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不妊治療の保険適用の条件は、体外受精などの生殖補助医療については「治療開始時に女性が43歳未満であること」、胚移植の回数については「子ども1人につき、40歳未満は6回まで、40歳以上43歳未満は3回まで」です。人工授精やタイミング法などの一般不妊治療には、年齢や回数の制限はありません[1][2]。2022年4月に保険適用が始まって4年がたち、2024年に体外受精などで生まれた子どもは86,473人と過去最多になりました。同じ年の出生数は686,173人なので、およそ8人に1人にあたります[3][4]。この記事では、6回の数え方とリセットの条件、回数を超えたときや43歳以上の場合の扱い、先進医療、高額療養費と医療費控除、助成金の現状までを、2026年9月時点の制度にもとづいて整理します。なお、当院は臨床遺伝専門医のクリニックで、不妊治療(保険診療)は行っていません。制度の解説としてお読みください。
Q. 不妊治療の保険適用の条件は?
A. 体外受精・顕微授精などの生殖補助医療は、治療開始時に女性が43歳未満であることが条件です。胚移植は、初めての胚移植の治療計画を立てた日に40歳未満なら子ども1人につき6回、40歳以上43歳未満なら3回まで保険が使えます。回数を超えた治療や、43歳以上で始める生殖補助医療は全額自費になります。
- ➤対象 → 一般不妊治療(タイミング法・人工授精)と、採卵から胚移植までの生殖補助医療、男性不妊の治療
- ➤数え方 → 数えるのは胚移植の回数。採卵や凍結は数えない。出産(妊娠12週以降の死産を含む)でリセット
- ➤先進医療 → 厚生労働省が定めた技術に限り、保険診療と併用できる(その部分は全額自己負担)
- ➤費用の軽減 → 原則3割負担、高額療養費、医療費控除、自治体独自の助成
1. 不妊治療の保険適用の条件【結論】
不妊治療は2022年4月から、人工授精などの「一般不妊治療」と、体外受精・顕微授精などの「生殖補助医療」が公的医療保険の対象になりました。生殖補助医療については、採卵から胚移植に至るまでの一連の基本的な診療がすべて保険適用とされています[5]。窓口での支払いは、ほかの病気の治療と同じく原則3割です。
ただし、生殖補助医療には年齢と回数の条件があります。女性の年齢が治療開始時に43歳未満であること、そして胚移植の回数が年齢に応じて決められた上限の範囲内であることです。男性の年齢には制限がありません[1]。条件の要点を表にまとめます。
📋 不妊治療の保険適用の条件(2026年9月時点)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる治療 | 一般不妊治療(タイミング法・人工授精)、生殖補助医療(採卵・体外受精・顕微授精・胚培養・胚凍結・胚移植)、男性不妊の検査・手術の一部 |
| 女性の年齢(生殖補助医療) | 治療開始時に43歳未満 |
| 男性の年齢 | 制限なし |
| 胚移植の回数 | 子ども1人につき、40歳未満は通算6回、40歳以上43歳未満は通算3回 |
| 回数を決める年齢 | 初めての胚移植の治療計画を作成した日の年齢 |
| 回数のリセット | 出産した場合、または妊娠12週以降に死産した場合 |
| 婚姻関係 | 法律婚・事実婚ともに対象 |
| 自己負担 | 原則3割(高額療養費の対象) |
※こども家庭庁のリーフレット[1]、厚生労働省の事務連絡[6]、令和4年度診療報酬改定の資料[2]にもとづいて作成。制度は改定されることがあります。
年齢と回数の制限がかかるのは、生殖補助医療(胚移植)の部分です。令和4年度の診療報酬改定で保険に入った項目のうち、回数の上限が設けられたのは胚移植術で、一般不妊治療管理料や人工授精には年齢・回数の制限は設けられていません[2]。つまり、43歳以上でも、タイミング法や人工授精は保険で受けることができます。
事実婚のカップルも対象です。こども家庭庁のリーフレットは、受診の際に医療機関から事実婚関係について確認されたり、書類を求められたりすることがある、としています[1]。どの書類が必要かは医療機関によって異なるため、初診の前に問い合わせておくと手続きが進めやすくなります。
2. 保険が使える治療・使えない治療(どこまで?)
保険が使えるのは、一般不妊治療と、採卵から胚移植までの生殖補助医療の基本的な診療です。それ以外の追加の技術は、厚生労働省が「先進医療」として定めたものに限って保険診療と組み合わせることができ、先進医療に入っていない技術を同時に使うと、原則としてその治療全体が自費になります[1]。どこまでが保険なのかを、治療の段階ごとに見ていきます。
一般不妊治療(タイミング法・人工授精)
一般不妊治療は、体外で受精させる操作を行わない治療の総称です。代表的なのがタイミング法と人工授精です。タイミング法は、超音波検査やホルモンの値から排卵日を予測し、妊娠しやすい時期に性交をもつよう医師が指導する方法です。人工授精は、採取した精液を洗浄・濃縮し、排卵の時期に細いチューブで子宮の中に注入する方法です。
2022年の改定では、一般不妊治療の計画や指導に対する「一般不妊治療管理料」と「人工授精」が保険の項目として新しく設けられました[2]。人工授精は、以前は自費で行われることが多かった治療ですが、現在は保険の3割負担で受けられます。先ほど触れたとおり、これらには年齢や回数の制限がありません。
生殖補助医療:採卵〜胚移植の一連と男性不妊の治療
生殖補助医療は、卵子と精子を体の外で扱って受精させ、できた胚(はい:受精卵が分割して育ったもの)を子宮に戻す治療です。保険の対象になったのは、次の一連の手技です[2]。
🧫 保険の対象になった生殖補助医療の主な項目
| 段階 | 保険の項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 治療計画 | 生殖補助医療管理料 | 治療計画の作成と、それにもとづく管理・説明 |
| 採卵 | 採卵術 | 排卵誘発で育てた卵胞から、卵子を針で吸引して取り出す |
| 受精 | 体外受精・顕微授精管理料 | 卵子と精子を培養液の中で出会わせる体外受精、または精子を1個選んで卵子に注入する顕微授精 |
| 培養 | 受精卵・胚培養管理料 | 受精卵を数日間培養し、胚として育てる |
| 凍結 | 胚凍結保存管理料 | 移植しなかった胚を凍結して保存する(維持管理料は1年に1回算定) |
| 移植 | 胚移植術 | 胚を子宮に戻す(年齢に応じた回数制限あり) |
※令和4年度診療報酬改定の資料[2]にもとづく。項目名は診療報酬上の名称です。
体外受精の流れや成功率については体外受精の解説に、精子を1個ずつ卵子に注入する方法の仕組みは顕微授精(ICSI:けんびじゅせい)の用語解説にまとめています。
💡 用語解説:生殖補助医療(ART)
生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)とは、卵子や精子、胚を体の外で扱う不妊治療の総称です。体外受精、顕微授精、胚の培養・凍結・移植が含まれます。人工授精は精子を子宮に入れるだけで卵子を体外に取り出さないため、生殖補助医療ではなく一般不妊治療に分類されます。保険の年齢・回数の制限は、この生殖補助医療にかかります。
男性側の治療も保険の対象です。2022年の改定では、精巣から直接精子を採取する「精巣内精子採取術」と、精子をつくる働きに関わるY染色体上の領域が欠けていないかを調べる「Y染色体微小欠失検査」が保険の項目に加わりました[2]。精液の中に精子が見つからない無精子症などで、精巣の中から精子を探して顕微授精に使う場合に行われる手術です。男性不妊の原因や検査の流れについては、男性不妊の治療の解説で詳しく扱っています。
保険適用外になるもの
保険の対象は、不妊症の治療として効果と安全性が確認され、診療報酬の項目として定められたものに限られます。そのため、次のようなものは保険の対象外です。
1つ目は、先進医療に入っていない追加の技術です。これを保険診療と同じ治療の中で使うと、混合診療となり、原則として治療全体が自費になります。2つ目は、年齢や回数の条件を外れた生殖補助医療で、43歳以上で始める体外受精や、上限回数を超えた胚移植がこれにあたります。3つ目は、病気の治療を目的としない卵子凍結で、将来に備えて健康な女性が卵子を凍結しておくことは不妊症の治療ではないため、保険の対象になりません。
4つ目が、胚の染色体や遺伝子を調べる着床前診断(PGT)です。胚の染色体の数の異常を調べる着床前胚異数性検査(PGT-A)は、2023年4月から2025年8月まで、大阪大学医学部附属病院などで先進医療Bとして実施されました。2025年12月に総括報告書の評価が行われ、有効性と安全性が確認されたとされていますが、保険に組み込むかどうかの結論はまだ示されていません[7]。
⚠ 着床前診断(PGT-A)は保険とも先進医療とも併用できません(2026年9月時点)
2026年8月時点の厚生労働省の先進医療の一覧に、着床前胚異数性検査は掲載されていません[8]。PGT-Aは現在、日本産科婦人科学会の認定を受けた施設で、学会の見解にもとづいて自費で行われています[9]。保険診療の体外受精と同じ周期で行うことはできないため、PGT-Aを受ける場合は、その治療周期は全額自費になります。今後の制度の変更に注意してください。
3. 年齢の条件:いつの時点の年齢で判定するか
年齢は「治療を始めた日」の年齢で判定し、誕生日の当日から1つ上の年齢として数えます。厚生労働省の事務連絡は、年齢のカウントは誕生日を基準とし、法律上の解釈による「誕生日の前日」ではない、と明記しています[6]。年齢の判定には2つの場面があり、混同しやすいので分けて説明します。
43歳未満は「治療開始日」の年齢で判定
1つ目は、生殖補助医療を保険で受けられるかどうかの判定です。これは、医師が治療計画を作成し、治療を開始した日に女性が43歳未満かどうかで決まります[1]。43歳の誕生日を迎えた後に、新しく保険で生殖補助医療を始めることはできません。
注意したいのは、胚移植の回数が残っていても、43歳を過ぎれば保険の対象外になる点です。慶應義塾大学産婦人科学教室の解説も、胚移植回数が残っていても年齢制限を超えた場合には保険適用はできない、としています[10]。たとえば40歳から始めて3回の枠のうち1回しか使っていなくても、43歳の誕生日以降に新しく治療を始める場合は自費になります。
では、1回の治療の途中で43歳の誕生日を迎えた場合はどうなるのでしょうか。厚生労働省の疑義解釈では、42歳の時点で治療を開始し、治療中に43歳に達した場合でも、43歳に達した日を含む1回の治療(胚移植を目的とした治療計画に基づく一連の治療)については保険診療で実施可能とされています。次の新たな治療計画を43歳到達後に開始する場合は保険の対象外です。
6回か3回かは「初めての胚移植の治療計画を作った日」の年齢で決まる
2つ目は、胚移植の上限回数が6回になるか3回になるかの判定です。事務連絡は、「初めての胚移植術に係る治療計画を作成した日における年齢」が40歳未満であれば患者1人につき6回、40歳以上43歳未満であれば3回、と定めています[6]。
基準になるのは「初めての」胚移植の計画を立てた日です。そのため、39歳のときに初めての胚移植の計画を立てた方は、治療の途中で40歳を迎えても上限は6回のままです。反対に、40歳の誕生日を過ぎてから初めての胚移植の計画を立てた場合は、上限は3回になります。どちらの場合も、43歳の誕生日を過ぎると回数が残っていても保険は使えません。
📅 初めての胚移植の治療計画を作成した日の年齢と、保険で受けられる胚移植の回数
| 年齢 | 胚移植の上限(子ども1人につき) | 補足 |
|---|---|---|
| 40歳未満 | 通算6回 | 途中で40歳になっても6回のまま(43歳未満の間) |
| 40歳以上43歳未満 | 通算3回 | 43歳の誕生日以降は回数が残っていても対象外 |
| 43歳以上 | 保険の対象外 | 一般不妊治療(タイミング法・人工授精)は保険で受けられる |
4. 回数の数え方:6回・3回は何を数える?
6回・3回として数えるのは、保険診療で行った「胚移植」の回数です。採卵や受精、胚の凍結は回数に含まれません。こども家庭庁のリーフレットは、保険診療における胚移植の回数制限は、保険診療のもとで行った胚移植の回数のみを数える、と説明しています[1]。採卵の回数に上限はありません。
数えるのは胚移植の回数(採卵・凍結は数えない)
生殖補助医療は、採卵から胚移植までいくつもの段階を経て進みます。このうち回数として数えるのは最後の胚移植だけです。1回の採卵で複数の胚ができた場合、1つを新鮮胚として移植し、残りを凍結しておいて、次の周期以降に1つずつ移植することがあります。この場合、採卵は1回でも、胚移植を行うたびに1回ずつ数えます。
現在の日本の生殖補助医療では、凍結しておいた胚を解凍して移植する凍結胚移植が中心です。日本産科婦人科学会の集計では、2024年に生殖補助医療で生まれた86,473人のうち83,088人が、凍結融解胚を用いた治療周期から生まれています[3]。1回の採卵でできた胚を何回かに分けて移植する流れが一般的なため、「採卵の回数」と「胚移植の回数」は一致しないことが多く、回数を数えるときにはこの違いが重要になります。
回数は医療機関ごとではなく通算で数えます。転院した場合も、前の医療機関で保険を使って行った胚移植は回数に含まれます。事務連絡は医療機関に対し、過去の治療歴や保険診療での実施回数、以前に治療を受けた医療機関などについて患者に申告を求め、可能な限り確認するよう求めています[6]。
回数がリセットされる条件(出産、または妊娠12週以降の死産)
胚移植の回数は、子ども1人ごとに数えます。出産した後に次の子どもを希望して治療を受ける場合は、改めて回数を数えることができます。事務連絡は、この「次の児の妊娠」には、直前の妊娠で出産に至った後の妊娠のほか、妊娠12週以降に死産に至った後の妊娠を含む、としています[6]。
リセットの後に使える回数は、次の子どものための治療を始めるときの年齢で改めて決まります。次の児の治療開始日に40歳未満であれば6回、40歳以上43歳未満であれば3回です[11]。たとえば、38歳のときの治療で出産し、42歳で2人目の治療を始める場合、2人目の上限は3回になります。
⚠ 妊娠12週未満の流産では、回数はリセットされません
リセットの条件は「出産」と「妊娠12週以降の死産」です[6]。胚移植で妊娠しても、妊娠12週未満で流産した場合は条件に当てはまらないため、その胚移植も1回として数えられ、回数は戻りません。残りの回数を把握するうえで知っておく必要がある点です。
2022年4月より前の治療や助成金の回数は数えない
保険適用が始まる前から治療を受けていた方も、保険での回数は1回目から数えます。事務連絡は、2022年4月1日より前に国の助成事業(特定治療支援事業)で行った治療の回数は、保険診療での胚移植の回数に含まない、と定めています[6]。以前の助成金で上限の回数まで使っていた方でも、条件を満たせば保険で改めて胚移植を受けられます。
同じように、自費で行った胚移植も保険の回数には含まれません。回数として数えるのは、あくまで保険診療で行った胚移植です[1]。一方で、保険で行った胚移植は医療機関をまたいで通算されるため、自分が保険で何回移植を受けたかを記録しておくことが、転院のときなどに役立ちます。
🩺 院長コラム【「何回目の移植か」は自分でも数えておく】
保険の回数は胚移植の回数で数え、医療機関をまたいで通算されます。一方で、採卵・凍結・移植と段階が多い治療では、「採卵は何回目か」「移植は何回目か」「そのうち保険は何回か」が混ざりやすくなります。回数の確認は医療機関にも求められていますが、最終的には患者さんの申告がもとになります。
治療の記録を手元に残し、保険で行った胚移植の回数と日付を自分でも把握しておくことが大切だと考えています。流産の週数によってリセットの扱いが変わる点も含めて、数え方のルールを知っておくと、次の治療計画を落ち着いて考えやすくなります。
5. 回数を超えたら・43歳以上はどうなる?
上限の回数を超えた胚移植や、43歳以上で始める生殖補助医療は、保険が使えず全額自費になります。保険が使えなくなった後も治療そのものを続けることはできますが、費用のしくみが大きく変わります。
以降は全額自費。混合診療は禁止
回数の上限に達した後の胚移植は、自由診療(自費)として行います。自由診療の料金は医療機関ごとに設定されるため、保険診療のように全国一律ではありません。また、同じ治療の中で保険診療と自費の診療を組み合わせる「混合診療」は原則として認められていないため、回数を超えた後の治療周期は、採卵や培養などを含めて全体が自費になります。
💡 用語解説:混合診療(こんごうしんりょう)
混合診療とは、1つの病気の治療の中で、保険が使える診療と保険が使えない診療を組み合わせることです。日本の公的医療保険では原則として認められておらず、保険外の診療を組み込むと、本来は保険が使える部分も含めて全額自己負担になります。例外として、厚生労働省が定めた「先進医療」などは、保険診療と組み合わせても保険の部分は保険で支払うことができます。
自費になると、自治体の助成の対象からも外れることがあります。たとえば東京都の不妊治療費助成は、保険診療として生殖補助医療を受けていることが条件で、全額自費の治療は対象外です[12]。一方、自費の治療費も医療費控除の対象にはなります(第7章)[13]。
43歳以上で治療を続ける場合の考え方と費用
43歳以上で新しく始める体外受精や顕微授精は、保険の対象外です。ただし、タイミング法や人工授精などの一般不妊治療には年齢の制限がないため、43歳以上でも保険で受けることができます[2]。治療をどう続けるかは、一般不妊治療を保険で続けるのか、自費で生殖補助医療を受けるのか、といった選択になります。
自費の生殖補助医療の費用は、医療機関の料金設定や、採卵の回数、使う薬剤、胚の数などによって大きく変わるため、一律の金額を示すことはできません。治療を始める前に、1周期あたりの費用の目安と、追加でかかる可能性のある費用を医療機関に確認しておくことが現実的です。年齢とともに妊娠に至る確率がどう変わるかは、年齢別の妊娠確率の解説でデータをもとに整理しています。
年齢と胚の染色体(異数性)
年齢とともに妊娠しにくくなる大きな理由の1つは、卵子の染色体の数に異常が生じやすくなることです。染色体の数が正常より多かったり少なかったりする状態を異数性(いすうせい)といい、異数性のある胚は着床しにくく、着床しても流産に至ることが多くなります。
💡 用語解説:異数性(aneuploidy)
異数性とは、細胞の染色体の数が、ヒトの正常な数である46本から1本以上増えたり減ったりしている状態です。卵子ができる過程の減数分裂で、対になった染色体がうまく分かれないと起こり、女性の年齢が上がるほど起こりやすくなります。ダウン症候群(21トリソミー)も異数性の一種です。
米国の施設で胚盤胞15,169個の染色体を調べた研究では、異数性の割合は26〜30歳で最も低く(20〜27%程度)、それより年齢が上がると着実に高くなり、43歳を超える年齢層では85%前後に達しました。移植できる染色体数の正常な胚が1つも得られなかった周期の割合は、42歳で33%、44歳で53%と報告されています[14]。
この数字は、着床前検査を受けた患者さんの集団で得られたもので、一人ひとりの確率をそのまま示すものではありません。同じ年齢でも個人差は大きく、治療歴や卵巣の状態によっても結果は変わります。卵子で異数性が起こる仕組みと母体の年齢との関係は、卵子の染色体異常(異数性)と加齢の解説で詳しく扱っています。
🩺 院長コラム【制度の線と、体の変化は別のもの】
保険の「43歳未満」「40歳で6回と3回の区切り」は、制度として引かれた線です。これに対して、卵子の染色体の数に異常が起こる割合は、ある年齢で急に変わるのではなく、年齢とともに連続して高くなっていきます。臨床遺伝専門医の立場からは、この2つを分けて考えることが大切だと考えています。
保険の回数が残っているかどうかと、医学的にどのような選択肢があるかは、別々に整理したほうが判断しやすくなります。年齢と胚の染色体の関係を知っておくことは、治療の見通しを主治医と話し合ううえでの材料になります。
6. 先進医療とは:保険と併用できる技術
先進医療は、厚生労働省が定めた保険外の技術で、保険診療と組み合わせて受けることができます。こども家庭庁も、保険外の先進医療は保険診療と組み合わせて実施でき、不妊治療に関する先進医療は随時追加されることがある、としています[1]。先進医療の部分の費用は全額自己負担ですが、同じ治療の中の保険診療の部分は3割負担のままです。
主な先進医療(2026年9月時点)
厚生労働省が公表している先進医療Aの一覧(2026年8月現在)には、不妊治療に関係する技術として次のものが掲載されています[8]。
🔬 不妊治療に関係する主な先進医療(先進医療A)
| 技術名 | 概要 |
|---|---|
| タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養 | 培養器の中の胚を一定の間隔で撮影し、取り出さずに発育の様子を観察する |
| 子宮内膜刺激術 | 胚を培養した液を移植の前に子宮に入れ、着床しやすい環境を整えることを目的とする |
| 子宮内膜擦過術 | 子宮内膜に軽い刺激を加えて、着床しやすくすることを目的とする |
| 子宮内膜受容能検査(1・2) | 子宮内膜の組織を調べ、胚を受け入れやすい時期を推定する |
| 子宮内細菌叢検査(1・2) | 子宮の中の細菌のバランスを調べる |
| ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術 | ヒアルロン酸に結合する成熟した精子を選んで顕微授精に使う |
| 膜構造を用いた生理学的精子選択術 | 膜構造を利用して運動性のよい精子を選別する |
| 強拡大顕微鏡を用いた形態学的精子選択術 | 高い倍率の顕微鏡で精子の形を観察して選別する |
| 二段階胚移植術 | 初期の胚と胚盤胞を時期をずらして2回に分けて移植する |
※技術名は厚生労働省「先進医療の各技術の概要」[8]による。概要は一般的な説明で、具体的な適応や方法は実施医療機関で確認してください。一覧は随時変わります。
これらの技術は、有効性や安全性についての評価が保険診療ほど確立していないため、保険の項目ではなく先進医療として位置づけられています。先進医療として認められているからといって、すべての人に効果が期待できるわけではありません。自分の状況で行う意味があるかどうかを、主治医の説明を受けて判断します。
先進医療の部分は全額自己負担で、実施できる施設が限られる
先進医療は、厚生労働省に届け出た医療機関だけが実施できます。同じ技術でも、実施していない医療機関で受けると先進医療として扱われず、混合診療となって治療全体が自費になるおそれがあります。希望する技術がある場合は、通っている医療機関が先進医療の実施施設かどうかを事前に確認します。
💡 用語解説:先進医療A・先進医療B
先進医療は、将来的に保険に組み込むかどうかを評価するために、保険診療との併用が認められている技術です。先進医療Aは、主に未承認の医薬品や医療機器を使わない技術、先進医療Bは、未承認の医薬品や医療機器を使うなど、より厳格な臨床研究の枠組みで行われる技術です。先進医療Bは実施できる医療機関と期間が限られ、期間が終わると一覧から外れます。
着床前胚異数性検査(PGT-A)は先進医療Bとして実施されましたが、試験期間は2025年8月で終了しています[7]。現在は先進医療の一覧に載っておらず[8]、日本産科婦人科学会の認定施設で自費で行われています[9]。先進医療の一覧は、技術の追加や終了によって変わるため、最新の状況は厚生労働省の公表資料で確認してください。
7. 自己負担はいくら?高額療養費と医療費控除
保険診療の自己負担は原則3割です。1か月の支払いが高額になった場合は高額療養費制度が使え、1年間の医療費が一定額を超えた場合は確定申告で医療費控除を受けられます。それぞれのしくみを順に説明します。
原則3割負担
保険診療の費用は、診療報酬として全国一律の点数で決まっています。そのため、同じ内容の治療であれば、どの医療機関で受けても保険の部分の費用は基本的に同じです。窓口での支払いは原則その3割で、残りは加入している健康保険が負担します。
生殖補助医療では、採卵で得られた卵子の数や、培養した胚の数、凍結した胚の数などによって算定される点数が変わります[2]。このため、同じ医療機関でも周期ごとに支払額が変わることがあります。治療計画を立てる際に、採卵から胚移植までにかかるおおよその費用を確認しておくと、見通しが立てやすくなります。
高額療養費制度(2026年8月からの上限見直し)
高額療養費制度は、1か月に医療機関の窓口で支払った保険診療の自己負担額が上限を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です[11]。採卵や胚培養が重なる月は支払いが大きくなりやすいため、生殖補助医療ではこの制度が使える場面があります。上限額は年齢や所得区分によって異なります。
この制度は2026年8月から見直されました。所得区分に応じて月ごとの上限額が変更されたほか、新たに年間の上限額が設けられ、8月から翌年7月までの12か月間に支払った自己負担額が年間上限に達すると、それを超えた分は保険者から払い戻されます。同じ世帯で直近12か月に3回以上上限に達した場合に4回目から上限がさらに下がる「多数回該当」は、しくみも金額も変わっていません。2027年8月以降には、さらに見直しが予定されています[15]。
自分の上限額がいくらになるかは、加入している健康保険(協会けんぽ、健康保険組合、国民健康保険など)によって確認できます。健康保険組合によっては、高額療養費に上乗せして払い戻す「付加給付」を設けているところもあります。先進医療や自費の部分は、高額療養費の対象になりません。
医療費控除:保険の自己負担も、自費・先進医療も対象
医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、確定申告によって所得から差し引くことができる制度です。国税庁は、医師による診療等の対価として支払われる不妊症の治療費と人工授精の費用は、医療費控除の対象になる、としています[13]。
対象になるのは、保険診療の自己負担分だけではありません。保険が使えない自費の生殖補助医療や、先進医療の費用も、医師による診療の対価であれば対象になります。一方で、高額療養費として払い戻された額や、自治体から受け取った助成金は、支払った医療費から差し引いて計算します。控除の対象になる範囲や計算方法の詳細は、国税庁の案内や税務署で確認してください。
8. 助成金はなくなった?
体外受精などに対する国の助成金(特定治療支援事業)は、2022年4月の保険適用に伴って終了しました。ただし、自治体が独自に行っている助成は現在も続いています。「保険適用になったら助成金はなくなるのか」という疑問に答えるため、国と自治体の制度を分けて整理します。
国の特定不妊治療費助成(旧1回30万円)は保険適用に伴い終了
保険適用が始まる前、体外受精や顕微授精は自費の治療で、国は「不妊に悩む方への特定治療支援事業」として費用の一部を助成していました。2021年1月からの拡充後は、1回の治療につき30万円まで(治療の段階によっては10万円まで)が助成され、男性不妊の治療を併せて行った場合も1回30万円まで助成の対象になりました。回数は、初めて助成を受けたときの妻の年齢が40歳未満であれば6回、40歳以上43歳未満であれば通算3回まででした[16]。
「不妊治療の保険適用は30万円支給ですか」という検索がいまも多いのは、この旧制度の「1回30万円」と保険適用が混同されているためと考えられます。現在は、保険適用によって窓口での支払いそのものが3割に抑えられるしくみに変わっており、国から1回30万円が支給される制度はありません。保険の年齢・回数の条件は、この旧助成金の条件を引き継ぐ形で設計されています。
自治体独自の助成(東京都は2026年4月から保険診療分も対象)
保険適用の後も、多くの自治体が独自の助成を行っています。内容は自治体ごとに大きく異なり、先進医療の費用を助成するもの、保険診療の自己負担を助成するもの、男性不妊の治療を対象にするものなどがあります。
東京都の不妊治療費助成事業は、2026年4月以降の治療から対象が広がりました。以前は保険診療と併用した先進医療の費用が対象でしたが、2026年4月以降は、保険診療の生殖補助医療にかかった費用と、併用した先進医療の費用が対象になっています[12]。
🏙 東京都不妊治療費助成事業の概要(2026年4月以降の治療)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる費用 | 保険診療の生殖補助医療と、併用して行った先進医療の費用 |
| 助成額 | 1回の治療につき15万円まで(高額療養費や付加給付の額は差し引く) |
| 年齢 | 1回の治療の開始日に妻が43歳未満 |
| 対象外 | 全額自費の治療、一般不妊治療(人工授精など) |
| 住所 | 治療初日から申請日まで都内に住民登録(事実婚は夫婦ともに同一住所) |
| 申請受付 | 2026年10月1日から |
※東京都福祉局「東京都不妊治療費助成事業の概要」[12]にもとづく要点です。申請の条件や必要書類は東京都の案内で確認してください。
区市町村が都の助成に上乗せして独自の助成を行っている場合もあります。助成は申請しなければ受け取れず、申請期限が決まっていることが多いため、お住まいの自治体の案内を治療の早い段階で確認しておくことをおすすめします。
9. 保険適用のメリット・デメリット
保険適用で窓口の負担は大きく下がりましたが、保険のルールの範囲で治療を行う必要があるため、治療の自由度には制限があります。不妊治療の保険適用は、2020年5月29日に閣議決定された少子化社会対策大綱で、「不妊治療の経済的負担の軽減を図るため、高額の医療費がかかる不妊治療(体外受精、顕微授精)に要する費用に対する助成を行うとともに、適応症と効果が明らかな治療には広く医療保険の適用を検討し、支援を拡充する」とされたことを受けて進められました[17]。
メリット①:窓口負担が3割になる
それまで全額自費だった体外受精や顕微授精が原則3割負担になり、高額療養費の対象にもなりました。助成金のように後から払い戻しを待つ必要がなく、治療を始める時点で用意する金額が小さくなります。
メリット②:費用の見通しが立てやすい
保険診療の費用は全国一律の点数で決まるため、医療機関による差が小さくなりました。治療の内容が標準化されたことで、どの段階で何をするかも説明を受けやすくなっています。
デメリット①:年齢と回数の制限がある
43歳以上で始める生殖補助医療や、上限を超えた胚移植は保険の対象外です。12週未満の流産ではリセットされないなど、回数の数え方にもルールがあります。
デメリット②:治療内容に決まりがある
使える薬剤や検査の範囲などが決められています。先進医療以外の技術を加えると治療全体が自費になるため、個別の事情に合わせた治療の組み立てには制約があります。
胚凍結保存維持管理料は、2024年度診療報酬改定で従来の「凍結保存開始日から3年を限度」とする算定上限年数が廃止され、凍結保存の開始から1年を経過した後は、維持管理を行った場合に1年に1回算定する仕組みとなっています。凍結した胚が残っている方は、保存継続の条件と費用の扱いを医療機関に確認しておく必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 不妊治療の保険適用で30万円もらえるのですか?
いいえ。1回30万円は、保険適用前の国の助成金(特定治療支援事業)の上限額で、この制度は2022年4月の保険適用に伴って終了しました。現在は、保険によって窓口での支払いが原則3割になるしくみです。自治体によっては独自の助成があり、東京都は2026年4月以降の治療について、保険診療の生殖補助医療と併用した先進医療の費用を1回15万円まで助成しています。
Q2. 事実婚でも保険は使えますか?
はい、事実婚のカップルも保険の対象です。受診の際に、医療機関から事実婚関係について確認されたり、書類の提出を求められたりすることがあります。必要な書類は医療機関によって異なるため、事前に確認しておくと手続きが進めやすくなります。
Q3. 男性不妊の治療も保険の対象ですか?
はい。2022年の改定で、精巣から直接精子を採取する精巣内精子採取術や、Y染色体微小欠失検査が保険の対象になりました。男性の年齢には制限がありません。
Q4. 転院したら胚移植の回数はリセットされますか?
いいえ、リセットされません。保険での胚移植の回数は医療機関ごとではなく通算で数えます。医療機関は、過去の治療歴や保険での実施回数を患者さんに確認することになっているため、前の医療機関での治療内容や回数を正確に伝える必要があります。
Q5. 流産したら胚移植の回数は戻りますか?
妊娠12週未満の流産では、回数は戻りません。回数がリセットされるのは、出産した場合と、妊娠12週以降に死産した場合です。リセット後の上限は、次の子どものための治療を始めるときの年齢で改めて決まります。
Q6. 治療の途中で43歳の誕生日を迎えたらどうなりますか?
43歳の誕生日を迎えた後に、新しく保険で生殖補助医療を始めることはできません。胚移植の回数が残っていても同じです。ただし、42歳の時点で治療を開始し、その1回の治療の途中で43歳に達した場合は、43歳に達した日を含む当該一連の治療については保険診療で実施可能と厚生労働省が示しています。
Q7. ミネルバクリニックで保険の不妊治療は受けられますか?
いいえ、当院では不妊治療(保険診療・自費診療とも)は行っていません。この件についてのご予約・お問い合わせもお受けしていません。不妊治療については、生殖医療を専門とする医療機関にご相談ください。
まとめ
不妊治療の保険適用の条件は、生殖補助医療については治療開始時に女性が43歳未満であること、胚移植の回数は子ども1人につき40歳未満で6回、40歳以上43歳未満で3回までです。6回か3回かは初めての胚移植の治療計画を作成した日の年齢で決まり、数えるのは保険で行った胚移植の回数で、採卵や凍結は含みません[6]。出産または妊娠12週以降の死産で回数はリセットされますが、12週未満の流産ではリセットされません。
回数を超えた場合や43歳以上で始める生殖補助医療は全額自費になりますが、一般不妊治療は年齢にかかわらず保険で受けられます。先進医療は保険と併用できる一方、着床前胚異数性検査(PGT-A)は2026年9月時点で先進医療の一覧になく、自費で行われています[8]。費用の負担は、高額療養費、医療費控除、自治体の助成で軽くできる場合があり、東京都は2026年4月から保険診療の生殖補助医療の費用も助成の対象にしました[12]。制度は改定されることがあるため、治療を始める前に最新の情報を医療機関や自治体で確認してください。
🏥 不妊治療をお考えの方へ
当院では、不妊治療(保険診療・自費診療とも)を行っておりません。この件についてのご予約・お問い合わせはお受けしておりません。不妊治療については、生殖医療を専門とする医療機関へご相談ください。
この記事は不妊治療の保険制度を正しく知っていただくための解説であり、当院での診療をご案内するものではありません。なお、着床前診断など、胚や家族の遺伝学的な評価が必要と判断された場合に限り、遺伝カウンセリングが関係することがあります。
参考文献
- [1] こども家庭庁. 不妊治療が保険適用されています。(リーフレット). [こども家庭庁]
- [2] 厚生労働省保険局医療課. 令和4年度診療報酬改定の概要 不妊Ⅱ(各論). [日本産科婦人科学会掲載]
- [3] 日本産科婦人科学会. 2024年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績. [日本産科婦人科学会]
- [4] 厚生労働省. 令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況. [厚生労働省]
- [5] こども家庭庁. 不妊治療に関する取組. [こども家庭庁]
- [6] 厚生労働省保険局医療課. 不妊治療に係る診療報酬上の取扱いについて(事務連絡 令和4年3月16日). [厚生労働省]
- [7] 厚生労働省. 「着床前胚異数検査1(告示旧48)」の総括報告書に関する評価について(令和7年12月15日). [厚生労働省]
- [8] 厚生労働省. 先進医療の各技術の概要(先進医療A). [厚生労働省]
- [9] 日本産科婦人科学会. 不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-A・SR). [日本産科婦人科学会]
- [10] 慶應義塾大学医学部 産婦人科学教室. 不妊治療の保険適用について. [慶應義塾大学]
- [11] こども家庭庁. 保険診療の基礎知識(みんなで知ろう、不妊症不育症のこと). [こども家庭庁]
- [12] 東京都福祉局. 東京都不妊治療費助成事業の概要. [東京都]
- [13] 国税庁. 質疑応答事例「不妊症の治療費・人工授精の費用」. [国税庁]
- [14] Franasiak JM, Forman EJ, Hong KH, Werner MD, Upham KM, Treff NR, Scott RT Jr. The nature of aneuploidy with increasing age of the female partner: a review of 15,169 consecutive trophectoderm biopsies evaluated with comprehensive chromosomal screening. Fertil Steril. 2014;101(3):656-663.e1. [PubMed 24355045]
- [15] 全国健康保険協会(協会けんぽ). 令和8年8月から高額療養費制度が見直されます. [協会けんぽ]
- [16] こども家庭庁. 不妊に悩む方への特定治療支援事業(令和3年1月1日以降治療終了分). [こども家庭庁]
- [17] 中央社会保険医療協議会. 不妊治療の保険適用について(中医協 総-2 3.1.13). [厚生労働省]





