早発卵巣機能不全

早発卵巣機能不全とは?

早発閉経早発卵巣不全、早発卵巣機能不全(Premature Ovarian Insufficiency; POI)は、原因が何であれ、一般的に同じ状態を指します。現在では「早発性卵巣機能不全」が一般的な呼び名となっていて、卵巣が不可逆的に「機能不全」に陥っていない可能性があるため、より正確な表現となっています。

早期閉経または早発卵巣機能不全POIは、通常の閉経の平均年齢よりもかなり前、つまりまだ10代、20代、30代、40代前半で訪れる閉経を意味するため、年齢が重要な要素となります。早期閉経は45歳以前の閉経を、早発卵巣機能不全POIは40歳以下の閉経を意味します。

簡単に言えば、卵巣が正常に機能していないということです。卵巣が正常に機能しなくなり、数年、場合によっては数十年も前に卵子の生産が停止します。また、女性の健康に重要な役割を果たすエストロゲンプロゲステロンというホルモンが卵巣から分泌されなくなります。

早発卵巣機能不全POIは、平均年齢(52歳)前後で起こる更年期障害とは異なります。非常に若い年齢で発症するだけでなく、卵巣が完全に機能しないことが多いのです。つまり、卵巣機能は時間とともに変動し、診断から数年後に生理、排卵、あるいは妊娠に至ることもあります。このように卵巣機能が断続的に一時的に回復するため、POIの女性の約5~10%が妊娠する可能性があります。

早発卵巣機能不全の頻度とは?

40歳以下の女性の約100人に1人、30歳以下の女性の1,000人に1人、20歳以下の女性の10,000人に1人が早発卵巣機能不全POIを経験しています。自然に起こる早期閉経は、45歳以前の人口の約5%に見られます。

自然閉経は、40歳以前の女性の1%が経験していますが、医原性の閉経(手術やがん治療が原因の閉経)を経験する女性が増えているため、すべての原因を合わせても正確な数は不明です。

早発卵巣機能不全POIの原因とは?

POIにはいくつかの原因があります。残念ながら、大多数の女性(90%)には根本的な原因が見つかっていません。このタイプの早発卵巣機能不全は、通常、原発性または特発性早発卵巣機能不全と呼ばれています。自分がなぜ早発卵巣機能不全になったのかがわからないと、診断を受けたことに心理的に対処するのが難しくなりますが、提供されるべき治療に影響を与えるものではありません。原因としては、以下のようなものが考えられます。

自己免疫疾患

自己免疫疾患とは、体の免疫系が自分の組織を攻撃してしまう病気です。卵巣に損傷が生じると、早発卵巣機能不全POIの原因となります。早発卵巣機能不全POIを持つ女性の約5%は、自己免疫疾患が原因であると考えられています。

早発卵巣機能不全POIは、甲状腺機能低下症、1型糖尿病、アジソン病など、他の自己免疫疾患と関連しています。

早発卵巣機能不全は自己免疫疾患に合併することがありますが、なかでも自己免疫性副腎皮質機能不全であるAddison病に合併することが多く、ステロイド産生細胞に対する自己抗体の存在や卵巣へのリンパ球浸潤は自己免疫性卵巣炎を疑う根拠となります。

自己免疫疾患を発症する数年前から早発卵巣機能不全POFを発症することもあるため、 早発卵巣機能不全POF症例に対しては、抗副腎抗体(抗21-hydroxy lase抗体)や抗甲状腺抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体や抗サイログロブリン抗体)を検査すべきである。抗副腎抗体が検出された症例では自己免疫性卵巣炎がPOFの原因であることが推測されるため、副腎機能を慎重に評価したうえで、経過観察が必要になります。一方、抗甲状腺抗体が検出されても自己免疫性卵巣炎を証明することはできませんが、甲状腺自己免疫疾患を発症しやすくなるので注意が必要でしょう。

遺伝的原因

女性の性染色体X染色体)の異常や、性ホルモンの機能に影響を与える他の遺伝子の異常がPOIの原因となることがあり、多くの異なる遺伝子の欠陥が確認されています。最も多いのはターナー症候群で、X染色体の片方が欠損しています。 また、POIは、脆弱性X症候群やガラクトセミアなど、家族内で発症する傾向のあるいくつかの稀な疾患とも関連しています。

遺伝的な原因は、生理不順の家族歴を持つ女性や、非常に若い時期(例えば10代や20代)に生理不順と診断された女性、生理が始まらない女性に多く見られます。

脆弱X症候群遺伝子のpremutation

脆弱X症候群fragile X syndrome; FRA Xは、精神遅滞・巨大精巣・染色体検査で脆弱X所見という異常所見を呈する奇形症候群です。原因は神経細胞の樹状突起の形成に重要な働きをしていると考えられているX染色体上のFMRl遺伝子の機能不全です。FMR1遺伝子内のCGG反復配列が200回以上に伸長(fulmutation)すると、この領域のみならず近傍のCpGアイランドプロモーター)がメチル化され、造伝子発現が抑制される。
保因者である罹患男児の母親では中等度(55~ 200回)の反復配列伸長が認められ、これをpremutationといいます。このpremutationをもっ保因者女性からX染色体が子供に伝達される際に、fullmutationに変化しやすいといわれています。このFMR1 premutationをもつ女性では、卵巣予備能を示すAMHやインヒピンBが低下しているため、POFが10~25%の人でおこるとされています。

わが国では早発卵巣機能不全POF症例の約1%で、欧米ではPOFの5~7%にFMR1 premutationを認めると報告されており、POF症例に対して遺伝カウンセリングのうえでFMR1遺伝子検査が行われます。

このほかの早発卵巣機能不全POF症例における遺伝子変異としては、卵細胞特異的成長因子であるbone morphogenic protein -15 ;BMP1 5や発生・分化にかかわる forkhead box転写因子のl種であるFOX03などが報告されています。

感染症

おたふくかぜ、結核、マラリアなどの感染症の後に生理不順が起こるという報告がありますが、非常にまれです。

手術

40歳前に手術で卵巣を摘出した場合も、POIの一種です。卵巣ホルモンが急になくなることで、更年期障害の症状が急に現れることがあります。 卵巣がん、卵巣嚢腫、子宮内膜症、重度の月経前症候群など、いくつかの理由で卵巣の摘出(子宮摘出を伴う場合も含む)が必要になります。願わくば、この種の手術が事前に計画されていれば、更年期症状を最小限に抑えるために、手術時または手術後すぐにホルモン補充を開始するオプションについて、専門医と話し合う機会が持てるでしょう。

がん治療

手術だけでなく、化学療法や放射線療法などのがん治療でも、卵巣に一時的または永久的な損傷を与え、卵巣機能不全を引き起こす可能性があります。この可能性は、使用した化学療法剤、放射線治療の部位、治療時の年齢によって異なります。

早発卵巣機能不全POIの診断

早発卵巣機能不全POFについて一定の診断基準はありません。
一般には以下をみたす症例を早発卵巣機能不全と診断します。

  • 1.40歳未満
  • 2.6カ月以上の続発性無月経
  • 3.ゴナドトロビン(性腺刺激ホルモン)高値(FSH≧40~ 55mIU/mL)
  • 4.エストロゲン低値(E2≦20~30pg/mL)

AMI-IやインヒピンBは主として前胞状卵胞の穎粒膜細胞で産生され、卵巣予備能の指標として有用と考えられています。早発卵巣機能不全POFの女性ではAMI-IやインヒピンBは低値を示すが、必ずしも妊学性を反映するものではありません

自己免疫疾患の関与を検討するため、抗21-水酸化酵素抗体(抗P450C21抗体)や抗副腎皮質抗体、抗甲状腺抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体や抗サイログロプリン抗体)の有無を調べます。。
殴米で、は次世代や血族へ影響等を考慮して遺伝カウンセリングのうえでFMR1 premutationの有無を調べます。

早発卵巣機能不全POIの治療

早発卵巣機能不全POFの治療には、エストロゲン欠乏に対するホルモン補充療法(HRT)と不妊治療がありあす。また、十分な精神的ケアやカウンセリングも必要でしょう。

ホルモン補充療法

正常に月経を迎えた女性とPOF女性に対して同じHRTでよいかどうかは十分に検討されていません。しかし、若年のPOFに対してはより高用量のエストロゲン製剤やエチニルエストラジオールを含んだ経口避妊薬を用いる傾向があるようです。
医大米ではアンドロゲン製剤も用いられ、易疲労性やリビドー低下に効果があるとされる
が、長期的な影響に関しては結論が得られていない。

不妊治療

早発卵巣機能不全POFによる不妊では、自然によくなることがあります。20%で卵胞発育が、5~10%に自然妊娠が認められるともいわれていますが、無月経を発症してから数年以上がたった女性では、自然に良くなる見込みは殆どないと考えられます。

不妊治療法として確立されたものはありません。エストロゲンおよびプロゲステロン製剤の周期的な投与で妊娠が得られることが多いようです。

排卵誘発が困難な場合は、ホルモン補充療法を兼ねてエストロゲン・プロゲステロンの周期的投与を繰り返します。

POF症例に対する不妊治療として、海外では第三者からの提供卵子を用いた生殖補助医療 assisted reproductive technology ;ARTが行われています。卵子提供による生殖補助医療ARTは、わが国でも検討のうえ実施されつつあります。

放射線療法や化学療法に対する妊孕性温存療法

放射線照射に対しては、卵巣局所に放射線が当たらないように遮蔽することが有効です。それができないならば照射野から外れるところに卵巣を移動することも検討に値します。
化学療法による卵巣毒性に対しては、 GnRHアナログ製剤による卵巣保護作用が動物実験や疫学調査によって示唆されています。その機序としては、薬剤感受性の高い発育卵胞を減少させること、卵巣の血流を減少させることで卵胞が育ちにくいようにすることなどが考えられています。
さらに、抗がん剤治療の前に受精卵、未受精卵子、卵巣組織を凍結保存することも可能となっています。

この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号