんの染色体の状態を早い時期に知る材料になります。前回の流産組織や不育症の検査結果をもとに、13・18・21番以外のトリソミーも含めるかなど、調べる範囲を選ぶことが大切です。心拍と発育を超音波で確認してから受けてください。
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参考文献
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- [11] 横浜市立大学附属市民総合医療センター. 連携NEWS「不育症について」. [横浜市立大学附属市民総合医療センター]
※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。流産後の検査や次の妊娠については、主治医・専門医にご相談ください。






