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胎児ドック(精密超音波検査 )や産婦人科の妊婦検診(妊婦健診)でエコー検査をして突然、「NTが厚いです。ダウン症(21トリソミー)の疑いがあります。」と言われ、びっくりしてパニックになる妊婦さんたちいるのではないでしょうか?
そこで、この記事ではそうなってからでも慌てないために、NTについて知っておいたほうがいいことをまとめています。ぜひご覧になって参考にしてください。
胎児の後頚部浮腫(首の後ろのむくみ)NTとは?
NTとは後頸部透亮像nuchal translucency (NT)の略です。妊娠初期の妊婦健診で胎児の超音波検査のエコー写真でみえる、後頸部(首のうしろ)に存在する低エコー域という黒く抜けて見えるところになります。NTは、一時的なリンパの流れが悪くなって赤ちゃんの首の皮下にあるリンパ管がむくんだり拡張したりしておこるものです。
上の画像はNTが厚い胎児の超音波エコー写真ですが、矢印の黒く抜けているところが頸部浮腫ともいわれるNT肥厚です。米国産科婦人科学会ではNT肥厚があればNIPT(新型出生前診断)を受けるよう推奨しています。
NTを計測するのに適した時期は?
赤ちゃんの頭殿長CRLが45~84mm(およそ妊娠11週0日~13週6日)と定められています。計測するのに適した時期は自然に小さくなる14週までです。NT自体は妊娠週数が進むと自然になくなります。
どうしてNTを計測しなくてはいけないのか
NTが厚くなっていると心血管系の問題があると疑われます。染色体異常は、心血管系の発育に障害をもたらすことがあり、ダウン症候群(21トリソミー)、パタウ症候群(13トリソミー、パトー症候群)、エドワーズ症候群(18トリソミー)などの先天性疾患を持っている可能性が高いからです。
ただし、NT自体は成長の中で胎児にあること自体は正常なことです。NTと染色体異常などの関係があるだけで、NTが厚くなっていればすなわち赤ちゃんは染色体異常だと決まるわけではありません。NTが肥厚(ひこう)していても、健康にうまれてくるお子さんはたくさんいます。基準としては、肥厚が3.5㎜なら93%の確率で正常に生まれてきます。つまりNTが厚くてもなにか異常だと決まったものではありません。
しかし、エコー写真でNTが通常の胎児より厚くなっているときに染色体異常や心臓の異常などの可能性が高くなります。似たような首の後ろに浮腫(透亮像)があり、NTと混同されがちな嚢胞性ヒグローマでは染色体異常の可能性が約70%と非常に高い確率です。NTが厚くても正常なお子さんの場合もあることにご注意ください。
胎児の後頚部浮腫(首の後ろのむくみ)NTの肥厚を認めた場合、赤ちゃんには染色体異常またはその他のさまざまな形態異常(見てわかる形の異常)、特に心奇形のリスクが増加します。(Simpson. 2007) 。
NT肥厚で先天性疾患だとダウン症候群(21トリソミー)の確率が高い?
全体として最も多い染色体異常はダウン症候群(21トリソミー)です。ダウン症候群(21トリソミー)のリスクは、母体の年齢が上がるとともに持っている確率が上昇します。25歳以下の妊娠では1400人に1人、35歳では350人に1人、40歳では200人に1人の確率です。
NT肥厚に関連する染色体異常として2番目に多いのがダウン症候群(21トリソミー)とされています。妊娠11~14週目の胎児における母体年齢とNTの厚さの組み合わせによるダウン症候群(21トリソミー)のスクリーニングは、1990年代に導入されました。この方法では、ダウン症候群(21トリソミー)に罹患した胎児の約75%を特定することができます。12週目にNT肥厚陽性と判定を受けた後の自然流産率は約30%です。
関連記事:ダウン症(ダウン症候群・21トリソミー)とは?身体的特徴や症状、原因、寿命、確率などを解説します
胎児のNTが厚いと医師から指摘されたら
医師から自分の子どもにダウン症の可能性があると言われたら不安な気持ちになるのは当然です。本当かどうか知りたくなるでしょう。
ただ、NT肥厚だからといってダウン症や現代の医学では治せないような病気を持っていると決まったわけではありません。何の疾患を持たずに産まれてきた子どももたくさんいます。
そうは言っても出産する前に知っておきたいと思うのが人情です。もし指摘された妊婦さんの中にそうした気持ちをお持ちであるならば出生前診断を受けるのをおすすめします。
出生前診断は染色体の先天性異常による疾患があるかどうかを調べる検査です。主に4つの方法があります。非確定診断のクアトロテスト(母体血清マーカー検査)とNIPT(新型出生前診断)、確定検査の羊水胃検査と絨毛検査です。
検査によって精度が違っており、非確定検査であるNIPTは99%とかなりの高確率です。ただし費用が15万円から25万円と高額なのが難点です。確定検査の羊水検査と絨毛検査は確率は100%です。しかし、0.5%(1/200)から0.3%(1/300)の流産する可能性があります。
NT(胎児後頚部浮腫)の正常値、異常値の考え方
NT自体はお伝えしたように正常な赤ちゃんたちにも全員に認められるエコー所見です。しかしママさんの気持ちとしてはNTの正常値が気になりますよね?
実は、NTの正常値は赤ちゃんの頭殿長CRLの値により決まっています。NTが95パーセンタイル(95%の赤ちゃんが入っている値を95パーセンタイルといいます)を超える場合をNT増加(異常値)とし、頭殿長(頭からお尻までの長さ)にかかわらずNTが3.5mm以上であれば99パーセンタイルを越えたとして扱います。NTが増加と判断されなければ、正常値ということです。
しかし、NTの正常値を超えたからといって直ちにお子さんに異常があるわけではありません。NTが6mmにまで肥厚した場合であっても、染色体疾患異常である可能性は50%です。しかも正常の赤ちゃんの可能性も30%あります。
つまり、NTが肥厚しているからと言って、お子さんが染色体異常の可能性が100%に近づくのではありません。
NTでは3mm以上の肥厚が認められたら母体血清マーカー検査は正常となりにくいと報告されています(Comstock,2006)。NTがもっとも大きな群(6.5mm以上)ではその65%に染色体異常があり、流産死産といった胎児の致死率は約20%となります。
だからこそ、しつこいですが、NT肥厚が陽性の場合はNIPT(新型出生前診断)をおすすめしているのです。
NT(胎児後頚部浮腫)の正常値、異常値とは?
NTも妊娠の週数によって正常値の基準があり、下のとおりです。
- ・妊娠11週の胎児のNT(後頚部浮腫)の正常値の範囲は1-2.8 mmです。
- ・妊娠12週の胎児のNT(後頚部浮腫)の正常値の範囲は1.2-3.1 mmです。
- ・妊娠13週の胎児のNT(後頚部浮腫)の正常値の範囲は1.6-2.4 mmです。
NT値とCRL(胎児頭殿長)と染色体異常の可能性の関係
Increased nuchal translucency with normal karyotype
この図の見方
胎児の頭臀長が45㎜ならば以下のようになります。この図から読み取れることは、NT値が正常値だと93%の赤ちゃんが健常で出産に至るということであり、ダウン症などの染色体異常がない事を意味するものではありません。
頭臀長 mm | NT mm | 染色体異常の可能性% |
---|---|---|
45 | 1-1.9 | 0.2 |
2-3.4 | 3.5 | |
3.5-4.4 | 20 | |
4.5~5.4 | 33 | |
5.5~6.4 | 50 | |
6.5以上 | 65 |
こうしてみていくのですが、別の表にしましょう。
NT値の頭殿長による正常値、異常値
下の表は、赤ちゃんの頭殿長(とうでんちょうと読みます)(crown-rump length;CRL)とそれに見合った週数とNTの正常値、異常値を表したものです。
妊娠週数 | 胎児の頭殿長CRL(mm) | 胎児後頚部浮腫の期待値 | ||
25%タイル(正常値) | 50%タイル(正常値) | 95%タイル(異常値) | ||
---|---|---|---|---|
妊娠11週0日 | 40㎜ | 0.31㎜ | 1.22㎜ | 2.14㎜ |
妊娠11週3日 | 45㎜ | 0.40㎜ | 1.32㎜ | 2.24㎜ |
妊娠11週6日 | 50㎜ | 0.50㎜ | 1.42㎜ | 2.34㎜ |
妊娠12週3日 | 55㎜ | 0.60㎜ | 1.52㎜ | 2.44㎜ |
妊娠12週6日 | 60㎜ | 0.70㎜ | 1.62㎜ | 2.54㎜ |
妊娠13週2日 | 65㎜ | 0.80㎜ | 1.72㎜ | 2.64㎜ |
70㎜ | 0.90㎜ | 1.82㎜ | 2.73㎜ | |
75㎜ | 0.99㎜ | 1.91㎜ | 2.83㎜ | |
80㎜ | 1.09㎜ | 2.01㎜ | 2.93㎜ | |
85㎜ | 1.19㎜ | 2.11㎜ | 3.03㎜ |
※頭殿長(CRL)を妊娠週数計算のパラメーターにする場合、信頼できる精度は頭殿長CRLが10~50mmの範囲ですので、あくまでも妊娠週数ではなく赤ちゃんのCRLに注目してこの表をご覧ください。
胎児浮腫(NT)が自然に消える可能性はどれくらいあるの?
NTとは実は染色体異常の有無とは関係なく妊娠中期の妊娠l6~18週に消える場合がほとんどです。なぜなら14週を過ぎると胎盤のリンパ系が余分な流体を排出するために十分な発達をするからです。胎盤の循環動態の変化は、末梢血管の抵抗が低下していき、首のうしろにあるリンパの流れが良くなるとNTが消えると言われています。
ところがNTが自然消失したからと言って染色体異常の可能性が否定されるわけではありません。必要と判断されたら羊水検査や絨毛検査などを受けることになります。先述したようにその前にスクリーニング検査としてNIPT(新型出生前診断)を米国産婦人科学会が推奨していることはお伝えした通りです。
羊水検査や絨毛検査は出生前診断検査の中でも確定的検査といって診断に直結する検査なのですが、侵襲が大きいため、実際にそういう侵襲的な検査が必要かどうかを非確定的ではあるが非侵襲的な(侵襲のない)出生前診断検査であるNIPTでスクリーニングして、本当に必要があれば羊水検査などの侵襲的検査に進む、という考え方が主流になっています。どんどん変わっていくので情報はマメに自分自身でアップデートしないといけません。
NT値が正常でもダウン症のこともある
胎児の後頚部浮腫(首の後ろのむくみ)NTが消えたからと言って染色体異常疑いが消えるわけではありません。先述したように、NTとは14週すぎて赤ちゃんのリンパの流れがよくなると改善して16週あたりで自然に消失するものです。NT肥厚が消失したからといって、染色体異常の疑いがなくなったわけではありません。
また、もともとNT値が正常でもダウン症の可能性が否定されるものではないことも今までに述べた通りです。
NT肥厚で疑いがあるダウン症以外の先天性疾患
このエコー写真は実際にNTが厚いという写真です。当院症例をお出ししています。
NTが正常値よりも厚くて先天性疾患が疑われるのはダウン症だけではありません。他にも染色体に異常を持つ先天性疾患の可能性があります。
それは以下の通りです。
- ターナー症候群(モノソミーX)
- 18トリソミー
- 13トリソミー
- 三倍体(染色体のセットが3つある)
- 正常な核型を持っているがその他の異常がある
NT肥厚を来す最も多い疾患はターナー症候群(モノソミーX)です。他にも正常な染色体数の胎児でNT肥厚がある場合、その他の胎児異常や遺伝性症候群がある可能性があります。
関連記事:18トリソミー(エドワーズ症候群)とは?原因・リスク・治療法など解説
【医師執筆】パトウ症候群(13トリソミー)|症状・原因・エコー・治療法・妊娠中の出生前診断
まとめ
妊婦健診で初めてNTと聞いて戸惑う妊婦さんがいるお気持ちがわかります。医師から説明されても知識もないので曖昧だから不安になるのは当然です。しかし、NTだからといって染色体異常になると決まったわけではないのだけでも覚えておいてください。日本では、この検査をどのように妊婦さんに提供してゆくべきか、日本国内でははっきりとした基準はありません。
したがって、もしNT肥厚(ひこう)が認められたならば、NIPT(新型出生前診断)を受検するのがいいでしょう。ただし、医院選びは重要です。日本医師会と日本産婦人科学会から認定を受けていない無認可のクリニックでは遺伝カウンセリングを実施しているところはほとんどありません。なぜなら遺伝子に関する専門知識を持つ医師がいないからです。認可施設の場合、遺伝カウンセリングが義務化されていますが、日時が決まっている病院が多く、日程調整するのが大変です。
しかし、ミネルバクリニックは無認可施設ではありますが、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを実施しており、平日は20時まで土日祝日も診療しているのでご都合に合わせてご来院いただけます。しかもオンライン診療を実施しているのでご自宅に居ながらにして専門的な知識を医師とのカウンセリングが可能です。
もしお腹の中にいる赤ちゃんのNTについて不安をお持ちであればお気軽にお問い合わせください。