InstagramInstagram

若年性アルツハイマーは遺伝する?家族性アルツハイマー病の遺伝子検査でわかること

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

若年性アルツハイマーは遺伝する?家族性アルツハイマー病の遺伝子検査でわかること

若年性アルツハイマー(若年性認知症のうちアルツハイマー型のもの)の多くは、遺伝子1つで決まるものではありません。ただし、65歳より前に発症し、ご家族にも同じ病気の方が何人もいる場合は、APP・PSEN1・PSEN2という遺伝子の変化による「家族性アルツハイマー病(早発性家族性アルツハイマー病)」のことがあり、その変化はお子さんに2分の1の確率で受け継がれます。先が見えないまま過ごすより、わかったうえで、仕事・結婚や出産・住まい・介護の準備を考えたいという方のために、この検査では3つの原因遺伝子を一度に調べます。このページでは、若年性アルツハイマーが遺伝する確率、家族性アルツハイマー病の遺伝子検査でわかること・わからないこと、症状のない方が受ける発症前診断の考え方を、臨床遺伝専門医が解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. 若年性アルツハイマーは遺伝しますか?この検査で何がわかりますか?

多くは遺伝子1つでは決まりませんが、家族性アルツハイマー病(アルツハイマー病全体の2%未満)はAPP・PSEN1・PSEN2の変化で起こり、お子さんへは2分の1の確率で伝わります。この検査は、この3つの遺伝子に原因となる変化があるかを一度に調べます。

🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?

65歳より前にアルツハイマー病と診断された方、親やきょうだいが若くして発症し「自分も」「子どもに遺伝するのか」と心配な症状のない方、妊娠を考えていて家族歴が気になる方です。

🧬 Q. 費用・日数・検体は?

検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の粘膜などで、オンライン診療にも対応しています。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。

🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?

結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。原因が見つかれば、ご家族が同じ変化をピンポイントで調べたり、妊娠のときの出生前診断を考えたりする手がかりになります。意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。

\ 一生変わらない遺伝子を知って、これからの計画に /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

検査の前に臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、結果も臨床遺伝専門医が直接ご説明します。ご希望があれば検査まで受けられます。

お問い合わせはこちら | どの検査がよいか迷う方へ

1. 若年性アルツハイマーは遺伝する?遺伝する確率は

アルツハイマー病全体のうち、遺伝子1つの変化で起こる早発性の家族性アルツハイマー病は2%未満です。この型であれば、親から子へ受け継がれる確率は、お子さん1人ごとに2分の1です[1]。つまり「アルツハイマー型認知症は遺伝するか」への答えは、「多くは遺伝子1つでは決まらないが、一部にははっきり遺伝する型がある」となります。どちらに当たるかは、発症の年齢とご家族の状況、そして遺伝子検査で確かめます。

若年性アルツハイマー(若年性認知症)の原因と「なりやすい人」

若年性認知症の原因でいちばん多いのはアルツハイマー型です。日本の調査では、若年性認知症の方は全国で約3.57万人(18〜64歳の人口10万人あたり50.9人)と推計され、原因の52.6%がアルツハイマー型でした(東京都健康長寿医療センター、2020年発表)。ほかに血管性(17.1%)、前頭側頭型(9.4%)などがあります。

遺伝性疾患の解説書GeneReviewsによると、アルツハイマー病の約95%は65歳ごろ以降に発症する遅発型で、早発型は約5%です。また、ご家族に3人以上の患者さんがいる「家族性」はアルツハイマー病の約25%ですが、その多くは遺伝子1つで決まるものではありません[1]。「若年性アルツハイマーになりやすい人」と言われるのは、遺伝子1つで発症が決まる一部の型と、いくつもの遺伝子や環境が少しずつ関わる大多数の型とが混ざった話です。この2つを分けて考えることが、ご自身の状況を知る第一歩になります。

家族性アルツハイマー病(早発性家族性アルツハイマー病・EOFAD)とは:何歳から、どんな家系か

家族性アルツハイマー病のうち、65歳より前に発症し、APP・PSEN1・PSEN2のどれかの変化で起こるものを「早発性家族性アルツハイマー病(Early-Onset Familial Alzheimer Disease:EOFAD)」と呼びます。用語としての詳しい説明は早発アルツハイマー病で解説しています。

何歳から発症するかは遺伝子によって違い、APPでは通常40〜50代(30〜65歳)、PSEN1では通常40代〜50代前半(30代〜60代前半)、PSEN2では40〜75歳と幅があります[1]。フランスのルーアン市の調査では、61歳未満で発症するアルツハイマー病は危険年齢の人口10万人あたり41.2人、3世代で3人以上が発症する常染色体顕性の早発型は10万人あたり5.3人でした[4]。親子・きょうだい・おじやおばなど、何世代にもわたって若くして発症した方がいるのが、この型の家系の特徴です。

親が若年性アルツハイマーのとき、子どもに遺伝する確率は2分の1:「家族性アルツハイマーは必ず遺伝する?」への答え

早発性家族性アルツハイマー病は常染色体顕性(優性)遺伝で、原因の変化をもつ親から、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継がれます[1]。「必ず遺伝する」わけではなく、受け継がないお子さんも同じ確率でいます。上のお子さんが受け継いだかどうかで、下のお子さんの確率が変わることもありません。母親から遺伝しやすい、父親から遺伝しやすい、という違いもありません。

「受け継ぐ確率」と「受け継いだ人が発症する確率(浸透率)」は別の話です。PSEN2では、80歳を超えても症状のない保因者の方が報告されており、浸透率が低いことがあるとされています[1][3]。一方、387家系・3,275人のデータをまとめた研究では、発症する年齢は、親の発症年齢や変異の種類ごとの平均発症年齢とよく相関していました[2]。ご家族で原因の変化と発症年齢がわかっていると、ご自身の見通しを考える手がかりが増えます。

ご家族に同じ病気の方がいなくても、ご本人の代で新しく起きた変化(新生突然変異)で起こることがあります。また、ご家族が病気に気づいていない、親御さんが発症する前に亡くなった、浸透率が低い、などの理由で、家族歴がないように見えることもあります[1]。

APOE遺伝子(なりやすさの遺伝子)とはどう違う?

APOE遺伝子検査で調べるε4は「なりやすさ」に関わる型で、持っていても発症しない人も、持っていなくても発症する人もいます。この検査で調べるAPP・PSEN1・PSEN2とは、意味がまったく違います。GeneReviewsは、アルツハイマー病の方の約42%がε4を持っておらず、APOEの型は発症の予測にはほとんど役立たないとしています[1]。米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)と米国遺伝カウンセラー学会の指針も、症状のない方がAPOEなどの「なりやすさの遺伝子」を調べることは勧めていません[6]。

APOE遺伝子は、この検査の対象には入っていません。一方で、APOEの型は、後で説明する抗アミロイド抗体薬の副作用の起こりやすさに関わります(第7章)。どの検査が合うかは、遺伝カウンセリングでご相談ください。

2. 家族性アルツハイマー病の原因遺伝子APP・PSEN1・PSEN2と、わかる病気

早発性家族性アルツハイマー病の原因のうち、PSEN1が20〜70%、APPが10〜15%、PSEN2が約5%を占め、残りの20〜40%は原因がわかっていません[1]。このアルツハイマー遺伝子検査では、この3つの遺伝子を一度に調べます。フランスの34家系の研究でも、PSEN1が56%、APPが15%で、両方で71%でした[4]。

3つの遺伝子は、脳にたまるアミロイドβというたんぱく質の作られ方に関わっています。APPはアミロイドβのもとになるたんぱく質の設計図で、PSEN1・PSEN2はそれを切り出すはさみ役の部品の設計図です。

🧬 家族性アルツハイマー病の原因遺伝子と、関係する病気

遺伝子 関係する病気 遺伝のしかた 発症年齢の目安
APP アルツハイマー病1型(早発アルツハイマー病)、APP関連脳アミロイドアンギオパチー 常染色体顕性 通常40〜50代(30〜65歳)
PSEN1 アルツハイマー病3型(早発アルツハイマー病)、前頭側頭型認知症、ピック病、拡張型心筋症1U型、家族性化膿性汗腺炎3型(関係は暫定) 常染色体顕性 通常40代〜50代前半(30代〜60代前半)
PSEN2 アルツハイマー病4型(早発アルツハイマー病)、拡張型心筋症1V型 常染色体顕性(浸透率が低いことがある) 40〜75歳

※病名と遺伝のしかたはOMIM、発症年齢はGeneReviews[1]による。PSEN2の浸透率については不完全浸透もご覧ください。この検査は心筋症を調べる目的の検査ではありません。心臓の症状がある方には拡張型心筋症遺伝子検査パネルが向いています。

APPは21番染色体にある遺伝子です。21番染色体が3本あるダウン症候群では、APPが多く働くことがアルツハイマー病と関係すると考えられています[1]。PSEN2の変化をもつ家系の研究(ボルガ・ドイツ系の11家系)では、平均発症年齢は53.7歳(39〜75歳)で、PSEN1やAPPより幅が広いことが示されています[3]。

3. 若年性アルツハイマーの初期症状と経過(寿命・進行速度)

早発性家族性アルツハイマー病の症状は、ふつうのアルツハイマー病と同じく、もの忘れなど記憶の障害から始まり、ゆっくり進んでいきます。症状そのものだけで、家族性かどうかを見分けることはできません。

初期症状:最近のことを忘れる

若年性アルツハイマーの初期症状は、最近の出来事や会話を忘れる、同じことを何度も尋ねる、約束や物の置き場所を忘れる、段取りが立てにくくなる、といった変化です。働き盛りの年代に起こるため、仕事でのミスが増えたことで気づかれることもあります。病気が進むと、時間や場所がわからなくなる、言葉が出にくくなる、着替えや身の回りのことに手助けが必要になる、と変わっていきます。脳では、アミロイドβがたまった老人斑と、タウというたんぱく質の変化が広がっていきます。

進行速度と寿命の目安

GeneReviewsによると、アルツハイマー病の経過は全体で8〜10年(1〜25年)です。PSEN1による型は6〜7年と比較的速く進むことが多く、PSEN2による型は平均11年とされています[1]。上のボルガ・ドイツ系家系の研究では、平均死亡年齢は64.2歳でした[3]。ただし、これは集団の平均で、一人ひとりの経過は大きく違います。

DIAN(優性遺伝性アルツハイマー病ネットワーク)の研究では、脳脊髄液のアミロイドβの変化は、発症が予想される年齢の約25年前から、記憶の障害は約10年前から始まっていました[5]。病気の変化は、症状が出るずっと前から少しずつ進んでいることになります。

4. どんな人が受けるとよいか

ご本人が若くしてアルツハイマー病と診断された方、ご家族に若くして発症した方がいる症状のない方、妊娠を考えていて家族歴が気になる方に向く検査です。見た目や家族歴だけでは判断できないことも多いので、迷ったら、まず遺伝カウンセリングで状況をお聞かせください。

ご本人が65歳より前にアルツハイマー病と診断された・疑われている方

若年性アルツハイマーかもしれないと思ったら、まずは脳神経内科やもの忘れ外来などで、認知症かどうか、どの型かの診断を受けることが出発点です。そのうえで、65歳より前に発症した方、とくにご家族にも認知症の方がいる(または家族歴がわからない)方は、この遺伝子検査を考える意味があります。ACMGなどの指針も、こうした方を検査の対象として挙げ、できればまず発症しているご家族から調べることを理想としています[6]。原因がわかると、病名がはっきりするだけでなく、ご家族が同じ変化をピンポイントで調べられるようになります。

親・きょうだいが若くして発症した、症状のない方

親やきょうだいが若年性アルツハイマーと診断され、「自分も同じ病気になるのか」「子どもに遺伝するのか」と心配されている方にも、この検査は向いています。症状のない方が将来の発症を調べる検査を「発症前診断」といいます。考え方は次の第5章でくわしくご説明します。

発症前診断がいちばん正確に行えるのは、発症しているご家族で原因の変化がすでにわかっている場合です。ご家族の変化がわかっていれば、その1か所を調べることで、受け継いでいるかどうかを確かめられます。発症したご家族の検査ができない場合も、遺伝カウンセリングで、ご本人の検査でわかること・わからないことを整理してから決めていただけます。

BRCA遺伝子の検査を受けた方の研究では、遺伝カウンセリングの前に「家族のため」を理由に挙げた方は25%でしたが、カウンセリングのあとは家族や社会のための理由が有意に増えていました[9]。あなたの1回の検査結果は、ご両親・きょうだい・お子さんが自分のことを考える手がかりにもなります。

妊娠・出産を考えていて、家族歴が気になる方

結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。ご家族に家族性アルツハイマー病の方がいる場合、妊娠の前にご自身が原因の変化をもっているかどうかを知っておくと、選べることが増えます。妊娠したときの出生前診断や、着床前遺伝学的検査(PGT-M)については、第7章でご説明します。

この検査より別の検査が向いている場合

この検査は、若くして発症したアルツハイマー病と、その家族のための検査です。症状や家族歴によっては、次の検査のほうが向いていることがあります。比べる相手は検査の種類で、どれが合うかは遺伝カウンセリングで一緒に決めます。

🔍 若年性認知症・家族性の認知症:検査の選び方

こんなとき 向いている検査
65歳より前に発症したアルツハイマー病、家族に若くして発症した方が何人もいる このページの検査(APP・PSEN1・PSEN2の3遺伝子)
認知症の型がしぼれない、前頭側頭型の家族がいる(MAPT・GRN・C9orf72など) アルツハイマー・認知症パネル(16遺伝子)。前頭側頭型の原因遺伝子はMAPT・GRN・C9orf72のページで解説
パーキンソン病の症状と認知症の両方がある パーキンソン病・アルツハイマー病・認知症パネル(35遺伝子)
筋力の低下(ALS)と認知症が家族にみられる ALSパネル(43遺伝子)
プリオン病が疑われる PRNP遺伝子検査(プリオン病)
ハンチントン病が疑われる ハンチントン病などのリピート伸長検査
症状が多く、病気をしぼれない 全エクソーム検査(WES)

※APOEの型(なりやすさの遺伝子)を知りたい方は、どの検査が合うかを遺伝カウンセリングでご相談ください。

\ あなたの1回の検査が、ご家族の手がかりに /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

症状のない方の発症前診断もお受けしています。遺伝カウンセリングで考えたうえで、ご希望があれば検査まで受けられます。

海外でPGT-Mを考えている方には、英語の検査結果をお渡しできます(検査の時にお申し出ください)。

お問い合わせはこちら | どの検査がよいか迷う方へ

5. 症状のない方の発症前診断:当院の考え方

症状のない方が、将来発症する可能性を調べる検査を「発症前診断(予測的検査)」といいます。当院は、遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、検査まで行います。

知りたいと願う方を拒みません

当院は、ライフステージごとに患者さんの人生をサポートするという考え方で診療しています。知りたいと願う方を拒むことはしません。遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、その意思を尊重して検査まで行います。知らないでいる選択も、同じように尊重します。

ACMGなどの指針は、症状のない方の検査は、ハンチントン病の国際的な手順にならい、検査前に2回の遺伝カウンセリング、検査後の面談、ご本人が選んだ付き添いの方の同席などを行って進めるよう勧めています[6]。発症前診断についての当院の考え方は、『発症した本人でなければハンチントン病遺伝子検査はできない』と断られ続けた方へでもくわしくお伝えしています。

知って、人生の計画を立てる:仕事・結婚や出産・住まい・介護

先が見えないまま過ごすより、わかったうえで、仕事・結婚や出産・住まい・ご家族の介護の準備など、これからの人生を計画したいと考える方もいます。英国でハンチントン病の発症前検査を受けた方の理由は、「不確かさを減らしたい」が70.5%で最も多く、「将来の計画」が57.7%、「子どもを持つかどうかの判断」が23.0%でした[8]。病気は違いますが、「知って計画を立てたい」という思いは、家族性アルツハイマー病のご家族にも通じるものだと考えています。

知ることがつらさにつながらないか、心配される方もいると思います。アルツハイマー病の親をもつ症状のない方162人を、APOEの型を知らせる群と知らせない群に分けた米国の研究(REVEAL研究)では、その後の不安・抑うつ・検査に関わる苦痛に、2つの群で差はありませんでした。ただし、検査の前から気持ちが不安定だった方は、知ったあとにもつらさを感じやすい傾向がありました[7]。この研究は「なりやすさの遺伝子」についてのもので、家族性アルツハイマー病の発症前診断とは同じではありません。だからこそ当院では、検査の前の遺伝カウンセリングで、いまの気持ちや生活の状況も含めて一緒に考える時間を大切にしています。

知らないでいる権利と、検査の前に考えること

知らないでいることを選ぶ権利があります。検査を受けるかどうか、いつ受けるかは、ご本人が決めることで、ご家族や周りの方が決めることではありません。陽性でも陰性でも、結果を知ったあとには気持ちの変化が起こりえます。当院では、結果をお伝えしたあとも、遺伝カウンセリングで相談を続けていただけます。

日本医学会のガイドライン(2022年改定)は、成年期以降に発症する病気の発症前診断は、原則として本人が成人して自分で判断できるまで延期すべきで、両親などの代わりの同意で行うべきではないとしています。ACMGなどの指針も、子どもへのアルツハイマー病の遺伝子検査は行うべきでないとしています[6]。このため当院でも、未成年の方の発症前診断は原則として行っていません。

発症前から参加できる国際研究(DIAN)

APP・PSEN1・PSEN2の変化がある家系の方を対象に、DIAN(優性遺伝性アルツハイマー病ネットワーク)という国際研究が行われています。観察研究には、原因の変化がある親の成人のお子さんが、変化を受け継いでいるかどうかに関係なく参加でき、研究チームは参加者の遺伝子の結果を知らない形で行われています(DIAN公式ページ、2026年10月確認)。日本でも、2014年から日本版のDIAN-Jが始まっています。

発症の前から薬で病気を抑えることを目指した治験(DIAN-TU)も行われています。最初に報告された2つの薬(ガンテネルマブ・ソラネズマブ)の試験では、症状のない方も含めて4〜7年投与しましたが、認知機能の低下を遅らせる効果は確かめられませんでした[12]。研究への参加の条件や募集の状況は時期によって変わるため、最新の情報は各研究の窓口でご確認ください。

6. この検査でわかること・わからないこと

この検査でわかるのは、APP・PSEN1・PSEN2の遺伝子の中の小さな変化と、遺伝子全体などの大きな欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。

わかること

次世代シーケンスという方法で、3つの遺伝子のたんぱく質を作る部分と、その境目(スプライス部位)を読み、文字が1つ変わる変化(ミスセンス変異など)や、小さな挿入・欠失を探します。調べる部分の99%以上を、20回以上くり返して読める精度で解析します。

大きな欠失・重複は、遺伝子1つ分まるごとの変化(頬の粘膜・血液)と、連続する2つ以上のエクソンの変化(血液のみ)を見つけられます。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。読み取りの質が十分でない部分は、サンガー法で確かめます。

わからないこと

  • ●調べていない遺伝子:この検査はAPP・PSEN1・PSEN2の3つだけを調べます。APOEや、ほかの認知症の原因遺伝子は含まれていません。
  • ●見つけにくい変化:染色体の転座や逆位、繰り返し配列が長くなる変化(リピート伸長)、遺伝子の働きを調節する部分(プロモーター)や、エクソンから20塩基以上離れたイントロンの変化は調べられません。1つのエクソンだけの欠失・重複は、見つかることはあっても、ふだんは検出の対象ではありません。
  • ●モザイク:体の一部の細胞にだけ変化がある状態(体細胞モザイク)を見つけることを目的とした検査ではありません。腫瘍の組織を使う検査にも向いていません。
  • ●似た配列:偽遺伝子などよく似た配列があると、まれに変化の判定が難しくなることがあります。

「陰性=発症しない」ではない/VUS

原因が見つからなくても、アルツハイマー病にならないという意味ではありません。早発性家族性アルツハイマー病の20〜40%は、今わかっている遺伝子では原因が見つかりません[1]。また、遺伝子1つで決まらない型のアルツハイマー病は、この検査の結果にかかわらず起こりえます。

意義がまだわからない変化(VUS)が見つかることもあります。VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査に使ったりはしません。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針に沿ってご説明します。

7. 病的変異が見つかったら、次にできること

原因の変化が見つかったときに、次にできることは、発症しているご本人・症状のない方・ご家族・これから子どもを持つ方で違います。結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。そのあとも、遺伝カウンセリングで一緒に考えていきます。

発症しているご本人:使える治療と治験

若年性アルツハイマーが治るかと聞かれれば、今のところ病気そのものを治す薬はありません。ただ、日本では、アミロイドβを取り除く抗アミロイド抗体薬が使えるようになっています。レカネマブ(2023年9月承認)とドナネマブ(2024年9月承認)で、どちらも「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」に使う薬です。レカネマブは2026年9月に、自宅などで打てる皮下注射の剤形も承認されました(2026年10月時点)。国の最適使用推進ガイドラインでは、アミロイドPETか脳脊髄液の検査でアミロイドがたまっていることを確かめること、認知機能の程度が決められた範囲にあること、専門の医療機関で使うことなどが条件になっています。当院はこの治療を行っていません。使えるかどうかは、専門の医療機関の主治医が判断します。

これらの薬では、脳のむくみや小さな出血(ARIA)という副作用が起こることがあり、APOEのε4を2つ持つ方で起こりやすいことがわかっています。日本の添付文書では、どちらの薬も投与を始める前にAPOE遺伝子検査を行うことを考えるよう、警告欄に書かれています。レカネマブの添付文書(2026年9月改訂)では、脳のむくみ(ARIA-E)が起きた割合は、ε4を持たない方で5.4%、1つ持つ方で10.9%、2つ持つ方で32.6%でした。ドナネマブの臨床試験でも、それぞれ15.7%・22.8%・40.6%でした[11]。レカネマブの臨床試験全体では、ARIA-Eは12.6%でした[10]。この検査ではAPOEを調べないため、治療を考える方は、主治医とAPOEの検査についてもご相談ください。

原因の遺伝子がわかっていることは、家族性アルツハイマー病の方を対象にした研究や治験(第5章のDIANなど)に参加できるかを考える手がかりにもなります。

症状のない方:わかったあとの生き方

原因の変化を受け継いでいるとわかっても、それは「いつ発症するか」「どれくらい重くなるか」を正確に言い当てるものではありません。発症の年齢は、ご家族の発症年齢や変異の種類からある程度考えられますが[2]、一人ひとりには幅があります。

わかったことを、仕事の続け方、住まい、お金の準備、ご家族との話し合い、結婚や出産の計画に生かす方もいます。発症の前から薬で防ぐことを目指した国際共同治験では、これまでに報告された2つの薬で、認知機能の低下を遅らせる効果は確かめられていません[12]。この検査の結果だけで病気を防げるわけではありません。気になる変化が出たときに早く相談できるよう、かかりつけの脳神経内科などとつながっておくことも、準備のひとつです。

ご家族:同じ変化をピンポイントで調べられる

ご本人で原因の変化がわかると、ご両親・きょうだい・お子さんは、その1か所を調べることで、受け継いでいるかどうかを確かめられます。症状のないご家族の検査は発症前診断になるため、ご本人が考えて決めてからにしていただきます(第5章)。当院では、ご家族の遺伝子検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。

子どもを持つとき:出生前診断・PGT-M・そのまま産むこと

ご家族で原因の変化がわかっていれば、妊娠したときに、赤ちゃんが同じ変化をもっているかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。当院では羊水検査・絨毛検査を院内で行っています(2025年6月から産婦人科を併設)。

ただし、日本産科婦人科学会の「出生前に行われる遺伝学的検査に関する留意点」(2026年9月)では、単一遺伝子の病気について、新生児期や小児期に発症する重い病気を例として挙げています。大人になってから発症する家族性アルツハイマー病で出生前診断ができるか、条件があるかは個別に考えることになります。妊娠を考えるときは、出生前診断ができるかも含めて、妊娠を考えている段階から当院でご相談ください。

体外受精でできた受精卵を調べる着床前遺伝学的検査(PGT-M)という方法もあります。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。また、何もせずにそのまま産むことも、大切な選択のひとつです。どの選択をされても、当院はその選択を尊重します。PGT-Mだけが選択肢ではない理由も、あわせてご覧ください。

海外でPGT-M(着床前遺伝学的検査)を考えている方へ:英語の検査結果をお渡しできます

PGT-Mは、体外受精でできた受精卵(胚)の一部の細胞を調べ、ご家族でわかっている遺伝子の変化を受け継いでいない胚を選んで子宮に戻す検査です。海外でPGT-Mを受けたいというお問い合わせは多く、当院では、その前提となる原因遺伝子の確定と、英語の検査結果をご用意できます。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。

欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)の指針では、PGT-Mの準備に、①病気の原因と確かめられた遺伝子の変化があること、②どの遺伝子のどの変化かが書かれた元の報告書(認定を受けた検査室のもの)、③ご家族の検体、が求められています[13]。受精卵から取れるDNAはごくわずかで、2本あるうちの片方が読み取れない「アレルドロップアウト」などで判定を誤るおそれがあります。そのため、変化のある場所の両側の目印(多型マーカー)で「変化をもつ染色体」を家系の中でたどる方法(ハプロタイプ解析)を組み合わせます。家族性アルツハイマー病のような顕性遺伝の病気では、目安として、発症しているご家族が少なくとも1人(できれば2人)、および/または発症していないご家族1人の検体が必要とされています[13]。

ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。血縁の方の検体がない場合、指針は、ご夫婦で目印を調べたうえで受精卵や1個の精子を調べる方法も挙げていますが、できるかどうかは施設や家系の状況で大きく変わり、受けられないこともあります。新しく起きた変化(de novo)で、これまでに妊娠歴のないご夫婦では、一般的なハプロタイプ解析は使えないとされています[13]。家族の検体が必要な理由はPGT-Mはなぜ本人だけでは検査できないのかで解説しています。海外でPGT-Mを考えている方は、ご本人の検査の段階から、検査に協力していただけるご家族(とくに同じ変化をもつ方)がいるかを考えておくことが大切です。当院では、ご家族の遺伝子検査も、遺伝カウンセリングのうえでお受けしています。

臨床遺伝専門医としての判断では、意義がまだわからない変化(VUS)は病気の原因と確かめられていないため、そのままPGT-Mの対象にするのは難しいと考えます。また、海外の施設によって求められる書類や検体は違うので、受ける予定の施設にも前もって確認してください。くわしくは海外でPGT-Mを考えている方へにまとめています。

⚠️ PGT-Mは診断ではなく、スクリーニング検査です

PGT-Mは受精卵のごく一部の細胞を調べる検査で、結果が赤ちゃんの状態と食い違うことがあります。ESHREの指針は、多くの施設で誤った結果になる割合は全体で1〜3%まで下げられているとしたうえで、PGTのあとに妊娠したすべての方に出生前診断を提案すべきとしています[14]。当院では、PGT-Mで選んだ胚で妊娠した場合も、妊娠中に赤ちゃんそのものを調べる確定検査(絨毛検査・羊水検査)で確かめることが望ましいと考えています。絨毛検査・羊水検査は院内で行っており、海外でPGT-Mを受けたあとの妊娠でもご相談いただけます。

日本では、日本産科婦人科学会の「重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)」に関する指針(2026年9月改定)にもとづき、PGT-Mは症例ごとに学会の審査を受け、そのうえで実施施設の倫理委員会が承認して行われます。この指針の「重篤」は、原則として、成人に達する前に日常生活が著しく損なわれる、または生存が危ぶまれる状態になる病気で、有効な治療法がないか、あっても高度で体への負担が大きいもの、とされています。一方、学会のQ&A(2026年5月改定)は、成人期以降に重い症状が出る病気であっても、一律に審査の対象外とするものではない、としています。その病気が日本で対象になるかどうかは、審査で個別に決まります。

PGT-Mの対象になる病気は、国によって違います。日本では学会が症例ごとに審査しており、2025年7月〜2026年6月の1年間に審査した73件のうち、37件が審査継続中でした(2026年9月発表)。英国では、公的機関(HFEA)がPGT-Mを行ってよい病気の一覧を公表しており、2,000を超える病気が載っています(2026年9月17日更新の一覧で2,067)。一覧にない病気は、施設を通じて申請できます。米国では、PGTを直接規制する連邦や州の法律はなく、主に医師・施設の判断で行われています[15]。米国生殖医学会の倫理委員会は2024年、大人になってから発症する病気に対するPGT-Mも倫理的に許容されうるとする意見を出しています[16]。どの病気がPGT-Mの対象になるかは、国や制度、施設によって違います。同じ病気でも、ある国では対象になり、別の国では個別の審査が必要になることがあります。受ける国の制度と、施設の条件を前もって確かめてください。

陰性・VUSだったとき

ご家族で原因の変化がわかっていて、その変化を受け継いでいなかった場合は、ご家族の家族性アルツハイマー病を受け継いでいないと考えられます。ただし、遺伝子1つで決まらない型のアルツハイマー病のなりやすさは、ほかの人と同じようにあります。ご家族の変化がわからないまま原因が見つからなかった場合は、今わかっている遺伝子では原因が見つからない家系である可能性も含めて、結果の意味を一緒に考えます。症状がある方では、ほかの認知症のパネル検査を考えることもあります。VUSが見つかった場合の扱いは、VUSの臨床的な取り扱いでも解説しています。

8. 日本の制度(2026年10月時点)

アルツハイマー病(家族性・若年性を含む)は、指定難病の対象には入っていません(2026年10月時点、厚生労働省・難病情報センターで確認)。一方、若年性認知症の方が使える支援の制度はいくつかあります。若年性アルツハイマーの補助金や障害者認定を調べている方は、次の制度を確かめてください。

  • ●介護保険:40〜64歳の方も、介護保険の特定疾病「初老期における認知症」に当たれば、介護保険のサービスを使えます。
  • ●自立支援医療(精神通院医療):認知症の通院医療の窓口負担が、原則1割に軽くなります(所得に応じた月額の上限があります)。
  • ●精神障害者保健福祉手帳:初診日から6か月以上たっていれば申請できます。等級は1〜3級で、有効期限は2年です。
  • ●相談窓口:各都道府県に若年性認知症の相談窓口があり、若年性認知症支援コーディネーターが配置されています。全国の若年性認知症コールセンター(0800-100-2707、受付10時〜15時)でも相談できます。

どの制度も、認定の条件を満たし、申請する必要があります。くわしい条件は、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。

9. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体

家族性アルツハイマー病の遺伝子検査の費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の粘膜などで採れ、オンライン診療にも対応しています。この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※

※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。

ご予約
▶
遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医
▶
検体の採取来院またはご自宅
▶
結果のご説明2〜3週間後・マイページへ

💴 費用・日数・検体

項目 内容
調べる遺伝子 APP・PSEN1・PSEN2(3遺伝子)
検査費用 税込330,000円(塩基配列の解析と、欠失・挿入の解析を含む)
結果までの期間 2〜3週間
オプション 至急(結果までの期間が約7日短くなります):55,000円/VUS除外:無料(VUSは、病的な意義がまだよくわかっていない変化のことです)
検体 血液(EDTA採血管4ml×2本)、抽出DNA、頬の粘膜(スワブ)、唾液
遺伝カウンセリング料 30分22,000円(税込)※検査費用とは別
オンライン診療 唾液・頬の粘膜・血液いずれもオンライン診療で受けられます。血液の場合は全国の提携医療機関で採血をお願いします

※ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。

オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただく流れです。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいたあとにお送りします。検体の取り違えを防ぎ、検査に使える品質を保つため、キットが届く前にご自身で検体を採らないでください。

遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。

結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。報告書の見かたは遺伝子検査結果の見かたで解説しています。遺伝カウンセリングについては遺伝カウンセリングとはもご覧ください。

\ 人生に一度の遺伝子検査を、ご家族とこれからの計画に /

📅この検査を予約する(遺伝カウンセリングの予約)

生まれ持った遺伝子は一生変わりません。3つの原因遺伝子を2〜3週間で調べ、臨床遺伝専門医が結果を直接ご説明してからマイページにアップします。

お問い合わせはこちら | どの検査がよいか迷う方へ

10. 院長コラム

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【知ってから決める結婚・出産と、知らずに決める結婚・出産】

私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。

家族性アルツハイマー病は、症状が出るのが働き盛りの年代で、それまでに結婚や出産、仕事の大きな決断を済ませていることも多い病気です。結婚するか、子どもを持つかは、その人の生き方そのものに関わる大きな選択です。知ってから決めるのと、知らずに決めるのとでは、同じ選択でも意味が違うと考えています。もちろん、知らないでいることを選ぶのも、その方の大切な決断です。

遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。知ったうえで結婚や妊娠を考えたい方には、パートナーとの話し合い、妊娠したときの出生前診断の相談まで、当院で続けて支えられる体制を整えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。

よくある質問(FAQ)

Q1. 若年性アルツハイマーが遺伝する確率は?

若年性アルツハイマーの多くは遺伝子1つで決まるものではありません。ただし、APP・PSEN1・PSEN2の変化による早発性家族性アルツハイマー病(アルツハイマー病全体の2%未満)では、原因の変化をもつ親から、お子さん1人ごとに2分の1の確率で受け継がれます。どちらに当たるかは、発症の年齢とご家族の状況、遺伝子検査で確かめます。

Q2. 家族性アルツハイマーは必ず遺伝しますか?

必ずではありません。原因の変化を受け継ぐ確率は、お子さん1人ごとに2分の1で、受け継がないお子さんも同じ確率でいます。受け継いだ方が発症するかどうかは遺伝子によって違い、PSEN2では80歳を超えても症状のない方が報告されています。

Q3. 親が若年性アルツハイマーだと、子どもも発症しますか?

親御さんの病気が早発性家族性アルツハイマー病であれば、お子さん1人ごとに2分の1の確率で原因の変化を受け継ぎます。親御さんの病気が遺伝子1つで決まる型かどうかで話が変わるため、できれば発症している親御さんの遺伝子検査から始めるのが理想です。難しい場合も、遺伝カウンセリングでご本人の検査でわかることを整理してから決められます。

Q4. 家族性アルツハイマー病の遺伝子検査の費用はいくらですか?

当院の早発性家族性アルツハイマー病の遺伝子検査(APP・PSEN1・PSEN2の3遺伝子)は税込330,000円で、結果までは2〜3週間です。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。

Q5. APOE遺伝子とは?この検査でわかりますか?

APOEは、アルツハイマー病の「なりやすさ」に関わる遺伝子で、ε4を持っていても発症しない人も、持っていなくても発症する人もいます。この検査の対象には入っていません。抗アミロイド抗体薬の副作用(ARIA)の起こりやすさに関わるため、治療を考える方は主治医とご相談ください。

Q6. 症状がなくても検査を受けられますか?

受けられます。当院は、遺伝カウンセリングで十分に考えたうえで、ご本人が知りたいと決めた場合は、発症前診断として検査まで行います。ご家族で原因の変化がわかっていると、より正確に調べられます。成年期以降に発症する病気のため、未成年の方の発症前診断は原則として行っていません。

Q7. 陰性なら発症しないと考えてよいですか?

そうとは言えません。ご家族でわかっている変化を受け継いでいなければ、その家族性アルツハイマー病は受け継いでいないと考えられますが、遺伝子1つで決まらない型のアルツハイマー病のなりやすさは、ほかの人と同じようにあります。また、早発性家族性アルツハイマー病の20〜40%は、今わかっている遺伝子では原因が見つかりません。

Q8. 海外でPGT-Mを受けたいのですが、英語の検査結果はもらえますか?

はい。英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。ただし、ご本人の検査結果だけでは、PGT-Mの準備はふつう整いません。顕性遺伝の病気では、発症しているご家族などの検体が必要になります。当院は体外受精・PGT-Mを行っていません。くわしくは、海外でPGT-Mを考えている方へのコラムをご覧ください。

🧬 一度の検査で、ご自身とご家族のこれからを考える

生まれ持った遺伝子は一生変わりません。家族性アルツハイマー病の原因がわかれば、ご自身の治療や研究への参加を考える手がかりになるだけでなく、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりにもなります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、症状のない方の発症前診断を含む検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。

お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768

参考文献

  • [1] Bird TD. Alzheimer Disease Overview. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle; 1998 (Updated 2018 Dec 20). [NCBI Bookshelf NBK1161]
  • [2] Ryman DC, Acosta-Baena N, Aisen PS, et al. Symptom onset in autosomal dominant Alzheimer disease: a systematic review and meta-analysis. Neurology. 2014;83(3):253-260. [DOI: 10.1212/WNL.0000000000000596](PMID: 24928124)
  • [3] Jayadev S, Leverenz JB, Steinbart E, et al. Alzheimer’s disease phenotypes and genotypes associated with mutations in presenilin 2. Brain. 2010;133(Pt 4):1143-1154. [DOI: 10.1093/brain/awq033](PMID: 20375137)
  • [4] Campion D, Dumanchin C, Hannequin D, et al. Early-onset autosomal dominant Alzheimer disease: prevalence, genetic heterogeneity, and mutation spectrum. Am J Hum Genet. 1999;65(3):664-670. [DOI: 10.1086/302553](PMID: 10441572)
  • [5] Bateman RJ, Xiong C, Benzinger TL, et al. Clinical and biomarker changes in dominantly inherited Alzheimer’s disease. N Engl J Med. 2012;367(9):795-804. [DOI: 10.1056/NEJMoa1202753]
  • [6] Goldman JS, Hahn SE, Catania JW, et al. Genetic counseling and testing for Alzheimer disease: joint practice guidelines of the American College of Medical Genetics and the National Society of Genetic Counselors. Genet Med. 2011;13(6):597-605. [DOI: 10.1097/GIM.0b013e31821d69b8](PMID: 21577118)
  • [7] Green RC, Roberts JS, Cupples LA, et al. Disclosure of APOE genotype for risk of Alzheimer’s disease. N Engl J Med. 2009;361(3):245-254. [DOI: 10.1056/NEJMoa0809578](PMID: 19605829)
  • [8] Baig SS, Strong M, Rosser E, et al. 22 Years of predictive testing for Huntington’s disease: the experience of the UK Huntington’s Prediction Consortium. Eur J Hum Genet. 2016;24(10):1396-1402. [DOI: 10.1038/ejhg.2016.36]
  • [9] Garg R, Vogelgesang J, Kelly K. Impact of genetic counseling and testing on altruistic motivations to test for BRCA1/2: a longitudinal study. J Genet Couns. 2016;25(3):572-582. [DOI: 10.1007/s10897-015-9911-z](PMID: 26578231)
  • [10] van Dyck CH, Swanson CJ, Aisen P, et al. Lecanemab in early Alzheimer’s disease. N Engl J Med. 2023;388(1):9-21. [DOI: 10.1056/NEJMoa2212948](PMID: 36449413)
  • [11] Sims JR, Zimmer JA, Evans CD, et al. Donanemab in early symptomatic Alzheimer disease: the TRAILBLAZER-ALZ 2 randomized clinical trial. JAMA. 2023;330(6):512-527. [DOI: 10.1001/jama.2023.13239](PMID: 37459141)
  • [12] Salloway S, Farlow M, McDade E, et al. A trial of gantenerumab or solanezumab in dominantly inherited Alzheimer’s disease. Nat Med. 2021;27(7):1187-1196. [DOI: 10.1038/s41591-021-01369-8]
  • [13] ESHRE PGT-M Working Group, Carvalho F, Moutou C, et al. ESHRE PGT Consortium good practice recommendations for the detection of monogenic disorders. Hum Reprod Open. 2020;2020(3):hoaa018. [DOI: 10.1093/hropen/hoaa018]
  • [14] ESHRE PGT Consortium Steering Committee, Carvalho F, Coonen E, et al. ESHRE PGT Consortium good practice recommendations for the organisation of PGT. Hum Reprod Open. 2020;2020(3):hoaa021. [DOI: 10.1093/hropen/hoaa021]
  • [15] Nakasato K, Yamamoto BA, Kato K. Evaluating standards for ‘serious’ disease for preimplantation genetic testing: a multi-case study on regulatory frameworks in Japan, the UK, and Western Australia. Hum Genomics. 2022;16:16. [DOI: 10.1186/s40246-022-00390-3]
  • [16] Ethics Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Use of preimplantation genetic testing for monogenic adult-onset conditions: an Ethics Committee opinion. Fertil Steril. 2024;122(4):607-611. [DOI: 10.1016/j.fertnstert.2024.05.165](PMID: 38944787)

関連記事

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

記事の作り方と生成AIの使い方は、編集方針をご覧ください。