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BPES(眼瞼裂狭小・眼瞼下垂・逆内眼角贅皮症候群)とは?原因遺伝子FOXL2・早発卵巣不全・手術のタイミングを遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

BPES(眼瞼裂狭小・眼瞼下垂・逆内眼角贅皮症候群)は、生まれつきまぶたの形に4つの特徴があらわれ、女性では一部のタイプで早発卵巣不全(POI)をともなう、まれな先天性の症候群です。原因は3番染色体にあるFOXL2遺伝子の変化です。この記事では、Type IとType IIの違い、弱視を防ぐために大切な手術のタイミング、遺伝形式と検査、そして思春期以降の卵巣機能への備えまでを、臨床遺伝専門医がわかりやすく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約18分
👁️ BPES・FOXL2・早発卵巣不全
臨床遺伝専門医監修

Q. BPESとはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. BPESは、FOXL2という1つの遺伝子の変化によって、生まれつきまぶたの形に4つの特徴(まぶたの横幅が狭い・上まぶたが下がる・目頭に逆向きの皮膚のひだ・両目の間隔が広く見える)があらわれる症候群です。女性では、卵巣機能が早く低下するType Iと、卵巣機能が保たれるType IIに分かれます。知的な発達には通常影響せず、乳幼児期は弱視を防ぐことが最大の目標になります。

  • 頻度 → およそ出生5万人に1人と報告される、まれな先天性の症候群
  • 原因 → 3番染色体3q22.3にあるFOXL2遺伝子の変化。遺伝子の外側の調節領域が失われて発症することもあります
  • 目の問題 → 弱視・斜視・屈折異常の頻度が高く、視機能の発達を守る管理が必要です
  • 卵巣機能 → Type Iでは早発卵巣不全をともない、卵巣予備能の評価と長期のホルモン管理が課題になります
  • 遺伝形式 → 常染色体顕性遺伝(優性遺伝)。子へ受け継がれる確率は理論上50%で、新生突然変異の例も多くみられます

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1. BPESとは?──生まれつきの4つのまぶたの特徴

BPESは、Blepharophimosis(眼瞼裂狭小)・Ptosis(眼瞼下垂)・Epicanthus inversus(逆内眼角贅皮)の頭文字をとった呼び名で、日本語では眼瞼裂狭小症候群とも呼ばれます。もっとも大きな特徴は、これらの所見がすべて生まれたときからそろって存在することです[1]。頻度はおよそ出生5万人に1人と見積もられており[3][16]、人種や地域による大きな偏りは知られていません。一般向けの公的解説では、頻度そのものは十分に確定していないとする記載もあります[12]

4つの特徴は、それぞれ独立した「別の異常」ではなく、まぶたと目頭まわりの組織がひとまとまりに育ちきらなかった結果として生じます。ですから、どれか1つだけを手術で直しても全体の見え方は整いにくく、4つを1つの構造の問題としてとらえる視点が、治療計画を立てるうえでとても大切になります。

👁️ 眼瞼裂狭小

  • まぶたの開口部が横に短い
  • 目が小さく見える
  • 両側性にみられる
  • 出生時から存在する

⬇️ 眼瞼下垂

  • 上まぶたを持ち上げる筋の力が弱い
  • 縦方向の開きも狭くなる
  • 眉を上げる代償動作が出る
  • あごを上げる姿勢をとる

↩️ 逆内眼角贅皮

  • 下まぶた側から上へ向かう皮膚のひだ
  • 通常の蒙古ひだとは向きが逆
  • 目頭の構造を覆い隠す
  • 診断上とても重要な所見

↔️ テレカンタス

  • 左右の目頭の距離が広い
  • 瞳孔間距離そのものは正常
  • 両目が離れて見える一因
  • 涙点の位置もずれやすい

💡 用語解説:テレカンタスと眼球隔離症のちがい

テレカンタス(内眥間距離開大)は、左右の目頭(内眼角)の距離だけが広がっている状態です。一方、眼球隔離症(両眼隔離)は眼窩そのものが離れていて、瞳孔と瞳孔の距離も広がります。BPESでは瞳孔間距離は正常範囲でありながら目頭だけが外へずれるため、実際よりも目が離れて見えます。この違いは診察でていねいに測ることで区別でき、手術で何を短縮すべきかという方針にも直結します。

まぶた以外では、鼻すじが低く広い、耳の位置が低い、鼻と上唇のあいだ(人中)が短いといった、ごく軽度の顔立ちの特徴をともなうことがあります[12]。眉が濃く高い弓状になる、といった所見も報告されています[1]。ここで多くのご家族がもっとも気にされるのが発達の問題ですが、FOXL2遺伝子だけの変化によるBPESでは、知的発達や身体の成長は通常保たれます[1]。発達の遅れをともなう場合には、FOXL2の周囲を含む広い範囲の染色体欠失など、別の背景が隠れていないかを検討する必要があります(第5章で解説します)。

2. 原因遺伝子FOXL2──まぶたと卵巣をつなぐ1つのスイッチ

BPESの原因は、3番染色体の長腕にあるFOXL2遺伝子(3q22.3、遺伝子データベースの登録番号はOMIM 605597)の変化です[15]。かつては連鎖解析によって3q23領域に原因の場所が絞り込まれ、その後この遺伝子が同定されました[11]。FOXL2はたった1つのエキソン(約2.9キロベース)からなる小さな遺伝子で、376個のアミノ酸からなる転写因子をつくります[3]

💡 用語解説:転写因子(てんしゃいんし)

転写因子とは、ほかの遺伝子の「スイッチ」を入れたり切ったりするタンパク質です。私たちの体の細胞はどれも同じ設計図(DNA)を持っていますが、細胞ごとに使う遺伝子が違うため、皮膚・筋肉・卵巣といった多様な組織ができます。その「どの遺伝子を使うか」を決めているのが転写因子です。FOXL2は、まぶたのまわりの組織と卵巣の細胞というまったく違う2つの場所で同じスイッチ役を担っているため、1つの遺伝子の変化が目と卵巣の両方に影響します。

FOXL2タンパク質には、はたらきのうえで重要な2つの領域があります。1つはDNAの決まった配列を認識してつかむフォークヘッドドメインで、おおよそ52番目から152番目のアミノ酸に位置します[7]。もう1つが、221番目から234番目にあるポリアラニントラクトで、アラニンというアミノ酸が14個連続して並ぶ、哺乳類のあいだで厳密に保たれてきた領域です[3]。この14個の並びが伸びてしまうことが、BPESにおける変異のホットスポット(変異が集中する場所)になっています[4]

FOXL2タンパク質の構造と変異が集まる場所

N末端
1〜51
フォークヘッドドメイン
約52〜152(DNAをつかむ手)
中間領域
153〜220
ポリアラニン
221〜234(14個)
C末端
〜376

↑ 赤色の部分が変異のホットスポット。ここが伸びるとタンパク質が固まりやすくなります。

FOXL2は1つのエキソンから376個のアミノ酸をつくる。DNA結合を担うフォークヘッドドメインと、14個のアラニンが並ぶポリアラニン領域という2つの重要部位を持ち、後者が変異の集中する場所となる。

FOXL2は、胎児期にはまぶたの周囲の間葉系組織で、そして胎児期から成人期を通じて卵巣の顆粒膜細胞ではたらきます[11]。卵巣においては、精巣化のマスター遺伝子であるSOX9を抑え込み続けることで「卵巣であり続ける」状態を保っていると考えられており、実験的に成体の卵巣からFOXL2を取り除くと、顆粒膜細胞が精巣のセルトリ細胞に似た細胞へ変化することが動物実験で示されています[14]。ヒトのBPESでこの現象がそのまま起きているわけではありませんが、卵胞が早く失われる背景を理解するうえで重要な知見です。卵巣がつくられ保たれる仕組みの全体像は卵巣の発達と維持もあわせてご覧ください。

なお、同じFOXL2でも、生まれた後に卵巣の細胞だけに生じる特定の1文字の変化(c.402C>G、p.C134W)は、まったく別の病気である成人型顆粒膜細胞腫という卵巣腫瘍と結びついています[13]。これは全身の細胞が持つ生まれつきの変化とは性質が異なるものです。BPESの方で腫瘍のリスクが高まるという確立した根拠は、現時点では示されていません。この点は不安を持たれやすいところですので、次章以降でも繰り返し整理します。

3. Type IとType II──早発卵巣不全をともなうかどうか

BPESは、女性における卵巣機能障害をともなうかどうかで2つの型に分けられます[2]Type Iはまぶたの4つの特徴に加えて早発卵巣不全(POI)をともない、Type IIはまぶたの所見だけで卵巣機能は保たれます。重要なのは、目の所見だけを見てもType IとType IIを見分けることはできないという点です。どちらの型かは、女性であれば思春期以降の月経の経過と内分泌検査、そして遺伝子検査の結果を組み合わせて判断していきます。

同じ「まぶたの4徴」から2つの経過に分かれます

出生時:まぶたの4つの特徴(男女とも同じ)

🔴 Type I(POI合併型)
思春期以降に月経がとまり、40歳より前に卵巣機能が低下します。妊娠しにくいため、家系内では男性を介して伝わるか、新生突然変異として現れることが多くなります。
🔵 Type II(眼のみ型)
卵巣機能と妊娠する力は保たれます。男女どちらの親からも同じ確率で受け継がれるため、複数世代にわたる家系として見つかることがあります。

💡 用語解説:早発卵巣不全(POI)と診断基準の変化

早発卵巣不全とは、通常は50歳前後で迎える閉経が40歳より前に起きてしまう状態です。以前は「6か月以上の無月経かつFSH(卵胞刺激ホルモン)40 IU/L以上」という基準が広く使われていました[16]

しかし2024年に改訂された国際的な診療ガイドラインでは、4か月以上の希発月経または無月経に加えて、FSHが25 IU/Lを超える高値を1回確認すれば診断できるとされ、判断に迷う場合はAMHの測定やFSHの再検査を加えるという整理になりました[8]。古い基準しか知らないと診断が遅れる可能性があるため、この変更は知っておく価値があります。

では、実際にType IのBPES女性の卵巣はどのような状態なのでしょうか。生殖補助医療を受けたBPES女性21例を対象とした研究では、80.95%にFOXL2遺伝子の変化が見つかり、変異を持つ群では持たない群と比べてFSHが有意に高く(P=0.007)、AMHが有意に低く(P=0.012)、胞状卵胞数も有意に少ない(P=0.015)ことが示されました[7]。同じ研究では治療成績も不良で、遺伝子型と生殖の見通しの関係は非常に多様で一般化できないこと、そして妊娠計画に関する遺伝カウンセリングが推奨されることが述べられています[7]

卵巣に残っている卵子のおおよその在庫を卵巣予備能と呼びます。女性は生まれたときに一生分の原始卵胞を持っていて、その後は増えることなく少しずつ使われていきます。Type IのBPESでは、この減り方が通常より速く進むと理解するとイメージしやすいと思います。低AMHや早発卵巣不全の遺伝的な背景については、低AMH・早発卵巣不全と遺伝子検査の記事でも詳しく解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【まぶたの特徴が、卵巣からのサインであることがあります】

BPESは、まぶたの形という「目に見える特徴」から気づかれることがほとんどです。手術は形成外科や眼形成の領域で行われますので、卵巣のことは話題にのぼらないまま時間が過ぎてしまうことがあります。けれども臨床遺伝の視点から見ると、女性の場合はその方の卵巣機能がどうなっていくのかを早い段階から見通しておくことが、その後の人生設計に大きく関わってきます。

同じFOXL2の変化でも、Type IかType IIかで妊娠に関わる見通しは大きく変わります。「見た目のことは解決した」で終わりにせず、思春期を迎える前後で一度、遺伝子の情報と体の情報を結びつけて整理しておくこと。それが、あとから選択肢を狭めないための静かな備えになると考えています。

4. 目に起こること──弱視を防ぐことが最大の目標

BPESでは、まぶたの形だけでなく、視機能そのものに関わる合併症の頻度が一般集団より高いことが知られています[1]。204人のBPESの方を対象とした後ろ向きの調査では、次のような数字が報告されました[5]。乳幼児期に見え方の発達を守れるかどうかが、生涯の視力を左右します。

合併症 報告された頻度 内訳・補足
弱視(じゃくし) 両眼 約21%/片眼 約20% 遮閉(アイパッチ)治療を受けた方が65%を占めました
斜視 約20% 内斜視70%・外斜視25%・上斜視5%
屈折異常 約34% 眼鏡が必要なレベル。不同視性の遠視30%・近視34%
眼振 約6% 同じ調査で報告された頻度です

💡 用語解説:弱視(じゃくし)と感受性期

弱視とは、眼鏡で矯正しても十分な視力が出ない状態を指します。目そのものではなく、「見る」ことを学習する脳の回路が育たなかったために起こります。乳幼児期には視覚の発達がさかんな時期(感受性期)があり、この時期にまぶたが瞳をふさぐ、左右の目のピントが大きく違う、目の向きがずれるといった状況が続くと、その目からの情報を脳が使わなくなってしまいます。だからこそ、BPESでは「見た目を整える」以前に「見る力を育てる」ことが優先されます。

弱視の危険因子としては、屈折異常・斜視・重い眼瞼下垂による形態覚遮断が挙げられ、斜視のある方は斜視のない方より弱視になりやすいことが報告されています[6]。つまり、手術だけが治療ではありません。眼鏡による屈折矯正、必要に応じた遮閉(アイパッチ)治療、定期的な視力・屈折の評価という保存的な管理が、手術と同じくらい重要な柱になります。

もう1つ見落とされやすいのが涙の通り道の問題です。BPESでは下まぶた全体が外側にずれることにともなって下涙点の位置も外へずれることがあり、涙があふれる、目やにが出やすいといった症状につながることがあります。まぶたの手術を計画する際には、涙道の状態もあわせて評価されます。

5. 診断と遺伝学的検査──何を、どの順番で調べるか

BPESの診断は、まず出生時から4つのまぶたの特徴がそろっているという臨床所見から始まります[1]。顔立ちの特徴が非常に典型的であるため、経験のある医師であれば見た目から強く疑うことができます。そのうえで、確定診断と型の予測、そして家族への正確な情報提供のために、遺伝学的検査が行われます。

FOXL2は1つのエキソンからなる遺伝子ですので、最初に行われるのは塩基配列を読む解析(シーケンス)です。ここでミスセンス変異ナンセンス変異フレームシフト変異、そしてポリアラニン領域の伸長を検出します。ただしポリアラニンの伸長は繰り返し配列の変化であるため、通常の読み取りでは見逃されることがあり、この領域に最適化した解析が必要になります。

シーケンスで変化が見つからない場合に次に疑うのが、遺伝子まるごとの欠失や、遺伝子の外側にある調節領域の欠失・転座です。BPESでは、FOXL2遺伝子そのものではなく、その上流や下流にある長距離の調節領域が失われることで発症する例が知られており、染色体の欠失をともなう症例も相当数報告されています[3]。こうした変化はシーケンスでは見えないため、コピー数の変化を調べるMLPA法染色体マイクロアレイ検査が使われます。

💡 用語解説:調節領域と「位置効果」

遺伝子には、本体(タンパク質の設計図)とは別に、「いつ・どこで・どれだけ使うか」を決めるエンハンサーなどの調節領域があります。これらは遺伝子から数十万塩基も離れた場所にあることがあり、DNAが折りたたまれることで本体に接触してスイッチを操作します。ですから、遺伝子本体が無傷でも、離れた調節領域が失われたり、転座で切り離されたりすると、遺伝子は正常に使えなくなります。この現象は位置効果と呼ばれます。BPESは、この仕組みがヒトの病気として現れる代表例の1つです。

欠失が大きく、FOXL2の周囲にある別の遺伝子まで巻き込まれている場合には、まぶたの所見に加えて発達の遅れなどをともなうことがあります。これは隣接遺伝子症候群と呼ばれる状況で、報告されている欠失のなかには3q22.3から3q24におよぶ大きなものも含まれます[3]「BPESの特徴に加えて発達の遅れがある」場合には、単一遺伝子の解析だけで終わらせないという判断が重要になります。こうしたゲノム病の視点は、診断の精度を大きく左右します。

染色体の組み換え(転座)が疑われる場合には、従来の核型分析に加えて、光学ゲノムマッピングロングリードシーケンサーといった構造の変化に強い技術が役立ちます。また、まぶたの所見をきたす他の疾患との区別を同時に進めたい場合には、複数の遺伝子をまとめて調べるパネル検査や、クリニカルエクソーム検査全エクソーム検査が選択肢になります。当院では、性分化や卵巣機能に関わる遺伝子を含む性分化疾患(DSD)遺伝子検査パネルや、女性不妊に関わる遺伝子群にFOXL2を含む保因者検査と不妊検査を組み合わせた検査をご用意しています。どの検査が適切かは症状や目的によって異なりますので、まずは遺伝カウンセリングでご相談ください。

6. 手術のタイミングと術式──一期法と二期法の考え方

BPESの手術には、大きく2つの目的があります。1つは視機能の発達を妨げている状態を取り除くこと、もう1つはまぶたの形を整えることです。この2つは重なりますが、優先順位は前者が先にきます。実際、重い眼瞼下垂で瞳が覆われている場合には、通常より早い時期に視野を確保する処置が検討されます。

二期法と一期法──どちらが優れているのか

伝統的に行われてきたのは二期法です。まず内眥形成術によって目頭まわりの形と内眥間距離を整え、瘢痕が落ち着くのを待ってから、二段階目で前頭筋吊り上げ術によって眼瞼下垂を補正します。一方の一期法は、これらを1回の手術でまとめて行う方法です。手術回数と全身麻酔の回数を減らせる利点があります。

この2つを比べた研究が近年報告されています。3歳未満のBPESの子ども24人(一期法11人・二期法13人)を対象に、水平方向のまぶたの長さ、上下の開き、内眥間距離、およびその比率を評価したところ、両群とも術後にすべての指標が有意に改善し(P<0.005)、群間に統計学的な差はありませんでした[9]。著者らは、両者の成績は同等であり、重い眼瞼下垂には一期法が、強い眼瞼裂狭小には二期法がより適する可能性があると結論づけています[9]。つまり「どちらが正解か」ではなく、その子の何がいちばん問題になっているかで選ばれるということです。

内眥形成術そのものにも複数の術式があります。古典的なMustardéのダブルZ形成術のほか、Y-V前進皮弁法、C-U法、五弁法などが用いられ、皮膚の余裕やたるみ方に応じて選ばれます。C-U法による内眥形成術に外眥形成術と前頭筋吊り上げ術を組み合わせた9例の報告では、平均年齢5.4±1.5歳で、内眥間距離が平均38.44mmから32.8mmへ、平均6.2mm短縮しました(P<0.001)[10]。数値としてはささやかに見えるかもしれませんが、顔の中央の印象を大きく変える幅です。

吊り上げ素材の選択と年齢の関係

前頭筋吊り上げ術では、まぶたと額の筋肉をつなぐ「素材」が必要になります。自分の大腿部から採取する筋膜は組織になじみやすく長期成績も安定しますが、筋膜が十分に育つ年齢に達していないと採取できません。そのため乳幼児期には、人工素材や非吸収性の縫合糸が用いられることがあります。実際に、人工素材によるスリングを使った一期法・二期法の比較研究も行われています[9]。乳児期に糸で行う吊り上げは、視野を確保するための一時的な処置として位置づけられ、成長後により安定した方法へ移行することが想定されます。素材の選択は、年齢・重症度・施設の経験によって個別に判断される領域です。

※ 具体的な術式や時期の判断は、視機能の評価をふまえて眼形成・小児眼科の専門施設で行われます。この記事は特定の治療法を推奨するものではありません。

7. 卵巣機能への長期的な対応と妊孕性

Type IのBPESでは、卵巣機能の低下が思春期以降の長い時間にわたる課題になります。ここで注意したいのは、早発卵巣不全の問題は妊娠だけにとどまらないという点です。卵巣から分泌されるエストロゲンは、骨の量を保ち、血管や自律神経のはたらきにも関わっています。若い年齢でエストロゲンが不足した状態が続くことによる影響を考えると、ホルモンを補う治療を適切な時期から始め、継続することが大切になります。具体的な方法や開始時期は、産婦人科・内分泌の専門医が個々の状況に応じて判断します。

2024年の国際ガイドラインでも、早発卵巣不全の管理においてホルモン療法の位置づけや投与量・投与方法に関する推奨が更新されています[8]。診断そのものが遅れると、この管理も遅れてしまいます。BPESと診断された女性については、月経が順調かどうかを漫然と見守るのではなく、必要な時期に卵巣予備能を評価するという姿勢が求められます。

💡 用語解説:AMHと胞状卵胞数(AFC)

AMH(抗ミュラー管ホルモン)は育ちはじめた卵胞から分泌されるホルモンで、残っている卵子のおおよその数を反映します。胞状卵胞数(AFC)は超音波で数えられる小さな卵胞の数です。どちらも卵子の「数」の目安であって「質」や妊娠できるかどうかを直接示すものではありません。BPES女性を対象とした研究では、FOXL2変異を持つ群でAMHが低く、AFCも少ないことが示されています[7]

妊娠を望む場合の選択肢については、いくつかの層に分けて考えると整理しやすくなります。まず、卵巣機能がまだ保たれている段階で将来に備える方法として、卵子凍結や卵巣組織凍結といった妊孕性温存が議論の対象になります。次に、実際に妊娠を目指す段階では生殖医療の専門医との連携が必要になりますが、BPES女性を対象とした研究では治療成績が不良であったことが報告されており[7]、見通しについて事前に十分な情報を共有しておくことが欠かせません。第三者から提供された卵子を用いる方法については、日本では制度上の位置づけが限られており、実施できる状況が国によって大きく異なります。海外の文献をそのまま自分の選択肢として読み替えないよう、注意が必要です。

なお、男性のBPES患者さんでは妊孕性は保たれます。Type Iが家系のなかで男性を介して伝わっていくことが多いのは、このためです。ご家族に説明する際、この点が抜けていると「男の子だから大丈夫」と誤って安心されてしまうことがあります。症状は出なくても遺伝子は伝わりますので、次の世代への説明という意味では男女で違いはありません。

8. 遺伝形式・遺伝カウンセリング・鑑別診断

BPESは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の形式をとります[2]。2つある遺伝子のコピーのうち片方に変化があるだけで症状が現れるため、患者さん本人から子へ受け継がれる確率は理論上50%です。ご家族に同じ特徴を持つ方がいない場合でも、新生突然変異として新たに生じることがあり、とくにType Iでは女性が妊娠しにくいためこの形で見つかることが多くなります。遺伝の伝わり方の全体像は遺伝形式の解説もあわせてご覧ください。

💡 用語解説:ハプロ不全とドミナントネガティブ

遺伝子は父由来・母由来の2コピーがあります。片方が壊れてはたらきが半分になっただけで足りなくなる状態をハプロ不全と呼びます。

一方、変異したタンパク質が正常なタンパク質まで巻き込んではたらけなくしてしまう現象をドミナントネガティブと呼びます。ポリアラニンが伸びた変異では、タンパク質が固まりをつくって正常なコピーの機能まで巻き込むと考えられており、同じ「片方の変化」でも影響の出方が異なります。

遺伝子の変化の種類と型のあいだには、ある程度の傾向が知られています。タンパク質が途中で途切れる切断型の変異や遺伝子まるごとの欠失はType I(卵巣機能障害をともなう型)と、ポリアラニン領域の伸長はType II(卵巣機能が保たれる型)と結びつきやすいとされてきました。ただしこの対応関係は絶対ではなく、多数の家系を検討した研究によって遺伝子型と表現型の相関は見直しが必要であることが示されています[4]。実際、同じ変異を持つ家系のなかでType IとType IIの両方がみられる例も報告されており、浸透率不完全浸透という考え方が必要になります。遺伝子検査の結果だけで「必ずこうなる」と言い切れない領域であることは、正直にお伝えすべき点です。

次の世代への対応としては、妊娠中に行う羊水検査絨毛検査費用の詳細はこちら)、体外受精を前提とする着床前遺伝学的検査(PGT-M)があります。着床前診断は実施できる条件が定められており、どなたでもすぐに選べる方法ではありません。BPES女性を対象とした研究でも、妊娠計画に関する遺伝カウンセリングと、次の世代への伝達を減らす選択肢についての情報提供が推奨されています[7]。これらは価値観に深く関わる選択ですので、遺伝カウンセリングのなかで中立的に整理していくことが大切です。

似た見た目をきたす他の疾患との区別

眼瞼裂狭小や眼瞼下垂は、BPES以外の症候群でもみられます[1]。代表的なのがKAT6B遺伝子の変化によるSBBYSS症候群(Say-Barber-Biesecker-Young-Simpson症候群)で、まぶたの所見が非常によく似るため鑑別が問題になります。実際、BPES様の表現型を示しながらKAT6B遺伝子に変化が見つかり、表現型の広がりを示した症例も報告されています。BPESとの大きな違いは、SBBYSS症候群では発達の遅れなど全身の所見をともなう点です。まぶた以外の所見があるかどうかが、鑑別を進めるうえでの最初の分かれ道になります。そのほか、単独の先天性眼瞼下垂や、目頭の構造が変化する他の症候群も鑑別に挙がります。

また、早発卵巣不全という側面から見ると、BPESは数ある原因の1つにすぎません。ターナー症候群FXPOI(脆弱X関連原発性卵巣不全)自己免疫性卵巣炎のほか、BMP15GDF9STAG3MCM8MCM9など多数の遺伝子が関わります。逆に言えば、まぶたの特徴という「見えるサイン」があるBPESは、卵巣機能の低下を早い段階で予測できる数少ない状況でもあります。この特性を活かせるかどうかが、その方の選択肢の幅を決めていきます。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「わからないこと」を、わからないまま正直に伝える】

BPESの遺伝カウンセリングでむずかしいのは、遺伝子検査でFOXL2の変化が見つかっても、Type IかType IIかを完全には言い当てられないことがある点です。傾向はありますが例外も多く、同じ家系のなかで違う経過をたどる方もいらっしゃいます。

こういうとき、はっきりした答えを求められる場面ほど、わからないことをわからないまま正確にお伝えすることが大切だと感じています。断定しないかわりに、「では、いつ何を確かめれば早く気づけるのか」という具体的な段取りをお渡しする。それが、不確かさのなかで選択肢を守るという臨床遺伝のしごとなのだと思っています。

9. よくある誤解

誤解①「まぶたの見た目だけの問題」

Type IのBPESでは、まぶたの特徴に加えて早発卵巣不全をともないます。また乳幼児期には弱視という視機能の問題が控えています。見た目の印象にとどまらず、視機能と卵巣機能という2つの軸で長く見ていく必要があります。

誤解②「知的な発達も遅れる」

FOXL2遺伝子だけの変化によるBPESでは、知的発達は通常保たれます[1]。発達の遅れをともなう場合は、周囲の遺伝子まで巻き込む大きな染色体欠失など別の背景を検討します。この区別は検査方法の選択に直結します。

誤解③「遺伝子検査で型がすぐわかる」

変異の種類と型のあいだには傾向がありますが、例外が多いことが多数の家系の解析から示されています[4]遺伝子検査だけでType IとType IIを確定することはできず、思春期以降の経過観察が必要になります。

誤解④「FOXL2の変化はがんにつながる」

成人型顆粒膜細胞腫に関わるのは、生まれた後に腫瘍の細胞だけに生じる体細胞変異(C134W)です[13]。BPESの原因となる生まれつきの変化とは性質が異なり、BPESで腫瘍リスクが高まるという確立した根拠は示されていません。

よくある質問(FAQ)

Q1. BPESはどのくらいまれな病気ですか?

およそ出生5万人に1人と見積もられています[3]。人種や地域による大きな偏りは知られていません。一方で、頻度そのものは十分に確定していないとする公的な解説もあり[12]、実際にはもう少し幅を持って理解しておくのがよいと思います。

Q2. 診断されたら、必ず早発卵巣不全になりますか?

いいえ、タイプによります。早発卵巣不全をともなうのはType Iで、Type IIでは卵巣機能と妊娠する力は保たれます[2]。ただし目の所見だけでは区別できず、遺伝子検査でも確定できないことがあるため、思春期以降に月経の経過と内分泌検査で確認していくことになります。

Q3. 早発卵巣不全の診断基準は変わったのですか?

はい。以前は「6か月以上の無月経かつFSH 40 IU/L以上」という基準が広く使われていました[16]が、2024年に改訂された国際ガイドラインでは、4か月以上の希発月経または無月経に加えてFSHが25 IU/Lを超える高値を1回確認すれば診断でき、判断に迷う場合はAMH測定やFSHの再検査を加えるとされています[8]

Q4. 手術は何歳ごろに受けるのが一般的ですか?

重い眼瞼下垂で瞳がふさがれている場合には、視機能を守るため早い時期に視野を確保する処置が検討されます。3歳未満で手術を受けた24人を対象とした研究では、1回でまとめて行う一期法と、2回に分ける二期法のどちらでも術後の指標が有意に改善し、両群に差はありませんでした[9]。実際の時期と方法は、視機能の評価に基づいて専門施設で判断されます。

Q5. 遺伝子検査でFOXL2に変化が見つからないことはありますか?

あります。BPESでは、遺伝子本体ではなく、その外側にある調節領域の欠失や転座が原因となることが知られています[3]。塩基配列を読む検査では見つからないため、コピー数の変化を調べる方法や、構造の変化に強い解析法を追加します。まぶた以外の所見がある場合には、他の疾患の可能性もあわせて検討します。

Q6. 子どもに遺伝しますか?

BPESは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)のため、変化を持つ方から子へ受け継がれる確率は理論上50%です[2]。ご家族に同じ特徴の方がいなくても、新生突然変異として生じることがあります。男性では症状が卵巣に及ばないだけで、次の世代への伝わり方は同じです。個別の状況は遺伝カウンセリングで整理することをおすすめします。

Q7. BPESだと卵巣の腫瘍になりやすいのですか?

成人型顆粒膜細胞腫と結びついているのは、生まれた後に腫瘍の細胞だけに生じる体細胞変異(c.402C>G、p.C134W)です[13]。BPESの原因である生まれつきの変化とは種類も性質も異なります。BPESの方で腫瘍のリスクが高まるという確立した根拠は、現時点では示されていません。

Q8. どの診療科にかかればよいですか?

乳幼児期は視機能の評価と手術のために小児眼科・眼形成の専門施設が中心になります。思春期以降の女性では、卵巣機能の評価とホルモン管理のために産婦人科・内分泌の専門医が加わります。そして遺伝子診断と家族への情報提供は臨床遺伝専門医が担います。複数の科が関わるからこそ、全体をつなぐ視点が必要になります。当院では遺伝カウンセリング・遺伝診療を行っています。

🏥 BPES・卵巣機能・遺伝子診断のご相談

BPES・早発卵巣不全・性分化に関わる遺伝子検査や
遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医が在籍する
ミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

参考文献

  • [1] Blepharophimosis, Ptosis, and Epicanthus Inversus Syndrome. GeneReviews. University of Washington. [GeneReviews NBK1441]
  • [2] OMIM #110100. Blepharophimosis, Ptosis, and Epicanthus Inversus Syndrome. Johns Hopkins University. [OMIM 110100]
  • [3] The Genetic and Clinical Features of FOXL2-Related Blepharophimosis, Ptosis and Epicanthus Inversus Syndrome. Genes (Basel). 2021. [PMC7998575] / [PubMed 33806295]
  • [4] FOXL2 and BPES: mutational hotspots, phenotypic variability, and revision of the genotype-phenotype correlation. Am J Hum Genet. 2003. [PMC379240] / [PubMed 12529855]
  • [5] The incidence of strabismus and refractive error in patients with blepharophimosis, ptosis and epicanthus inversus syndrome (BPES). Strabismus. 2003. [PubMed 14710475]
  • [6] The factors influencing visual development in blepharophimosis-ptosis-epicanthus inversus syndrome. J Pediatr Ophthalmol Strabismus. 2006. [PubMed 17022162]
  • [7] Ovarian Reserve and ART Outcomes in Blepharophimosis-Ptosis-Epicanthus Inversus Syndrome Patients With FOXL2 Mutations. Front Endocrinol. 2022. [PMC9097277] / [PubMed 35574016]
  • [8] Evidence-based guideline: premature ovarian insufficiency. Hum Reprod Open. 2024. [PMC11631070] / [Hum Reprod Open]
  • [9] One-stage versus two-stage surgical correction of blepharophimosis-ptosis-epicanthus inversus syndrome: a retrospective comparative study. J AAPOS. 2025. [JAAPOS]
  • [10] Surgical outcome of epicanthus and telecanthus correction by C-U medial canthoplasty with lateral canthoplasty in treatment of Blepharophimosis syndrome. [PMC9118630]
  • [11] Functional Studies of Novel FOXL2 Variants in Chinese Families With Blepharophimosis-Ptosis-Epicanthus Inversus Syndrome. Front Genet. 2021. [PMC8007913]
  • [12] Blepharophimosis, ptosis, and epicanthus inversus syndrome. MedlinePlus Genetics (NIH). [MedlinePlus]
  • [13] Mutation of FOXL2 in granulosa-cell tumors of the ovary. N Engl J Med. 2009. [PubMed 19516027]
  • [14] Somatic sex reprogramming of adult ovaries to testes by FOXL2 ablation. Cell. 2009. [PubMed 20003022]
  • [15] OMIM #605597. FOXL2, Forkhead Box L2. Johns Hopkins University. [OMIM 605597]
  • [16] Novel FOXL2 mutations in two Chinese families with blepharophimosis-ptosis-epicanthus inversus syndrome. BMC Med Genet. [PMC4593235]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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