目次
- 1 1. 脳アミロイドアンギオパチーとは ─ 血管の「内側」ではなく「壁」の病気です
- 2 2. なぜ血管の壁にたまるのか ─ 犯人は「掃除の遅れ」です
- 3 3. APOE遺伝子の二面性 ─ ε4は「たまる」、ε2は「破れる」
- 4 4. どんなときにCAAを疑うのか ─ 脳葉出血・くり返す短い発作・認知機能の低下
- 5 5. 診断の進め方 ─ MRIで「たまり方」を読むボストン基準2.0
- 6 6. ステロイドで改善するCAAがあります ─ CAA関連炎症(CAA-ri)
- 7 7. 認知症の新薬とCAA ─ ARIAは「くすりで起きたCAA-ri」だと考えられています
- 8 8. 遺伝するCAAがあります ─ APP・PSEN、そしてAβ以外のアミロイド
- 9 9. 医原性CAA(iCAA)─ 数十年前の手術が引き金になることがあります
- 10 10. 鑑別すべき遺伝性の脳小血管病 ─ CADASIL・COL4A1関連との違い
- 11 11. いま何ができるのか ─ 血圧の管理、抗血栓薬の判断、そして新しい選択肢
- 12 12. よくある誤解
- 13 よくある質問(FAQ)
- 14 参考文献
- 15 関連記事
📍 クイックナビゲーション
脳アミロイドアンギオパチー(CAA)は、脳の表面近くを走る細い血管の「壁」にアミロイドβというタンパク質がたまっていく病気です。名前はあまり知られていませんが、高齢の方に起こる脳出血の主要な原因のひとつであり、認知機能の低下にも深く関わっています。そして近年は、アルツハイマー病の新しい抗体薬を安全に使えるかどうかを左右する要素としても急速に注目されるようになりました。つまりCAAを理解することは、脳出血と認知症という二つの大きなテーマを同時に理解することにつながります。本記事では、CAAが起こる仕組みから、2022年に大きく改訂された診断基準、ステロイドで改善するタイプ、そして遺伝するタイプと遺伝子検査の考え方まで、遺伝専門医がやさしく解説します。
Q. 脳アミロイドアンギオパチー(CAA)とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. 脳の皮質と髄膜を走る細い血管の壁に、アミロイドβ(Aβ)というタンパク質が少しずつたまり、血管がもろくなっていく病気です。加齢とともに増え、脳の表面寄りに起こる脳出血(脳葉出血)と、じわじわ進む認知機能の低下を引き起こします。ほとんどは遺伝と関係なく起こりますが、APP遺伝子などの変化による遺伝するタイプもあります。診断はMRIで行い、ステロイドが効く炎症性のタイプもあります。
- ➤たまる場所 → アミロイドβは血管の「壁」にたまります。血管の内側を詰まらせる病気ではありません
- ➤APOE遺伝子の二面性 → ε4は「たまりやすさ」を、ε2は「破れやすさ」を高めます。方向がまるで違います
- ➤診断 → 2022年のボストン基準2.0で、出血だけでなく白質の所見も診断に使えるようになりました
- ➤治せるタイプ → CAA関連炎症(CAA-ri)はステロイドで改善が報告されており、見逃さないことが重要です
- ➤抗体薬との関係 → ARIAという副作用の背景にCAAがあり、投与前のMRIとAPOE遺伝型の確認が前提になっています
- ➤遺伝するCAA → APP・PSEN1・PSEN2による遺伝性のCAAがあり、Aβ以外のアミロイドによるまれな型も存在します
1. 脳アミロイドアンギオパチーとは ─ 血管の「内側」ではなく「壁」の病気です
CAAは、脳の皮質と髄膜を走る細い血管の壁にアミロイドβがたまり、血管がもろくなっていく脳小血管病です。動脈硬化のように血管の内側が細くなる病気ではなく、壁そのものの材質が変わってしまう病気だと考えると理解しやすくなります。
🔍 関連記事:アミロイドβ(Aβ)とは/タンパク質のフォールディング
CAAという言葉は、Cerebral(脳の)Amyloid(アミロイド)Angiopathy(血管の病気)の頭文字です。診断基準の国際的な標準である「ボストン基準」の改訂版では、CAAは加齢に関連した小血管病であり、脳の血管壁にアミロイドβが進行性に沈着することを病理学的な特徴とすると定義されています[1]。沈着が起きるのは主に大脳皮質と、その表面を覆う髄膜(くも膜・軟膜)を走る細動脈と毛細血管で、まれに細静脈にも及びます。反対に、基底核や視床など脳の深いところを走る血管には、原則としてアミロイドβはたまりません。この「たまる場所の偏り」が、後で述べる診断の鍵になります。
アミロイドβは血管の壁の中膜と外膜、つまり筋肉の層とその外側に置き換わるように沈着します。血管の壁を構成していた平滑筋細胞は、アミロイドβに押しのけられて変性し、脱落していきます。ここが重要な点で、CAAの血管は「詰まる」のではなく「弾力を失って裂けやすくなる」のです。血圧が急に上がったとき、健康な血管なら弾力で受け止められる負荷が、CAAの血管では受け止められません。国際CAA協会と世界脳卒中機構が2025年に共同で発表した診療声明でも、CAAは自発性の脳葉出血の主要な原因であり、一過性の神経症状や円蓋部くも膜下出血としても現れると整理されています[2]。
💡 用語解説:脳葉出血と深部出血のちがい
脳出血は、起きた場所によって大きく2つに分けられます。脳葉出血は大脳の表面寄り(皮質・皮質下白質)に起こる出血で、CAAが原因になりやすいタイプです。一方深部出血は視床・被殻・基底核といった脳の中心部に起こり、こちらは長年の高血圧による細い動脈の変化(動脈硬化性の小血管病)が主な原因になります。CTやMRIで出血の場所を見るだけで、原因の見当がかなりつくというわけです。なお小脳の出血は、脳葉とも深部とも分類されない扱いになっています。
ご本人やご家族にとって、この「壁の病気」という理解には実用的な意味があります。血管が詰まる病気であれば「血液をサラサラにする薬」が守りになりますが、壁がもろくなる病気ではむしろ逆に働くことがあります。CAAという診断がつくと、脳梗塞や心臓の病気の治療方針まで見直しの対象になるのは、この一点に理由があります。ですからCAAは「聞いたこともない病名」で終わらせず、これから受ける治療の前提が変わる情報として受け取っていただきたい病気です。
2. なぜ血管の壁にたまるのか ─ 犯人は「掃除の遅れ」です
アミロイドβが増えすぎるからではなく、脳から外へ運び出す仕組みが追いつかなくなることが、CAAの中心的な原因と考えられています。運び出す通路そのものが血管の壁なので、渋滞した荷物がその場に積み上がってしまうのです。
アミロイドβは、APP遺伝子がつくるアミロイド前駆体タンパク質が酵素で切り出されてできる小さなペプチドです。健康な脳でも毎日つくられていて、それ自体は異常ではありません。問題は収支のバランスで、つくられる量と運び出される量が釣り合わなくなったときにたまり始めます。運び出しの経路のひとつが、血管の壁に沿った細い隙間を逆流するように脳の外へ向かう血管周囲の排出路です。CAAとアルツハイマー病を比較した総説では、両者の経路はアミロイドβの産生、組織間液と血管周囲排出路のなかでの循環、そして脳からの除去という段階で交差し、そこから先の脳の傷み方で分岐すると整理されています[3]。そして両方の病気が排出の障害に駆動され、血管のアミロイドβが増える→排出がさらに落ちる→もっとたまるという自己増強のサイクルをつくるとされています。
図1:遺伝子からCAAの症状までの流れ
③と④が長く続いた結果として⑤⑥が現れます。出血が起きる前の段階でも、血管には変化が始まっています。
同じアミロイドβでありながら、脳の実質にできる老人斑と血管の壁にたまるアミロイドでは、成分の傾向が違います。アミロイドβにはアミノ酸40個で終わるAβ40と、42個まで伸びたAβ42があり、血管の壁ではAβ40が主体、実質の老人斑ではAβ42が主体という違いが知られています。総説でも、血管沈着と老人斑のどちらに傾くかはペプチドのC末端側の位置や、いっしょに沈着するタンパク質によって左右されると述べられています[3]。Aβ40は水に溶けやすく、排出路を流れて血管の壁にたどり着きやすいためだと考えられています。
💡 用語解説:Aβ40とAβ42
アミロイドβは、切り出される位置がわずかにずれることで長さの違うものができます。Aβ40は短く水に溶けやすいタイプで、血管の壁にたまるアミロイドの主成分です。Aβ42は2つ長く、固まりやすいため脳の実質で老人斑になりやすいタイプです。同じ遺伝子から生まれた兄弟のようなものですが、性質の差がそのまま「血管の病気になるか、認知症の病理になるか」の分かれ道につながります。アミロイドβの詳しい解説はこちらをご覧ください。
CAAには、どの血管まで巻き込まれているかによる分類もあります。剖検例をもとにした研究では、皮質の毛細血管にもアミロイドβがある「type 1」と、毛細血管には及ばず髄膜・皮質の太めの血管にとどまる「type 2」の2つの型が区別され、両者は別個の実体であると報告されました[4]。毛細血管まで巻き込むtype 1では、酸素と栄養を届ける最終区間が傷むため、血液脳関門の働きが落ち、目に見えないほど小さな脳梗塞(皮質微小梗塞)が積み重なっていきます。この点は「CAAは出血だけの病気ではない」ことを示しており、ご本人にとっては派手な出血がなくても認知機能の低下が進みうるという意味を持ちます。なお毛細血管でも沈着するのは壁と基底膜のまわりで、血管の内腔が物のように詰まるわけではありません。
3. APOE遺伝子の二面性 ─ ε4は「たまる」、ε2は「破れる」
CAAの進み方を左右する体質としてもっとも有名なのがAPOE遺伝子です。ε4とε2はどちらもCAAを重くしますが、ε4は「たまりやすさ」を、ε2は「破れやすさ」を高めるという、方向のまったく違う関わり方をします。
APOE遺伝子は、脳のなかで脂質を運ぶアポリポタンパク質Eの設計図です。ヒトにはε2・ε3・ε4という3つの型があり、ε3がもっとも多い型です。この遺伝子がつくるタンパク質はアミロイドβと結びついて運搬にかかわるため、型の違いがアミロイドβの行き先を変えます。ここで注意していただきたいのは、APOEは病気を起こす原因遺伝子ではなく、なりやすさを左右する感受性遺伝子(体質の遺伝子)だという点です。誰もがε2・ε3・ε4のどれかの組み合わせを持っていて、ε4を持っていること自体は異常ではありません。
ε4は、アミロイドβが血管の壁に沈着する量そのものを増やす方向に働きます。前述のtype 1/type 2を比較した研究では、毛細血管まで巻き込むtype 1でのε4の頻度が、type 2や対照群の4倍以上に高いことが示され、ε2ではその関係が見られませんでした[4]。1,000例を超える地域住民の剖検データを用いた解析でも、ε2とε4はどちらも独立してCAAを重症化させる一方、毛細血管のCAAと関連するのはε4だけであることが報告されています[5]。つまりε4は「どこまで深くたまるか」を決める因子だと言えます。
一方のε2は、たまる量を増やすというよりも、すでにアミロイドβで置き換わった血管を「壊れる方向」へ押し出します。剖検脳を用いた研究では、血管壁が完全にアミロイドβに置き換わっていても壁の亀裂や血液の漏れが起きていない群と、それらが起きている群を比べたところ、後者でε2の頻度が有意に高いという結果が得られました。この研究の結論は明快で、ε4はアミロイドβの沈着を増やすことで、ε2はアミロイドβを含んだ血管に破綻へつながる血管症性の変化を起こすことで、それぞれ別の道すじからCAA関連の出血を促すと述べられています[6]。壁の亀裂やフィブリノイド壊死といった変化が、微小な血管の破綻を生み、脳葉出血につながっていきます。
図2:APOEの型によってCAAの「進み方」が変わります
APOE ε4
アミロイドβの排出が滞り、沈着量が増える/毛細血管まで巻き込むtype 1が増える/微小梗塞と白質の変化が進む
APOE ε3
もっとも一般的な型で、比較の基準になります/加齢そのものが最大の要因として残ります
APOE ε2
沈着量ではなく、血管の壊れやすさを高める/壁の亀裂・フィブリノイド壊死/脳葉出血のリスクに直結する
同じ「CAAを重くする」でも、ε4とε2で仕組みがまったく違います。この違いが、なぜCAAでは出血と認知機能低下の両方が起きるのかを説明します。
ε2については、統計上その影響が見えにくくなる事情もあります。ε2はアルツハイマー病の病理に対しては保護的に働くため、CAAを重くする効果と打ち消し合ってしまうのです。実際に地域住民のデータを解析した研究でも、ε2の直接的な作用は、アルツハイマー病病理との負の相関によって覆い隠されていると述べられています[5]。それでも解析上は、ε2もε4も独立してCAAを重症化させることが示されました。
4. どんなときにCAAを疑うのか ─ 脳葉出血・くり返す短い発作・認知機能の低下
CAAは3つの入口から見つかります。脳の表面寄りの脳出血、数分で消える決まった形の発作、そしてじわじわ進む認知機能の低下です。このうち2つ目は見逃されやすく、しかも誤った治療につながりやすいため、とくに注意が必要です。
まず脳葉出血です。高齢の方に起こる自発性の脳出血のうち、大脳の表面寄りに生じたものではCAAが強く疑われます。CAAによる脳葉出血がとくに厄介なのは、再発率の高さです。MRIを撮影できた脳出血患者443名を追跡した研究では、中央値5.7年(2,682患者年)の観察のあいだに59名(13.3%)が脳出血をくり返しました[7]。さらに原因別に分けて解析した研究では、CAAによる脳出血の再発リスクは1年で17%、3年で25%、5年で41%と報告されています[8]。この数字は、退院して落ち着いたあとも定期的な管理が必要だという意味を持ちます。
同じ研究では、再発をもっとも強く予測する所見も明らかになりました。皮質表在性ヘモジデリン沈着(cSS)という、脳の表面に古い血液の成分が線状に残る所見です。cSSがあること、そしてその広がりの程度は、いずれも再発と強く関連していました(存在=ハザード比5.7、広汎=ハザード比3.9、いずれもp<0.001)[8]。CAAがあってcSSが広範に及ぶ方では、1年・3年・5年の再発リスクがそれぞれ36%・44%・61%に達すると報告されています。MRIの読影所見に「皮質表在性ヘモジデリン沈着」という言葉が出てきたら、ご本人・ご家族にとっては血圧管理と薬の見直しを最優先すべき合図だと受け取っていただきたい所見です。
💡 用語解説:微小出血(CMB)と皮質表在性ヘモジデリン沈着(cSS)
微小出血(CMB)は、MRIの特殊な撮影法(T2*強調画像やSWI)で見える直径数ミリの黒い点で、過去にごく小さな出血が起きた跡です。症状は出ないことがほとんどですが、血管がもろくなっているサインになります。皮質表在性ヘモジデリン沈着(cSS)は、脳の表面(くも膜下)に漏れた血液の鉄成分が線状に残った所見です。どちらも「症状のない出血の痕跡」ですが、将来の大きな出血を予測する力があるという点で臨床的な意味がまったく違います。
2つ目の入口が一過性局所神経症状(TFNE)です。かつては「アミロイドスペル」とも呼ばれていました。手足の動かしにくさ、皮膚の感覚の異常、視野の乱れ、言葉の出にくさなどが数分から30分ほど続いて消え、しかも何度もほぼ同じ形でくり返すのが特徴です。症状が一か所から周囲へゆっくり広がっていく感覚を伴うこともあります。総説では、TFNEは運動・体性感覚・視覚・言語の短時間の障害で一過性脳虚血発作(TIA)と区別しにくく、将来の脳葉出血の高い発生率を予告するため、TIAと取り違えて抗血栓薬を使うことは危険であると明確に述べられています[9]。発生の仕組みとしては、表面の出血が引き起こす皮質拡延性抑制(脱分極)が候補として挙げられています。
この点はご本人・ご家族にとって、実際に行動を変えうる情報です。「短時間で治ったから大丈夫」ではなく、くり返す短い発作は、脳のMRIを撮る理由になると考えていただきたいのです。てんかんと間違われて抗てんかん薬が使われても反応しないこと、心因性の発作と誤解されることもあり、正しい診断まで時間がかかりがちな症状でもあります。
3つ目の入口は認知機能の低下です。CAAは出血だけでなく、微小な梗塞や白質の変化を積み重ねることで神経のネットワークを少しずつ断ち、情報処理の速さや記憶の力を落としていきます。アルツハイマー病と併存することも多く、両者が重なると認知機能への影響はより大きくなります。アルツハイマー病と診断されている方の脳にCAAが併存していることは珍しくなく、逆にCAAだけで血管性の認知障害が進むこともあります。
5. 診断の進め方 ─ MRIで「たまり方」を読むボストン基準2.0
CAAは生きているあいだにMRIで診断できます。国際的な標準がボストン基準で、2022年の改訂版(バージョン2.0)では、出血の所見に加えて白質の非出血性の所見が正式に診断項目として採用されました。出血が十分にたまる前の段階でも診断に近づけるようになった点が、この改訂の最大の意味です。
歴史的には、CAAの確定診断は亡くなったあとの病理検査で血管壁のアミロイドβを確認する以外に方法がありませんでした。そこで臨床の場で使える基準として整えられたのがボストン基準です。改訂版は北米と欧州の複数の学術医療センターから、CAAに関連する症状(自発性の脳内出血、認知障害、TFNE)があり、MRIと病理の両方の評価が得られた50歳以上の患者データを集めて作られました。導出コホートでの感度と特異度は74.8%と84.6%、同じ施設の後の年代を用いた検証では92.5%と89.5%、他施設・他地域での検証では80.2%と81.5%であり、剖検を基準としたすべての症例をまとめた解析では感度74.5%・特異度95.0%と報告されています[1]。旧基準の同じ指標は64.5%と95%で、判別能の比較では統計学的に有意な改善が示されました。
図3:ボストン基準2.0の考え方(STEP 1→3)
STEP 1 前提を満たすか
50歳以上で、脳内出血・円蓋部くも膜下出血・TFNE・認知障害のいずれかがある。脳の深いところの出血性病変がなく、ほかの出血の原因も見当たらない。
STEP 2 出血性マーカーを数える(T2*強調画像・SWI)
脳葉出血/脳葉の微小出血(CMB)/皮質表在性ヘモジデリン沈着(cSS)/円蓋部くも膜下出血。いずれも大脳の皮質・皮質下に限られていることが条件です。
STEP 3 白質マーカーを見る(T2・FLAIR)
半卵円中心の血管周囲腔の重度拡大(CSO-PVS)/多発斑状の白質高信号(WMH多発斑状パターン)。2.0で新しく加わった、出血ではない手がかりです。
判定
probable CAA=出血性病変が2つ以上、または出血性病変1つ+白質マーカー1つ/possible CAA=出血性病変1つ、または白質マーカーのみ。
「出血1つ+白質マーカー1つ」で probable と判定できるようになったことが、2.0でもっとも実務が変わった点です。
改訂版の性能は、その後の独立した検証でも確かめられています。脳出血で手術と脳の生検を受けた患者186名(年齢中央値63歳、24%が病理でCAAと確認)を対象にした後方視的研究では、probable CAAの感度が旧基準の0.57から0.75へ向上し、特異度は0.96と高い水準を保ったことが示されました[10]。この研究では個々の所見の重みも計算されており、出血性マーカーのなかではcSSがオッズ比4.14、脳葉の微小出血がオッズ比3.03と、病理で確認されたCAAに強く関連していました。
一方で、この基準には得意な場面と苦手な場面があります。地域住民と記憶外来の参加者54名(MRI時の年齢中央値75歳、28名が病理でCAAと確認)を対象にした検証では、probable CAAの感度が28.6%、特異度が65.3%(曲線下面積0.47)にとどまり、旧基準に対する優位性を示せませんでした[11]。この研究の結論は、ボストン基準2.0は無症状の方や認知症状だけの方では精度が低く、CAAの診断を最適化するには新しいバイオマーカーが必要であるというものでした。背景には、認知症の方の脳ではアルツハイマー病やレビー小体病など複数の神経変性の病理が混在し、白質の所見がCAA以外の原因でも生じうるという事情があります。
ご本人・ご家族にとって大切なのは、この差の意味を知っておくことです。脳出血をきっかけに「probable CAA」と言われた場合、その診断はかなり確かなものと考えてよく、治療方針の根拠になります。反対に、記憶の相談でMRIを撮って基準を満たさなかった場合でも、それは「CAAが完全に否定された」という意味にはなりません。診断がつかないことと病気がないことは別だという点は、2025年の国際声明でも診断・検査・リスク予測の領域として整理されており、MRIが撮れない方には別の基準を使う選択肢も示されています[2]。バイオマーカーの開発が急がれている領域でもあります。
6. ステロイドで改善するCAAがあります ─ CAA関連炎症(CAA-ri)
CAAの多くは進行を止められない病気ですが、そのなかに免疫抑制療法によって改善が報告されているタイプがあります。CAA関連炎症(CAA-ri)です。数週から数か月で急速に認知機能が落ちていく高齢の方で、この可能性を思い浮かべられるかどうかが分かれ目になります。
CAA-riは、血管の壁にたまったアミロイドβに対して免疫が過剰に反応してしまう状態です。病理では、アミロイドβが沈着した血管のまわりにT細胞を主体とした単核球が集まり、激しい炎症と血管が原因の浮腫(血管原性浮腫)が生じます。臨床症状はきわめて多様で、急速な認知機能の悪化、行動や人格の変化、続く頭痛、てんかん発作、脳卒中のような局所症状などのかたちをとります。この多様さが診断の遅れを生みます。
MRIの所見が診断の決め手になります。T2*強調画像やSWIでCAAらしい脳葉の微小出血を確認したうえで、T2強調画像やFLAIRで左右非対称に広がる白質の高信号(融合した血管原性浮腫)を認めることが、CAA-riの放射線学的な特徴です。当院のような遺伝診療の現場でも、認知機能の急な悪化で相談を受けたときには、変性疾患の進行と決めつける前にこのパターンを確認する価値があると考えています。
頻度は決して無視できるものではありません。単一施設でCAAと診断された152例を後方視的に見直した研究では、13例(8.6%)がCAA-riに該当したと報告されています[12]。同じ研究では、副腎皮質ステロイド治療によって修正Rankinスケール(日常生活の自立度を表す指標)が2.6±1.4から1.6±1.5へ改善し(p=0.01)、T2/FLAIRの病変体積は78.1±52.2立方センチメートルから30±30.9立方センチメートルへ縮小した(p<0.01)ことが示されました。数字の大小そのものより、治療によって画像と生活機能の両方が改善しうるという事実が重要です。
疾患の活動性を示す生化学的な手がかりも報告されています。ある症例研究では、CAA-ri患者の脳脊髄液で抗Aβ42抗体とインターロイキン-8(IL-8)が、経口ステロイド開始前に有意に高値であったことが示されました[13]。同じ報告では、メチルプレドニゾロン1,000mg/日を3日間投与するパルス療法が行われています。実際の治療は経験的な副腎皮質ステロイド療法が第一選択で、その後は経口ステロイドを漸減していく流れが一般的です。減量に伴って症状が再燃する例もあり、その場合には、より強い免疫抑制薬の追加が検討されます。
ご家族にとっての意味は明確です。「急に進む認知症」は、認知症の自然な経過とは限りません。数週から数か月という速さで変化しているとき、頭痛や発作を伴うとき、行動の変化が目立つときには、造影を含めた頭部MRIで評価を受ける価値があります。治療可能な状態を見逃さないことが、この節でもっともお伝えしたい点です。
7. 認知症の新薬とCAA ─ ARIAは「くすりで起きたCAA-ri」だと考えられています
アルツハイマー病に対する抗アミロイドβ抗体薬では、ARIA(アミロイド関連画像異常)という副作用が起こります。その正体は、薬によって引き起こされたCAA-riに近い病態だと考えられています。だからこそ、投与の前にCAAがどれくらいあるかを見ておくことが安全性の前提になります。
ARIAは画像の見え方から2つに分けられます。血管が原因の浮腫や脳溝への滲出液の貯留を特徴とするARIA-Eと、微小出血やヘモジデリンの沈着を伴うARIA-Hです。総説では、ランダム化比較試験を通じて大半のARIAは無症状であり、症状のあるARIA-Eは高用量で多く、3〜4か月または投与中止で消退すると整理されています[14]。そして同じ総説は、APOEのハプロタイプと投与量がARIAの主要なリスク因子であり、ベースラインのMRIに微小出血があるだけでARIAのリスクが上がること、ARIAはアルツハイマー病とCAAと多くの臨床的・生物学的・病態生理学的な特徴を共有することを述べています。
頻度は薬によって違います。レカネマブの第III相試験では、ARIA-Eの発生率が12.6%、ARIA-Hが17.3%と報告されました[15]。プラセボ群ではそれぞれ1.7%と9%で、症状を伴うARIA-Eは2.8%、症状を伴うARIA-Hは1.4%とされています。ドナネマブでは、ARIA-Eの発生率が24%(プラセボ1.9%)と報告されており、ドナネマブに関連した死亡はARIAに続いて発生したことが記載されています[16]。
図4:自然に起きるCAA-riと、くすりで起きるARIA
CAA-ri(自然発症)
血管壁のアミロイドβ
↓
自分の免疫が過剰に反応する
↓
血管のまわりに炎症・浮腫
↓
亜急性の認知機能低下・頭痛・発作
→ ステロイドで改善が報告されています
ARIA(抗体薬による)
血管壁のアミロイドβ
↓
抗体薬が結合し免疫細胞を呼ぶ
↓
血管のまわりに炎症・浮腫(ARIA-E)
↓
微小出血の増加(ARIA-H)
→ 投与中断とMRIでの監視が基本です
出発点はどちらも「血管壁のアミロイドβ」です。免疫を動かすきっかけが自分の抗体か、投与された抗体かという違いになります。
ARIAとCAAの結びつきを最も端的に示したのが、第III相試験のオープンラベル延長試験で起きた死亡例の剖検報告です。79歳の女性が3回目の投与後に発作を起こし、多発する浮腫と微小出血の急増が確認され、抗てんかん薬と大量のステロイドによる治療にもかかわらず5日後に亡くなりました[17]。剖検ではAPOE4を2コピー持つこと、中等度のアルツハイマー病病理に加えて重度のCAAがあり、血管周囲にリンパ球が浸潤し、活性化したマクロファージと血管壁のフィブリノイド変性が生じていたこと、髄膜の血管と貫通する細動脈に多数の微小動脈瘤があったことが確認されています。つまりこの方には、投与前からARIAの土台がそろっていたことになります。
この一連の知見から、抗体薬を使う前の評価が実務として定着しました。ご本人・ご家族にとっては、「治療を受けられるかどうか」ではなく「安全に受けるために何を先に確認するか」という問いに置き換えて考えていただくのが実際的です。確認する項目は、頭部MRIでの微小出血やcSSの評価、そしてAPOEの遺伝型です。ε4を2コピー持つ方ではリスクが高くなることが知られており、投与の判断や監視の頻度に影響します。ここは遺伝子検査の結果が治療方針を実際に変える、数少ない場面のひとつです。
8. 遺伝するCAAがあります ─ APP・PSEN、そしてAβ以外のアミロイド
CAAの大多数は加齢に伴って起こる孤発性ですが、単一の遺伝子の変化で起こる遺伝性のCAAが確かに存在します。発症が若く、家系内に脳出血や若年の認知症が集まるときには、この可能性を考える価値があります。
早発型CAAを扱った総説では、原因が体系的に整理されています。アミロイドβによるCAAの単一遺伝子性の原因としてAPPのミスセンス変異とコピー数の変化、そしてPSEN1・PSEN2の変異が挙げられ、アミロイドβ以外のCAAの原因としてITM2B・CST3・GSN・PRNP・TTRの変異が挙げられています[18]。ここに医原性という新しい亜型が加わります。ミスセンス変異とは、DNAの1文字の置き換わりによってアミノ酸が別のものに変わる変化です。
なかでもよく知られているのが、APP遺伝子の変化による遺伝性CAAです。公的データベースOMIMではAPP関連CAAとして登録されており、オランダの家系で報告された型のほか、アイスランド型(CST3遺伝子)、英国型とデンマーク型(ITM2B遺伝子)という、原因遺伝子の異なるCAAが併記されています[19]。遺伝形式はいずれも常染色体顕性(優性)遺伝で、原因となる変化を1コピー受け継ぐだけで発症しうる形式です。アイスランド型についてOMIMは、CST3のヘテロ接合ミスセンス変異L68Qによるもので、最初の脳卒中を平均27歳で起こし、オランダ型よりおよそ25歳早いと記載しています[20]。CST3・ITM2B・GSNの各遺伝子については、当院サイトに個別の解説ページはまだありませんので、名称のみのご紹介にとどめます。
💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝と浸透率
常染色体顕性(優性)遺伝は、父母から受け継いだ2本のうち片方に変化があるだけで発症しうる遺伝の形式です。お子さんに受け継がれる確率は、理論上ひとりごとに2分の1になります。ただし変化を持つ人が必ず発症するとは限らず、その割合を浸透率と呼びます。また親に変化がなく、その人で初めて生じた変化(新生突然変異)の場合もあります。
検査の方法にも注意点があります。APPについては、1文字の置き換わりだけでなく遺伝子がまるごと増えているタイプ(重複=コピー数の変化)でもCAAが起こりえます[18]。コピー数の変化は配列を読む検査だけでは見落とされることがあり、コピー数バリアントを検出できる方法(染色体マイクロアレイなど)を組み合わせる必要があります。実際の検査としてはマイクロアレイ染色体検査(CMA)が該当します。この「調べ方によって見つかるものが違う」という点は、結果が陰性だったときの解釈にも直接かかわります。
同じ理由から、APP遺伝子が3コピーになるダウン症(21トリソミー)でも、若い年代からアミロイドβの蓄積とCAAが進みます。遺伝子量(gene dosage)という考え方が、そのまま病態の説明になる例です。21番染色体の変化については21番染色体異常の解説もご参照ください。
ここで強調しておきたいのは、APOEと原因遺伝子は役割がまったく違うという点です。APOEは体質を左右する感受性遺伝子であり、ε4を持っていても遺伝性CAAという診断にはなりません。一方でAPP・PSEN1・PSEN2・CST3・ITM2Bなどは原因遺伝子であり、変化が見つかれば血縁者への影響を具体的に検討する段階に入ります。ご家族にとっては、「調べた遺伝子がどちらの種類なのか」を確認することが、結果の意味を取り違えないための第一歩になります。判定が難しい変化は意義不明バリアント(VUS)として扱われ、それだけで診断の根拠にはできません。
9. 医原性CAA(iCAA)─ 数十年前の手術が引き金になることがあります
若い年代で説明のつかない脳葉出血が起きたとき、もうひとつ考えるべき原因があります。過去の医療行為を通じてアミロイドβの「種」が中枢神経系に入り、数十年かけて広がっていく医原性CAA(iCAA)です。
仕組みはプリオン病の伝播とよく似ています。アミロイドβの凝集の核になる「種」が持ち込まれると、それを起点に周囲のアミロイドβが同じ形に折りたたまれ、自己増殖的に広がっていくと考えられています。総説では、この現象がヒト死体由来の下垂体成長ホルモンによる治療のあとに起きたアミロイドβ病理の伝播として認識され、プリオン様の過程によってCAAを引き起こすと説明されています[18]。同じ総説は、曝露から発症までの潜伏期間がおよそ20年から40年であり、多くは小児期の曝露であること、脳内出血で発症するのが典型だが認知障害やてんかん発作で発症する例もあることを述べています。関連する医療行為としては脳神経外科手術、そして死体由来の硬膜など人の組織を用いた処置が挙げられています。
実際の患者像を示したのが、オランダの3施設のデータベースと文献をあわせた解析です。この研究では49例が集められ、74%が男性で平均年齢は43歳(範囲27〜84歳)でした[21]。自施設の脳葉出血・CAAデータベース由来は15例で、全体の6%にあたりますが、55歳未満の患者に限ると45%がiCAAに該当したと報告されています。発症のかたちは脳葉出血が57%、一過性局所神経症状が12%、てんかん発作が8%でした。脳出血の再発率は、新しく見つかった患者群で100人年あたり16回、以前から報告されていた患者群では100人年あたり77回と、いずれも高い水準でした。
この節がご本人・ご家族に持つ意味は具体的です。55歳未満で説明のつかない脳葉出血やくり返す短い発作がある場合、小児期にさかのぼって脳神経外科手術の既往があるかどうかを医師に伝えていただくことが、診断の糸口になります。ご家族しか覚えていない情報であることも多く、問診で語られなければ誰も気づけません。なお、iCAAは伝播といっても日常生活のなかで人から人へうつる病気ではありませんので、その点はご安心いただける部分です。
10. 鑑別すべき遺伝性の脳小血管病 ─ CADASIL・COL4A1関連との違い
脳の細い血管の病気はCAAだけではありません。若い年代の脳卒中や白質の変化では、別の原因遺伝子による脳小血管病を考える必要があります。原因が違えば、遺伝形式もご家族への意味も変わります。
代表格がCADASILです。NOTCH3遺伝子の変化による常染色体顕性(優性)の脳小血管病で、片頭痛や皮質下の梗塞、白質脳症、そして認知機能の低下を起こします。CAAとの違いは、たまる物質がアミロイドβではないこと、そして病変が皮質下や深部白質に偏ることです。検査としてはNOTCH3遺伝子検査が該当します。
もうひとつの重要な一群がCOL4A1遺伝子とCOL4A2遺伝子の変化によるものです。血管の基底膜をつくるIV型コラーゲンの異常で、グールド症候群(眼異常を伴う、または伴わない脳小血管病)や、脳幹(橋)に病変が偏るPADMALを引き起こします。こちらは出生前後から脳出血を起こしうる点でCAAとまったく異なります。若年発症の脳卒中を包括的に調べる場合には片麻痺・脳卒中遺伝子検査(NGSパネル)が選択肢になります。
認知症の側からの鑑別も欠かせません。前頭側頭型認知症(FTD)は、GRN遺伝子・MAPT遺伝子・C9orf72遺伝子などの変化で起こり、行動や言語の変化が前面に出ます。またアミロイドという言葉が共通するだけの別の病気もあり、TTR遺伝子によるトランスサイレチン型アミロイドーシス(TTR遺伝子検査)や、PRNP遺伝子によるプリオン病は、アミロイドβによるCAAとは別の疾患です。「アミロイド」と聞いたときに、どのタンパク質のアミロイドなのかを確認することが、ご家族が情報を整理するうえでとても役に立ちます。2025年の国際声明でも、診断・検査・出血リスクの予測は5つの実務領域のひとつとして扱われています[2]。
11. いま何ができるのか ─ 血圧の管理、抗血栓薬の判断、そして新しい選択肢
たまったアミロイドβを安全に取り除く治療は、まだ確立していません。ですから現在の管理の柱は、出血のリスクを下げながら、ほかの病気の治療とのバランスを取ることにあります。とくに血圧の管理と、抗血栓薬をどうするかの判断が中心になります。
2025年に国際CAA協会と世界脳卒中機構が共同で発表した診療声明は、この意思決定に道すじを示しました。声明はCAAが抗血栓薬の使用、抗アミロイドβ免疫療法の安全性、抗炎症・免疫抑制治療の必要性という幅広い臨床判断にかかわることを述べ、実務に直結する5つの領域を整理しています[2]。5領域とは、診断・検査・脳内出血リスクの予測、抗血栓薬と血管内治療、血管の危険因子と併用薬の管理、CAAの症状の治療、そしてCAA関連炎症と血管炎の診断と治療です。
もっとも普遍的で確実な介入は、血圧の管理です。アミロイドβで置き換わって平滑筋を失った血管は、血圧の変動に耐える力を大きく落としています。降圧薬で血圧の山を平らにしておくことは、脳出血を起こす前でも、起こしたあとでも意味のある対策です。生活のなかでできることが限られる病気だからこそ、血圧という「測れて、下げられる指標」を丁寧に扱う価値があります。
難しいのが抗血栓薬(抗血小板薬と抗凝固薬)の判断です。CAAの患者さんは高齢であることが多く、心房細動や虚血性心疾患といった血栓症の危険因子をあわせ持つ方が少なくありません。虚血を防ぐには抗血栓薬が必要ですが、もろくなった血管に使うことは出血の危険を高めます。声明はこの相反するリスクに対して、MRIの所見に基づいた個別の判断を勧めています[2]。ここで大切なのは、「飲む・飲まない」を自己判断で決めないことです。中止によって脳梗塞や心臓の事故が起きるリスクも同時に存在しますので、必ず主治医と一緒に、MRIの所見を踏まえて検討していただきたい部分です。
心房細動があり脳葉出血の既往もある方では、生涯にわたって抗凝固薬を続けることが現実的でない場合があります。この「虚血も出血も怖い」という行き詰まりに対して、近年広がっているのが左心耳閉鎖術(LAAO)です。心房細動でできる血栓の多くが左心耳という袋のなかで生じるため、その袋をカテーテルでふさいでしまうという考え方です。脳内出血やCAAの既往がある心房細動患者を対象とした14研究1,235例のメタ解析では、平均17.1か月の追跡で虚血性脳卒中が2%、頭蓋内出血の再発が2%、大出血が3%と報告されました[22]。脳内出血やCAAに限った部分集団では、それぞれ4%・4%・6%でした。この解析の結論は選ばれた患者では安全で有効である可能性がある一方、エビデンスの質はまだ低いというもので、期待と限界の両方を正確に受け取る必要があります。CAAを併存する心房細動患者にLAAOを行った後方視的なコホート研究も報告されています[23]。
なお、心房細動そのものにも遺伝性の型が知られています。若い年代で心房細動を指摘された場合には、家族性心房細動という別の視点も考慮の対象になります。ご本人・ご家族にとってこの節の要点は、CAAは「何もできない病気」ではなく、判断を重ねていく病気だということです。血圧を整え、薬の必要性を定期的に見直し、必要なら薬以外の選択肢も検討する。その積み重ねが予後に影響します。
12. よくある誤解
CAAは名前が知られていないぶん、誤解も生まれやすい病気です。ご家族から実際に混同されやすい4点を整理します。ここを押さえておくと、説明を受けたときの理解がぐっと楽になります。
誤解①「CAAは血管が詰まる病気」
アミロイドβがたまるのは血管の壁で、内腔を物のようにふさぐ病気ではありません。壁の材質が変わって弾力を失い、裂けやすくなるのが本質です。ただし毛細血管まで巻き込む型では血液脳関門の働きが落ち、小さな脳梗塞が積み重なることがあります。
誤解②「CAAは必ず遺伝する」
大多数は加齢に伴う孤発性で、お子さんに受け継がれるものではありません。遺伝性のCAAはAPP・PSEN1・PSEN2やCST3・ITM2Bなどによる限られた割合です。若い発症や家系内の集積があるときに検討します。
誤解③「APOE ε4があればCAAと診断される」
APOEは感受性遺伝子で、原因遺伝子ではありません。ε4を持つことは診断名にはならず、逆にε3どうしでもCAAは起こります。APOEを調べる意味は診断ではなく、抗体薬の安全性など具体的な判断に使うことにあります。
誤解④「CAAには何も手立てがない」
アミロイドβを取り除く治療は確立していませんが、血圧管理、抗血栓薬の見直し、CAA関連炎症へのステロイド、心房細動への薬以外の選択肢など、判断できることは複数あります。とくにCAA-riは治療で改善が報告されています。
📌 このページを読んだあなたへ
MRIの結果に「微小出血」「アミロイドアンギオパチーの疑い」と書かれていて意味を知りたい方、ご家族が脳葉出血を起こして再発が心配な方、認知症の抗体薬を検討していて安全性を確認したい方、それぞれ次に確認する点が違います。
診断の位置づけを整理したい方はアミロイドβとアルツハイマー病との関係から、抗体薬の安全性を考えたい方はAPOE遺伝子から、ご家族への影響を知りたい方は遺伝性CAAと遺伝形式からお読みいただくと、必要な情報に早くたどり着けます。
発症前に検査を受けるかどうかを迷っている方は、予測的検査の考え方と遺伝カウンセリング、未成年のご家族については未成年者の遺伝学的検査に関するガイドラインもあわせてご確認ください。発症前診断のアクセスに関する解説も参考になります。
よくある質問(FAQ)
🏥 CAA・認知症・脳小血管病の遺伝子診断のご相談
遺伝性の脳アミロイドアンギオパチー、家族性アルツハイマー病、
遺伝性脳小血管病に関する遺伝子検査と遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。
参考文献
- [1] The Boston criteria version 2.0 for cerebral amyloid angiopathy: a multicentre, retrospective, MRI-neuropathology diagnostic accuracy study. Lancet Neurol. 2022. [Lancet Neurology]
- [2] Diagnosis and management of cerebral amyloid angiopathy: a scientific statement from the International CAA Association and the World Stroke Organization. Int J Stroke. 2025. [International Journal of Stroke]
- [3] Cerebral amyloid angiopathy and Alzheimer disease – one peptide, two pathways. Nat Rev Neurol. 2020. [Nature Reviews Neurology]
- [4] Two types of sporadic cerebral amyloid angiopathy. J Neuropathol Exp Neurol. 2002. [PubMed 11895043]
- [5] APOE and cerebral amyloid angiopathy in community-dwelling older persons. [ScienceDirect]
- [6] Association of apolipoprotein E epsilon2 and vasculopathy in cerebral amyloid angiopathy. Neurology. 1998. [PubMed 9566379]
- [7] Comparison of Boston Criteria v2.0/v1.5 for Cerebral Amyloid Angiopathy to Predict Recurrent Intracerebral Hemorrhage. Stroke. [Stroke]
- [8] Association of the Presence and Pattern of MRI Markers of Cerebral Small Vessel Disease With Recurrent Intracerebral Hemorrhage. Neurology. [Neurology]
- [9] Cerebral Amyloid Angiopathy-Related Transient Focal Neurologic Episodes. Neurology. 2021. [Neurology]
- [10] Validation of the Boston Criteria Version 2.0 for Cerebral Amyloid Angiopathy in Patients Presenting With Intracerebral Hemorrhage. Neurology. 2025. [Neurology]
- [11] Boston Criteria v2.0 for Cerebral Amyloid Angiopathy Without Hemorrhage: An MRI-Neuropathologic Validation Study. Neurology. 2024. [Neurology]
- [12] Corticosteroids lead to short-term improvement in cerebral amyloid angiopathy-related inflammation. J Neuroimmunol. 2020. [Journal of Neuroimmunology]
- [13] Corticosteroid therapy in a patient with cerebral amyloid angiopathy-related inflammation. J Neuroinflammation. [Journal of Neuroinflammation]
- [14] Amyloid-related imaging abnormalities (ARIA): radiological, biological and clinical characteristics. Brain. 2023. [PMC10629981]
- [15] Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med. 2023. [New England Journal of Medicine]
- [16] Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease: The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023. [PMC10352931]
- [17] Fatal iatrogenic cerebral beta-amyloid-related arteritis in a woman treated with lecanemab for Alzheimer’s disease. Nat Commun. 2023. [Nature Communications]
- [18] Clinical considerations in early-onset cerebral amyloid angiopathy. Brain. 2023. [Brain]
- [19] OMIM #605714. CEREBRAL AMYLOID ANGIOPATHY, APP-RELATED. Johns Hopkins University. [OMIM 605714]
- [20] OMIM #105150. CEREBRAL AMYLOID ANGIOPATHY, CST3-RELATED. Johns Hopkins University. [OMIM 105150]
- [21] Iatrogenic Cerebral Amyloid Angiopathy Post Neurosurgery: Frequency, Clinical Profile, Radiological Features, and Outcome. Stroke. 2023. [PMC10121246]
- [22] Left atrial appendage occlusion in patients with atrial fibrillation and previous Intracranial Hemorrhage or Cerebral Amyloid Angiopathy: A systematic review and meta-analysis. Int J Stroke. 2025. [International Journal of Stroke]
- [23] Left Atrial Appendage Closure in Patients With Atrial Fibrillation and Coexisting Cerebral Amyloid Angiopathy. Stroke. [Stroke]



