目次
夫婦染色体検査は、ご夫婦それぞれの血液から染色体を取り出し、数や形に変化がないかを調べる検査です。流産や死産を2回以上くり返す不育症で行われ、流産の原因の一つになる「均衡型転座(きんこうがたてんざ)」などの構造の変化がないかを確認します。不育症のご夫婦のうち、どちらかにこうした変化が見つかるのは数%です。見つかった場合でも、ご本人の健康には通常影響がなく、自然妊娠で出産に至るご夫婦も少なくありません。この記事では、夫婦染色体検査でわかること・わからないこと、見つかる割合、保険適用と費用、結果が出たあとの選択肢を、臨床遺伝専門医の立場から解説します。
Q. 夫婦染色体検査で何がわかりますか?
A. 染色体の本数の異常と、染色体の一部が入れ替わる「転座」や向きが逆になる「逆位」などの構造の変化がわかります。採血したリンパ球を培養し、Gバンド法という方法で染色体の縞模様を観察します。構造の変化があっても遺伝情報の過不足がない「均衡型」であれば、ご本人は通常健康です。ただし、精子や卵子ができるときに遺伝情報が過不足した受精卵ができやすくなり、流産の原因になることがあります。
- ➤わかること → 染色体の数の異常、均衡型転座・逆位などの構造の変化
- ➤見つかる割合 → 不育症の夫婦で数%(日本の研究では3.6〜3.7%前後)
- ➤費用 → 不育症の診療として行う場合は保険適用。自治体の助成制度もある
- ➤見つかったら → 自然妊娠での出産も多く、着床前検査(PGT-SR)は選択肢の一つ
1. 夫婦染色体検査とは?不育症で調べる理由
夫婦染色体検査は、流産をくり返す原因のうち「夫婦側の染色体の構造の変化」があるかどうかを確かめるための検査です。流産の原因を考えるときには、赤ちゃん(受精卵)の側で偶然に起こる染色体の変化と、ご夫婦のどちらかがもともと持っている染色体の変化とを分けて考える必要があります。夫婦染色体検査が調べるのは後者です。
流産の多くは「赤ちゃん側」の偶発的な染色体異常
妊娠初期の流産の約半数は、赤ちゃん(胎児)側の染色体異常によるものです。米国産科婦人科学会(ACOG)の診療指針は、初期流産の約50%が胎児の染色体異常によると述べています[1]。その多くは、染色体が1本多い(トリソミー)、1本少ない(モノソミー)といった数の異常です。
こうした数の異常は、精子や卵子がつくられる減数分裂のときに、染色体が正しく分かれずに起こることがほとんどです。ご夫婦の染色体が正常でも起こり、その受精卵ごとに偶然生じるため、次の妊娠でも同じことが起こるとは限りません。特に卵子では年齢とともに起こりやすくなり、臨床的に確認される流産の頻度は20〜30歳で9〜17%、35歳で20%、40歳で40%、45歳で80%と報告されています[1]。卵子で数の異常が増える仕組みは卵子で起こる染色体の数の異常(異数性)で詳しく解説しています。
つまり、流産を経験したからといって、すぐにご夫婦のどちらかに原因があるとは限りません。1回の流産の多くは、この「赤ちゃん側の偶然」で説明できます。
流産をくり返すときに調べる「夫婦側」の構造異常
流産や死産を2回以上くり返す状態を不育症といい、その原因の一つとして夫婦の染色体の構造異常を調べます。日本の「不育症管理に関する提言2021」は、2回以上の流死産の既往がある場合を不育症とし、妊娠反応だけが陽性になって超音波で胎嚢が確認できない生化学的妊娠(化学流産)は回数に数えないとしています[2]。欧州ヒト生殖学会(ESHRE)のガイドラインも、2回以上の妊娠の喪失を反復流産と定義しています[3]。
ご夫婦のどちらかに、染色体の一部が別の染色体と入れ替わった「均衡型転座」などがあると、ご本人は健康でも、精子や卵子ができるときに染色体の一部が多すぎたり足りなかったりする受精卵ができやすくなります。こうした受精卵の多くは育つことができず、流産につながります。偶然の流産とは違い、妊娠のたびに同じしくみが働くため、流産がくり返されやすくなるのです。
不育症のほかのリスク因子との位置づけ
夫婦の染色体構造異常は、不育症のリスク因子のうちの一つにすぎず、検査をしても半数以上のご夫婦ではリスク因子が見つかりません。日本の研究班が1,340例を調べた結果では、リスク因子の頻度は次のとおりでした[2]。
📊 不育症のリスク因子の頻度(日本・1,340例)
| リスク因子 | 頻度 | 内容 |
|---|---|---|
| 甲状腺機能異常 | 9.5% | 甲状腺ホルモンの過不足 |
| 抗リン脂質抗体陽性 | 8.7% | 血栓ができやすくなる自己抗体 |
| 子宮形態異常 | 7.9% | 中隔子宮など子宮の形の変化 |
| 第XII因子欠乏症 | 7.6% | 血液凝固に関わる因子の低下 |
| プロテインS欠乏症 | 4.3% | 血栓ができやすくなる体質 |
| 夫婦染色体構造異常 | 3.7% | 均衡型転座など |
| リスク因子不明 | 65.2% | 偶然の流産のくり返しを含む |
※「不育症管理に関する提言2021」[2]による。重複があるため合計は100%になりません。
💡 用語解説:抗リン脂質抗体症候群
抗リン脂質抗体症候群は、細胞膜の成分であるリン脂質やそれに結合するタンパク質に対する自己抗体ができ、血管の中で血栓ができやすくなる病気です。胎盤の血流が妨げられることで、流産や死産、妊娠高血圧症候群などの原因になると考えられています。不育症の検査では、血液検査でこの抗体の有無を調べます。染色体の検査とは別の検査で、原因が見つかった場合は抗凝固療法などの治療の対象になります。
「リスク因子不明」が6割を超えるのは、検査で見つけられる原因がないまま、赤ちゃん側の偶然の染色体異常による流産が重なったご夫婦が多く含まれるためと考えられています。不育症全体の定義や検査の種類は不育症とはで、リスク因子ごとの詳しい説明は不育症のリスク因子の解説で扱っています。
2. 夫婦染色体検査でわかること・わからないこと
夫婦染色体検査でわかるのは、顕微鏡で見分けられる大きさの、染色体の数と構造の変化です。一方で、ごく小さな欠失や重複、1つの遺伝子の中の変化はこの検査ではわかりません。検査の方法と、わかる範囲・わからない範囲を順に説明します。
Gバンド法(G分染法)で見るもの
夫婦染色体検査は、採血した血液のリンパ球を培養し、Gバンド法で染色体を観察する検査です。染色体は細胞が分裂するときにだけ棒状に凝縮して見えるため、採血したリンパ球を数日間培養して分裂させ、その途中で細胞分裂を止めて標本をつくります。
この標本を特殊な色素で染めると、染色体ごとに決まった縞模様(バンド)が現れます。これがGバンド法(G分染法)です。縞模様の並び方を比べることで、1番から22番までの常染色体と性染色体(XとY)を見分け、本数が合っているか、一部が欠けたり入れ替わったりしていないかを判断します。
結果は「46,XX」(女性)「46,XY」(男性)のように、染色体の総数と性染色体の組み合わせで表されます。この表し方を核型といいます。転座などが見つかった場合は、どの染色体のどの位置で入れ替わっているかが、決まった記号で書き加えられます。培養が必要なため、結果が出るまでには通常数週間かかります。
均衡型と不均衡型の違い:保因者本人は健康
染色体の構造の変化には、遺伝情報の過不足がない「均衡型」と、過不足がある「不均衡型」があります。夫婦染色体検査で見つかるのは、ほとんどが均衡型です。
均衡型では、染色体の一部が入れ替わったり向きが変わったりしていても、遺伝情報の総量は変わりません。そのため、均衡型の構造異常を持つ方(保因者)は通常健康で、見た目や体調からは気づくことができません。流産をくり返して初めて検査を受け、わかることが多いのはこのためです。
一方、不均衡型では染色体の一部が多すぎたり足りなかったりするため、流産の原因になったり、生まれた場合には発達や体のつくりに影響が出たりすることがあります。均衡型の保因者から精子や卵子がつくられるとき、染色体の分かれ方によっては、受精卵が不均衡型になることがあります。これが、均衡型の保因者で流産がくり返されるしくみです。
🧬 均衡型と不均衡型の違い
| 項目 | 均衡型 | 不均衡型 |
|---|---|---|
| 遺伝情報の量 | 過不足なし | 一部が多い・足りない |
| 持っている人の健康 | 通常は影響なし | 流産・先天的な症状の原因になりうる |
| 見つかるきっかけ | 流産のくり返し・不妊・家族の検査 | 流産組織の検査・出生前検査・出生後の検査 |
| 夫婦染色体検査で | 見つかる対象の中心 | 健康な成人ではまれ |
※均衡型でも、入れ替わった切れ目で遺伝子が壊れているなど、まれに症状を伴う例があるため「通常は」としています。
均衡型・不均衡型それぞれの分類や具体例は、均衡型構造異常と不均衡型構造異常の解説にまとめています。
見つかる主な3タイプ:相互転座・ロバートソン転座・逆位
不育症と関わりが深いのは、相互転座、ロバートソン転座、逆位の3つです。2万組以上の夫婦を集計した研究でも、流産のくり返しと関連していたのは転座(相互転座とロバートソン転座)と逆位だったと報告されています[4]。
相互転座は、2本の異なる染色体がそれぞれ途中で切れ、切れた先の部分を交換した状態です。どの染色体のどこで入れ替わるかは家系ごとに異なり、組み合わせは無数にあります。精子や卵子ができるとき、入れ替わった2本とそれぞれの相手の染色体が十字形に対をつくるため分かれ方が複雑になり、不均衡型の受精卵ができやすくなります。
ロバートソン転座は、13・14・15・21・22番という、腕の片方がとても短い染色体どうしが、動原体(セントロメア)の近くでつながって1本になった状態です。染色体の総数は45本になりますが、失われる短い腕には重要な遺伝子がほとんどないため、ご本人は通常健康です。詳しくはロバートソン転座の解説をご覧ください。
💡 用語解説:逆位(ぎゃくい)
逆位は、1本の染色体の中で2か所が切れ、その間の部分が180度向きを変えてつながった状態です。切れた2か所がセントロメアをはさんでいる場合を腕間逆位、同じ腕の中にある場合を腕内逆位といいます。遺伝情報の量は変わらないため、持っている方は通常健康です。ただし精子や卵子ができるときに相手の染色体と対をつくる過程で組換えが起こると、一部が重複したり欠けたりした染色体ができることがあり、流産の原因になりえます。
この検査ではわからないこと
Gバンド法では、顕微鏡で見分けられないほど小さな欠失や重複、1つの遺伝子の中の変化はわかりません。縞模様で判断する方法のため、おおむね数百万塩基より小さい変化は見落とされます。より細かい欠失・重複を調べるには染色体マイクロアレイなどの別の検査が必要ですが、均衡型の転座や逆位は遺伝情報の量が変わらないため、マイクロアレイでは逆に見つけることができません。目的に応じて検査を使い分けます。
また、夫婦染色体検査で調べるのは血液の細胞の染色体で、精子や卵子一つひとつの染色体や、これから授かる受精卵の染色体を調べるものではありません。結果が正常でも、第1章で説明した赤ちゃん側の偶然の染色体異常による流産を防げるわけではない点にも注意が必要です。
3. 夫婦に染色体異常が見つかる確率
均衡型の構造異常を持つ人は一般に約500人に1人とされ、不育症のご夫婦ではどちらかに見つかる割合が数%に上がります。新生児を調べた研究では、均衡型の構造異常はおよそ500人に1人の頻度で見られました[5]。これに対し、流産をくり返すご夫婦を対象にした研究では、次のような割合が報告されています。
📊 夫婦に染色体の構造異常が見つかる割合
※対象の選び方(流産回数、年齢、流産組織の検査結果の有無など)によって割合は変わります。
報告によって数字に幅があるのは、対象となるご夫婦の条件が研究ごとに違うためです。流産の回数が多いほど構造異常が見つかりやすいという関係も示されています[4]。また、流産組織の検査で異常が見つかっていない、いわば選ばれていないご夫婦では割合が1%に満たなかったという報告もあります[7]。
保因者は女性に多く、男女比はおおむね2対1と報告されています[7]。構造異常の分布に男女差があることは、古い集計でも指摘されていました[4]。男性の保因者では精子がつくられにくくなることがあり、流産より先に不妊として見つかる場合があるためと考えられています。
⚠️ 数字の読み方の注意
ここで紹介した割合は、多くのご夫婦を集めた集団での値です。「3.6%」という数字は、ご自身が保因者である確率をそのまま表すものではありません。流産の回数や時期、流産組織の検査結果、ご家族の既往などによって、一人ひとりの見込みは変わります。
🩺 院長コラム【「数%」をどう受け止めるか】
不育症のご夫婦で転座が見つかる割合は数%です。この数字は「ほとんどの方は染色体に異常がない」と読むこともでき、「くり返す流産の一部には、はっきりした理由がある」と読むこともできます。どちらも正しい読み方です。
大切なのは、この検査が「原因を探す検査」であって、結果によってご夫婦の価値が決まるものではないということです。見つかれば次の妊娠に向けた選択肢を具体的に考えられ、見つからなければ別の可能性に目を向けることができます。検査の意味を事前に理解してから受けることが、結果を落ち着いて受け止める助けになると考えています。
4. 検査を受けるタイミング
夫婦染色体検査は、流産や死産を2回以上経験し、不育症の検査を進める段階で検討されます。流産組織の染色体検査を受けている場合は、その結果が夫婦の検査を受けるかどうかの判断材料になります。
対象になるのは流産2回以上など
日本の提言2021は、夫婦染色体検査を不育症の「推奨検査」に位置づけています。ただし、検査を強要してはならず、検査の意味や結果が出たときの影響について十分な説明を行い、同意を得たうえで実施するとしています[2]。
一方、ESHREのガイドラインは、すべての反復流産のご夫婦に一律に行うのではなく、流産組織に不均衡型の構造異常が見つかった場合や、先天的な症状のあるお子さんが生まれた経験がある場合など、個別にリスクを評価したうえで行う立場をとっています[7]。日本と欧州で推奨の強さは異なりますが、どちらも「検査の目的を理解したうえで、ご夫婦が受けるかどうかを決める」という点は共通しています。
このほか、転座などの染色体異常がご家族の中で見つかっている場合や、不妊の検査の過程で必要と判断された場合にも検査が行われます。
流産絨毛の染色体検査(POC)との順番
流産した組織(絨毛)の染色体を調べる検査で結果が得られていれば、その内容が夫婦の検査の必要性を考える手がかりになります。提言2021はこの検査も推奨検査としており、2021年4月から先進医療として実施できるようになりました[2]。さらに2022年度の診療報酬改定で、流産検体を用いた絨毛染色体検査が保険の対象に加わりました[8]。保険で行えるのは、自然流産の既往があり流産手術を受けた方に、Gバンド法で検査した場合で、届出をした医療機関に限られます[9]。
💡 用語解説:流産絨毛染色体検査(POC)
流産絨毛染色体検査は、流産手術で得られた胎盤のもとになる組織(絨毛)の細胞を培養し、赤ちゃん側の染色体を調べる検査です。英語の products of conception(受胎産物)の頭文字からPOC検査とも呼ばれます。トリソミーなどの数の異常が見つかれば、その流産は赤ちゃん側の偶然の異常によるものと考えられます。培養がうまくいかない場合や、お母さん側の細胞が混ざって正確な判定ができない場合もあります。
流産組織の結果は、次のように夫婦の検査の判断につながります。数の異常が見つかった場合は偶然の流産と考えられ、夫婦の検査の必要性は相対的に下がります。反対に、不均衡型の構造異常(転座に由来する染色体の一部の過不足など)が見つかった場合は、ご夫婦のどちらかが均衡型の保因者である可能性があるため、夫婦染色体検査を行う意味が大きくなります。
夫婦そろって受ける意味と、片方だけ受ける場合
夫婦染色体検査は、どちらか一方だけでも受けられますが、原因を確かめるにはお二人とも受けることが基本です。転座は夫と妻のどちらが持っていても流産の原因になりうるため、片方だけが正常でも、もう片方の結果がわからなければ「夫婦側の染色体の原因はない」とは言えません。
また、転座が見つかった場合、保因者が夫か妻かによって、次の妊娠での見込みや、出生前検査・着床前検査の考え方が変わることがあります。お二人の結果がそろって初めて、具体的な見通しを立てることができます。
ただし、検査を受けるかどうか、結果をどこまで共有するかは、ご夫婦それぞれの意思が尊重されるべき事柄です。受ける前に、保因者だった場合に誰へどう伝えるかをお二人で話し合っておくことをおすすめします。この点は第9章で詳しく触れます。
5. 費用と保険適用・助成制度
夫婦染色体検査は、不育症の診療として医師が必要と判断して行う場合は保険適用になり、3割負担で1人あたり数千円程度です。自費で行う医療機関もあり、その場合は医療機関ごとに費用が異なります。さらに、自治体によっては不育症の検査費用の助成制度があります。
保険適用の条件と自己負担の目安
執筆時点(2026年9月)の診療報酬点数表では、Gバンド法による染色体検査は「その他の場合」2,444点に分染法加算386点を加えた2,830点で、3割負担の場合、検査料だけで1人あたり約8,500円です。これに初診料・再診料、検査結果の判断料などが加わります。同じ区分の染色体検査ではFISH法は2,477点、流産検体を用いた絨毛染色体検査は4,465点で、ギムザ分染法を行う場合は分染法加算386点が加わります[9]。
保険適用になるのは、流産をくり返しているなど、医学的に検査が必要と判断された場合です。結婚前のチェックなど、診療上の必要がない目的で受ける場合は保険の対象になりません。なお、診療報酬の点数は2年ごとの改定で見直されるため、実際の金額は受診する医療機関で確認してください。
💴 染色体検査の点数と自己負担の目安(2026年9月時点)
| 検査 | 点数 | 3割負担の目安(検査料のみ) |
|---|---|---|
| 夫婦染色体検査(Gバンド法) | 2,830点(2,444点+分染法加算386点) | 1人あたり約8,500円 |
| FISH法による染色体検査 | 2,477点 | 約7,400円 |
| 流産検体の絨毛染色体検査 | 4,851点(4,465点+分染法加算386点) | 約14,600円 |
※点数は診療報酬点数表D006-5[9]による。Gバンド法および流産検体のギムザ分染法では分染法加算386点を含めて計算しています。1点=10円、3割負担で概算。初診料・判断料などは別途かかります。
自費で受ける場合
保険診療を行っていない医療機関や、保険の条件に当てはまらない目的で受ける場合は、自費での検査になります。自費の料金は医療機関ごとに設定されているため、事前に確認が必要です。検査料とは別に、結果の説明のための遺伝カウンセリング料がかかる場合もあります。
ミネルバクリニックの染色体検査(Gバンド法)は自費診療で、検査費用は88,000円(税込)、遺伝カウンセリング料は30分22,000円(税込)です。結果は臨床遺伝専門医が説明し、結果が出るまでの期間は約1か月です。ご夫婦で同じ検査を同じ日に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分となります(検査費用の割引はありません)。検査の詳細は染色体検査(Gバンド法)のページをご覧ください。
自治体の不育症検査助成
東京都は、夫婦染色体検査を含む不育症の検査費用について、夫婦1組あたり5万円を上限に助成しています。対象は、2回以上の流産・死産の既往がある方、または医師に不育症と判断された方で、検査開始時に妻が43歳未満であることが条件です。所得制限はありません。対象となる検査には、子宮形態検査、内分泌検査、夫婦染色体検査、抗リン脂質抗体、血栓性素因スクリーニング、絨毛染色体検査などが含まれ、助成は夫婦1組につき1回です。先進医療として告示された不育症検査には、別に上限額が定められています[10]。
ほかの自治体でも同様の助成を行っている場合がありますが、対象となる検査や年齢、申請の期限は自治体ごと・年度ごとに異なります。検査を受ける前に、お住まいの自治体の窓口やホームページで最新の条件を確認しておくと、申請の漏れを防げます。
6. 結果が「異常なし」だったら
夫婦染色体検査で異常がなかった場合、ご夫婦側の染色体が流産の原因になっている可能性は低いと考えられます。ただし、それで流産の原因がすべて否定されるわけではありません。
まず、第1章で説明したとおり、流産の約半数は赤ちゃん側の偶然の染色体異常によるもので[1]、ご夫婦の染色体が正常でも起こります。特に女性の年齢が上がると、卵子の染色体の数の異常が増えるため、流産の頻度も高くなります。夫婦の検査が正常でも、この偶然の流産が重なることは十分にありえます。
次に、染色体以外のリスク因子として、抗リン脂質抗体、子宮の形、甲状腺機能、血液の固まりやすさなどがあります。提言2021でも、これらを含めた検査を行ってもリスク因子が見つからないご夫婦が65.2%を占めています[2]。リスク因子が見つからないことは、次の妊娠の見通しが悪いことを意味しません。日本の多施設研究では、染色体が正常なご夫婦の78.7%が、診断後の最初の妊娠で出産に至っていました[6]。
異常がなかった場合は、ほかのリスク因子の検査結果とあわせて、主治医と次の妊娠に向けた方針を相談していくことになります。
7. 均衡型転座が見つかった場合の妊娠・出産の見通し
均衡型転座が見つかっても、自然妊娠で出産に至るご夫婦は多く、流産をくり返しながらも最終的に出産できる割合は6〜7割程度と報告されています。選択肢としては、自然妊娠を続けて必要に応じて出生前検査を受ける方法と、体外受精で得た受精卵を調べて移植する着床前検査(PGT-SR)があります。
自然妊娠での出産率と累積の生児獲得率
相互転座の保因者では、診断後最初の妊娠で出産した割合は31.9%でしたが、その後の妊娠も含めると68.1%が出産に至りました。これは日本の研究で、相互転座の保因者47組を追跡した結果です[11]。流産をくり返しやすいことは事実ですが、妊娠を重ねることで出産できるご夫婦が多いことを示しています。
2,382組を対象にした日本の多施設研究では、相互転座の保因者で妊娠した46組のうち63.0%が、診断後最初の妊娠で出産しました。染色体が正常なご夫婦の78.7%と比べると低い値でしたが、出産できた29例のなかに不均衡型の転座を持つお子さんはいませんでした[6]。最初の妊娠での出産率が研究によって31.9%と63.0%と異なるのは、対象のご夫婦の条件や時期が違うためで、どちらか一方の数字に決めることはできません。
ロバートソン転座の保因者では、診断後最初の妊娠で出産した割合が、染色体が正常なご夫婦と差がなかったと報告されています[12]。いずれも集団での値であり、どの染色体のどの位置での転座か、保因者が夫か妻か、女性の年齢などによって、個々の見込みは変わります。
選択肢①:自然妊娠と、必要に応じた出生前検査
一つめの選択肢は、特別な治療をせずに自然妊娠をめざし、妊娠した場合に必要に応じて出生前検査で赤ちゃんの染色体を確かめる方法です。ここまで紹介したように、自然妊娠でも累積では多くのご夫婦が出産に至っています。
妊娠が続いた場合は、赤ちゃんが不均衡型の転座を持っていないかを、絨毛検査・羊水検査で確かめることができます。これらは赤ちゃん側の細胞で染色体を直接調べる確定検査で、ご両親の転座と同じ部位を確認できます。一方で、わずかながら流産のリスクを伴うため、受けるかどうかは検査の目的と負担を踏まえてご夫婦で決めることになります。転座の種類によって確認すべき点や適した検査が異なるため、事前に臨床遺伝専門医と検討しておくことが大切です。
選択肢②:PGT-SR(着床前検査)
二つめの選択肢は、体外受精で得た受精卵の染色体を調べ、構造の過不足がないと判断された受精卵を移植するPGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)です。体外受精が前提となり、受精卵から一部の細胞を取って検査します。
日本の研究で、転座に伴う不育症のご夫婦についてPGT-SRを受けた37組と自然妊娠を選んだ52組を比べたところ、累積の出産率はPGT-SRで67.6%、自然妊娠で65.4%と差がありませんでした。一方、その後の流産の回数はPGT-SRのほうが有意に少なく、出産までの期間は平均12.4か月と11.4か月で差はありませんでした[13]。
つまり、PGT-SRは流産をくり返す負担を減らせる可能性がある一方で、出産できる割合そのものを高めるとは示されていません。体外受精に伴う身体的・経済的な負担もあります。提言2021も、PGT-SRを「治療の選択肢の一つ」とし、メリットとデメリットの説明が必要だとしています[2]。検査の仕組みや対象、費用についてはPGT-SRの解説で詳しく扱っています。
⚖️ 自然妊娠とPGT-SRの比較(転座を伴う不育症・日本の研究)
| 項目 | 自然妊娠 | PGT-SR |
|---|---|---|
| 累積の出産率 | 65.4% | 67.6% |
| その後の流産 | 多い | 有意に少ない |
| 出産までの期間(平均) | 11.4か月 | 12.4か月 |
| 体外受精 | 不要 | 必要(身体的・経済的負担あり) |
※Ikumaらの研究[13]による。対象はPGT-SR 37組、自然妊娠52組で、年齢と流産歴をそろえて比較しています。
生まれてくる子どもへの影響
均衡型転座の保因者から生まれるお子さんは、染色体が正常な場合、ご両親と同じ均衡型の保因者である場合、まれに不均衡型である場合があります。不均衡型の受精卵の多くは流産に終わるため、生まれてくる可能性は高くありませんが、その確率は転座の種類や関わる染色体、保因者が父親か母親かによって大きく異なり、一律の数字で示すことはできません。
均衡型の保因者として生まれたお子さんは、ご両親と同じく通常は健康ですが、将来ご自身が子どもを望むときに、同じように流産のくり返しを経験する可能性があります。保因者の精子や卵子で染色体がどのように分かれるかは、保因者から生まれる子どもの染色体の解説で詳しく説明しています。
ロバートソン転座のうち21番染色体が関わるものでは、21番染色体の長い腕が1本分多くなる「転座型ダウン症」のお子さんが生まれる可能性があります。この場合の再発率は、保因者が父親か母親かによって異なります。詳しくは転座型ダウン症の再発率の解説をご覧ください。
🩺 院長コラム【PGT-SRは「近道」とは限らない】
転座が見つかると、「受精卵を調べれば早く確実に出産できるのでは」と考えるのは自然なことです。けれども日本の研究が示すように、PGT-SRで減らせるのは主に流産の回数で、最終的に出産できる割合や出産までの期間は、自然妊娠と大きく変わりませんでした。
流産をくり返す心身の負担を避けたいのか、体外受精の負担を避けたいのか、女性の年齢や費用をどう考えるのか。どちらが正しいという答えはなく、ご夫婦の状況と価値観によって選ぶものだと考えています。データの意味を正確に知ったうえで選ぶことが大切です。
8. 転座はなぜ起こる?「誰のせいでもない」理由
生まれつき持っている均衡型転座は、親から受け継いだものか、精子や卵子ができる過程で新しく生じたものです。生活習慣や妊娠中の過ごし方が原因でできるものではありません。
親から受け継いだ転座の場合、ご両親のどちらかも同じ均衡型の保因者で、さらにその前の世代から代々受け継がれていることもあります。保因者は通常健康なため、家系の中で誰も気づかないまま受け継がれ、流産のくり返しをきっかけに初めてわかることが少なくありません。
一方、ご両親はどちらも正常で、ご本人の代で新しく生じた転座もあります。親から受け継がない新しい変化を新生突然変異といいます。新しく生じた均衡型の相互転座27例の由来を調べた研究では、26例が父親由来で、父親の年齢が高いことと関連していました。この研究では、転座の多くが精子のもとになる細胞(精原細胞)が分裂をくり返す段階で生じると考えられています[14]。いずれにしても、偶然に起こる変化で、ご本人や親の行動によって防げるものではありません。
なお、放射線や一部の化学物質によって染色体が切れ、転座が起こることも知られていますが、これは体の一部の細胞に後から生じるもので、白血病などのがん細胞に見られる転座がその例です。こうした後天的な転座は、生まれつき全身の細胞が持っている均衡型転座とは別のもので、夫婦染色体検査で見つかる転座の原因を説明するものではありません。
9. 結果を夫婦・家族でどう共有するか
転座が見つかった場合、その情報はご本人だけでなく、配偶者やご家族にも関わる遺伝情報です。だからこそ、誰に、どこまで伝えるかを慎重に考える必要があります。提言2021も、夫婦染色体検査では十分な説明と同意が必要だとしています[2]。
どちらが保因者かを伝えるかどうか
検査を受けたご夫婦には、転座が見つかった場合に「夫と妻のどちらが保因者か」まで知るかどうか、という選択があります。保因者が夫か妻かは、次の妊娠の見込みや出生前検査・着床前検査の考え方に関わるため、医療上は知っておくことに意味があります。一方で、その情報がご夫婦の関係や、それぞれのご家族との関係に影響するのではと心配される方もいます。
第8章で説明したように、転座は受け継いだものであれ新しく生じたものであれ、誰かの行動の結果ではありません。保因者であることは、責められるべきことでも、恥じるべきことでもありません。そのうえで、結果をどのように受け取り、どのように共有するかは、検査を受ける前にお二人で話し合って決めておくことをおすすめします。
きょうだいや親への影響(血縁者も保因者の可能性)
転座が親から受け継いだものであれば、ご本人のきょうだいも同じ転座の保因者である可能性があります。また、ご両親のどちらかが保因者であることもわかります。血縁者の方が将来子どもを望むときに流産をくり返す可能性があるため、情報を伝えることで、その方が必要に応じて検査を受ける判断材料になります。
ただし、血縁者に伝えるかどうか、いつ、どのように伝えるかは、ご本人が決めることです。伝えられた側にも「知りたくない」という意思がありえます。どのような影響があるかを整理したうえで判断するために、遺伝カウンセリングの場で、臨床遺伝専門医から情報を得ることができます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 夫婦染色体検査は夫だけ・妻だけでも受けられますか?
はい、どちらか一方だけでも受けられます。ただし、転座は夫と妻のどちらが持っていても流産の原因になりうるため、夫婦側の染色体に原因があるかどうかを確かめるには、お二人とも受けることが基本です。
Q2. 夫婦染色体検査は保険適用になりますか?
流産をくり返しているなど、不育症の診療として医師が必要と判断した場合は保険適用になります。執筆時点(2026年9月)の点数表では、Gバンド法の染色体検査は「その他の場合」2,444点に分染法加算386点を加えた2,830点で、3割負担なら検査料だけで1人あたり約8,500円です。自費で行う医療機関もあり、自治体の助成制度が使える場合もあります。
Q3. 結果が出るまでどのくらいかかりますか?
血液のリンパ球を培養してから染色体を観察するため、通常は数週間かかります。ミネルバクリニックの染色体検査(Gバンド法)では、結果が出るまで約1か月です。
Q4. 均衡型転座があると、生まれてくる子どもに障害が出ますか?
必ずしもそうではありません。生まれてくるお子さんは、染色体が正常な場合、ご両親と同じ均衡型の保因者で通常は健康な場合、まれに不均衡型である場合があります。不均衡型の可能性は転座の種類や保因者が父親か母親かで大きく異なり、心配な場合は絨毛検査・羊水検査で妊娠中に確かめることができます。
Q5. ブライダルチェックの保因者検査で転座はわかりますか?
遺伝子の保因者検査(キャリアスクリーニング)は、1つの遺伝子の変化による病気の保因者かどうかを調べる検査で、染色体の転座を調べる目的の検査ではありません。転座の有無を調べるには、Gバンド法による染色体検査が必要です。
まとめ
夫婦染色体検査は、流産や死産を2回以上くり返す不育症で、ご夫婦の染色体に均衡型転座などの構造の変化がないかを調べる検査です。採血したリンパ球をGバンド法で観察し、染色体の数と大きな構造の変化がわかりますが、ごく小さな欠失や1つの遺伝子の変化はわかりません。流産の約半数は赤ちゃん側の偶然の染色体異常によるもので[1]、夫婦に構造異常が見つかるのは不育症のご夫婦の数%です[2][6]。
不育症の診療として行う場合は保険適用になり、自治体の助成制度もあります。転座が見つかっても、自然妊娠で累積6〜7割のご夫婦が出産に至っており[11]、PGT-SRは流産を減らせる一方で出産率を高めるとは示されていない選択肢の一つです[13]。転座は誰かのせいで起こるものではありません。検査の意味と結果の受け止め方を事前に理解し、ご夫婦で方針を決めていくことが大切です。
ミネルバクリニックの染色体検査(Gバンド法)
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングのうえで、染色体検査(Gバンド法)を自費診療で行っています。紹介状は必要ありません。結果は臨床遺伝専門医が説明し、転座が見つかった場合の妊娠の見通しや、出生前検査・着床前検査の考え方についてもあわせて説明します。
🏥 染色体検査(Gバンド法)・遺伝カウンセリングのご予約
流産をくり返し、ご夫婦の染色体検査(Gバンド法)を検討している方は、遺伝カウンセリングのうえで検査を受けていただけます。検査費用・所要期間は検査ページでご確認いただけます。
参考文献
- [1] ACOG Practice Bulletin No. 200: Early Pregnancy Loss. Obstet Gynecol. 2018. [PubMed 30157093]
- [2] 「不育症管理に関する提言」改訂委員会. 不育症管理に関する提言2021. [PDF]
- [3] ESHRE guideline: recurrent pregnancy loss: an update in 2022. Hum Reprod Open. 2023;2023(1):hoad002. [PubMed 36873081]
- [4] De Braekeleer M, Dao TN. Cytogenetic studies in couples experiencing repeated pregnancy losses. Hum Reprod. 1990;5(5):519-528. [PubMed 2203803]
- [5] Estimates of the frequency of chromosome abnormalities detectable in unselected newborns using moderate levels of banding. J Med Genet. 1992. [PubMed 1613759]
- [6] Sugiura-Ogasawara M, et al. Subsequent pregnancy outcomes in recurrent miscarriage patients with a paternal or maternal carrier of a structural chromosome rearrangement. J Hum Genet. 2008;53:622-628. [J Hum Genet]
- [7] The Value of Parental Karyotyping in Recurrent Pregnancy Loss Lies in Individual Risk Assessments. Medicina. 2024;60(11):1778. [MDPI]
- [8] 医学検査のあゆみ 令和4年度診療報酬改定(検査領域について). モダンメディア. 2022;68(11). [PDF]
- [9] D006-5 染色体検査(全ての費用を含む。). 今日の臨床サポート 診療報酬点数表. [今日の臨床サポート]
- [10] 東京都福祉局. 不育症検査助成事業の概要. [東京都福祉局]
- [11] Sugiura-Ogasawara M, et al. Poor prognosis of recurrent aborters with either maternal or paternal reciprocal translocations. Fertil Steril. 2004. [PubMed 14967375]
- [12] 名古屋市立大学医学部 産科婦人科学教室. 夫婦のどちらかの染色体均衡型転座. [名古屋市立大学]
- [13] Ikuma S, et al. Preimplantation Genetic Diagnosis and Natural Conception: A Comparison of Live Birth Rates in Patients with Recurrent Pregnancy Loss Associated with Translocation. PLoS One. 2015. [PLoS One]
- [14] Thomas NS, et al. De novo apparently balanced translocations in man are predominantly paternal in origin and associated with a significant increase in paternal age. J Med Genet. 2010;47(2):112-115. [PubMed 19638350]





