不妊の原因の約50%が男性側にあることをご存じですか。「まさか自分が」という思いから、検査を受けたことがないという男性は少なくありません。男性として、自分に原因があることを知るのはショックであり、いきなり病院で検査することにためらいを感じる方も少なくないでしょう。
そこで今回は、男性不妊のセルフチェックリストをご紹介します。妊活中の方や男性不妊の心配がある方は、まずはご自身で確認してみてください。
男性不妊セルフチェックリスト
妊娠を望み、避妊をせずに性行為を続けながらも1年間以上妊娠に至らない場合、女性または男性のどちらか、もしくは両方に不妊症の原因がある可能性があります。
不妊の原因が男性側にある場合を「男性不妊症」といいます。
ご自身が男性不妊であるかどうかが気になりながらも、いきなり医療機関へ足を運ぶことに抵抗がある方は、男性不妊のセルフチェックリストを利用するのも一つの方法です。
▼男性不妊のセルフチェックリスト
- 成人してから高熱を出したことがある
- 長時間座って仕事をしている
- 睾丸が小さい
- 睾丸・陰嚢の形状がおかしい
- 陰嚢のまわりに血管が浮き出ている
- 射精できない・精液の量が少ない
- 勃起しない・勃起が持続しない
- 膣の中で射精できない
- クラミジア精巣上体炎(性病)にかかったことがある
- 停留精巣または尿道下裂の手術を受けたことがある
- 肥満である
- タバコを吸っている
- 仕事や日常生活でストレスを感じている
上記に当てはまる項目が多いほど、男性不妊である確率が高いといえます。
ここからは、このチェックリストについて詳しく解説していきます。
成人してから高熱を出したことがある
成人になってから肺炎や腸チフス、インフルエンザなどの高熱を伴う病気に罹患したことがある場合、精子を作る能力に影響が出る場合があります。
精巣を作る精巣は、熱に弱いとされています。そのため、高熱が続くと精子の数が減少することがあります。しかし、一般的にはこの減少は一時的なものであるため、3~4ヶ月経てば精子の数は元に回復します。
しかし、同じ高熱でも、おたふく風邪の場合は要注意です。おたふく風邪にかかり睾丸が腫れてしまうと、ムンプス精巣炎や精巣の萎縮が起き、最悪の場合無精子症になってしまうこともあります。
長時間座って仕事をしている
事務職やシステムエンジニアなど、長時間座って仕事をしている方は注意が必要です。
椅子に長時間座っていることにより熱がこもりやすくなり、精巣が温められてしまいます。前述のように、精巣は熱に弱いため、日常的に長時間の座位を続けることによって、精子を作る機能が低下する場合があります。
また、長時間椅子に座っていることにより、精巣が圧迫されることも男性不妊の一因となる可能性があります。
座りっぱなしの仕事をしている方によく見つかるのが“精索静脈瘤”です。精索静脈瘤とは、精巣から心臓に戻る静脈内の血液が逆流してしまい、精巣の周りに静脈のこぶができてしまう状態です。精索静脈瘤は男性不妊の原因の約40%といわれており、自覚症状がほとんどないのが特徴です。
睾丸が小さい
睾丸が小さい方は、精子が作られにくくなっている可能性があります。
睾丸の大きさと精子の濃度には、若干ではありますが相関関係があるとされています。傾向として、睾丸が小さいほど、精子の濃度は低いです。
セルフチェックで睾丸の大きさが直径3cm以上であれば問題ありませんが、直径1cmほどと極端に小さい場合は男性不妊の可能性があるため、検査を受けることを検討しましょう。
睾丸・陰嚢の形状がおかしい
睾丸や陰嚢が腫れている、デコボコしている場合、男性不妊の可能性があります。
睾丸が腫れている場合に疑われるのが精巣上体炎です。精巣上体炎とは、精巣の近くにある精巣上体にウイルスなどが入り炎症を起こした状態を指します。発熱することもあり、両側に炎症を起こすと精路通過障害が起き、男性不妊の原因となります。
また、陰嚢が腫れている、デコボコしている場合、精索静脈瘤である可能性が高いです。精索静脈瘤により精巣の温度が上がり、熱に弱い精子にとっては致命的な環境となるため、男性不妊の原因となります。
陰嚢のまわりに血管が浮き出ている
陰嚢のまわりに血管が浮き出ている場合にも、精索静脈瘤が疑われます。
精索静脈瘤は、特に左の陰嚢にできやすいほか、前述のように、自覚症状がほとんどないのが特徴です。症状がない場合でも、場合は注意が必要です。
精索静脈瘤の重症例では手術が必要であるため、陰嚢の血管が浮き出ていることに気付いた方は、速やかに検査を受けましょう。
射精できない・精液の量が少ない
「射精ができない」「精液の量が少ない」という方は、自然妊娠が難しくなることがあります。
これらの症状は射精障害といわれ、原因として、先天的に精液を貯蔵する精嚢が発達不良である場合、生まれつき精液の量が少なかったり、精子の数の問題があったりする場合があります。また、後天的に射精量が減少することもあります。
射精障害には心理的要因もあるため、まずは専門家に相談し、原因を探ることが大切です。
勃起しない・勃起が持続しない
勃起しない、勃起が持続しないなどの症状で性行為ができない場合、男性不妊が疑われます。
これらの症状は、勃起障害(ED)といわれます。勃起障害は、勃起するために必要な陰茎の血管や神経の異常による器質的EDと、精神的な不調による心因性EDに分けられます。
器質的EDの主な原因として挙げられるのが、糖尿病や動脈硬化です。心因性EDは、過去の性行為の失敗体験などにより性行為にストレスや恐怖を感じることが原因です。
勃起障害にはバイアグラなどの薬物治療が有効であるため、まずは専門医に相談しましょう。
膣の中で射精できない
膣の中で射精ができない症状を膣内射精障害といいます。
膣内射精障害とは、自慰行為では射精ができるにもかかわらず、性行為では射精ができない症状を指します。膣内射精障害は男性不妊の原因の約7%を占めています。
原因として、不適切な自慰行為習慣が挙げられます。陰茎を強く握り締める自慰行為を繰り返したり、うつ伏せになり局部を床に強く押しつける自慰行為を繰り返したりすることに慣れてしまうと、実際の性行為の際に自慰行為と感覚が異なり射精に至らなくなるのです。
膣内射精障害においては、射精のリハビリが必要となります。まずは専門医のいる男性不妊外来を受診しましょう。
クラミジア精巣上体炎(性病)にかかったことがある
性病にもさまざまな種類がありますが、特にクラミジア精巣上体炎にかかったことがある場合、男性不妊の可能性が高まります。クラミジア精巣上体炎によって、精子を送り出す精管がふさがっていることがあり、左右両方の精管がふさがっている場合、精液中に精子が分泌できず、無精子症の原因となります。
無精子症には、手術による治療が有効です。無精子症の疑いがある場合、まずは泌尿器科医かつ生殖医療専門医のいる病院を受診しましょう。
停留精巣または尿道下裂の手術を受けたことがある
停留精巣または尿道下裂の手術を受けたことがある場合、男性不妊の可能性が高いと考えられます。
停留精巣とは、陰嚢の中に精巣が入っていない状態で、男児の先天性異常で最も頻度が高い疾患です。
尿道下裂とは、男児における先天的な陰茎の形態異常です。
これらの疾患の手術歴がある場合は、精液検査を受け、精子の状態を把握することが大切です。
肥満である
体重が適正値を超え肥満である場合、適正体重の人と比較して精子所見が悪く、精子DNAのダメージが上昇する傾向があります。そのため、妊娠率などが低下すると考えられています。
妊活や不妊治療中の男性は、食生活を見直し、適度な運動を行い、体重を適正値に戻すことが大切です。
タバコを吸っている
生活習慣病や老化の危険因子である酸化ストレスは、喫煙により増大します。酸化ストレスが増大することにより、精子数の減少や運動率の低下が引き起こされ、男性不妊の原因となります。
妊娠後の子どもへの影響も考え、早い段階での禁煙が有効です。自分でタバコが辞められない場合は、禁煙外来に通うことも検討しましょう。
仕事や日常生活でストレスを感じている
精神的なストレスは精子の質に影響するといわれています。精子の質とは、運動率や形、精液の量のことです。
精子の質の低下は男性不妊の大きな原因となります。
ストレスは不妊症のみならず万病の元です。ストレスを感じている方は、適度な運動を行い、十分な睡眠を取ることを心がけましょう。十分な睡眠は、精子の質の改善にもつながります。
男性不妊の疑いがある人はセルフチェックキットの利用を検討する
上述のセルフチェックリストで多くの項目が該当し、男性不妊の疑いがある方にはセルフチェックキットの利用をおすすめします。
セルフチェックキットでは、スマートフォンのアプリとキットで手軽に精子の状態がチェックできます。自宅で利用することができ、WEBで完結するため、病院で精子を採取する必要がありません。
また、WHO(世界保健機関)が定めている下限値(下回ると自然妊娠が難しいとされる値)と比較することができるのも特徴です。さらに、生殖技術のプロ“培養士”から分析結果のレポートが届きます。
匿名での利用も可能なため、医療機関での検査に抵抗がある方でも利用しやすいといえます。
男性不妊の診断方法
男性不妊の診断方法は、大きく3つあります。
- 精液検査
- 視診・触診
- 血液検査
最も重要な検査は、精液の量や精子の数、運動している精子の数を調べる精液検査です。それに加えて、視診や触診、血液検査を行い、診断を確定します。これらの検査は病院またはクリニックで実施されます。
では、それぞれの検査について詳しく見ていきましょう。
精液検査
病院やクリニックで渡された容器にマスターベーションで精液を全て出します。検査前の禁欲期間は平均的には2~7日間ですが、施設によっては具体的な期間が指定されることもあるため、指示に従いましょう。
検査では、採取した精液の量や精子の数、運動している精子の数を顕微鏡で観察し、WHO(世界保健機関)が出している基準値と照らし合わせて自然妊娠の可能性を検討します。
体調によっても精液の状態が異なるため、結果が良好でない場合は、2~3回検査を行う場合もあります。
WHOが出している精液検査の基準値は下記の表の通りです。
検査項目 | 検査時期 |
---|---|
新型出生前診断 | 下限基準値 |
精液量 | 1.5ml以上 |
精子濃度 | 1,500万/ml以上 |
総精子数 | 3,900万/射精以上 |
前進運動率 | 32%以上 |
総運動率 | 40%以上 |
正常精子形態率 | 4%以上 |
白血球数 | 100万/ml未満 |
視診・触診
男性不妊に関連する既往歴、勃起や射精など現在の性生活の状況を確認したうえで、視診・触診を行います。視診・触診では、主に下記の項目を確認します。
- 睾丸を含む外陰部の観察
- 喉仏の有無
- 精巣の大きさ
- 精巣の左右差
- 前立腺肥大の有無
- 精索静脈瘤の有無
正常な成人男性の精巣容量は約15~20mlとされています。容量の検査には、オーキドメーターという器具を使用します。
オーキドメーターとは、複数の精巣サイズが連なった器具で、実際の精巣と並べて比較しながら大きさを確認するための器具です。
これらの視診・触診によって、精液検査だけでは判明しない男性不妊の原因を探ります。
血液検査
血液検査では、ホルモンを測定し下記のホルモン値を検査します。
- 卵胞刺激ホルモン(FSH)
- 黄体化ホルモン(LH)
- プロラクチン
- テストステロン(男性ホルモン)
たとえばFSHとLHの値が両方とも低い場合は、精子を作る機能が低下していることが分かります。
また、勃起障害や射精障害がある場合は血液検査は必須項目です。
男性不妊の治療方法
男性不妊は、原因に応じて治療方法が異なります。男性不妊の主な原因は以下の3つです。
- 性機能障害
- 精液性状低下(軽度~中等度)
- 精液性状低下(高度)・無精子症
性機能障害の場合、薬物療法を中心に治療を行います。
一方、精液性状低下(軽度~中等度)の場合、内科的治療を中心に、精液性状低下(高度)・無精子症の場合、顕微授精や外科的治療を行います。
ここからは、それぞれの原因に分けて、治療法を解説していきます。
性機能障害
性機能障害で最も多いのが勃起障害(ED)です。男性性機能は、性欲、勃起、性交、射精、オーガズムに分けられます。通常、これらが順次発現していきますが、これらのうちどれかが欠けたり、不十分であったりする場合を男性性機能障害と言います。
性機能障害に対する治療法は、以下の4つです。
抗うつ薬
射精時に精液が膀胱内に逆流してしまう逆行性射精の症状がある場合、抗うつ薬が用いられます。
PDE-5阻害薬
勃起障害(ED)が不妊の原因であった場合に用いられます。
射精障害に対する治療
不適切なマスターベーションの習慣により、性行時に射精できない場合があります。この場合、器具を使用してマスターベーションの方法を矯正します。これが有効でない場合は人工授精を行うこともあります。
人工授精
上記のような治療を試みても効果が見られない場合や治療を希望しない場合、高齢で妊娠を急ぎたい場合などは人工授精を行います。
精液性状低下(軽度~中等度)
精液性状低下(軽度~中等度)の原因として、精子形成や射精の障害、精子の数の減少、精巣機能不全、精索静脈瘤などが挙げられます。
精液性状低下(軽度~中等度)に対する治療法は、以下の5つです。
生活習慣を含めた男性不妊因子の除去
薬剤や喫煙、アルコール過剰摂取など精子形成や射精を障害し、男性不妊の原因となる可能性があるものを中止します。精巣を温める可能性のある長時間のサウナや入浴、座位なども避けることが有効です。
非内分泌療法
非内分泌療法とは、漢方薬やビタミン剤、血流改善薬などを用いる治療法です。精子の数が減少している場合や運動率の低下が見られる場合に用いられます。統計学的に有意な改善が示された症例が少ないため、経験的治療が中心となります。
内分泌療法
脳の視床下部または下垂体の機能不全によって起こる精巣機能不全(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)に対して用いられます。定期的な注射が必要となるため、自分で注射を行わなければいけないことが多いです。
人工授精
精液性状低下が軽度~中等度の場合は、人工授精によって妊娠する可能性もあります。
精索静脈瘤に対する手術
精液所見の悪化や精子DNAのダメージの上昇などを引き起こす精索静脈瘤がある場合で、かつ精子形成障害があったり、将来的にその可能性が危惧されたりする際は、手術によって治療を行います。
精液性状低下(高度)・無精子症
精液性状低下(高度)・無精子症の原因として、鼠径ヘルニアの術後による精管の閉塞や精巣上体炎による精巣上体の閉塞などが挙げられます。
精液性状低下(高度)・無精子症の治療法は、以下の3つです。
精子採取術+顕微授精
さまざまな方法を用いても精液から精子が採取できない場合に行います。陰嚢の皮膚を切開し、精巣の組織の一部を採取する精巣精子採取術で採取した精子を顕微授精で卵子と受精させます。
精路再建手術
精子の通り道である精路に閉塞がある場合、閉塞部位を取り除き、再建する方法です。精路通過障害を解消することにより、精液中に精子が認められ、自然妊娠が期待できます。
非配偶者間人工授精(AID)
上記の治療を行っても妊娠に至らない場合、ご夫婦二人の強い希望があれば、夫以外の提供者の精子を用いた人工授精を行うこともできます。
男性不妊の可能性を減らす方法
男性不妊の可能性を減らす方法として、下記のようなものが挙げられます。
- 肥満対策としてウォーキングやストレッチなどの適度な運動を行う
- 1日3食、バランスのよい食事を摂る
- 規則正しい生活を送り十分な睡眠を取る
- 精巣の高温状態を防ぐため、長時間の入浴、サウナ、座位を避ける
- 精巣への圧迫を避けるため、長時間自転車やバイクに乗らない
- 禁煙をする
- 深酒をしない
生活習慣病は、精巣の働きを悪化させます。また、ホルモンの環境を整えるためには、十分な栄養と睡眠が必要不可欠です。さらに、精巣を温めると精子を作る力が低下することから、精巣を温める行為には注意しなければなりません。
妊活・不妊治療中は喫煙・飲酒などの生活習慣も改めることが重要です。
まとめ
不妊の原因は女性だけではありません。ご夫婦またはパートナー同士で子どもを望みながら性行為を行っているものの、なかなか妊娠まで至らないという方は、男性不妊のセルフチェックリストに該当するものがないかを確認してみましょう。
多くの項目に該当する場合、自宅で手軽にできるセルフチェックキットの利用をおすすめします。その結果、男性不妊が疑われる場合は、専門医のいる病院やクリニックを受診し、検査を受けましょう。
検査結果で不妊症が判明した場合、まずはパートナーと今後の妊活・不妊治療についてしっかりと話し合うことが大切です。
また、年齢が上がると精子のなかの異常な遺伝子の数が増えるのですが、パパの年齢上昇と関係のあるお子さんの疾患リスク(積算リスク1/600とダウン症候群とより若干多くなります)をNIPTで検査することが可能です。ご興味のあるかたは以下の関連記事をご覧ください。
ミネルバクリニックでご提供している不妊症遺伝子検査では、不妊症や性染色体異常に関連する遺伝子変異を特定することで正確な予後判定を行い、患者さんに最も適した治療法を特定することができるため、子供を持ちたいと願うすべてのカップルや個人に対して、最適な治療計画を導くことができます。是非ご検討ください。