目次
Q. ロバートソン転座とは?わかりやすく言うと?
A. 13・14・15・21・22番のどれか2本の染色体が、長い腕どうしでくっついて1本になった状態です。短い腕はなくなりますが、ここにある遺伝子は他の染色体にも同じものが多くあるため、本人(保因者)はふつう健康で、染色体の数は46本ではなく45本になります。およそ800〜1,000人に1人にみられる、最も多い染色体の形の変化です。
Q. ロバートソン転座でダウン症になる確率は?
A. 14番と21番の転座では、母親が保因者の場合は約10%、父親が保因者の場合は約2.4%と示されています。21番どうしの転座では、生まれる子はすべて転座型ダウン症候群か、妊娠が続かない受精卵になります。確率は転座の組み合わせと、どちらの親が保因者かで大きく変わります。
Q. 症状はある?どうやって調べるの?
A. 保因者には通常、症状はありません。多くは流産をくり返したとき、不妊の検査のとき、子どもが転座型ダウン症候群と診断されたときに、血液の染色体検査(Gバンド法)でわかります。マイクロアレイなどの量を調べる検査では見つけにくいのが特徴です。
Q. 「ロバートソン症候群」という病気はある?
A. その名前の病気はありません。ロバートソン転座のことか、名前の似た別の病気「ロバーツ症候群(ESCO2遺伝子の病気)」のどちらかを指していることが多いと考えられます。

ロバートソン転座(Robertsonian translocation)とは、13・14・15・21・22番という形の似た5種類の染色体のうち2本が、長い腕(長腕)どうしでくっついて1本になった状態のことです。くっつく際に短い腕(短腕)は失われますが、本人の健康にはふつう影響がなく、染色体は45本になります。一方で、精子や卵子がつくられるときに染色体の配分がずれやすく、流産・不妊や、子どもの転座型ダウン症候群・13トリソミーの原因になることがあります。この記事では、ロバートソン転座をわかりやすく説明したうえで、ダウン症になる確率、流産との関係、調べ方、妊娠を考えるときの選択肢までを、臨床遺伝専門医の立場から整理します。出生前検査全体の考え方はNIPT(新型出生前診断)のページでも解説しています。
- ➤しくみ → 13・14・15・21・22番の2本が長腕どうしで融合し、染色体は45本になる
- ➤頻度 → 約800〜1,000人に1人。13番と14番の組み合わせが最も多い
- ➤症状 → 保因者は通常症状なし。流産・不妊・子の染色体異常で見つかることが多い
- ➤ダウン症の確率 → 14;21転座で母親が保因者なら約10%、父親なら約2.4%
- ➤調べ方 → 血液の染色体検査(Gバンド法)。マイクロアレイでは見つけにくい
1. ロバートソン転座とは?わかりやすく解説
ロバートソン転座は、くびれ(セントロメア)が端に近い「アクロセントリック染色体」2本が、長い腕どうしで融合して1本の染色体になる、染色体の構造の変化です。ヒトでアクロセントリック染色体にあたるのは13・14・15・21・22番の5種類で、ロバートソン転座はこの5種類のあいだでだけ起こります[1]。染色体の一部が別の染色体に移る「転座」の一種ですが、2本がまるごと1本にまとまる点で、ほかの転座と区別されています。
たとえば14番と21番のロバートソン転座では、14番の長腕と21番の長腕がつながった「転座染色体」が1本でき、そのかわりに、ふだんの14番1本と21番1本が見かけ上なくなります。体の設計図として大切な長腕の情報はすべて残っているので、遺伝情報の量に過不足がない状態、つまり均衡型になります。均衡型の転座を持つ人を、医学では「保因者(キャリア)」と呼びます。
模式図:14番と21番のロバートソン転座。端部着糸型の2本の短腕は失われ、長腕どうしがくびれ(セントロメア)1つを挟んで1本にまとまる(長さ・位置関係は簡略化しています)
なぜ13・14・15・21・22番だけで起こるのか
13・14・15・21・22番の5種類は、どれも短腕に、リボソームをつくる遺伝子(rDNA)がくり返し並んだ領域を持っています。ロバートソン転座の多くは、この短腕のrDNAより内側(セントロメア寄り)で切れてつながるため、できた転座染色体にはセントロメアが2つ残ることが多いとされています[1]。短腕に同じ種類の領域を持つ5種類のあいだでだけ融合が起こり、ほかの番号の染色体ではロバートソン転座は起こりません。
また、総説では、ロバートソン転座のうち代表的なタイプは主に女性の減数分裂(卵子ができる過程)で生じることが示されています[1]。つまり、新しく起きる転座の多くは、親から受け継いだものではなく、卵子ができる過程で偶然に生じたものです。
短腕がなくなっても健康なのはなぜ?
短腕にあるrDNAは、5種類のアクロセントリック染色体の短腕(合計10か所)に分かれて重複して存在するため、そのうち2か所を失っても、残りが働くため影響はほとんどないと考えられています。総説でも、ロバートソン転座では10あるrDNAの集まりのうち2つが失われると説明されています[1]。同じ働きの遺伝子がほかにもたくさんあるので、保因者の体はふつうに働き、見た目や知能に影響が出ないのが一般的です。
ここが、同じ「染色体の変化」でも、ダウン症候群のように長腕の遺伝子の量が増える変化と大きく異なる点です。体の発達に影響するのは主に長腕の遺伝子の量の過不足で、ロバートソン転座の保因者では長腕の量がそろっているため、症状が出ません。
ロバートソン転座の染色体の数は45本
ロバートソン転座の保因者の染色体の数は、ふつうの46本より1本少ない45本です。2本の染色体が1本にまとまるので本数は減りますが、長腕の情報は2本分そろっています。染色体検査の報告書では、たとえば「45,XX,der(13;14)(q10;q10)」のように書かれます。45は染色体の総数、XXは性染色体(女性)、der(13;14)は13番と14番からできた転座染色体、q10は長腕のセントロメアのすぐそばでつながっていることを表します。
一方、ロバートソン転座が原因で生まれた転座型ダウン症候群のお子さんでは、染色体の数は46本です。転座染色体1本の中に21番の長腕が入っているので、本数は46本でも21番の長腕は3本分あり、ダウン症候群になります。「ダウン症候群なのに46本」という一見ふしぎな結果は、このしくみで説明できます。染色体の表記の読み方は核型の解説も参考になります。
💡 用語解説:アクロセントリック染色体
染色体のくびれ(セントロメア)が端に近い位置にある染色体のことで、「端部着糸型染色体」とも呼ばれます。ヒトでは13・14・15・21・22番の5種類です。短腕はとても短く、先端にリボソームの遺伝子(rDNA)が並んだ部分があります。ロバートソン転座は、この5種類のあいだでだけ起こります。
名前の由来と「ロバートソン症候群」「ロバーツ症候群」との違い
ロバートソン転座の名前は、1916年にバッタの仲間(ヒシバッタ科・バッタ科)の染色体を比較した論文を発表した研究者、W.R.B.ロバートソンに由来します。論文の題名は「染色体研究Ⅰ:ヒシバッタ科とバッタ科の染色体に示される分類上の関係」で、昆虫の染色体の研究から生まれた名前です[2]。ヒトの病気の名前ではなく、染色体の変化の名前であることがポイントです。
検索で使われる「ロバートソン症候群」という病名は、医学的には存在しません。多くはロバートソン転座のことか、名前の似たロバーツ症候群を指していると考えられます。ロバーツ症候群は、ESCO2という1つの遺伝子の病的バリアントによって起こる常染色体潜性(劣性)遺伝の病気で、染色体検査では、セントロメア付近が早く離れる特徴的な所見がみられます[3]。ロバートソン転座とはしくみも遺伝のしかたもまったく別のものです。
2. ロバートソン転座の頻度と種類(何番の染色体?)
ロバートソン転座は、およそ800〜1,000人に1人にみられる、ヒトで最も多い染色体の構造の変化です。新生児14,069人を連続して調べた研究では13人(0.092%)にみつかり、ほかの研究を合わせた新生児46,150人のデータでもほぼ0.1%でした。デンマークの新生児34,910人の調査では812人に1人と報告されています[1]。日本の臨床細胞遺伝学認定士制度の資料でも、新生児のおよそ1,000人に1人、一般集団の0.1%とされています[4]。
5種類の染色体の組み合わせは理論上15通りありますが、実際には大きく偏っています。ロバートソン転座のある1,987人を調べた研究では、13番と14番の組み合わせ(rob(13;14))が62.8%、14番と21番(rob(14;21))が19.6%で、そのほかの組み合わせはそれぞれ2%未満でした[1]。つまり、ロバートソン転座の保因者の大部分は、13;14型か14;21型のどちらかです。
📊 ロバートソン転座の主な種類と特徴
| 転座の型 | 頻度 | 子どもで問題になりうること |
|---|---|---|
| rob(13;14) | 最も多い(62.8%) | 転座型13トリソミー(確率は低い)、流産、片親性ダイソミー |
| rob(14;21) | 2番目に多い(19.6%) | 転座型ダウン症候群(21トリソミー)、流産、片親性ダイソミー |
| rob(21;22)など | それぞれ2%未満 | 21番を含む型では転座型ダウン症候群 |
| rob(21;21)など同じ番号どうし | まれ | 正常な染色体の子は生まれない(すべてトリソミーかモノソミーの受精卵) |
相互転座との違い
相互転座は、どの番号の染色体でも起こりうる「2本の染色体の一部どうしの入れ替わり」で、本数は46本のままです。ロバートソン転座は、アクロセントリック染色体2本が丸ごとまとまり、本数が45本になる点が違います。どちらも均衡型なら本人は通常健康で、精子や卵子の染色体の配分がずれることで流産や子どもの染色体異常につながる点は共通しています。
ただし、子どもに起こりうる不均衡のパターンは異なります。相互転座では切れた位置によって不均衡の中身が人ごとに違うのに対し、ロバートソン転座では、子どもに起こるのは主に「その染色体のトリソミーかモノソミー」です。そのため、ロバートソン転座では型ごとに確率をある程度まとめて示すことができます。転座の種類全体は均衡型構造異常と不均衡型構造異常の解説で整理しています。
🔁 ロバートソン転座と相互転座の違い
| 項目 | ロバートソン転座 | 相互転座 |
|---|---|---|
| 起こる染色体 | 13・14・15・21・22番のみ | どの染色体でも起こりうる |
| 何が起こるか | 2本が長腕どうしで融合し1本になる | 2本の一部どうしが入れ替わる |
| 保因者の本数 | 45本 | 46本 |
| 子どもで起こりうる不均衡 | 主にトリソミー・モノソミー(例:転座型ダウン症候群) | 部分的な欠失と重複の組み合わせ(人ごとに異なる) |
3. ロバートソン転座の原因と症状
ロバートソン転座の保因者には、通常、症状はありません。見た目や発達、健康状態はほかの人と変わらず、多くの人は自分が保因者であることを知らないまま生活しています。保因者だとわかるのは、流産をくり返したとき、不妊の原因を調べたとき、あるいは子どもが転座型ダウン症候群と診断され、両親の染色体を調べたときなど、妊娠・出産にかかわる場面がほとんどです。
原因:親から受け継ぐ場合と、新しく起こる場合
ロバートソン転座には、親から受け継いだもの(家族性)と、本人の受精卵ができる過程で新しく起きたもの(新生)の両方があります。新しく起きる場合は、卵子ができる減数分裂の過程で生じることが多いとされています[1]。生活習慣や妊娠中の過ごし方が原因で起こるものではありません。
親から受け継いだ場合、その親も保因者で、さらにその親(祖父母)やきょうだいにも同じ転座がある可能性があります。均衡型の転座は症状がないため、家族の中で何世代も気づかれずに受け継がれていることもあります。家族の誰かに転座が見つかったときに、血縁者の検査が話題になるのはこのためです。減数分裂のしくみは減数分裂とはで詳しく説明しています。
均衡型と不均衡型の違い
均衡型は遺伝情報の量に過不足がない状態、不均衡型は特定の染色体の長腕が多すぎたり足りなかったりする状態です。均衡型のロバートソン転座は本人の健康に影響しませんが、不均衡型では、その染色体のトリソミー(3本分)やモノソミー(1本分)になります。
不均衡型が生まれてくる子どもで問題になるのは、主に21番が3本分になる転座型ダウン症候群と、13番が3本分になる転座型13トリソミーです。そのほかの組み合わせ(14番や15番のトリソミー、各染色体のモノソミーなど)は、多くが妊娠のごく早い時期に育たなくなります[4]。トリソミー全体の考え方はトリソミーとはで解説しています。
見落とされやすいリスク:片親性ダイソミー(14番・15番)
ロバートソン転座では、子どもが一方の親から同じ番号の染色体を2本とも受け継ぐ「片親性ダイソミー(UPD)」が起こる可能性が、一般より高くなります。米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)の指針では、出生前に見つかった異なる番号どうしのロバートソン転座(例:der(13;14))を持つ胎児の片親性ダイソミーのリスクは約0.6%、同じ番号どうしの変化を均衡型で持つ胎児では約66%とされています[5]。
問題になるのは、親のどちらから受け継いだかで遺伝子の働き方が変わる「刷り込み(インプリンティング)」のある14番と15番です。14番では母親由来の片親性ダイソミーでテンプル症候群、父親由来で鏡‐緒方症候群、15番では母親由来でプラダー・ウィリー症候群、父親由来でアンジェルマン症候群になります[5]。ACMGは、家族性・新生のどちらでも、14番か15番を含む均衡型のロバートソン転座が胎児に見つかった場合を、絨毛や羊水を使った片親性ダイソミー検査の対象としています[5]。
💡 用語解説:片親性ダイソミー(UPD)
ふつうは父親と母親から1本ずつ受け継ぐ染色体を、どちらか一方の親から2本とも受け継いだ状態です。染色体の数や形は正常に見えるため、通常の染色体検査(Gバンド法)では見つかりません。刷り込みのある染色体で起こると病気の原因になります。詳しくは片親性ダイソミーの解説をご覧ください。
🩺 院長コラム【「保因者」は病気の名前ではありません】
ロバートソン転座の保因者だと告げられると、自分に病気があるように感じてしまう方がいます。けれども、均衡型の保因者は遺伝情報の量がそろっていて、本人の健康には影響しないのが一般的です。問題になりうるのは「次の世代に渡るときの配分」であって、ご本人の体ではありません。
また、保因者であることは、誰かが何かをしたせいで起きたものではありません。新しく起きる転座の多くは卵子ができる過程で偶然に生じます。家族の中で「誰から来たのか」を追及するより、「これからの妊娠で何が起こりうるか」を正確に知ることのほうが大切だと考えています。
4. ロバートソン転座でダウン症になる確率
ロバートソン転座の親から生まれる子がダウン症候群になる確率は、転座の組み合わせと、どちらの親が保因者かで大きく変わります。14番と21番の転座では、母親が保因者の場合は約10%、父親が保因者の場合は約2.4%と示されています[4]。21番どうしの転座では、生まれる子はすべて転座型ダウン症候群になります[4]。
なぜ確率が生じるのか:受精卵は6種類
保因者の精子や卵子ができる減数分裂では、転座染色体と、ふつうの14番・21番の3本が1組になって2つに分かれます。このとき3本の分かれ方は1通りではないため、精子や卵子にはさまざまな組み合わせの染色体が入り、パートナーの正常な精子・卵子と受精すると、受精卵には6種類の可能性が生じます[4]。
🧬 rob(14;21)保因者から生じうる6種類の受精卵
| 受精卵の染色体 | 結果 |
|---|---|
| 正常な染色体(46本) | 健康に生まれる |
| 均衡型の保因者(45本) | 健康に生まれる(親と同じ保因者) |
| 転座型21トリソミー(46本) | 転座型ダウン症候群。一部は流産になる |
| 21モノソミー | 出生前に育たない |
| 14トリソミー | 出生前に育たない |
| 14モノソミー | 出生前に育たない |
※臨床細胞遺伝学認定士制度の資料[4]による。6種類が同じ割合でできるわけではありません。
6種類のうち3種類は妊娠のごく早い時期に育たなくなるため、気づかないうちの流産や、流産のくり返しとして表れることがあります。転座型21トリソミーの受精卵も、多くが自然流産になるとされています[4]。そのため、「受精卵の段階での割合」と「生まれてくる子の割合」は大きく違います。確率の数字を見るときは、どの時点の数字かを意識することが大切です。
型と、母親・父親のどちらが保因者かで変わる確率
同じ14;21型でも、母親が保因者の場合は約10%、父親が保因者の場合は約2.4%と、母親が保因者のほうが転座型ダウン症候群の子の確率は高くなります[4]。同じ資料では、rob(14;21)の保因者の母親から生まれる子は、転座型21トリソミーが10%、均衡型の保因者が54%、正常な染色体が36%とされています[4]。資料では、均衡型の保因者の子が正常な染色体の子より多いこの偏りを「meiotic drive(減数分裂ドライブ)」として紹介し、理由はわかっていないとしています[4]。ただし、生まれた子の割合には受精後の生存の違いなども影響するため、出生児の割合だけから減数分裂の段階で偏りが起きていると断定することはできません。
📋 親がロバートソン転座の保因者のとき、子が転座型トリソミーになる確率
| 転座の型 | 母親が保因者 | 父親が保因者 | 子で起こりうること |
|---|---|---|---|
| rob(13;14) | 1%未満 | ごくわずか | 転座型13トリソミー |
| rob(14;21) | 約10% | 約2.4% | 転座型ダウン症候群 |
| rob(21;22) | 約6.8% | 2.9%未満 | 転座型ダウン症候群 |
| rob(21;21) | 出生に至る場合は原則として21トリソミー | 出生に至る場合は原則として21トリソミー | 転座型ダウン症候群、またはモノソミー等による妊娠不成立・流産 |
| rob(13;13) | 出生に至る場合は原則として13トリソミー | 出生に至る場合は原則として13トリソミー | 転座型13トリソミー、またはモノソミー等による妊娠不成立・流産 |
※臨床細胞遺伝学認定士制度の資料[4]の表にもとづく。資料には、出生時の割合か出生前診断の時点の割合かは明記されていません。同じ番号どうしの型は、通常の配偶子形成を前提とした説明です。数字は集団での目安で、個々のご家族の確率は遺伝カウンセリングで家族歴や過去の妊娠経過をふまえて考えます。
13番と14番の転座(rob(13;14))は保因者の中で最も多い型ですが、転座型13トリソミーの子が生まれる確率は低く、母親が保因者でも1%未満とされています[4]。ただし、13;14型でも流産をくり返すことがあり、14番を含むため片親性ダイソミーにも注意が必要です[5]。13トリソミーそのものについては13トリソミー(パトウ症候群)の解説をご覧ください。
同じ番号どうしの転座(21;21・13;13)の場合
21番どうし、13番どうしのように同じ番号の染色体の転座では、精子や卵子には「転座染色体を持つ(その染色体が2本分)」か「その染色体を持たない(0本分)」かのどちらかしか入りません。そのため受精卵はトリソミーかモノソミーのどちらかになり、正常な染色体や均衡型の保因者の子は生まれません[4]。モノソミーの受精卵は育たないため、妊娠が続けば転座型のトリソミーになります。
同じ番号どうしの「転座」と判定される染色体には、2本の染色体の長腕が融合したものと、1本の染色体の長腕が鏡に映したように2つ並んだ「同腕染色体」が含まれます。通常の染色体検査だけでは両者を区別できない場合があり、どちらかを詳しく調べるには追加の遺伝学的解析が必要になることがあります。資料では、21番どうしの転座によるダウン症候群の88%が同腕染色体と集計されています(Kovaleva & Shafferの2003年の報告による)[4]。ACMGも、同じ番号どうしの変化の多くは新しく生じた同腕染色体だとしています[5]。また、同じ番号どうしの変化を持つ胎児では、片親性ダイソミーの確率が高いことにも注意が必要です[5]。この型の保因者のご夫婦では、子どもを持つ方法の選択肢そのものを、遺伝カウンセリングで丁寧に検討する必要があります。
5. 流産・不妊とロバートソン転座
ロバートソン転座は、不妊や流産のくり返し(不育症)の原因の1つです。資料では、均衡型ロバートソン転座の保因者は一般集団では0.1%ですが、精子の少ない男性(乏精子症)では3.4%、流産をくり返すご夫婦では0.7%と、一般より多くみられます[4]。ロバートソン転座の保因者は流産のリスクが高いと考えられていますが、確率は型や人によって幅があります[1]。
流産をくり返すしくみ
流産の原因になるのは、精子や卵子の染色体の配分がずれ、不均衡型の受精卵ができることです。先ほどの6種類の受精卵のうち、モノソミーや14番のトリソミーなどは育たず、多くが妊娠のごく早い時期に流産になります。保因者本人の子宮やホルモンの働きに問題があるわけではないため、ほかの不育症の原因とは考え方が違います。
このため、流産をくり返している場合には、ご夫婦の両方が染色体検査を受けることが検討されます。どちらが保因者かによって次の妊娠の見通しが変わるからです。流産をくり返すことの全体像は不育症とは、染色体との関係は不育症の原因になる染色体異常でも解説しています。
保因者でも妊娠・出産できる?日本のデータ
ロバートソン転座の保因者でも、多くの方が自然な妊娠で出産しています。日本で、転座が原因で流産をくり返していた患者さんを調べた研究では、保因者とわかったあと最初の自然妊娠で出産に至った割合は53.8%、くり返し妊娠した結果の累積の出産率は65.4%でした。着床前検査を選んだグループの累積出産率は67.6%で、大きな差はありませんでした[6]。
この研究では、着床前検査は流産の割合を減らした一方で、最終的に出産できる割合は自然妊娠と同程度でした[6]。ただし、対象は転座全般の保因者で、ロバートソン転座だけの数字ではありません。また、年齢や過去の流産の回数、転座の型によって見通しは変わります。保因者だとわかったときに「自然な妊娠は難しい」と決めつける必要はなく、それぞれの選択肢の長所と負担を比べて考えることができます。
男性不妊との関係
精子の少ない男性(乏精子症)では、ロバートソン転座の保因者が一般集団の30倍以上の割合(3.4%と0.1%)でみられます[4]。不妊の検査で精液の所見に異常があった男性に染色体検査が行われるのは、こうした変化を見つけるためです。保因者であることがわかれば、妊娠の見通しや、生まれる子の染色体について、あらかじめ情報を得ることができます。
一方で、父親が保因者の場合は、母親が保因者の場合に比べて転座型ダウン症候群の子が生まれる確率は低めです(14;21型で約2.4%)[4]。男性の保因者にとっては「妊娠のしやすさ」の問題と、「生まれる子の染色体」の問題を分けて考えることが大切です。
6. ロバートソン転座の調べ方(染色体検査)
ロバートソン転座は、血液の細胞を培養して染色体の形を顕微鏡で見る染色体検査(Gバンド法)で調べます。2本がまとまった特徴的な形と、本数が45本であることから、通常の染色体検査で見つけやすい変化です[1]。染色体検査の原理はGバンディング(G分染法)で詳しく説明しています。
マイクロアレイや遺伝子の検査では見つけにくい
均衡型のロバートソン転座は、遺伝情報の量の増減を調べる染色体マイクロアレイでは通常見つかりません。全ゲノム解析(WGS)でも、確実には検出できないと報告されています。均衡型では長腕のコピー数に変化がなく、融合する部分はセントロメアの近くのくり返し配列の多い領域で、マイクロアレイにはこの領域を調べる目印がほとんどないためです[1]。「マイクロアレイで異常なし」と言われていても、ロバートソン転座の保因者である可能性は否定できません。
反対に、子どもの転座型ダウン症候群のような不均衡型では、21番の長腕が増えていることは量を調べる検査でもわかります。ただし、それが標準型の21トリソミーなのか、転座による21トリソミーなのかは量だけでは区別できないため、染色体の形を見る検査が必要です。量を調べる検査の特徴は染色体マイクロアレイ(CMA)とはで解説しています。
当院の染色体検査(Gバンド法)
当院では、血液を使った染色体検査(Gバンド法)を行っています。流産をくり返すご夫婦、精子が少ない・無精子症の男性、ご家族に転座が見つかった方などが対象で、ご夫婦そろって受けることをおすすめしています。検査の前に臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、結果も臨床遺伝専門医が説明します。細胞を育てる工程があるため、結果までは約1か月です。当院の検査と遺伝カウンセリングは自費診療です。費用や流れは染色体検査(Gバンド法)のページをご覧ください。
染色体検査(Gバンド法)では、染色体の数の変化や、転座・逆位などの大きな形の変化がわかります。一方で、小さな欠失・重複や遺伝子の中の小さな変化、片親性ダイソミーはこの検査ではわかりません。目的に合った検査を選ぶために、検査の前の遺伝カウンセリングで何を知りたいのかを整理します。
7. 保因者が妊娠を考えるとき:出生前検査と着床前検査
ロバートソン転座の保因者が妊娠を考えるときの選択肢は、大きく「自然に妊娠し、必要に応じて出生前検査を受ける」と「体外受精で得た受精卵を調べる着床前検査(PGT-SR)」に分かれます。どちらが合うかは、転座の型、保因者が母親か父親か、年齢、これまでの流産の回数、不妊治療の必要性によって違います。
妊娠中の検査:NIPT・絨毛検査・羊水検査
NIPTは、お母さんの血液に含まれる赤ちゃん由来のDNAの量から、21番や13番の染色体が多いかどうかを調べる検査です。転座型ダウン症候群でも21番の長腕の量は増えるため、原理上は量の変化として拾われますが、NIPTでは標準型か転座型かは区別できません。また、赤ちゃんが均衡型の保因者かどうかや、片親性ダイソミーは、NIPTではわかりません。NIPTで陽性になった場合や、より確実に知りたい場合には、確定検査で赤ちゃんの細胞の染色体を調べます。
当院のNIPTは通常妊娠9週から受けられ、6〜8週は臨床研究として行っています。すべてのプランで21・13・18トリソミーを調べられ、スタンダードプランからは微小欠失症候群も対象です。ダウン症候群だけで大丈夫?と迷う方には、ロバートソン転座の保因者では21番・13番の数の変化が中心になる一方、どこまで調べるかは検査前の遺伝カウンセリングで決められます。プランの違いはスタンダードのページやNIPT(新型出生前診断)のページで紹介しています。
当院でNIPTを受けた方は、陽性の場合も確定検査(絨毛検査・羊水検査)まで院内で受けられます。絨毛検査は妊娠11〜13週、羊水検査は15週からです。当院では、陽性のあとの遺伝カウンセリングと確定検査は、本来そのNIPTを行った施設が責任をもって対応するものと考えています。NIPTを受ける施設を選ぶ段階で、陽性になったときの相談先と、確定検査をどこで受けられるか(同じ施設か、連携する医療機関か)を確かめておくことが大切です。検査の違いは絨毛検査と羊水検査の違いで解説しています。親が14番か15番を含む転座の保因者の場合は、片親性ダイソミーの検査が必要かどうかも、検査の前に確かめておく点です[5]。
⚠ 大切なこと
ロバートソン転座の保因者がNIPTを受ける場合、陰性でも「赤ちゃんが均衡型の保因者ではない」「片親性ダイソミーがない」ことまではわかりません。何を知りたいのか(ダウン症候群・13トリソミーの有無か、赤ちゃんの染色体の形まで知りたいのか)によって、選ぶ検査が変わります。
着床前検査(PGT-SR)
PGT-SRは、体外受精で得た受精卵の細胞を一部取り、染色体の量の過不足がない受精卵を選んで子宮に戻す方法です。転座型トリソミーなどの不均衡型の受精卵を避けることで、流産を減らすことが期待されます。前述の日本の研究でも、着床前検査は流産を減らしましたが、最終的な出産率は自然妊娠と大きく変わりませんでした[6]。
PGT-SRの多くは染色体の量を調べる方法で行われます。量を調べる方法では均衡型のロバートソン転座は確実には見つからないため[1]、受精卵が均衡型の保因者か正常な染色体かまでは区別できないことがあります。また、体外受精が必要になるため、体への負担や費用も考える必要があります。当院では体外受精や着床前検査は行っていません。PGT-SRは、実施している施設で受けるものです。しくみの詳細はPGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)とはで解説しています。
転座型ダウン症候群と診断された子のご両親へ
子どもが転座型ダウン症候群と診断されたときは、ご両親の染色体検査で、転座が親から受け継がれたものか、新しく起きたものかを確かめます。ダウン症候群のうち転座型は約4%で、21番どうしの転座によるものは約2%とされています[4]。14番と21番の転座による転座型ダウン症候群では、親が保因者である場合と、親の染色体が正常で新しく起きた場合の比は、およそ3対4とされています[4]。
ご両親のどちらかが保因者であれば、次の妊娠での確率は前述の表のようになり、保因者の親のきょうだいなど血縁者にも同じ転座がある可能性が出てきます。ご両親の染色体が正常であれば、新しく起きた転座と考えられ、親が保因者の場合とは次の妊娠の見通しが大きく異なります。ダウン症候群の再発の考え方はダウン症は遺伝する?2人目の再発率と転座型のリスクで詳しく解説しています。
遺伝・医療とのつながり:家族への伝え方と、知っておきたい研究
ロバートソン転座は、本人だけでなく、血縁者の妊娠にもかかわる情報です。親から受け継いだ転座であれば、きょうだいにも同じ転座が受け継がれている可能性があります。ただし、その確率は転座の型や、保因者である親が母親か父親かなどによって異なります。ただし、伝えるかどうか、いつ伝えるかは本人が決めることで、家族への伝え方そのものも遺伝カウンセリングで扱うテーマの1つです。
また、ロバートソン転座は「症状がない」とされてきましたが、保因者を追跡した研究では、rob(13;14)の保因者で乳がんの発生が一般より高かった(標準化罹患比1.58、95%信頼区間1.12〜2.15)という報告もあります[1]。これは集団での比較で、保因者一人ひとりのがんのリスクを予測できる段階ではなく、研究が続いている分野です。
🩺 院長コラム【確率は「どの時点の、誰の数字か」で読む】
ロバートソン転座の確率は、文献によって数字が違って見えることがあります。受精卵の段階なのか、羊水検査の時点なのか、出生時なのか。保因者が母親なのか父親なのか。どの型の転座なのか。数字の条件をそろえずに比べると、必要以上に不安になったり、反対に見通しを甘く見積もったりしてしまいます。
臨床遺伝専門医としては、ご夫婦の転座の型と、これまでの妊娠の経過に合わせて、どの数字があてはまるのかを見きわめることが大切だと考えています。そのうえで、自然妊娠と出生前検査、着床前検査のそれぞれで何がわかり、何がわからないのかを比べて選んでいただくことが、納得できる決定につながると考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. ロバートソン転座の染色体の数は何本ですか?
均衡型のロバートソン転座の保因者は45本です。2本の染色体が長い腕どうしで1本にまとまるため本数は1本少なくなりますが、長い腕の遺伝情報はそろっています。転座型ダウン症候群のお子さんでは46本ですが、21番の長い腕は3本分あります。
Q2. ロバートソン転座の保因者に症状はありますか?
通常、症状はありません。失われる短い腕の遺伝子はほかの染色体にも同じものが多くあるため、見た目や発達、健康状態はほかの人と変わらないのが一般的です。流産のくり返しや不妊の検査、子どもの染色体検査をきっかけに見つかることがほとんどです。
Q3. ロバートソン転座でダウン症になる確率は?
転座の型と、どちらの親が保因者かで変わります。14番と21番の転座では、母親が保因者の場合は約10%、父親が保因者の場合は約2.4%と示されています。21番どうしの転座では、生まれる子はすべて転座型ダウン症候群になります。13番と14番の転座では、ダウン症候群ではなく転座型13トリソミーが問題になりますが、確率は1%未満と低いとされています。
Q4. ロバートソン転座は遺伝しますか?
親から受け継ぐ場合と、新しく起きる場合があります。保因者の親から生まれる子は、正常な染色体、均衡型の保因者、不均衡型(転座型トリソミーなど)のいずれかになりえます。親から受け継いだ転座であれば、きょうだいなど血縁者にも同じ転座がある可能性があります。
Q5. ロバートソン転座はどうやってわかりますか?
血液を使った染色体検査(Gバンド法)でわかります。2本がまとまった特徴的な形と、本数が45本であることから見つけやすい変化です。一方、染色体マイクロアレイのような量を調べる検査では通常見つからず、全ゲノム解析でも確実には検出できないと報告されています。当院でも血液の染色体検査(Gバンド法)を行っており、結果までは約1か月です。
Q6. ロバートソン転座の保因者でも妊娠・出産できますか?
多くの方が出産しています。転座が原因で流産をくり返していた日本の患者さんの研究では、自然妊娠をくり返した結果の累積出産率は65.4%で、着床前検査を選んだ場合の67.6%と大きな差はありませんでした。ただし、対象は転座全般の保因者で、型や年齢、流産の回数によって見通しは変わります。
Q7. NIPTでロバートソン転座はわかりますか?
赤ちゃんが均衡型の保因者かどうかは、NIPTではわかりません。転座型ダウン症候群のように21番の長い腕の量が増えている場合は、原理上は量の変化として拾われますが、標準型か転座型かは区別できません。確かめるには、絨毛検査や羊水検査で赤ちゃんの細胞の染色体を調べます。
Q8. 「ロバートソン症候群」とは何ですか?
「ロバートソン症候群」という病名はありません。ロバートソン転座のことか、名前の似たロバーツ症候群を指していることが多いと考えられます。ロバーツ症候群はESCO2遺伝子の病的バリアントによる常染色体潜性(劣性)遺伝の病気で、ロバートソン転座とはしくみがまったく異なります。
まとめ
ロバートソン転座は、13・14・15・21・22番のうち2本の染色体が長腕どうしで1本にまとまった状態で、およそ800〜1,000人に1人にみられます[1]。保因者の染色体は45本になりますが、遺伝情報の量はそろっているため、本人には通常症状がありません。
一方で、精子や卵子の染色体の配分がずれやすく、流産・不妊や、子どもの転座型ダウン症候群・転座型13トリソミーの原因になることがあります。14;21型では母親が保因者で約10%、父親で約2.4%と確率は型と性別で大きく変わり[4]、14番・15番を含む型では片親性ダイソミーにも注意が必要です[5]。調べるには血液の染色体検査(Gバンド法)が必要で、マイクロアレイなどでは見つけにくい点も覚えておきたいポイントです。保因者でも多くの方が出産しており[6]、出生前検査と着床前検査のどちらが合うかは、ご夫婦ごとに考えることができます。
📅 ロバートソン転座の検査・遺伝カウンセリング
当院では、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、血液の染色体検査(Gバンド法)で転座の有無を調べられます。妊娠中の方は、NIPT(通常妊娠9週から、6〜8週は臨床研究として)を受けられ、当院でNIPTを受けた方は、陽性の場合も確定検査(絨毛検査・羊水検査)まで院内で受けられます。検査を受けるかどうか決める前に、検査で何がわかるかを先に知りたい方は、染色体検査(Gバンド法)や遺伝カウンセリングとはのページもご覧ください。
参考文献
- [1] Poot M, Hochstenbach R. Prevalence and Phenotypic Impact of Robertsonian Translocations. Mol Syndromol. 2021;12(1):1-11. [PubMed 33776621]
- [2] Robertson WRB. Chromosome studies. I. Taxonomic relationships shown in the chromosomes of Tettigidae and Acrididae. J Morphol. 1916. [DOI 10.1002/jmor.1050270202]
- [3] Vega H, Gordillo M, Jabs EW. ESCO2 Spectrum Disorder. GeneReviews. University of Washington, Seattle. Last update 2025-08-14. [NBK1153]
- [4] 臨床細胞遺伝学認定士制度. Robertson型転座(資料03e、2009年改訂). [PDF]
- [5] del Gaudio D, Shinawi M, Astbury C, et al. Diagnostic testing for uniparental disomy: a points to consider statement from the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genet Med. 2020;22(7):1133-1141. [DOI 10.1038/s41436-020-0782-9]
- [6] Ikuma S, Sato T, Sugiura-Ogasawara M, et al. Preimplantation Genetic Diagnosis and Natural Conception: A Comparison of Live Birth Rates in Patients with Recurrent Pregnancy Loss Associated with Translocation. PLoS One. 2015;10(6):e0129958. [DOI 10.1371/journal.pone.0129958]



