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シャルコー・マリー・トゥース病4G型(CMT4G・HMSNR)とは?HK1遺伝子変異で起こる小児期発症の脱髄型ニューロパチーを遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

子どものころから走るのが遅く、10歳前後で転びやすくなり、足首が上がらなくなっていく——シャルコー・マリー・トゥース病4G型(CMT4G)は、そんな経過をたどる遺伝性の末梢神経の病気です。別名をルセ型遺伝性運動感覚性ニューロパチー(HMSNR)といい、原因はHK1遺伝子の変化にあります。HK1は本来、全身の細胞で糖をエネルギーに変える酵素をつくる遺伝子です。それなのに、なぜ末梢神経だけが選ばれたように傷むのか。その答えは「酵素としての力」ではなく「ミトコンドリアに手をかけて、カルシウムの扉を押さえる力」にありました。この記事では、CMT4Gの症状・経過・診断・遺伝のしくみを、遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約19分
🧬 HK1・脱髄・シュワン細胞
臨床遺伝専門医監修

Q. CMT4G(HMSNR)とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. HK1遺伝子の変化によって、末梢神経を包む「髄鞘(ミエリン)」が壊れていく、常染色体潜性(劣性)遺伝の病気です。小児期から思春期にかけて足の筋肉がやせ、足首が上がらない下垂足と足の変形が進みます。手の症状は下肢よりずっと遅れて出て、難聴や視覚障害は伴いません。命に関わる病気ではありませんが、歩行の力を長く保つための管理が大切です。

  • 原因 → HK1遺伝子の両アレル(父由来・母由来の両方)の変化。ヨーロッパのロマ集団の創始者変異と、中東・南アジアで見つかったナンセンス変異の2系統がある
  • しくみ → HK1がミトコンドリアの外膜に張り付けなくなり、カルシウムの漏れがシュワン細胞の脱分化と脱髄を招く
  • 見分け方 → 同じロマ集団に多いCMT4D(Lom型)とは、難聴の有無と手の症状が出る時期で区別する
  • 検査の落とし穴 → 創始者変異は非翻訳領域にあるため、一般的なNGSパネルや全エクソーム解析では拾えないことがある
  • 遺伝カウンセリングの要点 → ご両親はどちらも保因者。次のお子さんが同じ病気になる確率は25%

🧬 シャルコー・マリー・トゥース病4G型の基本情報

項目 内容
疾患名 シャルコー・マリー・トゥース病4G型/英名 Charcot-Marie-Tooth disease type 4G/略称 CMT4G。別名:ルセ型遺伝性運動感覚性ニューロパチー(HMSNR、HMSN-Russe)
原因遺伝子 HK1(ヘキソキナーゼ1)/10番染色体長腕 10q22
遺伝形式 常染色体潜性(劣性)遺伝
OMIM表現型番号 605285(NEUROPATHY, HEREDITARY MOTOR AND SENSORY, RUSSE TYPE)
頻度・報告例数 ヨーロッパのロマ集団に集積。チェコからの報告では、同じロマ集団に多いCMT4D(Lom型)の約2倍の頻度。ロマ集団以外では中東・南アジアで少数の家系報告
主な症状 小児期〜思春期発症の下肢遠位筋の萎縮・筋力低下、下垂足、凹足などの足部変形、遠位優位の感覚障害、腱反射の消失。手内在筋の障害は遅れて出現
診断の決め手 神経伝導検査で脱髄型〜中間型のパターン(上肢の運動神経伝導速度が低下、下肢は導出困難)+HK1遺伝子の両アレル変異の同定
鑑別すべき疾患 CMT4D(Lom型・NDRG1)/CMT4C(SH3TC2)/CMT1A・CMT1X などの脱髄型CMT/慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)
再発率・保因者 ご両親はともに保因者。次のお子さんが発症する確率は25%、保因者となる確率は50%。保因者に症状は出ません
検査上の注意 ロマ集団の創始者変異は遺伝子の非翻訳領域(5′-UTR)にあり、コード領域中心に設計された検査では検出されないことがあります

各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。

1. CMT4G(HMSNR)とは ─ 「ルセ型」と呼ばれる脱髄型ニューロパチー

シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は、手足の末梢神経が少しずつ障害されていく遺伝性の病気の総称です。原因となる遺伝子は100種類以上が知られており、そのひとつひとつが「型」として番号で区別されています。CMTの全体像のなかで、4G型(CMT4G)は「常染色体潜性(劣性)で遺伝する、脱髄型のCMT」という位置づけになります。

この病気には、もうひとつの呼び名があります。ルセ型遺伝性運動感覚性ニューロパチー(HMSNR/HMSN-Russe)です。2000年前後に、バルカン半島のロマ集団から「既知のどのCMTとも合致しない常染色体潜性のニューロパチー」として報告されたことにさかのぼります。公的データベースOMIMでは、表現型番号#605285として登録されています[1]

「ロマ集団に限られた、遠い国の珍しい病気」と思われるかもしれません。けれども実際には、中央ヨーロッパの遺伝性ニューロパチー診療のなかで無視できない位置を占めています。チェコ共和国からの報告では、ロマ由来の遺伝性末梢神経障害を調べていったところ、CMT4Gが予想外に多く見つかり、同じくロマ集団に多いCMT4D(Lom型)のおよそ2倍の頻度で検出されました[2]。同じ報告のなかで、若い年齢でも下肢の筋萎縮と変形が高度に進んで歩行が困難になる一方、手は長い経過を経てもなお軽度にとどまるという、この病気らしい特徴が示されています。

💡 用語解説:脱髄型と軸索型

神経は「電線」にたとえられます。芯にあたるのが軸索、その外側を巻いている絶縁体がミエリン(髄鞘)です。絶縁体がはがれるタイプを脱髄型、芯そのものが傷むタイプを軸索型と呼びます。脱髄型では信号の伝わる速さ(神経伝導速度)が大きく落ち、軸索型では速さは保たれるのに信号の大きさが落ちます。CMT4Gは脱髄型に分類されますが、実際には両者の中間的なパターンを示すことも知られています。

CMT4Gが医学的におもしろいのは、「原因遺伝子から症状がまったく予想できない」という点にあります。原因はHK1という、糖の代謝を担う酵素の遺伝子です。ふつうに考えれば、この遺伝子が壊れたら全身のエネルギー代謝が滞りそうなものです。ところが患者さんに起きるのは、末梢神経の髄鞘だけが選ばれたように壊れていく現象で、しかも赤血球の酵素活性は正常のままです。この一見ちぐはぐな現象がどう説明されるのかを、次のセクションから順に見ていきます。

2. 原因遺伝子HK1 ─ 「代謝酵素」のもうひとつの顔

HK1は、10番染色体の長腕(10q22)にある遺伝子で、ヘキソキナーゼ1という酵素をつくります。ヘキソキナーゼは、細胞に取り込まれたブドウ糖にリン酸をひとつ付けて「グルコース-6-リン酸」に変える反応を担当します。糖をエネルギーに変える一連の反応の、いちばん最初のステップです。リン酸を付けるはたらきをする酵素はキナーゼと総称されます。ヒトには4種類のヘキソキナーゼがありますが、HK1がつくる1型は、脳・赤血球・血小板・リンパ球・線維芽細胞など、ブドウ糖に強く依存する組織で主役を務めています[3]

このタンパク質は917個のアミノ酸からできており、進化の過程で祖先の遺伝子が2回コピーされて縦につながった構造をしています。そのため前半(N末端側)と後半(C末端側)がよく似た形をしていて、αヘリックスという「ばね」でつながれています。ただし役割は同じではありません。実際に糖にリン酸を付ける触媒の仕事をしているのは後半だけで、前半は触媒活性を持たず、調節役に回っています[3]

CMT4Gの理解に欠かせないのが、このN末端のいちばん先にある、わずか15アミノ酸ほどの短い配列です。ここはポリン結合ドメイン(PBD)と呼ばれ、生物種を越えて完全に保存されています。この部分があることで、HK1はただ細胞質を漂うのではなく、ミトコンドリアの外側の膜に直接張り付くことができます。相手役はVDAC1(電位依存性アニオンチャネル1)というポリン(膜の穴)です[3]

図1:ヘキソキナーゼ1タンパク質の構造

PBD
15aa
N末端ドメイン(調節)
触媒活性なし
C末端ドメイン(触媒)
糖にリン酸を付ける

↓ 先端のPBDがミトコンドリア外膜のVDAC1に結合する

CMT4Gでは、このPBDを欠いたHK1が優位になる

ここで押さえておきたいのは、HK1には「酵素としての仕事」と「ミトコンドリアに張り付いて扉を押さえる仕事」という、性格の異なる2つの役割があるということです。CMT4Gで失われるのは後者だけです。だからこそ、糖代謝そのものは保たれたまま、末梢神経だけが選択的に傷むという現象が起こります。

3. 2種類の変異 ─ 読まれない領域の変化と、翻訳を止める変化

ロマ集団の創始者変異(5′-UTRのAltT2エキソン)

2009年、研究チームがHMSNRの原因領域を10q22-q23に絞り込み、HK1の上流にある約26kbの配列を徹底的に読み解いた結果、ようやく原因が突き止められました[4]。見つかったのは、通常はタンパク質に翻訳されない5’非翻訳領域(5’UTR)のなかにある、「AltT2」という代替エキソン内の1塩基置換(g.9712G>C)でした。

この変異には特徴的な性質があります。すぐ隣のイントロンにあるもう1か所の変化(g.11027G>A)と完全な連鎖不平衡にあり、つまり必ずセットで受け継がれます。ただし2つが同じ重みを持つわけではありません。AltT2内のG>Cは16種の生物で塩基が完全に保存されている位置に起きているのに対し、イントロン側のG>Aは保存性が低く、病原性を担っているのは前者だと考えられています[1][4]。イントロン側の変化は、同じ祖先の染色体に乗って一緒に旅をしてきた「目印」という位置づけです。

💡 用語解説:選択的スプライシングと代替エキソン

1つの遺伝子から、状況に応じて何種類ものタンパク質をつくり分けるしくみを選択的スプライシングといいます。設計図のどの部分(エキソン)を採用し、どの部分を捨てるかを組み替えるのです。HK1はこのしくみを高度に使いこなす遺伝子で、組織ごとに違うプロモーターと代替エキソンを使い分け、体細胞型・網状赤血球型・精巣型など複数のアイソフォームをつくります。「AltT2」はそうした代替エキソンのひとつです。

では、なぜ読まれない領域の1文字の違いが病気を起こすのでしょうか。鍵は、AltT2を含む転写産物が、もともと最初のエキソンを飛ばしてつくられているという点にあります。マウスの精巣と神経組織のmRNAを解析した研究では、AltT2を含む転写産物はいずれもエキソン1をスキップしており、そのエキソン1こそがミトコンドリア外膜への結合を担うドメイン(PBD)をコードしていました[4]。つまりAltT2型のHK1は、生まれつき「ミトコンドリアに張り付く手」を持たない形なのです。変異はこの発達段階に応じた使い分けのバランスを崩し、末梢神経のなかで手を持たない形が優位になると考えられています。

この解釈を裏づけるのが、酵素活性の測定結果です。患者さんの末梢神経でヘキソキナーゼ活性を測り、免疫染色でタンパク質の分布を調べても、対照群との差は認められませんでした[4]。触媒の力は残っているのに病気になる——このことが、CMT4Gが「代謝が止まる病気」ではなく「結合が切れる病気」であることを示しています。

ロマ集団を越えて ─ p.Arg7*というナンセンス変異

CMT4Gは長らく「ロマ集団に固有の病気」と考えられてきました。実際、この創始者変異はロマ集団のなかでは一定の頻度で受け継がれています。原著論文では、ロマ集団を横断的に集めた対照790人のうち5人がこの変化をヘテロ接合で持っていた一方、ブルガリア人対照233人からは1人も検出されませんでした[4]。スロバキアの解析でも、ロマ系家系の遺伝性ニューロパチーの原因として、CMT4Dを起こすNDRG1変異と並んでこのHK1変異が繰り返し見つかっています[5]

状況が変わったのは2021年です。パキスタンのいとこ婚家系のCMT患者さんに全エクソーム解析を行ったところ、HK1のコード領域内のナンセンス変異 c.19C>T(p.Arg7*)がホモ接合で見つかりました[6]。7番目のアミノ酸で翻訳が止まってしまう変化で、これもまたPBDを失わせます。さらに2023年、イランのいとこ婚家系からまったく同じp.Arg7*を持つ患者さんが報告され、CMT4Gがロマ集団以外にも存在することが確かめられました[7]

💡 用語解説:ナンセンス変異とNMD

ナンセンス変異は、アミノ酸を指定していた3文字が「ここで終わり」という終止の合図に変わってしまう変化です。設計図の途中で工事が打ち切られるため、タンパク質は途中までしかできません。そのうえ細胞には、こうした欠陥のある設計図を見つけて分解するNMD(ナンセンス変異依存mRNA分解)というしくみが備わっています。p.Arg7*のように非常に早い位置で止まる変異では、タンパク質が短く切れるか、設計図そのものが分解されるか、いずれかの経路をたどると考えられます。

遺伝的な位置も、メカニズムも異なる2つの変異が、どちらもN末端のPBDを失わせるという一点で共通し、臨床像もほぼ同じになる——この事実は、CMT4Gの本質がまさにこのドメインの喪失にあることを、逆側から証明しています。血縁婚の多い中東・南アジアの集団では、まだ診断されていない患者さんがいる可能性があります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「読まれない領域」に病気の答えがあること】

遺伝子検査の技術は、長らく「タンパク質になる部分を読む」ことを中心に発展してきました。効率が良く、意味の解釈もしやすいからです。けれどもCMT4Gの創始者変異は、その効率のよい網からこぼれ落ちる場所に潜んでいました。原因が突き止められるまでに10年近くを要したのは、病気が珍しかったからだけではなく、私たちが「読むべき場所」をあらかじめ決めてかかっていたからでもあります。

診療の場で私が大切にしているのは、「検査で見つからなかった」と「原因がなかった」を決して同じ言葉で語らないことです。検査には必ず設計上の守備範囲があり、その外側は最初から探されていません。結果が陰性だったときこそ、何を調べて何を調べていないのかを一緒に確認する時間が必要だと考えています。

4. 病態のしくみ ─ 外れたHK1、漏れるカルシウム、はがれる髄鞘

CMT4Gの分子メカニズムは長く謎のままでしたが、2024年に発表されたフランスのロマ集団25人のコホート研究によって、大きく前進しました[8]。この研究では、患者さんから採取した末梢血単核球と腓腹神経を用い、免疫共沈降と近接ライゲーションアッセイという2つの手法でHK1とVDAC1の結び付きを調べました。結果は明快で、患者さんの組織ではHK1とVDAC1の結合が著しく減っていました

では、HK1が外れると何が起きるのでしょうか。VDAC1はミトコンドリアの外膜にある通路で、HK1が結合しているあいだは通り抜けにくい状態に保たれています。とくにカルシウムイオンの通りやすさが抑えられていることが重要です。HK1という「重し」が外れると、通路の締まりが緩み、ミトコンドリアのなかに蓄えられていたカルシウムが細胞質へ漏れ出します。同じ研究では、正常型HK1、あるいはそのN末端15アミノ酸だけを模した合成ペプチドを細胞に入れるとカルシウムの放出が抑えられたのに対し、CMT4G型のHK1やその変異ペプチドでは抑えられなかったことが示されています[8]

図2:シュワン細胞のミトコンドリアで起きていること

正常なシュワン細胞

HK1がPBDでVDAC1に結合

カルシウムの通り道が締まる

髄鞘が保たれる

CMT4Gのシュワン細胞

PBDを欠いたHK1が結合できない

カルシウムが細胞質へ漏れ続ける

脱分化が始まり髄鞘がはがれる

この「カルシウムの漏れ」がなぜ髄鞘の崩壊につながるのかは、末梢神経の再生研究から明らかにされてきました。マウスの坐骨神経を用いたリアルタイム生体イメージング研究では、神経を損傷させるとシュワン細胞のミトコンドリアからカルシウムが放出され、それがERK1/2・p38・JNKといった経路とc-Junの活性化を引き起こして、脱髄のプログラムそのものにスイッチを入れることが示されました[9]

ここで重要なのは、脱髄はシュワン細胞が死ぬことで起こるのではないという点です。シュワン細胞は生きたまま、髄鞘をつくるという成熟した役割を降りて、より未熟な状態へ戻ります。これを脱分化と呼びます。もともとは神経が傷ついたときに再生を助けるための、理にかなった反応です。ところがCMT4Gでは、カルシウムの漏れが持続するために、この「臨時の反応」がいつまでも解除されず、髄鞘が繰り返し失われていくと考えられています。同じ研究では、VDAC1を介したカルシウム放出を抑える薬剤(TRO19622/オレスオキシム)を使うことで脱髄が防げること、また糖尿病モデルマウスでもVDAC1が慢性的に漏れやすくなっていることが示されました[9]。CMT4Gの機序は、外傷後や糖尿病性の神経障害とも通じる、末梢神経に共通の経路につながっているのです。

💡 用語解説:ミトコンドリアとカルシウムの関係

ミトコンドリアはエネルギーをつくる工場として知られていますが、もうひとつ細胞内のカルシウムを一時的に預かる貯蔵庫としての顔も持っています。カルシウムは細胞にとって強力な合図の分子で、濃度がわずかに変わるだけで細胞の振る舞いが変わります。内膜側にはミトコンドリア透過性遷移孔(mPTP)という別の通路もあり、外膜のVDACと合わせて出入りが調節されています。HK1がVDACに結合してこの扉を押さえていることは、アポトーシス(細胞の自死)の抑制にも関わると考えられています。

5. 症状と経過 ─ 足から始まり、ゆっくり進む

CMT4Gの経過は、フランスのロマ集団25人を追った研究でまとまった形が示されています。それによると、この病気は小児期に発症し、脱髄型と軸索型の中間的なパターンを示し、40代までに車椅子を使うようになるという、はっきりした軌跡をたどります[8]。中東・南アジアの症例報告では、パキスタンの患者さんが1歳ごろから運動発達の遅れと筋萎縮を示し[6]、イランの患者さんは11歳から下肢の筋力低下が進行しました[7]。発症年齢には幅がありますが、いずれも人生の早い時期に始まっています。

最初に気づかれること

多くの場合、最初の変化は歩き方に現れます。つまずきやすい、よく転ぶ、走るのが遅い——こうした様子が、10歳前後で目立ってきます。あとから振り返ると、乳幼児期の運動発達がややゆっくりだったと気づかれることもあります。

身体所見でまず目につくのは、すねの前側と外側の筋肉がやせることによる下垂足です。足首を持ち上げる力が落ちるため、つま先が地面に引っかかりやすくなります。これを避けようとして膝を高く上げて歩くようになるのが、鶏歩と呼ばれる特徴的な歩き方です。足そのものの形も変わっていき、土踏まずが極端に高くなる凹足や、足先が内向きに固まる変形が進みます。歩行を保ち、痛みを減らすために、アキレス腱を延長したり腱を移し替えたりする整形外科的な手術が検討されることも少なくありません。

手はいつから、どのくらい

CMT4Gの経過でとりわけ特徴的なのが、手の症状の出方です。チェコの20人の患者さんを検討した報告では、下肢の萎縮と変形が高度に進んで若い年齢でも歩行が難しくなる一方、手は長い罹病期間を経てもなお軽度にとどまることが確認されています[2]。手のひらの小さな筋肉(手内在筋)がやせて指の細かい動きがしにくくなるのは、多くの場合30代から40代にかけてで、それでも下肢に比べれば軽い程度で経過します。この「足と手の落差」は、後で述べる鑑別診断でも重要な手がかりになります。

感覚と、伴わない症状

感覚の障害も、足先から手前に向かって広がります。位置がわかる感覚や振動を感じる感覚といった深部感覚から、痛みや温度の感覚まで、あらゆる種類が障害されます。腱をたたいたときの反射は、早い段階から消えてしまいます。

一方で、CMT4Gでは末梢神経以外の神経症状は伴いません。難聴も視覚障害も認められず、認知機能にも影響しません[8]。これは患者さんとご家族にとって現実的に大きな意味を持つ情報です。「この先どこまで広がるのか」という不安に対して、少なくとも聴力と視力は病気の対象ではないと、根拠をもってお伝えできるからです。命に関わる病気ではありません。進行もゆっくりです。ただし前述のとおり、フランスのロマ集団のコホートでは40代までに車椅子を使うようになると報告されており[8]歩く力をどれだけ長く保てるかが生活の質を大きく左右します。だからこそ、装具やリハビリテーションによる早い時期からの介入に意味があります。

6. 検査と診断 ─ 「パネル陰性」でも否定できない理由

神経伝導検査と病理所見

診断の出発点は、神経に電気刺激を与えて信号の伝わり方を調べる神経伝導検査です。CMT4Gでは、上肢の運動神経の伝導速度が脱髄型として低下する一方で、下肢では若い年齢であっても感覚神経の電位そのものが記録できないことが多く、運動神経も測定困難になります。上肢の低下の程度は、後で述べるCMT4Dほど極端ではなく、中間型に近いパターンを取ることが知られています[8]

腓腹神経の生検を行った場合には、脱髄と再髄鞘化が繰り返された跡である「オニオンバルブ(玉ねぎの皮のような同心円構造)」が多数みられ、有髄線維の密度が著しく低下します。現在では遺伝学的検査が診断の中心となっているため、神経生検が必須とされる場面は限られています。

遺伝学的検査 ─ ここに落とし穴があります

CMTの遺伝学的検査は、複数の原因遺伝子を一度に調べるNGSパネル検査が主流です。当院が採用しているパネルもCMTと関連疾患の59遺伝子を対象としています。ただしCMT4Gについては、2つの意味で注意が必要です

ひとつめは、HK1がこのパネルの対象遺伝子に含まれていないことです。CMT4Dの原因であるNDRG1やCMT4CのSH3TC2は含まれていますが、HK1は入っていません。ふたつめが、より本質的な問題です。仮にHK1が対象に加わったとしても、ロマ集団の創始者変異はパネル検査では原理的に拾えない可能性が高いのです。この種の検査は「タンパク質をコードする領域とスプライス部位」を読むように設計されており、プロモーターなどの調節領域や、エキソンから離れたイントロン深部の変化は検出対象外とされています。AltT2エキソン内の変異は、まさにその守備範囲の外にあります。

⚠️ 押さえておきたい非対称性

同じCMT4Gでも、変異の種類によって「見つかりやすさ」がまったく違います。

ロマ集団の創始者変異(5′-UTR):一般的なパネル検査や全エクソーム解析の設計範囲の外側にあり、狙って調べないと見つかりません。臨床像とご家族の背景から疑い、この領域を個別にサンガー法などで確認する必要があります。

p.Arg7*(コード領域):こちらは通常の解析範囲内にあります。実際、パキスタンとイランの症例はいずれも全エクソーム解析で同定されました。

つまり、脱髄型CMTが強く疑われるのにパネル検査が陰性だったとき、それは「原因がない」という意味ではありません。とくに、ロマ系のご家族背景がある方、あるいは血縁関係のあるご両親から生まれた方では、検査の設計範囲を確認したうえで次の一手を考える価値があります。臨床遺伝専門医が関わる意味は、まさにこうした「何を調べて何を調べていないか」を整理するところにあります。

7. CMT4Dとの見分け方 ─ 難聴と手がカギになります

臨床の場で最も重要な鑑別相手が、CMT4D(Lom型/HMSNL)です。原因は8番染色体長腕にあるNDRG1遺伝子で、これもロマ集団の創始者変異によって起こる常染色体潜性(劣性)遺伝の脱髄型ニューロパチーです[10]。小児期に発症して下肢の筋力低下・腱反射の消失・足部変形をきたす点まで、CMT4Gとよく似ています。同じ集団のなかで両方が流行しているため、臨床像だけで区別するのは容易ではありません。

それでも、いくつかの手がかりがあります。最も有力なのが感音難聴の有無です。CMT4Dでは、多くの患者さんが10代から20代にかけて進行性の感音難聴を合併します[10]。CMT4D患者72人を集めた文献レビューでも聴覚障害は61%に認められており、頻度の高い所見です[11]。一方、CMT4Gでは年齢を重ねても難聴の合併は認められません[8]

比較項目 CMT4G(ルセ型) CMT4D(Lom型)
原因遺伝子 HK1(10q22) NDRG1(8q24)
感音難聴 伴いません 高頻度に合併(多くは10〜20代)
手の症状が出る時期 遅い。長い経過でも軽度にとどまる 早い時期から手内在筋の萎縮が目立つ
神経伝導速度 脱髄型〜中間型。上肢は中等度の低下 より高度に低下する傾向
その他 末梢神経以外の神経症状なし 嚥下障害・呼吸障害・認知の遅れを伴う報告あり

ロマ集団に多い常染色体潜性のCMTには、もうひとつSH3TC2遺伝子によるCMT4Cがあります。スロバキアやチェコの研究でも、この3型が並んで検討されてきました[5]。CMT4Cは早期からの脊柱変形(側弯)が特徴とされます。このほか、脱髄型CMTの鑑別では最も頻度の高いCMT1A(PMP22の重複)や、GJB1遺伝子によるX連鎖型のCMT1Xも候補に挙がります。当院サイトでは、CMT2B1CMT2A1など軸索型の各病型も個別に解説しています。

遺伝性でない病気との区別も重要です。とくに慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)は、自己免疫が原因で髄鞘が壊れる後天性の病気で、免疫治療が効く可能性があります。左右対称にゆっくり進むこと、幼少期から足の変形があること、ご家族に似た症状の方がいることなどは遺伝性を示唆する手がかりですが、実際には両者が紛らわしいこともあり、慎重な評価が求められます。また、圧迫で一時的に神経麻痺を繰り返す遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)のように、経過の形そのものが異なる遺伝性疾患もあります。

8. HK1関連疾患スペクトラム ─ 同じ遺伝子から、まったく別の病気へ

HK1は、遺伝医学のなかでもとりわけ印象的な例を提供してくれる遺伝子です。変異がどこに起きるか、そして両方のアレルに起きるのか片方だけなのかによって、まったく異なる5つの病気になります。この現象は遺伝子型-表現型相関を考えるうえで格好の教材です。

疾患 変異の位置とアレル状態 主な特徴
CMT4G/HMSNR 5′-UTRの代替エキソン、またはN末端早期のナンセンス変異/両アレル 小児期発症の脱髄型ニューロパチー。貧血なし
非球状赤血球性溶血性貧血 主にC末端の触媒ドメインの機能喪失変異/両アレル 乳児期からの慢性溶血。酵素活性が低下
NEDVIBA ミスセンス変異/片アレル(多くは新生突然変異) 発達の遅れ、知的発達症、視覚障害、脳の構造異常
網膜色素変性症79(RP79) p.Glu847Lys(触媒部位から離れた表面)/片アレル 成人期発症の進行性網膜変性。全身症状なし
先天性高インスリン血症 イントロン2のシス調節領域(非コード)/片アレル 膵β細胞でHK1が不適切に発現し、低血糖を起こす

それぞれの根拠を簡単に見ておきましょう。溶血性貧血は、HK1の両アレルの機能喪失変異によって赤血球の解糖系が回らなくなるもので、OMIMには先天性非球状赤血球性溶血性貧血5型として登録されています[12]。世界的にも報告例が非常に少ない希少な病態です。NEDVIBAは、片方のアレルのミスセンス変異によって起こる神経発達症で、発達の遅れ・知的発達症・言語の遅れに加え、網膜色素変性や視神経萎縮などの視覚障害、筋緊張の異常、脳の構造異常を伴います[13]

RP79は、5家系で見つかったミスセンス変異 p.Glu847Lys によって起こる常染色体顕性(優性)の網膜変性です。この位置は触媒部位から離れた分子表面にあり、酵素活性やタンパク質の安定性を損なわないと予想されました。実際、患者さんに溶血性貧血は認められず、全身の糖代謝異常も検出されていません[14]。網膜に特異的な、何らかの新しい性質を獲得した結果ではないかと考えられています。網膜のなかでHK1がCox11やRanBP2というタンパク質と相互作用しているという知見をもとに、その均衡が崩れる可能性が仮説として提唱されていますが、確立した機序ではありません。

最後の先天性高インスリン血症は、発想の転換を迫る例です。HK1は肝臓と膵β細胞では「発現してはいけない遺伝子」として厳重に抑え込まれています。2022年、原因不明の先天性高インスリン血症を非コード領域まで含めて網羅的に探索した研究により、イントロン内の調節エレメントにある42塩基対の保存領域の変異が、この抑え込みを解除してしまうことが明らかになりました[15]。その後の国際コホート研究では、原因不明の高インスリン血症1,761例のうち89例(5%)でこの領域の変異が見つかり、症状のない親から受け継いだ例もあることから浸透率が完全ではないことも示されました[16]。当院では家族性高インスリン血症性低血糖症についても解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「遺伝子の名前」だけでは病名は決まりません】

遺伝子検査の結果をお持ちになった方から、「HK1に変化があると言われたのですが、私はどの病気なのでしょうか」とご質問をいただくことがあります。この遺伝子はまさに、その問いに一言で答えられない典型例です。同じHK1でも、変化した場所が触媒ドメインなら貧血、N末端なら神経、イントロンの調節領域なら低血糖と、行き着く先がまったく変わります。

ですから遺伝子検査の結果は、遺伝子名だけを見て解釈することができません。どの位置の、どんな種類の変化が、片方のアレルにあるのか両方にあるのか。そこまで揃えて初めて意味を持ちます。検査報告書を前に不安が募るときは、その一枚をどう読むかを一緒に整理するところから始めさせてください。

9. 治療と日常の管理、そして研究の最前線

現在の管理 ─ 支持療法が中心です

現時点で、CMT4Gを含むすべてのCMTに対して、病気の進行そのものを止める薬は承認されていません。管理の柱は支持療法です。理学療法と作業療法で筋力と関節の動く範囲を保ち、下垂足に対しては短下肢装具を早めに用いて歩行の安定と転倒予防を図ります。足の変形が進んで歩行や痛みに支障が出る場合には、整形外科的な手術が選択肢になります。リハビリテーション科・整形外科・脳神経内科など、複数の診療科が連携して関わる体制が望ましいとされています。

日常生活で強く意識していただきたいのが、末梢神経に毒性を持つ薬剤を避けることです。とくに抗がん剤のビンクリスチンは、脱髄型のCMTを持つ方に重篤な神経障害を引き起こすことが古くから報告されており、避けるべきとされています[17]。がんの治療が必要になったとき、CMTという診断がついていることそのものが、安全な治療計画につながります。これは「診断をつける意味」のうち、最も実際的なもののひとつです。

研究の最前線 ─ 「結合を取り戻す」という発想

病態の中心が「HK1とVDAC1の結合が切れること」だと分かったことで、治療研究の方向もはっきりしてきました。ひとつが合成ペプチドによるアプローチです。正常なHK1のN末端15アミノ酸を模したペプチドを細胞に与えると、変異型HK1の代わりにVDAC1へ結合し、ミトコンドリアからのカルシウム放出を抑えられることが確認されています[8]。さらにこのペプチドの疎水性とらせん構造を最適化することで、VDACへの結合能を高め、マウスの末梢神経における脱髄をより強く抑えられることも報告されました[18]

もうひとつが遺伝子治療です。AAVベクターを使って正常な遺伝子をシュワン細胞に届けるという戦略は、CMT4Gそのものではまだ試されていませんが、同じ脱髄型CMTでは前進しています。GJB1遺伝子によるCMT1Xのモデルマウスでは、髄鞘の主要タンパク質の遺伝子スイッチを利用してシュワン細胞に狙いを定めたAAV9による遺伝子補充療法が、発症前と発症後のいずれの投与でも運動機能と神経伝導速度を改善させました[19]。CMT4Gも「シュワン細胞に正常なHK1を届ければ、切れた結合を物理的に取り戻せる」という構図をしているため、同じ道筋が期待される病型です。

対症的に筋力の発揮を助ける薬の開発も進んでいます。骨格筋に特異的な塩化物イオンチャネル(ClC-1)を部分的に抑えることで神経筋接合部の伝達効率を高める低分子化合物について、CMTを対象とした第2相試験が進行中です[20]。ただしこの試験の対象はCMT1型とCMT2型であり、CMT4Gは含まれていません。将来的にどこまで対象が広がるかは、現時点では明らかにされていません。

10. 遺伝のしくみと遺伝カウンセリング

CMT4Gは常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとります。人は同じ遺伝子を父由来・母由来の2本持っていますが、この病気では2本ともに変化がある場合にだけ発症します。1本だけに変化がある方は保因者と呼ばれ、症状は出ません。

図3:ご両親がともに保因者の場合のお子さんの確率

25%

発症します

50%

保因者(症状なし)

25%

変化を受け継ぎません

この確率は妊娠ごとに独立して当てはまります。すでにお子さんが発症している場合でも、次の妊娠の確率が変わることはありません。

この病気がロマ集団に集積しているのは、創始者効果によるものです。集団の成り立ちの初期にいた少数の人がたまたま持っていた変化が、集団内での婚姻が続くなかで受け継がれ、割合として高くなった現象です。一方、パキスタンやイランの例のように血縁関係のあるご両親から生まれた場合にも、同じ変化を2本揃って受け継ぐ確率が高くなります。血縁の近さは、常染色体潜性遺伝の病気を考えるうえで欠かせない情報です。

なお、患者さんが必ずしも両親から同じ種類の変化を受け継ぐとは限りません。父由来と母由来で別々の変化を持つ複合ヘテロ接合という状態もあります。これまで報告されているCMT4Gの症例はいずれも同じ変化を2本持つホモ接合でしたが[4]、検査結果を読むときには、2本のアレルそれぞれに何が起きているかを確認する視点が必要です。

お子さんの病名が確定したあと、ご家族が抱えるお気持ちはさまざまです。「自分たちのせいなのではないか」という思いを口にされる方も少なくありません。保因者であることは誰の落ち度でもなく、私たちは誰もが平均して数個の潜性遺伝病の変化を持っていると考えられています。遺伝カウンセリングでは、こうした事実を共有しながら、次の妊娠を考える場合の選択肢についても中立的にご説明します。将来のお子さんに関する選択肢としては、妊娠中に行う確定検査のほか、体外受精を前提として胚の段階で調べる着床前遺伝学的検査(PGT-M)という方法もあります。いずれも、ご家族の原因となる変化があらかじめ特定されていることが前提となります。当院では遺伝カウンセリング・遺伝診療を臨床遺伝専門医が担当し、どの道を選ばれる場合でも判断を急がせない進め方を大切にしています。遺伝形式の全体像を知っておくことも、ご家族の理解を助けます。

よくある誤解

誤解①「HK1の病気だから貧血になるはず」

CMT4Gでは貧血は起こりません。失われるのはミトコンドリアに結合する能力だけで、糖にリン酸を付ける酵素としての力は保たれているためです。実際、患者さんの末梢神経で酵素活性を測っても対照群と差がありませんでした。溶血性貧血を起こすのは、触媒ドメインが壊れる別のタイプの変異です。

誤解②「遺伝子パネルが陰性なら違う病気」

ロマ集団の創始者変異はタンパク質に翻訳されない領域にあり、コード領域中心のパネル検査や全エクソーム解析では設計上の守備範囲の外にあります。陰性結果は「この検査の範囲では見つからなかった」という意味であり、診断の否定にはなりません。

誤解③「進行すれば耳も目も悪くなる」

CMT4Gでは、高齢に達しても難聴や視覚障害は認められません。難聴を伴うのは、同じロマ集団に多いCMT4D(Lom型)のほうです。この違いは経過の見通しに直結するため、両者を混同しないことが大切です。

誤解④「もう治療薬が実用化されている」

合成ペプチドや遺伝子治療の研究は前進していますが、いずれも細胞実験と動物実験の段階です。CMT4Gに対して承認された病態修飾治療はまだありません。現在の管理はリハビリテーション・装具・整形外科的治療が中心です。

よくある質問(FAQ)

Q1. CMT4Gは日本人にも起こりますか?

これまでに報告されているCMT4Gは、ヨーロッパのロマ集団と、中東・南アジアの血縁婚のあるご家族に限られており、日本人の患者さんの報告は確認されていません。ただし「日本と無縁」と言い切れる段階ではなく、原因の分からない脱髄型ニューロパチーのなかに含まれている可能性は残ります。ご両親に血縁関係がある場合や、海外のご家族背景がある場合には、鑑別の候補として考える意味があります。

Q2. 遺伝子検査でHK1は調べられますか?

当院のシャルコー・マリー・トゥース病NGSパネル検査は59遺伝子を対象としていますが、現在のところHK1は対象に含まれていません。またロマ集団の創始者変異は非翻訳領域にあるため、コード領域を中心に設計された検査では検出されない可能性が高いという事情もあります。臨床像やご家族の背景からCMT4Gが疑われる場合の検査方針については、個別にご相談ください。

Q3. 子どもがCMT4Gと診断されました。次の子も同じ病気になりますか?

CMT4Gは常染色体潜性(劣性)遺伝の病気で、ご両親はどちらも保因者ということになります。次のお子さんが発症する確率は25%、保因者となる確率は50%、変化をまったく受け継がない確率は25%です。この確率は妊娠ごとに独立して当てはまり、すでにお子さんが発症していることで次の確率が高くなったり低くなったりすることはありません。

Q4. 保因者である私に、将来症状が出ることはありますか?

保因者の方に症状が出ることはありません。CMT4Gは2本のアレルの両方に変化がある場合にだけ発症する病気で、1本が正常であれば十分に機能が保たれます。保因者であることは病気ではなく、体質の一種と考えていただいて差し支えありません。ご心配な点があれば、ご家族の遺伝形式を整理しながらご説明します。

Q5. CMT4Gで難聴になることはありますか?

CMT4Gでは、高齢に達しても難聴の合併は認められていません。視覚障害や認知機能への影響もなく、症状は末梢神経の範囲にとどまります。難聴を高頻度に伴うのは、同じロマ集団に多いCMT4D(Lom型)のほうで、多くは10代から20代にかけて進行性の感音難聴が現れます。この違いは両者を見分けるうえで重要な手がかりになります。

Q6. HK1は糖代謝の酵素なのに、どうして神経だけが悪くなるのですか?

HK1には、糖にリン酸を付ける酵素としての役割と、ミトコンドリアの外膜に張り付いてカルシウムの通り道を押さえる役割の、2つの顔があります。CMT4Gで失われるのは後者だけです。この「押さえる力」に最も強く依存しているのが髄鞘をつくるシュワン細胞であるため、糖代謝は保たれたまま末梢神経だけが選択的に障害されると考えられています。

Q7. 治療法の開発はどこまで進んでいますか?

正常なHK1のN末端を模した合成ペプチドがミトコンドリアからのカルシウム放出を抑えること、そのペプチドを最適化するとマウスの末梢神経で脱髄を抑えられることが報告されています。またシュワン細胞を標的とした遺伝子補充療法は、別の脱髄型CMTの動物モデルで治療効果が示されています。いずれも研究段階であり、CMT4Gに対して承認された治療薬はまだありません。

Q8. CMTと診断されたら、避けたほうがよい薬はありますか?

末梢神経に毒性のある薬剤には注意が必要です。とくに抗がん剤のビンクリスチンは、脱髄型のCMTを持つ方に重篤な神経障害を引き起こすことが報告されており、避けるべきとされています。新しいお薬を処方される際には、CMTであることを必ず担当の医師にお伝えください。診断がついていること自体が、安全な治療計画につながります。

🏥 遺伝性ニューロパチーの遺伝子診断のご相談

シャルコー・マリー・トゥース病をはじめとする遺伝性末梢神経疾患の
遺伝子検査と遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。

参考文献

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  • [2] HSMNR belongs to the most frequent types of hereditary neuropathy in the Czech Republic and is twice more frequent than HMSNL. Clin Genet. 2016. [Clin Genet 90(2):161-165]
  • [3] OMIM *142600. HEXOKINASE 1; HK1. [OMIM 142600]
  • [4] A mutation in an alternative untranslated exon of hexokinase 1 associated with hereditary motor and sensory neuropathy — Russe (HMSNR). Eur J Hum Genet. 2009. [PubMed 19536174]
  • [5] Founder mutations in NDRG1 and HK1 genes are common causes of inherited neuropathies among Roma/Gypsies in Slovakia. J Appl Genet. 2013. [J Appl Genet 54(4):455-460]
  • [6] Novel homozygous mutations in Pakistani families with Charcot-Marie-Tooth disease. BMC Med Genomics. 2021. [PMC8247155]
  • [7] Expanding the Molecular Spectrum of HK1-Related Charcot-Marie-Tooth Disease, Type 4G; the First Report in Iran. Arch Iran Med. 2023. [PubMed 38301092]
  • [8] The Hexokinase 1 5′-UTR Mutation in Charcot-Marie-Tooth 4G Disease Alters Hexokinase 1 Binding to Voltage-Dependent Anion Channel-1 and Leads to Dysfunctional Mitochondrial Calcium Buffering. Int J Mol Sci. 2024. [Int J Mol Sci 25(8):4364]
  • [9] Traumatic and Diabetic Schwann Cell Demyelination Is Triggered by a Transient Mitochondrial Calcium Release through Voltage Dependent Anion Channel 1. Biomedicines. 2022. [PubMed 35740468]
  • [10] OMIM #601455. CHARCOT-MARIE-TOOTH DISEASE, TYPE 4D; CMT4D. [OMIM 601455]
  • [11] Clinical and pathological findings in two Italian siblings of Romani ancestry with Charcot-Marie-Tooth type 4D and review of the current literature. [doi:10.1177/22143602261438536]
  • [12] OMIM #235700. ANEMIA, CONGENITAL, NONSPHEROCYTIC HEMOLYTIC, 5; CNSHA5. [OMIM 235700]
  • [13] OMIM #618547. NEURODEVELOPMENTAL DISORDER WITH VISUAL DEFECTS AND BRAIN ANOMALIES; NEDVIBA. [OMIM 618547]
  • [14] A dominant mutation in hexokinase 1 (HK1) causes retinitis pigmentosa. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2014. [PubMed 25190649]
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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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