InstagramInstagram

アルツハイマー・認知症NGS遺伝子検査パネル|ミネルバクリニック

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

認知症は遺伝する?確率とアルツハイマー・認知症の遺伝子検査

認知症は遺伝するのか――答えは「多くは遺伝子1つでは決まらないが、遺伝子1つで起こる家族性の認知症もある」です。アルツハイマー病の約95%は60〜65歳を過ぎてから発症する型で、遺伝子1つで起こる早発性の家族性アルツハイマー病は2%未満とされています。一方で、APP・PSEN1・PSEN2、前頭側頭型認知症のMAPT・GRN・C9orf72などに病気の原因となる変化があると、親から子へ2分の1の確率で受け継がれます。生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、ご自身の治療や暮らしの計画だけでなく、ご家族が自分のことを考える手がかりにもなります。このページでは、認知症の遺伝する確率、APOE ε4の意味、16遺伝子を調べるアルツハイマー・認知症の遺伝子検査でわかること・わからないことを、臨床遺伝専門医が解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. 認知症は遺伝する?この検査で何がわかりますか?

アルツハイマー型認知症を含め、認知症の多くは遺伝子1つでは決まりません。この検査では、遺伝子1つで起こる家族性のアルツハイマー病・前頭側頭型認知症・プリオン病などの原因遺伝子と、なりやすさに関わるAPOEなど、16遺伝子をまとめて調べます。C9orf72のリピート伸長も料金に含まれます。

🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?

若くして認知症を発症した方、ご家族に何人も認知症の方がいる方、そして母親や父親が認知症で「自分にも遺伝するのか」を知りたい、症状のない方です。APOE遺伝子検査だけを考えている方は、先にAPOEの節をお読みください。

🧬 Q. 費用・日数・検体は?

検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の粘膜などで、オンライン診療にも対応しています。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。

🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?

結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因の変化が見つかれば、ご家族は同じ場所だけを調べられ、妊娠を考えるときは出生前診断の相談もできます。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。

\ 一生変わらない遺伝子を知って、これからの計画に /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

16遺伝子とC9orf72のリピート伸長を1回の検査で調べ、結果は2〜3週間で、臨床遺伝専門医が直接ご説明します。

お問い合わせはこちら | どの検査がよいか迷う方へ

1. 認知症は遺伝する?遺伝する確率は「型」で大きく違う

認知症が遺伝するかどうか、遺伝する確率がどれくらいかは、認知症の「型」と、関わっている遺伝子の種類で大きく変わります。遺伝子1つの変化で起こる型なら親から子へ2分の1で受け継がれますが、多くの認知症は、いくつもの遺伝子と、年齢・生活習慣などが重なって起こります。

アルツハイマー病は、脳にアミロイドβがたまり、タウタンパク質の異常な固まりができて神経細胞が減っていく病気です。遺伝性疾患の解説書GeneReviewsによると、アルツハイマー病の約95%は60〜65歳を過ぎてから発症する「遅発型」で、それより前に発症する「早発型」は約5%です[1]。

遺伝子1つで起こる認知症と、「なりやすさ」に関わる遺伝子のちがい

認知症に関わる遺伝子は、「その遺伝子の変化だけで病気の原因になるもの」と、「持っているとなりやすくなるが、それだけでは決まらないもの」の2種類に分けて考えます。この2つは、遺伝する確率も、結果の意味もまったく違います。

🧬 認知症の原因になる遺伝子と、認知症になりやすい遺伝子

項目 原因になる遺伝子(単一遺伝子) なりやすさに関わる遺伝子
この検査で調べる主な遺伝子 APP・PSEN1・PSEN2(家族性アルツハイマー病)、MAPT・GRN・C9orf72(前頭側頭型認知症)、PRNP(プリオン病)、CSF1R など APOE(ε4)、TREM2、GBA など
お子さんへの伝わり方 多くは常染色体顕性(優性)遺伝で、お子さん1人ごとに2分の1 受け継いでも、病気になるかどうかは決まらない
結果の意味 診断の確定、ご家族の検査、出生前診断の計画につながる 集団で見たときの確率の情報。個人の発症の予測や診断には使えない

※遺伝のしかたはOMIMと文献[1]による。なりやすさの遺伝子の位置づけは本文の各節を参照。

常染色体顕性(優性)遺伝では、対になった2本の遺伝子のうち1本に原因があれば発症しうるため、お子さん1人ごとに2分の1の確率で伝わります。性別には関係しません。なりやすさの遺伝子は、たくさんの遺伝子の小さな影響を足し合わせて考える多遺伝子リスクスコアのように、「確率を少し動かすもの」として扱われます。

アルツハイマー型認知症は遺伝する?家族性アルツハイマー病は必ず遺伝するのか

アルツハイマー型認知症の多くは、遺伝子1つで決まる病気ではありません。遺伝子1つで起こる早発性の家族性アルツハイマー病は、アルツハイマー病全体の2%未満とされています[1]。

GeneReviewsは、アルツハイマー病の原因を次のように整理しています。家族に3人以上アルツハイマー病の方がいる「家族性」は全体の約25%ですが、その大部分は遅発型で、遺伝子1つの変化で説明できるものではありません。60〜65歳より前に発症する早発性の家族性アルツハイマー病は2%未満、原因がわからないものが約75%です[1]。

早発性の家族性アルツハイマー病(早発アルツハイマー病)は、APP・PSEN1・PSEN2のいずれかの病的な変化で起こる常染色体顕性遺伝の病気です[1]。「家族性アルツハイマー病は必ず遺伝するのか」という問いには、「親が原因の変化をもっていれば、お子さんが受け継ぐ確率は1人ごとに2分の1。受け継がなければ、その原因による発症はない」と答えます。

📊 早発性家族性アルツハイマー病の3つの原因遺伝子

遺伝子 早発性家族性の中の割合 発症年齢の目安
PSEN1 20〜70% 多くは40代〜50代前半(30代〜60代前半)。65歳以降の発症はまれ
APP 10〜15% 多くは40代〜50代、ときに60代(30〜65歳)
PSEN2 約5% 40〜75歳と幅が広い。80歳を過ぎても発症していない人の報告がある

※GeneReviews「Alzheimer Disease Overview」(2018年更新)[1]による。

PSEN2では、変化をもっていても80歳を過ぎて発症していない人が報告されており、原因をもっていても発症しない人がいる「不完全浸透」が知られています[1]。PSEN1・APPについても、「100%発症する」と言い切れるだけの根拠は、今回確認した資料にはありませんでした。発症するかどうか、いつ発症するかは、遺伝子と変化の種類、ご家族の発症年齢をあわせて考えます。

前頭側頭型認知症・レビー小体型認知症・プリオン病の遺伝

前頭側頭型認知症には、MAPT・GRN・C9orf72という、遺伝子1つで起こる型がはっきりあります。人柄が変わる、行動の抑えがきかなくなる、言葉が出にくくなるなどの症状で始まることが多い認知症です。くわしくは前頭側頭型認知症(FTD)のページで解説しています。

国際的な研究グループ(GENFI)が3,403人(1,492家系)を調べた研究では、症状が出た平均年齢は、MAPTで49.5歳、GRNで61.3歳、C9orf72で58.2歳でした。ご本人の発症年齢は、親御さんの発症年齢と関係していて、その関係はMAPTでもっとも強いと報告されています[6]。

C9orf72は、前頭側頭型認知症と筋萎縮性側索硬化症(ALS)が同じ家系に出ることがある型(FTDALS1)の原因です。1,170人の保因者を調べた研究では、発症の中央値は58歳で、浸透率は年齢とともに上がる「年齢依存・不完全」のものでした。この研究では83歳までに99.5%が発症していましたが、症状のない保因者が2割いると仮定して計算し直すと90.9%になり、研究の対象の選び方で数字が変わることも示されています[7]。

レビー小体型認知症は、幻視や、パーキンソン病に似た動きにくさを伴うことの多い認知症です。原因遺伝子として、パーキンソン病の原因でもあるSNCAと、よく似たタンパク質をつくるSNCBが、OMIMで常染色体顕性遺伝のレビー小体型認知症に結びつけられています。またGBA(現在の名前:GBA1)の変化は、なりやすさを高めます。721人のレビー小体型認知症の方と1,962人の対照を比べた研究では、GBAの変化をもつことのオッズ比は8.28でした[9]。レビー小体型認知症の多くは、遺伝子1つで決まるわけではありません。

プリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病など)の一部は、PRNP遺伝子の変化による遺伝性のもので、常染色体顕性遺伝です。急に進む認知症が特徴です。

母親・父親・祖母が認知症だと遺伝する?家族歴で見るポイント

母親や父親、祖母が認知症だったというだけで、遺伝子1つで起こる認知症だとは限りません。高齢になってから発症する認知症は珍しくないため、ご家族に1人いることは、それだけでは遺伝子の変化を強く疑う理由になりません。

遺伝子1つで起こる型を考えるのは、たとえば次のような家族歴があるときです。

  • ●65歳より前、とくに40〜50代で発症した方がいる
  • ●親子・きょうだいなど、何世代にもわたって発症した方がいる
  • ●認知症の方とALSの方、認知症の方とパーキンソン病の方が、同じ家系にいる
  • ●人柄の変化から始まる認知症や、急に進む認知症の方がいる

「隔世遺伝」のように見える場合も、間の世代が早く亡くなっていた、症状が軽くて気づかれていなかった、などの理由で説明できることがあります。家系図を書いてみると見えてくることが多いので、遺伝カウンセリングでは、わかる範囲でご家族の発症年齢をお聞きします。

2. APOE遺伝子とは:ε4は「なりやすさ」。APOE遺伝子検査は意味がない?

APOE遺伝子には、ε2・ε3・ε4の3つの型があり、ε4を持つとアルツハイマー病になりやすくなります。ただし、ε4は「なりやすさ」であって、持っていても発症しない人も、持っていなくても発症する人もいます。そのため、症状のない人が発症を予測する目的でAPOEを調べることは、日本でも米国でも勧められていません。

ε2・ε3・ε4と、日本人で報告された数字

APOE遺伝子の型は、両親から1つずつ受け継いだ2つの組み合わせ(ε3/ε4など)で表します。1997年に多くの研究をまとめた解析(メタ解析)では、もっとも多いε3/ε3の人と比べたアルツハイマー病のなりやすさ(オッズ比)は、白人の集団でε3/ε4が3.2、ε4/ε4が14.9でした。日本人の集団では、ε3/ε4が5.6、ε4/ε4が33.1と、ε4の影響がより強く出ていました[2]。

💡 用語解説:オッズ比は「あなたの確率」ではありません

オッズ比は、病気の人と病気でない人の集団を比べたときの「なりやすさの比」です。「ε4/ε4だと33倍の確率で必ず発症する」という意味ではありません。年齢・性別・ほかの遺伝子・生活習慣によって、一人ひとりの確率は変わります。元記事にあった「ε4が1つで3〜4倍、2つで約10倍」という数字は、調べた集団で大きく変わるため、このページでは出典の数字をそのまま示しています。

症状のない人がAPOEだけを調べることへの学会の考え方

日本の7つの学会が監修した「認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン」(第2版、2026年7月16日)は、アルツハイマー病の診断や発症予測を目的としたAPOE遺伝学的検査、健康な人を対象としたAPOE遺伝学的検査を「不適切である」としています。APOEの結果は発症リスクに関する確率で、単一遺伝子疾患の遺伝学的検査のような診断的な意義は乏しい、というのが理由です。同じガイドラインは、保険外診療や消費者が直接申し込む検査(DTC)で、発症リスクの評価を目的にAPOEを調べることも不適切としています(2026年10月時点で確認)。

米国臨床遺伝学会と米国遺伝カウンセラー学会の共同指針(2011年)も、APOEのようななりやすさの遺伝子の検査は、臨床上の有用性が限られ予測の力が弱いため勧めない、としています[3]。GeneReviewsも、APOEの型を調べることは発症前の予測検査としてはほとんど役割がない、という考え方が一般的だとしています[1]。

一方で、ε4の結果を知ることが心に与える影響を調べた米国の研究(REVEAL研究)では、アルツハイマー病の親をもつ症状のない162人を、結果を知らせる群と知らせない群に分けて比べたところ、不安・抑うつの変化に差はありませんでした。ただし、検査の前から気持ちが不安定だった人は、結果を知ったあとにつらさを感じやすいことも示されています[4]。検査の前の遺伝カウンセリングが大切な理由のひとつです。

このパネル検査は、APOEだけを調べるリスク検査ではなく、遺伝子1つで起こる認知症の原因を探すことが主な目的で、APOEはその一部として含まれています。APOEの結果が何を意味し、何を意味しないか、学会がどう考えているかは、検査を受ける前の遺伝カウンセリングでご説明し、納得していただいてから受けるかどうかを決めていただきます。

レカネマブ・ドナネマブとAPOE ε4:ARIAの起こりやすさ

アルツハイマー病の進行を抑える抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ・ドナネマブ)では、ARIA(アミロイド関連画像異常)という副作用が、APOE ε4を持つ人、とくに2つ持つ人で起こりやすいことがわかっています。ARIAは、MRIで見つかる脳のむくみ(ARIA-E)や小さな出血(ARIA-H)のことです。

日本では、レカネマブ(レケンビ)が2023年9月25日に、ドナネマブ(ケサンラ)が2024年9月24日に承認され、効能・効果はどちらも「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」です。ドナネマブの臨床試験(TRAILBLAZER-ALZ 2)では、ARIA-Eはドナネマブ群の24.0%に起こり、APOE ε4を持たない人で15.7%、1つ持つ人で22.8%、2つ持つ人で40.6%でした[5]。

2026年8月17日には両方の薬の「使用上の注意」が改訂され、投与を始める前にAPOE遺伝子検査の実施を考慮すること、検査は承認された体外診断用医薬品を用い、患者さんとご家族に意義を十分に説明して同意を得ること、が記載されました(PMDA・厚生労働省の通知、2026年10月時点で確認)。前述のガイドライン第2版も、抗アミロイドβ抗体薬の使用前に、ARIAのリスクについて患者さん・ご家族と話し合って一緒に決めるためにAPOE遺伝学的検査を行うことを推奨しています。また、日本人ではレカネマブによるARIAの頻度が、日本人以外より低いことも記載されています。

この治療前のAPOE検査は、ガイドラインで、抗アミロイドβ抗体薬を処方する認知症診療の専門医が説明と同意の取得を主体的に行うものとされています。当院はこの治療を行っておらず、このパネル検査は治療前のAPOE検査の代わりにはなりません。治療を考えている方は、主治医にご相談ください。そのうえで、ご本人の結果がご家族にどう関わるかを知りたいときは、当院の遺伝カウンセリングでご相談いただけます。

3. 認知症の遺伝子検査は、どんな人が受けるとよいか

この検査が向いているのは、遺伝子1つで起こる認知症の可能性がある方です。若くして発症した方、ご家族に何人も同じような病気の方がいる方、そしてご家族の病気が自分に遺伝するかを知りたい症状のない方です。

発症しているご本人

米国の共同指針は、早発性アルツハイマー病の症状があり、ご家族に認知症の方がいる場合などに、原因遺伝子の検査を提案すべきとしています[3]。次のような方が当てはまります。

  • ●65歳より前に認知症と診断された方(若年性認知症・若年性アルツハイマー病)
  • ●アルツハイマー型か、前頭側頭型か、レビー小体型かなど、型がはっきりしない方
  • ●ご家族に同じような認知症、ALS、パーキンソン病の方がいる方
  • ●主治医から遺伝の可能性を言われた方

病名がはっきりすると、使える制度(第7章)が決まり、ご家族が自分の状態を知る手がかりにもなります。米国の共同指針は、ご家族の中では、まず発症している方を調べるのが理想としています[3]。発症している方の原因がわかれば、ほかのご家族は同じ場所だけを調べればよくなるためです。

親・きょうだいが認知症で、自分も心配な症状のない方(発症前の検査)

症状のない方が、将来発症する可能性を調べる検査を「発症前の検査(予測的検査)」といいます。当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しており、知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。

先が見えないまま過ごすより、わかったうえで、仕事・結婚や出産・住まい・ご家族の介護の準備など、これからの人生を計画したいと考える方もいます。英国でハンチントン病の発症前検査を受けた人の理由としてもっとも多かったのは「不確実さを減らすため」(70.5%)でした[13]。病気は違いますが、「知ることで計画を立てたい」という思いは、家族性の認知症のご家族にも通じるものだと考えています。発症前の検査をほかで断られた方への当院の考え方は、『発症した本人でなければハンチントン病遺伝子検査はできない』と大学病院で断られ続けた方へでも解説しています。

米国の共同指針は、家族性アルツハイマー病の発症前検査は、ご家族の中で原因の変化が確かめられているときにもっとも意味がある、としています[3]。ご家族で原因がわかっていないときは、陰性でも「家族の病気を受け継いでいない」とは言い切れないため、この点も検査の前にご説明します。

結果を知ったあとの気持ちの変化は、陽性でも陰性でも起こりえます。当院では、結果をお伝えしたあとも、遺伝カウンセリングで相談を続けていただけます。なお、日本医学会のガイドライン(2022年3月改定)は、成年期以降に発症する病気の未成年者への発症前の遺伝学的検査は、原則として本人が成人し自律的に判断できるまで延期すべきとしています。お子さんの検査については、この考え方を踏まえてご相談ください(未成年者の遺伝学的検査に関するガイドライン)。

この検査より別の検査が向いている場合:選び分けの表

認知症の原因をまとめて調べたいなら、この16遺伝子の検査です。ただし、症状やご家族の病気によっては、次の検査のほうが向いていることがあります。比べる相手は検査の種類です。

🔍 症状・家族歴に合わせた検査の選び方

こんなとき 向いている検査
認知症の型がしぼれない、アルツハイマー型・前頭側頭型・プリオン病などをまとめて調べたい このページの検査(16遺伝子)
若くして発症したアルツハイマー病で、家族に多い 早発性家族性アルツハイマー病の遺伝子検査(APP・PSEN1・PSEN2の3遺伝子)
認知症とパーキンソン病の症状が両方ある、家族に両方の方がいる パーキンソン病・アルツハイマー病・認知症の遺伝子パネル検査
パーキンソン病が中心 パーキンソン病包括的遺伝子検査(26遺伝子)
家族にALSの方がいる、ALSと認知症が同じ家系にいる ALS(筋萎縮性側索硬化症)遺伝子検査パネル
MRIで脳の白質に異常がある 白質脳症の遺伝子検査
若いうちの脳梗塞や血管性認知症が家族に多い CADASIL(NOTCH3遺伝子)の検査
急に進む認知症で、家族にプリオン病の方がいる PRNP遺伝子の検査(プリオン病)
年配の男性で、ふるえや歩きにくさと物忘れがある FMR1遺伝子リピート伸長検査(FXTASなど)
勝手に体が動く(舞踏運動)症状を伴う ハンチントン病など単一遺伝子のリピート伸長遺伝子検査
症状が広く、病気をしぼれない 全エクソーム検査(WES)

※どの検査が合うかは、症状・画像検査・ご家族の情報で変わります。遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。ALSの遺伝子検査について日本の制度上の事情を知りたい方は『SOD1以外のALS遺伝子検査は研究段階のためできない』と言われた方へもご覧ください。

\ 知りたいと願う方を、当院は拒みません /

📅遺伝カウンセリングを予約する(ご希望があれば検査まで受けられます)

あなたの1回の検査が、ご両親・きょうだい・お子さんが自分の状態を知る手がかりになります。原因がわかったご家族は、同じ場所だけを調べる検査も受けられます。

お問い合わせはこちら | 若年性アルツハイマーの遺伝が心配な方へ

4. 調べる16遺伝子と、それぞれでわかる病気

この検査では、認知症の原因になる遺伝子と、なりやすさに関わる遺伝子をあわせた16遺伝子を、次世代シーケンサーで一度に調べます。C9orf72のリピート伸長(6つの塩基の繰り返しが長く伸びる変化)は、別の方法(リピートプライムドPCR法)で調べ、料金に含まれています。

🧬 アルツハイマー・認知症の遺伝子検査で調べる16遺伝子

遺伝子 関係する病気 遺伝のしかた
APOE アルツハイマー病のなりやすさ(ε4)。脂質異常症(III型高リポ蛋白血症)にも関わる なりやすさの遺伝子(それだけで発症は決まらない)
APP 家族性アルツハイマー病(1型)、APP関連脳アミロイドアンギオパチー 常染色体顕性
C9orf72 前頭側頭型認知症±筋萎縮性側索硬化症1型(FTDALS1) 常染色体顕性(リピート伸長)
CSF1R 神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS)。脳の異常と骨の硬化を伴う型(BANDDOS) 常染色体顕性(HDLS)/常染色体潜性(BANDDOS)
DNMT1 遺伝性感覚性ニューロパチー1E型、常染色体優性小脳性運動失調難聴ナルコレプシー 常染色体顕性
EIF4G1 パーキンソン病18型のなりやすさ(OMIMでは、なりやすさを示す { } 付きの項目)。病気の原因になるとする報告には否定的な研究もある[12] なりやすさの遺伝子(OMIMの記載は常染色体顕性)
GBA(現在の名前:GBA1) ゴーシェ病。パーキンソン病・レビー小体型認知症のなりやすさ 常染色体潜性(ゴーシェ病)/なりやすさの遺伝子
GRN 前頭側頭型認知症(TDP-43が蓄積する型)、神経セロイドリポフスチン症11型 常染色体顕性(前頭側頭型認知症)/常染色体潜性(11型)
MAPT 前頭側頭型認知症、ピック病、進行性核上性麻痺 常染色体顕性
PRNP 遺伝性のクロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・ストロイスラー病、致死性家族性不眠症など(プリオン病) 常染色体顕性
PSEN1 家族性アルツハイマー病(3型)。前頭側頭型認知症、拡張型心筋症の報告もある 常染色体顕性
PSEN2 家族性アルツハイマー病(4型)、拡張型心筋症 常染色体顕性
SNCA パーキンソン病(1型・4型)、レビー小体型認知症 常染色体顕性
SNCB レビー小体型認知症 常染色体顕性
TREM2 那須ハコラ病(2型)。アルツハイマー病のなりやすさ 常染色体潜性(那須ハコラ病)/なりやすさの遺伝子
TYROBP 那須ハコラ病(1型) 常染色体潜性

※遺伝子リストは当院の検査内容による。病名と遺伝のしかたはOMIMのGene-Phenotype Relationshipsによる。GBAは検査の遺伝子リスト上の表記で、現在の正式な名前はGBA1です。

TREM2は、脳の免疫細胞であるミクログリアの働きに関わる遺伝子です。アイスランドの研究では、TREM2のR47Hという変化をもつことのアルツハイマー病のオッズ比は2.92でした[10]。GBAの変化は、パーキンソン病のなりやすさとも関わり、多施設の研究ではオッズ比5.43と報告されています[8]。いずれも「なりやすさ」の数字で、持っていれば発症する、という意味ではありません。

那須ハコラ病(TYROBP・TREM2)やゴーシェ病(GBA)は常染色体潜性遺伝で、ご両親がともに保因者のとき、お子さん1人ごとに4分の1の確率で発症します。妊娠前にご夫婦の保因者の状態を知りたい方は、拡大版保因者スクリーニングもご検討ください(対象かどうかは遺伝子一覧でご確認ください)。

5. 認知症の遺伝子検査でわかること・わからないこと

この検査でわかるのは、16遺伝子の配列の小さな変化(1つの塩基の置き換わり、小さな挿入・欠失)と、遺伝子全体や複数のエクソンにまたがる欠失・重複、C9orf72のリピート伸長です。遺伝子検査にはいつも限界があり、次のことはわかりません。

わかること・わからないこと

  • ●調べる範囲:遺伝子のうちタンパク質の設計図になる部分(コード領域)と、その境目(スプライス部位)を調べます。遺伝子のはたらきを調節する部分(プロモーター)や、エクソンから離れたイントロンの奥の変化は調べられません。
  • ●欠失・重複:遺伝子全体や2つ以上続くエクソンの欠失・重複は検出でき、見つかったものは別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。エクソン1つだけの欠失・重複は、ふだんは検出できません。
  • ●C9orf72:リピート伸長の有無は調べますが、メチル化の解析は含まれません。そのほかの遺伝子のリピート伸長は、この検査では調べられません。
  • ●そのほか:染色体の転座や逆位、体の一部の細胞にだけ変化がある体細胞モザイクは、この検査の対象ではありません。
  • ●16遺伝子以外:この検査に入っていない遺伝子が原因の認知症は見つけられません。

陰性でも「認知症にならない」とは言えない/VUS

原因の変化が見つからなくても、「認知症にならない」という意味ではありません。認知症の多くは遺伝子1つでは決まらず、年齢や生活習慣も関わります。また、この検査で見つけられない変化や、まだ見つかっていない遺伝子が原因のこともあります。

病気の原因かどうかまだ判断できない変化(VUS)が見つかることもあります。VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合(二次的所見)の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。

APOE遺伝子検査キット・認知症の遺伝子検査キットとのちがい

自宅で唾液を送るAPOE遺伝子検査キットなどの多くは、APOEの型だけを調べて「なりやすさ」を示すもので、遺伝子1つで起こる認知症の原因を調べる検査とは目的が違います。前述のとおり、日本のAPOEのガイドライン(第2版)は、DTC検査などで発症リスクの評価を目的にAPOEを調べることを不適切とし、米国の共同指針もDTCのAPOE検査は勧めないとしています[3]。

医療機関で受ける遺伝子検査では、検査の前に、何がわかり何がわからないかの説明を受け、結果も医師から直接説明を受けます。消費者が直接申し込む検査とのちがいは、Direct-to-Consumerと医療機関で行う遺伝子検査の違いでも解説しています。

6. 病的変異が見つかったら、次にできること

結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。原因となる変化(病的変異)が見つかったときは、ご本人・ご家族それぞれに、次にできることがあります。

① 発症しているご本人:使える治療と制度

原因がわかると、病名がはっきりします。前頭側頭葉変性症や、神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(CSF1R)、那須ハコラ病、プリオン病などは指定難病で、医療費の助成の対象になりえます(第7章)。抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ・ドナネマブ)は、アルツハイマー病による軽度認知障害と軽度の認知症が対象の薬で、使えるかどうかや、治療前のAPOE検査は、処方する認知症の専門医が判断します(第2章)。当院は認知症の治療を行っておらず、結果は主治医の診療に役立てていただく情報としてお渡しします。

② 症状のない方:仕事・結婚・出産・住まい・介護の準備と、生活で気をつけること

陽性とわかった方は、仕事を続ける期間、住まい、ご家族との話し合い、介護の準備などを、時間のあるうちに考えることができます。結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。知ってから決めるのと、知らずに決めるのとでは意味が違う、と当院は考えています。若年性認知症の相談先として、厚生労働省の事業として始まった若年性認知症コールセンター(0800-100-2707、全国から無料)があります。

認知症の予防について、2024年の英国医学誌Lancetの委員会報告は、14の変えられる危険因子をなくせば、理論上は認知症の半分近くを予防または遅らせうる、としています。この報告では、治療されていない視力低下と、高いLDLコレステロールが新たに危険因子に加わりました[11]。これは集団全体についての推計で、遺伝子1つで起こる家族性の認知症にそのまま当てはまるかは、わかっていません。それでも、変えられる危険因子に備えることは、遺伝が心配な方にとっても損のない選択です。どの危険因子に気をつけるとよいかは、かかりつけ医にもご相談ください。

③ 子どもを持つときの選択肢

ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。成人になってから発症する病気の出生前診断をどう考えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に考える必要があり、米国の共同指針は、変化があっても妊娠を続けるつもりの場合には出生前検査は勧めないとしています[3]。妊娠を考えている段階からご相談ください。

日本でも、日本産科婦人科学会の「「重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)」に関する指針/細則」(2026年9月改定)にもとづく審査を経て、PGT-Mが行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。準備に必要なことは遺伝性疾患をお持ちで海外でPGT-M(着床前診断)を考えている方へで解説しています。そして、何も検査をせずにそのまま妊娠・出産を選ぶことも、もちろんひとつの選択です。どの選択も尊重します。

④ ご家族:同じ変化だけをピンポイントで調べられる

ご本人に原因の変化が見つかると、ご両親・きょうだい・お子さんなどの第一度近親は、常染色体顕性遺伝の場合、同じ変化をもつ確率が2分の1です。ご家族は、16遺伝子すべてではなく、見つかった変化の場所だけを調べる既知の変異検査で確かめられます。症状のないご家族の検査は発症前の検査になるため、ご本人が考えて決めてから受けていただきます(第3章)。

⑤ 当院でのその後

結果をお伝えしたあとも、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで、結果の意味、ご家族への伝え方、妊娠の計画などを一緒に考えます。陰性だったときは、考えられる理由と、別の検査(全エクソーム検査など)の選択肢をご説明します。VUSだったときは、それだけで判断せず、新しい情報が出たときの扱いをご説明します。

7. 日本の制度(2026年10月時点)

遺伝子1つで起こる認知症のうち、いくつかは指定難病に含まれています。一方、アルツハイマー病(家族性・若年性を含む)とレビー小体型認知症は、指定難病の一覧(348疾病、令和7年4月1日現在)には入っていません。

🏥 この検査に関わる主な指定難病

告示番号・病名 関係する遺伝子
127 前頭側頭葉変性症 MAPT・GRN など(厚生労働省の診断基準に、家族性ではタウ遺伝子・プログラニュリン遺伝子などの変異が見つかっていると記載)
125 神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症 CSF1R(CSF-1R遺伝子変異が確実例の基準に含まれる)
174 那須ハコラ病 TYROBP・TREM2
023 プリオン病 PRNP
006 パーキンソン病 SNCA・GBA など

※厚生労働省の指定難病の一覧・診断基準、難病情報センターの資料で確認(2026年10月時点)。助成を受けるには、それぞれの認定基準を満たし、申請する必要があります。

認定の基準や申請の方法は、難病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。若年性認知症の方は、介護保険や障害福祉のサービス、各都道府県の若年性認知症の相談窓口なども使えることがあります。

8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体

アルツハイマー・認知症の遺伝子検査の費用は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の粘膜・血液のいずれでもオンライン診療に対応しており、遠方の方もご来院なしで受けられます。

ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の提出唾液・頬の粘膜・血液
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ

この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※

※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。

💴 費用・日数・検体

項目 内容
調べる遺伝子 APOE, APP, C9orf72, CSF1R, DNMT1, EIF4G1, GBA, GRN, MAPT, PRNP, PSEN1, PSEN2, SNCA, SNCB, TREM2, TYROBP(16遺伝子)
料金に含まれる解析 塩基配列、欠失・挿入、C9orf72リピート伸長解析(リピートプライムドPCR法)
検査費用 税込330,000円
遺伝カウンセリング料 30分22,000円(税込)※検査費用とは別
結果までの期間 2〜3週間
オプション 至急(結果までの期間が約7日短くなります)55,000円/VUS除外 無料
検体 血液(EDTA採血管4ml×2本)、抽出DNA、頬の粘膜、唾液
オンライン診療 対応しています。血液の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします

※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。

当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えや品質の問題を防ぐため、キットが届く前にご自身で検体を採らないでください。

結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の見方はNIPT/遺伝子検査結果の見かたで解説しています。

遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり何がわからないか、APOEの結果の意味、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。16遺伝子を1回の遺伝子パネル検査で調べるので、遺伝子を1つずつ順番に調べ直す必要はありません。

\ 人生に一度の遺伝子検査を、ご家族とこれからの計画に /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

唾液・頬の粘膜ならオンライン診療で、ご来院なしで受けられます。陽性なら、妊娠したときの羊水検査・絨毛検査まで院内でご相談いただけます。

お問い合わせはこちら | どの検査がよいか迷う方へ

9. 院長コラム

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【知ってから選ぶ、という生き方】

私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。

親御さんが若くして認知症になったとき、「自分もいつか同じようになるのか」という問いは、仕事・結婚・出産・住まいのすべてに影を落とします。結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。知ってから決めるのと、知らずに決めるのとでは、同じ選択でも意味が違う、と私は考えています。だから当院は、知りたいと願う方を拒みません。もちろん、知らないでいることを選ぶのも、尊重されるべき選択です。

遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。たとえば、きょうだいのお子さんの病気をきっかけに念のため検査を受けた方に、まったく別の遺伝子の病的な変化が、体の一部の細胞だけにある状態(モザイク)で見つかったことがあります。ご本人は発症していませんでしたが、卵子や精子のもとになる細胞にもその変化があれば、お子さんが発症することがある病気でした。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。

一方で、APOEのように「なりやすさ」しか示さない結果を、診断のように受け止めてしまうことには、慎重でありたいと考えています。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める。その「わかったこと」が何を意味し、何を意味しないのかを、正確にお伝えすることが、臨床遺伝専門医の役目だと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 認知症は遺伝しますか?遺伝する確率はどれくらいですか?

認知症の多くは、遺伝子1つで決まるものではありません。アルツハイマー病のうち、遺伝子1つで起こる早発性の家族性アルツハイマー病は2%未満とされています。ただし、APP・PSEN1・PSEN2や、前頭側頭型認知症のMAPT・GRN・C9orf72などに原因となる変化がある場合は、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継がれます。遺伝する確率は、認知症の型と、関わる遺伝子によって大きく変わります。

Q2. 母親(父親・祖母)が認知症だと、自分にも遺伝しますか?

高齢になってから発症する認知症は珍しくないため、母親や父親、祖母が認知症だったというだけで、遺伝子1つで起こる認知症とは限りません。65歳より前の発症、何世代にもわたる発症、同じ家系にALSやパーキンソン病の方がいる、といった家族歴があるときは、遺伝子1つで起こる型を考えます。家系図とご家族の発症年齢から、検査を受ける意味があるかを遺伝カウンセリングでご一緒に考えます。

Q3. 家族性アルツハイマー病は必ず遺伝しますか?アルツハイマー病は優性遺伝ですか?

APP・PSEN1・PSEN2の変化による早発性の家族性アルツハイマー病は、常染色体顕性(優性)遺伝で、親が原因の変化をもっていれば、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継がれます。受け継がなければ、その原因による発症はありません。一方、アルツハイマー病の大部分は遅発型で、遺伝子1つの優性遺伝で説明できるものではありません。また、PSEN2では変化をもっていても80歳を過ぎて発症していない人が報告されています。

Q4. APOE遺伝子検査は意味がないのですか?ε4があると必ず認知症になりますか?

ε4はアルツハイマー病の「なりやすさ」で、持っていても発症しない人も、持っていなくても発症する人もいます。日本の学会のガイドライン(第2版、2026年7月)は、診断や発症予測を目的としたAPOE遺伝学的検査や、健康な人を対象としたAPOE遺伝学的検査を不適切としています。一方、抗アミロイドβ抗体薬の使用前に、副作用(ARIA)のリスクを話し合うためにAPOEを調べることは推奨されています。目的によって意味が大きく違う検査です。

Q5. APOE遺伝子検査はどこで受けられますか?費用はいくらですか?

抗アミロイドβ抗体薬の治療前のAPOE検査は、ガイドラインで、薬を処方する認知症診療の専門医が説明と同意の取得を主体的に行うものとされています。当院のこのページの検査は、APOEを含む16遺伝子をまとめて調べるもので、検査費用は税込330,000円、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。治療前のAPOE検査の代わりにはならないため、治療を考えている方は主治医にご相談ください。

Q6. レカネマブ・ドナネマブを使う前に、APOEを調べる意味はありますか?

あります。抗アミロイドβ抗体薬では、ARIA(脳のむくみや小さな出血)という副作用が、APOE ε4を持つ人、とくに2つ持つ人で起こりやすいことがわかっています。ドナネマブの臨床試験では、ARIA-EはAPOE ε4を持たない人で15.7%、1つ持つ人で22.8%、2つ持つ人で40.6%でした。2026年8月には、両方の薬で、投与を始める前にAPOE遺伝子検査の実施を考慮することが使用上の注意に記載されました。

Q7. 症状がなくても、この検査を受けられますか?

受けられます。当院は知りたいと願う方を拒むことはせず、遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は検査まで行います。ご家族の中で発症している方の原因がわかっていると、結果の意味がはっきりします。なお、日本医学会のガイドラインにもとづき、成年期以降に発症する病気の未成年者への発症前の検査は、原則として本人が成人して自分で判断できるまで延期すべきと考えています。

Q8. 遺伝子の変化が見つかったら、子どもを持つときにどんな選択肢がありますか?

ご家族で原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。日本では日本産科婦人科学会の指針にもとづく審査を経てPGT-Mも行われています(当院は体外受精・PGT-Mを行っていません)。何も検査をせずに妊娠・出産を選ぶこともできます。成人になってから発症する病気の出生前診断の考え方を含めて、妊娠を考えている段階からご相談ください。

🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える

生まれ持った遺伝子は一生変わりません。認知症の原因となる遺伝子の変化がわかれば、ご自身の治療や暮らしの計画だけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりになります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。

お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768

参考文献

  • [1] Bird TD. Alzheimer Disease Overview. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 1998 (Updated 2018 Dec 20). [NCBI Bookshelf NBK1161]
  • [2] Farrer LA, Cupples LA, Haines JL, et al. Effects of age, sex, and ethnicity on the association between apolipoprotein E genotype and Alzheimer disease: a meta-analysis. JAMA. 1997;278(16):1349-1356. [DOI: 10.1001/jama.1997.03550160069041]
  • [3] Goldman JS, Hahn SE, Catania JW, et al. Genetic counseling and testing for Alzheimer disease: joint practice guidelines of the American College of Medical Genetics and the National Society of Genetic Counselors. Genet Med. 2011;13(6):597-605. [DOI: 10.1097/GIM.0b013e31821d69b8](2019年に内容を再確認した補遺:Genet Med. 2019;21:2404. doi:10.1038/s41436-019-0559-1)
  • [4] Green RC, Roberts JS, Cupples LA, et al. Disclosure of APOE genotype for risk of Alzheimer’s disease. N Engl J Med. 2009;361(3):245-254. [DOI: 10.1056/NEJMoa0809578](PMID: 19605829)
  • [5] Sims JR, Zimmer JA, Evans CD, et al. Donanemab in early symptomatic Alzheimer disease: the TRAILBLAZER-ALZ 2 randomized clinical trial. JAMA. 2023;330(6):512-527. [DOI: 10.1001/jama.2023.13239]
  • [6] Moore KM, Nicholas J, Grossman M, et al. Age at symptom onset and death and disease duration in genetic frontotemporal dementia: an international retrospective cohort study. Lancet Neurol. 2020;19(2):145-156. [DOI: 10.1016/S1474-4422(19)30394-1]
  • [7] Murphy NA, Arthur KC, Tienari PJ, Houlden H, Chiò A, Traynor BJ. Age-related penetrance of the C9orf72 repeat expansion. Sci Rep. 2017;7:2116. [DOI: 10.1038/s41598-017-02364-1]
  • [8] Sidransky E, Nalls MA, Aasly JO, et al. Multicenter analysis of glucocerebrosidase mutations in Parkinson’s disease. N Engl J Med. 2009;361(17):1651-1661. [DOI: 10.1056/NEJMoa0901281](PMID: 19846850)
  • [9] Nalls MA, Duran R, Lopez G, et al. A multicenter study of glucocerebrosidase mutations in dementia with Lewy bodies. JAMA Neurol. 2013;70(6):727-735. [DOI: 10.1001/jamaneurol.2013.1925](PMID: 23588557)
  • [10] Jonsson T, Stefansson H, Steinberg S, et al. Variant of TREM2 associated with the risk of Alzheimer’s disease. N Engl J Med. 2013;368(2):107-116. [DOI: 10.1056/NEJMoa1211103](PMID: 23150908)
  • [11] Livingston G, Huntley J, Liu KY, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572-628. [DOI: 10.1016/S0140-6736(24)01296-0]
  • [12] Nichols N, Bras JM, Hernandez DG, et al. EIF4G1 mutations do not cause Parkinson’s disease. Neurobiol Aging. 2015;36(8):2444.e1-2444.e4. [DOI: 10.1016/j.neurobiolaging.2015.04.017]
  • [13] Baig SS, Strong M, Rosser E, et al. 22 Years of predictive testing for Huntington’s disease: the experience of the UK Huntington’s Prediction Consortium. Eur J Hum Genet. 2016;24(10):1396-1402. [DOI: 10.1038/ejhg.2016.36]

関連記事

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

記事の作り方と生成AIの使い方は、編集方針をご覧ください。