この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

片頭痛(偏頭痛)は家族に多い病気ですが、ふつうの片頭痛は多くの遺伝子と生活の環境が関わるため、遺伝子検査で「原因の遺伝子」がわかるものではありません。このパネル検査が役立つのは、片頭痛と一緒に手足の麻痺(力が入らない状態)が出る「片麻痺性片頭痛」など、遺伝子1つの変化で起こる型を疑うときです。原因の遺伝子がわかると、避けたい薬や、脳梗塞との見分け方、ご家族の検査まで、次にすることがはっきりします。このページでは、片頭痛が遺伝する確率と、19遺伝子を調べるこの検査でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. 片頭痛は遺伝する?この検査で何がわかりますか?
片頭痛は家族に多い病気ですが、ふつうの片頭痛は遺伝子と環境の両方が関わり、遺伝子検査で原因はわかりません。この検査は、片麻痺性片頭痛の原因遺伝子(CACNA1A・ATP1A2・SCN1A)を含む19遺伝子を一度に調べ、遺伝子1つで起こる型かどうかを確かめます。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
片頭痛の前ぶれとして手足の麻痺が出る方、ご家族に同じ発作の方がいる方、片頭痛にてんかん・ふらつき・発達の遅れが重なる方です。ふつうの片頭痛だけの方には、おすすめしていません。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜で、どれもオンライン診療で受けられます(血液は提携医療機関で採血)。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。家族性片麻痺性片頭痛と確定すれば、お子さんに受け継がれる確率は2分の1です。ご家族の検査や、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 片頭痛は遺伝する?ふつうの片頭痛と、遺伝子1つで起こる片頭痛の違い
片頭痛は家族に多い病気ですが、ふつうの片頭痛(前兆のない片頭痛・前兆のある片頭痛)は、多くの遺伝子と環境が重なって起こると考えられています。一方で、ごく一部に、遺伝子1つの変化で起こる片頭痛があります。遺伝子検査で原因がわかるのは、こちらの型です。この違いを知っておくことが、検査を受けるかどうかを決めるいちばんの手がかりになります。
片頭痛はめずらしい病気ではありません。日本の15歳以上の4,029人を対象にした全国調査では、1年間に片頭痛があった人は8.4%で、前兆のない片頭痛が5.8%、前兆のある片頭痛が2.6%でした[3]。前兆とは、頭痛の前に、ギザギザした光が見える・視野の一部が見えにくくなる・しびれる、などの症状が一時的に出ることです。
片頭痛が家族に多い理由:遺伝子と環境の両方
片頭痛が家族に多いのは、遺伝の影響と、同じ家で暮らす環境の影響の両方があるためと考えられています。デンマークの一般の人を対象にした研究では、前兆のない片頭痛の人の親・きょうだい・子ども(第一度近親者)は、前兆のない片頭痛になるリスクが1.9倍でした。同じ研究で、血のつながらない配偶者でも、前兆のない片頭痛のリスクが1.4倍だったことから、前兆のない片頭痛には遺伝と環境の両方が関わると結論づけられています[2]。
一方、前兆のある片頭痛の人の第一度近親者は、前兆のある片頭痛になるリスクが約4倍で、配偶者ではリスクが上がっていませんでした。研究者は、前兆のある片頭痛は、主に遺伝の要因で決まる可能性が高いとしています[2]。
片頭痛は母親から遺伝する?父親からは?遺伝する確率は
ふつうの片頭痛は、母親からも父親からも受け継がれうるもので、「母親からだけ遺伝する」という決まりはありません。多くの遺伝子が少しずつ関わる病気なので、「親が片頭痛なら子どもは〇%」と一人ひとりの確率を計算することもできません。上の研究のように、家族全体で見ると片頭痛になりやすい傾向がある、という形で表されます[2]。
これに対して、遺伝子1つで起こる家族性片麻痺性片頭痛は常染色体顕性(優性)遺伝で、母親・父親のどちらが原因の変化をもっていても、お子さん1人あたり2分の1の確率で受け継がれます[1]。遺伝する確率をはっきり言えるのは、原因の遺伝子がわかったときだけです。
遺伝子検査で原因がわかるのは、片麻痺性片頭痛など一部の型だけ
遺伝子検査で原因がわかる可能性があるのは、片麻痺性片頭痛や、片頭痛にてんかん・ふらつき・発達の遅れなどが重なり、遺伝子1つの病気が疑われるときです。ふつうの片頭痛だけの方がこの検査を受けても、原因の遺伝子が見つかることはほとんど期待できません。臨床遺伝専門医としては、ふつうの片頭痛だけの方に、この検査をおすすめすることはしていません。治療については、頭痛外来や脳神経内科でご相談ください。
2. 片麻痺性片頭痛とは:手足の麻痺を伴う片頭痛
片麻痺性片頭痛は、片頭痛の前兆として、体の片側の手足に力が入らなくなる(運動麻痺)症状が出る片頭痛です。国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では、前兆のある片頭痛のうち、完全にもとに戻る手足の脱力と、完全にもとに戻る見え方・感覚・言葉の症状の両方を前兆として伴うものとされています。
症状と診断基準:家族性と孤発性
ICHD-3では、手足の脱力は多くの場合72時間以内に治まりますが、数週間続く人もいるとされています。片麻痺性片頭痛は、同じ発作のある血縁者がいる「家族性片麻痺性片頭痛」と、血縁者にいない「孤発性片麻痺性片頭痛」に分けられます[1]。家族性では、親・きょうだい・子ども、または祖父母・おじおばなどに同じような発作の人が少なくとも1人いることが条件です[1]。
片麻痺性片頭痛はまれな病気です。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsでは、デンマークの研究で有病率0.01%と報告され、男女比は1対3、家族性と孤発性はほぼ同じ割合だったとされています[1]。
💡 用語解説:片麻痺(へんまひ)
体の右側か左側の、どちらか片方の手足に力が入らなくなることです。片麻痺性片頭痛の「麻痺」は、完全に動かなくなるより、力が弱くなる(脱力)ことが多いとされています。しびれ(感覚の症状)と見分けにくいこともあります。
家族性片麻痺性片頭痛1〜3型と原因遺伝子(CACNA1A・ATP1A2・SCN1A)
家族性片麻痺性片頭痛は、原因の遺伝子によって1型(CACNA1A)、2型(ATP1A2)、3型(SCN1A)、それ以外に分けられます[1]。この3つはどれも、神経の細胞の電気の流れをつくる「イオンチャネル」や、イオンをくみ出すポンプの設計図になる遺伝子です。イオンチャネルの異常で起こる病気をまとめてチャネロパチーと呼びます。CACNA1Aは電位依存性カルシウムチャネルの一部をつくる遺伝子です。
🧬 片麻痺性片頭痛の原因遺伝子と割合
※割合はGeneReviewsの表による[1]。報告によって数字には幅があります。
表のとおり、片麻痺性片頭痛の方でも、今わかっている遺伝子に原因の変化が見つかるのは一部です。検査で原因が見つからなくても、片麻痺性片頭痛ではない、ということにはなりません(第5章)。脳幹の症状(めまい・ろれつが回らないなど)が前兆になる片頭痛については、家族性脳底型片頭痛(脳幹性前兆を伴う片頭痛)のページで解説しています。
CACNA1Aによる家族性片麻痺性片頭痛の家系の40〜50%では、目が揺れる(眼振)ことから、年をとってから出ることが多い軽いふらつき(運動失調)まで、小脳の症状がみられるとされています[1]。同じCACNA1Aは、反復発作性運動失調症2型や脊髄小脳失調症6型の原因にもなります。
脳梗塞(脳卒中)との見分けが大事な理由
片麻痺性片頭痛の発作は、体の片側に力が入らなくなるため、脳梗塞などの脳卒中とよく似ています。初めての発作のときは、脳卒中でないことを救急で確かめることが欠かせません。一方で、片麻痺性片頭痛と診断がついている方では、ふだんの片頭痛に使う薬の中に、使ってはいけない薬があります(第6章)。
このため、原因の遺伝子がわかり、病名が確定していることは、発作の特徴や避けたい薬を主治医や救急の医師に伝える手がかりになります。ただし、診断がついていても脳卒中を起こす可能性はあるため、新たな麻痺が出たときは脳卒中の評価が必要です。
片頭痛に、てんかん・ふらつき・発達の遅れが重なるとき
このパネルには、片麻痺性片頭痛の3遺伝子のほかに、てんかんや発達の病気、代謝の病気、脳の血管の病気の原因遺伝子が入っています。たとえば、ミトコンドリア病の原因になるPOLGや、脳でブドウ糖を取り込むしくみの病気(GLUT1欠損症)の原因になるSLC2A1です。GLUT1欠損症では、くり返す頭痛・片頭痛や、左右が入れ替わる麻痺の発作などが起こることが知られています[4]。
片頭痛に似た発作に、てんかん・ふらつき・発達の遅れなどほかの神経の症状が重なるときに、原因の候補を一度に確かめられるのが、このパネルの特徴です。どの遺伝子でどの病気がわかるかは、第4章の表にまとめています。
3. 片頭痛の遺伝子検査を受けるとよい人・向いていない人
この検査は、手足の麻痺を伴う片頭痛がある方、ご家族に同じ発作の方がいる方、片頭痛にほかの神経の症状が重なる方に向いています。ふつうの片頭痛だけの方や、症状がはっきり別の病気を指している方には、別の選び方があります。
受けるとよい人
- ●片頭痛の前ぶれ(前兆)として、体の片側の手足に力が入らなくなる発作がある方(片頭痛 麻痺)
- ●ご両親・きょうだい・お子さんなどに、同じような麻痺を伴う片頭痛の方がいる方
- ●片頭痛に、てんかん、ふらつき(運動失調)、発達の遅れなどが重なる方・お子さん
- ●脳梗塞のように見える発作をくり返し、画像検査では脳卒中と言い切れなかった方
- ●ご家族で家族性片麻痺性片頭痛の原因がわかっていて、ご自身が受け継いでいるか知りたい方
家族歴や症状だけで「遺伝子の病気かどうか」を見分けることはできません。遺伝子検査は、やってみてはじめてわかることがある検査です。
ふつうの片頭痛だけの方へ:受けても原因がわかりにくい理由
前兆のない片頭痛や、見え方の前兆だけの片頭痛では、この検査で原因の遺伝子が見つかることはほとんど期待できません。第1章のとおり、ふつうの片頭痛は多くの遺伝子と環境が少しずつ関わる病気で、1つの遺伝子で決まるものではないためです[2]。「家族みんなが片頭痛だから」という理由だけなら、検査より、頭痛外来での治療と予防を優先してください。
症状・検査の結果から、どのパネルを選ぶか
当院には、片頭痛や麻痺の発作に関係する遺伝子を調べる検査がいくつかあります。同じ遺伝子が複数の検査に入っていることもあるので、症状に合わせて選びます。
🔍 症状に合わせた検査の選び方
※各検査の遺伝子は、それぞれの検査ページの一覧によります(2026年10月時点)。どの検査が合うかは、症状・診察所見・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングでご一緒に決めます。
4. 調べる19遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、片麻痺性片頭痛の原因遺伝子を含む19遺伝子を、一度に調べます。遺伝子は、片麻痺性片頭痛・脳の血管・てんかんと発達・代謝・ミトコンドリアと神経の変性、の5つのまとまりに分けて示します。
🧬 片頭痛パネルで調べる19遺伝子
※遺伝子の一覧は当院の検査内容(2026年10月時点)による。病気と遺伝のしかたは文献[1][4]〜[9]と、GeneReviews・MedlinePlus Genetics・MedGenの各遺伝子・疾患の記載による。顕性=常染色体顕性(優性)、潜性=常染色体潜性(劣性)。NIPTの列は当院のダイヤモンドプラン・インペリアルプランの遺伝子一覧による。
一覧のうち、てんかんの遺伝子の病気をさらに詳しく知りたい方は、ドラベ症候群・レット症候群などの疾患ページもご覧ください。POLGの病気が疑われるときは核遺伝子のミトコンドリア病の遺伝子検査、PPT1の病気が疑われるときは神経セロイドリポフスチン症NGS遺伝子パネル検査のように、より広く調べる検査もあります。
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、19遺伝子の中の小さな変化と、遺伝子の一部が大きく抜けたり増えたりする変化です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。遺伝子検査のメリットとデメリットもあわせてご覧ください。
わかること
- ●遺伝子の小さな変化:遺伝子の文字(塩基)が1つ変わる変化や、数文字が抜けたり入ったりする変化を、次世代シーケンス(NGS)で読み取ります。調べる範囲の99%以上を、1か所につき20回以上読み取る精度で調べます。
- ●大きな欠失・重複:遺伝子全体や、2つ以上の部分(エクソン)にまたがって抜けたり増えたりしている変化を調べます。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。
わからないこと
- ●このパネルにない遺伝子:片麻痺性片頭痛の原因として知られるPRRT2[1]や、小児交互性片麻痺の主な原因のATP1A3は、この検査では調べません。
- ●リピート伸長:同じ配列のくり返しが長くなる変化(たとえばCACNA1Aのリピート伸長による脊髄小脳失調症6型)は見つかりません。
- ●1つのエクソンだけの欠失・重複:見つかることもありますが、いつも見つかるわけではありません。MECP2遺伝子の最初の部分(エクソン1)の欠失・重複は、今の方法では調べられません。
- ●そのほかの変化:染色体の一部が入れ替わる変化(転座・逆位)、遺伝子の働きを調節する領域や、遺伝子の中の深い部分の変化は見つかりません。
- ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態を見つけることは、この検査の目的に入っていません。
陰性でも、片麻痺性片頭痛は否定できません
片麻痺性片頭痛の方の66〜80%では、今わかっている遺伝子に原因の変化が見つからないとされています[1]。そのため、この検査で原因が見つからなくても、片麻痺性片頭痛ではない、ということにはなりません。診断は、症状と診察にもとづいて主治医が行います。
意義がまだわからない変化(VUS)
病気の原因かどうか、今の研究ではまだ判断できない変化(VUS:意義不明変異)が見つかることがあります。VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針のとおりです。
6. 病的変異が見つかったら、次にできること
原因の遺伝子がわかると、病名が決まり、避けたい薬・発作のきっかけ・ご家族の検査・次のお子さんへの備えまで、具体的に考えられるようになります。わかるだけで終わらせず、何ができるかを立場ごとにまとめます。治療は、脳神経内科・小児神経科・頭痛外来など専門の医療機関で受けていただきます。
ご本人(症状のある方):避けたい薬・発作のきっかけ・治療につながる病気
- ●避けたい薬:GeneReviewsは、片麻痺性片頭痛では脳卒中のおそれがあるため、血管を収縮させる薬を避けるとしています[1]。日本の片頭痛の薬(トリプタン系のスマトリプタン)の患者向けの説明書でも、家族性片麻痺性片頭痛・孤発性片麻痺性片頭痛の方は使えない、とされています(2026年10月時点で確認)。
- ●発作のきっかけ:片頭痛に共通するきっかけ(食べ物・におい・強い運動・ストレス)のほか、軽い頭のけがや、脳の血管の造影検査で発作が起こることがあり、造影検査は重い発作のきっかけになりうるとされています[1]。検査や手術を受けるときは、病名を伝えてください。
- ●発作の予防:CACNA1Aによる型では、アセタゾラミドを試すことがあるとされています。発作が多いときは、ふつうの片頭痛と同じような予防の薬が使われます[1]。どの薬を使うかは主治医が決めます。
- ●治療につながる病気:パネルの中には、原因がわかると治療が決まる病気があります。ピリドキシン依存性てんかん(ALDH7A1)はビタミンB6(ピリドキシン)を生涯飲み続ける治療[6]、PNPO欠損症は活性型のビタミンB6(ピリドキサールリン酸)やピリドキシンへの反応[6]、GAMT欠損症はクレアチンとオルニチンの補充などの治療[7]、GLUT1欠損症はケトン食療法[4]、FOLR1による脳葉酸輸送障害はフォリン酸(ロイコボリン)の治療(とくに早く始めたときに神経の症状が大きく改善しうる)[8]、PHGDH欠損症はL-セリンの補充でけいれんが改善すること[9]が知られています。
- ●避けるべき薬がはっきりする病気:POLG関連疾患では、抗てんかん薬のバルプロ酸が絶対に使ってはいけない薬とされています[5]。てんかんの薬を選ぶ前に原因がわかっていることには、大きな意味があります。
- ●ほかの症状の見張り:CACNA1Aによる型では小脳の症状が出ることがあるため[1]、ふらつきなどの変化を主治医と見ていきます。
症状のないご本人(ご家族の検査で受けた方)
家族性片麻痺性片頭痛の原因の変化を受け継いでいても、発作が起こらない人もいます。GeneReviewsでは、受け継いだ人が発症する割合(浸透率)は約80%と推定されていますが、原因遺伝子や病的バリアントによって異なります[1]。受け継いでいるとわかった方は、もし手足の脱力が出たときに、脳卒中と見分けるための情報として病名を伝えられます。避けたい薬や検査のことも、前もって主治医に伝えておけます。
ご家族:ピンポイントの検査ができます
ご本人で原因の変化がわかると、ご両親・きょうだい・お子さんは、その1か所だけを調べて、同じ変化をもっているかを確かめられます。症状のない方の検査は、ご本人の同意のもとで行い、検査の前に遺伝カウンセリングで、知ることの意味をよく考えていただきます。ご両親のどちらももっていない、お子さんで新しく起きた変化(de novo変異)のこともあります。GLUT1欠損症では、約90%が新しく起きた変化とされています[4]。
次のお子さんを考えるとき:出生前診断・NIPT・保因者検査
ご家族の原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに、赤ちゃんが同じ変化をもっているかを調べる計画が立てられます。原因がわからないままでは、出生前に何を調べるかを決められません。
絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。当院では、羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。その病気で出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針をふまえて個別に考えますので、妊娠を考えている段階からご相談ください。
また、このパネルの遺伝子のうち、ATP1A2・CACNA1A・FOXG1・KCNQ2・SCN1A・STXBP1は当院のNIPTのインペリアルプランで、CDKL5・MECP2はダイヤモンドプランとインペリアルプランで調べられます。NIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。陽性だった場合は、確定検査(羊水検査・絨毛検査)を院内で受けられます。
ALDH7A1・PNPO・FOLR1・GAMT・PHGDH・PPT1・POLGの病気は、主に常染色体潜性(劣性)遺伝で、ご両親がともに保因者のとき、お子さん1人あたり4分の1の確率で発症します[5][7]。パートナーが同じ遺伝子の保因者かどうかは、拡大版保因者スクリーニングで調べられる場合があります(対象かどうかは遺伝子一覧でご確認ください)。妊娠中の方には、NIPTと同じ日に採血できるカップルの保因者検査「ファミリーセーフティ プラス」もあります(単独では受けられません)。
どの方法を選ぶか、何もしないで出産を迎えるかは、ご夫婦が決めることです。どの選択も尊重します。
当院でのその後
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。結果の意味、主治医に伝えること、ご家族の検査をどう進めるかを、遺伝カウンセリングで一緒に考えます(遺伝カウンセリング料は30分22,000円・税込)。
7. 結果が陰性・VUSだったとき
原因の変化が見つからなかった場合も、それで終わりではありません。第5章のとおり、片麻痺性片頭痛の多くは今の遺伝子検査で原因が見つからないため、診断と治療は症状にもとづいて続けます。ATP1A3やPRRT2のように、このパネルに入っていない遺伝子の病気が考えられるときは、片麻痺・脳卒中遺伝子パネル検査や全エクソーム検査(WES)を検討します。VUSだった場合は、それだけで診断を決めず、必要に応じてご家族の情報とあわせて考えます。
8. 家族に片頭痛・片麻痺性片頭痛の人がいる方へ:「自分も・子どもも」という不安
親やきょうだいに麻痺を伴う片頭痛の人がいると、ふだんの頭痛やしびれのたびに「自分も同じかもしれない」「子どもに遺伝したら」と不安を抱えながら暮らしている方もいます。その気持ちは、決して大げさなものではありません。
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっている場合、その変化を受け継いでいないとわかれば、ご家族の家族性片麻痺性片頭痛について、ご自身やお子さんが同じ確率を心配する必要はなくなります。ただし、ふつうの片頭痛は誰にでも起こりうる病気なので、片頭痛そのものが起こらないという意味ではありません。受け継いでいるとわかった場合は、第6章のように、避けたい薬を前もって知り、発作のときに脳卒中と見分けるための情報として使えます。
一方で、知らないでいることを選ぶのも、同じように大切な選択です。検査を受けるかどうかは、検査の前の遺伝カウンセリングで、臨床遺伝専門医と時間をかけて考えてから決めていただけます。結果を知ったあとの気持ちの変化についても、遺伝カウンセリングで相談を続けていただけます。
9. 日本の制度(2026年10月時点)
このパネルで見つかる病気の中には、指定難病の対象になっているものがあります。厚生労働省の指定難病の一覧(令和8年4月時点)には、ドラベ症候群(告示番号140)、大田原症候群(146)、皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL、124)、ミトコンドリア病(21)が載っています。また、グルコーストランスポーター1欠損症は指定難病248です(2026年10月時点で確認)。
医療費の助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。遺伝子検査で原因が確定していることが、診断の手がかりになることがあります。認定の基準や申請の方法は、難病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。なお、当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
10. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでも検査でき、どれもオンライン診療で受けていただけます。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
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検体の採取唾液・粘膜・血液
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
検査の流れ
まず遺伝カウンセリングで、検査でわかること・わからないこと、結果がご家族にとってもつ意味をご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを受け、検体を当院に送っていただくこともできます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。
検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えを防ぎ、品質を保つため、ご自身の判断で先に検体を採取しないでください。血液で検査する場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いしています。
費用・日数・検体
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
💴 費用・日数・検体
※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の読み方はNIPT・遺伝子検査結果の見かたで解説しています。
11. 院長コラム
🩺 院長コラム【ありふれた頭痛だからこそ、見分ける】
片頭痛は、とてもよくある病気です。だからこそ、その中にまぎれている、遺伝子1つで起こる型を見分けることに意味があると考えています。手足の麻痺を伴う片頭痛だとわかれば、使ってはいけない薬があり、発作のたびに脳卒中との見分けが必要になります。名前がつくことで、次の一手が決まるのです。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者としてに書いています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
一方で、ふつうの片頭痛の方に「念のため」とこの検査をおすすめすることはしません。わかることとわからないことを正直にお伝えしたうえで、わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 片頭痛は遺伝しますか?遺伝する確率は?
片頭痛は家族に多い病気です。デンマークの研究では、前兆のない片頭痛の人の親・きょうだい・子どもは前兆のない片頭痛のリスクが1.9倍、前兆のある片頭痛の人の親・きょうだい・子どもは前兆のある片頭痛のリスクが約4倍でした。ただし、ふつうの片頭痛は多くの遺伝子と環境が関わるため、一人ひとりの「遺伝する確率」を計算することはできません。遺伝子1つで起こる家族性片麻痺性片頭痛では、お子さん1人あたり2分の1の確率で原因の変化が受け継がれます。
Q2. 片頭痛は母親から遺伝しますか?父親からは?
ふつうの片頭痛は、母親からも父親からも受け継がれうるもので、母親からだけ遺伝するという決まりはありません。家族性片麻痺性片頭痛も常染色体顕性(優性)遺伝なので、母親・父親のどちらが原因の変化をもっていても、お子さんに受け継がれる確率は同じ2分の1です。
Q3. ふつうの片頭痛でも遺伝子検査で原因がわかりますか?
前兆のない片頭痛や、見え方の前兆だけの片頭痛では、遺伝子検査で原因の遺伝子が見つかることはほとんど期待できません。多くの遺伝子と環境が少しずつ関わる病気だからです。この検査が役立つのは、手足の麻痺を伴う片麻痺性片頭痛や、片頭痛にてんかん・ふらつき・発達の遅れが重なるときです。
Q4. 片麻痺性片頭痛と脳梗塞はどう見分けますか?
片麻痺性片頭痛の発作は脳梗塞によく似ているため、初めての発作では、救急で画像検査などを行い脳卒中でないことを確かめることが欠かせません。片麻痺性片頭痛と診断がついていても、新たな麻痺やいつもと異なる症状が出た場合は、脳卒中の可能性を考えて救急での評価が必要です。原因の遺伝子がわかっていることは、病歴や避けたい薬を医師に伝える手がかりになります。
Q5. 片麻痺性片頭痛でトリプタンは使えますか?
日本の片頭痛の薬(スマトリプタン)の患者向けの説明書では、家族性片麻痺性片頭痛・孤発性片麻痺性片頭痛の方は使えないとされています(2026年10月時点で確認)。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsも、脳卒中のおそれがあるため血管を収縮させる薬を避けるとしています。薬は必ず主治医と相談して選んでください。
Q6. 家族性片麻痺性片頭痛は子どもに遺伝しますか?
家族性片麻痺性片頭痛は常染色体顕性(優性)遺伝で、お子さん1人あたり2分の1の確率で原因の変化を受け継ぎます。受け継いだ人が発症する割合は約80%と推定されています。ご家族の原因がわかっていれば、妊娠したときに羊水検査・絨毛検査で赤ちゃんを調べる計画を立てられます。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています。
Q7. 片頭痛と偏頭痛、どちらが正しいですか?
医学の用語としては「片頭痛」が使われます。「偏頭痛」と書かれることもありますが、同じ病気を指しています。このページでは「片頭痛」と書いています。
Q8. 片頭痛パネルと片麻痺・脳卒中パネルの違いは?
どちらにも片麻痺性片頭痛の原因遺伝子(CACNA1A・ATP1A2・SCN1A)が入っています。片頭痛パネル(19遺伝子)は、てんかんや代謝の病気の遺伝子も含み、片頭痛にほかの神経の症状が重なる方に向きます。片麻痺・脳卒中パネル(15遺伝子)は、小児交互性片麻痺の主な原因のATP1A3や、脳の血管の病気の遺伝子を含み、子どもの交互性の麻痺や若い年齢の脳卒中が気になる方に向きます。
Q9. 費用と結果までの日数は?保険は使えますか?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。
🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。片頭痛の原因が遺伝子1つの変化だとわかれば、避けたい薬や発作のきっかけを知って備えられるだけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりにもなります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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