目次
不妊治療とは、妊娠を望んでいるのに妊娠しない夫婦が、原因を調べ、必要に応じて排卵や受精を医療で助ける治療の総称です。日本産科婦人科学会は、妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに性交していても1年間妊娠しない場合を「不妊」と定義しており、治療は一般に、タイミング法、排卵誘発、人工授精、体外受精・顕微授精の順に進みます[1]。この記事では、治療の流れと種類、年齢や原因による選び方、費用と保険適用、年齢別の治療成績、染色体や遺伝子の検査が関わる場面を、公的資料とガイドラインにもとづいて整理します。どの治療が合うかは、年齢と原因によって変わります。
Q. 不妊治療とは、具体的に何をする治療ですか?
A. まず夫婦で原因を調べ、タイミング法、人工授精、体外受精・顕微授精の順に、必要な段階まで進めるのが一般的です。すべての夫婦が全段階を通るわけではなく、年齢や検査結果によって出発点が変わります。2022年4月からは、これらの治療の多くが保険診療の対象になっています[2]。治療成績は年齢とともに下がるため、目安の年齢や回数を知っておくことが判断の助けになります。
- ➤定義 → 妊娠を望む健康な男女が避妊せず1年間妊娠しない状態が不妊。排卵異常などがあれば1年を待たずに検査を始めます
- ➤流れ → 検査 → タイミング法・排卵誘発 → 人工授精 → 体外受精・顕微授精
- ➤成績 → 2022年の日本のデータでは、治療1周期あたりの生産率は35歳で19.8%、40歳で10.8%、44歳で2.6%
- ➤保険 → 治療開始時に女性が43歳未満が対象。40歳未満は1子ごとに通算6回、40歳以上43歳未満は通算3回
- ➤遺伝 → 男性不妊の一部には染色体やY染色体の変化が関わり、顕微授精では男児に伝わる可能性があります
1. 不妊治療とは?対象になる人と始める目安
不妊治療は、「不妊」と診断される状態、または不妊が疑われる状態の夫婦に対して行う、検査と治療の全体を指します。世界保健機関(WHO)は、不妊を「男性または女性の生殖器系の病気で、12か月以上、避妊せずに定期的に性交しても妊娠しないこと」と定義しています[3]。日本産科婦人科学会も、妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに性交しているにもかかわらず、1年間妊娠しない場合を不妊としています[1]。
不妊症の定義と、治療の対象になる人
不妊の定義にある「1年」は、検査や治療に進む目安です。ただし、排卵の異常や子宮内膜症などがすでに分かっている場合は、1年を待たずに検査を始めることが勧められています[1]。月経が不規則な方や、パートナーの精液に問題が指摘されたことがある方も、この考え方に当てはまります。
原因は女性だけにあるとは限りません。日本産科婦人科学会は、男性側に理由がある割合と女性側に理由がある割合はほぼ半々としています[1]。欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインにも、子どもができない夫婦の50%で男性の不妊に関わる要因が見つかると記されています[4]。このため、検査は夫婦で同時に行うのが基本です。原因の種類や診断の詳しい説明は、不妊症の原因の解説で扱っています。
💡 用語解説:生殖補助医療(ART)
生殖補助医療(ART)とは、体外受精や顕微授精のように、卵子や精子を体の外で扱う不妊治療の総称です。これに対して、タイミング法、排卵誘発、人工授精のように、体内で受精する妊娠を医療で後押しする治療を、一般不妊治療と呼びます。
検査や治療を受けている夫婦はどのくらいいるか
日本の全国調査では、不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は22.7%(4.4組に1組)です。国立社会保障・人口問題研究所の第16回出生動向基本調査(2021年)によると、この割合は前回調査(2015年)の18.2%から増えました。不妊を心配したことがある夫婦も、35.0%から39.2%(3組に1組以上)に増えています[5]。
世界全体では、生殖年齢の人の約6人に1人が、生涯のうちに不妊を経験するとWHOは推計しています[3]。この2つの数字は、数え方の対象が違います。日本の調査は検査や治療を受けた夫婦の割合、WHOの数字は生涯に不妊を経験する人の割合です。同じ「不妊」でも、数字をそのまま比べることはできません。
何歳から、どのタイミングで受診するか
受診の目安は、年齢と、これまでに妊娠を望んでいた期間によって変わります。日本産科婦人科学会は、30歳を過ぎると妊娠する力が低下し始め、35歳を過ぎると低下が加速するとしています。男性でも35歳以降に精子の質が下がるとされています[1]。日本生殖医学会も、30歳以降は妊娠率が下がり、35歳前後から妊娠率の低下と流産率の上昇が起こり、40歳を過ぎると急速に減るとまとめています[6]。
また、日本生殖医学会は、おおむね30歳以上の女性で、希望する数の子どもを希望する時期に得ることが、年齢・仕事・併存する病気などのために難しくなった場合には、一般不妊治療を早めに切り上げるか、体外受精の検討を勧めています[7]。「1年待ってから」に一律にこだわらず、年齢や事情をふまえて受診時期を決める、という考え方です。年齢ごとの妊娠のしやすさは年齢別の妊娠確率、男性側の加齢の影響は男性不妊と年齢の関係で詳しく解説しています。
2. 不妊治療の流れ|検査からステップアップまで
一般的な流れは、夫婦の検査、タイミング法(排卵誘発を併用することもあります)、人工授精、体外受精・顕微授精の順です。日本産科婦人科学会も、治療は「タイミング性交、排卵誘発、人工授精、体外受精・顕微授精」の順序が一般的としています[1]。ただし、最初から人工授精や体外受精を選ぶ場合もあり、すべての人が同じ段階を同じ回数だけ通るわけではありません。
最初に行う検査(夫婦同時)
米国泌尿器科学会と米国生殖医学会(AUA/ASRM)の男性不妊ガイドラインは、初回の評価で男女のパートナーを同時に調べるよう勧めています[8]。女性は、内診と超音波検査、子宮卵管造影検査、FSH・LH・エストロゲン・プロゲステロンなどのホルモン検査を行います。男性は、採取した精液の精子の数や運動率を調べる精液検査が中心です[1]。
精液検査について、AUA/ASRMガイドラインは、初回評価で1回以上の精液検査を行うこと、最初の結果に異常がある場合は1か月ほどあけて2回以上調べることが重要だとしています[8]。1回の検査結果だけで男性側の状態を決めないための取り決めです。欧州生殖医学会(ESHRE)のガイドラインでも、基本の検査として、WHOの基準にもとづく精液検査、卵管の通りを調べる子宮卵管造影(または子宮卵管造影超音波)、超音波検査が挙げられています[9]。男性側の検査と治療は、男性不妊の原因・検査・治療で詳しく説明しています。
タイミング法・排卵誘発
タイミング法は、超音波検査やホルモン検査で排卵の時期を推定し、妊娠しやすい時期に性交を持つよう指導する方法です。排卵が起こりにくい場合には、排卵誘発剤を使って排卵を促します。体に負担の少ない治療で、多くの場合は最初の段階に置かれます。何周期ほど続けるか、どのタイミングで次の段階に進むかは、年齢と検査結果で変わります。詳しくはタイミング法とはをご覧ください。
排卵の異常の原因としては、排卵が不規則になる病気の一つである多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などがあります。原因によって薬の選び方が異なるため、排卵誘発は検査の結果にもとづいて行われます。
人工授精
人工授精とは、洗浄・濃縮して運動性のよい精子だけを集め、排卵の時期に合わせて子宮の中へ直接注入する治療です。日本生殖医学会によると、行う時期は排卵の前日から当日が望ましいとされています[10]。
同じ資料は、人工授精の回数について、3〜6回を上限とするのが一般的で、6回以上繰り返しても妊娠に至らない場合は治療のステップアップを検討する必要があるとしています。また、処理後の総運動精子数が500万〜1,000万未満の場合は妊娠率が著しく下がるため、体外受精への移行が勧められています[10]。適応や流れは人工授精とはで解説しています。
体外受精・顕微授精
体外受精は、採卵手術で排卵の直前に卵子を体の外へ取り出し、体外で精子と受精させる治療です[7]。受精した卵(胚)を子宮に戻す胚移植までを含めて、生殖補助医療と呼びます。顕微授精(ICSI)は、体外受精のうち、精子を1つずつ卵子の中に注入して受精させる方法で、詳しくはICSI(顕微授精)に解説があります。
ESHREの原因不明不妊のガイドラインは、原因不明不妊の夫婦では、通常の体外受精に比べて顕微授精を勧めないとしています[9]。顕微授精が選ばれるのは、精子の数や運動性の問題など、精子側の理由がある場合が中心です。体外受精の流れは体外受精とは、母体や子どもへの影響は体外受精のリスク、双子の確率は不妊治療で双子になる確率でそれぞれ扱っています。
🧭 不妊治療の段階と、確認できる目安
※上の表は、日本生殖医学会Q&Aの記載をまとめたものです。実際の判断は、年齢・原因・治療歴をふまえて主治医が行います。
3. 治療の選び方|原因と年齢で変わります
同じ不妊治療でも、原因が分かっているか、女性の年齢がいくつかによって、選ばれる治療は変わります。この章では、原因不明の場合、男性側に要因がある場合、年齢が高い場合に分けて、公表されているガイドラインの考え方を整理します。
原因が分からない「原因不明不妊」の場合
原因不明不妊とは、一通りの検査をしても妊娠しにくい理由が見つからない状態です。ESHREのガイドラインは、原因不明不妊を、卵巣・卵管・子宮・子宮頸管・骨盤に明らかな異常がなく、女性が40歳以下で、男性側にも精巣機能や精液に明らかな異常がない場合と定義しています[9]。
この場合の治療について、同じガイドラインは、排卵誘発を併用した人工授精を最初に行う治療として推奨しています(強い推奨)。一方で、体外受精は、排卵誘発を併用した人工授精より優先しないことを、条件つきで示しています(条件つきの推奨)。また、通常の体外受精に対して顕微授精を勧めない(強い推奨)としています[9]。これは欧州の学会が作った指針で、日本の保険制度や診療の実情とは異なる点もあります。実際の選び方は、年齢や治療歴を含めて医療機関で確認してください。
男性側に要因がある場合
精子の数が少ない、運動性が低い、精液中に精子がないといった所見が見つかった場合は、原因を調べたうえで治療を選びます。AUA/ASRMガイドラインは、精液検査を初回評価で行い、異常があれば繰り返して確認することと、一定の条件に当てはまる男性には染色体検査やY染色体微小欠失の検査を行うことを示しています[8]。この検査については、第6章で詳しく取り上げます。
精子がまったく見つからない「無精子症」には、精子をつくる働きそのものが低下している場合と、精子の通り道がふさがっている場合があり、対応が異なります。精子をつくる働きの低下(非閉塞性無精子症)の原因や検査は、非閉塞性無精子症(NOA)で解説しています。
女性の年齢が高い場合
女性の年齢が上がると、妊娠率は下がり、流産率は上がります[6]。日本生殖医学会は、おおむね30歳以上で希望する時期に子どもを得るのが難しくなった場合に、体外受精を早めに検討することを勧めています[7]。年齢が高いほど、一般不妊治療を長く続けることの利点は小さくなるため、次の段階に進む時期を早めに決めておくことが、治療の選び方の一つになります。
将来の妊娠を見据えて卵子を凍結しておく選択肢もあります。方法や成績は卵子凍結のやり方で解説しています。卵巣の働きが早く低下する場合については、早発閉経(早期閉経)をご覧ください。
🩺 院長コラム【治療の段階は「回数」だけでは決められません】
不妊治療のステップアップは、「タイミング法を何回、人工授精を何回」と回数だけで決まるものではないと考えています。同じ回数でも、35歳と41歳では、その回数で得られる見込みが違います。
遺伝医療でも、同じ検査結果が年齢や家族歴によって意味を変えるという場面があります。不妊治療も、年齢、原因、これまでの経過を合わせて読み、次の一手を考える点で通じるところがあります。資料に書かれた目安は、その判断材料の一つとして使うものだと考えています。
4. 不妊治療の成績|年齢別データの読み方
日本の生殖補助医療の成績は、日本産科婦人科学会が毎年まとめています。2022年は、総治療周期数が543,630周期、この治療で生まれた子どもは72,201人でした。[11]
下の表は、同じ報告の年齢別の成績から、いくつかの年齢を取り出したものです。年齢が上がるにつれて、妊娠率と生産率(生まれた割合)が下がり、流産率が上がっています。
📊 生殖補助医療の年齢別成績(日本・2022年)
| 女性の年齢 | 胚移植あたりの妊娠率 | 治療周期あたりの生産率 | 妊娠あたりの流産率 |
|---|---|---|---|
| 30歳 | 48.5% | 22.6% | 17.9% |
| 35歳 | 43.9% | 19.8% | 21.5% |
| 38歳 | 37.8% | 15.1% | 26.9% |
| 40歳 | 31.3% | 10.8% | 32.6% |
| 42歳 | 22.2% | 5.4% | 43.2% |
| 44歳 | 13.8% | 2.6% | 51.7% |
※日本産科婦人科学会「2022年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績」の年齢別表から抜粋[11]。体外受精・顕微授精などの生殖補助医療を対象とした数字で、タイミング法や人工授精の成績ではありません。
この表を読むときは、次の3点に注意してください。1つ目は、「治療周期あたり」の数字であり、1人が何回か治療を続けた場合の累積の成績ではない点です。2つ目は、日本全体の集計であり、原因の違いや治療の内容は反映されていない点です。3つ目は、集団の平均から、個人の妊娠の見込みを言い当てることはできない点です。表の数字は、年齢とともに成績がどう変わる傾向があるかを見るための資料です。
年齢とともに流産率が上がる背景の一つに、卵子の染色体の数の異常が増えることがあると考えられています。その仕組みは、なぜ卵子で染色体異常(異数性)が起こるのかで詳しく解説しています。
📌 数字の見方のポイント
表にある「胚移植あたり」と「治療周期あたり」は、割合を計算するときの分母が違います。そのため、同じ年齢でも、どの列の数字を見ているかで値が変わります。他の資料の数字と比べるときは、分母がそろっているかを確認してください。
5. 費用と保険適用|2022年4月からの条件
2022年4月から、体外受精・顕微授精を含む不妊治療の基本的な治療が、公的医療保険の対象になっています。こども家庭庁のリーフレットによると、保険適用になるのは、採卵、採精、体外受精、顕微授精、受精卵・胚の培養、胚移植、胚の凍結保存で、タイミング法と人工授精も対象です[2]。
年齢と回数の条件
保険適用には、治療を始める時点で女性の年齢が43歳未満であることが条件です。生殖補助医療の回数は、子ども1人ごとに数え、治療開始時の女性の年齢が40歳未満なら通算6回まで、40歳以上43歳未満なら通算3回までです[2]。
💴 保険適用の年齢と回数の条件
| 治療開始時の女性の年齢 | 保険適用の生殖補助医療の回数(1子ごと) |
|---|---|
| 40歳未満 | 通算6回まで |
| 40歳以上43歳未満 | 通算3回まで |
| 43歳以上 | この保険適用の対象外 |
※こども家庭庁のリーフレットにもとづく[2]。回数の数え方や、回数を超えた場合の扱いは、不妊治療の保険適用の条件で詳しく説明しています。
自己負担と、保険外の治療(オプション)
窓口で支払う金額は、治療費の3割です。1か月の医療費が高額になった場合には、上限額を超えた分が払い戻される高額療養費制度も使えます[2]。生殖補助医療に加えて行われるオプション治療には、保険適用になったものと、保険診療と併用できる先進医療として行われるものがあります[2]。オプション治療は施設によって扱いが違うため、治療前に、保険が使える範囲と自己負担になる項目を確認しておくと安心です。
治療費の総額は、治療の内容や回数、通う施設によって大きく変わります。この記事では、施設ごとに異なる平均金額は取り上げていません。具体的な金額は、通院先で見積もりや説明を受けて確認してください。
6. 遺伝の視点|染色体・遺伝子の検査が関わる場面
不妊治療の検査は、ホルモン検査や超音波検査、精液検査が中心ですが、一部の方では、染色体や遺伝子の変化が不妊に関わっています。すべての方に染色体や遺伝子の検査が必要なわけではなく、対象になるのは、精液所見が重度に低下している場合など、条件がはっきりしているケースです。
男性不妊と染色体の変化
EAUガイドラインが引用する調査では、不妊の男性9,766人のうち5.8%に染色体の異常が見つかりました。無精子症の男性に限ると、クラインフェルター症候群(性染色体が通常より1本多い47,XXY)が13.7%を占めています[4]。染色体の数や構造を調べる方法は、染色体検査(Gバンド法)のページで説明しています。
AUA/ASRMガイドラインは、原発性の不妊で、無精子症、または精子濃度が1mLあたり500万未満で、FSHが高い・精巣が小さい・精子をつくる働きの低下が診断されているといった所見がある男性に、染色体検査を行うとしています。Y染色体の微小欠失の検査は、無精子症、または精子濃度が1mLあたり100万以下で同様の所見がある男性が対象です[8]。
Y染色体の微小欠失と、顕微授精での遺伝
Y染色体の一部が欠けている「微小欠失」は、精子をつくる働きに関わる領域(AZF領域)で起こります。EAUガイドラインには、Y染色体微小欠失が無精子症の男性の8〜12%、精子が少ない男性の3〜7%で見つかること、欠失のうちAZFc領域が65〜70%を占めることが記されています[4]。詳しい仕組みは、Y染色体AZF微小欠失の解説にまとめています。
AZFc領域の欠失がある男性は、顕微授精で子どもを授かった場合、生まれる男の子に同じ欠失が受け継がれます。EAUガイドラインは、精子が少ない、または無精子症で精巣から精子が見つかった男性には、男児がこの欠失を受け継ぐことを説明する必要があると明記しています[4]。この点は、治療を選ぶ前に知っておきたい情報の一つです。
女性側の染色体・遺伝子の変化
女性でも、卵巣の働きが早く低下する「早発卵巣不全(POI)」のように、染色体や遺伝子の変化が関わることがある病気があります。POIの概要は早発卵巣不全(POI)で解説しています。染色体や複数の遺伝子を調べる検査は、女性不妊症NGS遺伝子パネル検査や男性不妊症遺伝子検査(NGSパネル)のページに案内があります。検査の対象や、分かること・分からないことは、検査ごとに異なります。
遺伝カウンセリングで確認すること
染色体や遺伝子の検査では、結果がご本人だけでなく、子どもや血縁者にも関係することがあります。検査を受ける場合は、結果の意味や限界を、検査の前後に専門医から説明を受けるのが基本です。この説明の場が遺伝カウンセリングです。不妊に関わる遺伝学的検査の全体像は、不妊症遺伝子検査のページにまとめています。
🩺 院長コラム【「原因不明」の中に、検査で分かる原因が含まれることがあります】
不妊治療では、一通りの検査で異常が見つからないと「原因不明」とされます。しかし、標準の検査に含まれない染色体や遺伝子の変化が、その背景にある場合も考えられます。
染色体や遺伝子の検査は、すべての方が受けるものではありません。ただ、検査の対象になる条件に当てはまる方が、その意味と限界を理解したうえで検査を選べる状態であることが望ましいと考えています。検査を受けるかどうかは、説明を聞いたうえでご自身が決めることです。
7. 不妊治療は何歳まで?続ける・区切る判断
保険適用の対象は、治療開始時に女性が43歳未満の場合です。これは保険が使える年齢の条件であり、医学的な治療の終了年齢を示すものではありません[2]。この記事で確認した資料には、何歳で治療をやめるべきかを一律に示した記載はありませんでした。
判断の材料になるのは、次のような情報です。年齢が上がるほど、治療周期あたりの生産率は下がり、流産率は上がること[11]。保険適用の回数には上限があること[2]。原因がある場合は、その原因に応じた治療の選択肢があること。これらを合わせて、通院の負担、費用、パートナーとの考え方も含めて決めていきます。
すでに子どもがいて、次の子どもを望む場合も、同じ考え方で検査を始めます。二人目の妊娠が難しい場合の原因や進め方は、二人目不妊とはで解説しています。治療を続けるか、いったん区切るかは、検査結果と年齢をふまえて、主治医と話し合って決めてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 不妊治療とは、何をする治療ですか?
妊娠を望んでいるのに妊娠しない夫婦に対して、原因を調べる検査と、排卵や受精を医療で助ける治療を行うものです。一般に、タイミング法、排卵誘発、人工授精、体外受精・顕微授精の順に進みます。年齢や検査結果によって、出発点となる段階は変わります。
Q2. 不妊治療はいつから始めればよいですか?
避妊せず1年間妊娠しない場合が受診の目安ですが、排卵の異常や子宮内膜症が分かっている場合は、1年を待たずに検査を始めることが勧められています。30歳を過ぎると妊娠する力が低下し始め、35歳以降に加速するため、年齢が高い場合は早めの受診が検討されます。
Q3. 不妊治療の流れを教えてください。
夫婦で検査を受け、必要に応じて、タイミング法(排卵誘発を併用することもあります)、人工授精、体外受精・顕微授精の順に進めるのが一般的です。人工授精は3〜6回が上限の目安とされ、6回以上で妊娠しない場合はステップアップが検討されます。最初から体外受精を選ぶこともあります。
Q4. 不妊治療に保険は使えますか?
2022年4月から、タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精などが保険適用になっています。治療開始時に女性が43歳未満であることが条件で、生殖補助医療は、40歳未満なら1子ごとに通算6回、40歳以上43歳未満なら通算3回までです。窓口の負担は3割です。
Q5. 不妊治療は何歳まで受けられますか?
保険適用は、治療開始時に女性が43歳未満の場合が対象です。医学的な終了年齢を一律に示した資料は、この記事で確認した範囲ではありません。年齢が上がるほど、1周期あたりの成績は下がり、流産率は上がるため、主治医と成績や回数、負担を確認しながら判断します。
Q6. どの治療がいちばん妊娠しやすいですか?
治療の種類だけでは決まらず、年齢と原因によって変わります。日本の2022年のデータでは、生殖補助医療の治療周期あたりの生産率は、35歳で19.8%、40歳で10.8%でした。原因不明不妊では、欧州のガイドラインが、排卵誘発を併用した人工授精を最初の治療として推奨しています。
Q7. 検査や治療は男性側も必要ですか?
はい、夫婦で同時に評価するのが基本です。日本産科婦人科学会は男性側と女性側の理由がほぼ半々としており、EAUガイドラインでも、子どもができない夫婦の50%で男性の要因が見つかるとしています。男性の検査は、精液検査が中心です。
Q8. 染色体検査や遺伝子検査は、不妊治療の前に全員が受けるものですか?
いいえ、全員が対象ではありません。AUA/ASRMガイドラインでは、無精子症や精子濃度が著しく低く、FSH高値・精巣萎縮などの所見がある男性などに、染色体検査やY染色体微小欠失の検査を行うとしています。検査を受ける場合は、結果の意味を遺伝カウンセリングで確認します。
まとめ
不妊治療は、夫婦の検査を出発点に、タイミング法、人工授精、体外受精・顕微授精と、年齢と原因に合わせて段階を進める治療です。日本の2022年のデータでは、生殖補助医療の治療周期あたりの生産率は35歳で19.8%、40歳で10.8%と、年齢とともに下がります[11]。2022年4月からは、これらの治療の多くが保険診療の対象で、治療開始時に女性が43歳未満であることが条件です[2]。
男性不妊の一部には染色体やY染色体の変化が関わり、AZFc領域の欠失がある場合は、顕微授精で男の子に受け継がれます[4]。染色体や遺伝子の検査は全員に必要なものではありませんが、対象となる場合は、結果の意味を遺伝カウンセリングで確認します。治療の選び方は年齢や原因で異なるため、個別の判断は主治医と行ってください。
📘 この記事について
この記事は、不妊治療の全体像を知っていただくための解説です。個別の治療方針は、通院している医療機関の医師が、検査結果や年齢をふまえて判断します。なお、染色体や遺伝子の検査の結果が、ご本人や血縁者にとってどういう意味を持つかを専門医と整理する場として、遺伝カウンセリングがあります。
参考文献
- [1] 日本産科婦人科学会. 不妊症. 一般の皆様へ(疾患解説). [JSOG]
- [2] こども家庭庁. 令和4年4月から、不妊治療が保険適用されています。(リーフレット) [こども家庭庁]
- [3] Infertility. World Health Organization (WHO). Fact sheets. [WHO]
- [4] Male Infertility. EAU Guidelines on Sexual and Reproductive Health. European Association of Urology. [EAU]
- [5] 国立社会保障・人口問題研究所. 第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)結果の概要. [IPSS]
- [6] 日本生殖医学会. 生殖医療Q&A Q22 年齢が不妊・不育症に与える影響. [JSRM Q22]
- [7] 日本生殖医学会. 生殖医療Q&A Q12 体外受精とはどんな治療ですか? [JSRM Q12]
- [8] Diagnosis and Treatment of Infertility in Men: AUA/ASRM Guideline (2020; amended 2024). American Urological Association. [AUA]
- [9] Guideline Group on Unexplained Infertility, Romualdi D, Ata B, et al. Evidence-based guideline: unexplained infertility. Hum Reprod. 2023;38(10):1881–1890. doi:10.1093/humrep/dead150. PMID:37599566; PMCID:PMC10546081. [Hum Reprod]
- [10] 日本生殖医学会. 生殖医療Q&A Q10 人工授精とはどういう治療ですか? [JSRM Q10]
- [11] 日本産科婦人科学会. 2022年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績(ARTデータブック). [JSOG]





