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シャルコー・マリー・トゥース病2B1型(CMT2B1)とは?LMNA遺伝子の変異が末梢神経をおかす希少な遺伝性ニューロパチー

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

シャルコー・マリー・トゥース病2B1型(CMT2B1)は、LMNA遺伝子のホモ接合体変異(R298C)によって、手足の先の筋力低下や感覚障害がゆっくり進む、常染色体潜性遺伝の希少な末梢神経の病気です。主にアルジェリアやモロッコなど北西アフリカの家系に集中し、核を支える普遍的なタンパク質の異常が、なぜか長い末梢神経だけを傷めるという、医学的にとても興味深い特徴を持っています。この記事では、原因から症状・診断・治療、そして見落とされやすい心臓の問題まで、一般の方にもわかるように専門医がていねいに解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約18分
🧬 LMNA遺伝子・末梢神経・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. CMT2B1とはどのような病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 核を支えるタンパク質「ラミンA/C」をつくるLMNA遺伝子の特定の変異(R298C)が、両親から1つずつ受け継がれて2つそろったときに発症する、軸索型の遺伝性末梢神経疾患です。手足の先の筋力低下・感覚障害・足の変形を主な症状とし、見落とされやすい心臓の合併症に注意が必要です。

  • 疾患の定義 → OMIM 605588、Orphanet ORPHA:98856、常染色体潜性遺伝の軸索型CMT
  • 原因 → LMNA遺伝子のホモ接合体変異 p.Arg298Cys(c.892C>T)
  • 主な症状 → 手足の先の筋力低下・筋萎縮、感覚障害、凹足・ハンマー趾、鶏歩
  • 見落とし注意 → 心臓(不整脈・心筋症)のリスクと定期スクリーニング
  • 診断・管理 → 神経伝導検査とLMNA遺伝子検査、対症療法と遺伝カウンセリング

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1. CMT2B1とは:疾患の定義と位置づけ

シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は、手足を動かしたり感じたりする神経(末梢神経)がうまく働かなくなる遺伝性疾患の総称です。1886年に3人の医師(シャルコー、マリー、トゥース)が報告したことからこの名前がつきました。遺伝性の末梢神経疾患のなかで最も頻度が高いグループで、おおよそ2,500人に1人といわれています。典型的には足やすねの筋肉がやせて力が入りにくくなり、足のアーチが高くなる凹足(おうそく)や、指が鉤のように曲がるハンマー趾などの変形がみられます。

💡 用語解説:末梢神経(まっしょうしんけい)

脳や脊髄(中枢神経)から枝分かれして全身に伸びる神経のことです。筋肉を動かす「運動神経」、痛みや温度・触覚を伝える「感覚神経」、血圧や消化を調節する「自律神経」があります。CMTでは、このうち特に手足の先(遠位)の運動・感覚の神経が障害されやすいのが特徴です。

CMTは「脱髄型」と「軸索型」に大別される

CMTは、神経のどこが傷むかによって大きく2つに分かれます。神経を一本の電気コードにたとえるとわかりやすくなります。コードを包む「絶縁ビニール」にあたる髄鞘(ミエリン)が傷むのが脱髄型(CMT1)、コードの「芯」にあたる軸索そのものが傷むのが軸索型(CMT2)です。CMT2B1は、このうち軸索型(CMT2)に属する、とても珍しいサブタイプです。軸索型は脱髄型に比べて、神経の伝わる速さが比較的保たれるという特徴があります。

💡 用語解説:軸索と髄鞘(ミエリン)

軸索(じくさく)は神経細胞から伸びる長いケーブルで、電気信号を遠くまで運びます。髄鞘(ミエリン)はそのケーブルを包む絶縁体で、信号を速く正確に伝えます。脱髄型では絶縁体が、軸索型では芯そのものが傷みます。CMT2B1は軸索型です。

⚠️ 重要:「CMT2B」と「CMT2B1」は別の病気です

名前がそっくりですが、原因も遺伝のしかたも異なります。CMT2BはRAB7A遺伝子による常染色体顕性(優性)遺伝で、足の重い潰瘍が特徴です。一方のCMT2B1(このページ)はLMNA遺伝子による常染色体潜性(劣性)遺伝です。紹介状やカルテで混同されやすいため、医療者の方も注意が必要です。なお、CMT2B1は過去に「CMT4C1」と呼ばれたこともありますが、現在の標準名はCMT2B1(OMIM 605588)です。

2. 原因遺伝子LMNAと分子メカニズム

CMT2B1の原因はLMNA遺伝子の変異です。LMNAは、細胞のを内側から支えるラミンA/Cというタンパク質の設計図です。ラミンA/Cは網の目のように核の内側に広がり、核の形と強さを保つ「核ラミナ」をつくります。いわば核の骨組みであり、司令室の壁のような存在です。LMNAは1本の遺伝子からラミンAとラミンCという2種類のタンパク質をつくり分けており、人の体ではほとんどすべての細胞で働いています。

原因となる変異「R298C」

CMT2B1のほぼすべては、LMNA遺伝子の1か所の変化、c.892C>T(p.Arg298Cys、通称R298C)が両方の遺伝子にそろうこと(ホモ接合体)で発症します。これは、ラミンA/Cの298番目のアミノ酸がアルギニン → システインに置き換わるミスセンス変異です。性質の違うアミノ酸に変わることで、ラミン同士の結合(タンパク質の骨組みづくり)に支障が出ます。興味深いことに、LMNA遺伝子はもともと変異が起こりにくい(よく保存された)遺伝子で、タンパク質が完全になくなる「機能喪失型」の変異はほとんど存在しません。完全に欠損すると生きていくのが難しいほど大切なタンパク質だからです。R298Cが細胞を死なせずに末梢神経だけをゆっくり傷めるのは、単なる「機能の喪失」ではなく、タンパク質の働きの質が変わるタイプの変異と考えられています。

💡 用語解説:ミスセンス変異

DNAの1文字が変わることで、タンパク質をつくる「アミノ酸」が別の種類に1つ置き換わる変異です。タンパク質が完全になくなるわけではありませんが、形や働きが変わってしまうことがあります。くわしくはミスセンス変異の解説ページもご覧ください。

💡 用語解説:ホモ接合体(ホモせつごうたい)

人は同じ遺伝子を父方・母方から1つずつ、計2つ持っています。その2つともが同じ変異を持っている状態が「ホモ接合体」です。CMT2B1は2つそろって初めて発症します(1つだけなら通常は発症しない=保因者)。くわしくはホモ接合体の解説ページへ。

図:ラミンA/Cの構造と代表的な変異の位置

同じLMNA遺伝子でも、変異が起きる場所によって現れる病気が変わります。CMT2B1のR298Cは、タンパク質同士をつなぐ「中央ロッドドメイン」にあります。

N
1A
1B
2A
2B
Ig様ドメイン
R298C(CMT2B1)↓
FPLD2・MAD・HGPS↓
N末端
中央ロッドドメイン(タンパク質同士の結合に必須)
Ig様ドメイン
C末端/CaaX

図:ラミンA/Cのドメイン構造。CMT2B1のR298C(赤)はロッドドメインに、脂肪萎縮症(FPLD2)・下顎骨異形成症(MAD)・早老症(HGPS)の変異はC末端側に集中する傾向があります。

核のタンパク質なのに、なぜ末梢神経だけが傷むのか

ここがCMT2B1の最大の謎です。ラミンA/Cは全身ほぼすべての細胞が持つのに、CMT2B1ではなぜか長い末梢神経だけが選択的に傷みます。末梢神経の細胞は、背骨の近くにある細胞本体から、遠い手足の筋肉まで、ときに1メートル近くにも及ぶ長い軸索を維持しなければなりません。この「極端に長い構造」を保つには、本体からの絶え間ない物資の供給とエネルギーが必要で、わずかな異常でも積み重なると大きな影響が出ます。現在は、主に次の3つの仕組みが考えられています。

① 核が「もろく」なる:変異で核の骨組みがうまく作れず、核がもろく変形しやすくなります。末梢神経は体を動かすたびに引っぱられる機械的ストレスにさらされ続けるため、長い神経ほどダメージが蓄積し、いちばん遠い軸索の先端から弱る「ダイイングバック(先端からの逆戻り変性)」が起こると考えられます。

② 遺伝子のスイッチ(エピジェネティック制御)が乱れる:ラミンは、どの遺伝子をオン/オフにするかの調整にも関わっています。ヒトと同じR298C変異を入れたマウスの研究では、坐骨神経でだけ、末梢髄鞘タンパク質22(PMP22)の働きが強まるという分子レベルの変化が見つかりました。PMP22の過剰な働きは、脱髄型CMT(CMT1A)の原因として知られています。

📌 研究上の注意点

このマウスは、分子レベルではPMP22の変化が見られたものの、18か月たっても明らかな末梢神経の症状は出ませんでした。つまり「マウスで病気がそっくり再現された」わけではなく、あくまで分子レベルのヒントとして報告されたものです。核の異常が神経の遺伝子のスイッチを微妙に狂わせている可能性を示す所見として注目されています。

③ 軸索の「物流」が滞る:核ラミナはLINC複合体という仕組みで細胞の骨格(微小管など)とつながっています。R298C変異は、この骨格を整えるRhoGTPaseというスイッチ役の働きを乱すと報告されています。すると、細胞の本体で作られたミトコンドリア(エネルギー工場)などを軸索の先まで運ぶ「軸索輸送」が滞り、長い軸索の先端でエネルギーが足りなくなって、遠い部分から弱っていきます。動物モデルの坐骨神経では、軸索の数の減少や異常なふくらみが確認されており、ヒトの軸索障害をよく再現しています。

北西アフリカに集中する「創始者効果」

CMT2B1の患者さんは、アルジェリア北西部やモロッコ東部といった北西アフリカの家系に集中しています。血縁関係のない複数の家系を調べた研究で、患者さん全員が同じ染色体領域に共通の遺伝的な目印を持っていることがわかりました。これは偶然ではなく、「創始者効果」によると考えられています。

💡 用語解説:創始者効果(そうししゃこうか)

昔のある時点で一人の祖先に起きた1つの変異が、その地域で世代を超えて受け継がれ、子孫に広がっていく現象です。CMT2B1の患者さんは、血縁関係がなくても同じ変異(R298C)とその周りの共通の遺伝的な目印(祖先ハプロタイプ)を持っており、これが「共通の祖先から伝わった」証拠です。近親婚の割合が比較的高い地域的・文化的背景も、潜性遺伝の病気が現れやすくなる一因とされています。

3. 主な症状と進行、心臓のリスク

発症は多くが10代です(報告では平均14.4歳、6〜27歳と幅があります)。最初は足やすねの筋肉(とくに腓骨筋)が弱くなり、足首を持ち上げにくくなります。すると、足先を引きずらないように膝を高く上げて歩く「鶏歩(けいほ)」になることがあります。階段でつまずきやすい、平らな道でも小石につまずく、スリッパが脱げやすい、といった日常のちょっとした変化が最初のサインになることもあります。足のアーチが高くなる凹足やハンマー趾もみられますが、目立った変形がない人もいます。

運動の症状だけでなく、感覚も鈍くなります。手袋や靴下で覆われる範囲(手足の先)の感覚が鈍る「手袋・靴下型」の感覚障害が特徴です。アキレス腱反射などの腱反射は早い時期から弱く(または消失)なり、足の裏の感覚が鈍ることと相まって、バランスがとりにくく、暗い場所での歩行が不安定になります。進行すると症状は足から下腿、手や前腕へと上に広がり、ボタンをかける・箸を使うといった手先の細かい動作が難しくなることがあります。重い場合は太ももや肩まわりの筋肉にも及びます。

同じ変異でも重さに大きな個人差がある

興味深いことに、まったく同じR298C変異でも症状の重さには大きな差があります。アルジェリアの血縁関係のない7家系・21名を調べた研究では、重症型と軽症型の2つに分かれました。同じ家系のきょうだいでも経過が違うことがあり、一人ひとりの将来像を一律に決めつけられないことを示しています。

項目 重症型(Severe) 軽症型(Mild)
人数 12名(21名中) 9名(21名中)
罹病期間 10〜15年 5〜18年
主な特徴 四肢の先の重い筋萎縮・筋力低下、腱反射の完全消失 古典的なCMTの範囲。歩行可能で機能障害は軽め
太ももなど近位筋への波及 あり なし

出典:Tazirら, Brain (2004)

同じ民族的背景・同じ変異でこれだけ差が出るのは、進行の速さを左右する別の遺伝子(修飾遺伝子)や生活・環境の影響があるためと考えられています。今後、こうした修飾遺伝子の解明が、進行を予測したり遅らせたりする治療標的の発見につながると期待されています。これは、一人ひとりに合わせた遺伝カウンセリングが大切な理由のひとつです。

見逃してはいけない「心臓」の合併症

⚠️ LMNAの病気では心臓のリスクに注意

LMNA遺伝子の変異と聞くと、心臓の専門医はすぐに拡張型心筋症・重い不整脈(房室ブロックなど)・致死的な不整脈による突然死を思い浮かべます。LMNAによる心臓の病気は、ほかの原因の心筋症より進行が速く突然死が多いという、注意すべき特徴を持っています。

CMT2B1のR298Cは、伝統的には「末梢神経だけの病気」と考えられてきました。実際、多くの純粋なCMT2B1の方では若い時期に明らかな心臓の異常は報告されていません。しかし最新の考え方では、LMNA変異を持つ人では心臓のリスクを完全にゼロとは言い切れないという注意がうながされています。LMNA変異により神経症状と心疾患・筋疾患を合併した家系や、心臓の不整脈を起こす別のタイプの心筋症とCMT2B1に似た症状を同じLMNA変異で説明できた例も報告されているためです。具体的な管理は後半の「治療・長期管理」で解説します。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「足の病気」と思い込まないでほしい】

CMT2B1は手足の症状が主役なので、整形外科や神経内科でのフォローが中心になりがちです。けれども、原因はLMNAという遺伝子。この遺伝子の名前を見たら、私たち遺伝の専門医は反射的に「心臓は大丈夫だろうか」と考えます。神経の症状がゆっくりでも、心臓のリスクは別問題として静かに進むことがあるからです。

「神経の病気だから心臓は関係ない」と決めつけず、定期的に心臓を診てもらう。それだけで防げる最悪の結果があります。診断がついたら、ぜひ循環器の先生とも連携してください。

4. 鑑別診断:似た病気との見分け方

CMT2B1の診断では、まず脱髄型(CMT1)と軸索型(CMT2)を見分け、さらに他の軸索型CMTやラミノパシーと区別していきます。

項目 CMT1(脱髄型) CMT2(軸索型/CMT2B1を含む)
主に傷む場所 髄鞘(絶縁体)・シュワン細胞 軸索そのもの(芯・物流)
伝わる速さ(MNCV) 大きく低下(38 m/s未満) 正常〜軽度低下(38 m/s以上)
信号の大きさ(CMAP) 初期は保たれ、後に低下 初期から大きく低下
病理所見 「玉ねぎ球」形成、分節的脱髄 有髄線維の減少(玉ねぎ球は乏しい)
代表的な原因遺伝子 PMP22(重複), MPZ, GJB1 MFN2, RAB7A, LMNA(R298C)

軸索型CMTの中での見分け方

軸索型(CMT2)には30以上の原因遺伝子が知られており、症状だけで遺伝子を当てるのは困難です。そこで、いくつかの手がかりが鑑別の方向性を絞るのに役立ちます。CMT2B1で重視されるポイントは次のとおりです。

  • 遺伝形式:CMT2B1は常染色体潜性。両親が無症状で、きょうだいに同じ症状があるときは潜性遺伝を疑います(多くの軸索型CMTは顕性遺伝です)。
  • 出身・家系:北西アフリカ(マグリブ地域)にルーツがある、あるいは近親婚の家系では、CMT2B1の可能性が相対的に高まります。
  • 合併症の有無:足の重い潰瘍が目立つならCMT2B(RAB7A)、声帯や呼吸の麻痺を伴うならCMT2C(TRPV4)など、合併症のパターンも手がかりになります。
  • 最終判断は遺伝子検査:これらはあくまで「あたり」をつけるための手がかりで、確定はLMNAを含むNGSパネル検査で行います。

軸索型のもう一つの代表例としてシャルコー・マリー・トゥース病2A1型(MFN2遺伝子)もあわせてご覧ください。

🧬 関連:LMNAが起こすその他の病気(ラミノパシー)

同じLMNA遺伝子の変異は、変異の場所や種類によって、まったく違うように見える多くの病気を引き起こします。CMT2B1は、そのなかで末梢神経だけをおかす珍しいタイプです。

・筋肉・心臓:エメリー・ドレイフス筋ジストロフィー2型同3型拡張型心筋症1A型ハート・ハンド症候群(スロベニア型)先天性筋ジストロフィー
・脂肪・代謝:家族性部分性脂肪萎縮症2型下顎骨異形成症
・早老・その他:ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群マロフ症候群拘束性皮膚症2型

📌 1つの変異が「2つの病気」を呼ぶことも(二遺伝子遺伝)

あるフランスの家系では、LMNAのR298C変異に加えて、別の核膜タンパク質エメリン(EMD遺伝子)の変異も持っていた人で、神経の症状に筋ジストロフィー(エメリー・ドレイフス型)の症状が加わって出たことが報告されています。核を支えるタンパク質どうしはチームで働いており、複数の変異が重なるとバランスが崩れて症状が変わる――こうした例は二遺伝子遺伝と呼ばれます。

5. 診断と遺伝子検査の進め方

診断は、家族歴の聞き取り、神経の症状の診察、電気生理学的検査、そして確定診断としての遺伝子検査を組み合わせて、段階的に進めていきます。

神経伝導検査でわかること

最初の手がかりは、神経に弱い電気を流して伝わり方を調べる神経伝導検査です。CMT2B1では、伝わる速さ(MNCV)は正常〜やや低下にとどまる一方で、信号の大きさ(CMAP)が大きく低下します。これは、絶縁体(髄鞘)が壊れる脱髄型ではなく、芯(軸索)が傷む軸索型であることを示す典型的なパターンです。

💡 用語解説:MNCVとCMAP

MNCV(運動神経伝導速度)は、神経の信号がどれくらいの速さで伝わるかを表します。CMAP(複合筋活動電位)は、その信号によって筋肉が反応した「大きさ」を表します。軸索(芯)が減ると、速さはそれほど落ちなくても、反応の大きさ(CMAP)が小さくなります。CMT2B1では、罹病期間が長いほどCMAPの低下が進む傾向が報告されており、病気が「芯の減少」として進んでいくことを裏づけています。

かつては腓腹神経の生検(足の感覚神経の一部を採って顕微鏡で見る検査)も行われ、太い・細いを問わず有髄神経線維が大きく減っていること、脱髄型に特徴的な「玉ねぎ球」がほとんど見られないことが確認されてきました。ただし体への負担が大きいため、遺伝子検査が普及した現在ではほとんど行われません。

確定診断は遺伝子検査で

最終的な診断は、LMNA遺伝子を調べる遺伝子検査で確定します。CMTは原因遺伝子がとても多いため、近年は関連遺伝子をまとめて調べる次世代シークエンサー(NGS)パネル検査が主流です。これにより、LMNAを含む多数の遺伝子を一度に効率よく調べることができます。当院ではシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)遺伝子検査(NGSパネル)で、CMTや遺伝性ニューロパチーに関わる多数の遺伝子を解析できます。

💡 用語解説:常染色体潜性(劣性)遺伝

「常染色体」は性染色体(X・Y)以外の染色体のこと。「潜性(劣性)」は、父方・母方の両方に変異がそろって初めて発症するタイプの遺伝です。両親がともに保因者(変異1つ)の場合、お子さんに発症する確率は25%、保因者になる確率は50%です。2022年に日本人類遺伝学会で「劣性」は「潜性」へ用語が変更されました。くわしくは遺伝形式の解説ページへ。

6. 治療と長期管理

現在、CMT2B1を含むほとんどのCMTに、変異そのものを治して進行を完全に止める「根治薬」はまだありません。今の医療の中心は、機能を保ち生活の質(QOL)を高める対症療法です。複数の診療科が連携してサポートします。一方で、最先端の遺伝子治療の研究も着実に進んでいます。

いま行われているケア(対症療法)

リハビリ・理学療法

残った筋力の維持、関節が固まるのを防ぐストレッチ、転倒を防ぐバランス練習が中心です。やりすぎは禁物で、痛みや疲労が翌日に残らない範囲が目安。手先が使いにくいときは作業療法も行います。

装具・靴・日常の工夫

足首を支える短下肢装具(AFO)は、つまずきや下垂足を補い、歩きやすさを大きく改善します。かかとが安定する靴、滑りにくい床、段差や暗がりの解消など、転倒予防の環境づくりも大切です。

整形外科的手術

重い凹足やハンマー趾、足の変形が歩行や靴選びの妨げになる場合は、アキレス腱延長術・腱移行術・足の骨の固定術などで、足裏が地面につく面積を回復させることがあります。

麻酔・手術時の注意

CMTの方は、全身麻酔で使う一部の筋弛緩薬への感受性などに注意が必要なことがあります。手術や歯科処置の前には必ずCMTであることを伝え、希少疾患向けの周術期管理に沿った対応を受けてください。

心臓の定期チェック(長期管理の要)

CMT2B1と診断されたら、神経のフォローだけでなく、心臓の定期チェックを長期管理の柱のひとつとして組み込むことがすすめられます。LMNAの心臓合併症は進行が速いことがあるため、症状が出る前の段階から見ておくことが大切です。

💡 一般的にすすめられる心臓スクリーニング

  • 定期的な12誘導心電図(伝導障害=信号の伝わりにくさのチェック)
  • 24時間心電図(ホルター心電図)による不整脈のチェック
  • 心エコー検査による心臓のポンプ機能・拡張の評価

不整脈や伝導障害が見つかった場合には、欧州心臓病学会(ESC)などのガイドラインに沿って、ペースメーカーや植え込み型除細動器(ICD)といった予防的な対応が検討されることがあります。これは突然死を避けるための大切な備えですが、適応の判断は一人ひとりの状態によって異なるため、必ず循環器の専門医とよく相談して決めていきます。当院が特定の対応を勧めるものではなく、選択はご本人・ご家族と主治医で行うものです。

研究が進む新しい治療(パイプライン)

根治を目指した治療の研究も進んでいます。代表的なものとして、問題のあるRNAの働きを抑えるアンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASO)療法、正常なLMNAを届ける遺伝子補充療法(AAVベクター)、軸索の再生や保護をうながす神経栄養因子(NT-3)などがあり、とくにNT-3は軸索型に有望と期待されています。いずれもまだ動物モデルや前臨床の段階が中心ですが、CMTの治療開発はこの数年で大きく前進しています。

📌 参考:同じLMNAの病気で承認された薬もある

早老症(ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群)には、異常なラミンが核膜にくっつくのを防ぐ「ロナファルニブ」という薬がアメリカFDAで承認されています。CMT2B1とは仕組みが異なるためそのままは使えませんが、ラミンの病気全体の治療を考えるうえで重要なヒントを与えています。

7. 遺伝カウンセリングと家族計画

CMT2B1の確定診断後は、ご家族へのていねいな遺伝カウンセリングが大切です。扱う主な内容は次のとおりです。

  • 遺伝形式と再発リスク:常染色体潜性遺伝のため、両親がともに保因者の場合、お子さんに発症する確率は25%、保因者になる確率は50%です。保因者は通常は発症しません。
  • 長期フォローの必要性:神経のフォローに加えて、前述の心臓の定期チェックの大切さもお伝えします。
  • 保因者・血縁者の検査:変異がわかれば、きょうだいや親族が保因者かどうかを調べることもできます。検査を受けるかどうかは本人の自由な意思で決めるものです。
  • 出生前の選択肢:家族内で変異がわかっている場合は、羊水検査・絨毛検査による出生前遺伝子診断が選択肢になります。決定はご家族で話し合ってお決めいただくものであり、当院は中立的な情報提供に努めます。

💡 妊娠・出産を考えている方へ(NIPT・出生前の選択肢)

CMT2B1は潜性遺伝のため、ご家族に同じ病気の方がいる場合は、まず保因者の有無を含めた遺伝カウンセリングが出発点になります。LMNA遺伝子は当院のNIPT「ダイヤモンドプラン」「インペリアルプラン」の対象に含まれています。出生前により詳しく調べたい場合は、羊水検査・絨毛検査による確定診断もあわせてご相談いただけます(NIPTトップはこちら)。

8. よくある誤解

誤解①「CMT2BとCMT2B1は同じ」

別の病気です。CMT2BはRAB7A・常染色体顕性、CMT2B1はLMNA・常染色体潜性。名前が似ているため混同に注意が必要です。

誤解②「神経の病気だから心臓は無関係」

LMNAの病気では心臓の不整脈・心筋症のリスクがあり、完全には除外できません。定期的な心臓チェックが重要です。

誤解③「同じ変異だから経過も同じ」

同じR298Cでも重症型と軽症型に分かれます。進行を左右する別の遺伝子(修飾遺伝子)などの影響が考えられています。

誤解④「親が健康なら遺伝ではない」

潜性遺伝では、両親がともに保因者(無症状)でも、お子さんが発症することがあります。「親が健康だから遺伝じゃない」は誤解です。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【希少疾患こそ、正確な診断名が支えになる】

CMT2B1は世界的にも珍しく、日本ではほとんど報告のない病気です。だからこそ、正確な診断名にたどり着くまでに時間がかかることがあります。けれども、診断名が決まると、ご家族の心の整理や、これからの見通しを立てることが大きく変わります。同じ変異でも経過に幅があることを知っておくだけでも、不安の質が変わってきます。

私が遺伝子疾患の情報発信を続けているのは、こうした希少な病気の正確な知識を、必要としている方に届けたいからです。診断や心臓のフォロー、ご家族の再発リスクなど、気になることがあれば、どうぞ専門医にご相談ください。一緒に、いちばん納得のいく道を考えていきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. CMT2B1は遺伝しますか?子どもに必ず遺伝しますか?

常染色体潜性(劣性)遺伝です。両親がともに保因者の場合、お子さんに発症する確率は25%、保因者になる確率は50%、受け継がない確率は25%です。「必ず遺伝する」わけではありません。くわしくは遺伝カウンセリングでご説明します。

Q2. 「CMT2B」と「CMT2B1」は同じ病気ですか?

いいえ、別の病気です。CMT2BはRAB7A遺伝子による常染色体顕性遺伝で足の潰瘍が特徴、CMT2B1はLMNA遺伝子による常染色体潜性遺伝です。名前が似ているため注意が必要です。

Q3. 命に関わることはありますか?

末梢神経の症状自体はゆっくり進むことが多いですが、LMNA遺伝子の病気では不整脈や心筋症のリスクがあり、まれに突然死につながることがあります。定期的な心電図・心エコーなどの心臓チェックが大切です。

Q4. 治療法はありますか?

現在、進行を完全に止める根治薬はなく、リハビリや装具などの対症療法が中心です。一方で、ASO療法・遺伝子補充療法・神経栄養因子(NT-3)など、新しい治療の研究が進んでいます。

Q5. どんな検査でわかりますか?

神経の電気を調べる神経伝導検査で「軸索型」のパターンを確認し、LMNA遺伝子検査(NGSパネル検査)で確定診断します。症状や家族歴から、CMT関連の遺伝子をまとめて調べるパネル検査が選ばれることが多いです。

Q6. 将来、歩けなくなりますか?車椅子になりますか?

経過には大きな個人差があります。報告では、長い経過でも歩行が保たれる軽症型の方がいる一方、太ももの筋力まで弱くなる重症型の方もいます。一律に予測することはできませんが、装具(AFO)やリハビリ、転倒予防の工夫によって、歩行機能を長く保つことを目指します。進行の程度は定期的な診察で見ていきます。

Q7. 妊娠・出産は可能ですか?保因者かどうか調べられますか?

多くの方で妊娠・出産は可能ですが、症状や全身の状態に応じて、産科・神経内科・麻酔科などの連携した管理がすすめられます。また、家系内で変異がわかっていれば、血縁者が保因者かどうかを調べることもできます。検査を受けるかどうか、出生前診断を行うかどうかは、ご本人・ご家族の自由な意思で決めるものです。まずは遺伝カウンセリングでご相談ください。

🏥 希少疾患の診断・遺伝カウンセリングについて

CMT2B1をはじめとする希少遺伝性疾患に関するご相談は、臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

関連記事

参考文献

  • [1] Homozygous defects in LMNA, encoding lamin A/C nuclear-envelope proteins, cause autosomal recessive axonal neuropathy in human (Charcot-Marie-Tooth disorder type 2) and mouse. [PubMed 11799477]
  • [2] Phenotypic variability in autosomal recessive axonal Charcot-Marie-Tooth disease due to the R298C mutation in lamin A/C. Brain (2004). [PubMed 14607793]
  • [3] Behavioral and molecular exploration of the AR-CMT2A mouse model Lmna (R298C/R298C). NeuroMolecular Medicine (2012). [PubMed 22331516]
  • [4] Charcot-Marie-Tooth disease type 2B1. Orphanet. ORPHA:98856. [Orphanet]
  • [5] Charcot-Marie-Tooth disease type 2B1. NIH Genetic Testing Registry (GTR). [NCBI GTR]
  • [6] What Should the Cardiologist know about Lamin Disease? [PMC4711561]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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