目次
- 1 1. NEDVIBAとは ─ 2019年に生まれた新しい病名
- 2 2. 原因遺伝子HK1 ─ 脳が糖を使うときの「最初の関門」
- 3 3. なぜ起こるのか ─ 「働かない」のではなく「ブレーキが壊れる」病気
- 4 4. どんな症状が出るのか ─ 発達・視覚・脳、そして全身
- 5 5. 髄液の「低い糖・高い乳酸」─ 診断の決め手になる組み合わせ
- 6 6. 重症度の幅と、大人になってから現れる経過
- 7 7. HK1がもつ5つの顔 ─ 同じ遺伝子が起こす、まったく別の病気
- 8 8. 診断の進め方 ─ 見誤りやすい2つの落とし穴
- 9 9. 治療とケア ─ 効かない食事療法と、見つけたい治療できる合併症
- 10 10. 遺伝の考え方 ─ 新生突然変異と、次のお子さんのこと
- 11 11. よくある誤解
- 12 よくある質問(FAQ)
- 13 参考文献
- 14 関連記事
📍 クイックナビゲーション
脳は、体のなかでもとりわけたくさんのブドウ糖を使う臓器です。その入り口で働く酵素の設計図がHK1遺伝子で、この遺伝子に生まれつきの小さな変化が起きると、発達の遅れ・視力の低下・脳の萎縮が重なって進む病気が生じます。これがNEDVIBA(視覚障害および脳異常を伴う神経発達障害)です。名前は難しく見えますが、成り立ちはシンプルで、「糖を取り込む入り口のブレーキが壊れ、脳が糖を使いすぎてしまう」病気だと考えると理解しやすくなります。この記事では、症状・診断の決め手・よく似た病気との見分け方・遺伝の考え方までを、遺伝専門医の視点でやさしく解説します。
Q. NEDVIBAとはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. HK1という遺伝子に新しく生じた変化によって、発達の遅れ・視覚の障害・脳の構造の変化が重なって現れる、とてもまれな神経の病気です。多くはご両親には変化がなく、お子さんに新しく起きた変化(新生突然変異)が原因です。酵素の働きが落ちるのではなく、逆にブレーキが効かなくなって働きすぎるタイプの変化だと考えられており、脳脊髄液(髄液)で「糖が低いのに乳酸が高い」という独特の組み合わせが見られることが、診断の大きな手がかりになります。
- ➤中心となる症状 → 全般的な発達の遅れ、ことばの遅れ、筋緊張の異常、難治性のてんかん、網膜や視神経の変化による視覚障害
- ➤診断の決め手 → 髄液の糖が低く、髄液と血液の糖の比も低く、それでいて髄液の乳酸が高いという組み合わせ
- ➤重症度の幅 → 軽症から、乳児期に命に関わる型まで幅があり、変化した場所(アミノ酸の位置)とよく対応します
- ➤大人になってからの変化 → 子どものころは軽く経過し、20代以降に運動障害や精神症状が現れる二相性の型が報告されています
- ➤見落とされやすい点 → よく似た別の病気に有効な食事療法がこの病気では効きにくいこと、治療できる内分泌の合併症が隠れていることがあります
🧬 NEDVIBAの基本情報
各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。
1. NEDVIBAとは ─ 2019年に生まれた新しい病名
NEDVIBAは、英語の Neurodevelopmental disorder with visual defects and brain anomalies の頭文字をとった略称で、日本語では「視覚障害および脳異常を伴う神経発達障害」と訳されます。公的な遺伝性疾患データベースであるOMIMには表現型番号 #618547 として登録されており、第10染色体長腕10q22にあるHK1遺伝子のヘテロ接合の変化によって起こると記載されています[1]。中心となるのは、全般的な発達の遅れと知的発達の障害、ことばの遅れ、網膜色素変性や視神経萎縮を含むさまざまな視覚の障害、筋緊張の低下または亢進、そして多彩な脳構造の変化です。
この病気が独立した疾患として認識されたのは2019年のことです。それまでHK1という遺伝子は、血液の病気や末梢神経の病気、眼だけの病気を起こす遺伝子として知られていましたが、6家系7名の患者さんに、発達の遅れ・知的障害・脳構造の異常・視覚の障害が重なる共通の像があり、全員に4種類のHK1のミスセンス変化がご両親にはない新しい変化として見つかったことから、新しい疾患概念として提唱されました[2]。まだ報告されて数年しか経っていない、非常に新しい病気です。
💡 用語解説:ミスセンス変異とヘテロ接合
遺伝子は、タンパク質という「部品」をつくるための設計図です。設計図の1文字が別の文字に置き換わり、その結果できあがるタンパク質のアミノ酸が1個だけ入れ替わる変化をミスセンス変異といいます。人は同じ遺伝子を父方・母方から1本ずつ、合わせて2本もっています。2本のうち片方だけに変化がある状態をヘテロ接合と呼び、片方の変化だけで症状が出る遺伝の仕方を常染色体顕性(優性)遺伝といいます。NEDVIBAはこのタイプです。
初めての報告のあと、この病気の理解は急速に進みました。2023年には4名の症例が追加され、髄液の乳酸が高くなること、頭部MRIで基底核という脳の深い部分に特徴的な変化が出ることが初めて指摘されました[3]。2024年には15名を対象とした詳しい解析[4]、2025年には22名を新たに加えた国際共同研究が報告され、これまでに報告された症例は合計49例になりました[5]。数としてはまだ非常に少なく、いわゆる超希少疾患にあたります。
この病気の名前は、症状をそのまま並べた記述的な名称です。「神経発達障害」は発達の道すじがゆっくりになったり、たどり方が変わったりする状態を指し、「視覚障害」は目や視覚をつかさどる脳の部分の障害、「脳異常」は画像で確認できる脳の形の変化を指します。原因遺伝子の名前を冠した「HK1関連神経発達障害」という呼び方もされます。まだ日本語の定着した病名がなく、診療の現場でも英語の略称でやりとりされることが多いのが実情です。ご家族が病名を検索しても日本語の情報がほとんど出てこないのは、そのためです。
なお、日本での指定難病や小児慢性特定疾病の対象になるかどうかについては、疾患としての歴史が浅いこともあり、現時点では明確な情報が確認できていません。ただし実際の支援制度の利用は病名だけで決まるものではなく、てんかんや発達の遅れ、視覚障害といった個々の状態に応じた制度が使える場合があります。医療費や福祉サービスについては、お住まいの自治体の窓口や、主治医の先生を通じて医療ソーシャルワーカーにご相談いただくのが確実です。
この5年ほどで最も大きく変わったのは、この病気の位置づけです。当初は「発達障害の一種」として捉えられていましたが、頭部MRIの所見がリー脳症のパターンに似ていること、血液と髄液の乳酸が上がること、これらがそろってミトコンドリア病と共通する特徴であることから、現在では「新しく見つかったミトコンドリア機能障害のひとつ」として理解されるようになっています[5]。診断の枠組みそのものが動いている、進行中の領域だといえます。
2. 原因遺伝子HK1 ─ 脳が糖を使うときの「最初の関門」
HK1がつくるヘキソキナーゼ1という酵素は、細胞に入ってきたブドウ糖に、まずリン酸をひとつ付ける仕事をしています。この反応でブドウ糖はグルコース6リン酸に姿を変え、細胞の外へ逃げ出せなくなります。つまりヘキソキナーゼ1は、糖をエネルギーに変える長い工程(解糖系)の入口にある関所であり、しかもその流れの速さを決める律速段階でもあります。脳ではこの酵素が特に強く働いているため、脳型ヘキソキナーゼとも呼ばれ、脳における解糖系のペースメーカーと位置づけられてきました[6]。
この酵素には、よく考えられた自己制御の仕組みが備わっています。ヘキソキナーゼ1は約100キロダルトンの1本のタンパク質で、よく似た形をした前半分と後ろ半分が1本のらせん(αヘリックス)でつながった構造をしています。後ろ半分(C末端側)が実際に反応を行う触媒の部分で、前半分(N末端側)が調節の部分です[6]。自分がつくり出した生成物であるグルコース6リン酸がこの調節部分に結合すると、酵素は自らブレーキをかけて反応を止めます。つくりすぎたら止まる、という自動制御が働いているのです。この調節部位が前半分にあることは、部位を狙って人工的に変化させた実験でも確かめられています[7]。
💡 用語解説:解糖系とグルコース6リン酸
解糖系は、ブドウ糖を段階的に分解してエネルギーを取り出す、細胞のなかで最も基本的な代謝の道すじです。その第一段階で、ブドウ糖にリン酸が付いてできるのがグルコース6リン酸です。リン酸が付くと分子は電気を帯び、細胞膜を通り抜けられなくなります。つまりこの反応は「糖を細胞のなかに閉じ込める鍵をかける操作」でもあります。この点が、あとで説明する髄液の糖が低くなる現象を理解する鍵になります。
もうひとつ重要なのが、ヘキソキナーゼ1が細胞のどこにいるかです。この酵素は、前半分のさらに先端にある短い疎水性(水になじみにくい)のらせん構造を使って、ミトコンドリアの外側の膜に張り付いています。相手はVDACという、膜にあいた穴のようなタンパク質です。この結合には、膜の内部に埋もれた特定のアミノ酸が必要であることが、計算機シミュレーションと細胞実験の両方から示されました[8]。ヘキソキナーゼ1がミトコンドリアにくっついているおかげで、ミトコンドリアがつくったエネルギー(ATP)が、そのまま解糖系の第一段階に手渡されます。糖をエネルギーに変える2つの装置が、物理的にひとつながりになっているわけです。
もうひとつ知っておくと理解が深まるのが、HK1が組織ごとに少しずつ違う形のタンパク質をつくり分けているという点です。遺伝子の読み始めにあたる最初のエキソンが組織によって使い分けられており、その結果、赤血球用・網膜用・精巣用といった、先端部分だけが異なるタイプが存在します。先端はミトコンドリアに結合する部分ですから、タイプによってミトコンドリアにくっつくかどうかも変わります。この仕組みは、後の章でお話しする「同じ遺伝子から違う病気が生まれる」現象を理解する重要な手がかりになります。ある組織でしか使われない部分に変化が起これば、その組織だけに症状が出るからです[2]。
この位置関係を頭に置いておくと、なぜHK1の変化が「解糖系の病気」にとどまらず「ミトコンドリアの病気」として現れるのかが理解しやすくなります。入口の関所が暴走すれば、そこにつながっているミトコンドリア側の歯車も一緒に狂ってしまうからです。
3. なぜ起こるのか ─ 「働かない」のではなく「ブレーキが壊れる」病気
遺伝性の酵素の病気と聞くと、多くの方は「酵素が働かなくなる病気」を思い浮かべます。実際、遺伝子の変化の大半は、そのタンパク質の働きを弱める機能喪失型変異です。ところがNEDVIBAは、そのイメージが当てはまりません。最初の報告で、患者さん2名の赤血球のヘキソキナーゼ活性を測ったところまったく正常だったのです。このことから、酵素活性が失われることが病気の原因ではない、と結論されました[2]。
では何が起きているのでしょうか。NEDVIBAで見つかる変化は、いずれも前半分の調節部分か、前半分と後ろ半分をつなぐらせんの周辺に集中しています[2]。つまり、反応を行う触媒の部分ではなく、ブレーキ装置のほうが壊れているのです。グルコース6リン酸がブレーキとして結合する場所の形が崩れることで自己抑制がかからなくなり、酵素が必要以上に働き続けてしまう。これがこの病気の中心にある考え方で、機能獲得型変異と呼ばれます[3]。
図1|正常なヘキソキナーゼ1と、NEDVIBAで起きていること
正常な状態
ブドウ糖が細胞に入る
↓
ヘキソキナーゼ1がリン酸を付ける
↓
増えたグルコース6リン酸が
調節部分に結合してブレーキがかかる
↓
必要な分だけ糖を使う
NEDVIBAで想定されている状態
ブドウ糖が細胞に入る
↓
ヘキソキナーゼ1がリン酸を付ける
↓
調節部分の形が崩れ
ブレーキが効かない
↓
糖を使い続け、乳酸がたまる
※右側は、これまでの報告から提唱されている仮説にもとづく模式図です。ヒトの脳で起きていることを直接観察した研究はまだありません。
ここで大切なのは、この仕組みがまだ仮説の段階であるという点です。変化がある場所と、酵素活性が保たれているという事実、そして髄液や血液で乳酸が上がるという臨床所見。これらを最もよく説明できる筋書きとして機能獲得が提唱されていますが、患者さん由来の細胞で酵素の暴走を直接測定した研究はまだ多くありません。この病気を説明するとき、私は「今のところこう考えられています」という言い方を崩さないようにしています。
では、なぜ解糖系の話がミトコンドリアの病気につながるのでしょうか。糖を分解する工程は、解糖系だけで終わりではありません。解糖系で生まれた物質は、続いてミトコンドリアに渡され、そこで効率よくエネルギーへと変換されます。ところが解糖系の入口が暴走すると、ミトコンドリアが処理できる量を超える物質が流れ込みます。あふれた分は乳酸に変えられて細胞の外に出ていくため、血液や髄液の乳酸が上がります。これが、この病気で乳酸が高くなる最も分かりやすい説明です[5]。
同時に、ミトコンドリアの側でも問題が生じます。ヘキソキナーゼ1はミトコンドリアの外膜に張り付いてエネルギーを直接受け取っていますから、この受け渡しのバランスが崩れれば、ミトコンドリア自身の働きにも影響が及びます。頭部MRIでリー脳症に似た所見が出るのは、こうした事情を反映していると考えられています。糖の入口の病気でありながらミトコンドリア病として扱われる理由は、この2つの装置が物理的にも機能的にも一体だからです。発達期の脳では、主なエネルギーの取り出し方が解糖系からミトコンドリアの働きへと移っていく時期があり、その切り替えの時期に不具合が生じることも、症状が乳児期から目立つ理由のひとつと考えられます。
4. どんな症状が出るのか ─ 発達・視覚・脳、そして全身
🔍 関連記事:発達性てんかん性脳症とは/視神経萎縮/皮質性視覚障害(CVI)
2025年の国際共同報告では、NEDVIBAの臨床像は「さまざまな程度の知的障害と発達の遅れ、筋緊張低下、てんかん性脳症、視覚の障害、頭部MRIでのリー症候群スペクトラムのパターン、そして血液と髄液の乳酸上昇」とまとめられています[5]。ひとつずつ見ていきましょう。
発達と運動の面では、首のすわりや寝返り、おすわり、歩行といった運動の節目が遅れ、ことばの発達はさらに強く影響を受けます。筋緊張については、体幹はふにゃふにゃと柔らかいのに手足はつっぱるという、一見矛盾した組み合わせがしばしば見られます。てんかんは発達性てんかん性脳症という形をとることが多く、発作そのものが発達をさらに妨げてしまうため、薬でのコントロールが難しくなることがあります。
目の症状は、この病気の名前にも入っている中心的な特徴です。網膜の視細胞が徐々に失われる網膜色素変性と、視神経萎縮が、単独または合併して現れます[1]。加えて、目そのものではなく脳の視覚をつかさどる領域が障害されて見えにくくなる皮質性視覚障害を伴うこともあります。網膜も視神経も、体のなかでとりわけエネルギーを消費する組織です。糖の使われ方が乱れたときに真っ先に影響が出るのは理にかなっています。
頭部MRIの所見には、時間とともに変化していくという重要な特徴があります。生後まもなく症状が出たお子さんでも、最初のMRIはほぼ正常か、ごく軽い変化にとどまることが少なくありません。ところが経過を追ううちに大脳の萎縮がはっきりと進んでいきます。年長のお子さんや成人では、基底核という脳の深部にリー脳症に似た信号変化が出てきたり、小脳の萎縮が加わったりします。同じ患者さんでも時期によって見え方が変わるため、1枚の画像だけで判断しないことが大切です[4]。
このほかにも、脳梁が薄い、脳室が広い、といった構造の変化が報告されています。全身面では、飲み込みや食事の難しさ、呼吸に関わる問題が伴いやすいことが報告されており[3]、姿勢の異常から二次的に生じる関節や背骨の変形とあわせて、日々のケアで大きな課題になります。それぞれの症状がどれくらいの割合で現れるかについては、症例数が少ないため確立した数値は示されていません。
日々のケアという観点では、飲み込みの問題がとりわけ大きな比重を占めます。口の周りやのどの筋肉をうまく協調させられないと、食べ物や飲み物が気管に入りやすくなります。むせて分かる誤嚥だけでなく、本人も周囲も気づかないまま少しずつ気管へ流れ込む不顕性誤嚥が繰り返されることがあり、これが肺炎の引き金になります。体重が増えない、食事に時間がかかりすぎる、食後に呼吸が荒くなるといったサインがあるときは、嚥下機能の評価を受け、必要に応じて経管栄養など安全に栄養をとる方法を検討します。栄養が安定すると、体力だけでなく発作のコントロールや日中の活動性まで変わってくることは、まれな神経疾患の診療で繰り返し経験されることです。
骨格の面では、筋緊張のアンバランスが長く続くことで二次的な変形が生じます。体幹が支えられないまま座る姿勢が続けば背骨が横に曲がりやすくなりますし、股関節に均等に体重がかからなければ関節が浅くなっていきます。これらは病気そのものというより、姿勢と時間の積み重ねによって起こる合併症です。裏を返せば、早い段階から姿勢を整える工夫や装具、リハビリテーションを取り入れることで、進行を緩やかにできる余地がある部分でもあります。呼吸についても、のどや気管の軟らかさによって空気の通り道が狭くなることがあり、睡眠中の呼吸の様子を評価しておくと対応が立てやすくなります。
5. 髄液の「低い糖・高い乳酸」─ 診断の決め手になる組み合わせ
この病気を語るうえで最も実用的な知見が、髄液(脳脊髄液)の検査所見です。NEDVIBAの患者さんでは、血液の血糖は正常なのに、髄液のブドウ糖濃度が低く、髄液と血液の糖の比も低いという所見が見られます。この2つは、まったく別の病気であるグルコース輸送体1欠損症(Glut1欠損症)のきわめて特徴的な指標として知られてきたものです。そのためNEDVIBAは、髄液所見だけを見るとGlut1欠損症と見分けがつきません[4]。
ところが、決定的に違う項目がひとつあります。髄液の乳酸です。2024年の研究では、対象となった患者さん全員と、それ以前に報告されていた3名すべてで、髄液の乳酸が年齢ごとの基準値を大きく上回っていました。これに対しGlut1欠損症では、髄液の乳酸は正常範囲か、むしろ低くなります[4]。この違いは他の総説でも確認されており、HK1の変化をもつ方では髄液乳酸が年齢基準より有意に高く、Glut1欠損症では低いか正常にとどまると整理されています[9]。
図2|髄液で「糖が低い」と言われたときの考え方
原因のはっきりしない発達の遅れ・てんかん・脳の萎縮
↓
髄液の糖・髄液血液糖比・乳酸を同時に測る
↓
糖が低い+乳酸が高い
HK1の変化(NEDVIBA)を考え、
ミトコンドリア病の枠組みで精査
糖が低い+乳酸は正常か低い
Glut1欠損症を考え、
SLC2A1遺伝子の評価へ
※髄液の糖が低くなる状態は他にもあります(けいれん重積のあと、中枢神経の感染症など)。実際の診断は、臨床経過と合わせて総合的に判断されます。
なぜ、糖を使いすぎる病気で髄液の糖まで下がるのでしょうか。最も素直な説明は、脳の細胞に取り込まれたブドウ糖が、暴走したヘキソキナーゼ1によって片端からリン酸を付けられ、細胞のなかに閉じ込められてしまうため、細胞の外や髄液に残る自由なブドウ糖が減る、というものです。ただし研究者らは、増えすぎた解糖系の産物が脳の血管でのグルコース輸送そのものを抑えている可能性も、別の説明として挙げています[4]。どちらが主なのかはまだ決着していません。
実際の検査を受けるときに知っておいていただきたいのは、髄液の糖が低くなる状態はこの2つの病気に限らないということです。長く続いたけいれん発作のあと、中枢神経の感染症、低血糖の状態などでも髄液の糖は下がります[9]。ですから、髄液所見だけで診断が決まるわけではなく、発達の経過、発作の様子、画像所見と組み合わせて総合的に判断されます。また採取のタイミングも結果を左右します。血糖が食事の影響で上下している状態で採ると比の解釈が難しくなるため、通常は空腹の状態で、髄液と血液をできるだけ同時に採取します。検査結果を見返すときは、そのときの血糖値が一緒に記録されているかを確認しておくと役立ちます。
💡 用語解説:髄液血液糖比とは
髄液の糖の値は、そのときの血糖に左右されます。そこで、髄液の糖を同時に採った血液の糖で割った比率を見ます。これが髄液血液糖比です。血糖の高さに影響されずに「脳にどれだけ糖が届いているか」を評価できるため、この比が低いことは、脳への糖の供給や利用に問題があるサインとして重視されます。検査は腰から細い針で髄液を採る腰椎穿刺で行い、食事の影響を避けるため空腹の状態で採取するのが一般的です。
6. 重症度の幅と、大人になってから現れる経過
NEDVIBAの経過には大きな幅があります。2025年の国際共同報告では、重症度によって軽症・中等症・重症・致死型の4つに分けられることが示され、同時に遺伝子型と表現型の対応がはっきり見えてきました。すなわち、457番目のスレオニンというアミノ酸が置き換わった方は、例外なく重症の臨床像を示すというものです[5]。この位置の変化は経過が重く、命に関わることがあると明記されています。
具体的な数字でも同じ傾向が確認されています。2024年の研究では、457番の変化をもつ8名全員が乳児期に発達性てんかん性脳症を発症し、発達の節目をほとんど獲得できませんでした[4]。この変化はNEDVIBAで最も多く見つかるもので、公的な変異データベースにも20名を超える方で新しく生じた変化として登録されています[10]。
一方、まったく異なる経過をたどる方たちもいます。同じ2024年の研究で、457番以外の変化をもつ7名のうち、成人に達した3名が二相性の経過を示しました。幼いころは軽い発達の問題があるだけで、大きく進行しない状態が続きます。ところが20代前半になって、それまで安定していた状態が急に動き出し、不随意運動などの運動障害、精神症状、脳卒中のような発作、新たなてんかんが現れたのです[4]。興味深いことに、この二相性の経過をたどった方のうち3名で網膜色素変性が見つかっています。
この二相性という考え方は、遺伝カウンセリングの場でとても重要な意味をもちます。「小さいころは軽かったのだから大丈夫」とは言い切れない一方で、「必ず悪化する」と決めつけることもできません。報告されている症例数がまだ少ないため、どの程度の方がこの経過をたどるのかは分かっていないからです。長期のフォローアップ体制を整えつつ、過度な不安を与えない伝え方が求められる場面です。
なぜ、長年安定していた状態が20代になって動き出すのでしょうか。研究者らは、進行性の中毒性の変化と、慢性的なエネルギー不足が積み重なった結果として、臨床像と画像所見の進行が生じているのではないかという仮説を示しています[4]。少しずつ細胞に負担がかかり続け、代償できる限界を超えたところで一気に表面化する、という考え方です。ミトコンドリアの病気に共通してみられる「ある時期を境に進行する」経過とも重なります。ただしこれも仮説であり、なぜ457番の変化では乳児期から重く、他の位置では成人期まで待つのかという問いには、まだ十分な答えが出ていません。
7. HK1がもつ5つの顔 ─ 同じ遺伝子が起こす、まったく別の病気
HK1というひとつの遺伝子から、症状もまったく違う5つの病気が生じることが分かっています。同じ設計図なのになぜこれほど違う結果になるのか。答えは、変化が起きた場所と、その変化がタンパク質をどちら向きに壊すかにあります。
目だけに症状が出るRP79は、2014年に5家系のご家族から同じ1か所の変化が見つかったことで確立しました。この変化はタンパク質の表面にあって触媒の部分から離れており、実際に全身の糖代謝には異常が検出されませんでした。だからこそ影響が網膜にとどまると考えられています[11]。網膜色素変性症の総論もあわせてご覧いただくと、位置づけが分かりやすくなります。
末梢神経の病気であるCMT4Gは、2009年にヨーロッパのロマ集団で見つかりました。タンパク質をつくらない上流の領域にある2つの変化が完全に連鎖した形で見つかり、発症したご家族のなかで病気と一緒に受け継がれていること、対照集団790名のうちこの変化をヘテロ接合でもっていたのはわずか5名だったことから、原因と同定されました[12]。長らくロマ集団に限られると考えられてきましたが、近年、イランやパキスタンのご家族から別の種類の変化による症例が報告され、この病気がより広い地域に存在することが分かってきています[13]。シャルコー・マリー・トゥース病の総論もご参照ください。
血液の病気である非球状赤血球性溶血性貧血は、酵素の働きが実際に失われるタイプです。反応を行う部位そのものが壊れる変化が見つかっており[14]、常染色体潜性(劣性)遺伝の形をとります[15]。NEDVIBAで赤血球の酵素活性が正常だったことと、ちょうど正反対の関係にあります。
この対比は、診療のうえでも実際的な意味をもちます。もしお子さんに発達の遅れと視覚の障害があり、あわせて生まれつきの貧血や黄疸があるなら、それはHK1の両方の遺伝子が働かなくなるタイプかもしれず、まったく違う病気を考えることになります。逆にNEDVIBAでは、血液検査で貧血が見つかることは典型的ではありません。「同じ遺伝子の名前が出てきた」というだけで話をまとめず、変化がどこにあり、どちら向きに働いているのかまで確認することが、正しい説明への近道になります。
最後に、5つ目の顔である先天性高インスリン血症は、少し変わった仕組みで起こります。HK1はほとんどの組織で働いていますが、肝臓とすい臓のインスリンをつくるベータ細胞では、あえて発現が抑え込まれています。ところが、この抑え込みを担うシスエレメントと呼ばれる調節領域に変化が生じると、抑え込みが外れてベータ細胞でHK1が働き出し、血糖が低いときにもインスリンが分泌されてしまいます[16]。この仕組みによる高インスリン血症は決してまれではなく、原因不明の高インスリン血症1,761名を調べた研究では89名(5%)で見つかっています[17]。同じく低血糖を起こす家族性高インスリン性低血糖症1型とは原因遺伝子が異なります。
8. 診断の進め方 ─ 見誤りやすい2つの落とし穴
NEDVIBAの確定診断は、ゲノム解析でHK1のヘテロ接合の変化を見つけることによります。実際の報告例でも、患者さんとご両親の3人を同時に解析するトリオ全エクソーム解析や全ゲノム解析が用いられています[5]。ご両親を含めて調べる意味は大きく、お子さんにあってご両親にない変化だと確認できれば、それだけで病的である可能性が一気に高まります。当院では全エクソーム検査やクリニカルエクソーム検査に対応しており、エクソーム解析の仕組みについても解説しています。
落とし穴その1:予測ソフトの点数が低く出る
遺伝子の変化が病気の原因かどうかを判断するとき、コンピューターによる病原性予測が補助的に使われます。ところがNEDVIBAでは、この予測が当てになりません。2025年の報告では、最も高頻度で確実に病的である457番の変化が、複数の代表的な予測アルゴリズムで最も低いスコアを示したと明記されています[5]。予測ソフトが「たいしたことはなさそう」と判定した変化が、実際には最も重い病気を起こしていたわけです。
この現象は、変異解釈の原則を思い出させてくれます。ACMG/AMPの変異解釈ガイドラインでも、予測ソフトの結果は単独では弱い根拠として扱われ、家族での検証や臨床像との一致など複数の証拠を積み上げることが求められています。予測スコアが低いという理由だけで候補から外してしまうと、診断にたどり着けません。判断に迷う結果は意義不明変異(VUS)として扱われますが、その臨床的な取り扱いには慎重さが必要です。
落とし穴その2:ほかの病気の診断基準を満たしてしまう
2025年、日本から重要な症例が報告されました。発達の遅れがある4歳の男の子で、皮膚の白い斑点(脱色素斑)と、頭部MRIでの放射状の線という所見があり、結節性硬化症の臨床診断基準を満たしていました。ところが遺伝学的に調べたところ、結節性硬化症の原因遺伝子には病的変化がなく、代わりにNEDVIBAで繰り返し報告されているHK1の変化が新しく生じていたのです[18]。
臨床の診断基準は、あくまで「その病気らしさ」を集めた目安です。基準を満たしたからといって遺伝学的な診断が確定するわけではありません。この症例は、症状が重なる病気同士では、遺伝学的な確認まで進むことに意味があることを示しています。当院では結節性硬化症NGSパネル遺伝子検査も扱っていますが、原因遺伝子が見つからないときには枠を広げて考える必要があります。
鑑別すべき病気は結節性硬化症だけではありません。髄液の糖が低くなる神経発達の病気としてはPURA症候群が知られていますし、乳酸が上がる点では乳酸上昇を伴う白質脳症が、視覚障害を伴う神経発達症という点ではCTNNB1症候群が候補にあがります。2025年の国際共同報告は、こうした重なりを踏まえてHK1をミトコンドリア病の遺伝子パネルに含めるべきであると結論しています[5]。
当院では、HK1を対象遺伝子に含む検査として網膜色素変性症遺伝子検査(129遺伝子)と低血糖症遺伝子パネル検査をご用意しています。より広く眼の病気を調べる網膜症・視神経萎縮遺伝子パネル検査、代謝の観点からの乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症NGSパネルや核遺伝子ミトコンドリア病NGS遺伝子検査、発作を軸にしたてんかん包括的遺伝子検査や思春期・成人発症てんかん遺伝子検査など、症状の入口によって適した検査は変わります。どの入口から入るのが最短かは、発達の遅れに関する遺伝子検査の考え方も含めて、診察のなかで一緒に整理していきます。
診断のタイミングについても触れておきます。この病気は、乳児期に症状が出るタイプでは初期の頭部MRIがほぼ正常に見えることがあり、画像だけを頼りにすると評価が難しくなります。一方で発達の遅れとてんかんが早くから目立つため、遺伝学的な検索そのものは比較的早い時期に始まることが多いのが実情です。逆に軽症のタイプでは、成人になってから症状が動き出して初めて診断にたどり着く例もあります。どちらの場合も、診断がつくことで「なぜこうなったのか」という長年の問いに答えが出て、ご家族の受け止め方が変わることは少なくありません。治療が変わらない場合でも、診断そのものに意味があると考えています。
9. 治療とケア ─ 効かない食事療法と、見つけたい治療できる合併症
現時点で、NEDVIBAの原因そのものを取り除く治療法は確立していません。発作を抑える、栄養と呼吸を支える、視覚と運動の発達を支援するといった、症状に応じた対応が診療の中心になります。そのなかで、ぜひ知っておいていただきたい2つの点があります。
ケトン食は、この病気には効きにくいと報告されています
Glut1欠損症では、脂肪を主なエネルギー源に切り替えるケトン食療法が治療の柱になり、発作の頻度や運動障害の程度を改善させることが知られています[9]。髄液所見が似ているNEDVIBAでも、同じ発想からケトン食が試みられてきました。しかし2025年の国際共同報告では、ケトン食の試行は457番の変化をもつ2名では有効ではなかったと記載されています[5]。
理由を考えると納得がいきます。Glut1欠損症は、脳に糖が「入ってこない」病気ですから、糖に代わる燃料を届ける戦略が理にかないます。一方NEDVIBAは、入ってきた糖を「使いすぎてしまう」病気です。燃料の種類を変えても、暴走している酵素そのものは止まりません。髄液所見が似ているからといって同じ治療が効くとは限らない、という好例です。ただし、報告されている症例数はまだ2名にとどまるため、すべての方で無効と断定できる段階ではありません。
💡 用語解説:ケトン食療法とは
炭水化物を大幅に減らし、脂肪を多くとる食事療法です。体は糖が足りなくなると脂肪を分解してケトン体という物質をつくり、これを脳の燃料として使えるようになります。糖が脳に届かないタイプの病気では有効ですが、糖の使われ方そのものが乱れている病気では事情が異なります。厳格な栄養管理が必要な治療のため、必ず専門の医療機関で計画的に行われます。
治療できる内分泌の合併症が隠れていることがあります
2023年、網脈絡膜の変性・性腺機能低下・小脳の萎縮を特徴とするブーシェ・ノイホイザー症候群という診断がついていた方に、その原因遺伝子ではなくHK1の新しい変化が見つかったという報告がありました。この方は経過とともに神経症状の悪化と精神症状が現れ、小脳の萎縮が進みました。報告者らは、HK1に変化がある方は低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の評価を受けるべきであり、これは治療できる可能性があると述べています[19]。
脳の症状に目が向いているとき、思春期の発来やホルモンの状態は見落とされやすい領域です。けれどもゴナドトロピンの不足による性腺機能低下は、ホルモン補充という手立てがある状態です。当院では低ゴナドトロピン性性腺機能低下症関連遺伝子検査も扱っています。「治せない病気」と受け止められがちな状況のなかに、対応できる部分が隠れていないかを探すことは、遺伝診療の大切な役割のひとつです。
将来の治療については、まだ研究段階の話になります。理屈のうえでは、働きすぎている酵素の活性を適度に下げる薬や、変化したほうの遺伝子だけを狙って働きを抑えるアンチセンスオリゴヌクレオチド、AAVベクターを使った遺伝子治療などが治療標的として考えられます。ただし、NEDVIBAを対象とした具体的な開発計画については、現時点では明確なデータが示されていません。期待をお伝えするときには、どこまでが実際に進んでいることなのかを区別してお話しするようにしています。
日々のケアで軸になるのは、発作・栄養・呼吸・視覚・運動の5つです。発作については、薬が効きにくいタイプになることがあるため、発作の型を正確に把握したうえで薬を選び、増減の効果を丁寧に評価していきます。栄養と呼吸は前の章でも触れたとおり、安全に食べられているか、睡眠中の呼吸に問題がないかを定期的に確認します。視覚については、網膜や視神経の変化が時間とともに進むため、見え方の評価を続けながら、残っている視力を最大限に活かす支援を早い時期から取り入れることが望まれます。運動面では、姿勢を整えることが二次的な変形を防ぐことにつながります。
こうした支援は、ひとつの診療科だけで完結するものではありません。小児神経、眼科、リハビリテーション、栄養、呼吸器といった複数の視点が必要になります。診断がついたあとに何をするかを整理しておくと、「原因が分かっても治療法がない」という受け止めから、「今できることは何か」という視点に移りやすくなります。遺伝学的な診断は治療の終点ではなく、必要なフォローアップの内容を決めるための出発点でもあります。
10. 遺伝の考え方 ─ 新生突然変異と、次のお子さんのこと
🔍 関連記事:性腺モザイクとは/体細胞モザイクとの違い/遺伝形式の基本
NEDVIBAで報告されている変化の大半は、ご両親のどちらにも認められない新生突然変異です[1]。卵子や精子ができる過程、あるいは受精のごく初期に、たまたま起きた変化だと考えられます。ここで多くのご家族がお尋ねになるのが、「誰かのせいなのでしょうか」ということです。答えははっきりしています。誰のせいでもありませんし、妊娠中の生活や食事とも関係がありません。
次に多いご質問は、次のお子さんのことです。新生突然変異である以上、再発の可能性は一般に低いと考えられます。ただし、注意すべき報告があります。最初の報告には同じ変化をもつ患者さんが3名含まれており、そのうち2名は1歳で亡くなったごきょうだいでした[2]。ご両親の血液からはこの変化が検出されていません。健康なご両親から、同じ変化をもつお子さんが続けて生まれたという事実は、ご両親のどちらかの性腺モザイクという状態を示唆します。
💡 用語解説:性腺モザイクとは
ご両親のからだ全体にはその変化がないのに、卵子や精子をつくる細胞の一部にだけ変化が存在する状態を性腺モザイクといいます。血液を調べても検出できないことが多いため、「ご両親は陰性」という結果だけでは完全には否定できません。ごきょうだいで同じ変化が繰り返して見つかったときに、この状態が強く疑われます。体細胞モザイクとは区別して考えます。
したがって遺伝カウンセリングでは、「新生突然変異なので再発はありません」と言い切らず、性腺モザイクの可能性を含めてお伝えすることになります。そのうえで、次の妊娠にどう向き合うかは、ご家族それぞれの状況とお考えによって選択肢が変わります。妊娠してから調べる羊水検査や絨毛検査という方法もあれば、体外受精で得た胚を調べる着床前遺伝学的検査(PGT-M)という方法もあります。羊水検査・絨毛検査の実際についてもご確認いただけます。いずれも、選ばないという選択を含めて、ご本人が決めることです。
なお、原因が分からないままお子さんを亡くされたご家族が、次のお子さんのリスクを知りたいと望まれることがあります。そうした場合に、ご家族3人のゲノムをまとめて解析する親子トリオ全ゲノム検査が役に立つことがあります。次の妊娠が怖いと感じておられる方への記事も、あわせてお読みいただければと思います。
当院の遺伝カウンセリング・遺伝診療は、臨床遺伝専門医が担当します。遺伝カウンセリングとは何かについても解説していますので、受診を検討される際にご覧ください。なお仲田は成人を診療する立場ですので、お子さんの日常的な診療は小児神経の主治医の先生と連携しながら、遺伝学的な評価と情報提供の部分を担当します。
もうひとつ、ご相談の多い話題がごきょうだいへの説明です。NEDVIBAは、変化が新しく生じたものであれば、ごきょうだいご本人が同じ変化をもっている可能性は高くありません。ただ、将来ご自身が家庭をもつときに、この病気のことをどう受け止め、どう伝えるかという問いは残ります。年齢に応じて、分かる言葉で少しずつ共有していくことが、後になって「知らされていなかった」という気持ちを生まないための備えになります。どの段階でどこまで伝えるかに正解はありませんので、ご家族の考えを伺いながら一緒に整理していく形をとっています。
11. よくある誤解
誤解①「酵素が働かなくなる病気だ」
最初の報告で、患者さんの赤血球のヘキソキナーゼ活性は正常でした。この病気は酵素が足りなくなる病気ではなく、自己抑制のブレーキが効かなくなるタイプだと考えられています。同じHK1の変化でも、酵素の働きが本当に落ちるタイプは、貧血という別の病気を起こします。
誤解②「髄液の糖が低ければGlut1欠損症だ」
髄液の糖が低く、髄液血液糖比も低いという所見は、両方の病気で共通します。分けるのは髄液の乳酸です。乳酸が高ければHK1の変化を、正常か低ければGlut1欠損症を考えます。同時に測っておくことが大切です。
誤解③「予測ソフトが陰性なら関係ない」
この病気で最も多く、最も重い症状を起こす457番の変化は、複数の病原性予測アルゴリズムで最も低いスコアを示しました。予測はあくまで補助的な情報であり、それだけで候補から外す根拠にはなりません。
誤解④「新生突然変異なら再発しない」
一般には再発の可能性は低いと考えられますが、同じ変化をもつごきょうだいの発症例が報告されています。ご両親の血液が陰性でも、卵子や精子をつくる細胞にだけ変化が存在する性腺モザイクの可能性は残ります。
よくある質問(FAQ)
🏥 発達の遅れ・視覚障害の遺伝子診断のご相談
原因のはっきりしない発達の遅れ、てんかん、視覚障害に関する
遺伝子検査と遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。
参考文献
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- [5] Autosomal dominant HK1-related neurodevelopmental disorder with visual defects and brain anomalies (NEDVIBA): An emerging mitochondrial disorder. Genetics in Medicine Open. 2025. [Genetics in Medicine Open 3:103425]
- [6] The mechanism of regulation of hexokinase: new insights from the crystal structure of recombinant human brain hexokinase complexed with glucose and glucose-6-phosphate. Structure. [Structure]
- [7] Identification of a phosphate regulatory site and a low affinity binding site for glucose 6-phosphate in the N-terminal half of human brain hexokinase. J Biol Chem. 1998. [PubMed 9677378]
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