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NIPT検査で分かる疾患の重篤度について:正しい理解のために | ミネルバクリニック

NIPT検査で分かる疾患の重篤度について:正しい理解のために | ミネルバクリニック

この記事の要点
  • NIPT検査で検出される疾患は重篤度において大きな差があります
  • トリソミー13・18は最も重篤で、生後1年以内の生存率は約10%です
  • 染色体微小欠失症候群はダウン症より重篤な症状を呈することが多いです
  • ダウン症候群は相対的に予後が良好で、平均寿命は約60歳です

NIPT検査で分かる疾患の重篤度について:正しい理解のために

当院のNIPT検査では、多岐にわたる遺伝子疾患・染色体疾患を検出することができます。検査を受けるご夫婦から「疾患により考えます」というご相談をいただくことがよくありますが、各疾患の特徴や重篤度を正しく理解していただくことが重要です。

当院NIPT検査の検査対象疾患

常染色体トリソミー(6種)

  • トリソミー13(パトー症候群)
  • トリソミー15
  • トリソミー16
  • トリソミー18(エドワーズ症候群)
  • トリソミー21(ダウン症候群)
  • トリソミー22

性染色体異数性(4種)

  • 45,X(ターナー症候群)
  • 47,XXX(トリプルX症候群)
  • 47,XXY(クラインフェルター症候群)
  • 47,XYY

染色体微小欠失・重複症候群(12種)

微小欠失症候群:

  • 1p36欠失症候群
  • 2q33欠失症候群
  • 4p16欠失症候群(ウォルフ・ヒルシュホーン症候群)
  • 5p15欠失症候群(猫鳴き症候群)
  • 8q23q24欠失症候群
  • 9p欠失症候群
  • 11q23q25欠失症候群(ヤコブセン症候群)
  • 15q11.2-q13欠失症候群(プラダー・ウィリ症候群/アンジェルマン症候群)
  • 17p11.2欠失症候群(スミス・マジェニス症候群)
  • 18p欠失症候群
  • 18q22q23欠失症候群
  • 22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)

対応する微小重複症候群:

  • 22q11.2重複症候群
  • 17p11.2重複症候群(Potocki-Lupski症候群)
  • その他各領域の重複症候群

単一遺伝子疾患(56遺伝子・30以上の疾患)

ヌーナン症候群、22q11.2重複症候群、骨形成不全症、軟骨無形成症、その他多数

疾患の重篤度による分類

比較的予後が良いとされる疾患

ダウン症候群(トリソミー21)

  • 1 生存率:約90%が成人まで生存
  • 2 知的発達:軽度から中等度の知的障害(個人差が大きい)
  • 3 身体的特徴:心疾患(約40%)、消化器疾患などの合併症はあるものの、適切な治療とサポートで改善可能
  • 4 社会参加:就労や自立生活が可能な場合も多い
  • 5 平均寿命:約60歳(医療の進歩により延伸傾向)

性染色体異数性

  • クラインフェルター症候群(47,XXY):通常の寿命、軽度の学習困難
  • トリプルX症候群(47,XXX):多くの場合、正常な発達と寿命
  • 47,XYY症候群:通常は軽微な影響のみ

微小重複症候群

  • 22q11.2重複症候群:対応する欠失症候群より軽度の症状
  • 17p11.2重複症候群:筋緊張低下、発達遅滞はあるが、欠失症候群ほど重篤ではない

重篤な疾患

トリソミー13(パトー症候群)

  • 1 生存率:生後1年以内の生存率は約10%
  • 2 合併症:重篤な脳・心・腎異常、口唇口蓋裂、眼の異常
  • 3 発達:重度の知的障害
  • 4 予後:多くの場合、短期間での生命予後

トリソミー18(エドワーズ症候群)

  • 1 生存率:生後1年以内の生存率は約10%
  • 2 合併症:重篤な心疾患、腎異常、成長障害
  • 3 発達:重度の発達遅滞
  • 4 予後:生命予後は非常に厳しい

染色体微小欠失症候群(トリソミーと比較してより重篤)

ディジョージ症候群(22q11.2欠失症候群):染色体が原因で起こる症候群の中では、ダウン症候群に次いで多いが、症状の重篤度においてはダウン症候群を大きく上回ります。

22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)の特徴
  • 生命予後への影響:予後を大きく左右するのが心臓の症状の重症度で、とくにファロー四徴症や大動脈弓離断をともなうことが多く、チアノーゼや心不全の症状が見られる
  • 複数臓器の重篤な異常:心疾患、免疫不全、低カルシウム血症、精神発達遅滞
  • ダウン症との比較:ダウン症は平均寿命約60歳で比較的予後良好だが、22q11.2欠失症候群は重篤な心疾患により生命予後に大きな影響を与える

その他の重篤な微小欠失症候群:

  • 1 1p36欠失症候群:重度の知的障害、難治性てんかん、心疾患
  • 2 4p16欠失症候群(ウォルフ・ヒルシュホーン症候群):重度の発達遅滞、多発奇形、てんかん
  • 3 5p15欠失症候群(猫鳴き症候群):重度の知的障害、特徴的な泣き声、成長障害
医学的事実
  1. 欠失>重複:微小重複の臨床的な影響は同じ分節の欠失によるものと類似する傾向があるが、同じ分節の欠失と比べると重症度は低い
  2. 微小欠失症候群>トリソミー21(ダウン症):微小欠失症候群の多くで心疾患などの形態異常や、てんかんといった神経疾患、精神発達遅滞など複数の合併症が出現し、ダウン症と比較してより重篤
  3. 生物学的理由:遺伝子が完全に失われることによる「ハプロ不全」が、単純な遺伝子の数の増加よりも深刻な影響を与える

重篤な単一遺伝子疾患(疾患により重篤度は幅広い)

代表的な単一遺伝子疾患:

  • 1 ヌーナン症候群:主に合併する心疾患が生命予後に影響を与えるが、発症頻度は出生1000-2500名に1人で比較的多い
  • 2 骨形成不全症:生まれてすぐに死亡する周産期致死型から、生涯にわたり明らかな症状がなく偶然発見されるものまでと非常に幅広い
  • 3 軟骨無形成症:同年齢の平均寿命とほとんど変わりません。ただし、乳幼児期までは首の神経の圧迫による突然死の可能性があります
単一遺伝子疾患の特徴
  • 疾患による重篤度の差が非常に大きい:軽症から致死的まで幅広い
  • ヌーナン症候群:心疾患の重症度により予後が左右される
  • 骨形成不全症:II型(周産期致死型)は新生児期に死亡、I型は軽症
  • 軟骨無形成症:生命予後は比較的良好だが、合併症管理が重要

正しい理解のために

なぜこの比較が重要なのか

  • 1 意思決定の参考として:各疾患の特徴を理解することで、より適切な判断ができます
  • 2 心構えの準備:疾患ごとの特徴を知ることで、必要なサポート体制を考えることができます
  • 3 医学的事実の共有:感情的な判断ではなく、医学的事実に基づいた検討が可能になります

当院のサポート体制

検査前のカウンセリング

  • 臨床遺伝専門医による説明
  • 各疾患の特徴と予後について丁寧にご説明
  • ご夫婦の価値観を尊重した情報提供

検査後のフォロー

  • 陰性の場合:その後、超音波で異常が見つかった場合などは継続的にサポート(無料)
  • 陽性の場合:
  • 24時間体制での相談対応
  • 確定検査(羊水検査)の紹介とカトレア会による費用全額補助
  • 継続・中断に関わらず、医師による継続的なサポート

当院の特徴

  • 検査精度:今までのところ偽陰性率0%を実現
  • 検査範囲:業界最多の検査項目数
  • 専門性:臨床遺伝専門医による一貫したケア
  • アクセス:オンライン診療で全国対応

まとめ

NIPT検査で検出される疾患は、その重篤度において大きな差があります。重篤度の順序を医学的事実に基づいて整理すると:

疾患の重篤度ランキング

1位(最も重篤):トリソミー13・18

  • 生後1年以内の生存率:約10%
  • 多くが短期間での生命予後

2位:染色体微小欠失症候群

  • 22q11.2欠失症候群:重篤な心疾患により生命予後に大きな影響
  • その他の微小欠失症候群:重度の知的障害、難治性てんかん、多発奇形

3位:重篤な単一遺伝子疾患(疾患により大きく異なる)

  • 骨形成不全症II型(周産期致死型):新生児期に死亡
  • 重篤なヌーナン症候群:心疾患の重症度により生命予後に影響
  • ただし、軽症の単一遺伝子疾患はダウン症より軽い場合も多い

4位:微小重複症候群

  • 対応する欠失症候群より軽度だが、発達遅滞や軽度の障害

5位(相対的に軽度):ダウン症候群(トリソミー21)

  • 平均寿命:約60歳
  • 軽度から中等度の知的障害
  • 適切なサポートで社会参加可能

6位(最も軽度):性染色体異数性

  • 多くの場合、正常な発達と寿命
重要な医学的原理
  1. 欠失>重複:同じ染色体領域でも、欠失の方が重複よりも重篤
  2. 微小欠失症候群>ダウン症:部分的な遺伝子欠失の方が、染色体全体の増加よりも重篤な場合が多い
  3. 単一遺伝子疾患の多様性:軽症(ダウン症より軽い)から重篤(微小欠失症候群と同程度)まで幅広い
  4. 生物学的根拠:遺伝子の完全な欠失による「ハプロ不全」が最も深刻な影響を与える

性染色体異数性を除けば、ダウン症候群(トリソミー21)は相対的に予後が良好な疾患といえますが、微小欠失症候群はダウン症よりもはるかに重篤であることも重要なポイントです。また、単一遺伝子疾患は疾患により重篤度が大きく異なり、軽症のものはダウン症より軽く、重症のものは微小欠失症候群と同程度の重篤さになります。

どのような検査結果であっても、ご家族にとっては人生を左右する大切な決断となります。お子さんに何らかの疾患がある場合、日々のケアや将来への備えなど、ご家族が向き合う課題は決して軽いものではありません。しかし同時に、どのようなお子さんであっても、かけがえのない大切な存在であることに変わりはありません。

当院では、医学的事実を正確にお伝えしながら、ご夫婦それぞれの価値観、ご家族の環境、利用できるサポート体制などを総合的に考慮したカウンセリングを行っております。

検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるかは、最終的にはご夫婦の判断です。私たちは、その判断に必要な正確な情報提供と、どのような決断をされても継続的なサポートを提供いたします。

よくある質問(FAQ)

ダウン症候群は本当に軽い疾患なのでしょうか?

ダウン症候群は「軽い」疾患ではありません。知的障害や心疾患などの合併症があり、ご家族には様々な課題があります。ただし、他の染色体異常と比較すると「相対的に」予後が良好で、適切な医療とサポートにより社会参加が可能な場合が多いという意味です。

なぜ微小欠失症候群がダウン症より重篤なのですか?

遺伝子が完全に失われる「ハプロ不全」により、複数の臓器に重篤な異常が生じるためです。特に22q11.2欠失症候群では重篤な心疾患、免疫不全、てんかんなどが合併し、生命予後に大きな影響を与えます。一方、ダウン症は染色体全体の増加による症状で、欠失ほど深刻な影響は少ないとされています。

単一遺伝子疾患の重篤度が幅広いのはなぜですか?

単一遺伝子疾患は、異常のある遺伝子の機能や、変異の種類によって症状の重さが大きく異なります。例えば骨形成不全症では、II型は新生児期に致命的ですが、I型は軽症です。また軟骨無形成症は生命予後は良好ですが、ヌーナン症候群は合併する心疾患により予後が左右されます。

トリソミー13・18はなぜそんなに重篤なのですか?

13番・18番染色体には生命維持に重要な多数の遺伝子が含まれており、染色体全体が増加することで重篤な脳・心・腎異常が生じます。これらの臓器は生命維持に不可欠なため、多くの場合、生後1年以内という短期間で生命予後となります。21番染色体(ダウン症)より生命維持に重要な遺伝子が多いことが原因です。

性染色体異数性が最も軽度とされる理由は?

性染色体は「X染色体の不活化」という仕組みにより、多くの場合で遺伝子量のバランスが保たれるためです。そのため、クラインフェルター症候群やトリプルX症候群などは、軽度の学習困難や身長の変化はあっても、多くの場合で正常な寿命と発達が期待できます。

この重篤度ランキングは絶対的なものですか?

いいえ、あくまで一般的な傾向に基づく相対的な比較です。同じ疾患でも症状の重さには個人差があり、軽症の微小欠失症候群もあれば、合併症の多いダウン症もあります。また、医療の進歩により予後は改善される可能性があります。この情報は参考として、最終的な判断は専門医との相談が重要です。

NIPT検査でこれらの疾患が陽性だった場合の対応は?

まず重要なのは、NIPTは非確定的検査であり、陽性でも偽陽性の可能性があることです。確定検査(羊水検査など)で正確な診断を行い、疾患の詳細を把握してから、ご夫婦で十分に話し合うことが大切です。どのような決断をされても、継続的なサポートを提供いたします。

疾患の重篤度以外に考慮すべき要因はありますか?

はい、多くの要因があります。ご家族の価値観、経済状況、利用できるサポート体制、他の子どもの存在、地域の医療・教育環境など、総合的な検討が必要です。また、どのようなお子さんでもかけがえのない存在であることも重要な観点です。医学的事実は判断材料の一つとしてお考えください。

重篤な疾患でも出産・育児を選択される方はいますか?

はい、疾患の重篤度に関わらず、出産・育児を選択されるご家族も多くいらっしゃいます。短い時間であっても大切な命との時間を過ごしたい、どのような状態でも我が子として愛したいという価値観をお持ちの方もいます。どのような選択も尊重されるべきものです。

この情報を家族にどう説明すればよいですか?

医学的事実を正確に伝えることは大切ですが、専門的すぎる説明は混乱を招く場合があります。まずは信頼できる医師から詳しい説明を受け、ご夫婦で理解を深めてから、必要に応じて家族に相談することをお勧めします。感情的な議論にならないよう、客観的な情報に基づいた話し合いが重要です。

ミネルバクリニックでのNIPTをお考えの方へ

ミネルバクリニックでは、遺伝専門医によるカウンセリングを実施しております。

疑問や不安がございましたら、お気軽にご相談ください。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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