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体外受精とは?流れとスケジュール・成功率・費用を遺伝専門医がわかりやすく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

体外受精とは、卵巣から取り出した卵子と精子を体の外で受精させ、育った胚(受精卵)を子宮に戻す不妊治療です。採卵から妊娠判定までは、採卵する周期と移植する周期を合わせて、おおむね1〜2か月以上かかります。2024年には日本で約8人に1人が体外受精などの生殖補助医療で生まれました。この記事では、流れとスケジュール、年齢別の成功率、保険適用の条件に加えて、「なぜ年齢で成功率が下がるのか」「生まれてくる子への影響は」という遺伝の視点を、臨床遺伝専門医が解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 体外受精・顕微授精・PGT-A
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 体外受精とはどんな治療ですか?

A. 卵子と精子を体の外で受精させ、培養して育った胚を子宮に戻す治療です。「卵巣刺激→採卵→受精→培養→胚移植→妊娠判定」の6段階で進みます。成功率を左右する最大の要因は女性の年齢で、その背景には卵子の染色体の数の変化があります。2022年4月からは、条件を満たせば保険が使えます。

  • ➤人工授精との違い → 人工授精は精子を子宮に入れるだけ。体外受精は受精そのものを体の外で行う
  • ➤スケジュール → 採卵周期は月経開始から約2〜3週間。凍結胚なら移植は別の周期
  • ➤保険適用 → 治療開始時に女性が43歳未満。40歳未満は1子ごとに6回、40〜42歳は3回まで
  • ➤生まれてくる子 → 両親の卵子と精子なら遺伝的には2人の子。先天異常の相対リスクはわずかに高いと報告

1. 体外受精とは?人工授精・顕微授精との違い

体外受精(IVF:in vitro fertilization)は、卵子と精子を体の外で出会わせて受精させ、数日培養した胚を子宮に戻す治療です。正式には「体外受精・胚移植(IVF-ET)」と呼ばれ、顕微授精などとあわせて生殖補助医療(ART)と総称されます。

自然妊娠では、排卵された卵子が卵管の先端(卵管采)に取り込まれ、卵管の中で精子と出会って受精します。受精卵は分割を繰り返しながら数日かけて子宮へ移動し、子宮内膜に着床して妊娠が成立します。体外受精は、このうち「卵子が卵管に取り込まれる」「卵管で精子と出会う」「受精する」という段階を、体の外で行う治療です。卵管が詰まっている場合や、精子の数が少なく自然には受精しにくい場合でも、妊娠を目指せるのはこのためです。

一方で、体外受精でも着床と、その後の赤ちゃんの発育は体の中で起こります。胚そのものの力(特に染色体の数が正常かどうか)や子宮の環境は、体外受精でも変えられない部分です。この点は、後で説明する成功率と年齢の関係につながります。

人工授精・顕微授精との違い

人工授精は「精子を子宮の中に届けるだけ」で、受精は体の中で起こります。体外受精は「受精そのもの」を体の外で行います。顕微授精(ICSI:卵細胞質内精子注入法)は体外受精の受精方法の一つで、細いガラス針で精子1個を卵子の中に直接入れます。

📘 人工授精・体外受精・顕微授精の違い

項目 人工授精(AIH) 体外受精(IVF) 顕微授精(ICSI)
受精の場所 体の中(卵管) 体の外(培養皿) 体の外(培養皿)
方法 洗浄・濃縮した精子を子宮内に注入 卵子に精子をふりかけて受精を待つ 精子1個を卵子の中に直接注入
採卵 不要 必要 必要
主な対象 軽度の男性不妊、原因不明不妊など 卵管性不妊、人工授精で妊娠しない場合など 精子の数・運動率が大きく低い、体外受精で受精しなかった場合など
体への負担 比較的小さい 卵巣刺激・採卵がある 体外受精と同程度

※一般的な整理です。治療の選び方は、年齢・不妊の原因・これまでの治療歴によって、治療を行う医療機関で判断されます。

体外受精で生まれる子は誰に似る?

夫婦(カップル)自身の卵子と精子で体外受精をした場合、生まれてくる子は遺伝的に2人の子どもです。体外受精は「受精の場所」を体の外に移すだけで、卵子と精子が持っている遺伝情報を書き換えるものではありません。父親と母親から染色体を半分ずつ受け継ぐしくみは、自然妊娠とまったく同じです。顔立ちや体質がどちらに似るかも、自然妊娠と同じように両親の遺伝子の組み合わせで決まります。

これと異なるのは、第三者から提供された卵子や精子を使う場合です。その場合は、提供者の遺伝情報を受け継ぐことになります。

体外受精の歴史と、いまの実績

体外受精で世界初の赤ちゃんが生まれたのは、1978年のイギリスです。婦人科医ステップトーと生理学者エドワーズが報告しました[1]。日本では1983年に東北大学で、国内初の体外受精児が誕生しています。

日本産科婦人科学会の集計では、2024年に体外受精などの生殖補助医療で生まれた子どもは86,473人で、過去最多でした[2]。同じ年の出生数と比べると、およそ8人に1人にあたります。治療周期は1年で55万件を超えており[2]、体外受精は特別な治療ではなくなっています。

2. 体外受精の対象になる人

体外受精は、体の中で受精することが難しい、またはほかの治療で妊娠に至らなかった場合に検討されます。妊娠しないからといって、最初から誰もが体外受精を選ぶわけではありません。主な対象は次のとおりです。

卵管性不妊

卵管性不妊とは、卵巣と子宮をつなぐ卵管が狭くなったり(卵管狭窄)、詰まったり(卵管閉塞)、周囲と癒着したりして、卵子と精子が出会えない状態です。クラミジアなどの感染症、子宮内膜症、骨盤内の手術歴が原因になります。両側の卵管が閉塞している場合、自然妊娠はほぼ期待できないため、体外受精が主な選択肢になります。卵管の手術で通り道を回復させる方法もありますが、癒着の程度などで適否が変わります。

男性不妊

男性不妊は、精子の数・運動率・形などが妊娠に十分でない状態です。精液検査の基準としては、世界保健機関(WHO)の検査マニュアルが使われます。2021年の第6版では、下限基準値が精液量1.4mL、精子濃度1,600万/mL、総精子数3,900万、総運動率42%、前進運動率30%、正常形態率4%とされています[3]。以前の版では、精子濃度1,500万/mL・総運動率40%が使われていました。

ただし、この基準値は「これを下回ると妊娠できない」という境界線ではありません。妊娠した男性の集団の下位5%を目安に決めた値で、基準値を下回っても自然妊娠する人も、上回っても妊娠しにくい人もいます[3]。精液の所見は日によって変わるため、複数回の検査で判断します。精子の数が大きく少ない場合や運動率が低い場合は、体外受精や顕微授精が検討されます。

💡 用語解説:無精子症と遺伝の関係

精液中に精子がまったく見られない状態を無精子症といいます。無精子症や高度の乏精子症(精子が非常に少ない状態)では、クラインフェルター症候群などの性染色体の数の変化や、Y染色体の一部が欠けている「AZF微小欠失」といった遺伝的な原因が見つかることがあります。原因によっては精巣から直接精子を採る方法(顕微鏡下精巣内精子採取術)の見込みが変わるため、遺伝学的な検査が役立つ場合があります。

原因不明不妊・抗精子抗体など

検査をしても明らかな原因が見つからない原因不明不妊では、タイミング法や人工授精を一定回数行っても妊娠しない場合に、体外受精へ進むことが一般的です。原因不明とされる中には、卵子が卵管に取り込まれない「ピックアップ障害」や受精の障害など、体外受精をして初めて分かるものも含まれます。

また、精子の動きや受精を妨げる抗体(抗精子抗体)が女性の体にある場合は、子宮や卵管の中で精子が働きにくくなるため、体外受精が選ばれます。このほか、女性の年齢が高い場合は、ほかの治療に時間をかけるよりも早めに体外受精を検討することがあります。卵子の数と質は年齢とともに下がり、待つ時間そのものが成功率に影響するためです。

3. 体外受精の流れとスケジュール

体外受精は「卵巣刺激→採卵→受精→培養→胚移植→妊娠判定」の6段階で進みます。胚を凍結して別の周期に移植する方法が増えており、その場合は「採卵する周期」と「移植する周期」に分かれます。

卵巣刺激約1〜2週間
▶
採卵1日
▶
受精・培養2〜6日
▶
胚移植・判定移植後1〜2週間で判定

① 卵巣刺激(排卵誘発)

自然の排卵では、1回の周期に育つ卵子は通常1個です。体外受精では、飲み薬や注射で卵巣を刺激して、複数の卵胞(卵子が入った袋)を同時に育てます。月経が始まって数日のうちに開始し、約1〜2週間、超音波検査や採血で卵胞の大きさとホルモンの値を確認しながら薬の量を調整します。

刺激の強さには幅があり、注射を多く使う方法では採れる卵子が多くなる一方、通院回数や体の負担、後で説明する卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが増えます。飲み薬中心の方法は負担が小さい反面、採れる卵子は少なくなります。どの方法を選ぶかは、年齢や卵巣の予備能(残っている卵子の量の目安)によって医療機関が判断します。

② 採卵

卵胞が十分に育ったら、最終的な成熟を促す注射や点鼻薬を使い、おおむね34〜36時間後に採卵します。腟から超音波の器具を入れ、画面で卵胞を確認しながら細い針を刺して、卵胞液ごと卵子を吸い出します。お腹を切る手術ではありません。

痛みの感じ方と麻酔の方法は、施設や採る卵胞の数によって異なります。静脈麻酔で眠っている間に行う施設もあれば、局所麻酔や麻酔なしで行う場合もあります。採卵当日は、男性も精液を提出します(自宅で採って持参する方法と、施設の採精室で採る方法があります)。

③ 受精(通常の体外受精か顕微授精)

採れた卵子に、洗浄して元気な精子を選んだものをふりかけて受精を待つのが、通常の体外受精(ふりかけ法)です。精子の数や運動率が大きく低い場合や、以前の体外受精で受精しなかった場合は、顕微授精を行います。翌日、卵子の中に父親由来と母親由来の2つの核(前核)が見えれば、正常に受精したと判断します。

④ 胚の培養

受精卵は培養器の中で育てます。受精から2〜3日目の、数個〜8個程度の細胞に分かれた段階を「初期胚」、5〜6日目の、将来胎盤になる細胞と赤ちゃんになる細胞に分かれ始めた段階を「胚盤胞」と呼びます。すべての受精卵が胚盤胞まで育つわけではなく、途中で成長が止まる胚には、染色体の数の異常を持つものが多く含まれると考えられています。

⑤ 胚移植(新鮮胚移植と凍結融解胚移植)

育った胚を、細いチューブで子宮の中に戻します。移植の方法は大きく4つに分けられます。

  • 新鮮初期胚移植:採卵した周期に、2〜3日目の胚をそのまま移植
  • 新鮮胚盤胞移植:採卵した周期に、5〜6日目の胚盤胞をそのまま移植
  • 凍結融解初期胚移植:凍結した初期胚を、別の周期に解凍して移植
  • 凍結融解胚盤胞移植:凍結した胚盤胞を、別の周期に解凍して移植

日本では現在、凍結融解胚移植が主流です。卵巣刺激の影響が落ち着いた周期に移植でき、OHSSの予防にもつながります。多胎妊娠を防ぐため、移植する胚は原則1個です。

⑥ 妊娠判定

移植後は、黄体ホルモンの薬で子宮内膜を着床しやすい状態に保ちます。移植からおおむね1〜2週間後に、血液中のhCG(妊娠すると胎盤のもとになる細胞から出るホルモン)を測って妊娠判定をします。判定日は、移植した胚の段階(初期胚か胚盤胞か)と施設の方針で変わります。市販の妊娠検査薬で早めに調べる「フライング検査」は、薬の影響などで結果がぶれることがあります。

通院スケジュールと期間の目安

採卵周期の通院は、月経開始から採卵までに数回、採卵当日に1回が目安です。凍結胚を移植する場合は、別の周期に内膜の確認・移植・判定のための通院が加わります。仕事との調整では、採卵日は数日前まで確定しないことを見込んでおく必要があります。

📅 体外受精のスケジュールの一例

時期 新鮮胚移植の場合 凍結融解胚移植の場合
月経2〜3日目頃 診察・卵巣刺激開始 診察・卵巣刺激開始
刺激中(約1〜2週間) 超音波・採血で数回通院 超音波・採血で数回通院
採卵日 採卵・採精・受精 採卵・採精・受精→胚を凍結
採卵2〜5日後 胚移植 (移植はしない)
次の周期以降 — 内膜を整え、排卵日やホルモン補充に合わせて移植
移植後1〜2週間 妊娠判定 妊娠判定

※一般的な目安です。刺激方法や施設によって通院日数・日程は異なります。

4. 体外受精の成功率・流産率(年齢別)

体外受精の成功率は、女性の年齢によって大きく変わります。日本産科婦人科学会の2024年の集計では、治療1回あたりで出産に至った割合(生産率)は30歳で23.5%、40歳で10.9%、45歳で1.6%でした[2]。一方、流産率は年齢とともに上がり、42歳では妊娠した人の4割以上が流産に至っています[2]。

📊 年齢別の体外受精の成績(2024年・日本)

年齢 治療1回あたりの生産率 移植1回あたりの妊娠率 流産率(妊娠あたり)
30歳 23.5% 53.4% 17.4%
35歳 20.5% 47.6% 21.8%
37歳 18.0% 44.5% 24.4%
40歳 10.9% 35.2% 34.5%
42歳 6.0% 26.7% 42.6%
45歳 1.6% 11.2% 53.8%

※日本産科婦人科学会「2024年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績」[2]の年齢別集計による。「治療1回あたり」は採卵などを始めた周期を分母とした値で、移植まで進まなかった周期も含みます。

数字を見るときは、分母が何かに注意が必要です。「移植1回あたりの妊娠率」は胚を移植できた場合の値で、「治療1回あたりの生産率」は採卵がうまくいかなかった周期や移植できる胚がなかった周期も含めた、実際に出産まで至った割合です。医療機関のホームページで見る「妊娠率」がどの分母の数字かで、印象は大きく変わります。

凍結融解胚移植の移植あたりの妊娠率は、全体で約4割でした[2]。凍結融解胚移植は新鮮胚移植より成績がよいことが多いものの、凍結できるほど育った胚を選んで移植していることなども影響しており、「凍結すること自体が成功率を上げる」とまでは言い切れません。

なぜ年齢で成功率が下がるのか ― 卵子の染色体の数の変化

年齢とともに成功率が下がり流産率が上がる最大の理由は、卵子の染色体の数の異常(異数性)が増えることです。ヒトの胚は通常46本の染色体を持ちますが、卵子ができる過程(減数分裂)で染色体がうまく分かれないと、1本多い(トリソミー)や1本少ない(モノソミー)胚ができます。こうした胚の多くは着床しないか、着床しても流産に至ります。

体外受精で得られた胚盤胞15,169個の染色体を調べた米国の研究では、女性の年齢が上がるにつれて異数性の胚の割合が増え、40代半ばでは大半の胚が異数性でした[4]。卵子は生まれる前から卵巣の中にあり、長い年月をかけて減数分裂の途中で止まったまま保たれています。染色体を束ねているタンパク質(コヒーシン)がその間に少しずつ弱まることが、年齢とともに分かれ方の誤りが増える一因と考えられています。

体外受精は受精の場所を体外に移す治療であり、卵子の染色体の状態そのものを若返らせることはできません。これが、体外受精をしても年齢の影響を避けられない理由です。

💡 用語解説:異数性(いすうせい)

染色体の本数が通常の46本からずれている状態を異数性といいます。21番染色体が3本あるダウン症候群(21トリソミー)はその代表です。異数性の多くは卵子や精子ができるときの染色体の分かれ方の誤りで起こり、特に卵子では母体の年齢とともに増えます。異数性の胚は、着床しない、流産する、あるいは染色体の病気を持って生まれる、のいずれかの経過をたどることが多くなります。

1回目で成功する確率と、回数の考え方

「1回目で成功する確率は?」という疑問は多いのですが、1回あたりの成功率は、回数を重ねても上がるわけではありません。上の表の値が、その年齢での1回あたりの目安です。回数を重ねることで上がるのは「何回かのうちに出産に至る」累積の確率で、1回ごとの確率はその時点の年齢と胚の状態で決まります。

また、集団の統計は、個人の確率をそのまま示すものではありません。同じ年齢でも、卵巣の予備能、不妊の原因、採れた胚の数によって見込みは変わります。1回の採卵で複数の胚を凍結できれば、1回の採卵から複数回の移植ができます。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【成功率の数字は「卵子の年齢」の数字】

体外受精の年齢別成績の表は、卵子の染色体の数の変化を反映した数字だと考えています。40歳を過ぎると生産率が急に下がり、流産率が上がるのは、治療の技術の問題というより、減数分裂という生物学的なしくみの問題です。

臨床遺伝専門医としては、この表を「焦らせる材料」ではなく、限られた時間の中で何を優先するかを考える材料として読んでいただきたいと考えています。数字の背景にある染色体のしくみを理解することは、年齢に伴う流産リスクの生物学的背景を整理するうえで重要です。

5. 体外受精の費用と保険適用

2022年4月から、体外受精・顕微授精を含む基本的な不妊治療が保険適用になりました。採卵・採精から受精、培養、胚移植までの基本的な治療が対象で、自己負担は原則3割です[5]。

⚠️ 保険が使える条件(生殖補助医療)

年齢:治療開始日に女性が43歳未満であること
回数:40歳未満で始めた場合は1子ごとに6回まで、40歳以上43歳未満は1子ごとに3回まで(胚移植の回数で数えます)
負担:原則3割。1か月の支払いが上限を超えた分は高額療養費制度の対象

保険診療と組み合わせられる先進医療もあり、先進医療の部分は自己負担になります。胚の染色体の数的異常を調べる着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)は、日本産科婦人科学会の見解・細則に基づき、認定施設で一定の適応を満たす場合に実施されています[10]。なお、PGT-Aの一部は先進医療Bとして臨床研究が行われています。

実際にかかる金額は、刺激に使う薬、採れた卵子の数、胚の培養・凍結の数、先進医療の有無によって大きく変わります。1回あたりの金額を一律に示すことはできないため、治療を受ける医療機関で見積もりを確認してください。自治体によっては、先進医療の費用を助成する制度もあります。

6. 体外受精のデメリット・リスク

体外受精には、体への負担、合併症、多胎妊娠、時間・費用・心理的な負担といったデメリットがあります。治療を始める前に、それぞれの内容と頻度を知っておくことが役立ちます。

痛みと、採卵に伴う合併症

卵巣刺激の注射は、自己注射で行うことも多く、注射部位の痛みや腫れが出ることがあります。採卵では、針を刺すことによる痛みのほか、まれに腟や卵巣からの出血、骨盤内の感染が起こることがあります。麻酔を使う場合は、麻酔に伴うリスクもあります。

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)は、刺激によって卵巣が腫れ、お腹や胸に水がたまる合併症です。重症になると、血液が濃くなって血栓ができやすくなるなど、入院が必要になることがあります。米国生殖医学会(ASRM)は、刺激方法の選択、最終成熟を促す薬の選び方、全胚凍結(その周期には移植せず胚をすべて凍結すること)などによる予防策をガイドラインにまとめています[6]。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の人や若い人は起こりやすいとされます。お腹の張りの急な悪化、尿量の減少、息苦しさがあれば、治療を受けている医療機関にすぐ連絡してください。

多胎妊娠

複数の胚を移植すると、双子などの多胎妊娠が増えます。多胎妊娠は、早産や妊娠高血圧症候群など母子のリスクが高くなります。日本では単一胚移植が原則とされ、2024年の多胎率は4.15%でした[2]。胚を1個だけ移植しても、胚が分かれて一卵性の双子になることがあります。

時間・仕事・心理面の負担

採卵周期には短い間隔での通院が必要で、採卵日が直前まで決まらないため、仕事との調整が負担になります。妊娠判定までの待機、陰性だったときの落胆、治療をいつまで続けるかの判断など、心理的な負担も小さくありません。保険適用には回数の上限があるため、どの胚をいつ移植するかの判断も以前より重くなっています。

7. 体外受精で生まれてくる子への影響(遺伝の視点)

体外受精で生まれた子どもの大多数は健康に育っています。そのうえで、先天異常やインプリンティング疾患の相対リスクが、自然妊娠よりわずかに高いという報告があります。ただし、その原因が体外受精の技術そのものなのか、もともとの不妊の背景や親の年齢なのかは、完全には分かっていません。

先天異常のリスク

生殖補助医療と先天異常の関係を調べた研究をまとめたメタ解析では、生殖補助医療で生まれた子どもの先天異常のリスクは、自然妊娠の子どもよりわずかに高いと報告されています[7]。一方で、不妊であること自体、親の年齢、多胎妊娠なども先天異常のリスクに関わるため、「体外受精が原因で先天異常が増える」と因果関係まで断定することはできません。相対リスクが上がっても、先天異常を持たずに生まれる子どもが大多数であることに変わりはありません。

インプリンティング疾患

遺伝子の中には、父親由来か母親由来かによって働き方が決まっているものがあり、この「どちらの親から来たかの印」をゲノムインプリンティングといいます。この印は、DNAのメチル化という化学的な目印で付けられています。卵子や胚の時期はこの目印が付け直される時期と重なるため、体外での培養などが影響する可能性が議論されてきました。

複数の研究をまとめたメタ解析では、生殖補助医療で生まれた子どもで、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群(BWS)、シルバー・ラッセル症候群(SRS)、プラダー・ウィリー症候群(PWS)、アンジェルマン症候群(AS)のオッズ比が、それぞれ5.8、11.3、2.2、4.7と報告されています[8]。日本でも、これら4つのインプリンティング疾患と生殖補助医療との関連が全国調査で検討されています[9]。

ただし、これらの病気はもともと非常にまれです。相対的に数倍になっても、実際に発症する子どもの割合(絶対リスク)は低いままです。したがって、相対リスクだけでなく絶対リスクもあわせて評価する必要があります。

💡 用語解説:インプリンティング疾患

ゲノムインプリンティングの印(メチル化)が本来と違う付き方をしたり、片方の親からだけ染色体を受け継いだりすることで起こる病気の総称です。ベックウィズ・ヴィーデマン症候群は体の過成長、シルバー・ラッセル症候群は成長の遅れ、プラダー・ウィリー症候群は乳児期の筋緊張低下とその後の過食、アンジェルマン症候群は重い発達の遅れなどが特徴です。診断の第一選択はメチル化解析です。

体外受精でダウン症は増える?減る?

ダウン症候群(21トリソミー)などの染色体の数の異常の主な要因は、母親の年齢(卵子の年齢)です。第4章で見たとおり、卵子の異数性は年齢とともに増えます[4]。体外受精を受ける人は年齢が高い傾向があるため、体外受精で妊娠した集団ではダウン症候群の頻度が高く見えることがありますが、体外受精という方法そのものがダウン症候群を増やす、あるいは減らすという明確な根拠は示されていません。体外受精で妊娠した場合も、自然妊娠と同じく、母体の年齢に応じた確率で考えるのが基本です。

PGT-Aでわかること・わからないこと

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)は、胚盤胞の一部の細胞を採って染色体の数を調べ、数の異常がない胚を選んで移植するための検査です。日本では、日本産科婦人科学会が認定した施設で、不妊症・不育症の方を対象に行われています[10]。流産を減らし、移植あたりの成功率を上げることが期待される一方で、限界もあります。

  • 調べるのは胚の一部の細胞:採るのは将来胎盤になる細胞で、赤ちゃんになる細胞とは違う結果になること(モザイク)があります
  • わかるのは主に染色体の数:1つの遺伝子の変化による病気や、小さな欠失・重複の多くは対象外です
  • 卵子の数そのものは増やせない:年齢が高く、正常な胚がもともと少ない場合、移植できる胚がなくなることもあります

また、PGT-Aは男女の産み分けを目的とした検査ではありません。性別を選ぶために胚を選別することは、日本の学会の枠組みで認められた検査の目的に含まれていません。

8. 体外受精で妊娠したあとの出生前検査

体外受精で妊娠した場合も、赤ちゃんの染色体の数の変化が起こる確率は、主に母体の年齢で決まります。体外受精で妊娠したからといって、確率がゼロになるわけではありません。

PGT-Aを受けて「異常なし」とされた胚を移植した場合でも、前の章で説明したとおり、調べたのは胎盤になる側の一部の細胞です。胚の中で細胞ごとに染色体が違うモザイクや検査の限界があるため、PGT-Aの結果は妊娠後の赤ちゃんの染色体を保証するものではありません。妊娠後にNIPT(母体血を使った出生前検査)などの出生前検査を受けるかどうかは、この点も踏まえて考えることになります。

出生前検査には、赤ちゃんの状態を早く知ることができる一方で、結果によっては難しい判断を迫られるという面もあります。受けるかどうか、何を調べるかは、検査で分かることと分からないことを理解したうえで、ご夫婦で決めるものです。NIPTは確定診断ではなく、陽性の場合は羊水検査などで確かめる必要があります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「相対リスク」と「絶対リスク」を分けて考える】

体外受精と子どもの健康についての報告には、「リスクが○倍」という表現がよく出てきます。けれども、もともとまれな病気が数倍になっても、実際に起こる割合は低いままです。相対リスクと絶対リスクを分けて評価することが、リスクを適切に理解するための基本です。

また、体外受精を受けるご夫婦は年齢が高い傾向があり、その影響と治療そのものの影響を切り分けることは簡単ではありません。臨床遺伝専門医としては、年齢に伴う染色体の変化という、はっきり分かっている部分から整理することが大切だと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 体外受精とは簡単にいうと何ですか?

卵子と精子を体の外で受精させ、数日培養して育った胚を子宮に戻す不妊治療です。受精までを体の外で行い、着床と妊娠の継続は体の中で起こります。

Q2. 人工授精と体外受精はどちらが妊娠しやすいですか?

1回あたりの妊娠率は、一般に体外受精のほうが高くなります。ただし体外受精は卵巣刺激や採卵が必要で、体への負担も大きくなります。年齢や不妊の原因によって、どちらを先に行うかは変わります。

Q3. 体外受精のスケジュールは何か月くらいかかりますか?

採卵する周期は月経開始から採卵まで約2〜3週間です。新鮮胚移植なら同じ周期に移植し、1〜2週間後に判定します。凍結胚を移植する場合は次の周期以降に移植するため、判定まで1〜2か月以上かかるのが一般的です。

Q4. 体外受精で男性がすることは何ですか?

事前の精液検査や感染症の検査を受け、採卵当日に精液を提出します。精液に精子がいない場合などは、精巣から直接精子を採る手術が検討されることがあります。

Q5. 体外受精の1回目で成功する確率は?

1回目に限った統計はありませんが、2024年の日本の集計では、治療1回あたりで出産に至った割合は30歳で23.5%、40歳で10.9%でした。1回あたりの確率は回数を重ねても上がるわけではなく、年齢と胚の状態で決まります。

Q6. 体外受精で生まれる子は誰に似ますか?

夫婦自身の卵子と精子で体外受精をした場合、生まれてくる子は遺伝的に2人の子どもで、自然妊娠と同じように両親の遺伝子を半分ずつ受け継ぎます。提供された卵子や精子を使った場合は、提供者の遺伝情報を受け継ぎます。

Q7. 体外受精でダウン症になる可能性はありますか?

あります。ダウン症候群などの染色体の数の異常の主な要因は母体の年齢で、体外受精で妊娠した場合も年齢に応じた確率で起こります。体外受精という方法そのものがダウン症候群を増やす、あるいは減らすという明確な根拠は示されていません。

Q8. 体外受精で男の子か女の子かを選べますか?

選べません。PGT-Aは胚の染色体の数を調べて移植する胚を選ぶための検査で、男女の産み分けを目的とした検査ではありません。

Q9. ミネルバクリニックで体外受精は受けられますか?

いいえ。当院では体外受精などの不妊治療は行っておらず、体外受精についてのご予約・お問い合わせはお受けしていません。体外受精は、生殖医療を専門とする医療機関にご相談ください。

まとめ

体外受精は、卵子と精子を体の外で受精させ、育った胚を子宮に戻す治療で、「卵巣刺激→採卵→受精→培養→胚移植→妊娠判定」の順に進みます。卵管性不妊、男性不妊、原因不明不妊などが主な対象で、2022年4月からは43歳未満であれば回数の上限内で保険が使えます[5]。

成功率を大きく左右するのは女性の年齢で、その背景には卵子の染色体の数の変化があります[4]。体外受精で生まれた子どもの先天異常やインプリンティング疾患は相対的にわずかに高いと報告されていますが、絶対リスクは低く、原因が治療そのものかどうかは分かっていません[7][8]。体外受精で妊娠した場合も、赤ちゃんの染色体の変化の確率は母体の年齢に応じて考えます。

🏥 体外受精をお考えの方へ

当院では、体外受精などの不妊治療は行っておりません。
この件についてのご予約・お問い合わせはお受けしておりません。
体外受精をお考えの場合は、生殖医療を専門とする医療機関へご相談ください。この記事は体外受精を正しく知っていただくための解説であり、当院での診療をご案内するものではありません。なお、治療の過程で具体的な遺伝学的評価が必要と判断された場合に限り、遺伝カウンセリングが関係することがあります。

参考文献

  • [1] Steptoe PC, Edwards RG. Birth after the reimplantation of a human embryo. Lancet. 1978;2(8085):366. PMID: 79723. [PubMed 79723]
  • [2] 日本産科婦人科学会. 2024年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績. [日本産科婦人科学会]
  • [3] World Health Organization. WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen, 6th edition. 2021. [WHO]
  • [4] Franasiak JM, Forman EJ, Hong KH, et al. The nature of aneuploidy with increasing age of the female partner: a review of 15,169 consecutive trophectoderm biopsies evaluated with comprehensive chromosomal screening. Fertil Steril. 2014;101(3):656-663.e1. doi:10.1016/j.fertnstert.2013.11.004. PMID: 24355045. [PubMed 24355045]
  • [5] こども家庭庁. 保険適用について|不妊のこと DICTIONARY(みんなで知ろう、不妊症不育症のこと). [こども家庭庁]
  • [6] Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Prevention of moderate and severe ovarian hyperstimulation syndrome: a guideline. Fertil Steril. 2024;121:230-245. [Fertil Steril]
  • [7] Hansen M, Kurinczuk JJ, Milne E, de Klerk N, Bower C. Assisted reproductive technology and birth defects: a systematic review and meta-analysis. Hum Reprod Update. 2013;19(4):330-353. doi:10.1093/humupd/dmt006. PMID: 23449641. [PubMed 23449641]
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  • [10] 日本産科婦人科学会. 不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-A・SR). [日本産科婦人科学会]

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プロフィール

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。
2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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