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発達性てんかん性脳症42型(DEE42):新生児期に発症するCACNA1A遺伝子の重篤なてんかんと最新の個別化治療

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

発達性てんかん性脳症42型(DEE42)は、第19番染色体短腕に位置するCACNA1A遺伝子の新生突然変異により、生後数時間から数日のうちに重篤なてんかん発作と発達遅滞を引き起こす、有病率100万人に1人未満の極めて稀な希少難病です。同じ遺伝子の変異でも、機能獲得型(GOF)か機能喪失型(LOF)かによって有効な薬剤が正反対になるという特徴を持ち、遺伝子レベルで個別化された治療戦略が予後を大きく左右します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 CACNA1A・てんかん性脳症・個別化医療
臨床遺伝専門医監修

Q. DEE42とはどのような病気ですか?まず結論だけ教えてください

A. CACNA1A遺伝子の新生突然変異により、脳神経のカルシウムチャネル(CaV2.1)の働きが乱れ、新生児期から極めて難治性のてんかん発作と発達遅滞を引き起こす希少な脳症です。同じ遺伝子の変異でも「働きすぎ(GOF)」と「働かない(LOF)」の2タイプが存在し、有効な薬剤と禁忌薬剤が真逆になるため、遺伝子検査による変異タイプの確定が治療方針の出発点になります。

  • 疾患の基本情報 → OMIM 617106、DOID:0080454、有病率100万人に1人未満
  • 分子メカニズム → CaV2.1チャネルのGOF型とLOF型、両方向の変異が同じ重症脳症を起こすパラドックス
  • 主な症状 → 新生児期発症の難治性てんかん、発達遅滞(96%)、下向き眼振、進行性小脳萎縮
  • 緊急対応 → 軽微な頭部外傷でも誘発される脳卒中様エピソードへの備え
  • 個別化医療 → GOF型にはベラパミル/フルナリジン、LOF型にはアセタゾラミドが選択肢

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1. 発達性てんかん性脳症42型(DEE42)とは:定義と歴史的背景

発達性てんかん性脳症42型(Developmental and Epileptic Encephalopathy type 42、略称DEE42)は、第19番染色体短腕13.13領域(19p13.13)にあるCACNA1A遺伝子の新生突然変異により発症する重篤なてんかん性脳症です。OMIM(オンラインメンデル遺伝学カタログ)では617106番として登録され、Disease Ontologyでは0080454と分類されています。Orphanetによる推定有病率は100万人に1人未満で、世界的に見ても症例数の非常に限られた超希少疾患です。

💡 用語解説:てんかん性脳症とは

「てんかん性脳症」とは、頻繁に起こるてんかん発作と、それに伴う激しい脳波の異常そのものが、発達途上の脳のネットワーク形成を直接妨げ、知的発達や運動発達の遅れを進行性に引き起こす病態の総称です。単に「てんかんを持っている」状態とは異なり、発作活動自体が脳の成長を傷害するという考え方が重要です。DEE42はそのなかでも最も早期に発症し、最も難治性のグループに属します。

CACNA1A関連疾患スペクトラムの劇的なパラダイムシフト

CACNA1A遺伝子は1990年代に、家族性片麻痺性片頭痛1型(FHM1)反復発作性運動失調症2型(EA2)脊髄小脳失調症6型(SCA6)といった、比較的緩徐に進行する成人〜青年発症の常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の原因として知られていました。

しかし2016年、Epi4Kコンソーシアムによる大規模なエクソーム解析研究が状況を一変させました。生後数時間から数日で発症する超早期の重篤なてんかん性脳症の患者群に、CACNA1Aの新生突然変異が同定されたのです。これにより「同じ遺伝子でも変異の性質によって全く異なる重症度・発症時期の疾患が生じる」ことが明確になり、DEE42は独立した疾患として確立されました。

2. 原因遺伝子CACNA1AとCaV2.1チャネルの分子病態

DEE42を理解するうえで欠かせないのが、原因となるカルシウムチャネルの構造と働きです。CACNA1A遺伝子は、脳の神経細胞(特に大脳皮質と小脳のプルキンエ細胞)に豊富に存在する電位依存性P/Q型カルシウムチャネル(CaV2.1)の主要な部品(α1Aサブユニット)の設計図にあたります。

💡 用語解説:電位依存性カルシウムチャネルCaV2.1

カルシウムチャネルとは、神経細胞の表面にある「カルシウムイオンを通すゲート」のことです。神経の電気信号(活動電位)が末端まで届くと、このゲートが一瞬だけ開いてカルシウムが細胞内に流れ込みます。このカルシウムが引き金となって、グルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質が放出されます。CaV2.1は、脳のシナプス前終末で神経伝達の「最後のスイッチ」を担う最重要分子で、興奮性と抑制性のバランスを制御する司令塔です。

CACNA1Aの機能喪失に対する進化的な制約は極めて強く、ExACデータベースの指標(pLIスコア)は0.9999と上限近くまで達します。これは「この遺伝子の機能が失われると生存・繁殖に深刻な不利が生じる」ことを意味し、変異が見つかった際の臨床的インパクトの大きさを物語っています。

同じ遺伝子・正反対のメカニズム:GOFとLOFのパラドックス

DEE42における最大の学術的・臨床的トピックは、CACNA1A変異が「機能獲得型(GOF)」と「機能喪失型(LOF)」のどちらの方向であっても、同じように重篤なてんかん性脳症を引き起こすという事実です。

💡 用語解説:ミスセンス変異・新生突然変異(de novo)

ミスセンス変異とは、DNAの塩基が1つだけ変化することでアミノ酸が別の種類に置き換わる変異です。タンパク質の形がわずかに変わり、その働きに影響を与えます。

新生突然変異(de novo変異)とは、両親の精子や卵子のいずれか、または受精直後に新たに生じた変異で、両親には同じ変異が存在しません。DEE42のほとんどはこの新生突然変異によって発症します。

💡 用語解説:GOF(機能獲得型)・LOF(機能喪失型)

GOF(Gain-of-Function、機能獲得型)変異は、チャネルが本来より「働きすぎる」状態を引き起こします。カルシウムが過剰に流れ込み、神経が暴走的に興奮し、最終的に神経細胞そのものが傷害されます。

LOF(Loss-of-Function、機能喪失型)変異は、チャネルが「働けなくなる」状態を生みます。一見ブレーキがかかりそうに思えますが、実は抑制性の神経細胞(GABAを放出する細胞)のほうがCaV2.1の影響を強く受けるため、結果として脳全体のブレーキが利かなくなり、興奮性が暴走します。

CaV2.1チャネルが引き起こすシナプス伝達の破綻メカニズム

機能獲得型(GOF)

🔴🔴🔴
⬇️⬇️⬇️

Ca²⁺が大量流入
シナプス前終末で神経伝達物質が過剰放出
→ ネットワークの過興奮
→ 興奮毒性で神経細胞死

正常

🟢
⬇️

Ca²⁺の適切な流入
神経伝達物質の適度な放出
→ 興奮性と抑制性のバランス維持
→ 健全な脳ネットワーク

機能喪失型(LOF)


Ca²⁺がほとんど流れない
抑制性神経のGABA放出が不全
→ 脳のブレーキ喪失
→ 興奮性ネットワーク暴走

GOFはカルシウム流入の過剰によって、LOFは抑制性ニューロンの働きが失われることによって、それぞれ全く逆の入り口から同じ「重篤なてんかん性脳症」というゴールに至ります。

3. 主な症状と臨床的特徴

DEE42の臨床像は、中枢神経・自律神経・運動器系にわたる広範な障害が複合的に現れます。発症の早さと症状の多様さが特徴です。

てんかん発作:新生児期から始まる多彩な発作型

発作の発症は生後数時間から数日以内という極めて早期で、出生直後の新生児集中治療室(NICU)で気づかれることが少なくありません。発作型は単一ではなく、患者一人の経過のなかで複数のパターンが混在し、時期とともに変化していきます。

⚡ 主な発作型

  • 焦点性強直発作
  • 眼瞼ミオクロニーを伴う欠神発作
  • ミオクロニー脱力発作
  • 全般性強直間代発作
  • 強直スパスム(点頭てんかん様)

📊 経時的な臨床像の変化

  • 新生児期:早期乳児てんかん性脳症(大田原症候群)様
  • 乳児期:West症候群(点頭てんかん)様への移行
  • 幼児期以降:Lennox-Gastaut症候群様、Dravet症候群様
  • 共通点:多剤併用でも難治

神経発達・認知・行動の特徴

発作の頻発と直接的なチャネル異常の結果として、ほとんどの患者で重度の発達遅滞が認められます。Lipmanらの報告では、CACNA1A変異を持つ患者の96%に発達遅滞または知的障害が確認されています。さらに自閉スペクトラム症(ASD)が約23%に合併し、注意欠如・多動症(ADHD)、強迫性障害(OCD)、実行機能障害なども重畳することがあります。定頸・寝返り・歩行・発語といった発達のマイルストーンの達成は著しく遅れるか、獲得自体が困難です。

運動障害と特徴的な眼球運動異常

てんかん以外の神経所見として、対照的な筋緊張異常が観察されます。体幹は筋緊張低下(フロッピーインファント)であるのに対し、四肢の末梢では筋緊張が亢進(痙縮)し、深部腱反射が亢進するというパターンが特徴的です。小脳でのCaV2.1の高発現を反映し、年齢が進むにつれて運動失調や体幹振戦が明確になっていきます。

また、DEE42を臨床的に強く疑うシグナルとして下向き眼振(Downbeat nystagmus)発作性強直性上方注視、内斜視などの斜視といった眼球運動異常があります。これらは小脳と脳幹の機能不全を反映する所見で、診断の方向性を絞り込む手がかりになります。

4. 検査所見:脳波(EEG)と画像診断(MRI)

脳波(EEG):バーストサプレッションからヒプスアリスミアへ

DEE42の新生児〜乳児早期で最も典型的な脳波所見はバーストサプレッションパターンです。広範な大脳皮質の機能不全と局所的な異常興奮が混在する病態を反映しており、大田原症候群の臨床診断を強力に支持します。

💡 用語解説:バーストサプレッションとヒプスアリスミア

バーストサプレッションは、ほぼ平坦な脳波(サプレッション期)と、高振幅で激しい多焦点性の棘波・徐波の群発(バースト期)とが数秒間隔で交互に出現するパターンです。脳の活動が極端に断続的になっている重篤な状態を意味します。

ヒプスアリスミアは、West症候群(点頭てんかん)に典型的な脳波で、高振幅の不規則な徐波・棘波・鋭波がランダムに、しかも持続的に混じり合うパターンです。乳児期にバーストサプレッションから移行することが多くみられます。

頭部MRI:進行性の小脳萎縮

発症初期(新生児期)のMRI画像は、しばしば正常または非特異的な軽度異常にとどまるため、画像だけでの早期診断は困難です。しかし、年齢が進むにつれて小脳虫部を中心とする進行性の小脳萎縮が顕在化してきます。これがDEE42を含むCACNA1A関連疾患で最も特異的で普遍的な画像所見であり、運動失調や構音障害、眼振の解剖学的な土台となっています。さらに大脳白質の髄鞘化遅延や脳梁の菲薄化が認められるケースも報告されています。

5. 急性増悪と脳卒中様エピソード:生命を脅かす緊急事態

DEE42の長期管理において、ご家族と医療者が最も警戒すべきリスクが「軽微な誘因による劇的な神経症状の悪化」です。特にGOF型変異を持つ患者群でこのリスクが顕著です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「ちょっと頭をぶつけた」が一大事になる病気】

DEE42のお子さんを持つご家族にとって、健常な小児であれば全く問題にならないような軽い頭部のぶつけや、発熱、過度な遊び疲れが、一気に命に関わる事態へと連鎖することがあります。これはお子さん本人の不注意やご家族の見守り不足ではなく、CACNA1A遺伝子のチャネルが「ちょっとした刺激」に過敏に反応してしまう生まれつきの性質に由来するものです。

私が遺伝カウンセリングで強くお伝えしているのは、「事前に救急対応マニュアルをかかりつけ医・救急医療機関と共有しておく」ことの重要性です。診断名と想定される急変パターンを書いた一枚の紙が、いざというとき治療開始までの時間を大きく短縮します。

トリガーとなる事象

  • ⚠️軽微な頭部外傷(壁にぶつけた・転倒した程度)
  • ⚠️発熱・ウイルス感染
  • ⚠️過度な運動・身体的ストレス
  • ⚠️精神的ストレス・睡眠不足

病態と臨床経過

これらの誘因が加わると、数十分から数時間以内に激しい嘔吐、頭痛、意識レベルの低下が起こります。続いて重度の片麻痺性片頭痛に相当する症状、すなわち身体の一側性の完全な麻痺が出現し、しばしばコントロール不能なてんかん重積状態や昏睡を伴って脳卒中様エピソードへと急速に発展します。

💡 用語解説:皮質拡延性抑制(Cortical Spreading Depression)

大脳皮質を「波」のように広がっていく一過性の電気的・代謝的変化のことです。片頭痛の前兆や脳虚血の現場で起こる現象で、CACNA1AのGOF変異を持つ患者では、この波が発生する閾値が異常に下がっています。波が広がる過程で脳血管攣縮や大規模な脳浮腫を引き起こし、真の脳梗塞ではないものの「脳卒中によく似た」激烈な症状が生まれます。

血管自体の物理的な閉塞は存在しないため真の虚血性脳梗塞とは異なりますが、適切なICU管理と脳圧降下措置が遅れれば重篤な脳損傷や死に至る危険があります。発作が沈静化した後も、片側の麻痺や構音障害が数日〜数週間、ときに数ヶ月にわたって遷延し、集中的なリハビリテーションが必要となります。

6. 個別化医療(Precision Medicine)と治療戦略

DEE42に対する薬物治療は、歴史的に極めて困難でした。複数の抗てんかん薬を組み合わせても十分な発作抑制が得られないことが一般的だったためです。しかし近年、次世代シークエンシングの普及により変異がGOF型かLOF型かを分子レベルで特定できるようになり、チャネル機能に直接介入する個別化医療が大きく前進しています。

遺伝子変異タイプによる治療戦略の比較

比較項目 機能獲得型(GOF) 機能喪失型(LOF)
主な臨床的特徴 片麻痺性片頭痛、繰り返す脳卒中様発作、頭部外傷や物理的・精神的ストレスが誘因 反復発作性運動失調症2型(EA2)様の運動失調エピソード、神経発達の遅れ
分子病態 カルシウムチャネルの過活動・過剰なCa²⁺流入による神経毒性 カルシウムチャネルの機能低下・正常なチャネル機能の欠如
推奨される標的治療薬 ベラパミル / フルナリジン
(過活動のチャネルを阻害)
アセタゾラミド
(EA2に有効)
禁忌・注意すべき薬剤 早期発症・重症型では従来の抗てんかん薬が難治 カルシウムチャネルブロッカーの絶対回避
(残存するチャネル機能を奪うため)

この表が示す通り、同じCACNA1A変異でも、変異タイプを取り違えると治療薬がそのまま「毒」になりかねません。GOFと判明していない段階でカルシウムチャネルブロッカーを安易に投与することは厳に避け、必ず遺伝子診断と機能解析を経たうえで治療方針を決める必要があります。

新規治療薬(XEN007)と今後の展望

GOF型に対する治療を一段と前進させる新薬として、フルナリジンを主成分とするXEN007の第1相臨床試験が北米を中心に進行中です。CACNA1A Foundationなどの患者団体と製薬企業が連携し、DEE42のGOF変異に対する最初の疾患修飾薬となることが期待されています。

薬物以外の包括的マネジメント

🥗 食事療法

ケトン食療法が一部の薬剤抵抗性患者で発作頻度を有意に減少させることが示されています。導入は専門施設の管理下で行います。

⚙️ デバイス治療

迷走神経刺激療法(VNS)や反応性神経刺激療法(RNS)が、薬剤抵抗性の場合の選択肢として検討されます。

🧘 リハビリテーション

理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)を早期から導入し、筋緊張低下の改善、拘縮予防、コミュニケーション能力の獲得を図ります。

🚑 救急対応マニュアル

軽微な頭部外傷や発熱時に備え、医療機関向けのアクションプランを事前に策定。脳浮腫治療を即座に始められる体制づくりが鍵です。

7. 遺伝カウンセリングと出生前診断の考え方

DEE42の確定診断後、また将来のお子さんを考えているご家族にとって、丁寧な遺伝カウンセリングが欠かせません。臨床遺伝専門医は中立的な情報提供者として、選択は常にご家族に委ねるスタンスを大切にします。

遺伝形式と再発リスク

DEE42は常染色体顕性(優性)遺伝形式を取ります。ただし報告されているほとんどの症例は新生突然変異(de novo)であり、両親には同じ変異が認められません。そのため、次のお子さんで同じ疾患が再発する確率は理論上は一般集団とほぼ同じレベルまで下がります。ただし、まれに生殖細胞モザイク(両親の卵巣や精巣の一部の細胞に変異が存在する状態)の可能性があり、これがゼロとは言い切れない理由になります。

出生後診断と出生前診断の整理

タイミング 検査方法 役割
出生後 血液によるトリオ全エクソーム解析(Trio-WES) 既に新生児発作を起こしているお子さんの確定診断。両親のDNAも同時解析し、新生突然変異を効率的に同定。
出生前(確定) 羊水検査・絨毛検査 既知の家族内変異が判明している場合の確定診断。胎児のDNAを直接調べる。
出生前(スクリーニング) NIPT(インペリアルプランでCACNA1Aを含む154遺伝子をカバー) 母体血採血のみで実施。スクリーニング検査であり、陽性の場合は確定検査(羊水・絨毛)が必要。

DEE42は典型的には新生突然変異で起こるため、第一子の妊娠で事前に確実に予測することは困難です。一方、既にDEE42のお子さんがいて、次のお子さんを望むご家族の場合は、既知の変異情報を用いた出生前検査が選択肢として存在します。どの検査を選ぶか、そもそも検査を受けるかどうかは、ご夫婦の価値観・人生設計・倫理観に基づくご家族の決定です。臨床遺伝専門医はそれぞれの選択肢のメリット・限界・後の影響を中立に情報提供します。

8. よくある誤解

誤解①「CACNA1A変異=大人になってからの片頭痛や運動失調」

CACNA1Aは長らくFHM1・EA2・SCA6など成人発症の疾患の遺伝子と考えられていましたが、同じ遺伝子の新生突然変異が新生児期発症の重症脳症(DEE42)を引き起こすことが2016年以降明らかになりました。

誤解②「カルシウムチャネルブロッカーは全員に効く」

ベラパミルなどはGOF型には著効することがありますが、LOF型には禁忌で、残ったチャネル機能をさらに奪い症状を悪化させる危険があります。変異タイプの確認が不可欠です。

誤解③「親が健康なら遺伝病ではない」

DEE42の多くは新生突然変異(de novo)です。両親に同じ変異が一切ないにもかかわらず、お子さんで初めて変異が生じるパターンがほとんどで、ご両親の体質や行動が原因ではありません。

誤解④「発作が止まれば普通の発達に追いつく」

小児期後期に発作頻度が減ることはあっても、初期のてんかん性脳症が残した脳ネットワーク障害・小脳萎縮は不可逆で、知的障害・運動失調・構音障害は生涯にわたって持続することが多いとされています。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「変異の中身を読む医療」が予後を変える】

DEE42はかつて、複数の抗てんかん薬を組み合わせても効かない「治らないてんかん」として扱われてきました。しかし、CACNA1A変異がGOFかLOFかを機能解析で識別し、それぞれに合った薬剤を選ぶというアプローチが登場してから、状況は確実に変わりつつあります。GOF型の患者さんで脳卒中様発作が劇的に止まる症例報告は、医療現場に強い希望を与えてくれます。

大切なのは、「CACNA1Aに変異がありました」で診断を終わらせず、「その変異はどう振る舞うのか」まで踏み込むことです。これは臨床遺伝専門医とてんかん専門医、基礎研究者が連携して初めて達成できる医療です。当院では遺伝子診断後の機能的解釈と治療戦略の橋渡しを大切にしています。

よくある質問(FAQ)

Q1. DEE42は親から遺伝しますか?

遺伝形式自体は常染色体顕性(優性)ですが、ほとんどの症例はお子さんで新しく生じた新生突然変異(de novo)によるもので、両親には同じ変異が存在しません。ですので「親の体質が原因」ではありません。次のお子さんでの再発リスクも理論上は非常に低くなりますが、生殖細胞モザイクの可能性が完全にゼロとは言い切れないため、次子妊娠時の遺伝カウンセリングが推奨されます。

Q2. GOFとLOFはどうやって区別するのですか?

遺伝子検査で同定された変異の種類(ミスセンス変異・ナンセンス変異・フレームシフト変異・欠失など)と、その変異が報告されている文献データ、そして必要に応じてパッチクランプ法によるチャネル機能解析を組み合わせて判断します。近年は機械学習(AI予測モデル)で機能的影響を予測するアプローチも研究が進んでいます。

Q3. なぜ軽く頭をぶつけただけで脳卒中のような症状が出るのですか?

特にGOF型の患者さんでは、CACNA1A変異により大脳皮質に「皮質拡延性抑制」と呼ばれる波が起こりやすくなっています。健常な人なら何でもない刺激でもこの波が誘発され、脳血管攣縮や大規模な脳浮腫を引き起こすため、結果として脳卒中によく似た重い症状が短時間で出現します。血管の物理的閉塞は存在しない点が真の脳梗塞とは異なります。

Q4. 一般的な抗てんかん薬は効きますか?

残念ながら、多くの患者さんでは複数の抗てんかん薬を組み合わせても十分な発作抑制が得られない「難治性」を示します。だからこそ、変異タイプを特定したうえで標的治療薬(GOFにはベラパミル/フルナリジン、LOFにはアセタゾラミドなど)を組み合わせるアプローチが重要になってきています。ケトン食療法やVNSなどの非薬物療法も併用候補です。

Q5. ベラパミルはどんな患者さんに使えますか?

CACNA1A変異が機能獲得型(GOF)と確認された患者さんで、反復する脳卒中様発作・片麻痺性片頭痛・難治性てんかん重積に対して有効性を示した症例報告が複数あります。一方で機能喪失型(LOF)に投与すると重大な悪化を招くため、必ず変異の機能的解釈を経たうえで使用するかを判断します。判断は小児神経科医・てんかん専門医・臨床遺伝専門医が連携して行います。

Q6. 出生前に診断できますか?

家族内に既知のCACNA1A変異がある場合は、絨毛検査や羊水検査による出生前確定診断が可能です。母体血を用いたNIPTでは、当院のインペリアルプランがCACNA1Aを含む154遺伝子をカバーしており、スクリーニング検査として実施できます。NIPTで陽性となった場合は、確定診断のために羊水検査や絨毛検査が必要です。検査を受けるかどうかはご家族の価値観に基づく選択ですので、遺伝カウンセリングで十分に情報を整理することをお勧めします。

Q7. 発作が止まれば普通の生活に戻れますか?

小児期後期にてんかん発作の頻度が減ったり消失したりするケースは確かに存在します。しかし、初期に進行した脳ネットワークの障害や小脳萎縮は不可逆であることが多く、知的障害・運動失調・構音障害といった神経学的合併症は生涯にわたって持続します。リハビリテーションと生活支援を継続することで、QOLを段階的に高めていくことが現実的な目標になります。

Q8. 救急搬送時に伝えるべき情報は何ですか?

①「DEE42(CACNA1A遺伝子変異によるてんかん性脳症)であること」、②「軽微な頭部外傷や発熱でも脳卒中様発作・重症脳浮腫を起こしうること」、③「同定された変異がGOFかLOFか」、④「使用中の薬剤と禁忌薬剤(LOFの場合はカルシウムチャネルブロッカー)」を一枚の救急カードにまとめ、保護者が常に携帯しておくことを強く推奨します。

🏥 CACNA1A関連疾患・希少てんかんのご相談

DEE42をはじめとするCACNA1A関連疾患、希少遺伝性てんかん性脳症に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックへお気軽にお寄せください。

関連記事

参考文献

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  • [4] Jiang X, et al. Both gain-of-function and loss-of-function de novo CACNA1A mutations cause severe developmental epileptic encephalopathies in the spectrum of Lennox-Gastaut syndrome. Epilepsia. 2019;60(9):1881-1894. [PubMed 31468518]
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  • [9] CACNA1A Foundation. XEN007 Clinical Trial Information. [XEN007]
  • [10] Indelicato E. CACNA1A-related disorders: Clinical presentation and therapeutics options. ERN-RND Webinar 2022. [ERN-RND]
  • [11] Orphanet. Early infantile developmental and epileptic encephalopathy. ORPHA:1934. [Orphanet]
  • [12] Disease Ontology. DOID:0080454 – Developmental and Epileptic Encephalopathy 42. [Disease Ontology]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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