目次
「夫婦の染色体検査で転座が見つかった」「流産をくり返していて、PGT-SRという検査を勧められた」。そう聞いて、このページにたどり着いた方もいらっしゃると思います。PGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)は、夫婦のどちらかが均衡型転座などの染色体構造異常をもつ場合に、体外受精でできた胚の染色体の過不足を調べ、移植する胚を選ぶための検査です。この記事では、2026年に改定された日本産科婦人科学会の指針・細則にもとづく対象と流れ、PGT-Aとの違い、移植できる胚が得られる割合、費用と保険・先進医療の扱い、そして妊娠したあとに何を調べられるかまでを、臨床遺伝専門医が整理します。
- ➤PGT-SRの目的 → 染色体の過不足(不均衡)がある胚を移植の候補から外し、流産を減らすこと
- ➤対象となる方 → 夫婦のどちらかに均衡型転座などの構造異常が確認されている不育症(または不妊症)の夫婦(2026年改定の学会細則)
- ➤移植できる胚の割合 → 研究により異なり、転座の種類と年齢で大きく変わる(相互転座で約3割の胚盤胞など)
- ➤費用・保険 → 施設と胚の数で異なる。先進医療で行う場合も検査部分は自己負担
- ➤妊娠したあと → 確定は羊水検査・絨毛検査。NIPTで調べられる範囲は転座の種類とプランで違う
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. PGT-SRとは?
夫婦のどちらかが均衡型転座・ロバートソン転座・逆位などの染色体構造異常をもつとき、体外受精でできた胚盤胞から細胞を採り、染色体の一部の過不足(不均衡)と数の変化を調べて、移植する胚を選ぶ検査です。主な目的は流産を減らすことです。
📋 Q. 誰が受けられて、費用や保険は?
日本産科婦人科学会の細則(2026年改定)では、夫婦のどちらかに染色体構造異常が確認されている不育症(または不妊症)の夫婦が対象で、流産歴の有無は問いません。学会の認定施設で行い、費用は施設と胚の数で異なります。先進医療で行う場合も検査部分は自己負担です。
🌸 Q. 妊娠したあとに調べられることは?
赤ちゃんの染色体を確定できるのは羊水検査・絨毛検査です。NIPTは妊娠9週から採血で受けられ、ロバートソン転座による21トリソミーなどはスタンダードを含む全プランの対象、5Mbを超える部分的な過不足は双子マックス・インペリアルの対象です。
1. PGT-SR(着床前診断)とは?転座や逆位による習慣流産を防ぐ検査
【結論】PGT-SR(Preimplantation Genetic Testing for Structural Rearrangements:着床前胚染色体構造異常検査)は、均衡型の染色体構造異常(転座・逆位など)をもつ夫婦が体外受精で得た胚の染色体を調べ、染色体の一部に過不足がない胚を選んで移植するための検査です。日本産科婦人科学会の指針は、着床前検査を「妊娠成立の可能性の向上が期待できるあるいは流産の回避につながる可能性がある手段の一つ」と位置づけています[1]。
「何度も流産をくり返している」「転座があると言われたけれど、どうすればいいのか分からない」。そうした思いを抱えている方に、最初にお伝えしたいことがあります。転座をもっていても、出産に至る夫婦は少なくありません。PGT-SRは流産を減らすための選択肢の一つで、自然妊娠を待つことも含めて、どの道を選ぶかを夫婦で決めてよい検査です。
PGT(着床前診断)の3つの種類|PGT-AとPGT-SRの違い
着床前遺伝学的検査(PGT:Preimplantation Genetic Testing。一般には「着床前診断」とも呼ばれます)には、目的と対象によって3つの種類があります。
🧬 PGTの3つの種類
| 検査の種類 | 主な対象 | 調べる内容 |
|---|---|---|
| PGT-A | 反復する着床不全・流産など、学会の細則で定められた不妊症・不育症の夫婦 | 受精卵に偶然起こる、染色体の数の変化(異数性) |
| PGT-SR (PGT SR) |
夫婦のどちらかに染色体構造異常(転座・逆位など)が確認されている不育症(または不妊症)の夫婦 | 親の構造異常が原因で生じる、染色体の一部の過不足(不均衡)。胚の染色体の数の変化もあわせて判定 |
| PGT-M | 重い単一遺伝子疾患の原因となる遺伝子の変化をもつ夫婦 | 染色体ではなく、特定の遺伝子の変化が受け継がれているか |
PGT-SRの対象と判定法は日本産科婦人科学会の細則(2026年改定)による[2]。PGT-Aの詳しい内容はPGT-Aとは?費用・成功率・限界、PGT-MはPGT-Mだけが選択肢ではない理由で解説しています。
💡 用語解説:染色体の「均衡型」と「不均衡型」
均衡型(きんこうがた)は、染色体の一部が入れ替わったり向きが変わったりしていても、遺伝情報の総量に過不足がない状態です。均衡型の構造異常をもつ人の多くは、ふだんの健康に影響がありません。不均衡型(ふきんこうがた)は、染色体の一部が足りない(欠失)か、余分にある(重複)状態で、流産や、生まれてくるお子さんの病気の原因になります。均衡型をもつ親の卵子や精子には、一定の割合で不均衡型が生じます。詳しくは染色体の均衡型構造異常と不均衡型構造異常をご覧ください。
PGT-SRの基本的な仕組み
PGT-SRでは、体外受精でできた胚盤胞の、将来胎盤になる部分(栄養外胚葉)から細胞を採り(生検)、DNAを増やしたうえで、アレイCGH法やNGS(次世代シーケンス)法などで染色体の数と構造の過不足を判定します[2]。判定の結果、染色体の過不足がない胚を、夫婦が遺伝カウンセリングを受けたうえで選んで移植します。
🔬 PGT-SRの判定の4区分(日本産科婦人科学会の細則)
A:常染色体の数と量に過不足がない胚(親と同じ均衡型転座をもつ胚を含む)
B:過不足のある細胞とない細胞が混ざったモザイク胚
C:常染色体の数の変化や、不均衡型の構造異常などがある胚
D:判定できなかった胚
2. PGT-SRの対象となる方
【結論】日本産科婦人科学会の細則(2026年9月改定)では、PGT-SRの対象を「夫婦いずれかの染色体構造異常(均衡型染色体転座など)が確認されている不育症(もしくは不妊症)の夫婦」とし、妊娠したことや流産・死産をしたことがあるかどうかは問わないとしています[2]。
「自分は対象になるのだろうか」と思われる方も多いでしょう。日本の多施設研究では、2回以上続けて流産した2,382組の夫婦のうち、5.4%(129組)でどちらかに染色体の異常(9番染色体の逆位を除く)が見つかり、転座は3.6%(85組、うち13組がロバートソン転座)でした[4]。夫婦の染色体検査は染色体検査(Gバンド法)で行います。不育症の検査全体の流れは不育症とは?基礎知識と検査方法にまとめています。
PGT-SRの適応となる主なケース
👥 PGT-SRを検討する主なケース
| ケース | 内容 |
|---|---|
| ① 流産をくり返し、構造異常が判明 | 不育症の検査で、夫婦のどちらかに均衡型転座などが見つかった場合 |
| ② 不妊治療中に構造異常が判明 | 体外受精をくり返しても妊娠に至らず、夫婦の染色体検査で構造異常が見つかった場合 |
| ③ 不均衡型の染色体異常をもつお子さんの出生や流産組織の検査から判明 | お子さんや流産組織に不均衡型の転座が見つかり、親の検査で均衡型転座が分かった場合 |
| ④ 妊娠前から構造異常が分かっている | 家族の検査などで、妊娠前から構造異常をもつことが分かっている場合(不育症または不妊症の夫婦であることが前提) |
※細則上の対象は「染色体構造異常が確認されている不育症(もしくは不妊症)の夫婦」です。個別の適応は、実施施設で臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングを受けて判断します。
⚠️ 重要
PGT-SRは、日本産科婦人科学会に申請して施設認定を受けた施設でのみ実施できます。実施前と、胚の染色体の結果が分かったあとの2回、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが必須です[1][2]。
3. PGT-SRで検出できる染色体構造異常の種類
【結論】PGT-SRの対象になる主な構造異常は、相互転座、ロバートソン転座、逆位です。親がもっているのは過不足のない均衡型でも、卵子や精子ができるときの染色体の分かれ方によって、胚には不均衡型が生じることがあり、これが流産やお子さんの病気の原因になります。
転座をもつ親から、どのような組み合わせの染色体が子に伝わるかは、家族性染色体異常の分離で詳しく解説しています。
① 相互転座(reciprocal translocation)
2本の異なる染色体の一部が、互いに入れ替わった状態です。親は遺伝情報の過不足がないため、多くはふだんの健康に影響がありません。卵子や精子ができるとき、入れ替わった染色体の分かれ方によって、片方の断片が多い・少ない組み合わせが生じます。どのくらい生じるかは、どの染色体のどこで入れ替わっているかによって違います。
② ロバートソン転座(Robertsonian translocation)
13番、14番、15番、21番、22番の染色体(端部着糸型染色体)のうち2本が、長い腕どうしでつながった状態です。保因者の染色体は45本になりますが、失われた短い腕には健康に必要な遺伝子がほとんどないため、多くはふだんの健康に影響がありません。卵子や精子ができるときに、トリソミーやモノソミーの組み合わせが生じることがあります。詳しくはロバートソン転座をご覧ください。
⚠️ 注意:ロバートソン型転座21トリソミーのリスク
21番染色体が関わるロバートソン転座(14番と21番など)をもつ親からは、21番染色体が1本分多い「転座型の21トリソミー(ダウン症候群)」のお子さんが生まれることがあります。その確率は、転座の組み合わせや、父親・母親のどちらがもっているかで違います。PGT-SRでは、21番が1本分多い胚を移植前に判定できます。転座型ダウン症候群の再発の考え方はダウン症は遺伝する?2人目の再発率と転座型のリスクで解説しています。
🩺 院長のホンネ【構造を確かめるなら、妊娠後の絨毛検査・羊水検査という道もある】
「転座があるからPGT-SRを受けなければ」と思い詰めている方に、臨床遺伝専門医としてお伝えしたい考えがあります。PGT-SRは、胚盤胞から採ったわずかな細胞のDNAを増やして調べる検査で、検出できる大きさには限界があります。一方、妊娠したあとの絨毛検査や羊水検査は、赤ちゃん(胎盤)の細胞を十分な量採って、染色体を直接調べられます。
実際に、転座が原因で流産をくり返していた日本の夫婦を比べた研究では、最終的に出産に至った割合は、着床前検査を選んだ夫婦で67.6%、自然妊娠を選んだ夫婦で65.4%と同程度でした[5]。体外受精の体と費用の負担、PGT-SRの検出の限界を考えると、「自然妊娠(または通常の不妊治療)で妊娠したのち、絨毛検査や羊水検査で確かめる」というのも、理にかなった選択肢だと私は考えています。ただし、流産をくり返すこと自体の心と体の負担も大きいため、どちらがよいかは夫婦の状況によって違います。
③ 逆位(inversion)
1本の染色体の中で、一部が180度向きを変えた状態です。動原体(セントロメア)を含むかどうかで2種類に分かれます。
- 挟動原体逆位(pericentric):動原体を含む
- 偏動原体逆位(paracentric):動原体を含まない
- 卵子や精子ができるときの組み換えによって、一部が欠失・重複した染色体が生じることがある
④ 微小欠失・重複
転座や逆位によって胚に生じる過不足が小さいと、PGT-SRでは見つけられないことがあります。そのため、実施施設は検査の前に、夫婦の転座で生じうる断片が、その検査法で検出できる大きさかを確かめます。学会の細則も、説明文書に「技術的な検出限界があり結果に不確実性があること」を含めるよう定めています[2][7]。
📊 構造異常の種類と、染色体の過不足がない胚盤胞の割合(1つの研究の例)
| 構造異常の種類 | 特徴 | 過不足がないと判定された胚盤胞 |
|---|---|---|
| 相互転座 | 2本の染色体の間で一部を交換 | 30.11% |
| ロバートソン転座 | 端部着糸型染色体2本の長腕どうしがつながる | 46.06% |
| 逆位 | 1本の染色体の中で一部が反転 | 57.27% |
| (比較)夫婦の染色体が正常 | ― | 54.05% |
均衡型の構造異常をもつ夫婦の1,034周期(2019〜2022年、生検した胚盤胞4,129個)を調べた海外の後ろ向き研究の値です[6]。過不足がない胚には、親と同じ均衡型をもつ胚を含みます。施設・年齢・転座の切れ目の位置で値は変わります。
🩺 院長コラム【染色体転座は「あなたのせい」ではありません】
「なぜ自分に転座があるのか」「自分のせいで流産したのではないか」と、ご自身を責めてしまう方が少なくありません。けれども、均衡型の転座は、親から受け継いだり、卵子や精子ができる段階で新しく生じたりするもので、生活や行動によって起こるものではありません。
大切なのは、「今、何ができるか」を知ることです。PGT-SR、自然妊娠を待つこと、妊娠後の確定検査。それぞれに分かっている数字と限界があります。臨床遺伝専門医として、その数字と限界を正確にお伝えし、夫婦が自分たちで選べるようにすることが役割だと考えています。
4. PGT-SR検査の流れと手順
【結論】PGT-SRは体外受精と組み合わせて行い、胚盤胞の栄養外胚葉から細胞を採って判定します。結果を受けて臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングを行い、夫婦の意思で移植する胚を決めます[2]。日本の全国調査では、融解した胚を1個ずつ移植する方法がとられていました[3]。
体外受精そのものの流れは体外受精とは?治療の流れや成功率で解説しています。
PGT-SRの実施手順
📋 PGT-SRの流れ
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 遺伝カウンセリング(実施前) | 臨床遺伝専門医が、夫婦の転座の種類・妊娠や分娩の経過・家族の状況をふまえて説明し、夫婦の意思決定を支える(必須) |
| ② 卵巣刺激・採卵・受精 | 各施設の通常の体外受精・顕微授精の方法で行う |
| ③ 胚盤胞まで培養 | 受精卵を胚盤胞まで育てる |
| ④ 胚生検 | 原則として、将来胎盤になる栄養外胚葉から細胞を採る |
| ⑤ 染色体の解析 | DNAを増やし、アレイCGH法・NGS法などで数と構造の過不足を判定(A〜Dの4区分) |
| ⑥ 遺伝カウンセリング(結果判明後) | 臨床遺伝専門医が結果を説明(必須)。移植する胚は夫婦の自律的な意思で決める |
| ⑦ 胚移植 | 各施設の通常の方法で移植周期を調整して移植 |
検査結果の分類
✓ 移植の候補になる胚と、✗ 移植を避ける胚
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| ✓ 移植の候補(A) | 常染色体に過不足がない胚。親と同じ均衡型転座をもつ胚も含み、どちらかは開示されない |
| △ モザイク胚(B) | 過不足のある細胞とない細胞が混ざった胚。移植するかどうかは遺伝カウンセリングで話し合う |
| ✗ 移植を避ける胚(C) | 不均衡型の構造異常や、常染色体の数の変化(トリソミーなど)がある胚 |
| 判定不能(D) | DNAの量が足りないなどで判定できなかった胚 |
※性染色体の結果は原則として開示されません。性染色体に異常があり、臨床遺伝専門医が必要と判断した場合に限って開示されます。
モザイクが起こるしくみは、NIPTの結果に影響する胎盤のモザイクと共通する部分があります。NIPTのモザイクとは?胎盤限局性モザイクのしくみもあわせてご覧ください。
\ PGT-SRで妊娠したあと、赤ちゃんの染色体を確かめたい方へ /
ミネルバクリニックは羊水検査・絨毛検査を院内で行い、主要な項目は3日以内に結果が出ます。
5. PGT-SRの精度と臨床的有効性
【結論】日本産科婦人科学会のPGT-A・PGT-SRの全国調査(10,602周期)では、移植あたりの臨床妊娠率が68.8%、妊娠あたりの流産率が10.4%でした[3]。ただし、移植できる胚が得られない周期も多く、PGT-SRは「流産を減らす」ための検査で、最終的に出産できる割合を必ず上げるものではありません[5]。
「本当に効果があるの?」「どれくらい正確なの?」という疑問は当然のことです。ここでは、確かめられた数字だけを、対象と条件をつけて紹介します。
検査精度について
PGT-SRには、次のような限界があります。学会の細則も、検出限界と結果の不確実性を説明文書に含めるよう求めています[2]。
- 検出できる大きさの限界:小さな断片の過不足は見つからないことがあり、検出できるかは転座の切れ目の位置と検査法で決まる[7]
- モザイク:日本の全国調査では、生検した胚盤胞42,529個のうち11.7%がモザイクと判定された(PGT-AとPGT-SRを合わせた値)[3]
- 調べているのは胎盤になる部分:赤ちゃんになる部分(内部細胞塊)とは染色体が違うことがある
- 均衡型かどうかは開示されない:過不足がない胚が、親と同じ均衡型転座をもつかどうかは知らされない
臨床成績:日本の全国調査結果
日本産科婦人科学会は、反復する着床不全・不育症・染色体構造異常の夫婦を対象に、200の不妊治療施設でPGT-A・PGT-SRの全国調査を行いました[3]。結果は次のとおりです。
📊 日本産科婦人科学会 PGT-A・PGT-SR全国調査の主な結果
| 指標 | 結果 | 備考 |
|---|---|---|
| 登録周期 | 10,602周期 | 女性の年齢28〜50歳 |
| 過不足がないと判定された胚盤胞 | 25.5% | 生検した42,529個のうち(モザイク11.7%、異数性61.7%) |
| 移植できる胚が1個以上得られた採卵周期 | 38.3% | 生検を行った採卵周期あたり |
| 臨床妊娠率 | 68.8% | 移植あたり(6,080回の移植) |
| 継続妊娠率 | 56.3% | 移植あたり |
| 流産率 | 10.4% | 妊娠あたり |
※PGT-SRだけの値ではなく、反復着床不全・不育症でPGT-Aを受けた方を含む全体の値です[3]。妊娠率・流産率は「移植できた人」の値で、採卵したすべての人の値ではありません。
正常胚を獲得できる確率は?採卵回数の現実的な目安
PGT-SRを考えるとき、多くの方が気にされるのが「何回採卵すれば、移植できる胚が見つかるのか」です。均衡型の構造異常をもつ夫婦の1,034周期を調べた海外の後ろ向き研究では、移植できる胚が1個以上得られた周期は相互転座で64.52%、ロバートソン転座で79.83%でした。移植できる胚が得られた713周期のうち、2023年12月までに出産に至ったのは62.97%でした[6]。
💡 厳しい現実:構造異常 × 数的異常(年齢)のダブルの壁
移植できる胚を得るには、転座による過不足の壁に加えて、年齢とともに増える染色体の数の変化の壁も越える必要があります。日本の全国調査(PGT-A・PGT-SR全体)では、生検した採卵周期のうち移植できる胚が1個以上得られたのは38.3%でした[3]。年齢や1回の採卵で得られる胚盤胞の数によっては、採卵を複数回行う(胚をためる)ことが必要になります。
自然妊娠を待った場合との比較
転座が原因で流産をくり返していた日本の夫婦で、遺伝カウンセリングのあと着床前検査(当時のFISH法)を選んだ37組と、自然妊娠を選んだ52組を、年齢と流産回数をそろえて比べた研究があります。1回目で出産に至った割合は37.8%と53.8%、最終的に出産に至った割合は67.6%と65.4%で同程度でした。着床前検査では流産が有意に少なくなりました[5]。また、相互転座をもつ不育症の夫婦が自然妊娠した場合、次の妊娠で63.0%(46組中29組)が出産に至ったと報告されています[4]。
⚠️ PGT-SRの効果を正しく理解する
PGT-SRの主な効果は「流産を減らし、出産までの道のりの負担を軽くする」ことで、最終的に出産できる割合を必ず上げる検査ではありません。移植できる胚が得られないこともあります。利点と限界を遺伝カウンセリングで理解したうえで、受けるかどうかを決めてください。
PGT-SRで妊娠したあとに調べられること(NIPT・確定検査)
PGT-SRで移植した胚で妊娠したあと、または自然妊娠したあとに赤ちゃんの染色体を確かめたい場合、選択肢は確定検査とNIPTの2つです。赤ちゃんの染色体の構造まで確定できるのは、羊水検査・絨毛検査です。G分染法で染色体の形を見ると、赤ちゃんが親と同じ均衡型か、不均衡型かまで区別できます。小さな過不足はマイクロアレイ染色体検査で調べます。2つの検査の違いは絨毛検査と羊水検査の違いで解説しています。
NIPTは、妊娠9週から採血で受けられるスクリーニング検査です。転座の種類によって、調べられるかどうかが分かれます。
🧬 転座をもつ方の妊娠で、ミネルバクリニックのNIPTが対象にする範囲
※NIPTは確定検査ではありません。陽性のときは羊水検査・絨毛検査で確かめます。5Mb以下の過不足はNIPTの対象外になることがあります。夫婦の転座の切れ目の位置をもとに、どのプランで何が分かるかを臨床遺伝専門医が確認します。
着床前検査を受けたあとにNIPTを受ける意味は着床前診断でダウン症は防げる?NIPTとの違いと限界、体外受精での妊娠と染色体の関係は体外受精後の染色体異常リスクと拡大NIPTでも解説しています。
\ 転座をおもちの方の妊娠で、NIPTの範囲を選びたい方へ /
インペリアル・双子マックスは、5Mbを超える染色体の構造異常まで調べる対象にしています。陽性なら確定検査まで院内で行えます。
6. PGT-SRの費用と保険適用
【結論】PGT-SRの費用は、体外受精の費用に、胚の生検・解析(調べる胚の数ごと)・遺伝カウンセリングの費用が加わり、施設と胚の数で大きく異なります。着床前の胚の染色体検査は、大学病院が先進医療Bとして臨床研究を行ってきましたが、先進医療で行う場合も検査の部分は自己負担です[8][9]。
「費用がどれくらいかかるのか」「保険は使えないのか」という心配は当然のことです。費用の金額は施設ごとに違うため、ここでは費用がかかる項目と、保険・先進医療のしくみを説明します。
PGT-SRの費用内訳(目安)
💰 PGT-SRで費用がかかる主な項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 体外受精 | 卵巣刺激・採卵・受精(顕微授精を含む) |
| 胚盤胞までの培養・凍結 | 胚の数で変わる |
| 胚生検・染色体の解析 | 調べる胚の数ごとにかかる |
| 遺伝カウンセリング | 実施前と結果判明後の2回が必須 |
| 胚移植 | 移植周期の調整・融解・移植 |
※金額は施設によって異なるため、実施施設で事前に確認してください。
保険適用について(2026年10月時点)
- 体外受精などの生殖補助医療の一部は、2022年4月から保険適用になりました[9]。
- 保険診療と保険外の診療を組み合わせられるのは、先進医療などの制度で認められた場合です。先進医療では、一般の診療と共通する部分には保険が適用され、先進医療の部分は自己負担です[9]。
- 着床前胚異数性検査は、大学病院が先進医療Bとして実施してきました。大阪大学医学部附属病院の研究は、夫婦のどちらかが染色体構造異常をもつ不妊症の患者さんも対象に含み、2025年12月に総括報告書が評価されています[8]。
- 受ける時点で、その施設のPGT-SRが保険診療・先進医療・自費のどれにあたるかは、実施施設に確認してください。
💡 費用の考え方
PGT-SRは費用がかかる一方で、流産をくり返すことによる心と体の負担を減らせる可能性があります。年齢が若く、自然妊娠でも出産に至る可能性が十分に見込める場合は、自然妊娠を待ち、妊娠後に確定検査で確かめるという選択肢もあります[4][5]。費用も含めて、遺伝カウンセリングで比べてから決めることをお勧めします。
7. PGT-SR実施施設について
【結論】PGT-SRを行えるのは、日本産科婦人科学会に申請して施設認定を受けた施設だけです。認定された施設は、学会のホームページの登録施設一覧で、PGT-A・PGT-SRを選んで検索できます[10]。
学会の細則は、実施施設に次のような体制を求めています。施設を選ぶときの確認項目として使えます。
🏥 施設選びのチェックポイント(学会の細則の要件から)
| 確認すること | 内容 |
|---|---|
| 学会の施設認定 | PGT-SRの実施施設として認定されているか(必須) |
| 専門家の体制 | 常勤の生殖医療専門医と染色体解析の専門家がいるか。臨床遺伝専門医(常勤または連携施設)が確保されているか |
| 遺伝カウンセリング | 実施前と結果判明後の2回、臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングが受けられるか |
| 妊娠後の連携 | 妊娠から出産までの経過を把握し、確定検査が必要なときに受けられる医療機関と連携しているか |
| 費用の説明 | 胚の数ごとの費用を含め、事前に説明があるか |
8. 遺伝カウンセリングの重要性
【結論】PGT-SRでは、実施前と、胚の染色体の結果が分かったあとの2回、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが必須です[1]。学会の細則は、一般的な説明ではなく、夫婦の転座の個別性、妊娠・分娩の経過、社会的な背景をふまえ、「非指示的なアプローチで夫婦の意思決定を支援する」ことを求めています[2]。
🗣️ 遺伝カウンセリングで確認すること
・夫婦の転座・逆位の種類と、妊娠への影響
・PGT-SRで期待できることと限界(検出限界・モザイク・移植できる胚が得られない可能性)
・結果の区分(A〜D)の意味と、それぞれの場合の選択肢
・PGT-SR以外の選択肢(自然妊娠を待ち、妊娠後に確定検査で確かめる など)
・費用と、治療のスケジュール
🩺 院長コラム【検査を受けるかどうか、決めていなくても大丈夫です】
「PGT-SRを受けるかどうか、まだ決められない」。それは当然のことです。PGT-SRで分かること・分からないこと、自然妊娠を待った場合の数字、妊娠後の確定検査でできること。この3つを並べて初めて、夫婦にとっての答えが見えてきます。
当院は体外受精を行っていないため、PGT-SRそのものは行っていません。一方で、妊娠したあとにどの検査で何が分かるかは、臨床遺伝専門医として責任をもってお答えできる領域です。転座をおもちの方の妊娠では、夫婦の転座の情報をもとに、NIPTのプランと確定検査の組み合わせを確認しています。
🏥 転座をおもちの方の妊娠で、赤ちゃんの染色体を確かめるために
ミネルバクリニックは臨床遺伝専門医が常駐し、NIPT(通常は妊娠9週から)から羊水検査・絨毛検査まで院内で行います。インペリアル・双子マックスは5Mbを超える染色体の構造異常まで調べる対象にしており、確定検査の主要な項目は3日以内に結果が出ます。
よくある質問(FAQ)
Q1. PGT-SRとPGT-Aの違いは何ですか?
PGT-Aは、受精卵に偶然起こる染色体の数の変化(異数性)を調べる検査です。PGT-SRは、夫婦のどちらかがもつ均衡型転座などの染色体構造異常が原因で胚に生じる、染色体の一部の過不足(不均衡)を調べる検査で、胚の染色体の数の変化もあわせて判定します。日本産科婦人科学会の細則では、PGT-SRの対象は、夫婦のどちらかに染色体構造異常が確認されている不育症(または不妊症)の夫婦とされています。
Q2. PGT-SRの対象になるのはどんな人ですか?
日本産科婦人科学会の細則(2026年改定)では、「夫婦いずれかの染色体構造異常(均衡型染色体転座など)が確認されている不育症(もしくは不妊症)の夫婦」が対象で、妊娠したことや流産・死産をしたことがあるかどうかは問いません。前提として、夫婦の染色体検査で構造異常が確認されている必要があります。
Q3. PGT-SRは保険で受けられますか?先進医療ですか?
PGT-SRは、日本産科婦人科学会の認定を受けた施設で行う検査で、費用は施設や調べる胚の数によって異なります。着床前の胚の染色体検査は、大学病院が先進医療B(保険診療との併用を認め、将来の保険導入に向けて評価する制度)として臨床研究を行ってきましたが、先進医療で行う場合も検査の部分は自己負担です。受ける時点での費用と、保険・先進医療の扱いは、実施施設に確認してください。
Q4. PGT-SRで移植できる胚が見つからないことはありますか?
あります。均衡型の構造異常をもつ夫婦の1,034周期を調べた海外の後ろ向き研究では、生検した胚盤胞のうち染色体の過不足がない(均衡型を含む)と判定された割合は、相互転座で30.11%、ロバートソン転座で46.06%、逆位で57.27%でした。移植できる胚が1個以上得られた周期は、相互転座で64.52%、ロバートソン転座で79.83%でした。年齢とともに増える染色体の数の変化も重なるため、採卵を複数回行うことがあります。
Q5. 自然妊娠を待つのとPGT-SRでは、出産できる割合は違いますか?
転座が原因で流産をくり返していた日本の夫婦を比べた研究では、最終的に出産に至った割合は、着床前検査(当時のFISH法)を選んだ37組で67.6%、自然妊娠を選んだ52組で65.4%と同程度で、着床前検査では流産が少なくなりました。相互転座をもつ不育症の夫婦が自然妊娠した場合、次の妊娠で63.0%が出産に至ったという日本の多施設研究もあります。どちらを選ぶかは、年齢・流産の負担・費用を含めて遺伝カウンセリングで話し合って決めます。
Q6. PGT-SRで赤ちゃんの性別はわかりますか?
日本産科婦人科学会の細則では、性染色体の結果は原則として開示しません。性染色体に異常があり、臨床遺伝専門医が必要と判断した場合に限って開示されます。また、染色体の過不足がないと判定された胚について、親と同じ均衡型転座をもつかどうかも開示されません。
Q7. PGT-SRで妊娠したら、出生前検査は必要ですか?
PGT-SRは、胚の将来胎盤になる部分から採ったわずかな細胞を調べる検査で、検出できる大きさに限界があり、細胞ごとに染色体が異なるモザイクもあります。学会の細則も、説明文書に検出限界と結果の不確実性を含めるよう定めています。妊娠したあとに赤ちゃんの染色体を確定できるのは羊水検査・絨毛検査です。NIPTは採血で受けられるスクリーニング検査で、転座の種類とNIPTのプランによって調べられる範囲が違います。
Q8. ミネルバクリニックでPGT-SRは受けられますか?
当院は体外受精を行っていないため、PGT-SRは行っていません。PGT-SRは日本産科婦人科学会の認定施設で受けられます。当院では、妊娠が成立したあとのNIPT(通常は妊娠9週から)と、羊水検査・絨毛検査を院内で行っています。転座をおもちの方は、どの検査で何がわかるかを臨床遺伝専門医が確認します。
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参考文献
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- [2] 日本産科婦人科学会. 不妊症および不育症を対象とした着床前胚染色体構造異常検査(PGT-SR)に関する細則(令和4年1月9日発表、令和8年9月5日改定). [日本産科婦人科学会 PDF]
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- [10] 日本産科婦人科学会. 不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-A・SR). [日本産科婦人科学会]
※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。PGT-SRの適応や費用は、日本産科婦人科学会の認定施設にご確認ください。






