目次
📍 クイックナビゲーション
NIPTは母体血中のcfDNAを調べる検査で、「胎児由来」と呼ばれる成分は主に胎盤から放出されたDNAです。胎盤と赤ちゃんはもともと同じ1個の受精卵から生まれますが、発生の途中で染色体の構成がずれることがあります。胎盤の一部だけに染色体の異常がある「胎盤限局性モザイク(CPM)」は、NIPTの偽陽性の代表的な原因で、逆向きのずれは偽陰性の原因になります。このページでは、モザイクがどのようにでき、NIPTの結果とどう対応し、確定検査をどう選ぶのかを、発生学と細胞遺伝学の両面から整理します。
Q. NIPTが陽性なのに赤ちゃんは正常、ということは本当に起こるのですか?
A. 起こります。NIPTのDNAは胎盤の細胞性栄養膜から来るため、胎盤だけに異常がある胎盤限局性モザイクでは、赤ちゃんの染色体が正常でも陽性になることがあります。絨毛検査の1〜2%にモザイクが見つかり、その多くは胎盤に限られています。陽性の結果は、羊水検査などの確定検査で確かめることが前提です。
- ➤モザイク → 1つの受精卵から、染色体の異なる2種類以上の細胞ができた状態
- ➤胎盤限局性モザイク → 異常な細胞が胎盤だけにあり、赤ちゃんは正常な状態
- ➤タイプ1〜6 → どの層に異常があるかが、偽陽性・偽陰性の起こり方に関わる
- ➤確定検査 → 胎盤を通さずに調べる羊水検査が基本になる理由
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 胎盤モザイクになる確率は?
妊娠初期の絨毛検査では、1〜2%にモザイクが見つかります。モザイク273例のうち確認の羊水検査を受けた203例では、異常な細胞が赤ちゃんにも及んでいたのは12.8%で、残りの大半は胎盤に限られていました。
🔬 Q. なぜNIPTの偽陽性になる?
NIPTで測るDNAは胎盤の外側の層(細胞性栄養膜)から出ています。この層だけにトリソミーの細胞があると、赤ちゃんの対象染色体が正常でもNIPTは陽性になることがあります。
🩺 Q. 陽性のあとはどうする?
胎盤を通さず赤ちゃん側の細胞を調べる羊水検査で確かめるのが基本です。胎盤モザイクと分かっても、胎児発育不全や片親性ダイソミーに注意が必要な場合があります。

1. モザイクとは:1つの受精卵から生まれた、染色体の異なる細胞の混在
モザイクとは、1つの接合子(受精卵)に由来する個体や組織のなかに、遺伝子型や核型(染色体の構成)が異なる2種類以上の細胞系列が混在している状態です。受精卵は分裂を繰り返して細胞を増やしますが、途中の分裂で染色体の分配を誤ると、そこから先の細胞だけ染色体の数が変わります。その結果、正常な細胞と、たとえばトリソミーの細胞が1つの体の中に並んで存在することになります。どの時期に、どの細胞で誤りが起きたかによって、異常な細胞が全身に散らばることも、特定の組織だけにとどまることもあります。

モザイクとキメラの違い
モザイクと混同されやすい言葉にキメラがあります。モザイクは「1つの受精卵から始まり、途中で違いが生じたもの」、キメラは「もともと別の2つ以上の受精卵に由来する細胞が1つの個体に混ざったもの」です。ギリシャ神話の怪物キメラや、人の頭とライオンの体をもつスフィンクスのように、出自の違うものが1つにまとまった姿をイメージすると区別しやすくなります。ヒトでは、二卵性の双子の受精卵が融合した場合などにキメラが起こりえますが、まれです。NIPTの結果に関わるのは、ほとんどがモザイクのほうです。
胎盤だけのモザイク=胎盤限局性モザイク(CPM)
胎盤限局性モザイク(confined placental mosaicism:CPM)は、染色体の異常な細胞が胎盤にだけあり、赤ちゃん本人の染色体は正常な状態です。この現象は1983年に、絨毛(胎盤のもとになる組織)の染色体と胎児の染色体が一致しない妊娠の報告として初めて体系的に示されました[1]。妊娠初期の絨毛検査では検体の1〜2%にモザイクが見つかります[2]。2006年の研究では、15,109件の連続した絨毛検査から見つかった273件のモザイクを調べ、確認の羊水検査を受けた203例では、異常な細胞が胎児にも及んでいたのは12.8%で、残りの大半は胎盤に限られていました[2]。
つまり、「胎盤性モザイクになる確率は?」という問いに数字で答えるなら、妊娠初期の絨毛の段階で1〜2%というのが目安です。ただしこれは絨毛検査を受けた妊娠のデータで、すべての妊娠を調べた値ではありません。また、検査で採取するのは胎盤のごく一部なので、採った場所によって異常な細胞の割合は変わります。
💡 用語解説:モザイク胚との違い
体外受精の着床前検査(PGT-A)でいう「モザイク胚」は、移植前の胚盤胞の栄養外胚葉(将来の胎盤側)から採った数個の細胞のDNAで、中間的な染色体コピー数が検出され、正常と異常の細胞の混在が推定された胚を指します。細胞の混在を直接確認した診断ではなく、技術的なばらつきでも同様の結果が生じえます[13]。胚の段階での判定であり、妊娠が成立した後の胎盤限局性モザイクとは時期も検査の対象も異なります。PGT-Aの仕組みと限界はPGT-Aとはで解説しています。
2. 胎盤と赤ちゃんはどこで分かれるか:NIPTが「胎盤を見る検査」である理由
胎盤と赤ちゃんは、受精後5日ごろの胚盤胞の段階で、別々の細胞の系統に分かれます。この分かれ目より後に起きた染色体の誤りは、片方の系統だけに残ります。胎盤限局性モザイクを理解するには、この発生の地図を押さえておく必要があります。

上の図は、ヒトの胚盤胞の切片と模式図です。胚盤胞は、内側に集まった内細胞塊と、外側を囲む栄養外胚葉(栄養膜)からできています。内細胞塊は赤ちゃんの体と、羊膜や絨毛の芯にあたる間質(胚体外中胚葉)のもとになり、栄養外胚葉は胎盤の外側の層になります。受精後6日ごろには、栄養膜の細胞が子宮内膜に入り込み始め、着床が進みます。
絨毛の3つの層:細胞性栄養膜・合胞体栄養膜・絨毛間質
妊娠初期の絨毛は、外側から合胞体栄養膜、細胞性栄養膜、そして芯の絨毛間質(間葉)という層でできています。外側の2層は栄養外胚葉に由来し、芯の間質は内細胞塊から分かれた胚体外中胚葉に由来します。発生の由来が近いぶん、絨毛間質のほうが細胞性栄養膜よりも胎児の染色体をよく反映します。この「同じ絨毛でも層によって由来が違う」という事実が、後で説明するタイプ1〜6の分類の土台になります。
発生に伴って各細胞系列の分化が進み、胎盤側と胎児側では、それぞれの役割に応じて遺伝子の発現が調節されます。すべての関連遺伝子が一律に停止するわけではありません。細胞系列が分かれた後に一方で生じた染色体の異常は、基本的にはその細胞の子孫に受け継がれ、別の系列へ染色体の異常そのものが移るわけではありません。
NIPTのDNAは細胞性栄養膜から来る:「胎盤のリキッドバイオプシー」
NIPTで測る「胎児由来」のcfDNAは、実際には胎盤の細胞性栄養膜と合胞体栄養膜から母体の血液に放出されたものです。NIPTの初期の研究でも、母体血漿中の胎児DNAが細胞性栄養膜に由来することを示す結果が報告されています[3]。絨毛間質の細胞は母体の血液に直接触れないため、そのDNAはほとんどNIPTに反映されません。
この意味で、NIPTは赤ちゃんの血液検査ではなく、胎盤の外側の層の染色体を、母体の血液を通して調べる「リキッドバイオプシー」と考えるのが正確です。「cell-free fetal DNA(胎児由来DNA)」という呼び名が誤解を生みやすいため、専門家の間では「cfDNA」や「胎盤由来のcfDNA」と呼ぶことが増えています。用語の詳細はcffDNA(セルフリー胎児DNA)をご覧ください。CPMによる「偽陽性」は、胎盤の外側の層の染色体異常を反映していても、胎児の対象染色体異常を予測する検査としては偽陽性に当たります。分析上の誤りがなくても、胎盤と赤ちゃんの染色体が食い違うために起こります。
3. モザイクができる2つの道筋:体細胞分裂のエラーとトリソミーレスキュー
胎盤と胎児の染色体がずれる道筋は、大きく分けて2つあります。正常な受精卵の途中の分裂で異常な細胞が生まれる道と、トリソミーの受精卵が途中で余分な染色体を失って正常に戻る道(トリソミーレスキュー)です。どちらの道でも、誤りが起きた時期が胚盤胞の分かれ目より前か後かで、結果が変わります。
道筋①:正常な受精卵の体細胞分裂のエラー
受精卵の染色体が正常でも、その後の体細胞分裂で染色体が正しく分かれないと、トリソミーの細胞とモノソミーの細胞が生まれます。常染色体のモノソミーの細胞は生存・増殖しにくく、減少することが多いため、正常な細胞とトリソミーの細胞が混ざったモザイクが残ります。この分配の誤りは染色体不分離と呼ばれます。
🧬 体細胞分裂のエラーが起きた時期と結果
| エラーの時期・場所 | 胎盤(栄養膜) | 胎児 | 呼び名 |
|---|---|---|---|
| 分かれる前(桑実胚など) | 正常とトリソミーが混在 | 正常とトリソミーが混在 | 全身性のモザイク |
| 分かれた後・胎盤側で | 正常とトリソミーが混在 | 正常 | 胎盤限局性モザイク(CPM) |
| 分かれた後・胎児側で | 正常 | モザイクのトリソミー | 胎児と胎盤の不一致 |
| エラーなし | 正常 | 正常 | 一致(正常) |
※体細胞分裂のエラーから生じるモザイクでは、もとのトリソミーの細胞は2本の正常な染色体のどちらかが重複したものになり、単純な不分離だけでは片親性ダイソミーは生じません。ただし、さらに染色体の喪失や複製が起こればUPDが生じる可能性はあります。
道筋②:減数分裂のエラーとトリソミーレスキュー
卵子や精子ができる減数分裂で染色体の分配を誤ると、受精卵の時点でトリソミーになります。トリソミーの受精卵の一部の細胞が、その後の分裂で余分な1本を失うと、その細胞の系統だけ染色体が2本に戻ります。これをトリソミーレスキューといいます。レスキューが胎児側で起き、胎盤側にトリソミーの細胞が残ると、赤ちゃんは正常でも胎盤はトリソミー、つまりNIPTの偽陽性の原因になる状態が生まれます。
3本のうちどの1本を失うかは、理論上は偶然で決まります。余分な1本は片方の親から来ているので、もとの正常な組からもう一方の親の1本を失った場合には、残る2本がどちらも同じ親に由来する片親性ダイソミー(UPD)になります。理論上の確率は3分の1です[2]。UPDは染色体の数としては正常なので、通常の染色体検査(核型分析)では見つからず、別の検査が必要です。
トリソミーレスキューでは、レスキューの時期と場所によって、さらに多くの組み合わせが生まれます。早い時期のレスキューなら胎児も胎盤もモザイクになり、遅い時期なら、胎児はトリソミーのままで胎盤が正常に戻る(NIPTの偽陰性の原因になる)こともあれば、胎児が正常に戻って胎盤がトリソミーのまま残ることもあります。異常な細胞の割合も、数%からほぼ100%まで幅があります。検体として採るのは胎盤や羊水のごく一部なので、検査で出る割合は、組織全体の割合を推定する代わりの値にすぎないことにも注意が必要です。
🩺 院長コラム【「正常に戻った」ことの裏側】
トリソミーレスキューは、多くの場合に発生・生存が難しいトリソミーの受精卵で、一部の細胞が余分な染色体を1本失い、染色体数が2本に戻る仕組みです。ただし、すべてのトリソミーが生存不可能という意味ではありません。胎盤にだけトリソミーが残った妊娠は、もともとトリソミーとして始まった妊娠である可能性があるということです。
そう考えると、胎盤限局性モザイクを「赤ちゃんは正常だったので終わり」とは片づけられません。胎盤の働きへの影響と、UPDの可能性という2つの宿題が残ります。結果の説明では、この発生の経緯まで含めて伝えることが大切だと考えています。
4. CPMタイプ1〜3とTFMタイプ4〜6:どの層の異常がNIPTの結果を左右するか
胎盤と胎児のモザイクは、細胞性栄養膜・絨毛間質・胎児のどこに異常な細胞があるかで、CPMタイプ1〜3と、真の胎児モザイク(true fetal mosaicism:TFM)タイプ4〜6に分けられます。NIPTは細胞性栄養膜を見る検査なので、この層に異常があるかどうかで、偽陽性・偽陰性が起こりうる組み合わせが分かります[4][5]。
📊 胎盤と胎児のモザイクのタイプとNIPTの結果
| タイプ | 細胞性栄養膜 (絨毛の短期培養) |
絨毛間質 (絨毛の長期培養) |
胎児 (羊水) |
NIPTの結果 |
|---|---|---|---|---|
| CPMタイプ1 | 異常 | 正常 | 正常 | 偽陽性 |
| CPMタイプ2 | 正常 | 異常 | 正常 | 陰性(正しい) |
| CPMタイプ3 | 異常 | 異常 | 正常 | 偽陽性 |
| TFMタイプ4 | 異常 | 正常 | 異常 | 陽性(正しい) |
| TFMタイプ5 | 正常 | 異常 | 異常 | 偽陰性 |
| TFMタイプ6 | 異常 | 異常 | 異常 | 陽性(正しい) |
※Grati 2014[4]・Grati 2016[5]の分類をもとに作成。「異常」はモザイクを含む。NIPTの結果は、細胞性栄養膜の異常な細胞の割合が検出できる水準にあると仮定した場合の予想です。
偽陽性になるのはタイプ1とタイプ3
細胞性栄養膜にトリソミーの細胞があり、胎児が正常なCPMタイプ1と3では、NIPTは赤ちゃんにない異常を検出します。2014年の研究で52,673件の絨毛検査をもとに行われた推計では、13・18・21番のトリソミーについて、CPMによるNIPTの偽陽性は、検出できる胎盤の異常細胞の割合を10%とした場合で約1,065件に1件、胎盤全体が異常の場合に限ると約3,931件に1件と見積もられています[4]。
一方、絨毛間質だけに異常があるタイプ2は、細胞性栄養膜が正常なのでNIPTには表れません。ただし、絨毛検査で長期培養を行うと間質の異常が見つかり、確定検査の段階で解釈に迷う原因になります。
偽陰性になりうるタイプ5:NIPTと絨毛の短期培養に共通する限界
TFMタイプ5は、細胞性栄養膜が正常で、絨毛間質と胎児に異常がある状態です。NIPTの元になる層が正常なので、赤ちゃんにトリソミーがあっても陰性になりえます。同じ推計では、13・18・21番のトリソミーで胎児が異常なのにNIPTが見逃す可能性は、異常と報告された核型の約107件に1件で、染色体別には21番が約135件に1件、18番が約64件に1件、13番が約136件に1件、モノソミーXでは約14件に1件と高くなっていました[4]。
2016年に高リスク妊娠5,967件の絨毛検査を見直した研究でも、トリソミー21の2%(242件中5件)、トリソミー18の7.3%(123件中9件)は、細胞性栄養膜の短期培養が正常か低い割合のモザイクで、NIPTでは見逃されうる例でした[6]。NIPTのDNAの供給源は細胞性栄養膜なので、NIPTは胎盤由来DNAを測るため、胎盤と胎児の染色体の不一致による偽陰性を完全には避けられません。偽陰性のほかの原因はNIPTの偽陰性で詳しく扱っています。
5. 染色体によって陽性的中率が違う理由と「有効胎児分画」
どの染色体が胎盤でモザイクになりやすいかは、染色体によって大きく違います。この違いは、NIPTの陽性的中率(陽性結果のうち、胎児に対象異常が実際に確認される割合)の差を生む一因です。陽性的中率には疾患の頻度や検査性能も関わります。21トリソミーに比べて13トリソミーの陽性的中率が低くなりやすい背景には、胎盤モザイクの頻度の違いに加え、疾患の頻度や検査性能の違いもあります。
モザイクのNIPT陽性は、陽性的中率が大きく下がる
2025年に報告された、76,329件のcfDNA検査から生じた821件の高リスク結果の解析では、トリソミーの信号の強さと胎児分画の比(モザイク比)を使って、モザイクが疑われる陽性とそうでない陽性を分けました。モザイクが疑われる陽性の陽性的中率は、21トリソミーで50.0%、18トリソミーで22.7%、13トリソミーで0%でした。モザイクではない陽性では、それぞれ99.3%、97.6%、93.9%でした[7]。
📈 モザイク比で分けたNIPT陽性の陽性的中率
| 染色体 | 全体 | モザイクではない陽性 | モザイクが疑われる陽性 |
|---|---|---|---|
| 21トリソミー | 93.3% | 99.3% | 50.0% |
| 18トリソミー | 81.0% | 97.6% | 22.7% |
| 13トリソミー | 55.3% | 93.9% | 0.0% |
※Flowers 2025[7]。モザイク比0.7以上をモザイクではない陽性、0.7未満をモザイクが疑われる陽性とした。この研究でモザイク比による分類を適用した胎児分画の境界は、21トリソミーで5.0%、18・13トリソミーで4.0%でした。境界未満の例は別群で、一般的なNIPTの検出限界を示す値ではありません。13トリソミーのモザイク疑い群は0/32例(95%信頼区間0〜10.7%)であり、0%という観察値は胎児異常の可能性が常にゼロという意味ではありません。これらは特定の検査法・研究集団で得られた値です。
この結果は、陽性的中率が「21トリソミーなら何%」という1つの数字ではなく、信号の出方によって大きく変わることを示しています。陽性の結果を受け取ったら、どの染色体か、モザイクを示す所見があるかによって、確定検査で胎児の異常が確認される見込みが違うということです。陽性的中率の考え方そのものは陽性的中率とはで説明しています。
有効胎児分画:胎盤の一部だけが異常だと信号は薄まる
胎児分画は、母体血中のcfDNA全体に占める、主に胎盤由来のcfDNAの割合です。胎盤の一部だけにトリソミーの細胞がある場合、その染色体について実際に効いてくるのは、胎児分画のうち異常な細胞から出た分だけです。これを有効胎児分画と呼びます。
たとえば、胎児分画が10%で、胎盤の細胞性栄養膜のうちトリソミーの細胞が30%なら、正常細胞と異常細胞が同程度にDNAを放出すると仮定すれば、トリソミーとして効いてくる割合はおよそ10%×30%=3%です。実際の放出量は細胞や場所によって異なり、細胞の割合とDNAの割合は必ずしも一致しません。NIPTの判定では、この3%ぶんの信号を、母体のDNAに埋もれた中から見つけることになります。この割合が検出の限界を下回れば、胎盤にトリソミーの細胞があってもNIPTは陰性になります。反対に、トリソミーの信号から逆算した割合が、測った胎児分画より明らかに小さいときは、胎盤のモザイクやバニシングツインなど、胎盤の一部だけが異常な状態を疑う手がかりになります。前の項目のモザイク比は、この考え方を数値にしたものです。
胎盤のモザイクで胎盤が小さい場合には、胎児分画そのものが下がり、結果が出ない(判定保留)原因になることもあります。胎児分画が低い場合の扱いは胎児分画が低いとどうなる?で解説しています。
💡 用語解説:まれな常染色体トリソミー(RAT)との関係
13・18・21番以外の常染色体のトリソミー(RAT)は、胎児が完全なトリソミーでは生まれてくることがほとんどないため、NIPTで見つかるものの多くは胎盤限局性モザイクです。全染色体を調べるNIPTでRATが陽性になった場合の考え方は、まれな常染色体トリソミー(RAT)とはで扱っています。
6. 確定検査は羊水検査が基本:絨毛検査で迷いやすい理由
NIPTが陽性になったときの確定検査は、胎盤モザイクが疑われる場合は、胎盤の細胞を検体にせず胎児側の細胞を調べる羊水検査が有用です。検査の選択は、陽性の染色体、超音波所見、妊娠週数を踏まえて行います。絨毛検査は早い時期に結果が出る利点がありますが、NIPTと同じく胎盤を調べる検査なので、NIPTの偽陽性の原因であるCPMを、そのまま拾ってしまうことがあります。
絨毛検査は短期培養と長期培養の両方を見る必要がある
絨毛検査では、細胞性栄養膜を見る短期培養(または直接法)と、絨毛間質を見る長期培養があります。前の表のとおり、CPMタイプ3では両方が異常で胎児は正常なので、絨毛検査でも偽陽性になります。反対に短期培養だけを見ると、タイプ5の胎児の異常を見逃します[6]。そのため、絨毛検査を行う場合は両方の培養を解析し、どちらかがモザイクだったり、2つの層で結果が食い違ったりした場合は、羊水検査で胎児の染色体を確かめるという手順が推奨されています[8]。
どの染色体が陽性になったかも選び方に関わります。2016年の報告によると、13トリソミーやモノソミーXは絨毛でモザイクになる割合が高く、胎児で確認される割合が低いため、NIPTで陽性になり超音波で胎児異常を認めない場合には、羊水検査を優先するのが合理的です[8]。21トリソミーは胎盤でモザイクになりにくいので、絨毛検査で早く確定できる場合も多くあります。羊水検査と絨毛検査の違いはNIPT陽性後の確定検査:絨毛検査と羊水検査の選び方で、確定診断全体の流れはNIPTで陽性の結果がでたときの確定診断で詳しく説明しています。
🩺 NIPT陽性後の確定検査の考え方
| 検査 | 調べる細胞 | 時期の目安 | CPMとの関係 |
|---|---|---|---|
| 絨毛検査(短期培養) | 細胞性栄養膜 | 妊娠11〜14週ごろ | NIPTと同じ層。タイプ1・3で偽陽性、タイプ5で偽陰性 |
| 絨毛検査(長期培養) | 絨毛間質 | 妊娠11〜14週ごろ | 胎児をより反映するが、タイプ2・3の間質の異常を拾う |
| 羊水検査 | 羊水中の胎児由来の細胞 | 一般に妊娠15週以降 | 胎盤を通さないため、CPMと胎児の異常を区別できる |
※絨毛検査で両方の層を解析し、モザイクや層の間の食い違いがあれば羊水検査で確かめる(Van Opstal & Srebniak 2016[8])。
羊水検査が正常でも残る限界
羊水中の細胞は、胎児の皮膚だけでなく、尿路や消化管、羊膜など、いくつもの組織からはがれ落ちた細胞です。複数の組織を反映するぶん、胎盤より胎児の染色体をよく代表しますが、ごく低い割合のモザイクや、特定の臓器だけにあるモザイクまで完全に否定できるわけではありません。羊水検査が正常でCPMと考えられる場合も、超音波で胎児の形や発育を確かめ、必要に応じてUPDの検査を検討します。確定検査の精度と限界は羊水検査・絨毛検査の精度とはで整理しています。
ミネルバクリニックでは、常駐する臨床遺伝専門医がNIPTの結果を説明し、陽性の場合は羊水検査・絨毛検査まで院内で行う体制を整えています。体制を整えた経緯はミネルバクリニックが羊水・絨毛検査を自院で始めた理由で、検査の内容は羊水検査・絨毛検査で紹介しています。陽性後に結果を早く知るための羊水検査の迅速検査(FISH・QF-PCR)もあります。
7. 胎盤限局性モザイクは無害とは限らない:胎児発育不全と片親性ダイソミー
羊水検査で赤ちゃんの染色体が正常と分かっても、胎盤限局性モザイクには2つの注意点が残ります。トリソミーの細胞を含む胎盤の働きが落ちることによる胎児発育不全などと、トリソミーレスキューに伴う片親性ダイソミーです。どちらも多くの場合は問題にならないものの、染色体やタイプによってリスクが変わります。
胎児発育不全・早産との関係:染色体とタイプで差がある
トリソミーの細胞を含む胎盤は、正常な胎盤と同じようには働かないことがあります。2021年に70の報告から328例を集めたレビューでは、報告されたCPMの71.7%に胎児発育不全がみられ、31.0%が37週未満の早産でした。2・3・7・13・15・16・21・22番のCPMで出生体重が5パーセンタイル未満になる例が多く、絨毛での異常細胞の割合が高いことやUPDがあることが、悪い経過と関連していました[9]。ただし、症例報告を集めたデータには経過の悪い例が集まりやすい偏りがあるため、この割合をそのまま個々の妊娠のリスクと考えることはできません。
対照群と比べた研究では、差がより絞られます。2020年のイタリアの7施設の研究では、16トリソミーのCPMで出生体重が3パーセンタイル未満になるオッズ比が11.2、早産のオッズ比が10.2と高かった一方、16番以外のまれなトリソミーや四倍体のCPMでは、出生体重との明らかな関連は確認されませんでした[10]。2018年のフランスの研究でも、細胞性栄養膜と間質の両方が異常なタイプ3では、早産が56%、在胎週数に比べて小さい児が74%と高率だった一方、間質だけのタイプ2は対照群と差がありませんでした[11]。胎盤限局性モザイクと分かったら、とくに16番などの染色体やタイプ3の場合は、妊娠初期から超音波で胎児の発育を継続して確かめることが勧められます[9]。症例を交えた解説は限局性胎盤モザイク(CPM)と胎児発育不良(FGR)の関係と、トリソミー22のNIPT陽性から羊水検査陰性への事例をご覧ください。
片親性ダイソミー:刷り込みのある染色体では検査を考える
トリソミーレスキューの結果、赤ちゃんの細胞が片親性ダイソミーになっていると、2つの問題が起こりえます。1つは、父由来か母由来かで働き方が変わるインプリンティング疾患です。もう1つは、同じ親の同じ染色体の領域を2本受け継ぐことで、その親が保因している劣性の病気のバリアントがホモ接合になり、発症しうることです。
米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)の2020年の声明は、6・7・11・14・15・20番のトリソミーやモノソミーのモザイクが羊水検査または絨毛検査で見つかった場合、また絨毛でこれらの染色体のモザイクが見つかり羊水の核型が正常だった場合に、UPDの検査を行うよう勧めています[12]。たとえば、母由来の7番のUPDはシルバー・ラッセル症候群、15番のUPDは母由来ならプラダー・ウィリー症候群、父由来ならアンジェルマン症候群、14番のUPDはテンプル症候群や鏡‐緒方症候群の原因になります。
実際の頻度は理論上の3分の1よりかなり低く、2006年の研究で刷り込みのある染色体のモザイク51例を羊水で調べたところ、UPDが見つかったのは1例(1.96%)でした[2]。頻度は低くても、見つかれば出生後の診療につながるため、該当する染色体では検査の選択肢として説明しておく意味があります。
🩺 院長コラム【偽陽性は「検査の誤り」ではない】
NIPTの偽陽性という言葉は、検査が間違えたような印象を与えます。けれども、胎盤限局性モザイクによる陽性は、胎盤の外側の層にあるトリソミーの細胞のDNAを反映した結果と考えられます。分析上の誤りがなくても、胎児の異常を予測する検査としては偽陽性です。「胎盤の染色体=赤ちゃんの染色体」という前提が常に成立するわけではないことが背景にあります。
この見方に立つと、陽性のあとに何をすべきかがはっきりします。赤ちゃんの染色体を胎盤を通さずに確かめること、胎盤の働きを超音波で見守ること、染色体によってはUPDを調べること。陽性を「当たり」「外れ」で終わらせず、胎盤からの情報として読み解くことが大切だと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 胎盤モザイクになる確率はどれくらいですか?
妊娠初期の絨毛検査では、検体の1〜2%にモザイクが見つかります。15,109件の絨毛検査で見つかった273件のモザイクを調べた研究では、確認の羊水検査を受けた203例の12.8%で異常な細胞が胎児にも及んでおり、残りの大半は胎盤に限られていました。
Q2. NIPTが陽性で、胎盤限局性モザイクだった場合、赤ちゃんは正常ですか?
羊水検査で胎児の染色体が正常なら、その染色体の数の異常は胎盤に限られている可能性が高いと考えられます。ただし、羊水検査だけでは低率・組織限局性の胎児モザイクを完全には除外できず、胎盤を調べていない場合はCPMの確定にも限界があります。ただし、胎盤の働きが落ちて胎児発育不全や早産につながることがあり、6・7・11・14・15・20番の場合は片親性ダイソミーの検査が勧められています。
Q3. モザイクが原因でNIPTが陰性になることはありますか?
あります。胎盤の細胞性栄養膜が正常で、絨毛間質と胎児に異常があるタイプ5では、赤ちゃんにトリソミーがあってもNIPTは陰性になります。13・18・21番のトリソミーでは、異常と報告された核型の約107件に1件がこの状態と推計されています。
Q4. NIPT陽性の確定検査は、絨毛検査と羊水検査のどちらがよいですか?
胎盤モザイクが疑われる場合は、胎盤の細胞を検体にせず胎児側の細胞を調べる羊水検査が有用です。検査の選択は、陽性の染色体、超音波所見、妊娠週数を踏まえて行います。絨毛検査は早く結果が出ますが、NIPTと同じく胎盤を調べるため、胎盤限局性モザイクを拾うことがあります。13トリソミーやモノソミーXの陽性で、超音波上の胎児異常を認めない場合には、羊水検査を優先するのが合理的です。
Q5. モザイク胚と胎盤限局性モザイクは同じものですか?
同じではありません。モザイク胚は、体外受精の着床前検査で、移植前の胚盤胞から採った数個の細胞のDNAで中間的な染色体コピー数が検出され、正常と異常の細胞の混在が推定された胚です。混在を直接確認した診断ではありません。胎盤限局性モザイクは、妊娠が成立した後の胎盤に異常な細胞があり、胎児が正常な状態を指します。
まとめ
モザイクは、1つの受精卵から染色体の異なる細胞が生まれた状態です。胎盤と胎児は胚盤胞の段階で別の系統に分かれるため、その後に起きた体細胞分裂のエラーやトリソミーレスキューによって、胎盤だけに異常がある胎盤限局性モザイクが生じます。絨毛検査の1〜2%にモザイクが見つかり、その大半は胎盤に限られています[2]。
NIPTのDNAは胎盤の細胞性栄養膜から来るため、この層が異常なCPMタイプ1・3は偽陽性に、正常なTFMタイプ5は偽陰性につながります[4]。モザイクが疑われる陽性は陽性的中率が大きく下がり[7]、確定検査は胎盤を通さない羊水検査が基本です[8]。胎盤限局性モザイクと分かった後も、染色体やタイプによっては胎児の発育の見守りと、片親性ダイソミーの検査が必要になります[9][12]。
🧬 NIPTの結果を胎盤と赤ちゃんの両面から理解したい方へ
ミネルバクリニックでは、常駐する臨床遺伝専門医が、NIPTで何が分かり何が分からないのか、陽性だった場合に胎盤のモザイクをどう見分けるのかまで含めてご説明しています。陽性の場合の羊水検査・絨毛検査も院内で行っています。
参考文献
- [1] Kalousek DK, Dill FJ. Chromosomal mosaicism confined to the placenta in human conceptions. Science. 1983;221(4611):665-667. [DOI 10.1126/science.6867735]
- [2] Grati FR, Grimi B, Frascoli G, et al. Confirmation of mosaicism and uniparental disomy in amniocytes, after detection of mosaic chromosome abnormalities in chorionic villi. Eur J Hum Genet. 2006;14:282-288. [DOI 10.1038/sj.ejhg.5201564]
- [3] Faas BHW, de Ligt J, Janssen I, et al. Non-invasive prenatal diagnosis of fetal aneuploidies using massively parallel sequencing-by-ligation and evidence that cell-free fetal DNA in the maternal plasma originates from cytotrophoblastic cells. Expert Opin Biol Ther. 2012;12 Suppl 1:S19-S26. DOI: 10.1517/14712598.2012.670632. [PubMed 22500971]
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- [8] Van Opstal D, Srebniak MI. Cytogenetic confirmation of a positive NIPT result: evidence-based choice between chorionic villus sampling and amniocentesis depending on chromosome aberration. Expert Rev Mol Diagn. 2016;16(5):513-520. [PubMed 26864482]
- [9] Eggenhuizen GM, Go A, Koster MPH, et al. Confined placental mosaicism and the association with pregnancy outcome and fetal growth: a review of the literature. Hum Reprod Update. 2021;27(5):885-903. [DOI 10.1093/humupd/dmab009]
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- [11] Toutain J, Goutte-Gattat D, Horovitz J, Saura R. Confined placental mosaicism revisited: impact on pregnancy characteristics and outcome. PLoS One. 2018;13(4):e0195905. [DOI 10.1371/journal.pone.0195905]
- [12] del Gaudio D, Shinawi M, Astbury C, et al. Diagnostic testing for uniparental disomy: a points to consider statement from the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genet Med. 2020;22(7):1133-1141. [DOI 10.1038/s41436-020-0782-9]
- [13] Practice Committees of the American Society for Reproductive Medicine and the Genetic Counseling Professional Group. Clinical management of mosaic results from preimplantation genetic testing for aneuploidy of blastocysts: a committee opinion. Fertil Steril. 2023;120(5):973-982. [PubMed 37678731]
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