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不妊症とは?定義・割合・原因を男女別に解説|検査を考える目安まで

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

不妊症(ふにんしょう)とは、妊娠を望んで避妊をせずに性交を続けているのに、1年間妊娠しない状態をいいます。35歳以上では、6か月妊娠しなければ検査・評価を始めることが推奨されます。原因は女性側・男性側・双方・原因不明に分かれ、男女どちらかだけの問題ではありません。「割合」の数字は、不妊症と診断された人の割合ではありません。この記事では、不妊症の定義と割合、原因、なりやすい人、遺伝や染色体が関わる不妊、受診の目安を、臨床遺伝専門医が整理して解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約14分
🧬 定義・原因・なりやすい人・遺伝
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. 不妊症とは何ですか?原因は何ですか?

A. 基本的には、妊娠を望んで避妊せずに性交を続けても1年間妊娠しない状態です。35歳以上では、6か月妊娠しなければ検査・評価を始めることが推奨されます。原因は、排卵の異常・卵管や子宮の問題・子宮内膜症・加齢(女性側)、精子をつくる力や通り道の問題(男性側)、その両方、そして検査で見つからない「原因不明」に分かれます。検査は夫婦で行うのが基本で、一部には染色体や遺伝子の要因も関わります。

  • ➤定義 → 避妊なしで1年妊娠しない状態(35歳以上は6か月で評価開始が目安)
  • ➤割合 → 世界の成人の約6人に1人が生涯で経験(WHO)。日本では検査・治療の経験が約4.4組に1組
  • ➤原因 → 女性因子・男性因子・双方・原因不明の4つ
  • ➤なりやすい人 → 年齢が大きな要因。喫煙・体重・感染症・薬剤なども関わる
  • ➤遺伝の視点 → クラインフェルター症候群・Y染色体微小欠失・早発卵巣不全などが知られる

1. 不妊症とは?定義と、受診を考え始める時期

不妊症(ふにんしょう)とは、妊娠を望んで避妊をせずに性交を続けているのに、一定期間妊娠しない状態をいいます。国際的な用語集では、12か月以上の定期的な避妊なしの性交でも臨床妊娠(超音波などで妊娠が確認できる妊娠)に至らない、生殖器系の疾患と定義されています[1]。日本産科婦人科学会も、一般的な目安としてこの「1年」を用いています[2]。

この章では、定義の中身、似た言葉との違い、そして日本と世界での割合を順に整理します。数字は「不妊症と診断された人の割合」ではなく、調べた集団と調べ方によって意味が変わるため、出典ごとに何を数えたものかを確認しながら読み進めます。

不妊症の定義:1年、35歳以上は6か月を目安に

不妊症の基本的な定義は「避妊せずに1年間妊娠しない」で、35歳以上では6か月妊娠しなければ受診・検査を始めることが推奨されます。米国生殖医学会(ASRM)は、35歳未満では12か月、35歳以上では6か月の避妊なしの性交で妊娠に至らない場合を、検査と治療を検討する時点として示しています[3]。年齢が上がるほど、待つ時間そのものが妊娠の可能性を減らす要素になるためです。

「1年」という期間には理由があります。妊娠を望んで避妊をやめたカップルの多くは、1年のうちに妊娠します。単純に月ごとの確率で見ると、健康なカップルでも1周期あたり妊娠できる確率は2割前後にとどまり、この確率が積み重なって1年で大多数が妊娠に至る、という見方です[4][5]。1年を過ぎても妊娠していない場合は、確率の積み重ねだけでは説明しにくい背景が含まれている可能性が高まります。

ただし、これは「1年待たなければ受診できない」という意味ではありません。ASRMの定義では、月経不順や無月経、子宮内膜症や骨盤内感染の既往、精巣や精路の病気の既往などがある場合には、期間を待たずに評価を始めてよいとされています[3]。年齢や病歴に応じて、受診の時期を前倒しする考え方です。受診の目安は第5章で詳しく整理します。

もうひとつ押さえておきたいのは、「性交のタイミング」の影響です。排卵日の前後に性交がなければ、体に問題がなくても妊娠は成立しません。定義に「定期的な性交」という条件が付いているのは、そのためです。排卵の時期の考え方や、タイミングをとる治療については、不妊治療のタイミング法で解説しています。

「不妊」「不妊症」「不育症」の違いと、一次性・二次性

「不妊」は妊娠しにくい状態を広く指す言葉で、「不妊症」は医療の場で使われる診断名です。用語集の定義では、不妊症は疾患として位置づけられており、男女どちらの生殖器の機能の問題でも起こりうるとされています[1]。日常会話では「不妊」と「不妊症」がほぼ同じ意味で使われますが、検査や治療の対象になる状態を指すときには「不妊症」という言葉を使うのが一般的です。

「不育症(ふいくしょう)」とは別の状態です。不育症は、妊娠はするものの流産や死産を繰り返し、生きて生まれる赤ちゃんに恵まれない状態を指します。不妊症が「妊娠が成立しにくい」ことを、不育症が「妊娠が継続しにくい」ことを問題にしているという違いです。重なる原因もあるため、両方の視点から検査を行うことがあります。不育症の基礎は不育症とはで解説しています。

また、不妊症は妊娠歴によって2つに分けられます。一次性不妊は、これまでに一度も妊娠したことがない場合、二次性不妊は、過去に妊娠や出産の経験があるのに、その後妊娠しにくい場合です。1人目の妊娠・出産のあとになかなか妊娠しない「二人目不妊」は二次性不妊にあたります。一次性か二次性かで、原因の傾向や検査の進め方が少し変わることがあります。二人目不妊については二人目不妊とはで扱っています。

不妊症の割合:何組に1組?

世界保健機関(WHO)の2023年の報告では、世界の成人の約6人に1人(17.5%)が、生涯のどこかで不妊を経験するとされています。この報告は、多くの国の研究をまとめて推計したもので、ある時点で不妊の状態にある人の割合(12.6%)も併せて示されています[6]。国や地域による差は大きくないとされ、不妊は特定の国や生活様式に限られた問題ではないと結論づけられています。

日本の数字としてよく引用されるのは、国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」です。第16回調査(2021年)では、不妊を心配したことがある夫婦は39.2%、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は22.7%(約4.4組に1組)でした[7]。

ここで注意したいのは、これらが「不妊症と診断された夫婦の割合」ではない点です。39.2%は心配したことがあるという回答、22.7%は検査や治療を受けた経験という回答であり、いずれも調査に答えた夫婦の自己申告にもとづいています。「日本の夫婦の4組に1組が不妊症」といった言い方は、この調査の意味を正確に伝えていません。割合は、目の前の状況を判断する材料というより、「珍しいことではない」ことを示す目安として読むのが適切です。

2022年4月からは、人工授精や体外受精などの一般不妊治療・生殖補助医療に公的医療保険が適用されるようになり、受診の敷居が下がりました[8]。年齢や回数の条件は不妊治療の保険適用で整理しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【割合の数字をどう受け取るか】

不妊症の割合を示す数字は、「多いから安心」「少ないから特別」という意味を持つものではないと考えています。検査や治療を受ける夫婦が一定数いるという事実は、不妊が特別な人だけに起こることではなく、原因が男女のどちらにもありうる医学的な状態であることを示しています。

原因を誰かの努力不足や生活のせいに結びつけて考えるのではなく、妊娠までのどの段階に支障があるのかを、検査で客観的に確かめることが大切だと考えています。

2. 不妊症の原因|女性因子・男性因子・原因不明

不妊症の原因は、女性側にある場合、男性側にある場合、双方にある場合、検査をしても見つからない場合(原因不明)に分けられます。妊娠は、排卵、精子の到達、受精、受精卵の移動、着床という連続した段階を通って成立するため、どこか1つの段階に支障があるだけでも妊娠しにくくなります。原因が「男女のどちらか」に決まるとは限らず、WHOも、不妊は男性にも女性にも起こる生殖の問題であることを強調しています[6]。

排卵卵子が卵巣から出る
▶
精子の到達数・運動・通り道
▶
受精卵管の中で起こる
▶
卵管の通過子宮へ向かう
▶
着床子宮内膜に定着

この流れのどこかに支障があると、不妊の原因になります。以下では、この流れに沿って原因を整理します。

原因は「女性か男性か」ではなく「妊娠までのどの段階か」

不妊の原因を大きく分けると、女性因子、男性因子、その両方、原因不明の4つです。いずれか1つに当てはまる場合もあれば、複数が重なっている場合もあります。検査の目的は、これらのうちどれに当てはまるかを明らかにし、治療の選び方につなげることです。

📋 不妊の原因の分け方

分類 主な内容 見つけるための主な検査
女性因子 排卵の異常、卵管の通過障害、子宮の異常、子宮内膜症、加齢による卵子の変化 ホルモン検査、超音波検査、卵管の通過性の検査
男性因子 精子をつくる力の低下、精子の通り道の閉塞、性機能の問題、内分泌の異常 精液検査、診察、ホルモン検査
男女双方 女性側と男性側の両方に、妊娠しにくくなる要因がある 夫婦それぞれの検査
原因不明 標準的な検査では、妊娠を妨げる明らかな異常が見つからない 標準的な検査を一通り行ったうえでの判断

※分類は用語集・診療ガイドラインの考え方に基づく整理です[1][9]。

原因の割合として、「女性のみ○%、男性のみ○%」といった数字がよく紹介されます。しかし、こうした数字は調査の時期・対象・検査の範囲によって大きく変わるため、この記事では特定の数字を「日本の割合」として示しません。確実にいえるのは、男性側の要因が関わるケースが少なくないため、検査は夫婦で行うのが基本だという点です[6]。

女性側の主な原因

女性側の原因は、排卵の異常、卵管の問題、子宮の問題、子宮内膜症、加齢による卵子の変化に整理できます。米国国立小児保健発達研究所(NICHD)も、排卵の問題、卵管や子宮の問題、子宮内膜症、卵巣の機能低下などを主な原因として挙げています[10]。

排卵の異常では、卵子が育たない、育っても排卵しない、月経周期が不規則になる、といったことが起こります。代表的な原因が多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん、PCOS)で、ほかに高プロラクチン血症、甲状腺の病気、強い体重の変化、卵巣の機能が早く低下する早発閉経(早発卵巣不全)などがあります。

卵管の問題は、卵管が詰まる、狭くなる、周囲と癒着することで、精子と卵子が出会えない、あるいは受精卵が子宮に進めなくなる状態です。クラミジアなどの性感染症による骨盤内の炎症、過去の腹部の手術、子宮内膜症による癒着が背景にあることがあります。

子宮の問題には、子宮筋腫(特に子宮の内側に向かって突出するもの)、子宮内膜ポリープ、子宮の形の先天的な違い、子宮内の癒着などがあります。これらは着床や妊娠の継続に影響することがあります。

子宮内膜症は、子宮の内側にある組織に似たものが、卵巣や骨盤内など子宮の外で増える病気です。卵巣の機能や卵管周囲の環境に影響し、妊娠しにくくなる原因のひとつとされています。症状や経過は子宮内膜症の解説でまとめています。

加齢による変化も大きな要素です。卵子の数は生まれたときがもっとも多く、その後は減り続けます。あわせて、年齢とともに卵子の染色体の数の異常が増えるため、妊娠しにくくなる、あるいは妊娠しても流産しやすくなることがあります[5]。年齢については第3章で詳しく取り上げます。

男性側の主な原因

男性側の原因は、精子をつくる力の低下(造精機能障害)、精子の通り道の閉塞、性機能の問題、ホルモンの異常に大別されます。男性不妊は自覚症状がほとんどないことが多く、精液検査を受けて初めて分かるのが通常です。米国泌尿器科学会(AUA)と米国生殖医学会の合同ガイドラインでも、男性側の評価は問診・診察・精液検査が基本とされています[11]。

💡 用語解説:造精機能障害(ぞうせいきのうしょうがい)

造精機能障害とは、精巣で精子をつくる働きが低下している状態のことです。精子の数が少ない(乏精子症)、精子の動きが悪い(精子無力症)、精子の形に異常が多い(奇形精子症)、精液中に精子が見つからない(無精子症)といった形で精液検査に表れます。原因は、精巣の病気、内分泌の異常、精索静脈瘤、遺伝的な要因、薬剤や治療の影響などさまざまですが、原因が特定できない場合も少なくありません。

造精機能障害の原因のひとつが精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)で、精巣の周りの静脈が拡張して血液が滞る状態です。触診や超音波検査で診断され、精子の状態に影響することがあります。また、薬剤の影響も見落とされやすい要因です。テストステロン補充療法や筋肉増強を目的としたホルモン剤は、精子をつくる働きを強く抑えることがあり、AUAのガイドラインでも注意が促されています[11]。

精子の通り道の問題では、精巣で精子がつくられていても、精管などが閉塞・欠損しているために精液に精子が出てきません。これは閉塞性無精子症と呼ばれます。精液中に精子がまったく見つからない無精子症は、男性全体の約1%、不妊の男性の10〜15%にみられるとされています[12]。性機能の問題(勃起や射精の障害)は、精子そのものに問題がなくても、妊娠が成立しにくくなる要因になります。

男性不妊の全体像は男性不妊の原因・検査・治療で、精子の運動については精子の運動率と妊娠率で解説しています。

原因不明不妊とは

原因不明不妊とは、排卵、卵管の通過性、精液の状態といった標準的な検査を一通り行っても、妊娠を妨げる明らかな異常が見つからない場合をいいます。欧州生殖医学会(ESHRE)の2023年のガイドラインでは、「原因不明」は検査で異常が見つからない状態を表す診断名であり、原因が存在しないという意味ではないと整理されています[9]。

「原因不明」と告げられると、かえって不安になることがあります。ただし、この診断名は、現在の標準的な検査でとらえられる範囲では明らかな異常がないことを示すもので、妊娠できないことを意味するわけではありません。年齢や不妊の期間によって、次の一手の選び方が変わります。ガイドラインでは、期待的な様子見、人工授精、体外受精といった選択肢を、年齢・不妊期間・治療の負担などを踏まえて検討することが示されています[9]。

標準的な検査で見つからない原因としては、卵子や精子の質の問題、受精や着床の過程の異常、染色体や遺伝子の要因などが考えられています。一部については、第4章で取り上げる遺伝学的な検査で手がかりが得られることがあります。治療の選び方は不妊治療とはで整理しています。

3. 不妊症になりやすい人|年齢とリスク要因

不妊症のなりやすさには、年齢のように変えられない要因と、体重・喫煙・感染症・薬剤のように調整できる要因の両方が関わります。なりやすさは、「この条件に当てはまるから必ず不妊になる」という意味ではありません。あくまで、妊娠しにくさと統計的に関連する要因の整理です。

年齢:女性は30代後半から、男性はゆるやかに

女性の妊娠しやすさは、年齢とともに下がり、35歳前後から低下が目立つようになります。ASRMは、女性の妊孕性(にんようせい、妊娠する力)が年齢とともに低下すること、その主な理由が卵子の数の減少と染色体異常の増加であることを示しています[5]。年齢が上がると、妊娠までに時間がかかるだけでなく、妊娠後の流産の頻度も高くなります。

第1章で触れた「35歳以上は6か月」という受診の目安は、この年齢による変化を踏まえたものです。年齢別の妊娠の確率については年齢別に見た妊娠確率で取り上げています。なお、AMH(卵巣の中に残っている卵子の数の目安になるホルモン)は、卵子の「数」の目安であって、妊娠できるかどうかを直接示す検査ではありません。

男性も加齢とともに精液の状態や妊娠しやすさが変化しますが、女性ほど急激ではありません。加齢に伴って精子のDNAの傷が増える、性ホルモンが変化するなどの報告があり、パートナーの妊娠までの期間や子どもの健康への影響が研究されています。詳しくは男性不妊と年齢の関係で解説しています。

病気・生活習慣・環境:変えられるものと、変えられないもの

年齢のほかに、病気、体重、喫煙、感染症、薬剤などが不妊症のなりやすさに関わります。ASRMの資料では、女性の妊孕性に関わる要因として、喫煙、極端な体重(肥満も低体重も)、性感染症、過度の飲酒などが挙げられ、男性でも喫煙や肥満、薬剤などが精子の状態に関わるとされています[5]。

📌 妊娠しにくさと関連する主な要因

区分 女性 男性
変えられない要因 年齢、卵巣機能の生まれつきの個人差、先天的な子宮の形、遺伝的な要因 精巣・精路の生まれつきの状態、年齢、遺伝的な要因
病気・既往 子宮内膜症、PCOS、骨盤内の感染や手術の既往、甲状腺の病気 精索静脈瘤、精巣の病気や手術の既往、耳下腺炎(おたふくかぜ)後の精巣炎
調整できる要因 喫煙、極端な体重の増減、過度の飲酒、性感染症の予防と治療 喫煙、肥満、過度の飲酒、精子に影響する薬剤の使用

※ASRM[5]およびAUA/ASRMガイドライン[11]に基づく整理です。

上の表で大切なのは、変えられない要因の存在です。不妊症の原因の多くは、生活習慣の努力だけでは避けられないものです。「食事や運動を頑張れば必ず防げた」と考える必要はありません。一方で、喫煙や体重、性感染症の予防や治療のように、妊娠しやすさに関わる可能性がある要因を、できる範囲で調整することには意味があります。妊娠しやすい体づくりの考え方はすぐに妊娠できる人の特徴でも取り上げています。

4. 遺伝・染色体が関わる不妊症

不妊症の一部には、染色体や遺伝子の違いが原因として関わっています。ただし、不妊症のすべてが遺伝で説明できるわけではなく、遺伝学的な検査が必要になるのは、精液検査やホルモン検査などの結果から疑われる、限られた場合です。この章では、男性と女性それぞれで、染色体・遺伝子が関わる代表的な状態を整理します。

男性:クラインフェルター症候群・Y染色体微小欠失・CFTR遺伝子

男性不妊で遺伝学的な原因が疑われる代表が、性染色体の数の違い(クラインフェルター症候群)、Y染色体の微小欠失、精管の欠損に関わるCFTR遺伝子の変化です。AUAと米国生殖医学会のガイドラインは、精子の数が非常に少ない、または精液中に精子がみられない男性に対して、染色体検査やY染色体微小欠失の検査を行うことを勧めています[11]。

クラインフェルター症候群は、男性の性染色体がXXYと、X染色体が1本多い状態(47,XXY)です。精巣が小さく、精子をつくる力が低下し、無精子症や高度の乏精子症の原因になることがあります。ただし、症状の程度には個人差が大きく、精巣の中で精子がつくられている場合もあります。詳しくはクラインフェルター症候群とはで解説しています。

Y染色体微小欠失は、男性だけがもつY染色体のうち、精子づくりに関わる領域(AZFa・AZFb・AZFc)の一部が失われている状態です。欠失している領域によって、精液中の精子の状況や、精巣から精子を回収できる見込みが異なります。AZFc領域の欠失が比較的多いことが知られており、欠失が父親から息子に受け継がれる可能性があるため、顕微授精を検討する際に重要な情報になります。AZFc欠失(Y染色体AZF微小欠失)の解説もご覧ください。

CFTR遺伝子は、嚢胞性線維症の原因遺伝子として知られています。日本では嚢胞性線維症は非常にまれですが、生まれつき精管がない(先天性両側精管欠損症)男性では、CFTR遺伝子の変化が関わっている場合があります。AUAのガイドラインでも、この場合にCFTR遺伝子の検査を行うことが示されています[11]。精管の欠損では、精巣で精子がつくられていることが多く、精子を回収して体外受精・顕微授精に用いる道があります。

女性:ターナー症候群・早発卵巣不全・FMR1遺伝子

女性では、卵巣の機能が早く低下する早発卵巣不全(そうはつらんそうふぜん)に、染色体や遺伝子の要因が関わることが知られています。2024年の国際ガイドラインでは、早発卵巣不全は40歳未満で、月経の異常が4か月以上続き、卵胞刺激ホルモン(FSH)が25 IU/Lを超える場合に診断します。診断が不確実な場合は、4〜6週間後にFSHを再検します[13]。

原因として、ターナー症候群のようなX染色体の数や構造の違い、FMR1遺伝子の前変異(脆弱X症候群の原因遺伝子の変化の手前の状態)、自己免疫の病気、がん治療(化学療法や放射線療法)などがあります。ESHREのガイドラインは、早発卵巣不全と診断された女性には染色体検査(核型分析)を行い、FMR1遺伝子の前変異の検査も勧めています[13]。FMR1前変異は、家族や将来の子どもにも関わるためです。詳しくは早発卵巣不全(POI)と早発閉経で解説しています。

💡 用語解説:核型(かくがた)

核型とは、細胞の中の染色体の数と形を、大きさの順に並べて調べたものです。ヒトの体細胞には46本(23対)の染色体があり、その数や構造の変化を確認するのが染色体検査(核型分析)です。数の違い(クラインフェルター症候群やターナー症候群など)や、染色体の一部が入れ替わる転座などが分かります。ただし、DNAの一文字単位の小さな変化は、この検査では見つけられません。

遺伝学的検査を考える場面と、その限界

遺伝学的検査は、不妊症の原因を探すために全員が受ける検査ではなく、検査結果や病歴から遺伝的な要因が疑われる場合に選択肢になる検査です。たとえば、精液検査で無精子症や高度の乏精子症がみられた場合、早発卵巣不全と診断された場合、流産を繰り返している場合、家族に同じ悩みや遺伝性の病気がある場合などが該当します。染色体検査は、夫婦のどちらかに染色体の構造の変化(均衡型転座など)があるかどうかを調べる場面でも用いられます。不育症の原因になる染色体異常の記事も参考になります。

一方で、限界もあります。遺伝学的検査で原因が見つかる不妊症は、不妊症全体の一部にとどまります。検査で異常が見つからなくても、不妊の原因が否定されるわけではありません。また、原因が見つかっても、それによって治療法が大きく変わるとは限りません。検査を受ける前に、何が分かり、何が分からないのか、結果が家族にどう関わるのかを確認しておくことが重要です。

遺伝学的検査の結果は、ご本人だけでなく、血縁者や将来の子どもにも関わる情報です。そのため、検査の意味や結果の解釈を、臨床遺伝専門医などの専門家が遺伝カウンセリングとして説明する仕組みがあります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「原因不明」と「遺伝」のあいだ】

不妊症の検査で「原因不明」とされた場合でも、その一部には染色体や遺伝子の要因が隠れている可能性があると考えています。ただし、それは「遺伝が原因だから仕方がない」という意味ではなく、原因を知ることで、治療の選び方や、家族への影響の理解に役立つ場合がある、ということです。

遺伝学的検査は、不妊の原因を全員に見つけるための検査ではありません。精液検査やホルモン検査などの結果を踏まえて、必要と判断される場合に限って行うのが適切だと考えています。

5. 不妊症の検査・診断と受診の目安

不妊症の検査は、問診で病歴と月経の状況を確認したうえで、女性は排卵・卵管・子宮を、男性は精液を調べるのが基本です。夫婦で並行して検査を進めると、原因の見落としが減ります。この章では、受診の目安、検査の内容、診断後の選択肢を整理します。

いつ受診するか:1年、35歳以上は6か月、条件があれば早めに

受診の目安は、避妊をやめて1年(35歳以上は6か月)妊娠しない場合で、以下のような事情があれば、期間を待たずに受診を検討します。ASRMは、女性の月経が不規則または止まっている場合、子宮内膜症・骨盤内感染・卵管や子宮の手術の既往がある場合、男性側に精巣の病気や手術、化学療法・放射線治療の既往がある場合などを、早めの評価の対象としています[3]。

受診の際には、月経の周期と日数、過去の妊娠や流産の有無、婦人科の病気や手術の既往、服用中の薬、パートナーの病歴(精巣や精路の病気、手術、化学療法・放射線治療の既往など)をまとめておくと、検査の組み立てがスムーズになります。基礎体温や排卵検査薬の記録があれば、排卵の状況を推測する手がかりになります。夫婦のどちらか一方だけが受診しても検査は進められますが、原因の見落としを減らすためには、双方の情報がそろっていることが望ましいとされています。

40歳前後になると、卵子の変化が進みやすいため、検査と治療を並行して進めることも少なくありません。受診の時期に迷う場合には、年齢と病歴をあらかじめ整理しておくと、医療機関での話が進めやすくなります。なお、日本では2022年4月から不妊治療の一部が保険適用となり、年齢や回数の条件が定められています。不妊治療の保険適用の条件もあわせてご確認ください。

検査の内容:女性・男性・夫婦で行う検査

検査は、原因の見当をつける基本検査から始まり、必要に応じて追加の検査に進みます。基本検査の目安を整理します。

🔬 不妊症で行われる主な検査

対象 検査 分かること
女性 ホルモン検査(FSH・LH・エストラジオール・プロラクチン・AMHなど) 排卵の状況、卵巣機能の目安
女性 経腟超音波検査 子宮筋腫・ポリープ・卵巣の状態
女性 子宮卵管造影検査など 卵管が通っているか、子宮の形
女性 感染症検査(クラミジアなど) 卵管の障害につながる感染の有無
男性 精液検査 精子の数・運動・形の状態
男性 診察・ホルモン検査 精巣の大きさ、精索静脈瘤、内分泌の状態
条件により 染色体検査・遺伝学的検査 染色体の数や構造、遺伝子の変化

※検査の内容や順序は年齢・病歴・施設によって異なります。

男性側の検査で中心となるのは精液検査で、男性の評価の出発点としてガイドラインでも位置づけられています[11]。検査は簡便で、体への負担が少ない一方、精子の状態は日によって変動するため、1回の結果だけで判断せず、必要に応じて繰り返します。女性の検査は、月経周期に合わせて時期を選んで行うものがあります。AMHは卵巣の中に残る卵子の数の目安になりますが、妊娠できるかどうかを直接示すものではありません。卵巣年齢とAMH検査で詳しく取り上げています。

診断のあとの選択肢:治療の入口として

検査で原因が分かった場合は原因に応じた治療を、分からない場合は年齢と不妊期間に応じて、タイミング法・人工授精・体外受精の順に検討するのが一般的な流れです。原因に応じた治療には、排卵誘発、精索静脈瘤の手術、子宮内の病変の治療などがあります。不妊治療とはで全体の流れを整理し、各治療はタイミング法、人工授精、体外受精の記事で解説しています。

一般的な進め方では、原因に応じた治療を優先し、明らかな原因がない場合や、年齢・不妊期間の面で時間の余裕が少ない場合には、より効果の期待できる治療へ早めに進むことが検討されます。たとえば、卵管が両側とも閉塞している場合や、精液中の精子が非常に少ない場合には、タイミング法や人工授精では妊娠が難しいため、体外受精や顕微授精が選択肢になります。反対に、排卵の異常が主な原因であれば、排卵誘発を伴うタイミング法から始めることがあります。

どの段階で次に進むかは、年齢、不妊期間、原因、治療の負担、ご夫婦の希望を総合して決めるものです。1つの正解があるわけではなく、検査結果をもとに、医療機関で治療の選び方を確認することが基本になります。治療にかかる費用や通院の負担、仕事との両立も、無理なく続けられる方法を選ぶうえで大切な条件です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 不妊症とは何ですか?

基本的には、妊娠を望んで避妊をせずに性交を続けても1年間妊娠しない状態です。国際的な用語集では、生殖器系の疾患として定義されています。35歳以上では6か月妊娠しなければ検査・評価を始めることが推奨され、年齢や病歴によってはさらに早く検査を始めることもあります。

Q2. 不妊症の原因は、女性と男性のどちらに多いですか?

どちらか一方に決まるものではありません。原因は、女性側、男性側、双方、原因不明に分けられ、男性側の要因が関わる場合も少なくありません。そのため、検査は夫婦で行うのが基本です。

Q3. 不妊症は何組に1組ですか?

国立社会保障・人口問題研究所の第16回出生動向基本調査(2021年)では、不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は22.7%(約4.4組に1組)、不妊を心配したことがある夫婦は39.2%でした。これは不妊症と診断された割合ではなく、調査に答えた夫婦の自己申告にもとづく数字です。

Q4. 不妊症になりやすい人の特徴は?

女性は年齢が大きな要因で、35歳前後から妊娠しやすさの低下が目立ちます。ほかに、子宮内膜症、PCOS、性感染症、喫煙、極端な体重の増減が関わります。男性では、精索静脈瘤、喫煙、肥満、精子に影響する薬剤の使用などが関わります。当てはまっても、必ず不妊になるわけではありません。

Q5. 「原因不明」と言われたら、妊娠できませんか?

いいえ、妊娠できないという意味ではありません。標準的な検査を一通り行っても明らかな異常が見つからない状態を「原因不明不妊」と呼びます。年齢や不妊の期間に応じて、タイミング法、人工授精、体外受精などが検討されます。

Q6. 遺伝が原因の不妊症はありますか?

あります。男性ではクラインフェルター症候群やY染色体の微小欠失、精管の欠損に関わるCFTR遺伝子の変化、女性ではターナー症候群や早発卵巣不全に関わる染色体・遺伝子の要因が知られています。ただし、不妊症のすべてが遺伝で説明できるわけではなく、精液検査やホルモン検査などの結果から疑われる場合に、遺伝学的検査が選択肢になります。

Q7. 二人目がなかなかできないのも不妊症ですか?

はい。過去に妊娠や出産の経験があっても、その後に妊娠しにくい場合は「二次性不妊」にあたり、定義は一次性不妊と同じです。年齢が上がっていることが背景になる場合も多く、目安の期間を過ぎたら検査を検討します。

Q8. ミネルバクリニックで不妊症の検査や治療は受けられますか?

この記事は、不妊症の全体像を解説するページです。ホルモン検査、卵管の検査、精液検査、排卵誘発、人工授精、体外受精といった一般の不妊検査・不妊治療は、それらを専門に行う医療機関で受けます。ミネルバクリニックで扱うのは、染色体検査や不妊症遺伝子検査といった遺伝学的検査と、その結果を説明する遺伝カウンセリングです。

まとめ

不妊症とは、基本的には妊娠を望んで避妊せずに性交を続けても1年間妊娠しない状態です。35歳以上では6か月妊娠しなければ検査・評価を始めることが推奨されます[1][3]。世界の成人の約6人に1人が生涯のうちに不妊を経験するとされ[6]、日本でも夫婦の約4.4組に1組が検査や治療を経験しています[7]。

原因は女性側・男性側・双方・原因不明に分かれ、検査は夫婦で行うのが基本です。年齢は変えられない大きな要因ですが、喫煙・体重・感染症・薬剤のように調整できる要因もあります。精液検査やホルモン検査などの結果によっては、染色体や遺伝子の要因を確かめる遺伝学的検査が選択肢になります。受診の時期に迷うときは、年齢と病歴をもとに、検査を始める時期を考えます。

📘 この記事について

この記事は、不妊症の定義・原因・なりやすい人・遺伝との関わりを整理した解説であり、個別の診断や治療方針を示すものではありません。検査や治療は、それぞれを専門に行う医療機関で、年齢や病歴を踏まえて選んでください。なお、染色体や遺伝子の検査の結果が、本人や血縁者にとってどういう意味を持つかを専門医と整理する場として、遺伝カウンセリングがあります。

参考文献

  • [1] Zegers-Hochschild F, Adamson GD, Dyer S, et al. The International Glossary on Infertility and Fertility Care, 2017. Fertil Steril. 2017;108(3):393-406. doi:10.1016/j.fertnstert.2017.06.005. PMID:28760517.
  • [2] 日本産科婦人科学会. 不妊症(一般向け解説).
  • [3] American Society for Reproductive Medicine. Definition of infertility: a committee opinion. Fertil Steril. 2023.
  • [4] Gnoth C, Godehardt E, Frank-Herrmann P, Friol K, Tigges J, Freundl G. Definition and prevalence of subfertility and infertility. Hum Reprod. 2005;20(5):1144-1147. doi:10.1093/humrep/deh870. PMID:15802321.
  • [5] Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Optimizing natural fertility: a committee opinion. Fertil Steril. 2022;117(1):53-63.
  • [6] World Health Organization. Infertility (Fact sheet). [WHO]
  • [7] 国立社会保障・人口問題研究所. 第16回出生動向基本調査(2021年).
  • [8] 厚生労働省/こども家庭庁. 不妊治療に関する取組(2022年4月からの保険適用).
  • [9] ESHRE Guideline Group on Unexplained Infertility. ESHRE guideline: unexplained infertility. 2023. [ESHRE]
  • [10] Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development (NICHD). Infertility and Fertility: causes.
  • [11] AUA/ASRM Guideline. Diagnosis and Treatment of Infertility in Men (2020, amended 2024). [AUA]
  • [12] European Association of Urology. EAU Guidelines on Sexual and Reproductive Health. [EAU]
  • [13] Panay N, Anderson RA, Nappi RE, et al. Evidence-based guideline: premature ovarian insufficiency. Hum Reprod Open. 2024;2024(4):hoae065. doi:10.1093/hropen/hoae065.

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プロフィール
仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、
臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。
のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、
検査結果の数値そのものだけでなく、
「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、
一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、
日本人として異文化の中で生活した経験があります。
価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。
この経験は現在の診療においても、
「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、
36週6日で一人を死産した経験があります。
その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、
そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。
現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、
出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、
家族の未来に関わる重要な意思決定です。
年齢や統計だけで判断するのではなく、
医学的根拠と心理的支援の両面から、
ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/
日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。

2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、
複数の海外メディア・専門誌で特集掲載
されました。

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