InstagramInstagram

早発アルツハイマー病(若年性アルツハイマー病)とは?65歳未満で発症する原因遺伝子・症状・診断・最新治療を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

アルツハイマー病は高齢者の病気だと思われがちですが、65歳未満で発症する「早発アルツハイマー病(若年性アルツハイマー病)」があります。働き盛りの世代を直撃するうえに、最初の症状がもの忘れではなく、言葉の出にくさ・見え方の異常・段取りの崩れとして現れることが多いため、うつ病や燃え尽き症候群と間違われて診断が遅れがちです。本記事では、日本の実態、APP・PSEN1・PSEN2という3つの原因遺伝子、ダウン症やAPOE ε4との関係、血液バイオマーカーによる診断、抗アミロイド抗体薬と使える支援制度までを、遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約20分
🧬 遺伝・診断・治療・支援制度
臨床遺伝専門医監修

Q. 早発アルツハイマー病とは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 65歳より前に発症するアルツハイマー病のことで、アルツハイマー病全体の約5〜6%を占めます。大きな違いは2つあります。ひとつは記憶以外の症状で始まる割合が高いこと。もうひとつは親から子へ受け継がれる形(遺伝性)が一定の割合で含まれることです。ただし早発だからといって全例が遺伝性というわけではなく、多くは家族歴のない孤発例です。

  • 日本の実態 → 若年性認知症は18〜64歳人口10万人あたり50.9人、推計3.57万人。その約半数がアルツハイマー型
  • 最初の症状 → もの忘れとは限らず、言葉・見え方・段取りの障害で始まることが多い
  • 3つの原因遺伝子 → APP・PSEN1・PSEN2。顕性(優性)遺伝で、子どもに伝わる確率は50%
  • ダウン症との関係 → 21番染色体が3本あるとAPP遺伝子も3コピーになり、若い年齢からアミロイドが蓄積する
  • APOE ε4の扱い → 原因遺伝子ではなく感受性遺伝子。ただし新薬の副作用リスクを左右する
  • 使える制度 → 40歳以上なら介護保険の特定疾病「初老期における認知症」として申請できる

🧬 早発アルツハイマー病の基本情報

項目 内容
疾患名 早発アルツハイマー病(和名:若年性アルツハイマー病)/英名 early-onset Alzheimer’s disease/略称 EOAD。遺伝性のものは早発型家族性アルツハイマー病(EOFAD/ADAD)と呼びます
原因遺伝子 APP(21q21)・PSEN1(14q24)・PSEN2(1q42)の3つ。APPは点変異のほか遺伝子重複(コピー数の増加)でも発症します
遺伝形式 常染色体顕性遺伝(従来の常染色体優性遺伝)。ただしEOAD全体では孤発例のほうが多数を占めます
OMIM表現型番号 AD1(APP)=104300/AD3(PSEN1)=607822/AD4(PSEN2)=606889/AD2(APOE ε4関連)=104310
頻度 アルツハイマー病全体の約5〜6%。日本の若年性認知症は推計3.57万人で、その52.6%がアルツハイマー型
主な症状 記憶障害のほか、語の出にくさ、見え方や空間認知の障害、段取り・判断力の低下、意欲の低下。抑うつや不安が先行することもあります
診断の決め手 症状の評価に加え、アミロイドPET・脳脊髄液検査・血液のリン酸化タウ(p-tau217)などのバイオマーカー。遺伝性が疑われる場合は遺伝学的検査
鑑別すべき疾患 前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、プリオン病、ハンチントン病、CADASILなどの遺伝性脳小血管病、うつ病・適応障害
再発率 APP・PSEN1・PSEN2に病的バリアントがある場合、お子さん一人ひとりに受け継がれる確率は50%。保因者という概念は当てはまりません
検査上の注意 APPの遺伝子重複は通常のシークエンスでは見落とされます。また症状のない方への発症前診断は、事前の遺伝カウンセリングを前提とした慎重な手続きが必要です

各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。

1. 早発アルツハイマー病とは ─ 「若い人のアルツハイマー病」の正確な定義

早発アルツハイマー病(EOAD)は、症状が65歳より前に始まったアルツハイマー病を指します。65歳という区切りに生物学的な根拠があるわけではなく、行政上の高齢者の定義に由来する慣習的な線引きです。それでもこの線引きが臨床で意味を持ち続けているのは、65歳を境に患者さんの置かれた社会的状況がまったく変わるからです。仕事があり、住宅ローンがあり、子どもの学費があり、親の介護もある。その真ん中で発症するのが早発アルツハイマー病です。

頻度としては、アルツハイマー病全体のおよそ5〜6%を占めるとされています[1]。少数派ではありますが「まれな別の病気」ではありません。脳のなかで起きていること、すなわちアミロイドβという蛋白質の蓄積と、リン酸化されたタウ蛋白質による神経原線維変化という2つの病理変化は、遅発性のアルツハイマー病と同じです。違うのは、その変化がどの部位から始まり、どの年齢で臨床症状として表面化するか、そして原因のなかに単一遺伝子性のものがどれだけ含まれるか、という点にあります。

歴史をたどると、そもそもアルツハイマー病の第1例が早発例でした。1907年にドイツの精神科医アロイス・アルツハイマーが報告したアウグステ・データーは、51歳で症状が始まった女性です。つまりこの病気は、もともと「若年で発症し急速に進行する認知症」として世に出たのです。その後の研究が高齢者の症例に集中した結果、若年発症例はむしろ例外扱いされるようになりました。近年になって、加齢に伴う血管障害や他の病理が混ざりにくい「純粋なアルツハイマー病のモデル」として、また現役世代を直撃する公衆衛生上の課題として、あらためて注目されています。

💡 用語解説:紛らわしい3つの言葉を整理します

若年性認知症は、18〜64歳で発症した認知症すべてを指す日本の行政・福祉用語です。原因はアルツハイマー病だけでなく、血管性認知症も前頭側頭型認知症も含みます。

早発アルツハイマー病(EOAD)は、そのうち原因がアルツハイマー病であるものを指す医学用語です。「若年性アルツハイマー病」はこれと同じ意味で使われます。

早発型家族性アルツハイマー病(EOFAD/ADAD)は、そのなかでも原因となる遺伝子の変化がはっきりしていて、親から子へ受け継がれるタイプを指します。EOADの一部であって、全部ではありません。

2. 日本の実態 ─ 3.57万人という数字が語ること

日本では、全国12地域の1万6,848か所の医療機関・介護サービス事業所・障害福祉サービス事業所などを対象とした大規模調査が行われました。その結果、若年性認知症の有病率は18〜64歳人口10万人あたり50.9人(95%信頼区間43.9〜57.9)、全国の有病者数は約3.57万人と推計されています[2]。原因疾患の内訳は、アルツハイマー型認知症が52.6%と最も多く、次いで血管性認知症17.1%、前頭側頭型認知症9.4%、頭部外傷による認知症4.2%、レビー小体型認知症およびパーキンソン病による認知症4.1%、アルコール関連障害による認知症2.8%と続きます[3]。単純計算すれば、日本で早発アルツハイマー病とともに生きている方は1万8千人前後ということになります。

この調査で注目していただきたいのは、有病率よりもむしろ生活実態のほうです。最初に気づいた症状として最も多かったのは「もの忘れ」66.6%ですが、それに次ぐのが「職場や家事などでのミス」38.8%でした。そして発症時点で約6割の方が就労していたにもかかわらず、そのうち約7割が調査時点ではすでに退職しています。約6割の世帯が収入の減少を実感しており、主な収入源は障害年金が約4割、生活保護が約1割という状況です。さらに約3割の方が介護保険の申請をしていません[3]。使える制度があるのに使われていない、という現実がここに表れています。

世界に目を向けると、40〜64歳における早発認知症(アルツハイマー病とその他の認知症を合わせたもの)の症例数は、1990年の367万例から2021年には775万例へと倍増しました。年齢標準化有病率も10万人あたり341.2人から363.5人へ増加しています[4]。ここで大切なのは、この数字はアルツハイマー病だけの数字ではないという点です。「若年性の認知症全体が倍増した」と読むのが正確で、「早発アルツハイマー病が倍増した」と読むと過大評価になります。なおこの研究では、上記の疾病負担のうち約106万障害調整生命年が喫煙・空腹時血糖値の上昇・高い肥満度という修正可能な要因に起因すると推計されており、生活習慣の管理には一定の意味があると考えられます[4]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「職場のミスが増えた」を、性格や努力の問題にしないでください】

日本の調査で「最初に気づいた症状」の第2位が職場や家事でのミスだった、という数字を私は重く受け止めています。もの忘れなら本人も家族も「歳のせいかな」で済ませずに済むかもしれません。けれども段取りが崩れる、確認漏れが増える、締め切りに間に合わなくなる──これらはたいてい、本人の意欲や能力の問題として処理されてしまいます。評価が下がり、自信を失い、うつ状態になってから精神科を受診する。そこでようやく別の可能性が浮上する、という道のりをたどる方が少なくありません。

ですから私は、40代・50代で「以前できていた仕事のやり方が急にできなくなった」というご相談を、単なる不調として片づけないようにしています。もちろん大半は認知症ではありません。過労やうつ、睡眠時無呼吸、甲状腺の異常のこともあります。それでも「認知症の可能性を一度きちんと否定しておく」という発想を持てるかどうかで、その後の何年かが変わることがあります。

3. もの忘れで始まるとは限らない ─ 非健忘性という落とし穴

早発アルツハイマー病が見逃されやすい最大の理由が、ここにあります。高齢発症のアルツハイマー病では、記憶をつかさどる海馬から病変が始まるため、最初の症状はほぼ必ず「新しいことを覚えられない」という記憶障害です。ところが早発例では、記憶以外の症状で始まる「非健忘性」の割合が22〜64%と高いことが知られています[5]。ある10年間の後ろ向き研究では、早発例125人のうち80人(64%)が非健忘性で発症し、その内訳は言語33人、視空間認知35人、行為(手先の動作)12人でした。同じ研究で遅発例は56人中7人(12.5%)にとどまっており、両者の差は歴然としています[6]

🧠 記憶以外で始まるタイプと、間違われやすい診断

タイプ 最初に出る症状 間違われやすい診断
言語型
(ロゴペニック型失語)
言葉が出てこない、名前が思い出せない、長い文を復唱できない、話が途切れる うつ病、他のタイプの失語症
視覚型
(後部皮質萎縮症)
見えているのに読めない、書けない、距離感がつかめない、服が着られない 白内障などの眼の病気(眼科を何度も受診して発見が遅れます)
段取り型
(行動・実行機能障害型)
計画が立てられない、同時に複数のことができない、意欲が落ちる、怒りっぽくなる 前頭側頭型認知症、初老期うつ病、燃え尽き症候群
記憶型
(典型的なタイプ)
新しいことが覚えられない、同じことを何度も聞く、置き場所を忘れる 加齢によるもの忘れ、疲労

なぜこうした違いが生まれるのでしょうか。脳画像で見ると、遅発例では内側側頭葉(海馬のあたり)から萎縮が始まるのに対し、早発例では頭頂葉・楔前部・側頭頭頂接合部といった脳の後方の領域から萎縮と代謝低下が始まります。タウ蛋白質の沈着もこれらの領域に集中しており、萎縮の分布とよく一致します。海馬が比較的保たれる一方で後方の連合野がやられるので、記憶ではなく「見る・話す・組み立てる」という機能から崩れるのです。

進行の速さと予後については、しばしば誤解されている点があります。42の研究(早発例5,544人・遅発例16,042人)を統合したシステマティックレビューによれば、早発例は認知機能の低下速度は速いものの、診断後の生存期間はむしろ遅発例より長いという結果でした[7]。若い分だけ全身の健康状態が良く、合併症が少ないことが背景にあると考えられます。「早発だから余命が短い」という言い方は正確ではありません。ただし、認知機能の低下が速く、しかも人生の中盤で始まるため、生活への影響が長期にわたることには変わりありません。

診断前の兆候についても、示唆に富む研究があります。かかりつけ医の診療記録を診断の5年前までさかのぼって調べた研究では、若年性認知症の方は診断の5年前から認知症状、4年前から抑うつや不安といった感情症状、3年前から社会的な問題、2年前から行動の変化、1年前から日常生活の障害という順で記録が増えていました。また、2つ以上のカテゴリーの症状が記録されている場合に感度85%・特異度77%で識別できたと報告されています[8]。「家族が心配している」「職場で問題が起きている」といった一見医学的でない記載こそが、早期の手がかりになりうるということです。

4. 3つの原因遺伝子 ─ APP・PSEN1・PSEN2

早発アルツハイマー病のうち、単一の遺伝子の変化が原因とはっきり分かっているものを、早発型家族性アルツハイマー病(EOFAD)あるいは常染色体顕性遺伝アルツハイマー病(ADAD)と呼びます。原因となる遺伝子は3つで、いずれもアミロイドβの産生に直接かかわっています。

🧬 3つの原因遺伝子の比較

遺伝子 場所・OMIM 特徴
PSEN1
(プレセニリン1)
14番染色体長腕(14q24)
AD3=OMIM 607822
最も頻度の高い原因遺伝子。アミロイドβを切り出すγセクレターゼの中心部品。20代後半〜50代という非常に若い発症も報告されます
APP
(アミロイド前駆体蛋白質)
21番染色体短腕(21q21)
AD1=OMIM 104300
アミロイドβの材料そのもの。点変異のほか遺伝子重複(コピー数の増加)でも発症し、脳の血管にアミロイドが溜まる病態を伴いやすいのが特徴です
PSEN2
(プレセニリン2)
1番染色体長腕(1q42)
AD4=OMIM 606889
3つのなかで最も頻度が低く、発症年齢の幅が広い。変異があっても発症しない家族例も報告されており、浸透率は必ずしも100%ではありません

OMIMという国際的な遺伝性疾患データベースでは、これらは別々の疾患番号で登録されています。APPによるものがAD1(104300)[9]、PSEN1によるものがAD3(607822)[10]、PSEN2によるものがAD4(606889)です[11]。3つの遺伝子のあいだで頻度には大きな差があります。タイ・マレーシア・フィリピン・韓国の4か国で臨床的に早発アルツハイマー病と診断された200人を調べた研究では、32人(16%)に病的バリアントが見つかり、その内訳はPSEN1が19人(59%)、APPが8人(25%)、PSEN2が5人(16%)でした[12]。この研究では、常染色体顕性遺伝のパターンを示す家系の約84%は3遺伝子では説明がつかなかったとも報告されており、まだ見つかっていない原因遺伝子が存在することを示しています。

💡 用語解説:常染色体顕性遺伝と「50%」の意味

私たちは同じ遺伝子を父由来と母由来で2本ずつ持っています。常染色体顕性遺伝(かつての常染色体優性遺伝)とは、2本のうち1本に変化があるだけで症状が出る伝わり方です。変化を持つ方のお子さんは、一人ひとりについて50%の確率でその変化を受け継ぎます。ここで大切なのは、この50%は「4人のうち2人」という意味ではなく、毎回コインを投げるように独立しているということです。4人全員が受け継ぐことも、全員が受け継がないこともあります。また、この形式では「症状は出ないが子どもに伝える保因者」という状態は原則としてありません。遺伝形式のページもあわせてご覧ください。

ただし「顕性遺伝=変異があれば必ず発症する」と単純化するのは正しくありません。PSEN2では、同じ変化を持っていながら発症していないきょうだいがいる家系が報告されています[11]。これは不完全浸透と呼ばれる現象で、遺伝カウンセリングの場面では必ず説明が必要になります。また、家族歴がはっきりしない早発例のなかにも遺伝性のものが含まれます。新生突然変異としてその方に初めて生じた場合、親が発症前に別の理由で亡くなっていた場合、家族の病気が正しく認識されていなかった場合など、理由はさまざまです。家族歴が陰性に見えることは、遺伝性を否定する根拠にはなりません。

5. ダウン症とAPP重複 ─ 「量」で決まるアルツハイマー病

ここは、当院がNIPTや染色体の診療を通じて日々向き合っているテーマと、早発アルツハイマー病が直接つながる部分です。APP遺伝子は21番染色体の上にあります。そしてダウン症候群(21トリソミー)の方は21番染色体を3本持っているため、APP遺伝子も生まれつき3コピー持っていることになります。

遺伝子が1.5倍あれば、そこから作られるアミロイドβの材料も生涯にわたって多くなります。実際、21番染色体上のAPPが3コピーになることは、ダウン症における早発認知症の発症に必要かつ十分であるとされ、ダウン症は「遺伝的に決定されたアルツハイマー病」のひとつと位置づけられるようになりました。アミロイド斑と神経原線維変化は40歳までにほぼ全例に認められ、認知症を発症する生涯リスクは90%を超えると報告されています[13]。より新しい総説では、約70%が54歳前後で認知症と診断され、生涯リスクは95%と整理されています[14]。バイオマーカーを用いた横断研究では、前駆期のアルツハイマー病と診断される年齢の中央値が50.2歳、アルツハイマー型認知症と診断される年齢の中央値が53.7歳であり、70代では症候性の有病率が90〜100%に達すると報告されています[15]。ダウン症の方の平均寿命が延びた現在、認知症は35歳以上の成人における主要な死因となっています[14]ダウン症の方に高齢者が少ない理由を扱ったコラムでも、この早期老化の問題に触れています。

💡 用語解説:遺伝子量(gene dosage)という考え方

遺伝子の異常というと「文字が書き換わる(変異)」ことを思い浮かべがちですが、文字は正常のまま、本のページ数が増えるだけでも病気は起こります。これが遺伝子量効果です。設計図が2部から3部に増えれば、製品も1.5倍作られます。アミロイドβのように「溜まると害になる」物質では、この1.5倍が数十年かけて決定的な差を生みます。染色体が1本多いとなぜ病気になるのか染色体の数的異常のページで、この仕組みを基礎から解説しています。

同じ理屈は、ダウン症でない方にも当てはまります。21番染色体全体ではなくAPP遺伝子の周辺だけが重複している方がいるのです。フランスの研究グループは、PSEN1・PSEN2・APPの塩基配列に異常が見つからなかった常染色体顕性遺伝の早発アルツハイマー病患者12人を、コピー数を測る手法で解析し、APP座位の重複を検出しました。この解析対象には、脳の血管にアミロイドが溜まる病態を合併した家系が含まれていました[9]。つまり、配列を読むだけの検査では、この原因は絶対に見つかりません。塩基配列は正常なのですから、いくら正確に読んでも異常は出ないのです。

APPの点変異や重複による早発アルツハイマー病では、しばしば脳アミロイドアンギオパチー(CAA)を合併します。これはアミロイドβが脳の実質ではなく血管の壁に沈着する状態で、脳葉に微小な出血を起こしたり、時に大きな脳出血の原因になったりします。APPの変化に伴うものはAPP関連脳アミロイドアンギオパチーとして独立した疾患単位で扱われます。認知症の症状より先に脳出血で発症することもあるため、若い方の原因不明の脳葉出血を診たときには、この可能性を頭の片隅に置いておく必要があります。なお、21番染色体上にはアルツハイマー病との関連が指摘されている他の遺伝子もあり、DYRK1A遺伝子はその代表です。21番染色体全体の異常については21番染色体異常のすべてにまとめています。

6. APOE ε4をどう位置づけるか ─ 原因遺伝子ではない、けれど無視もできない

APOE遺伝子には ε2・ε3・ε4 という3つの型があり、私たちは2本の組み合わせを持っています。このうち ε4 を持つ方はアルツハイマー病を発症しやすいことが古くから知られてきました。ただしAPP・PSEN1・PSEN2とは性格がまったく違います。APOEは原因遺伝子ではなく感受性遺伝子、つまり「なりやすさを左右する体質」であって、持っていても発症しない方は大勢いますし、持っていなくても発症する方はいます。

ところが2024年、この位置づけを見直す研究が発表されました。1万3千人規模の臨床研究データと3,200人以上の剖検脳の病理データを解析した結果、ε4を2つ持つ「ε4ホモ接合」の方はアルツハイマー病の脳病変をほぼ全員が発症することが示されました。研究チームは、ε4ホモ接合が「ほぼ完全な浸透率」「発症年齢の予測可能性」「バイオマーカーの変化が予測可能な順序で起こること」という遺伝性アルツハイマー病の3条件を満たすと主張しています[16]。これまで遺伝的に決定されるアルツハイマー病といえば、常染色体顕性遺伝のものとダウン症関連のものだけでしたが、そこに第3の形として加わる可能性が出てきたわけです。主に欧州系の集団を対象とした研究で、55歳という早い時期からアルツハイマー病の基礎的な変化が予測どおりに現れ始めたと報告されています[17]

この解釈については専門家のあいだでも議論があり、「浸透率が高いこと」と「単一遺伝子疾患であること」は同じではない、という慎重な意見もあります。現時点では確定した結論ではありません。ただ少なくとも、ε4を1つ持つ場合と2つ持つ場合をひとまとめに「リスクが高い」と扱うのは粗すぎるという点では見解が一致しつつあります。

APOE以外にも、発症のしやすさに影響する要因は多数あります。英国バイオバンクに登録された65歳未満の35万6,052人を追跡した研究では、若年性認知症のリスクを高める要因として、社会経済的状況、難聴、脳卒中、心疾患、糖尿病、うつ病、ビタミンD欠乏、社会的孤立、そしてAPOE ε4を2つ持つことなどが同定されました[18]。この研究では飲酒についても解析されており、アルコール使用障害だけでなく「まったく飲まないこと」もリスク側に分類されています。ただしこれは観察研究であり、健康上の理由で飲酒をやめた方が非飲酒群に含まれる交絡の影響が強く疑われます。認知症予防のために飲酒を始める理由にはなりませんのでご注意ください。なお、こうした多数の遺伝的要因を数値化する試みは多遺伝子リスクスコア(PRS)と呼ばれますが、臨床応用にはまだ課題が多く残されています。

7. 診断はどう変わったか ─ バイオマーカーによる生物学的診断

2024年、アルツハイマー病協会のワークグループが診断と病期分類の基準を改訂しました[19]。ここでの最大の変更は、アルツハイマー病を症状の組み合わせではなく生物学的な変化そのもので定義したことです。がんや心疾患、糖尿病がそうであるように、症状ではなく病態で病気を定義するという発想です。

この基準ではバイオマーカーを段階に分けて整理しています。早期に異常になる「コア1」には、アミロイドPET、脳脊髄液のアミロイドβ42/40比やリン酸化タウの比、そして精度の高い血液検査(とくにリン酸化タウ217)が含まれます。コア1が異常であれば、それだけでアルツハイマー病の診断を確立できるとされました。より遅れて異常になる「コア2」(タウPETや一部の可溶性タウ断片)は、予後の情報を提供します[19]。血液で診断の見当がつけられるようになったことは、専門施設が限られる日本では特に大きな意味を持ちます。

⚠️ よくある誤解:「症状がなくても検査で分かる」わけではありません

生物学的に定義されたということは、症状が出る前から病気が始まっていると認めたということです。しかしそれは「症状のない人に検査を勧めてよい」という意味ではありません。アルツハイマー病協会自身が、バイオマーカーの臨床使用は症状のある方の評価を想定したものであり、認知機能に問題のない方の脳内変化を診療目的で評価することは、研究の枠組みの外では支持しないと明記しています[20]。予防法が確立していない段階で無症状の方に結果だけを伝えても、不安が増えるだけになりかねないからです。

早発例では、他の病理が混ざっていないかの見極めも重要になります。近年、脳脊髄液から異常なα-シヌクレインを増幅して検出するシード増幅法という技術が登場し、レビー小体病理の合併を生きているうちに見つけられるようになりました。ただし遺伝性の早発アルツハイマー病では、この検査の感度は高くありません。ADADの方の脳脊髄液を調べた研究では、無症状の変異保有者は0%、症状のある方でも27人中3人(11%)しか陽性になりませんでした。剖検では12人中10人にレビー小体病理が確認されており、その多くが扁桃体や嗅覚に関わる領域に限局していたためと考えられています[21]。検査が陰性でも合併を否定できない、という限界を理解して使う必要があります。

鑑別診断も、高齢発症の場合とは顔ぶれが変わります。段取りや性格の変化で始まった場合は前頭側頭型認知症との区別が難しく、原因遺伝子としてGRNや、C9orf72のリピート伸長(FTDALS1)が知られています。幻視やパーキンソン症状を伴う場合はパーキンソン病関連やレビー小体型認知症(GBA1など)、進行が数か月単位と非常に速い場合はプリオン病、不随意運動や精神症状を伴う場合はハンチントン病、繰り返す脳梗塞や片頭痛の既往があればCADASIL(原因遺伝子はNOTCH3)が候補に挙がります。筋力低下を伴う場合は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の遺伝子検査も検討されます。若年発症であるほど、この鑑別の幅は広がります。

8. 治療の現在地 ─ 抗アミロイド抗体薬とARIA、そしてAPOE

脳に溜まったアミロイドβを取り除く抗体医薬が、日本を含む各国で承認されました。レカネマブの第3相試験(Clarity AD)では、認知機能と生活機能を合わせて評価する尺度(CDR-SB)の悪化を18か月で27%抑制したと報告されています(実薬群1.21、プラセボ群1.66、差−0.45)[22]。ドナネマブの第3相試験(TRAILBLAZER-ALZ 2)では、統合的な評価尺度(iADRS)で全体集団22.3%、タウの蓄積が低〜中等度の集団で35.1%の進行抑制が示されました[23]評価尺度も対象集団も異なるため、数字を並べて優劣を比べることはできません。いずれも病気を止めるものではなく、進行の速度をゆるやかにする薬です。

これらの薬で最も注意すべき副作用がARIA(アミロイド関連画像異常)です。脳のむくみ(ARIA-E)や微小出血(ARIA-H)としてMRIに現れます。ここでAPOEの話が治療に直結してきます。レケンビの電子添文には、ApoE ε4の遺伝子型別のARIA発現率が明記されており、ARIA-Eは非保有者5.4%、ヘテロ接合10.9%に対しホモ接合では32.6%、ARIA-Hは非保有者11.9%、ヘテロ接合14.0%に対しホモ接合では39.0%と大きな差があります。またアルツハイマー病患者におけるApoE ε4ホモ接合の割合は約15%と記載されています[24]

💡 用語解説:なぜAPOE ε4でARIAが増えるのか

鍵になるのが脳アミロイドアンギオパチー(CAA)です。APOE ε4を持つ方は、脳の血管の壁にもアミロイドが溜まりやすいことが知られています。そこへ抗体薬を投与すると、血管壁のアミロイドが動き出し、血管がもろくなって水分が漏れたり小さな出血が起きたりします。ARIAの正体は、薬によって誘発されたCAA様の変化だと理解すると、なぜMRIでの定期的な確認が必須なのか、なぜ抗凝固薬を使っている方で慎重な判断が求められるのかが腑に落ちます。

こうした背景から、日本でも2025年3月31日に「認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン」初版が発行されました。日本認知症学会・日本老年精神医学会・日本神経学会・日本精神神経学会・日本老年医学会・日本神経治療学会・日本遺伝カウンセリング学会の監修により作成され、日本人類遺伝学会と日本認定遺伝カウンセラー協会が専門的意見を提供しています[25]。かつては研究目的の色合いが強かったAPOE検査が、治療の安全性を判断するための検査という新しい役割を持ち始めたことが、この動きの背景にあります。

実臨床での成績も報告されつつあります。2026年7月のアルツハイマー病協会国際会議(AAIC 2026)で発表された後ろ向き研究(LEADER試験)では、米国13施設の432人が登録され、病期を評価できた427人のうち82.5%が病期を維持(75.9%)または改善(6.6%)していました。平均投与期間は520日、平均投与回数は26回で、結果は性別・人種・民族・APOE遺伝子型を通じて一貫していたとされています[26]。この研究で興味深いのは実臨床でのARIAの頻度が治験より低かったことです。ARIA-Eは非保有者5.3%、ε4ヘテロ接合6.1%、ε4ホモ接合10.3%で、ε4ホモ接合でも重度のARIAは報告されませんでした。また抗血栓薬(抗凝固薬または抗血小板薬)を使用していた106人(24.5%)では、使用していない方とARIAの発現率に意味のある差は認められなかったとされています[26]。ただし本研究の限界としてEisai社自身が対照群がないことを明記しており、この数値をそのまま薬の効果と読むことはできません。同じ発表のなかで、皮下注射用の製剤が米国では2025年8月に維持療法として、2026年7月に導入療法として承認された一方、日本では2025年11月に申請された段階であることも示されています[26]

開発中の薬にも動きがあります。血液脳関門を通り抜けやすく設計されたトロンチネマブは、第Ib/IIa相試験において、3.6mg/kg群で28週間後に54人中49人(91%)がアミロイドPETで陰性域まで低下し、72%はさらに低い水準まで到達しました。ARIA-Eの頻度は5%未満と報告されています[27]これは第3相試験の結果ではなく、第3相のTRONTIER 1/2は現在進行中で結果は未発表です。開発全体を見渡すと、2026年1月1日時点で192の臨床試験において158の薬剤が評価されており、10年前と比べてタウを標的とする薬と炎症・免疫を標的とする薬がそれぞれ約20%まで増え、アミロイドを標的とする薬の割合は相対的に下がっています[28]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「遺伝子を調べる目的」が、この数年で変わりました】

私が臨床遺伝を学び始めた頃、アルツハイマー病でAPOEを調べることには消極的な空気がありました。結果を知っても打つ手がなく、保険にも就職にも影響しうるからです。「調べない理由」のほうがはっきりしていた時代でした。それがいま、抗アミロイド抗体薬という具体的な選択肢が現れたことで、APOEの結果は「治療の副作用リスクをどう見積もるか」という実務的な判断材料になりました。7つの学会の監修でガイドラインが作られたこと自体が、この変化の大きさを物語っています。

ただし、目的が変わったからといって配慮が要らなくなったわけではありません。ε4ホモ接合と判明することは、ARIAのリスクを知ると同時に、ご自身の将来の発症リスクを知ることでもあります。治療の話として始まった検査が、いつのまにか発症前診断の意味を帯びる。この二重性を最初に説明しておくことが、遺伝を扱う医師の責任だと考えています。

9. 遺伝学的検査と遺伝カウンセリングの実際

早発アルツハイマー病で遺伝学的検査を考える場面は、大きく2つに分かれます。ひとつはすでに症状のある方の診断を確定させるため。もうひとつは症状のないご家族が、自分に変化が受け継がれているかを知るためです。この2つは、必要な手続きも心理的な重みもまったく違います。

症状のある方の検査では、原因となりうる複数の遺伝子をまとめて調べる方法が現実的です。当院の早発性家族性アルツハイマー病NGS遺伝子検査は、まさにこの目的に対応しています。鑑別まで含めて広く調べたい場合には、アルツハイマー・認知症NGS遺伝子検査パネルがあります。こちらはAPOE・APP・C9orf72・CSF1R・DNMT1・EIF4G1・GBA・GRN・MAPT・PRNP・PSEN1・PSEN2・SNCA・SNCB・TREM2・TYROBPの16遺伝子を対象とし、C9orf72のリピート伸長についてはリピートプライムドPCR法で解析します。パーキンソン病やレビー小体型認知症の要素が強い場合はパーキンソン病・アルツハイマー病・認知症遺伝子パネル検査という選択肢もあります。家系内ですでに変化が特定されている場合は、その1か所だけを確認する単一遺伝子検査が適します。パネルで結論が出ない場合には全エクソーム検査(WES)という次の一手もあり、WESとパネル検査の違いのページで判断材料を整理しています。

⚠️ 検査を組むときの落とし穴:配列だけでは足りません

パネル検査もWESも、基本的にはDNAの文字列を読む検査です。前の章で述べたAPP遺伝子の重複のように、文字は正常でコピー数だけが増えているタイプの変化は、この方法では検出できないことがあります。家族歴が強く疑わしいのに配列に異常がなかった場合、コピー数を評価する別の検査を追加する必要があるかどうかを検討します。「陰性でした」で終わらせない設計が重要です。

症状のないご家族が受ける検査は予測的検査(発症前診断)と呼ばれ、まったく別の枠組みで行われます。ハンチントン病で確立した手順が国際的な標準になっており、複数回にわたる事前の面談、結果を受け取る準備、受け取ったあとの支援体制を整えたうえで実施します。「知る権利」と同じ重みで「あえて知らずにいる権利」が尊重されることも、この分野の大原則です。検査を受けないという選択は、決断を先送りしているのではなく、それ自体が正当な選択です。

日本では、この発症前診断へのアクセスが十分とはいえない状況が続いています。当院にも「発症した本人でなければ検査はできない」と説明されて行き場をなくした方が来られます。同様の経験はハンチントン病の発症前診断を断られた方のコラム父親を若年性パーキンソン病で亡くされた方の遺伝カウンセリングにも記録しています。なお、成人になってから発症する病気について、症状のないお子さんに検査を行うことは原則として推奨されません。判断できる年齢になったご本人が自分で決めるべきことだからです。この考え方は未成年者の遺伝学的検査に関するガイドラインにまとめています。

お子さんを持つことを考えている方からは、生殖医療に関するご相談もあります。歴史的には、APP遺伝子のV717Lという変化を持つ30歳の無症状の女性に対して着床前診断が行われ、2周期で得られた15個の胚のうち変化を持たない4個が移植候補となり、絨毛検査と新生児の血液検査で変化がないことが確認された健児の出生に至った症例が、遺伝性の早発アルツハイマー病に対する着床前診断で妊娠・出産に至った最初の報告とされています[29]。成人発症の神経変性疾患に対する着床前遺伝学的検査(PGT-M)では、遺伝学的な前提(確定した遺伝子診断があるか、結果が出る時期はいつか)、実務的な前提(検査と遺伝サービスへのアクセス)、技術的な前提(成功率に影響する因子)、そして心理社会的・倫理的な論点(無症状のご家族への発症前診断、家族内の力関係や価値観)を、あらかじめ整理しておく必要があるとされています[30]。技術的な準備としてはご本人だけでなくご家族の検体が必要になる理由も知っておいていただきたい点です。なお日本では、PGT-Mの実施は日本産科婦人科学会による症例ごとの審査を経る仕組みになっており、成人発症の疾患については特に慎重な議論が続いています。

研究への参加という道もあります。常染色体顕性遺伝アルツハイマー病を対象とした国際的な治験プラットフォームでは、抗タウ抗体エタラネツグ(E2814)と抗アミロイド抗体レカネマブを組み合わせる第II/III相試験が進行中で、症状のある方97人と症状のない変異保有者100人が登録されています[31]。発症する年齢がある程度予測できるという遺伝性疾患の特性が、予防的治療の検証には適しているという考え方に基づいた設計です。

10. 使える制度と、よくある誤解

診断がついたあと、最初に確認していただきたいのが介護保険です。「介護保険は65歳から」と思われがちですが、40〜64歳の方(第2号被保険者)でも、介護保険法施行令に列記された特定疾病に該当すれば申請できます。この特定疾病のなかに「初老期における認知症」が含まれています[32]。前の章で触れたとおり、日本の調査では約3割の方が申請していません。要介護認定を受ければ、訪問介護や通所介護などのサービスが利用できます。

このほか、各都道府県・指定都市には若年性認知症支援コーディネーターが配置されており、医療・介護・就労・生活の各制度をまたいだ相談に応じています。収入面では障害年金の対象になりうること、住宅ローンについては契約内容によって高度障害と認定されれば返済が免除される場合があることも、早い段階で確認しておく価値があります。就労の継続については、産業医や職場との調整で配置転換や業務の切り分けが可能なこともあります。日本の教育・就労・支援制度の現実を扱ったコラムも、制度の全体像をつかむ参考になります。

❓ よくある3つの誤解

よく聞く言葉 実際のところ
若くして発症したら、必ず遺伝性だ 違います。早発例の多くは家族歴のない孤発例です。アジアの4か国で臨床的に早発アルツハイマー病と診断された200人のうち、3遺伝子に病的バリアントが見つかったのは16%でした[12]
早発だから進行が速く、余命も短い 半分だけ正しい表現です。認知機能の低下は速い傾向がありますが、診断後の生存期間はむしろ遅発例より長いとするメタ解析があります[7]
APOE ε4があれば必ず認知症になる なりません。APOEは体質を左右する感受性遺伝子で、原因遺伝子ではありません。ただしε4を2つ持つ場合の位置づけについては[16]のような見直しの議論が進んでいます

最後に、ご家族への影響について触れておきます。早発アルツハイマー病では、患者さんご本人が初期には自分の変化をよく自覚しています。これは高齢発症の場合との大きな違いです。自覚があるからこそ、できなくなっていく自分をリアルタイムで見つめることになり、抑うつや強い不安を伴いやすくなります。ご家族の側も、配偶者が突然一家の経済を担うことになったり、お子さんが年齢に見合わない役割を負ったりすることがあります。医学的な情報だけでなく、こうした生活の再設計を一緒に考えることが、この病気の診療では欠かせません。

🏥 早発アルツハイマー病の遺伝相談

若年での発症、ご家族に同じ病気の方がいる、
発症前診断を考えているといったご相談は
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックへどうぞ。

よくある質問(FAQ)

Q1. 早発アルツハイマー病と若年性認知症は同じものですか?

同じではありません。若年性認知症は18〜64歳で発症した認知症すべてを指す言葉で、原因には血管性認知症や前頭側頭型認知症も含まれます。早発アルツハイマー病はそのうち原因がアルツハイマー病であるものを指します。日本の調査では、若年性認知症の原因の52.6%がアルツハイマー型でした。若年性アルツハイマー病という言い方は、早発アルツハイマー病と同じ意味で使われています。

Q2. 40代で発症したら、必ず遺伝性ということですか?

そうとは限りません。若い発症であるほど単一遺伝子性のものが含まれる割合は上がりますが、それでも多数を占めるのは家族歴のない孤発例です。アジア4か国で臨床的に早発アルツハイマー病と診断された200人を調べた研究では、APP・PSEN1・PSEN2に病的バリアントが見つかったのは32人(16%)でした。ただし家族歴がはっきりしない理由には、親が発症前に亡くなっていた、家族の病気が正しく認識されていなかった、ご本人に初めて生じた新生突然変異だった、などの可能性もあります。

Q3. 親がPSEN1の変異を持っています。私に受け継がれる確率はどれくらいですか?

常染色体顕性遺伝ですので、お子さん一人ひとりについて50%です。大切なのは、この50%が「きょうだい4人のうち2人」という意味ではないことです。毎回コインを投げるように独立していますので、全員が受け継ぐことも、誰も受け継がないこともあります。またこの遺伝形式では、症状が出ないまま子どもに伝える保因者という状態は原則としてありません。ご自身が受け継いでいるかどうかを知りたい場合は、発症前診断という枠組みで、事前の遺伝カウンセリングを経て進めることになります。

Q4. 遺伝子検査で異常なしと言われました。これで遺伝性は否定できますか?

完全には否定できません。理由は2つあります。ひとつは、常染色体顕性遺伝のパターンを示す家系でも、既知の3遺伝子では説明がつかない場合が相当数あることです。まだ見つかっていない原因遺伝子が存在すると考えられています。もうひとつは検査の方法による限界で、APP遺伝子の重複のように、塩基配列は正常でコピー数だけが増えている変化は、配列を読む検査では検出できないことがあります。家族歴が強く疑わしい場合には、コピー数を評価する検査の追加を検討します。

Q5. ダウン症の家族がいます。認知症のことをいつから考えればよいですか?

21番染色体が3本あるとAPP遺伝子も3コピーになるため、アミロイドβが生涯にわたって多く作られます。アミロイド斑と神経原線維変化は40歳までにほぼ全員に認められ、生涯の発症リスクは90%を超えます。バイオマーカーを用いた研究では、前駆期のアルツハイマー病と診断される年齢の中央値が50.2歳、認知症と診断される年齢の中央値が53.7歳と報告されています。ただし個人差は大きく、全員が同じ経過をたどるわけではありません。40代に入る頃から、以前できていたことの変化を継続的に記録しておくと、変化に気づきやすくなります。

Q6. 新しい薬を使う前にAPOEを調べる必要があるのはなぜですか?

抗アミロイド抗体薬の主な副作用であるARIA(アミロイド関連画像異常)の起こりやすさが、APOEの遺伝子型で大きく変わるからです。レケンビの電子添文には、脳のむくみ(ARIA-E)が非保有者5.4%、ε4ヘテロ接合10.9%に対し、ε4ホモ接合では32.6%と記載されています。背景には、ε4を持つ方は脳の血管壁にもアミロイドが溜まりやすいという事情があります。2025年3月には7学会の監修による「認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン」初版も発行されました。

Q7. 症状のない子どもに、先に検査を受けさせておくことはできますか?

成人になってから発症する病気について、症状のないお子さんに遺伝学的検査を行うことは原則として推奨されていません。結果を知ることが小児期の医学的管理を変えるわけではなく、自分の遺伝情報を知るかどうかは、判断できる年齢になったご本人が自分で決めるべきことだと考えられているためです。ご家族としては早く知って備えたいというお気持ちがあると思いますが、その気持ちも含めて遺伝カウンセリングの場で整理していくことをおすすめします。

Q8. 診断がついたあと、まず何をすればよいですか?

40歳以上であれば、まず介護保険の申請をご検討ください。「初老期における認知症」は介護保険法施行令に列記された特定疾病に含まれており、65歳未満でも要介護認定を受ければサービスを利用できます。日本の調査では約3割の方が申請していませんでした。あわせて、各都道府県・指定都市に配置されている若年性認知症支援コーディネーターにご相談ください。障害年金の対象になりうること、住宅ローンが契約内容によって高度障害と認定されれば返済免除となる場合があることも、早い段階で確認しておく価値があります。

参考文献

  • [1] Early-onset Alzheimer Disease and Its Variants. Continuum (Minneap Minn). 2019. [PubMed 30707186]
  • [2] Prevalence and subtype distribution of early-onset dementia in Japan. Psychogeriatrics. 2020. [PubMed 32815229]
  • [3] <プレスリリース>「わが国の若年性認知症の有病率と有病者数」. 2020. [東京都健康長寿医療センター研究所]
  • [4] Global, Regional, and National Burden of Early-Onset Alzheimer’s Disease and Other Dementias in Young Adults Aged 40–64 Years, 1990–2021: A Population-Based Study. European Journal of Neurology. 2025. [PMC11921012]
  • [5] Early-onset Alzheimer’s disease: nonamnestic subtypes and type 2 AD. Arch Med Res. 2012. [PubMed 23178565]
  • [6] Nonamnestic Presentations of Early-Onset Alzheimer’s Disease. [PMC3625669]
  • [7] Clinical characteristics of early-onset versus late-onset Alzheimer’s disease: a systematic review and meta-analysis. International Psychogeriatrics. [International Psychogeriatrics]
  • [8] Pre-Diagnostic Symptoms of Young-Onset Dementia in the General Practice up to Five Years Before Diagnosis. [PMC9277692]
  • [9] Entry – #104300 – ALZHEIMER DISEASE, FAMILIAL, 1; AD1. [OMIM 104300]
  • [10] Entry – #607822 – ALZHEIMER DISEASE 3; AD3. [OMIM 607822]
  • [11] Entry – #606889 – ALZHEIMER DISEASE 4; AD4. [OMIM 606889]
  • [12] APP, PSEN1, and PSEN2 Mutations in Asian Patients with Early-Onset Alzheimer Disease. [PMC6801447]
  • [13] Alzheimer’s disease associated with Down syndrome: a genetic form of dementia. Lancet Neurol. 2021. [The Lancet Neurology]
  • [14] Down syndrome and Alzheimer’s disease: insights into biomarkers, clinical symptoms, and pathology. Lancet Neurol. 2025. [The Lancet Neurology]
  • [15] Clinical and biomarker changes of Alzheimer’s disease in adults with Down syndrome: a cross-sectional study. Lancet. 2020. [The Lancet]
  • [16] APOE4 homozygosity represents a distinct genetic form of Alzheimer’s disease. Nature Medicine. 2024. [Nature Medicine]
  • [17] Study defines major genetic form of Alzheimer’s disease. [NIH]
  • [18] Risk Factors for Young-Onset Dementia in the UK Biobank. JAMA Neurology. 2024. [PMC10751655]
  • [19] Revised criteria for diagnosis and staging of Alzheimer’s disease: Alzheimer’s Association Workgroup. Alzheimer’s & Dementia. 2024. [Alzheimer’s & Dementia]
  • [20] Criteria for Diagnosis and Staging of Alzheimer’s Disease. [Alzheimer’s Association]
  • [21] α-Synuclein seed amplification assay detects Lewy body co-pathology in autosomal dominant Alzheimer’s disease late in the disease course and dependent on Lewy pathology burden. [PMC11180868]
  • [22] New Clinical Data Demonstrates Three Years of Continuous Treatment with LEQEMBI Continues to Significantly Benefit Early Alzheimer’s Disease Patients Presented at AAIC 2024. 2024. [Biogen]
  • [23] Donanemab Demonstrates Slowing of Alzheimer Disease Progression in Phase 3 TRAILBLAZER-ALZ 2 Trial. [NeurologyLive]
  • [24] レケンビ点滴静注200mg/500mg 電子添文. 2023. [JAPIC 00071040]
  • [25] 認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン 初版. 2025. [日本認知症学会]
  • [26] LEQEMBI Real-World LEADER Study Presented at AAIC 2026 Finds Over 75% of Early Alzheimer’s Patients Enrolled in the Study Remained Stable and Nearly 7% Improved Over an Average of 17 Months of Treatment. 2026. [Eisai]
  • [27] Roche presents new insights in Alzheimer’s disease research across its diagnostics and pharmaceutical portfolios at AAIC. 2025. [Roche]
  • [28] Alzheimer’s disease drug development pipeline: 2026. Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions. 2026. [Alzheimer’s & Dementia: TRCI]
  • [29] Preimplantation diagnosis for early-onset Alzheimer disease caused by V717L mutation. [PubMed 11866650]
  • [30] Preimplantation Genetic Testing for Adult-Onset Neurodegenerative Disease. Neurology. [Neurology]
  • [31] Lecanemab in DIAD: 6-Month Amyloid PET Results from the DIAN-TU-001 Trial. Alzheimer’s & Dementia. 2025. [PMC12740335]
  • [32] 特定疾病の選定基準の考え方. [厚生労働省]

関連記事

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

お電話での受付可能
診療時間
午前 10:00~14:00
(最終受付13:30)
午後 16:00~20:00
(最終受付19:30)
休診 火曜・水曜

休診日・不定休について

クレジットカードのご利用について

publicブログバナー
 
medicalブログバナー
 
NIPTトップページへ遷移