この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)
ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。
記事の作り方(編集方針)

肥満や糖尿病は遺伝するのでしょうか。ふつうの肥満や2型糖尿病は、たくさんの遺伝子のわずかな影響と、食事・運動などの生活習慣が重なって起こり、遺伝子1つで決まるものではありません。一方で、幼いころからの強い食欲と重い肥満や、若くして始まる糖尿病の中には、遺伝子1つの変化が原因の型があります。原因がわかると、治療の選び方が変わる型もあります。このページでは、肥満・糖尿病に関わる56遺伝子をまとめて調べる遺伝子検査でわかること・わからないこと、市販の「肥満遺伝子検査」キットとの違い、結果が出たあとにできることを、臨床遺伝専門医が解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. この肥満・糖尿病の遺伝子検査で何がわかりますか?
若くして始まる糖尿病(MODY・新生児糖尿病)や、幼いころからの強い食欲と重い肥満、バルデー・ビードル症候群などの原因になる56遺伝子をまとめて調べ、遺伝子1つで起こる型かどうかを確かめます。体質の傾向を占う市販の肥満遺伝子検査キットとは、目的が違う医療の検査です。
🧬 Q. どんな人が受けるとよいですか?
5歳より前からとても強い食欲と重い肥満がある方、生後6か月より前に糖尿病と言われたお子さん、若くして糖尿病と言われご家族にも糖尿病の方が多い方、肥満に加えて視力の低下や指の数の違いなどがある方です。
🧬 Q. 費用・日数・検体は?
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。検体は血液・唾液・頬の内側の粘膜などで、オンライン診療でも受けられます。遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。
🧬 Q. 結果のあとはどうなりますか?
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。型によっては飲み薬への切り替えや、治療が要らないとわかることもあります。ご家族への影響や、意義がまだわからない変化(VUS)の扱いもご説明します。
1. 肥満・糖尿病は遺伝する?ふつうの型と、遺伝子1つで起こる型
肥満や糖尿病は、家族の中で重なりやすいことが知られています。ただし、その多くは「なりやすさ」が受け継がれているもので、遺伝子1つで決まる病気ではありません。遺伝子1つの変化で起こる型(単一遺伝子性の肥満・糖尿病)は全体から見れば少数ですが、見つかると治療やご家族の見通しが大きく変わることがあります。この検査が役に立つのは、この少数の型を探すときです。
ふつうの肥満・2型糖尿病は「たくさんの遺伝子+生活習慣」
ふつうの肥満や2型糖尿病は、1つ1つは小さな影響しかもたない多くの遺伝子の違いと、食事・運動・睡眠などの環境が重なって起こる、多因子(多くの要因)の病気です。遺伝の影響があることは確かですが、「親が糖尿病だから子どもも必ずなる」という遺伝のしかたではありません。
数字で見ると、遺伝子1つで起こる糖尿病の代表であるMODY(若年発症成人型糖尿病)は、糖尿病全体の少なくとも1〜3%とされています[5]。肥満では、オランダで遺伝性の肥満を疑って52遺伝子のパネル検査を受けた1,230人のうち、遺伝子の原因が確定したのは3.9%、可能性ありが5.4%でした[2]。遺伝性を疑って検査を受けた人の中でも、遺伝子1つの原因が見つかるのは一部です。だからこそ、どんな人が受けると意味があるか(第3章)を知っておくことが大切です。
遺伝子1つで起こる糖尿病(MODY・新生児糖尿病)
MODYは、若くして発症し、親から子へ伝わることが多い糖尿病です。原因の遺伝子は常染色体顕性(優性)遺伝のしかたをとり、親のどちらかがMODYなら、お子さん1人あたり2分の1の確率で受け継ぎます[5]。MODYの中ではGCKとHNF1Aが主な原因遺伝子ですが、その割合は対象集団や地域によって異なります[5]。HNF1A-MODYの方の中には、1型糖尿病と診断されてインスリン治療を受けていた方もいたと報告されています[5]。
生後6か月までに始まる糖尿病(新生児糖尿病)は、国際小児思春期糖尿病学会(ISPAD)の2022年のガイドラインで、診断したらすぐに遺伝子検査を行うよう勧められています[4]。永続性新生児糖尿病や一過性新生児糖尿病の原因になる遺伝子のうち、KCNJ11・ABCC8・INSなどがこの検査に含まれます。
遺伝子1つで起こる肥満(食欲を調節する遺伝子)
脳の視床下部には、脂肪の量を知らせるホルモン「レプチン」を受け取って食欲を抑えるしくみがあります。このしくみに関わる遺伝子が働かないと、幼いころから満腹感が得にくくなり、重い肥満になることがあります。
英国で、子どものころから重い肥満のある500人を調べた研究では、5.8%(29人)にMC4R遺伝子の変化が見つかりました。変化をもつ人には重い肥満に加えて、強い食欲(過食)や、身長の伸びが大きいことなどがみられました[1]。POMCやLEPR(レプチン受容体)の働きがない方の重い肥満には、この経路に作用する薬の臨床試験も行われています[7](第7章)。これらの遺伝子に加え、LEP(レプチン)・PCSK1・SIM1なども、この検査で調べます。
ほかの症状を伴う型(バルデー・ビードル症候群など)
肥満に、目・指・腎臓などの症状が重なる病気もあります。バルデー・ビードル症候群では、GeneReviewsにまとめられた899人の解析で、網膜の病気(錐体杆体ジストロフィー)が94%、体幹の肥満が89%、手足の小指側の指が多い(多指)が79%、学習や発達の困難が66%、腎臓の病気が52%にみられました。肥満はふつう1歳までに始まり、生まれたときの体重はふつうです[6]。似た病気のアルストレム症候群では、肥満やインスリンの効きにくさ・2型糖尿病に加え、心筋症(約60%)や進んでいく難聴がみられ、多指はありません[6]。
💡 用語解説:単一遺伝子性と多因子性
「単一遺伝子性」は、1つの遺伝子の変化が病気の大きな原因になっていることです。「多因子性」は、たくさんの遺伝子のわずかな違いと環境が積み重なって起こることです。ふつうの肥満・2型糖尿病は多因子性で、このページの検査が探すのは単一遺伝子性の型です。
父親・母親どちらから?遺伝する確率は型で違う
遺伝子1つで起こる型では、遺伝する確率は「どの遺伝子の、どんな遺伝のしかたか」で決まります。父親からか母親からかで確率が変わるのではなく、多くの型は性別に関係しません。
🧬 遺伝のしかたと、お子さんへの確率の目安
※同じ変化をもっていても、肥満や糖尿病の程度は、食事・運動などの環境で変わります。お子さんへの確率は、検査で原因が確定したうえで、遺伝カウンセリングで具体的にご説明します。母から子へ伝わるミトコンドリアDNAの変化による糖尿病(糖尿病・難聴母系遺伝)は、この検査の対象外です。
2. 市販の「肥満遺伝子検査」キットとの違い
市販の肥満遺伝子検査(ダイエット遺伝子検査)キットは、多くの人がもつ遺伝子の小さな違いから「太りやすさの傾向」を見るものです。このページの検査は、病気の原因になる遺伝子の変化を探して診断につなげる医療の検査で、目的がまったく違います。
🔍 市販の肥満遺伝子検査キットと、この検査の違い
※体質との関係がよく研究されているFTO遺伝子は、このパネルには入っていません。たくさんの遺伝子の違いを合計してなりやすさを見る方法については多遺伝子リスクスコア(PRS)で解説しています。
このパネルにも、ADRB2・ADRB3・UCP1・UCP3など、エネルギーの使い方と体質の関係が研究されてきた遺伝子が含まれています。ただし、この検査の目的は体質の傾向を占うことではなく、病気の原因になる変化を探すことです。「ダイエットがうまくいかないから」という理由だけで受ける検査ではありません。反対に、幼いころから食欲が止まらず、努力不足と言われ続けてきた方には、原因に名前がつく可能性のある検査です。
3. どんな人がこの検査を受けるとよいか
幼いころからの重い肥満と強い食欲がある方、若い糖尿病で家族にも糖尿病が多い方、肥満にほかの症状が重なる方に向く検査です。見た目や家族歴だけでは、遺伝子1つで起こる型かどうかは判断できません。
肥満で受けるとよい方:5歳より前からの重い肥満・強い食欲
米国内分泌学会の小児肥満の診療ガイドライン(2017年)は、5歳より前から極端な肥満がある子ども、遺伝性の肥満症候群を思わせる特徴(とくに極端な過食)がある子ども、ご家族に極端な肥満の方がいる子どもに、遺伝子検査を提案しています[3]。
- ●幼児期から重い肥満があり、食べても満腹にならない様子がある
- ●肥満に加えて、夜の見えにくさ・視力の低下、手足の指の数の違い、腎臓の病気、性腺の働きの問題などがある(バルデー・ビードル症候群などを考える)
- ●ご家族にも、子どものころからの重い肥満の方がいる
糖尿病で受けるとよい方:生後6か月未満・若い糖尿病と家族歴
- ●生後6か月より前に糖尿病と言われたお子さん(ガイドラインですぐに遺伝子検査を勧めています[4])
- ●若くして糖尿病と言われ、親・きょうだいなど何世代かに糖尿病の方がいる(MODYは親から子へ伝わることが多い型です[5])
- ●1型糖尿病と言われてインスリン治療を受けているが、経過や家族歴が典型的でないと言われた
- ●糖尿病と、腎臓の嚢胞など腎臓の病気がある(腎嚢胞糖尿病症候群(RCAD)を考える[5])
「やせ型なのに糖尿病」「家族に糖尿病が多い」という方の中には、MODYのほか、体の脂肪が少なくなるリポジストロフィー(脂肪萎縮症)を考えたほうがよい方もいます。どの検査が合うかは、遺伝カウンセリングで一緒に決めましょう。
症状のないご家族・結婚や妊娠を考えている方
ご家族の誰かで原因の遺伝子がわかっている場合は、その変化をピンポイントで調べられることがあります。ご家族がすでに検査を受けて原因がわかっていれば、その結果がいちばんの手がかりになります。原因がまだわかっていない場合は、ご本人の症状や同意の状況に応じて検査の進め方を検討します。結婚や妊娠を考えていて家族歴が気になる方は、遺伝カウンセリングでご状況をお聞かせください。
この検査より別の検査が向いている場合
肥満と糖尿病の両方を広く調べたいなら、この検査です。症状からねらいがしぼれている場合は、次の検査のほうが向いていることがあります。
🔍 症状・検査の結果から、どの検査を選ぶか
※どの検査が合うかは、症状・これまでの検査の結果・ご家族の情報で変わります。迷う場合は遺伝カウンセリングでご相談ください。
4. 調べる56遺伝子と、それぞれでわかる病気
この検査では、遺伝子1つで起こる糖尿病・肥満に関わる56遺伝子を一度に調べます。大きく分けると、MODY・新生児糖尿病の遺伝子、食欲を調節する遺伝子、バルデー・ビードル症候群などの症候群の遺伝子、エネルギーの使い方に関わる遺伝子です。
🧬 調べる56遺伝子(グループ別)
※対象遺伝子は当院の検査内容(56遺伝子・2026年10月20日に確認)による。MODYの遺伝子は文献[5]、バルデー・ビードル症候群・アルストレム症候群の遺伝子は文献[6]、MC4Rは文献[1]による。遺伝のしかたを「結果に合わせてご説明」としている遺伝子は、病気によって遺伝のしかたが異なったり、病気との関係が研究段階だったりするため、結果に応じて個別にお伝えします。
56遺伝子の一覧(アルファベット順)
ABCC8, ADRB2, ADRB3, AGRP, ALMS1, ARL6, BBS1, BBS10, BBS12, BBS2, BBS4, BBS5, BBS7, BBS9, BDNF, CARTPT, CEL, CEP290, EIF2AK3, ENPP1, FOXP3, GCK, GHRL, GLIS3, GNAS, HNF1A, HNF1B, HNF4A, INS, KCNJ11, LEP, LEPR, MAGEL2, MC4R, MKKS, MKS1, NEUROD1, NEUROG3, NTRK2, PCSK1, PDX1, POMC, PPARG, PPARGC1B, PTF1A, PYY, RFX6, SDC3, SDCCAG8, SIM1, TRIM32, TTC8, UCP1, UCP3, WDPCP, WFS1(56遺伝子)
5. この検査でわかること・わからないこと
この検査でわかるのは、56遺伝子の配列の小さな変化(1文字の変化や、小さな挿入・欠失)と、遺伝子のまとまった欠失・重複です。一方で、遺伝子検査には必ず限界があります。
- ●欠失・重複:遺伝子1つ全体の欠失・重複と、2つ以上続くエクソン(遺伝子の部品)の欠失・重複を調べます(2つ以上のエクソンは血液の検体の場合)。エクソン1つだけの欠失・重複は、ふだんは見つけられません。見つかった欠失・重複は、別の原理の方法(qPCR法やMLPA法)でもう一度確かめてから報告します。HNF1B-MODYでは、遺伝子全体やエクソンの欠失が約3分の1を占めるとされ[5]、この点を調べられることは大切です。
- ●メチル化(インプリンティング)の異常:遺伝子の配列を読む検査なので、インプリンティング疾患のようなメチル化の異常は対象外です。プラダー・ウィリ症候群や一過性新生児糖尿病(6q24)が疑われる場合は、それぞれ専用の検査を選びます(第3章の表)。
- ●ミトコンドリアDNA:母から子へ伝わるミトコンドリアDNAの変化は、このパネルの対象外です。
- ●そのほか検出できない変化:染色体の転座や逆位、繰り返し配列の伸長、遺伝子の働きを調節する領域の多くや、エクソンから20塩基以上離れたイントロンの奥の変化、体の一部の細胞だけにある変化(モザイク)は、検体中の割合や検査法によっては見つけられないことがあります。
- ●ふつうの肥満・2型糖尿病のなりやすさ:たくさんの遺伝子の小さな違いを合計した「なりやすさ」は、この検査では評価しません。
- ●意義がまだわからない変化(VUS):病気の原因かどうか、今の研究ではまだ判断できない変化が見つかることがあります。
- ●陰性でも否定はできません:このパネルは主な原因遺伝子を対象にしており、肥満・糖尿病に関わるすべての遺伝子を調べるわけではありません。原因が見つからなくても、ほかの遺伝子やこの検査で見つけにくい変化、多因子の原因の可能性が残ります。
検査の精度(カバレッジ)の目安
調べる領域の99%以上を、同じ場所を20回以上読み取る深さ(≥99% at 20x)で読み取ります。同じ場所を何度も読むほど、読み間違いと本当の変化を区別しやすくなります。読み取りの質が十分でない場所や、変化の確認には、従来の方法(サンガー法)も使います。調べるのは遺伝子のたんぱく質をつくる部分(エクソン)と、その境目(スプライス部位)です。遺伝子によく似た配列(偽遺伝子など)があると、まれに判定が難しくなることがあります。
6. 結果が出たあと
結果は、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明してから、マイページにアップします。結果だけをお送りすることはありません。報告書の読み方は遺伝子検査結果の見かたでも解説しています。
病的変異が見つかったら、次にできること
遺伝子1つの原因がわかると、治療の選び方、見張る合併症、ご家族の見通しが具体的になります。治療そのものは専門の医療機関で受けていただきますが、その出発点になるのが、原因の確定です。
① ご本人(症状がある方):治療の選び方が変わることがある
ISPADの2022年のガイドラインでは、GCK-MODYでは妊娠時などの例外を除き、通常は血糖を下げる薬を必要としないとされ、HNF1A-MODYとHNF4A-MODYはスルホニル尿素薬(SU薬)が効きやすく、少ない量から始めるよう勧められています。また、KCNJ11・ABCC8などの変化による新生児糖尿病の子どもの約90%は、インスリン注射から飲み薬(SU薬)に切り替えられるとされています[4]。一方、HNF1B-MODYではSU薬が効く方は少なく、インスリンが必要になることが多いとされ、腎臓の見張りも大切です[5]。バルデー・ビードル症候群やアルストレム症候群とわかれば、目(網膜)・腎臓・心臓・聴力など、見張る臓器と予定が決まります[6]。肥満の治療薬の状況は第7章にまとめました。
② 症状のないご本人(ご家族の検査で受けた方・保因者だった方)
潜性遺伝の病気の保因者とわかった場合、ご自身が発症することはふつうありませんが、パートナーも同じ遺伝子の保因者だと、お子さん1人ごとに4分の1の確率で病気になります[6]。パートナーの保因者検査(拡大版保因者スクリーニング)を考えるときは、その遺伝子が対象に入っているかを遺伝子一覧でご確認ください。顕性遺伝の型(MODYなど)とわかった場合は、症状が出る前から血糖を定期的に確かめるなど、早く気づくための見張りを計画できます。
③ 子どもを持つときの選択肢
ご家族で原因の遺伝子の変化がわかっていれば、妊娠したときに赤ちゃんで同じ変化があるかを調べられます。絨毛・羊水からの胎児の出生前診断は当院で承っております。ただし、出生前診断を行えるかは、病気の重さや国内の指針を踏まえて個別に判断します。妊娠を考えている段階からご相談ください。もちろん、検査をせずにそのまま出産を迎えることも、大切な選択肢の一つです。
④ ご家族
ご両親・きょうだい・お子さんも、同じ変化をもっているかを、その場所だけピンポイントで調べられます。症状のないご家族の検査は、ご本人の同意のうえで行います。
⑤ 当院でのその後
結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングでご説明し、次にどうするかを一緒に考えます。治療が必要な場合は、専門の医療機関への受診につなげます。
陰性だったとき
原因が見つからなかった場合でも、肥満や糖尿病が遺伝と関係ないとは言い切れません(第5章)。ふつうの多因子の肥満・2型糖尿病である可能性が高くなる一方で、ほかの遺伝子やこの検査で見つけにくい変化が残ります。症状に合わせて、ほかのパネル検査や全エクソーム検査を考えます。
意義がまだわからない変化(VUS)が見つかったとき
VUSは、それだけで診断に使ったり、ご家族の検査や治療の変更に使ったりはしません。研究が進んで、のちに意味がはっきりすることもあります。調べた目的とは別の病気の原因が見つかった場合の扱いは、当院の二次的所見の開示方針をご覧ください。
7. 肥満の治療薬と日本の制度(2026年10月時点)
遺伝子の原因に合わせた肥満の治療薬は、海外では承認が進んでいますが、日本ではまだ遺伝性の肥満は対象になっていません(2026年10月時点)。期待しすぎず、今の状況を正しく知っておくことが大切です。
食欲の経路に作用する薬(セトメラノチド)
セトメラノチドは、MC4Rを働かせて食欲を抑える薬です。POMC欠損症またはレプチン受容体(LEPR)欠損症による重い肥満の方を対象にした第3相試験では、約1年で体重が10%以上減った人は、POMC欠損症で10人中8人(80%)、LEPR欠損症で11人中5人(45%)でした[7]。米国では、2020年11月にPOMC・PCSK1・LEPRの欠損による肥満に、2022年にバルデー・ビードル症候群(6歳以上)に承認されています(米国食品医薬品局〔FDA〕の発表)。
日本では、2026年に「後天性視床下部性肥満」(脳腫瘍の手術などのあとに起こる肥満)を効能として承認され、10月に発売されました。2026年10月時点で、遺伝子の変化による肥満(POMC・PCSK1・LEPRの欠損やバルデー・ビードル症候群)は、日本の効能には含まれていません(医薬品医療機器総合機構〔PMDA〕の審査資料で確認)。
レプチンを補う薬(メトレレプチン)
レプチンを補う薬メトレレプチンは、日本では2013年3月に承認され、効能は「脂肪萎縮症」です(PMDAの添付文書で確認)。先天性レプチン欠損症は、日本の効能には含まれていません(2026年10月時点)。脂肪萎縮症の検査はリポジストロフィー(脂肪萎縮症)遺伝子検査のページで解説しています。
医療費の助成の制度
ウォルフラム症候群は指定難病233に指定されています(難病情報センター)。バルデー・ビードル症候群は、小児慢性特定疾病情報センターに診断の手引きが掲載されている対象疾病です(いずれも2026年10月時点で確認)。助成を受けるには、それぞれの制度の認定の条件を満たし、申請する必要があります。くわしくは、難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センターや、お住まいの自治体の窓口でご確認ください。
8. 検査の流れ・費用・結果までの日数・検体
検査費用は税込330,000円、結果までは2〜3週間です。唾液・頬の内側の粘膜・血液のいずれでも、オンライン診療で受けられます。
この検査は、遺伝診療先進国・米国の3大遺伝子検査会社の一角で行います。※
※「3大遺伝子検査会社」は、遺伝性がんや周産期(出生前検査・保因者検査)を含む遺伝子検査全般を手がける米国の検査専業会社のうち、2025年通期の売上高が上位の3社を指します(各社の決算発表にもとづく当院調べ)。がん検診やリキッドバイオプシーに特化した会社は含みません。
ご予約
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遺伝カウンセリング臨床遺伝専門医・オンライン可
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検体の採取お支払い後にキットを送付
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結果のご説明2〜3週間後・マイページへ
💴 費用・日数・検体
※当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。ご夫婦・カップルで同じ検査を同じ日に一緒に受ける場合は、遺伝カウンセリング料が1人分になります(検査費用の割引はありません)。
オンライン診療(ビデオ通話)で遺伝カウンセリングを行ったあと、検体を当院にお送りいただきます。オンラインの場合は、遺伝カウンセリング料金を事前にお支払いください。検体採取キットは、検査料金をお支払いいただいた後にお送りします。検体の取り違えや品質の低下を防ぐため、ご自身の判断で先に検体を採取しないでください。
結果は、基本的に日本語版でお渡ししています。海外でPGT-Mを受けるなど、英語の原本が必要な方には英語版をお渡ししますので、検査の時にお申し出ください。英語版と日本語版の双方を希望される方は、追加料金5,500円で承ります。
遺伝カウンセリングでは、検査で何がわかり、何がわからないか、結果がご家族にとってどういう意味をもつかをご説明します。検査を受けるかどうかは、説明を聞いて納得してから決めていただきます。
9. 院長コラム
🩺 院長コラム【「努力不足」の一言で終わらせないために】
肥満や糖尿病は、本人の努力や生活習慣の問題として語られることの多い病気です。もちろん、ふつうの肥満や2型糖尿病では生活習慣が大切です。けれども、遺伝子1つの変化で、食欲を抑えるしくみそのものが働きにくい方や、若くして血糖を下げる力が弱くなる方がいます。そうした方が「努力が足りない」と言われ続けることは、医学的にも正しくないと考えています。原因に名前がつけば、治療の選び方が変わることもありますし、ご本人やご家族の気持ちの持ち方も変わります。
私自身、希少な常染色体顕性(優性)遺伝性疾患の当事者です。子どもに病気を受け渡したくない、という遺伝の病気をもつ方の思いはよくわかります。また、お子さんが重い症状で発症したのをきっかけに、ご自身も同じ遺伝子の変化を持っていたとわかり、自分のせいだと責めてしまう親御さんを、何度も見てきました。私の当事者としての話は、遺伝性疾患の当事者として、臨床遺伝専門医になった理由に書いています。遺伝子の変化は誰にでも起こりうるもので、誰のせいでもありません。
遺伝子検査は、やってみないとわからないことを、何度も経験してきました。検査をしないと何も言えない、というのが私の確固たる考えです。こうした経験から、当院では、検査を受けずにリスクだけをご説明することはしておりません。検査をせずにリスクをお伝えするほうが、かえって危険だと考えているためです。
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。一度の検査でわかったことは、ご自身の治療だけでなく、ご家族の健康や、これからの妊娠・出産の計画を考えるときにも、ずっと役に立ちます。わからないまま悩み続けるより、わかったことから次を考えるほうが前に進める、と考えています。どの選択をされても、その選択を尊重します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 肥満は遺伝しますか?父親・母親どちらから遺伝しますか?
ふつうの肥満は、たくさんの遺伝子のわずかな影響と、食事・運動などの環境が重なって起こるもので、遺伝子1つで決まるものではありません。父親からか母親からかで確率が決まるわけでもありません。一方で、幼いころからの強い食欲と重い肥満の中には、MC4Rなど食欲を調節する遺伝子1つの変化が原因の型があり、子どものころから重い肥満のある500人を調べた英国の研究では5.8%にMC4Rの変化が見つかりました。
Q2. 糖尿病は遺伝しますか?遺伝する確率は?
ふつうの2型糖尿病は多くの遺伝子と生活習慣が関わり、「親が糖尿病なら子どもも必ずなる」という遺伝のしかたではありません。遺伝子1つで起こるMODYは糖尿病全体の少なくとも1〜3%とされ、常染色体顕性遺伝で、親のどちらかがMODYならお子さん1人あたり2分の1の確率で受け継ぎます。どの型かは、遺伝子検査で原因を確かめてはじめてわかります。
Q3. 市販の肥満遺伝子検査キットと、この検査は何が違いますか?
市販のキットは、多くの人がもつ遺伝子の小さな違いから太りやすさの傾向を見るもので、食事や運動の参考にするためのものです。この検査は、56遺伝子の配列を読んで病気の原因になる変化を探し、遺伝子1つで起こる肥満・糖尿病かどうかを確かめる医療の検査です。結果は臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングで直接ご説明します。
Q4. 費用はいくらですか?保険は使えますか?
検査費用は税込330,000円で、遺伝カウンセリング料(30分22,000円・税込)が別にかかります。当院の検査・遺伝カウンセリングはすべて自費診療です。結果までは2〜3週間で、至急のオプション(55,000円)を選ぶと約7日短くなります。
Q5. 子どもの肥満の原因は遺伝子検査でわかりますか?
すべての子どもの肥満の原因がわかるわけではありません。米国内分泌学会の小児肥満のガイドライン(2017年)は、5歳より前からの極端な肥満、遺伝性の肥満症候群を思わせる特徴(とくに極端な過食)、ご家族の極端な肥満がある場合に遺伝子検査を提案しています。こうした場合には、原因の遺伝子が見つかることがあります。
Q6. MODYとわかったら治療は変わりますか?
型によって変わることがあります。国際小児思春期糖尿病学会(ISPAD)の2022年のガイドラインでは、GCK-MODYでは妊娠時などの例外を除き、通常は血糖を下げる薬を必要としないとされ、HNF1A-MODYとHNF4A-MODYはスルホニル尿素薬が効きやすいとされています。KCNJ11・ABCC8などの変化による新生児糖尿病では、約90%がインスリン注射から飲み薬に切り替えられるとされています。治療は専門の医療機関で決めていただきます。
Q7. 家族に糖尿病や肥満の人が多いと、結婚に差し支えますか?
ご家族に糖尿病や肥満の方が多いことだけで、お子さんが同じ病気になると決まるわけではありません。多くは多因子のもので、遺伝子1つで起こる型かどうかは検査で確かめられます。原因がわかれば、ご自身が変化をもっているか、パートナーの保因者検査が必要か、お子さんへの確率はどれくらいかを具体的に考えられます。知ったうえで、ご夫婦で将来の計画を選ぶことができます。
Q8. 検査で原因が見つからなかったらどうなりますか?
原因が見つからなくても、遺伝の関わりが否定されるわけではありません。この検査は主な原因遺伝子56個を対象にしており、ほかの遺伝子や、メチル化の異常・ミトコンドリアDNAの変化など、この検査で見つけにくい原因が残ります。症状に合わせて、別のパネル検査や全エクソーム検査を考えます。
🧬 一度の検査で、肥満・糖尿病の原因と、これからの計画を考える
生まれ持った遺伝子は一生変わりません。遺伝子1つで起こる肥満・糖尿病とわかれば、治療の選び方や見張る合併症が決まり、ご家族の検査や、結婚・妊娠の計画を考える手がかりにもなります。当院では臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングから、羊水検査・絨毛検査による出生前診断の相談まで、院内で続けて受けていただけます。
お電話でのお問い合わせ:03-3478-3768
参考文献
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